無能力の村人、魔法理論を学び世界最強になる   作:Menma_Taro

8 / 9
第8話

 

アルベルトとの交渉が成功してから三日が経った。

 

ライナスは家族との最後の時間を大切に過ごしていたが、同時に王都への不安も抱えていた。

 

「ライナス、荷物の準備はできた?」

 

ミエが心配そうに声をかけてくる。

 

「うん、大丈夫」

 

ライナスは小さな旅行鞄を見つめていた。村での生活に必要だった物のほとんどを置いていくことになる。持参できるのは最低限の着替えと、思い出の品だけだった。

 

「寂しくなるわ……」

 

ミエの目に涙が浮かんでいる。

 

「お母さん、僕はちゃんと帰ってくるよ」

 

「分かってるけど……こんなに小さいのに、一人で王都なんて……」

 

ハルオも複雑な表情をしていた。

 

「息子の才能を伸ばしてやりたい気持ちと、手放したくない気持ちが半々だ」

 

「お父さん……」

 

「でも、ライナスの将来を考えれば、これが最良の選択なんだろう」

 

ハルオがライナスの頭を優しく撫でる。

 

「魔法学院で立派な魔法使いになって、いつか村に帰ってきてくれ」

 

「うん、約束する」

 

ライナスは両親との約束を胸に刻んだ。

 

その夜、ライナスは一人で村を歩いてみた。

 

見慣れた風景が、明日からは見られなくなる。井戸のある広場、子供たちと遊んだ空き地、ガルスの鍛冶屋……すべてが愛おしく感じられた。

 

(7年間過ごした場所を離れるのは、思った以上に辛いな……)

 

前世では故郷というものを持たなかった。両親を早くに亡くし、転勤の多い会社だったため、特定の場所に愛着を持つことはなかった。

 

しかし、この村は違った。温かい家族と、優しい村人たちがいる。初めて「故郷」と呼べる場所ができたのに、それを離れなければならない。

 

「ライナス君?」

 

振り返ると、アルベルトが立っていた。

 

「アルベルトさん……」

 

「散歩かい?」

 

「はい。明日からは見られなくなるから……」

 

「気持ちは分かるよ。私も40年前、この世界で初めてできた故郷を離れる時は辛かった」

 

アルベルトが隣に並んで歩く。

 

「初めての故郷……?」

 

「そうだ。私も転生してすぐは、この世界に馴染めずにいた。でも、ある村の人たちに受け入れられて、初めて居場所を見つけることができた」

 

「その村を離れたんですか?」

 

「魔法の研究のためにね。君と似たような理由だった」

 

アルベルトが昔を懐かしむような表情を浮かべる。

 

「でも、後悔はしていない。その経験があったからこそ、今の私がある」

 

「そうなんですね……」

 

「君もきっと大丈夫だ。この村で学んだことは、決して無駄にはならない」

 

アルベルトの言葉に、ライナスは少し安心した。

 

「それに、私も一緒だからね。一人じゃない」

 

「ありがとうございます」

 

二人は村の端まで歩いた。そこから見える山々の向こうに、王都があるのだろう。

 

「不安はあるかい?」

 

「はい……魔法学院って、どんなところなんでしょうか?」

 

「大きな学校だよ。この村の何倍もの人が住んでいる」

 

アルベルトが説明を始める。

 

「生徒は主に貴族の子弟だが、才能のある平民も受け入れている。君のような特待生は珍しくない」

 

「貴族の子供たち……」

 

ライナスは不安になった。前世でも、上流階級の人たちとの付き合いは苦手だった。

 

「心配するな。確かに最初は戸惑うかもしれないが、君の実力があれば認められるはずだ」

 

「実力……」

 

「そうだ。魔法学院では実力が全てだ。出身など関係ない」

 

ライナスは少し安心したが、別の心配もあった。

 

「僕の能力、バレませんかね?」

 

「『魔法理論解析』のことか?」

 

「はい。あまりにも異常すぎる能力です」

 

「確かにそうだね。使う時は十分注意しなければならない」

 

アルベルトが真剣な表情になる。

 

「基本的には、私たちだけの秘密にしておこう。他の人には絶対に見せてはいけない」

 

「分かりました」

 

「それと、転生者であることも同様だ」

 

「はい」

 

「魔法学院には優秀な魔法使いが多数いる。中には真実を見抜く能力を持つ者もいるかもしれない」

 

ライナスは緊張した。

 

「でも、心配しすぎる必要はない。君は既に7年間、この世界で自然に振る舞えている」

 

「そうですね……」

 

「大切なのは、普通の天才少年として行動することだ」

 

アルベルトが続ける。

 

「魔法の才能は確かにあるが、それ以外は普通の子供。そう振る舞っていれば、特に怪しまれることはないだろう」

 

「普通の天才少年……」

 

「そうだ。そして私は君の元師匠として、適度に指導を続ける」

 

二人は村への帰り道を歩きながら、王都での行動について詳しく打ち合わせた。

 

翌朝、出発の時が来た。

 

村の人たちがライナスを見送りに集まってくれた。

 

「ライナス君、体に気をつけるんだぞ」

 

「王都で有名になったら、僕たちのことも忘れないでね」

 

「必ず元気で帰ってきてよ」

 

村人たちの温かい言葉に、ライナスは胸が熱くなった。

 

「みなさん、ありがとうございました。必ず立派になって帰ってきます」

 

ライナスは深々とお辞儀した。

 

同年代の子供たちも来ていた。

 

「ライナス、すごいね。王都の学校に行くなんて」

 

タロウが羨ましそうに言う。

 

「僕らのことも忘れないでよ」

 

ハナが寂しそうに言う。

 

「忘れるわけないよ。みんなは僕の大切な友達だから」

 

「本当?」

 

「本当だよ。だから、また一緒に遊ぼうね」

 

子供たちとの別れは特に辛かった。彼らとは本当に純粋な友情を築くことができていた。

 

最後に両親との別れの時間が来た。

 

「ライナス……」

 

ミエが涙を流しながら息子を抱きしめる。

 

「お母さん、泣かないで」

 

「ごめんね……でも、どうしても……」

 

「僕、頑張るから。だから泣かないで」

 

ライナス自身も涙が出そうになっていた。前世では経験できなかった家族愛を、この7年間で十分に感じることができた。

 

「ライナス、男だろう。しっかりしろ」

 

ハルオが息子の肩を叩く。

 

「でも、無理はするな。困ったことがあったら、すぐに手紙を書け」

 

「うん、分かった」

 

「それと……」

 

ハルオが小さな袋を渡してくる。

 

「これは何?」

 

「村のみんなからのお守りだ。困った時に見てくれ」

 

袋の中には、村人たちからの小さな贈り物が入っていた。手作りのお守り、きれいな石、押し花……どれも心のこもった品ばかりだった。

 

「ありがとう……」

 

ライナスは感動していた。

 

「さあ、時間だ」

 

ロイ副院長が馬車の準備ができたことを知らせる。

 

「それでは、参りましょう」

 

アルベルトもすでに旅支度を整えていた。

 

ライナスは最後にもう一度、両親と抱き合った。

 

「いってきます」

 

「いってらっしゃい、ライナス」

 

馬車に乗り込むと、村の人たちが手を振って見送ってくれた。

 

馬車が動き出し、だんだん村が小さくなっていく。

 

(本当にお別れなんだ……)

 

ライナスは窓から手を振り続けた。村の人たちの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。

 

「初めての長旅ですね」

 

ロイ副院長が話しかけてくる。

 

「はい」

 

「王都まで一週間ほどかかります。途中、いくつかの街で宿泊しますので、見学してみるといいでしょう」

 

「ありがとうございます」

 

エレナ教授も親切に説明してくれる。

 

「王都は非常に大きな街です。最初は迷子になりやすいので、気をつけてくださいね」

 

「はい」

 

護衛のダンは寡黙だったが、時々ライナスの安全を気遣ってくれた。

 

「魔物に襲われることもあるから、何かあったらすぐに知らせてくれ」

 

「分かりました」

 

アルベルトは隣に座り、小声で話しかけてきた。

 

「大丈夫かい?」

 

「はい。でも、やっぱり寂しいです」

 

「それは当然だ。でも、きっと新しい発見もあるよ」

 

「新しい発見……」

 

「そうだ。王都には村では見ることのできない魔法技術がたくさんある」

 

アルベルトが続ける。

 

「君の『魔法理論解析』で観察すれば、きっと興味深いことが分かるはずだ」

 

ライナスは少し興味を持った。確かに、高度な魔法を解析できるのは楽しみだった。

 

「でも、人前では使わないようにします」

 

「それでいい。私たちだけの研究として活用しよう」

 

馬車は順調に進んでいた。村とは違う景色が次々と現れる。

 

大きな川、広大な平原、遠くに見える山々……すべてが新鮮だった。

 

「すごく広いんですね、この世界って」

 

「そうだね。王国だけでもかなりの広さがある」

 

ロイ副院長が地図を見せてくれる。

 

「ここが君の村で、こちらが王都だ」

 

地図上では小さな距離に見えたが、実際は相当な距離があることが分かった。

 

「他にも多くの街や村がありますね」

 

「そうです。それぞれに特色があって面白いですよ」

 

初日の夕方、最初の宿場町に到着した。

 

「フィール町」という、商業で栄えている街だった。

 

「今夜はここで泊まります」

 

宿屋は村の建物より大きく、立派だった。

 

「すごい……」

 

ライナスは目を丸くした。

 

宿屋の中には、様々な旅人がいた。商人、冒険者、他の貴族らしき人たち……村では見ることのない多様な人々がいる。

 

「ライナス君、夕食の前に街を少し見学してみませんか?」

 

エレナ教授が提案してくれる。

 

「はい、お願いします」

 

街の中心部には市場があり、村では見たことのない商品が並んでいた。

 

「魔法で保存された食品」「遠い国の織物」「魔石を使った道具」

 

どれもこれも、村の市場とは規模が違っていた。

 

「すごいですね……」

 

「これでもまだ地方の街です。王都はこの何倍も大きいですよ」

 

ライナスは想像がつかなかった。

 

街には魔法使いの姿も多く見られた。みんな高度な魔法を使っているようで、ライナスは興味深く観察した。

 

(『魔法理論解析』で見てみたいけど、人が多すぎて危険だな……)

 

スキルの使用は我慢することにした。

 

「あ、ライナス君」

 

アルベルトが近づいてくる。

 

「興味深いものが見つかりましたね」

 

「はい。村とは全然違います」

 

「王都はもっとすごいですよ。楽しみにしていてください」

 

その夜、宿屋の部屋でライナスとアルベルトは二人きりになった。

 

「今日はどうでしたか?」

 

「新鮮でした。でも、やっぱり村の方が落ち着きます」

 

「それも当然だね。慣れ親しんだ場所が一番だ」

 

アルベルトが窓から外を見る。

 

「でも、新しい環境に身を置くことで、君はもっと成長できるはずだ」

 

「成長……」

 

「そうだ。村にいては学べないことがたくさんある」

 

「どんなことですか?」

 

「魔法技術もそうだが、何より人との関わり方だ」

 

アルベルトが説明する。

 

「魔法学院には様々な背景を持つ生徒がいる。貴族、平民、他国からの留学生……」

 

「それは大変そうですね」

 

「確かに最初は戸惑うだろう。でも、多様な人々と関わることで、君の視野は大きく広がる」

 

ライナスは理解した。確かに、村では同じような環境の人たちとしか関わっていなかった。

 

「頑張ってみます」

 

「その意気だ。そして何か困ったことがあったら、遠慮なく相談してくれ」

 

「ありがとうございます」

 

翌朝、旅は続いた。

 

二日目は山道を通り、三日目は大きな川沿いを進んだ。

 

毎日新しい景色を見ることができ、ライナスは少しずつ旅の楽しさを感じるようになっていた。

 

「魔法学院の授業って、どんな感じなんですか?」

 

四日目の朝、ライナスはエレナ教授に質問してみた。

 

「基本的には理論と実技の両方を学びます」

 

「理論……」

 

「魔法の仕組み、歴史、各種属性の特性など、座学が中心ですね」

 

「実技は?」

 

「実際に魔法を使って、技術を磨く授業です」

 

エレナ教授が詳しく説明してくれる。

 

「1年生は基本魔法から始まり、学年が上がるにつれて高度な内容になります」

 

「僕はどの学年に入るんでしょうか?」

 

「君の実力なら、3年生レベルでも十分についていけるでしょう。でも、最初は2年生から始めてみてはどうでしょうか」

 

ライナスは安心した。いきなり上級生の中に入るのは不安だったのだ。

 

「友達はできるでしょうか……」

 

「大丈夫ですよ。君のような特待生は、みんな興味を持って迎えてくれるはずです」

 

ロイ副院長も励ましてくれる。

 

「それに、君には優秀な師匠がついている。心強いでしょう」

 

アルベルトを見ながら言う。

 

「はい、とても心強いです」

 

五日目の夕方、遠くに大きな街の灯りが見えてきた。

 

「おお、あれが王都ですよ」

 

ロイ副院長が指差す。

 

「すごく大きい……」

 

ライナスは息を呑んだ。村の何十倍もの大きさに見える。

 

「明日の午前中には到着できるでしょう」

 

「いよいよですね……」

 

ライナスは緊張と期待で胸がいっぱいになった。

 

その夜、最後の宿場町で泊まりながら、ライナスは明日からの新生活について考えていた。

 

(いよいよ王都に着く……新しい生活が始まるんだ……)

 

不安もあったが、それ以上に期待の方が大きくなっていた。

 

(きっと村では学べない多くのことを学べるだろう。そして、いつか立派になって村に帰ろう)

 

ライナスは両親や村の人たちの顔を思い浮かべながら、決意を新たにした。

 

転生者としての秘密を抱えながらも、この世界で自分なりの道を歩んでいく。

 

その第一歩が、いよいよ始まろうとしていた。




学校かあ(青春とは
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。