まこっちに双子の妹がいる食文化研究部の日常 作:ハナサキ
──食べることが好きだ。
それと同じくらい、可愛い女の子を愛でることも好きだ。
物心ついた頃から、その二つを何よりも愛している私は、名を──河合もか、という。
年齢は今年で十九歳を迎えた大学一年生。
この春から上京し、都内の女子大へと通っている現役のJDである。
そして、そんな私には同じ日に同じ親から生まれた、いわゆる双子の姉妹がいて。
外見に関して言えば実の両親ですら見分けられないほど全くのうり二つ。
一応、続柄的には私が妹にあたるのだか、年の差にしてたった数分程度の差でしかないので、あまりどちらが姉で妹とかいった意識は薄く、感覚としては同い年の友達と言ったほうが近い。
姉妹仲も決して悪くはなく、今も同じ大学に進学してこっちで同じ部屋を借り、一緒に住んでいるぐらいには良好だと言える。
……親元を離れ、上京して姉妹で二人暮らし。
これは──。
そんな私たち姉妹を取り巻く、至って平凡な日々の様子を綴った、なんてことのない日常の物語だ。
♢♢♢♢♢
「「──いただきます」」
──夜。
姉妹二人、一緒のテーブルを囲みながら手を合わせ、夕食を共にする。
目の前に置かれた料理をスプーンで掬い、ゆっくりと口の中へ運んで咀嚼すると、私の口内にはたちまち幸せが広がった。
うん、今日の夕飯もめちゃくちゃ美味しい!
「ん〜!
「っ! ほんと? よかったぁ〜」
「これもモコ太郎が動画で作ってたやつ?」
「うん、そう! グヤーシュっていうハンガリーの家庭料理なんだって!」
言いながら、私と全く同じ肩までかかる黒髪をふわりと揺らしながら我が双子の姉──河合まこは、パァっと花のような笑顔を咲かせた。
私は性格的に料理が苦手で、いつもご飯やお弁当の準備はこうしてまこに任せきりになっていた。
その代わり、洗い物や後片付けは私の担当。
まこも私と同じように、食べることが他の何よりも好きで、推しの料理系着ぐるみ動画配信者であるモコ太郎の動画で紹介されたメニューを、よくこうして再現してくれたりする。
今日作ってくれたのは全体的に赤茶色をした煮込み料理で、具材は牛肉や玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、トマトなど。
見た目としてはビーフシチューに近い。
色が赤みがかっているのは主にパプリカパウダーの色らしく、程よい酸味とマイルドな口当たり、ほんの少しの甘さと苦みも良いアクセントになっている。
具もゴロゴロしていて食べ応え充分なのも大変グッドだ。
「まこはほんと料理上手だよねぇ。将来はきっと良いお嫁さんになるよ。養って!」
「ん〜、養うとかは置いといて、卒業してからも今みたいに二人で暮らすのはありかもね。家賃とかも分担できるし」
「たしかに」
今は実家からの仕送りがあるし、二人でバイトもしている。
だから特に不自由なく暮らせてはいるけれど、卒業したら家賃や生活費もすべて自分たちで賄わなければならない。
そうなるとまこの言うとおり、少しでも出費を減らすために二人暮らしを続けるのは良いアイデアかもしれない。
まあ、私たち二人の卒業後の進路にもよるんだけどね。
「あーあー、どこかに私を一生甘やかして生活の面倒も全部見てくれる都合のいい美少女とか落っこちてないかなー」
「美少女限定なんだ……」
「当然! だって私、女の子にしか興味ないし? 男と暮らすとか論外っ!」
「う〜ん、まあ人の趣味はそれぞれだもんねぇ〜……」
そんな他愛ないことを話しながら、私とまこ、二人揃って完食する。
そうして食べる前と同様に胸の前で手を合わせながら。
「「ごちそうさまでした」」
……と、今日の夜も特に何事も起こることなく静かに更けていくのだった。
♢♢♢♢♢
──翌日。
「おーい、まこっちー、もかっちー!」
どーん、っと背中に伝わってくる衝撃。
一日の授業も終わり、まこと二人で大学の敷地内──部室棟へと繋がる道のりを歩いていると、背後から突然、そんな底抜けに明るい声が近寄ってくると共に背中を軽く叩かれた。
「これから部室でしょ? 一緒に行こー!」
と、私たち二人にそう声をかけてきたのは左のハーフサイドテールにした髪型が特徴的な元気っ娘、小川しのん。
私やまことは小学校時代の同級生で、中学以降は学校が別れてしまいすっかり疎遠になっていたのだが、偶然同じ大学に入っていたことで奇跡的に再会できた。
俗に言う幼馴染というやつである。
「あ、しのんちゃん。うん、もちろん!」
「うへへっ、おしんこは今日も元気いっぱいで可愛いねぇ、うりうり」
「わっ、ちょっ、くすぐったいってもかっち〜──ってか、おしんこ言うなっ!」
急に背中を叩かれて驚かされたお返しにしのん──おしんこの脇腹のあたりをこちょこちょとくすぐる。
たまらずくすぐったそうに身を
どうも彼女は“おしんこ”という小学校時代のあだ名で呼ばれることが恥ずかしいらしい。
なんでだろう、良いじゃんおしんこ。響きも可愛いのに。
「え〜、やだよ〜。だって私にとっておしんこはずっとおしんこのままだもーん」
「むぅ……」
「どうしたの、そんな不服そうな顔して。元気ない? おっぱい揉む?」
「こんのぉ、ホントに揉んでやろうかっ!」
「きゃ〜、おしんこのへんた〜いっ」
「なっ、待てこらぁー!」
煽り顔百パーセントで挑発しながら逃走する私と、それを追いかけるおしんこ。
自分の周りをぐるぐる回るようにしながら唐突に始まった追いかけっこに、中心に立つまこが「あはは……」と困ったように苦笑した。
これもなんてことはない。いつもと変わらぬ光景だった。
「あれ? も〜、二人ともまたやってるの? 毎日毎日ほんと飽きないね」
「あ、くれあ! だってもかっちが〜!」
「私は何もしてませ〜ん」
「はいはい、わかったから。……ほら、バカなことやってないで早く部室行くよ? まこが困ってるじゃん」
私とおしんこがそうやってじゃれ合っていると、後から来たツインテールの女子に呆れ顔で窘められる。
彼女、おしんこの友達グループの一人で大学で知り合った新たな友人──古舘くれあがこうして私たちを諌めるのもまたいつものことであった。
「お、みんな揃ってますねぇー」
「ねっ、昨日また新しいパズル買ったんだけど後でみんなでやらない?」
そこへ小柄でやたら毛量が多く羊みたいなふさふさヘアーのエナドリ大好きっ娘──比嘉つつじと、鮮やかな金色に染めた髪がひときわ目を引く根明人見知り見かけ倒しギャル──星ななも合流する。
これで見事この場に六人、現在私やまこが所属しているサークル、“食文化研究部”のフルメンバーが集結したのだった。
「そうだ、この前うちの常連さんから差し入れに貰った珍しいお菓子持ってきたから、後で部室で食べよ?」
「わーい! くれあママン大好きー!」
「いや、そういうのいいから」
「ぶべっ」
どさくさに紛れて抱きつこうとした私を、くれあがクールな動作で片手を突き出して制する。
相変わらずまこにはとびきりに優しいのになぜか私にはとても厳しい。解せぬ。
「ひつじちゃ〜ん、くれあママンが冷たいよ〜ぅ」
「おーよしよし。ですが鬱陶しいので早く離れてください」
「くっ、冷たいのはこっちも同じだったか! まるでキンキンに冷えたエナドリのよう!」
「もしかして私のこととりあえずエナドリとさえ言っておけば無条件に何でもかんでも喜ぶ簡単な女だとでも思ってます?」
「仕方ないなぁ。じゃあ代わりに私が受け止めてあげるよ。──おいで、もかっちゃん!」
「よしっ、それじゃさっさと部室行こっか〜」
「ちょっ、酷くない!? なんで私はスルーなの!? ねえなんで! なーんーでー!」
「うぁぁぅぁあぅぅ」
ガーンとショックを受けたような顔のななが涙目でぐわんぐわんと私の肩を掴んで激しく揺する。
……いや、だって。
こういうのはちょっと嫌がってるぐらいの人にちょっかいかけるのが楽しいのであって、受け入れ体勢が万全に整いすぎてるのはむしろ
ななもめちゃくちゃ良い子ではあるんだけどね。
でもなぜかどうしてもオチ要員感が否めないよね、なんでだろうね。
「──はあ〜……平和だねぇ」
──全員で部室に到着し、まこが淹れてくれた紅茶を飲みながら一息つく。
しみじみと私の口から漏れ出たそんな言葉に、私から見てまこを挟んで右の又隣に座るくれあが苦笑気味に反応した。
「なんかおばあちゃんみたいだよ、もか」
「そう? どちらかと言うとおじいちゃんじゃない?」
「おいこらおしんこ。それはいったいどういう意味だ、おぉん?」
つまり私のことを普段からじじくさいとか思ってるってことか? 喧嘩したいんならこっちはいつでも買うぞおら。
左隣に座るおしんこを軽く威嚇してやると、逆隣のまこから「まぁまぁ……」と宥められる。
ちなみに普段からこんな感じだが、おしんことは普通に仲が良い。
こういった軽口の飛ばし合いも、お互いの信頼関係の上で成り立つただのそういうノリのようなものだ。
「そういえばそろそろ学期末テストですね」
「「うぐっ……!」」
「なんかしのんともかが同時にダメージ受けてるんだけど……」
「大丈夫だよ、勉強ならまた私が見てあげるし!」
なながドンっ、と自らの胸を力強く叩いてみせる。
くっ、毎度お世話になっております……!
……なぜかこの感じで意外と学力高いんだよなぁ、このなんちゃってギャル。
教え方も上手いし、テスト勉強のときは正直めちゃくちゃ助かっている。
「うぅ……なんで大学生になってまでテスト勉強なんかしなきゃなんないんだよぅ……!」
「大学生だからでは?」
そ、そんなことないもん……!
大学は人生の夏休みだ、ってネットで誰かが言ってたんだもん……!
「まこっち〜、何かテストで簡単に良い点取れるようになる料理とかないの〜……?」
「発想がまんまドラ○もんの導入ですね」
「う〜ん……、あっ! そうだ、アレなら!」
「しかもあるんだ……」
おしんこのバカ丸出しのむちゃぶりに淡々とツッコむつつじと、まさかの閃きの表情を見せるまこに顔を引き攣らせるくれあ。
うんうん。今日もみんな平常運転なようで何よりだ。
「──と、いうわけで出来ました……! 納豆イワシナッツカカオ豚肉ほうれんそう入りあんかけ卵チャーハンです……!」
「こ、これは……」
「なんというか……」
「とにかく脳の働きに良いと聞く食材を手当り次第にぶち込んだかのような、まさに最高に頭の悪い発想による超絶悪魔合体料理ですね……」
「だ、大丈夫……! モコ太郎も動画の中でまあまあ食べれはする……って、言ってたから……!」
「作った本人も決して美味しいとは言ってないんだ……」
「「「「「「………………」」」」」」
……六人の間に微妙な沈黙が流れる。
え、これ、食べるの……? ほんとに?
「ほらしのん、せっかくまこが作ってくれたんだから早く食べなよ」
「え゙っ!? これもしかして私一人で食べるの!?」
「それはそうでしょう。言い出しっぺはしのんなんですから」
「で、でもぉ……」
「……ぜ、全然無理しなくていいよ! 食べたくないなら、わ、私が責任とってちゃんと食べるし……」
「まこっちゃん……可哀想」
「こらおしんこ! うちのまこを悲しませんな! 覚悟決めなよ、漢でしょ!?」
「女だけど!?」
──結局、全部乗せチャーハンはその後、全員で均等に分配して食べた。
意外とイケなくはなかった。
……めでたしめでたし(?)。
《人物紹介》
名前:河合もか
誕生日:4月23日(おうし座)
血液型:O
利き手:右
河合まこの双子の妹。
まこと同じくらい食べることが好きだが、まこと違い料理は苦手。
物怖じしない性格で初対面の相手でも自然体で話すことができ、人見知りを発動させがちなまこの隣で会話の橋渡し役になることもしばしば。
勉強することが苦手で学力はあまり高くなく、テストは毎回赤点スレスレ。
まこと同じ稲荷屋でバイトをしている。人見知りで裏方に回されたまことは対称的に、性格上ちまちました細かい作業を苦手としているため接客担当に回された。
容姿についてはまこと見分けがつかないぐらいにうり二つ。
顔だけでなく体型、声、髪の長さ、身長、体重、スリーサイズ、運動神経、体質など外見や肉体に関わる部分はどれも全く同じ。
ただ性格が大きく異なるため、喋れば声の抑揚の付け方や表情の作り方などで普通に見分けることは可能。
服やアクセサリーの趣味も姉妹で同じなので、普段からお揃いで買ったりシェアしたりしている。