まこっちに双子の妹がいる食文化研究部の日常   作:ハナサキ

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05.「ごちそうさま!!」

 

 

 ──十二月三十一日。

 

 いわゆる年の瀬、今年最後の日となる大晦日の今日。

 

 

「──あと一分で年が明けるよ! みんな、ジャンプの準備はおっけーっ!?」

 

「ジャンプしないが」

 

「動きたくないです」

 

「そんなぁ〜……」

 

 

 ……と。

 

 私たち食文化研究部の面々は大学の部室内にて今まさに、年越しの時を迎えようとしていた。

 

 昼から集まって部室の大掃除をし、その後コタツを囲みながら手巻き寿司と鴨南蛮そばで年越しパーティー──という、とても賑やかで楽しい大晦日の夜を過ごしている。

 

 ……欲を言えばあとはここにテレビがあったら最高──あ、でももうあの笑ったらお尻叩かれるやつってやってないんだっけ。じゃあ無くてもいいか。

 

 

「そういえば私、家族以外と年越しするの初めてかも」

 

「私も〜」

 

 

 ……と、そう言って微笑み合うのは今日も当然のように隣同士でくっついて座っているまことくれあのご両人。

 

 もはや纏っている空気感が夫婦のそれでしかなかった。

 

 まったく、見せつけてくれちゃって……。末永く爆発すればいいのに。

 

 

「なな〜、年越しジャンプするなら写真撮ったげよっか〜? ローアングルで」

 

「いや普通に撮って?」

 

 

 ……ふむ。自分ではかなりナイスな提案をしたつもりだったのだが、敢え無く本人から真顔で却下されてしまった。残念。

 

 仕方ないので、大人しくその場に座したまま無言でスマホのカメラアプリを起動する。

 

 でも普通に撮るっていうのもやっぱり芸がないしな。

 

 ──よし! ここは普通に撮ると見せかけて顔面だけをドアップにして撮ってやろっと。

 

 

「5! 4! 3! 2! 1……!」

 

「「「「「あけましておめでと〜!」」」」」

 

「おっめでと〜ぅっ!」

 

 

 ──ピョーンっ、と。

 

 自分でカウントダウンをしながら宣言通り、年が明けると同時、なながその場で大きく跳び上がる。

 

 ──あっ、やば、ちょっとズレちゃった……。

 

 ななの顔面のみに狙いを定めてズームしていたのだが、思いの外かなり勢いよく跳び上がるものだから、狙いがズレて顔ではなく、なぜか胸元のみのアップになってしまった。

 

 ……しかもスマホ側の変な補正が入ったのか、一切のブレもなくめちゃくちゃくっきり撮れているという奇跡のおまけ付き。

 

 躍動するななパイ……。後でグループに貼っとこ。

 

 

初詣(はつもうで)どうしよっか〜?」

 

「この時間だと混んでるんじゃないですか?」

 

「うちの近くの神社ならたぶん空いてると思うけど、でも歩くにはちょっと遠いよね。私、今日は一応車で来てるけど、うちの車、五人乗りだし……」

 

「じゃあじゃんけんで負けた人はダッシュね」

 

「急に鬼みたいなこと言うじゃん」

 

「えっと……それなら、みんなで割り勘してタクシー呼ぶ、とかどう?」

 

 

 おずおず控えめに手を挙げながら言うまこの提案に、私含めた他の五人も「それしかないか……」と頷く。

 

 で、そうなってくると次に問題となるのは。

 

 

「どう分けよっか?」

 

「4-2で良いんじゃない? 3-3だと誰かタクシーで助手席に座んなきゃいけなくなるし」

 

「わ、私、知らない運転手さんと隣とか、ぜ、絶対無理……!」

 

「ななもこう言ってますし、分け方は4-2でいきましょう。タクシーには誰が乗りますか?」

 

「やっぱりじゃんけんで負けた二人……?」

 

「いや、ここは新年一発目ということで、せっかくならもっと厳正な運試しで決めようよ。そう、厳正な──あみだくじで!」

 

 

 ……というおしんこの発案により、くれあを除いた五人であみだくじを行った結果。

 

 

 ──タクシーに乗るのは私とおしんこの二人に決定した。……解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

「──ねえ見て〜! 運転手のおじいちゃんが飴くれた〜! みんなの分も貰ったからあげるね〜!」

 

「あのタクシーの運転手さん、最後らへんもう完全に孫を見る目だったね」

 

 

 ──車での移動を終え、集合場所である神社近くのコインパーキングへと集まる。

 

 みんなに笑顔で飴玉を配っていくおしんこを眺めてほっこりした気持ちになりながら、しかし、心の温もりなんかでは到底補えきれない真冬の夜の極寒に身を縮ませる。

 

 

「うぅ……(さっむ)ぅ〜っ……!」

 

「神社まで少し歩くよ〜」

 

「じゃあ走ってあったまろ〜!」

 

「神社に着くまでに疲れちゃうよ〜……」

 

「……わわわわ私は、ははははしるののはににににがてですすすがあああったまるならなななんでででもいいいいいですすすすよよよ……!」

 

「待ってつつじの震えがやばい……!!」

 

「っ! たいへん! 私が今すぐ人肌で温めてあげるねっ!」

 

「……それはたいへんというよりへんたいというか」

 

「あ、私貼るカイロ持ってるよ。ほら、みんな使って」

 

「え? 私の人肉カイロの出番は?」

 

「一生無いからとりあえず自首してきて?」

 

「まだ何もしてないのに……!?」

 

 

 今の気温なんかよりもよっぽど冷え切ったくれあママンからの辛辣なツッコミを受けつつ、みんなでカイロを受け取り、お互いにペタペタ貼り合っていく。

 

 

「はい、もか。貼ってあげるから背中向けて」

 

「おっ、ありがとまこ〜」

 

「じゃあまこには私が貼ったげるね〜」

 

「……っ、うん……! ありがと、くれあちゃん……!」

 

「………………」

 

 

 ……あの、人の背中越しに流れるようにイチャイチャするの、やめてくれません?

 

 ほんと隙あらば夫婦するよね、君たち。……いいなぁ。私も早くこういう所構わずイチャつける嫁が欲しい。

 

 

「──おーし! じゃあ神社へレッツゴ〜!」

 

「「「「「お〜!」」」」」

 

 

 カイロも貼って幾分か寒さも和らいだので、おしんこの号令に合わせ、全員揃って歩き出す。

 

 そうしてそこから決して短くはない道のりをしばらく歩き、私たち一行(いっこう)はやがて、目的地である御結──おむすび、と読むのだろうか……? とにかくそんな名前の神社へと到着した。

 

 

「ええっと、まずは鳥居の前で一礼だっけ?」

 

「はい。それで(くぐ)る時は右側なら右足から、左側なら左足から入るのがマナーだったはずです」

 

「真ん中は神様の通り道だから避けないといけないんだよね」

 

「じゃあみんなの可愛い女神様である私はド真ん中を両足跳びで(くぐ)り抜ければいいの?」

 

「恥ずかしいから絶対にやめて」

 

 

 そんな馬鹿みたいな会話をしつつ、何となく聞きかじった作法通りに鳥居を(くぐ)り、手水舎の水で手と口?を清め、いよいよ拝殿のほうへと向かう。

 

 

「あ、そういえば私いま小銭切れてるんだった。まこ〜、ちょっと貸して〜」

 

「うん、いいよ。いくらにする?」

 

「う〜ん、まあ無難に五円でいいかな」

 

「フッ、甘いねもかっち。私は──コレだ!」

 

 

 そう言っておしんこが指に挟んでヒラヒラと揺らしながら私に見せつけてきたのは、なんとまさかの紙幣。千円札様であった。

 

 ……えっ、学生のくせにお賽銭にそんな使うの? 正気か……?

 

 

「────」

 

 

 思わず呆然としながら本当に賽銭箱に千円札を突っ込んだおしんこの後ろ姿を無言で眺める私。

 

 やがて二礼二拍手一礼を終えて戻ってくるおしんこに、隣で一緒に拝礼していたつつじとななが困惑気味に訊ねた。

 

 

「……奮発しましたね」

 

「どんな願いごとしたの?」

 

「へへっ、仕送りが二万円アップしますようにってお願いしたのさっ!」

 

 

 ……あ、やっぱりこの子バカだわ。

 

 つつじからも真顔で「それ親にお願いしたほうがいいんじゃ……」とド正論をかまされている。

 

 

「叶うといいね〜……」

 

「うん!!」

 

「──じゃ、私たちも参拝しよっか〜」

 

 

 と、純真アホの子ちゃんのことはさておいて、今度は私とまこ、くれあの三人で拝殿の前に並び、賽銭を投入して拝礼しつつ、今年の願いごとを強く頭に思い浮かべる。

 

 ──たくさんの美味しいものと可愛い女の子に囲まれて無病息災、家内安全、学業成就──とにかく何でも私の思い通りになりますように……っと。

 

 よし! 完璧っ!

 

 

「ねえ、あっちで甘酒配ってるよ〜! 貰いに行こー!」

 

「おっ、いいね〜」

 

 

 甘酒って普段あんまり自分から飲もうと思わないから、結局こういうとこでしか味わう機会ってないんだよねぇ〜。

 

 そんなことを考えながら、係のおば様から全員分の甘酒を受け取り、みんなでちびちびと味わう。

 

 あぁ〜、いいなぁ……。なんだか体の芯から温まっていく感じがする。

 

 

「……ねぇ、甘酒って本当にアルコールじゃないの?」

 

「原料によっては入ってるのもあるらしいよ。まあそれでも加熱する時にほとんど飛んじゃうから、子供が飲んでも問題ないらしいけどね」

 

「つまりフランベみたいなものってこと……?」

 

「……あー、うん。そんな感じ〜」

 

 

 ……などと、適当に頷いてはみたが果たしてその例えが本当に適切なのかどうかはよくわからない。

 

 その後も、ななは尚も訝しげにじっと甘酒が入った紙コップを見つめていたが、おしんこに「そんなに気になるんなら私にちょーだい!」と言われると「やだっ!!」と全力で拒否していた。

 

 ……いったい何がしたいんだろう。

 

 

「あっ! 向こうでキャンプファイヤーしてるからあっちで飲もうよ!」

 

「いやあれお焚き上げでしょ……」

 

 

 あまりにも無邪気に罰当たりな勘違いをしているななに、くれあが若干引き気味に訂正する。

 

 今回はまだマシなほうだが、ななは学力が高い反面、些か常識に疎いところがあり、たまにナチュラルにサイコパスじみた発言をすることがある。

 

 特に今でもはっきり覚えているのは、前にみんなでトランプをしていた際にななに「ちょっとカード切っといて〜」とカードの束を手渡したら真顔で「いいけど誰かハサミ持ってる?」と返された時だろう。……あの時は本当に自分の耳を疑った。

 

 まあ今となってはそれも笑い話だけれども。

 

 

「……くれあ、マシュマロある?」

 

「あってもやらん!!」

 

 

 ……そしてどうやらナチュラルサイコパスはここにももう一人いたらしい。

 

 いや、おしんこの場合は単に色々深く考えていないだけか……。それはそれで心配だけど。

 

 でも、たしかにこういう火をじっと見つめていると──。

 

 

「「なんか、焼きいも食べたくなってきた……」」

 

「お〜、見事にハモりましたね、飢えた猛禽姉妹」

 

「ま、まこ……?」

 

 

 ……うん。

 

 やっぱりこういうところはちゃんと双子なんだよね、私たち……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

「──空が明るくなってきましたねぇ」

 

「ね〜」

 

 

 神社での参拝を終え、みんなで帰路につく。

 

 そして歩きながら、

 

 

「まこたちはこのあと実家に帰るの?」

 

「うん、学校始まる前まで」

 

「この前帰ったばっかなのにね〜」

 

「私も帰る予定〜」

 

「学校始まるのっていつ?」

 

「祝日を挟んで十四日ですね」

 

「じゃあ次会えるの学校始まってからかぁ……」

 

 

 ……そんな他愛ない会話をしつつ、不意にまこがハッとした表情で声を上げる。

 

 

「──そういえば、神社で写真撮り忘れてた……!」

 

「あ、ほんとだ。どうしよう、今から神社戻る……?」

 

「いやさすがに今から戻るのは……」

 

 

 ななの提案に渋るくれあ。

 

 けれどもその時、まさにちょうどのタイミングで──。 

 

 

「「「「「「………………っ!」」」」」」

 

 

 東の空。山の陰から、眩い太陽が顔を覗かせたのだった。

 

 新年最初の日の出の瞬間、すなわち初日の出。

 

 景色自体は別に普段と変わらないはずなのに、なんだか元旦ということを意識すると不思議と神聖なものに見えてしまう。

 

 

「──よし! じゃあ、ここで撮っちゃおうよ!」

 

「いいですねぇ、せっかくの綺麗な朝焼けですから」

 

「写真は私が撮ってもいい?」

 

「おっけ〜」

 

「じゃ、掛け声はいつもので」

 

「なんだかんだ、まこが考えたセリフが定着したね」

 

「なんか、恥ずかしい……」

 

「いいじゃないですか、私たちらしいですし」

 

「……まあ、その思い出の中に私はいないんだけどね」

 

「なな〜、新年早々病まないで〜」

 

 

 なんて賑やかに話しながら、六人みんなでくすりと笑う。

 

 ……そうして。

 

 まこが自分のスマホを掲げながら、弾けるような笑顔で号令をとり──。

 

 

「よぉーし、みんな集まって〜! ──せーっのっ!」

 

 

 

 

 

「「「「「「ごちそうさま!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……これが。

 

 私たち姉妹とその仲間──食文化研究部のみんなで織りなす日常の記録の一幕であり、幾つもの思い出を寄り集めた結晶の、ほんの一欠片。

 

 ……いつか終わりが来るのだとしても、これから先、この思い出の欠片の一つ一つを振り返り、懐かしみ、笑い合う日も、きっと訪れるのだろう。

 

 私の名前は河合もか。

 

 食べることが好きで、料理が得意で、ちょっぴり内気な──そんな双子の姉を持つだけの、ただの女好きの女子大生。

 

 

 

 ……かくしてまだ見ぬ思い出の欠片たちに想いを馳せ。

 

 私たち、食文化研究部の日常は続いていく──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






──つづく。(※最終話じゃないです)

……すみません、一応アニメ最終回にあたるエピソードなのでちょっと最終話風味の締め方になってしまいましたけど、あくまで当二次創作はまだまだ続けていく予定です。

とはいえ、今後のエピソードは完全に私の妄想100%の内容になりますし、一部キャラクターの設定なども原作とはかけ離れていたりもしますが、それでもお付き合い頂けるという方は、今後とも是非ともよろしくお願い致します。


……ひびめし、アニメ最後まで面白くて尊くて最高でした!
映像でも音源でも書籍でも何でもいいから、何かしら新しい動き来てくれぇ〜……!
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