Mermaid Record   作:葉月美羽

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こんにちは、

トリニティより始まった物語は、ミレニアムへと舞台を移します。

どんな疑問にも答える万能アプリのお話。


Millennium Everything Solver(1)

【はじめまして、

あなたの生活をより便利に。

スマートコンシェルジュアプリ、

『Millennium Everything Solver』こと、Metsがあなたをお手伝いします。】

 

【天気予報、交通情報、物価情報、流行のファッション、今日の献立、気になるあの子との接近方法、全てお答えします。】

 

【貴方の生活の全てをお手伝いし、必ず幸せな未来をMetsが提供しましょう。】

 

【さあ、Metsは貴方との出会いをお待ちしています。】

 

【では、良い週末を。】

 

ーーー

 

シャーレの執務室の窓からは、いつもと変わらぬ景色が広がっている。

銃弾が飛び交い、突如爆発が起きる。

それがキヴォトスの日常だ。

 

「おはようございます、先生。」

「おはよう、ユウカ。」

 

執務室のドアが開き入ってきたのは、早瀬ユウカ。

ミレニアムサイエンススクールのセミナーに所属する生徒だ。

 

「…やっぱり書類溜め込んでるじゃないですか!」

「うん…ごめんね。」

「ごめんで済んだら私はいらないですよね?」

「わかった、悪かった!申し訳ないけど今日またお願いさせて欲しい!」

 

ここ数日、他の自治区での打ち合わせ等で書類は山のように溜まってしまっていたのだ。

私の散財と書類の処理のためにこうして何度か来てくれる彼女の協力は本当にありがたい。

 

「ハァ…わかりました、とりあえず急ぎのものから片付けましょう。」

 

向かいの机に座り、ユウカはすぐさま仕事の準備に取り掛かる。

1時間ほど書類と格闘した頃だろうか。

ユウカは何かを思い出したかのように私に話しかけてきた。

 

「先生、ちなみに今日の昼食の予定は?」

「え?いつも通りコンビニ飯だよ?」

「やっぱり……。」

 

そう言うなりユウカはスマートフォンを取り出して何かを話しかけた。

 

「ねぇ、Mets。今日のランチのおすすめを教えてちょうだい?」

 

ピロンという音と共に、電子音声が応える。

 

【はいユウカ様、本日のおすすめはこちらになります。】

 

画面に映し出されたであろう店舗を眺めた後に、ユウカは私にその画面を見せた。

イタリア料理店が映し出されている。

 

「先生、今日はここにしませんか?」

「いいけど、今のは?」

 

私の質問にユウカはキョトンとした顔を見せた。

 

「ええっと…もしかして…ご存知ないのですか?」

「うん。」

「嘘でしょう……。」

「残念ながら。」

 

スマートフォンを私に向けて立てた後、ユウカは命令した。

 

「Mets、先生に自己紹介してあげて?」

「えっ?えっ?」

 

ユウカの声に応えるように電子音声が流れた。

 

【はじめまして、

あなたの生活をより便利に。

スマートコンシェルジュアプリ、

『Millennium Everything Solver』こと、Metsです。】

 

 

ーーーーー

 

「簡単にいうと、最近登場した生活を支援してくれるアプリです。天気や交通情報、物価に関する情報やスーパーのセールなんかも情報を拾って教えてくれるんですよ。」

「すごいね、それ。」

「ミレニアム自治区の企業から登場したアプリなんですけど、とても良くできていて今はミレニアム自治区を超えて他の自治区でも普及し始めているんです。」

 

聞くところによればかなり高性能なアプリらしい。ミレニアム生が飛びつくのも無理はない。

 

「それ使えば、私の金銭管理もまともになったりするのかな…?」

「そうですね、少なくとも今より3割以上は……って!ダメです!先生のお財布は私がMetsよりしっかり管理しますから!!」

 

慌てて反論するユウカ。

ユウカの負担が減るならそちらの方がいいと思うのだが。

 

【はい、お呼びでしょうか?】

「呼んでない!」

 

Metsと発声したことで起動したらしい。

まぁ、この手のアプリならよくあることだろう。

 

「とにかく!先生の無駄な散財は私が管理しますから!」

「なら今日のお昼もコンビニ飯でいいんじゃないかな?」

「それとこれとは別です!!!」

「そっかぁ…。」

「と、に、か、く!今日のお昼ご飯は一緒に付き合ってもらいますからね!」

「わかったよ、ユウカ。」

 

満面の笑みを浮かべるユウカと一緒に、仕事に取り掛かるのであった。

 

ーーーーー

 

「うーん、いい感じに進んだんじゃないですか?先生?」

「そうだね、ユウカ。ありがとう。」

 

時計の針が頂点を回る頃、私とユウカの仕事もいい具合に段落を迎えていた。

2人とも仕事を能率的に勧められたのには理由があった。

 

「私の計算は完璧ですけど、やっぱりMetsがあるとさらに捗りますね。」

 

どうやらこのMetsというアプリ、書類をかざすだけで画面内の不備や数値の異常な箇所も検出するという優れ具合である。

 

「そうだ。Mets、今の株価を教えて?」

【はい、現在の株価ですが…。】

 

本当にすごいアプリケーションだ。

それをうまく使いこなしているユウカも大したものだが。

 

「今日もかんぺき〜。さぁ、先生、一緒にいきましょう。」

 

笑みを浮かべるユウカ。

シャーレの建物を出た後、2人並んで目的のレストランへ向かう。

 

「そういえば先生、以前トリニティ自治区の音楽祭を見に行ったって本当ですか?」

「そうだけど…それがどうかしたのかい?」

「いえ、深い理由はないんですけど…初登場したユニットの歌がすごいSNSで話題になったんですよ。私もできれば一緒に聴きたかったなぁ、ってくらいの話なんですけど…。」

「確かに、あの発表会はすごかったよ。」

 

壇上に上がった2人の姿を思い出す。

海のように澄んだピアノの演奏と、天上の調べと言えるような歌声はホールにいたすべての人々から喝采を受けるほどに素晴らしかった。

最優秀賞はアンティーク・セラフィムの3人が授与していたものの、あの2人の発表は決して劣らぬものだったと言えるだろう。

 

……しかし、そこに至り着くまで物語は決して楽なものではなかった。

一歩何かがかけ違えば…トリニティの全ての生徒があの場所にいることはなかったかもしれないのだ。

 

「……本当に、良かったよ。」

「先生?」

「なんでもないよ。ユウカも来れたら良かったんだけどね。」

「行きたかったですけど……例の如くゲーム開発部が……!あぁもう!思い出したら腹が立ってきました!」

「モモイたちが何かしたのかい?」

「そうじゃなくて!いや…ある意味そうなんですけど…!今度ゲーム開発部に行ってみてください!すぐに分かりますから!」

 

なんとも要領を得ない回答だ、一体彼女たちはなにをしたのだろうか……?

 

「先生、着きましたよ!」

 

そうこうしているうちに、目的の店舗に到着したようだ。

 

早速店内に入ろうと、テラスの階段に足をかける。

が、その時私はその真横にある人物を目にした。

 

「……キミは……。」

「先生?」

 

ユウカから声がかかる。

ぽかんとした表情のまま、少女は私を見つめている。

 

……その姿に私が驚くのも無理はない。

テラスの席で静かに昼食をとっていた少女を私は知っていた。

かつて、歌一つでトリニティ総合学園を混乱に陥らせる事態を引き起こした生徒。

 

 

水無底コトネの姿がそこにあった。

 

 

ーーーーー

 

「ごめんね、私のわがままで相席にしてもらって……。」

 

私は店員に頼み込み、水無底コトネとユウカの3人用にテーブルを取ってもらった。

ユウカは若干不機嫌な表情をしたものの、了承してくれた。

 

「それはいいですけど…。この子は?トリニティの生徒ですよね?」

「そうだよ。」

「………。」

「紹介するね、ユウカ。この子は水無底コトネちゃん。ユウカが言ってた、トリニティ自治区の音楽祭で最初に発表していたユニット、『Starry Mermaid』の一人だよ。」

「え、えええっ!?」

「………。」

 

驚きの表情を浮かべる彼女を尻目に、コトネはスマホを操作する。

すると、スマホから音声が聞こえた。

 

『あの、ちゃん付けはやめてもらえませんか?確かに私の見てくれは幼く見えるかもしれませんけど。それと、一応顔出しはしないで発表の席には出たので、あまり言いふらさないでもらえると。』

「そうだったね……ごめんね、コトネ。」

「分かりました…コトネさん、私からも謝らせてください。元はと言えば私が話題を始めてしまっていたので。」

『ハァ……ところで、先生はなんのご用事ですか?私は…趣味のレコードを探しにこちらにきた程度の用事ですが。』

「私たちも大したわけではないよ、昼食にユウカに連れられてね。ちょうどコトネがいたから話しかけさせてもらったんだ。」

『そうでしたか……。』

「コトネさん、ひとつ聞いてもいいでしょうか?」

 

ユウカの問いかけに、コトネはうんと頷く。

 

「もし、お答えできない内容でしたらごめんなさい。その…なぜスマホの音声機能で会話を?」

「………。」

 

ユウカの質問は無理もないものだった。

事情を知っている人間からすればこの会話方法になることは想像がつくが、そうでない人からすれば確かに気になることだ。

ストールに首をすぼませるような仕草をし、しばらくの沈黙の後、コトネはスマホに文字を打ち込んだ。

 

『……そうですよね。普通、スマホの音声機能で会話する生徒なんて見たら、疑問に思うのは無理もないです。私、訳あって喋れないんです。』

「……そうだったんですね…私こそ、こんな質問をしてしまって申し訳ございません。」

『いえ、お気になさらず。』

「コトネ、最近はどうだい?」

『苦労はしてますけど、なんとか生活はできてます。お節介なお姫様もいてくれますので。』

「よかった。」

 

トリニティを去った後、彼女がどうやって生活しているかは心配だったが、相方の手助けもあり、うまくやれているようだ。

その後も、私はユウカを交えてコトネと色々と話をした。

住まいの事、周辺住民とコミュニケーションが取れているか、困ったことがないか。

ユウカから節約方法のアドバイスをしてもらったり等々。

確かにコトネは発声することはできないが、それでも生活はできているようだ。

 

『本当に、お人好しというか…。先生は私の親じゃないんですよ?今はそこまで心配していただかなくても。』

「それでも、やっぱり気にしちゃうんだよ。いくらコトネのことを気にかけてくれる人がいるとしてもね。」

『ありがたいですが、お気持ちだけで十分です。お節介なのは余ったロールケーキを持ち込んでくるお姫様だけで事足りてますから。』

「そうだね。」

 

コトネの返事に微笑み、テーブルに出されたパスタをいただく。

ユウカが勧めてきただけのことはあり、とても美味だった。

美食研究会が食べにきても、満足して帰るレベルかもしれない。

いや、基本満足した上で大人しく帰ってもらいたいが。

 

食休みを兼ねて休憩をする。

すると、ユウカは何か思いついたような表情を浮かべた。

 

「コトネさん、もしよければなんですけど…、ミレニアムに来ませんか?ご紹介したい人たちがいるんです。」

「ユウカ?」

『どういうことですか?』

 

ユウカは少しの間の後に続けた。

 

「コトネさんの悩み、ミレニアムなら解決できるかもしれません。」

 

ーーーーー

 

「どういうことだい…?ユウカ?」

「話を聞く限り…コトネさんはやっぱり話せないということで苦労をされてるようですし。彼女たちなら、力になれると思いませんか?」

「あぁ…そういうことか。」

 

彼女たちなら、コトネの悩みを解決できる可能性があるかもしれない。

 

「コトネさえ嫌でないなら…ユウカの提案は悪くないかもしれないね。」

『その……ユウカさんのお知り合いの方なら、私が喋れない事を解決できるのでしょうか?』

「少なくとも、スマホで返事を打ち続けることは減らせると思います。」

『それでしたら……。』

 

頷くコトネを確認したのち、

ユウカはスマホを手に取り、話しかけた。

 

「Mets、ウタハ先輩に電話して?」

【畏まりました。】

 

スマホからコールの音が響く。

電話の相手はすぐに繋がった。

白石ウタハ、3年生でエンジニア部部長を務める人物だ。

 

『ユウカかい?珍しいね、すれ違ったノアから今日はシャーレへ行くとウキウキだったと聞いているのだが。』

「それ以上余計な情報を口にされる場合、来季のエンジニア部の部費を削りますよ?」

『おっと、それはいくらなんでも横暴じゃないか?………それで、何の用だい?』

「ウタハ先輩に依頼したい事があって、電話しました。ある生徒の…、会話用の補助機を造れないかと思いまして。」

『……ふむ、なにやら込み入った事情がありそうだね。』

 

ユウカはウタハに対して、コトネの情報を伝える。

 

『ふむ、人の筋肉の動きを読み取って、それに合わせて発声する機器を作ることはさほど難しくはないな。

ただ……できる限りナチュラルなものを目指すなら、やはりボイスサンプルは欲しいところだ。ユウカの話によれば彼女、以前は声が出せたそうだね?もし残っているなら、当時の音源などがあればより精巧なものを用意できるかもしれない。明日以降ミレニアムに来るなら、サンプルがあると非常に助かる。』

「分かりました。ありがとうございます。」

 

ユウカは通話を切りコトネと私に向き直った。

 

「コトネさん、如何でしょうか?なにかしら事情はあるかもしれませんが…私たちに協力させて欲しいです。」

『その…ありがたいですけど、どうしてそこまで?』

「?」

『今日会ったばかりで…ろくに素性も知らない、普通のトリニティ生徒ならそもそも授業に出てないとおかしいはずなのに、こんな場所でほっつき歩いている生徒なんて……。』

「残念だけど、その程度じゃ躊躇する理由になりませんよ。」

 

ユウカは笑ってコトネの話を遮る。

 

「ウチの問題児たちに比べたら、そんなの可愛い範囲です。」

『……。』

「それに。」

『?』

 

私を見て、ユウカは微笑んだ。

 

「誰かさんの世話焼き具合が、私もとっくに移ってしまったみたいですからね?」

 

ーーーーー

 

『ありがとうございました。私の分まで奢っていただいて』

「気にしないで、コトネ。」

「それでは明日、ミレニアムに来てもらえればウタハ先輩に案内しますから。」

『ユウカさんもありがとうございます。それでは。』

 

丁寧にお辞儀をした後、コトネは私たちと別れた。

 

「本当に、良かったのかい?ユウカ。」

 

2人きりになった後、私はユウカに問いかける。

 

「なにがですか?」

「その、コトネのことを助けくれるのは嬉しいけど……。」

「見てたらわかっちゃったんですよ、先生。あの子、並々ならない事情があるんだって。

コトネさん、食事中にストールを絶対に下げませんでしたよね。

なんとなくですけど、そういうことなんじゃないかって思いました。先生の言うように、そっとしておいても良かったのかもしれません。」

「なら。」

「だからですよ。余計に、ほっとけないじゃないですか。」

「世話焼きの気質が疼いちゃった訳だ。」

「誰のせいだと思ってるんですか?」

「どうだろうね。」

 

ユウカと2人でシャーレに戻る。

その道すがら、通りゆく人々を見ると誰もが笑顔でスマホに話しかけていた。

 

「Mets、今日の番組で面白いものある?」

「Mets、新しいコスメ教えて!」

「Mets、弾薬の補給が安くできる場所知りたいんだけど。」

「Mets、盗聴用のセットを安く帰る場所教えて?」

 

最後に恐ろしいものが聞こえた気がするが気のせいだろう。

それにしても……。

 

「皆、Metsを活用しているね。」

「はい、すごい流行具合ですよね。実際すごく便利なので。」

 

ただ、一つ、気になることがあった。

 

「その……アプリに反対している生徒はいたりするのかい?」

「反対…ですか?」

「うん。」

「そうですね……います。反対意見の生徒も。」

「どんな理由なんだい?」

「うーん……、それについては明日直接見てもらったほうがいいかもしれませんね。」

 

ユウカの濁すような回答に、私は疑問を抱きつつ、その日残りの仕事をユウカと共に片付けたのであった。

 

 

ーーーーー

 

モノレールに揺られながら、窓の外に建ち並ぶ高層ビルを眺める。

 

翌日、私はミレニアムサイエンススクールへと足を運んでいた。

車両内には多くの利用者が私と同じく乗っており、本を読んだり、小声で談笑したりしていた。

そしてそれ以上に、多くの人々がスマホを操作していた。

 

「(一体何人が…Metsを使っているんだろうか。)」

 

爆発的な流行を見せるコンシェルジュアプリ、Mets。

確かに便利なことに間違いはないが、この光景を見ると、何故か寂しく感じてしまう。

 

『次は〜、ミレニアムサイエンススクール前。ミレニアムサイエンススクール前。お降りのお客様は〜……』

 

アナウンスに従い、モノレールを降りる。

予定通りの到着だ。

改札を降りると、そこにはすでに1人の生徒が立っていた。

 

『おはようございます、先生。』

「おはよう、コトネ。そういえば、サンプルボイスになりそうな音源は持ってきたかい?」

『はい。』

 

手提げ袋を見せるコトネ。

歌唱部で活動していた頃に録音されたCD達が所狭しと詰められていた。

 

『早速いきましょう。』

 

素早い動きで文字を打ち込み、スマホから音声が鳴る。

手慣れているなぁ…と感心するのも束の間、

 

『行きますよ、先生。』

 

と、急かされてしまった。

 

エンジニア部の建屋を目指して歩く中で、私はコトネに疑問をぶつける。

 

「コトネはMetsは入れてる?」

 

意外にも、コトネは首を横に振った。

何かを打ち込んだ後、スマホから声が流れる。

 

『……結局私は手入力で検索するしかない。それなら普通の検索エンジンで事足りるので。』

「そっか。」

 

そういった不便さも、ウタハ達なら解決してくれるだろうか?

やはり、流行に1人乗れないと言うのは、少し心苦しいのかもしれない。

 

「おはようございます、先生。」

 

エンジニア部の建屋に到着すると、1人の生徒が私たちを出迎えた。

長い銀髪と整った顔立ち、

生塩ノアの姿がそこにあった。

 

「やぁ、ノア。ユウカは?」

「すみません、ユウカちゃんは急遽打ち合わせが入ってしまって……代わりに私が先生達の案内を請け負いました。」

「そうか、ちょっと残念だね。」

「初めまして、お話は聞いてます。水無底コトネさんですね?」

 

ノアの綺麗すぎる容姿に少し緊張しているのか、いつもよりゆっくりとスマホを打ち込んだ後、返事が返ってきた。

 

『初めまして…コトネです。今日は…よろしくお願いします。』

「はい。では、ご案内しますね。」

 

建屋の扉を開けて壁沿いに歩いていく。

少しした後、目的の3人の姿があった。

 

「やぁ、先生。元気そうだね。」

「ウタハも元気そうで何よりだよ。」

「それと…初めまして、エンジニア部部長の白石ウタハだ。よろしく頼むよ、コトネさん。」

『よろしくお願いします。』

 

ウタハから差し出された手を握り返すコトネ。

そして、続けて残る2人もコトネの元に寄ってきた。

 

「おっと!ご紹介が遅れました!私、同じくエンジニア部の豊見コトリと申します!以後お見知り置きを!」

「猫塚ヒビキ。ウタハ先輩から事情は聞いてる、もし欲しい機能があるなら言って。Bluetoothでも、小銃機能でも付けれるから。」

『小銃…?今この人小銃っていったの…?』

「こらヒビキ。」

 

私はすぐさまヒビキを注意する。

 

「というわけでウタハ、お願いしてもいいかな?」

「承知した、先生。早速だが……経緯を少し教えてもらいたい。勿論、他言は絶対にしない。マイスターの名にかけて、誓わせてもらうよ。」

 

ウタハの言葉に何かを感じ取ったのか、ノアはヒビキとコトリの背中を押し始めた。

 

「ノ、ノアさん!?」

「ちょっと…あまり押さないで。」

「一度私たちは席を外しましょう。先生、ユウカちゃんには私から連絡しておきますね?」

「ありがとう、ノア。」

 

ノア達3人は部屋を後にする。

私とウタハ、そしてコトネが残された。

 

「……。」

『見ても、絶対に他の人には言わないでください。』

「勿論。」

 

するりと、ストールを外すコトネ。

私は窓の外から見えないように、コトネと窓を塞ぐような形で立つことにした。

 

「………驚いた。」

 

……コトネの首元には、横に走る線があった。

……おそらく人の身では絶対にあり得ないもの。

……海の中に住まう生き物達が本来持つべきもの。

 

「キヴォトスでは、羽の生えた生徒やツノの生えた生徒、ヒビキのような獣人は決して珍しくない……が、確かに君は特別かもしれないな。」

 

……水無底コトネの首には、魚のエラがある。

その事実を知った時、ヒフミやマリーでさえも衝撃を受けていたほどだ。

 

「……こればかりは、人目を気にするのも無理はないな。」

 

私は、コトネに変わって経緯をウタハに話した。

勿論、彼女が引き起こしてしまった事件については極力触れないようにした。

暫く何かを悩むような表情をするウタハ。

ぶつくさと呟き、思案に耽る。

 

「私の請負はあくまで工学だ。生物学に明るいわけではないが…ふむ、恐らく、エラがあると言う点以外は人と筋肉の作りなどは変わらない。で、あれば……。」

 

少し思案した後、ウタハはにっこりと笑った。

 

「大丈夫だ、恐らく元の設計を少し調整すれば用意できるよ。」

「本当かい?」

「あぁ。」

「良かったね、コトネ。」

『ありがとうございます。』

 

コトネはストールを巻き直す。

私は外に出ていたノア達を呼びに出た。

 

「ヒビキ、コトリ、2人とも、すぐに取り掛かろう。それと、持ってきてもらったサンプルボイスをこちらに。音紋解析で君の声が割り出せれば、他の合唱曲からも君の声だけを分離して抽出できるかもしれないからね。」

『ソロパートで歌った時の曲があるので、そこから私の声をピックできると思います。』

「準備がいいね、助かるよ。」

「出来上がるまでの間は、私たちはどうすればいい?」

「気分転換に外を散策でもしてくれていて構わないよ。コトネさんもミレニアムは初めてだろうからね。」

『本当に…ありがとうございます。』

 

ふと、ノアの方に視線を向けると、スマホに向かって何かを話しかけていた。

 

「ノア?」

「あ、すみません先生。」

 

慌ててこちらに向き直るノア。

 

「Metsに今後のスケジュールを入れていました。」

「ノアも使っているんだね。」

「私の場合は…基本物を忘れることはないのですが……関係者への通知などを一括でMetsができるので頼っているんです。」

「そっか。」

 

業務用としての活用であれば昨日のようにMetsを使うのは有効なのかもしれない。

 

「先生方は、この後どうされますか?」

 

ふと、昨日のユウカの話を思い出す。

 

「……もし良かったら、ゲーム開発部に行きたいんだけど良いかな?」

「アリスちゃん達のところですか?」

 

キョトンとした表情を浮かべるノア。

 

「そうだよ。」

 

用があるのは…どちらかと言うと別の人物だが。

 

「コトネも一緒にどうだい?」

『……わかりました。ご一緒させてください。』

 

ーーーーー

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