まこっちに双子の妹がいる食文化研究部の日常 作:ハナサキ
──春休み。
満開に咲いた桜の花びらが新たな季節の到来を告げる今日この頃。
私たち食文化研究部の面々は近場の公園まで足を運び、みんなでお花見に来ていた。
首尾よく場所も取ることができたので、まずは景気づけとして部長であるおしんこが、ジュース入りの紙コップを片手にその場に立ち上がりながら、乾杯の音頭を取る。
「えぇ〜、まずはみなさん。大学生活一年間、お疲れ様でした。無事に全員で進級することもできまして、これからは二年生として、より一層サークル活動と、ついでに勉学のほうにも力を入れていきましてですね──」
「あははっ! しのんちゃん話長すぎ〜、ウケる〜!」
「そうだそうだ! 話が長いぞおしんこ〜! いいからさっさと脱げ〜っ!」
「なんかいきなり最低なヤジが飛んでるんだけど……」
「まこっち。このおにぎりの具材はなんですか?」
「ええっと、こっちの列がしゃけで、こっちが昆布、こっちがおかかで──」
「ぐぬぬぅ……。せっかくたまには部長らしく真面目にいこうと思ったのに、誰もまともに聞いてないし……。──はぁ、じゃあ手短に」
そう不服そうに唸りながら、おしんこは「……コホン」と一つ仕切り直すように咳払いをして。
「──皆さん、二年目も頑張っていきましょ〜、かんぱ〜いっ!!」
「「「「「かんぱ〜い!!」」」」」
全員で一斉に紙コップを掲げつつ、こうしていつも通りの賑やかさで景気の良いスタートを切ったお花見会。
広めのレジャーシートの上にはまこお手製の花見弁当と、みんなで持ち寄ったお菓子や飲み物類が所狭しと並べられ、とても豪勢なパーティーとなっていた。
私はその中から手近なおにぎりを一つ手に取ると、ぱくりと口いっぱいに頬張る。
「ん〜! ツナマヨおにぎり
海苔は手作りならではのしっとり系で、中の具も贅沢なほどにぎっしりと詰まっている。
うんうん、やっぱり手作りおにぎりと言えばこれだよ、これ。ふっくらパリパリのコンビニおにぎりも悪くないけど、手作りには手作りなりの良さってものがあるよね。
「──こっちの唐揚げも美味しいですね。しかもこれ、味付けごとに分けてあるんですか?」
「うん。醤油唐揚げに塩レモン唐揚げ、それからこっちは明太子と一緒にお肉を揉み込んだあと、衣にもからしを練り込んでて──」
「絶対ビールに合うやつだ!」
「飲めないくせに何言ってんの……」
「こっちのたまご焼きもめっちゃ美味しいよ! 定番のお砂糖たっぷりのやつに、だし巻きと、それにチーズ入りのミニオムレツもある! これ全部手作りとかまこっちゃん凄すぎ〜!」
「フッ、ちなみにこちらのサンドイッチは私が盛り付けました」
みんなから口々に絶賛されているまこの隣で、私もそんな風にアピールしながら「ふふ〜ん」とドヤ顔で胸を張ってみる。
尚、あくまで私はただ盛り付けただけであり、具材の調理は全てまこが担当いたしました。
でも私も同じ時間に早起きして手伝ったんだから、これはもう二人の合作と評しても何の問題もないよねっ!
「ふふっ。喜んでもらえてよかった〜」
「でもほんと、こんなに美味しい料理を作ってもらえるんだから、まこっちと結婚したら絶対幸せだよね〜」
「っ……! け、結婚って、そそ、そんな、さすがにそういうのはまだ気が早いというか……」
言いながらチラリ、と傍らに座るくれあに視線を送るまこ。
そうだよね……、結婚の前にまずは同棲が先だよね。
──まあこの
これだけ両想いなのに一切進展なしって、いったいどういうことなの……?
「ま、まこ……♡」
そしてこっちもこっちで“キュン……♡ ”じゃねぇよ。
いいからさっさと告白して押し倒せよ、奥手がよぅ……!
──私は早く!! カップルになった二人がイチャイチャするところが見たいんだっ!!
「ところで部長、こうして食べて話しているだけでも良いのですが、なにか余興とかは無いんですか?」
「ん〜? 花札とWIX○SSなら持ってきたけど」
「なぜその二択……?」
しかもどっちもルールあんまよくわからないやつだし……。
花札とかサマー○ォーズでとにかくコイコイ!って言いまくってたゲームっていうぐらいの認識しか無いし、WIXO○Sに至ってはアニメ全部観たけどどんなルールだったか一切思い出せない。
というか、こういうときは普通にトランプかU○Oでいいでしょ……。
「仕方ない……じゃあここは私が持ってきたツ○スターで──」
「いやこんな公共の場でそんなのやるわけないでしょ……」
え……? ダメ……?
私的にはこれが一番盛り上がると思ったんだけど……。
しかしこれを封じられるとなると、あとは──。
「あっ、王様ゲーム用の割り箸ならあるけど」
「なんでさっきからそんな下品な合コンみたいなラインナップなの……?」
「? でも良いじゃん、王様ゲーム。私やったことないからやってみた〜い!」
「私も少し興味はあります」
「たしか王様になった人が何でも命令していいってやつだよね? 楽しそ〜!」
「みんながやるなら、私も……」
「えっ……もしかしてこれ、ほんとにやる感じの流れ……?」
と、意外にも乗り気なおしんこ、つつじ、なな、まこの四人を見て、ただ一人渋っている様子のくれあが愕然とする。
ふっふっふ。どうやら風向きはこちらに味方したらしいな。
「ちなみに私が王様になったら当然エロい命令しかしないからそのつもりでね?」
「どうしよう、一気にスリルが増したんだけど……」
「……人目もありますし、あくまで公序良俗の範囲内でお願いしますよ」
「え〜、しょうがないなぁ……」
「まあ、変な命令が無いなら私もやっていいけど……」
「よし、そうこなくっちゃ! じゃあ一応ルールを説明するね──」
──今回私が用意したのはくじ引き用の六本の割り箸。
そのうちの一本には片方の先端にKというマークが印されており、それを引いた者が王様としてほかの五人──1〜5までの数字が書かれた割り箸を引いた者の中から、好きな番号を指定して何でも命令をしても良いという超オーソドックスなルール。
当然、王様は誰がどの番号を引いたかは命令した後に当人が名乗り出るまではわからないし、選ぶ番号は一つだけでも、はたまた五人全員を選んでもいい。
そして王様の命令は基本絶対だが、どうしても無理だという場合は拒否してもいい、ということになっている。
「じゃあ早速始めよっか。せーのっ──」
「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」
全員がそれぞれ一本ずつ割り箸を引き終わり、自分の割り箸に書かれたマークを確認する。
私が引いたのは──K。
「よっし! 王様私ぃ〜!」
「ちょっ、いきなり!? 何か不正とかしてるわけじゃないよね!?」
「失敬な! ちゃんと正々堂々やってるって! くじに細工が無いかも事前に散々調べたでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
私がいきなり王様を引いたのが納得いかないのか、くれあは尚も疑わしげな視線を私に向ける。
あまりにも信用が無さすぎてつらい……。
──だが、今回に関しては本当に何もズルはしていない。正真正銘、100パーセント運である。
いくら文句を言われようとこればっかりはどうしようもない。
「えぇっとじゃあねぇ〜。とりあえず、1〜5番の全員が王様にべろちゅーする!」
「バカなのか?」
「いっそ清々しいまでの有言実行ぶりですね」
「なんでそれがOKだと思ったんだろう……」
私が命令した途端、くれあ、つつじ、ななの三人から一斉に白い目を向けられる。
くっ……やはりダメか……! 個人的にはかなりギリギリを攻めたつもりなのだが、他のメンバーからすれば余裕でアウトだったらしい。
「──べ、べろちゅーってなに……? もしかして、べろとべろでちゅーするって意味……? わぁ……」
「ちょっ、もかってば……! しのんちゃんに変な言葉教えちゃダメだよっ……!」
「……というか、仮に私たち全員とする場合、必然的に実の家族であるまこっちともすることになりますが、それはもかっち的には平気なんですか?」
「……え、まあ。まことキスなんて昔、遊びで何度もやってたし、今さら特に気にならないかな」
「っ!? そうなの、まこ!?」
「……う、うん。──でも、ほんとに凄く小さい頃の話だよ!? だからさすがにノーカンというか……」
「まあどうしてもダメならほっぺとかおでこに軽く唇を当てるだけでもいいよ。それぐらいなら問題ないでしょ?」
「……う〜ん、たしかにそれなら、まあ……」
おしんこがそう腕を組みながら渋々頷きつつ、私の前に歩み出る。
そうして私の前髪をかき上げ、おでこを露出させると、そこへ──ちゅっ、とぎこちない動作で唇を触れさせた。
「……えへへ、なんか照れるね、これ」
微かに赤らんだ頬で、そう恥ずかしそうにしながら小さくはにかむおしんこ。
……あれ、やば……可愛い。目の前のおしんこがかつてないほど可愛く見える。
いや日頃から常々可愛いとは思っていたけど、え……こんな顔もするんだ……天使? おしんこって天使だったの……?
「……ふむ。では次は私が」
「あ、じゃあ私も……」
そう言っておずおずと手を上げながら、今度はつつじとななの二人が、私を両サイドから挟み込んでくる。
──えっ、うそ、まさかの二人同時……!?
思わぬ事態に驚愕するのも束の間、次の瞬間には私の両頬に全く同時に二人の柔らかな唇の感触が伝わってきた。
「ひゃへ……♡」
「なんかもかが信じられないほどやらしい顔で固まってるんだけど……」
「妹のこんな姿、あんまり見たくないんだけどなぁ……」
──って、いけないいけない。
まだこれで終わりではないのだ。
あと残るは──。
「──じゃあ次、くれあママン、いってみよっか!」
「っ……! ほ、ほんとにするの……? だって私、まこにだってまだ……」
「くれあちゃん……」
……あー、はいはいなるほどね。
たとえこんな遊びのキスでも初めては好きな人に捧げたい……と。
まあ、それならそれで仕方がない。
「じゃあこうしよう。くれあママンは特別にキスをする相手はまこでもいいよ。それで、くれあママンにキスされたまこが私にキスしたら、実質的に私にもキスしたことにならないかな? ほら、桃鉄でキン◯ボンビー
「それもっとマシな例えなかった……? ──まあでも、それなら……。いい……? まこ」
「っ……、うんっ……、どうぞ……っ」
「じゃあ……するね……?」
「──っ〜〜」
覚悟を決めたようにぎゅっと目を瞑るまこ。
そんなまこを、くれあは後ろから優しく抱き締めるようにしながら、その首筋へと、引き寄せられるように自身の唇を押し当てた。
「「……………」」
そしてキスが終わるや無言で離れつつも、名残惜しそうにお互いを見つめ合う二人。
……フッ。
これは──良いもん見れましたわ……。
「──────」
私はバッグから無言で自分の財布を取り出すと、そこからありったけの一万円札を引き抜いて──。
「──よかったらこれ、取っといて」
「いや何のお金よっ!!」
──その後……。
「じゃあもか、えっと、どこにしようか?」
「あー、うん。適当に手の甲とかでいいよ〜」
「ん、わかった」
そんな感じでお互い完全に虚無の感情でまこからの口づけを受け取りつつ、ゲームは滞りなく進んでいき、そこそこ盛り上がりながらその日は幕を閉じたのだった。
……次にみんなと会うのは新学期。
私たちにとって、二年目の大学生活が始まる──。