まこっちに双子の妹がいる食文化研究部の日常   作:ハナサキ

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07.「ポークたまごおにぎり……!」

 

 

 ──それは、一月の下旬のある日のこと。

 

 夜、部屋でくつろいでいたら不意にスマホの通知音が鳴り、おもむろに画面を覗く。

 

 するとそこには、トークアプリのメッセージを通じてこんな文面が表示されていた。

 

 

『今度そっちに行くことになったから会お〜♡』

 

 

 差出人の名前は“ゆな”。

 

 私やまこと地元を同じくする幼馴染の一人である。

 

 前にみんなと帰省した時や、ついこのあいだの冬休みでも何度か会ってまこやおしんこ、ひよりも交えて五人で遊んだりもしたけれど、地元以外で会うのは初めてだ。

 

 本格的にこっちに引っ越してくるのは春先だとか言っていたし、おそらく今回は引越し先の物件の下見か何かで来るのだろう。

 

 そう察した私は、すぐにスマホのキーボードを叩いて返信する。

 

 

『もっちろん! 待ってるね〜♡』

 

 

 ……っと。これで良し。

 

 女の子からのデートの誘いは基本いつ如何なる時も断らないのが私の主義だ。

 

 ──が。

 

 そこで私はふと気づいた。

 

 よく見たらこの画面、ゆなとの個別のトークルームじゃなくて……。

 

 

『え〜っ! ゆなっち東京来るの!? 会お会お〜!』

 

 

 ゆなと私の後に続く形でピロンっ、と送られてきたそんなメッセージ。

 

 差出人の名を見ると“しのん”──おしんこであった。

 

 次いで今度はコンコンっ、と私の部屋の扉を控えめにノックしてくる音。

 

 「どうぞ〜」と返事をすると、そこから何やら戸惑い気味の表情を浮かべているまこが顔を覗かせる。

 

 

「ねぇ、今のメッセって、もしかして……」

 

「あ〜、うん……たぶん誤爆」

 

「やっぱり……」

 

 

 ……そう。

 

 ゆなから送られてきたメッセージは私との個別ルームではなく、私、まこ、おしんこ、ひより、ゆなの幼馴染五人組からなる、グループ用のトークルームに表示されていたのだった。

 

 

『wwいいな〜、楽しんで来なよ〜』

 

 

 ……見ればひよりからもそんなメッセージが送られてきている。

 

 この感じはたぶん、全部わかった上で面白がってる反応だな、ひよっち……。

 

 ──いや、でもまさかあのしっかり者っぽいゆなが、こんなあからさまでベタベタなミスなんかやらかすだろうか?

 

 もしかしたら私が勘違いしているだけで、ゆなのほうは最初からまこやおしんこも入れて四人で遊ぶつもりだったのかも──

 

 

「──あ、ゆなっちから電話かかってきたわ……」

 

 

 

 ……うん。どうやらガチっぽいね、これ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ──数日後。

 

 

「──それで、その……なんで私はここに呼ばれたの……?」

 

 

 東京都は渋谷区。若者文化の流行の最先端の街として知られる原宿、竹下通りにて。

 

 彼女、今回急遽呼び出した我らがサークルの頼れるママンこと古舘くれあが、困惑を隠せない様子で口を開いた。

 

 ……いや、うん。気持ちはわかる。ほんとごめんね。

 

 けれど、こっちにも色々と事情というものがあってですね……。

 

 

「へ〜! あなたがくれあちゃん? はじめまして、河合姉妹やおしんこの幼馴染やってます、ゆなで〜す!」

 

「あ、うん。はじめまして……」

 

「話には聞いてたけどこんなに可愛い子だったんだ〜! まこっちもやるね〜!」

 

「っ……! い、いや、くれあちゃんと私はまだ(・・)べつにそういうのじゃなくて……!」

 

「ちょっ、まこ……!?」

 

 

 へぇ〜、 “まだ”、ねぇ〜……?

 

 それってつまり、いずれはそういう仲になるのがほぼ確定してるってことだよね?

 

 はぁ〜〜〜〜。こういう初々しいの大好物です。ありがとうございます。

 

 

「……お嫁に行っても変わらず仲良くしてね、まこ」

 

「もか!?」

 

「あははっ! 良いじゃん、ラブラブだねぇ〜。これならまこっちたちも問題なく楽しめそうで良かったよ、今日のWデート(・・・・)

 

「「〜〜〜〜っ……!」」

 

 

 まことくれあが揃って顔を真っ赤にさせる。

 

 ……そうなのだ。

 

 実は本日、ここに集まっているメンバーはこの四人のみ。

 

 というのも、元々遊ぶ予定だったおしんこが『明日提出のレポートすっかり忘れてた〜! マジでヤバいっ!』と、今朝方になってまさかのドタキャンをしてきやがったので、くれあはその埋め合わせとして来てくれたのだった。

 

 ……まあ、おしんこが来ないなら普通にまこに話を通してゆなと二人でデートすれば良かったのだろうけれど、しかし、こうして原宿に遊びに行くことが決定してからというもの、まこが今日のことをそれはそれはものすっごく楽しみにしている様子だったのだ。

 

 何しろ原宿といえばファッション関係だけでなく、グルメにおいても数多くの有名店が立ち並ぶ都内でも屈指の食べ歩きスポットとして知られている。

 

 同じ東京とはいえ、私たちが住んでいるエリアとは距離的にそこそこ離れているのもあり、そう頻繁に来られる場所でもない。

 

 ゆえにすっかりウキウキ気分のまこに「やっぱ今日は二人で行くからまこは留守番ね」などとは口が裂けても言い出せる訳もなく。

 

 かといって三人で行くにしても、まこは私とゆなの関係を知っているので何かと色々気を遣って純粋に楽しめないかもしれない。

 

 ──そこで考えたのが、今回のこの“Wデート作戦”である。

 

 試しにくれあに予定を確認してみたら今日は終日空いているとのことだったので、これ幸いとばかりに彼女を呼び出し、Wデートという形をとることでまこも最大限楽しめるように、という私とゆななりの配慮であった。

 

 あとはこの二人のデート風景とか金払ってでも普通に見たいまである。これも紛うことなき本音である。

 

 

「──じゃあ早速出発しよっか♡」

 

 

 ……こうして。

 

 私たちのドキドキWデートが始まった──。

 

 

 

 

 

 

「──あ、見て見て! クソ長ポテトあるよ、クソ長ポテトっ! ほら、早く行って食べよっ、まこ!」

 

「トルネードポテトだよぉ〜……。も〜、ちょっと待ってってばもか〜……!」

 

「あはっ♡ ねぇ見て、もかっちってばあんなにはしゃいでる〜、可愛い……♡」

 

「あー、うん……そうだね」

 

 

 目当ての店を見つけて駆け出す私と、それを追うまこ。

 

 ゆなとくれあの二人はそんな私たちを少し後方から眺めながら、二人で何やら話していた。

 

 内容までは聞き取れなかったけれど、二人ともそれなりに打ち解けられているようでよかった。

 

 さすがは社会人と現役の接客業従事者である。

 

 これがななとか一昔前のまこだったなら、今頃はきっとお通夜みたいな空気になっていたことだろう。

 

 二人ともコミュ力が高くて感心感心。

 

 

「──そういえば聞いてなかったけど、ゆな……さんともかって付き合ってるの……?」

 

 

 無事にクソ長ポテトも買えてまこと二人で「んまんま」とカリジュワホクホクのそれを頬張っていると、不意にくれあからそんな質問が投げかけられる。

 

 ……ふむ。これは、どう答えたものか……。

 

 

「ん〜、今のところは別に正式に付き合ってるってわけじゃないかな。まあ私のほうは全然いつでもOKなんだけど〜、もかっちがね〜」

 

「ん゙っ、ん゙ん゙っ! ゆなっち……? ちょっとその話は一旦……」

 

「……その反応。もしかしてもか、わざと関係を曖昧にしてゆなさんのこと都合よくキープしてる……? うわ、最っ低……」

 

「さすがに私もちょっとどうかと思う……」

 

 

 くれあだけでなく、まこからも同時に冷めた視線を向けられ途端に身の置き場を失う私。

 

 見ればゆなのほうも少し楽しげな様子で、小悪魔めいた笑みを浮かべながらこちらを眺めていた。

 

 くっ……おのれ謀ったな……。そういう顔も蠱惑的で大好きです。

 

 

「いや、違うんだよ……! 私はただ、せっかくの女子大生活で周りを見れば魅力的な女の子がそこら中にわんさかいる環境なのにこの時点で一人に絞っちゃうのってあまりにも勿体無さすぎるなって思ってるだけで……!」

 

「全くなにも違うことなかったんだけど……。弁解の余地が無さすぎたんだけど……」

 

「もか……」

 

 

 ──やめて! そんな人間のクズを見るような目で私を見ないで……!

 

 私はただ、せめて学生の間ぐらいは色んな可愛い女の子を適度につまみ食いしていたいだけなんだよぅ……!

 

 

「……っ、あっ! ほら見て! あっちにソフトクリームのお店あるよ! やっぱりしょっぱい系の次は甘い系だよねっ……! というわけでレッツゴー!!」

 

「全力で話を逸らしたね……」

 

「まあもかっちはこういうだらしないところも魅力だから」

 

「ゆなちゃん、(ふところ)広いんだね……」

 

 

 ……なんだか背後から、冷めた目を通り越して憐れみの込もった視線を向けられているような、そんな気がしないでもない私なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ……それからしばらくして。

 

 

「──んふ〜。クレープ美味し〜!」

 

「生地もサクサクのモチモチだねぇ〜」

 

「あははっ。二人ともほんと幸せそうな顔して食べるよね」

 

「は〜い二人ともこっち向いて〜。──ん、可愛い♡」

 

「っ……! ゆなさん、今の写真後で私にも……」

 

「いいよ〜。っていうかせっかくだし、まこっちと二人で撮ってみたら? ツーショットならやっぱり自撮りがいいよね? よかったら写りが良くなるコツとか教えるよ〜」

 

「……ほんと? じゃ、じゃあまこ、撮ってみる……?」

 

「っ、うん……!」

 

 

 四人で休憩スペースに座りながらクレープを食べつつ、そんなやり取りをする私たち。

 

 良いねぇ……、それで撮ったツーショット写真を後日お揃いの待ち受けにしたりとかするんでしょ? ……何それ、ただのカップルやん。

 

 

「次はなに食べよっか?」

 

「え〜っと、まだ食べてないのは〜──」

 

「ごめん、二人とも。さすがにもう食べる系は……」

 

「私も、ちょっとギブかも……」

 

 

 ……むぅ、そうか。

 

 私とまこはまだ全然余裕なのだが、どうやらゆなとくれあは限界らしい。

 

 そういえば、たしかにずっと食べっぱなしではあったもんね……。

 

 仕方ない。

 

 二人がそう言うなら、一旦食べ歩きツアーはここで中断して──って……ん? 今通り過ぎたカップルが食べてるのって、たしか……。

 

 

「「ッ! ポークたまごおにぎり……!」」

 

 

「あ、これ二人が満足するまで絶対終わらないやつだ……」

 

「相変わらず凄い目付きだね〜」

 

 

 ……この後。

 

 私とまこの二人でめぼしい原宿グルメを片っ端から堪能しつつ、しっかりその他、ゆなやくれあが行きたがっていたファッションショップや雑貨屋なども見て回り、無事に楽しいデートを過ごせた。

 

 

 そして、後日──。

 

 

「──っていう感じで、四人でめっちゃ楽しかったよ〜」

 

「ぐぬぬぅ……! 私抜きでずるい〜っ! こうなったら思い出に、何としても思い出に出てやるぅ〜……!!」

 

 

 と、その日の記念に帰り際に四人で撮ったプリを見せて煽ってやると、おしんこがめちゃくちゃ悔しがっていた。

 

 

 うんうん。次は食文化研究部のみんなで行こうね。

 

 

 

 

 

 

 

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