まこっちに双子の妹がいる食文化研究部の日常   作:ハナサキ

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03.「ね? 何とかなったでしょ?」

 

 

 ……これは里帰り旅行も終わり、東京に戻ってきてから早数日が経ったある日のこと。

 

 

「──ねえ、もか。結局あの後、ゆなちゃんとは、その……どうなったの……?」

 

 

 ──夜。

 

 いつものようにリビングのテレビ台の前のソファーでくつろいでいると、不意にまこからそのようなことを訊ねられた。

 

 ……なんだ? いきなり。

 

 私は暫し逡巡した後、慎重な面持ちで聞き返す。

 

 

「……どうって、何が?」

 

「何がってそれは……その……。やっぱりお付き合いとかしてるのかな……って」

 

 

 言いながら、ごにょごにょと恥ずかしそうに口元をまごつかせるまこ。

 

 ……もう大学生だというのに、なんともまあ(うぶ)な反応である。

 

 そんなまこを微笑ましく思う反面、そのあまりのいじらしさについ胸の奥底の嗜虐心を刺激された私は、ニヤリ、と底意地の悪い笑みを浮かべてしまう。

 

 

「へぇ〜、気になるんだ?」

 

「う、うん……。だって、実の家族と友達のことだし……」

 

 

 ……ふむ。まあそれはそうか。

 

 里帰りの際に再会した地元の幼馴染の一人であるゆな。

 

 私はそのゆなと何を隠そう、食文化研究部の面々を見送った後、実家に泊まった日の午後に実は二人きりで会っていた。

 

 そのことはまこには伝えてあるわけで、その時に何かあった、とまこは考えているわけだ。

 

 ……実際のところ、あったか無いかで言うと──あった。大いにあった。

 

 二人きりでデートしたあと、家族は留守にしているというゆなの家にお呼ばれしてそれはもう存分にイチャイチャし──最初のうちは余裕たっぷりだったゆなも、少し(ほぐ)してやれば後は最後までとろっとろに可愛い姿を晒してくれたものだ。

 

 いやぁ、楽しかったなぁ……。

 

 自立した雰囲気のあるバリバリのしごできウーマンをぐずっぐずに蕩かせる性癖持ちの私としては、あの日は実に満足のいく素敵な時間を過ごすことが──と、いけないいけない……。

 

 ……こんな話、とてもじゃないがこの目の前の純真さが形を成したような存在であるまこに語り聞かせるわけにはいかない。

 

 どんな反応をするか少しだけ興味は唆られるものの、さすがにまこには刺激が強すぎると判断した私は、ここは詳細については伏せ、大まかな事実のみを伝えることにした。

 

 

「まあ、付き合ってはいない……かな」

 

「そう、なんだ……」

 

 

 私がそう告げると、まこはまるで少しホッとしたような、けれどもどこか複雑そうな表情で相槌を打つ。

 

 ……ん? この反応……もしかして何か期待されていた、のか……?

 

 いや、気のせい、だよね……?

 

 

「──あ、でも近々上京してくるらしいよ、ゆなっち」

 

「……えっ!? そうなの!?」

 

「なんか帰り際に、独立してこっちで起業するとか何とか言ってたかな」

 

「……で、でも、この前会ったときはそんなこと一言も。なんで急に……?」

 

「さあねぇ。なんでだろうね〜」

 

「もか……? ほんとに何もしてないんだよね……?」

 

「どうだろうね〜」

 

 

 ……ちなみにこれは先日、電話越しに本人の口から直接聞いた話なのだが、実は元々、以前からそういう計画自体は練ってはいたらしい。

 

 既に現在の事業主である彼女の父とも話を付けているらしく、今後は東京(こっち)で暮らしつつ、起業の準備を進めていくとのことだった。

 

 ……凄いなぁ、立派だなぁ。やっぱ自立した女って良いなぁ、養われたいなぁ。

 

 

「上京したらうちの近くで物件探すって言ってたし、そうなったら気軽に会いやすくなるね。楽しみだね、まこ!」

 

「うん……そうだね」

 

 

 ……どうやら今の話で色々と察した様子のまこが、ぎこちない動作で頷く。 

 

 いったいまこの中ではどのような想像が繰り広げられているのだろう。

 

 まあ何にせよ、周りに可愛い女が増えていくのはとても良いことだ。

 

 ……あーあー、早く来ないかなぁ、また会いたいなぁ、ゆなっち。

 

 それであわよくばこっちで事業を成功させて私のこと一生養ったりとかしてくれないかなぁ。

 

 ──と。

 

 そんな期待を胸に抱きつつ、この会話を最後にこの日はそれで眠りに就いたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ──数日後。

 

 

「──おーい、おしんこ大丈夫〜? 生きてる〜?」

 

 

 ……今日は午前だけで授業を切り上げ、おしんこが住むアパートの一室へとやってきていた。

 

 メンバーは私、つつじ、ななの三名。

 

 おしんこが風邪を引いたというので、手の空いているメンバー(まことくれあはバイトのシフトが入っており不在)で様子を見に来たのである。

 

 この前の里帰りの際に挨拶に伺ったところ、おしんこの親御さんから「やっぱり一人暮らしは心配だから……」と合鍵を持たされていたこともあって、特に本人の許可を得ることもなく鍵を開け、ズカズカと部屋の中へ踏み込む。

 

 

「相変わらず物が多いですねー」

 

「まさに多趣味な人の一人暮らしって感じの部屋だね」

 

「ええっとおしんこは〜……たしかロフトで寝てるんだっけ」

 

 

 以前、おしんこが部屋の中でへそくりの五千円札を紛失した際、一緒に探すために部屋へ訪れた時のことを思い出しながら、無遠慮にはしごを登り、ロフトスペースへと上がる。

 

 すると、やはりそこには──。

 

 

「ゔぅ……あ゙りがどみ゙んな゙〜」

 

 

 ……風邪で弱りきり、完全にダウンしてしまっている様子のおしんこが、ぐでんぐでんになったように力無く布団の上で横たわっていたのだった。

 

 

「うっわ声ガッサガサじゃん……」

 

「これは、思ったより深刻な感じですね……」

 

「安心して! 私たちでちゃんと看病してあげるから!」

 

 

 三人で声をかけながら「とりあえず色々買ってきたから置いておくね〜」と、提げていたレジ袋から市販の風邪薬やらスポドリやら冷えピタやらフルーツゼリーやらを、寝ているおしんこの布団の傍へと並べていく。

 

 ……というか、こんなとこで寝てたら絶対しんどいだろ。

 

 トイレ行く時とかどうしてるんだ……?

 

 

「あ、桃缶あるよ桃缶。食べる?」

 

()べるぅ〜〜……」

 

「ん。おっけ〜」

 

 

 うんうん。やっぱり風邪の時と言えばコレだよね。

 

 だだ甘いシロップに漬けられた厚切りの白桃缶。

 

 残ったシロップを最後にジュースみたいに飲み干すのがまた最高なのだ。

 

 

「あ、でも買ったばっかだから全然冷えてないや」

 

「では先にお昼ご飯から作りますか」

 

「まっかせて! ちょうどさっきクック○ッドで病人食のレシピ百通りぐらい丸暗記したとこだから!」

 

「いや、普通にまこからレシピ預かってきてるし、それ用に買い出しだってもう済ませてあるんだけど……」

 

「うっ……! ね、念の為……念の為だからっ!」

 

 

 無駄なハイスペックぶりを見せつけるななに冷ややかな視線を送りつつ、ロフトの上にいるおしんこに向け「じゃあ台所借りるね〜」と呼びかけて三人で調理の支度を始める。

 

 

「今日作るのは中華風雑炊でしたっけ」

 

「そうそう。卵と鶏肉と野菜入りの、栄養満点で胃にも優しいやつ」

 

「へぇ、美味しそ〜!」

 

「では、我々はサポートに回りますのでメインの調理役と指揮は任せましたよ、もかっち」

 

「……え、私? 料理とかぜんぜんできないんだけど、ほんとに私で大丈夫?」

 

「? 二人暮らしで自炊もしてるのに、普段まこっちゃんと料理とかしてないの?」

 

「うん。私って昔からちまちました細かい作業とか苦手なんだよね〜。途中ですぐ面倒くさくなっちゃうというか」

 

 

 おかげで普段から料理に関してはすっかりまこに依存しっぱなしだ。

 

 ……だがまあ、今回は他でもない幼馴染の為だ。久しぶりにこの腕、存分に振るうとしようではないか。

 

 

「──そういえば、お粥と雑炊ってどう違うんだっけ」

 

「あー、たしかお粥は生米の状態から水を多めにして炊いて、雑炊は一度普通に炊いたご飯をスープと一緒に煮るんじゃなかったっけ」

 

「ほぇ〜。それで今回は生米じゃなくてパックご飯なわけね〜」

 

「レシピにはまずは鶏もも肉を小さめに切る、と書いてありますね」

 

「小さめ? 小さめってどのくらい?」

 

「さあ……? とりあえずサイコロぐらいの大きさで良いのでは?」

 

「それってサイコロステーキぐらいのサイズ? それともすごろくとかに付いてくるあのガチのサイコロ?」

 

「おそらくは後者かと」

 

「よし、それなら私が切るよ、任せて!」

 

「おー、頼みましたよ、なな」

 

 

 と。そんな風になながお肉を切っている間に、私とつつじの二人でレシピを読み、次の工程を確認する。

 

 

「……ふむふむ。次は白菜をざく切りにして、にんじん、ニラ、しいたけを細切りにする……だそうです」

 

「ざく切りに細切り……って、どう違うの、それ?」

 

「ざく切りは適当にザクザク切る、細切りは細かく切り刻む、みたいなことでしょうか」

 

「あー、おっけ〜おっけ〜。じゃあなな、今の聞いてたよね? お肉切り終わったらこっちもよろしく〜!」

 

「まな板も包丁も一つしか無いので、どうしても効率性に欠けてしまいますね……」

 

 

 ななが肉と野菜を切り終えるのを待ちながら、お次は鍋にごま油を引き、鶏肉、白菜の芯側部分、にんじんの順で炒めていき、ある程度しんなりしてきたら白菜の葉部分と、しいたけ、ニラを加えさらに炒める。

 

 ……ごま油の芳ばしい匂いが台所中に充満し、お昼は既に済ませてきたにも関わらず、なんだか無性に食欲を刺激される。

 

 

「ここからいよいよ味付けですね。鍋に水を500mLほど投入し、醤油、酒、みりん、鶏がらスープの素を大さじ一杯ずつ加えていく、だそうです。それとここでお酢と生姜チューブを少々入れておくのもポイントだと書かれています」

 

「ちょっと待って……!? この家、計量カップも計量スプーンもどこにも見当たらないんだけど!? どうやって(はか)ったらいいの、これ……!?」

 

「落ち着いて、なな。500mLなら普通のコップで大体2.5杯分ぐらいで、他のもまあ、目分量でたぶんこのぐらい……あっ──」

 

 

 ──どぽぽぽぽぽ……。

 

 ……しまった。ほんの少し加えるだけのつもりが、うっかり手元が狂って結構な量を投入してしまった……。

 

 

「──どぽぽぽぽぽ!? いまどぽぽぽぽぽっていったよ!? 大丈夫なの!?」

 

「しかもコレ、よりによってお酢ですよ……。おそらくだいぶ酸っぱくなっているのでは……」

 

「……ま、まぁまぁ。酸っぱくなったなら甘さで中和しちゃえばいいだけだから。そうしたら甘酸っぱいに変わって美味しくなるかもしれないし? ほら、酢豚的な」

 

「……そういうものなんでしょうか」

 

「じゃ、じゃあどうするの? とりあえずお砂糖……?」

 

「あ、冷蔵庫にハチミツあったよ。ハチミツって喉に良いって聞いたことあるし、これ入れちゃおうよ ──はいドポンっと」

 

「ドポンっ!?」

 

「結構な塊で入れましたね……。心なしか底のほうがドロドロしているような……」

 

「あとは風邪といえばやっぱり生姜だよね。というわけで、ここで生姜チューブをぶにゅうぅぅっと」

 

「ぶにゅうぅぅっ!?」

 

「一気にチューブの八割ぐらい出ましたけど……」

 

「で、仕上げに隠し持っていた旨味調味料をドバーッ」

 

「ドバーッ!?」

 

「……なぜ隠し持つ必要が?」

 

 

 ──と。

 

 そんなこんなで順調(?)に調理は進んでいき、あとはここから三〜四分ひと煮立ちさせたあと、レンチンしたパックご飯を投入し、溶き卵をかき混ぜながら回し入れて、蓋をして卵を固めた後、彩りに小ねぎを散らせば完成である。

 

 

「──うんうん、なんだ結構楽勝じゃん。きっと味も大丈夫だよ。旨味調味料をあれだけ入れたんだからイケるイケる」

 

「……ソウデスネー」

 

「ひつじちゃんが遂に考えるのを放棄した……!?」

 

 

 

 

 

 ──その後……。

 

 

「ゔぅ……ぢょっど()っぱいげど(お゙)(い゙)じい゙ぃ〜……」

 

 

「──ね? 何とかなったでしょ?」

 

「やはり旨味調味料。旨味調味料は全てを解決するのでしょうか」

 

「いや、これたぶん熱で味覚が麻痺してるだけだと思う……」

 

 

 こうして──。

 

 初の友人看病イベントはこのように、我々三人の力でなんとか無事(?)に成功を遂げたのであった……。

 

  

 ……そして後日。この事をまことくれあに報告したらめちゃくちゃドン引きされたことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

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