『これ以上、勝負を長引かせるな。そこのセイバーは難敵だ。速やかに始末しろ。―宝具の開帳を許す』
見えざる魔術師の言葉に、セイバーは表情を引き締める。
宝具―いよいよサーヴァントとして本気の牙を剥けと、ランサーは促されているのだ。
「了解した。我が主よ。」
それまでの飄とした気風と裏腹に、ランサーは粛然として声を落として、武器の構えを改めた。
左手に持っていた短槍を、何の未練もなく足下に放り捨てる。そして、ランサーの右手の長槍から、呪符の緊縛が剥がれ落ちていく。
それは、深紅の槍だった。
「―そういう訳だ。ここから先は殺りに行かせてもらう」
ついに露わになった必殺の得物を、今度こそ両手に構え直して、ランサーは低い声で呟いた。
”やはりな・・・・”
そんなランサーと裏腹に、この展開はセイバーにとって既に想定通りだった。
目の前にいるサーヴァント―『輝く貌のディルムッド』がランサーとして召喚されている以上、彼の宝具は伝承に伝わる2本の魔槍だろう。その2つの魔槍の力は、聖杯からセイバーに与えられる情報にしっかりと含まれていた。
すなわち”魔を断つ赤槍”と”呪いの黄槍”。そして、ランサーは”呪いの黄槍”を手放した。
つまり、ランサー陣営の戦略は”呪いの黄槍”―『必滅の黄薔薇』の奇襲によるヒット&アウェイであることは疑いようがなかった。サーヴァントは核を破壊されない限り消滅することはないし、マスターの魔力供給がある限りなおさらである。そのうえマスターの治癒魔術があれば、その傷はいくらでも回復するが、その前提をあの宝具は覆すことが可能なのだ。
だがそれも相手に宝具の真名が悟られていなければ、の話である。
ランサーから目を離すことなく、セイバーは思考する。
目の前のランサーを倒すだけなら、『必滅の黄薔薇』の奇襲が来る前に全力でランサーを叩き切るだけである。だがランサーの白兵戦能力は決して低くなく、また『破魔の紅薔薇』がある以上、白兵戦もしくは真名解放による短期決戦は不可能。
だがセイバーの思考はそこで止まらなかった。
確かに目の前のランサーは好敵手である。しかし、この戦いは聖杯戦争―参加勢力はセイバーとランサーだけではないのだ。ランサーを倒す者はセイバーである必要はなく、ランサーが相手する者はセイバーのみである必要もない。
セイバーの思考と視野は、”一介の騎士”ではなく、一国を統べ戦争全体を見渡す”王”のそれであった。
原作との変更点。
1.本作のセイバーは割かし、功利主義。
2.セイバーがランサーとの一騎打ちにこだわってない。