「思い切ったものだな。乾坤一擲、ときたか」
ランサーの面持ちは、なにか懐かしいものにでも出会ったかのように満足気でありながら、その口調には緊張の色がありありと窺えた。
鎧を脱いだセイバーは、ただ身軽になったばかりではない。鎧の形成と維持に要していた魔力を、今、彼女はすべて攻撃に注ぎ込むことができる。『魔療放出』のスキルを保有するセイバーにとって、この意味するところは大きい。
~略~
鎧を奪われたことの不利を、鎧を捨てることの利点で覆す。それがランサーの”破魔の槍”に処するセイバーの結論であり、またランサーの”呪いの槍”の罠を打ち破るための選択であった。
「その勇敢さ。潔い決断。決して嫌いではないが・・・」
ランサーは猛牛を前にした闘牛士の如く、あえて挑発するかのような軽い足運びで横へ横へと位置を変えていく。
「この場に限って言えば、それは失策だったぞ、セイバー」
そんな言葉に惑わされることもなく、セイバーは気が付いていた。ランサーが少しずつ、先ほど捨てた”呪いの槍”に近づいていることに―。その素振りすら見せず、セイバーは不敵な笑みで応じる。
「さてどうだか。諫言は次の打ち込みを受けてからにしてもらおうか」
~略~
ランサーは動かない。もはや迎撃を諦めたかのように、赤い槍の切っ先は微動だにしない。
代わりに動いたのは―足だった。
槍を執る腕でなく、ランサーの爪先が足下の砂利を蹴り上げる。宙に浮いたのは砂利だけではなかった。先に捨てたランサーの短槍。その切っ先が、正確にセイバーの方を向いたまま空中へと跳ね上がる。長槍と同様に全長を覆い隠していた呪符の緊縛は、すでに解けて、その下の黄色い地金を剥き出しにしていた。
ランサーの蹴り上げた黄色い短槍、その切っ先が、赤い長槍に劣らぬほどの禍々しい魔力を渦巻かせてセイバーを睨み据える。もはや制動をかけることも叶わず直進するしかないセイバーの喉笛を刺し貫く瞬間を、刹那の後に待ち受けて・・・・
「勝利してなお滅ぼさぬ。制覇してなお辱めぬ。それこそが真の”征服”である!ぬっ!?」
腰の剣を抜き払い、虚空に一閃させて空間を切り裂くその直前、ライダーは驚嘆の声を上げ動きを止めた。
「ど、どうしたんだよ?」
質してくるウェイバーに対して、ライダーは愉快そうに答える。
「セイバーめ、ランサーの決め技を上回りよったわ。アレは最初から予測しておったな」
そう答えると、ライダーは今度こそ腰の剣を一閃した。
「見物はここまでだ。我らもはせ参じるぞ、坊主!」
「なん・・・だと・・・・!?」
ランサーは驚愕と動揺に目を見開いたまま、呟いた。セイバーの剣はランサーの体に何一つ傷をつけてはいない。しかし、彼の負ったダメージは極めて深刻だった。
セイバーが渾身の力で剣を振りぬいた対象は、ランサーではなく、彼が蹴り上げた黄槍の方だった。セイバーの聖剣によって、真っ二つにへし折られた”必滅の黄薔薇”が、ランサーの目の前で消滅していく。それが伝説の具現たる宝具のひとつであったことを思えば、消えゆく姿はあまりにも儚く呆気なかった。
「貴公は槍のみならず、その顔にも呪符を張っておきべきだったな―フィオナ騎士団随一の戦士、”輝く貌”のディルムッド」
セイバーの口調には嘲笑の色も、侮蔑の色もない。しかし、戦場で優位を確立したものの余裕までは隠せていなかった。
「俺の方はむしろ誉れ高いがな。『英霊の座』に招かれたものならば、その黄金の宝剣を見間違いはせぬ」
愛用の得物を破壊されたことへの怒りよりも、必殺の罠のつもりで用意した『必滅の黄薔薇』の奇襲を、完全に読み切ったセイバーへの畏敬と、この戦いの勝利の価値がより高値にまで吊り上がったことへの歓喜。
ランサーは、むしろ清々しいほどの面持ちで目を眇めた。
「かの名高き騎士王と鍔ぜり合うことが叶ったとは―フッ、俺の武運も捨てたものではないらしい」
原作との変更点。
1.セイバーが左手を負傷しない。
2.ランサーが初戦で、『必滅の黄薔薇』を喪失。
ライダー、アーチャー、バーサーカーのシーンは原作と変わらないためカット。
イスカンダル「」
ギルがメッシュ「」
ランスロット「」