まこっちに双子の妹がいる食文化研究部の日常 作:ハナサキ
「──ホームパーティー?」
「うん! 今度の日曜日なんだけど、うちでどうかな!?」
──冬休み明け。新学期も始まり、数日が経ったある日。
いつものようにみんなで部室でのんびり暇を潰していたら、ななが突然、満を持したようにそんなことを言ってきた。
「へ〜、良いじゃん! ななん家行ってみた〜い!」
「私は昼過ぎからなら大丈夫だよ」
「私も問題ないです」
かなり唐突な提案だったものの、おしんこ、くれあ、つつじの三人が二つ返事で了承する。
……ふむふむ。ななの家かぁ。ということは、あの大人の雰囲気溢れるギャルお姉様ともまた会えたりするのだろうか。
良いよなぁ、大人ギャル。私は美少女も好きだが年上のお姉様も問題なく守備範囲に含まれている。
特にななの姉──るなさんとか、いつもお世話になっているこの大学の事務員の太田まゆみさんなんかはガチのド好みドストライクの女性。
ならばこの誘い、断る理由などあろうはずも無い。何なら、這ってでも参加する覚悟すらある。
「私も全然行けるよ〜。まこは?」
「うん、私も大丈夫。……でもいいの? いきなりこんな人数で押しかけちゃったら、お
「それなら安心して! その日は家族みんな用事があって、家には私以外誰もいないから!」
「え、私やっぱ行くのやめようかな……」
「なんで……!?」
──ガン
さっきまでの私の胸の高鳴りを返せ。
「よ、よくわかんないけど、もかっちゃんも来なよ、きっと楽しいから……! うち、パズルゲームめっちゃあるよ!?」
「いや、それで釣られるほど私べつにパズル好きじゃないんだけど……」
むしろあんなに細かくて集中力を必要とする作業をなんで仕事でも無いのにしようと思うのか、私にはまるで理解ができない。
ジグソーパズルなんかも子供用の極端にピースが少ないやつで限界なんだぞ、私は。
パズルのピースを埋めるより、私は美女の谷間に埋まっていたい。
「……まあ結局暇だし、まこやみんなが行くならどっちにしろ行くんだけどね〜」
「よっし! じゃあ全員参加ってことでおっけーね! ……よかった〜。前にまこっちゃんと電話したとき、ポチに触らせてあげるって約束もしてたし、チャンスがあったら呼びたいなってずっと思ってたんだよね〜、えへへ」
「え〜っ、覚えててくれたんだ、嬉しい〜! ポチに会えるの、楽しみにしてるね!」
「──ほう、意外ですね。ポチ平気なんですか、まこっち?」
「……? うん。私よく動物系の動画とかも観るし、ある程度人に慣れてる子だったらたぶん平気だと思うけど……」
「それならうちのポチは安心だね! 噛んだりしないし、基本大人しいし!」
「……まあ、まこっちがそう言うのなら良いんです。ただ本当に意外だっただけですから」
「……?」
つつじの言葉に、やや戸惑い気味に首を傾げるまこ。
私もまたそんなまこと同様に、つつじが何を心配しているのかがよくわからなった。
「それじゃ、家族の許可もちゃんと取っておくから、今度の日曜日よろしくね!」
♢♢♢♢♢
──そうしてやってきた週末。約束の日曜日。
「いらっしゃ〜い、まこっちゃん、もかっちゃん! ささ、入って入って〜!」
スマホに送られてきた住所を入力し、地図アプリを頼りになな宅、星家へと訪れた私とまこ。
インターホンを鳴らすと、そんな風に元気いっぱいのななに出迎えられた。
「「おじゃましま〜す!」」
促されるまま、まこと二人、玄関の扉を
……しかし外観もそうだけど家の中も物凄く綺麗だな。
散らかっているいないとかそういう綺麗ではなく、なんというか全体的な雰囲気がとにかく小洒落ているというか。
建物も新しいし、良い意味で生活感が薄く、まさに育ちの良さそうなお嬢さんとかが暮らしてそうな家って感じだ。
「──結構荷物持ってきたね〜? レジ袋にも色々入ってるみたいだし、言ってくれれば買い出しぐらいやっといたのに」
「ううん。私の勝手な思い付きでそこまでしてもらうのも申し訳ないし、材料を自分で見て選ぶのも好きだから」
「私もまだ何作るか聞いてないんだよね〜。持ってきた調理器具とか材料からしてたぶんお菓子だとは思うんだけど」
「ふふっ。何を作るかはみんな揃ってからのお楽しみだよ」
友達の家に呼ばれたのがよっぽど嬉しいのか、なんだか今日のまこはずいぶんと上機嫌で楽しげだった。
まあ友達の家でパーティーとか、まこからしてみれば小学生以来だもんなぁ。
この前のクリスマスも会場はうちだった訳だし。
「──お〜。来ましたね、まこっち&もかっち」
「おいっす〜! 二人もぷよ○よする〜?」
どうやら先に到着していたらしいつつじとおしんこの二人が、テレビ台の前で某国民的落ちゲーに興じながら私たちを手招きする。
……ぷよぷ○かぁ。女の子のキャラデザは好きなんだけどなぁ。
「ちなみにぷ○ぷよの他にもテト○スとかコ○ムスとかタント○ールもあるよ!」
「S○GA信者のラインナップ」
……ごめんね。悪いけど私はゲームは基本スマホかアーケードしかやらないし、SE○Aよりも圧倒的にK○NAMI派なんだ……。
ボン○ーガールとか麻雀ファイ○ガールとか、ああいうの潔くて良いよね、好き。
「ところで、るなさんのお部屋にはいつ頃案内してもらえるの?」
「しないよ?」
「チッ」
「シンプルな舌打ち……!?」
……本人にも会えず、部屋にも入れてもらえないとか、これじゃいったいなんのためにここへ来たんだか──そうですね、ホームパーティーのためですね。まこの手作りお菓子楽しみです。
……それからしばらくみんなでゲームをしたりしながら時間を潰し、くれあが合流してきたタイミングでいよいよまこ主導のお菓子作りがスタートする。
「──それで、まこっち。今日はどんなお菓子を作るんですか?」
「うん、今日作るのはね、バウムクーヘンだよ!」
「えっ……」
自信たっぷりの表情で言い切ってみせるまこだったが、けれど、私を含めた五人はその発言を聞き、若干戸惑い気味に顔を見合わせた。
「えっと、たしかバウムクーヘンって……」
「作るにはなんか専用の機械? みたいなのが必要なんじゃなかったっけ?」
「生地を焼きながら巻き取っていくアレですね」
「えっ、うちそんな機械無いけど、どうやって作るの……?」
「家庭用があるにしても、うちからも特にそれっぽい道具持ってきてるようには見えなかったけど……」
「──ふふっ。それはね、“コレ”を使うんだよ!」
そう言ってまこが自分のバッグから得意げに取り出したのは卵焼き用の四角いフライパンと……アルミホイル……?
フライパンはわかるけど、アルミホイルのほうはいったい何に使うんだ……?
「今日はこの、卵焼き器とアルミホイルを丸めた芯、それからホットケーキミックスを使って“なんちゃってバウムクーヘン”を作っていこうと思いますっ……!」
「「「「「お〜っ……」」」」」
眼前のまこから発される妙な勢いに押されてか、私たち五人からパチパチパチ、と謎の拍手が上がる。
……よくわからないけどなんか凄そう。
「まずはストローを軸にして巻き取りながら、アルミホイルを手頃な太さまで丸めていくよ。こうやって作った芯の形が、バウムクーヘンの真ん中の穴の形の綺麗さにそのまま直結するから、慎重に、丁寧に……フンッ──!」
「あ、まこっちの目つきが変わった」
「……あの顔になるの、特定の食べ物に狙いを定めている時だけじゃないんですね」
「あれは私たち河合家の人間が極限まで集中力を高めた時だけに見せる顔──
「何でそんなバトル漫画の解説要員みたいなテンションなの……?」
「あははっ、まこっちゃん楽しそう〜」
そんな風にまこがアルミホイルをせっせと丸めている間、まこの書いた手順書をつつじが読み上げつつ、くれあがボウルと泡立て器を用いて生地のたねを作っていく。
「──最初にボウルに卵、ハチミツ、砂糖を入れて混ぜ、ある程度滑らかになったら溶かしバターを加えさらに混ぜる、とあります」
「おっけ〜。それじゃあ混ぜてくね〜」
「そこから少しとろみを帯びてきたところで次は牛乳を加え、馴染むまでさらに混ぜるそうです」
「なんかこの状態でもう結構美味しそうだよね。これにパンを浸して焼いたら美味しいフレンチトーストができそう」
「っ……! フレンチトースト……!」
「──大変だ! もかっちの不用意な発言でまこっちの集中力が
「お願い、負けないでまこっちゃぁん……!!」
「──だからその変なバトル漫画テンションやめろぉ!」
……その後も作業は順調に進んでいき。
たねにホットケーキミックスを加えてダマにならないように念入りに混ぜたあと、卵焼き器を弱火で熱してサラダ油をひき、完成したアルミ芯にも同様にサラダ油を塗っていく。
こうすることで芯に生地がへばりつくのを防ぐことができるらしい。
……この頃にはまこの顔もすっかり普通に戻っていた。
「じゃあ次はいよいよ生地を焼いていくよ。ぶっつけ本番だけど、動画で何度も見たからたぶん大丈夫……!」
──卵焼き器の上で薄く伸ばして焼いた生地の上にアルミ芯を置き、くるくると生地を巻き取っていく。
巻き取った生地はフライパンに置いたまま端に寄せ、さらに次の生地を焼き、それを何度も積み重ねるように繰り返していく。
そうすることで生地はどんどん厚みを増していき、やがて──。
「──完成! ホットケーキミックスで作る“なんちゃってバウムクーヘン”の出来上がりだよっ!」
「「「「「お〜!」」」」」
──パチパチパチ! と。
今度は作る前よりもさらに大きな拍手と歓声が五人から上がり、調理したまこも「ちゃんと出来てよかったぁ〜……」と達成感に満ちた様子で表情を綻ばせた。
「それじゃあ残った生地も余らせないようにどんどん焼いていくね。トッピング用の材料もいっぱい用意したから、みんなで好きにアレンジしていって!」
「「「「「は〜い!」」」」」
……こうして。
まこが作ったバウムクーヘンと、星家でいつも愛飲しているというお高めな紅茶で優雅なティータイムを過ごした私たち。
気づけば時刻はすっかり夕方になっていた。
「は〜、美味しかった〜」
「食感もふんわりしてて結構ちゃんとバウムクーヘンになってたね〜」
「次は生地にエナドリを混ぜてみてもいいかもしれません」
「どういう発想なの、それ……?」
「えへへ。喜んでもらえたみたいで良かった〜」
「──あ、そうだまこっちゃん! 約束してた通り、うちのポチ触ってみる?」
「え、いいの〜!? 触る触る〜!」
「おっけ〜! じゃあすぐに部屋から連れてくるから、ちょっとだけ待っててね〜!」
……と、食後の余韻も束の間。
なながそう言ってトテトテと足早にリビングを出て行き、またすぐに戻ってくる。
──その肩に、謎の緑色の物体を乗せながら……。
「──じゃあ改めて紹介するね! うちで飼ってる“エボシカメレオン”のポチだよ〜! 目元がすっごい可愛いでしょ〜!?」
「「「「えっ……」」」」
その時……。
ポチの正体を知っていたななとつつじを除く四人は心の中で一斉に思った。
((((──ポチって犬じゃなかったんだ……!!))))
「じゃあまこっちゃん、どうぞ触っていいよ〜! ストレスを与えないように、下からそっと手を差し伸べる感じね〜!」
「えっ、あの、いや、わ、私……!」
「いやぁ〜でも嬉しいなぁ〜! うちのお姉ちゃんも全然ダメだし、周りで爬虫類が好きな人って今まで全くいなかったから、やっとポチの可愛さを共有できるよ〜!」
「……うっ」
ななから向けられるあまりにも純粋でキラキラとした眼差し。
……あんな目で見られたら、人の良いまこの性格じゃ今さら触れないとは言い出せないだろう。
なんというか、ドンマイ……。
私はポンっ、とまこの肩に片手を置きながら。
「──まこ。頑張って」
「もか!?」
「あっ、見て! ポチのほうから動き出した! まこっちゃん、気に入られたみたいだね〜!」
「え、えっ、ひっ……!? ──あ……なんかザラザラしてるけど結構気持ちいいかも……」
「……まさかの触ってみたら意外と平気だったパターン」
──この後。
まこの反応から興味を惹かれた私やおしんこも順番にポチに触らせてもらい、普通に楽しくポチとの触れ合い会を過ごせたのだった。
……尚、帰る頃になってもこの日は結局るなさんには最後まで会えずじまいだった。悲しい。
……という訳で、星家お宅訪問会でした。
本編終了後の話もこんな感じのゆるゆるした雰囲気でのんびり続けていきますので、お付き合い頂ける方は今後ともよろしくお願い致します。