明らかに自我がある気持ち悪い人型兵器として転生した人 作:聖成 家康
どうせなら、可愛い女の子に乗ってもらいたい。
人型兵器――《ゲイズチェイサ》に転生してしまった、不運な男の望みはたったそれだけであった。
全長十五から十八メートルほどの人の形を成した空陸両用の機動兵器。
大規模テロの速やかなる鎮静の後、即座に救助・復旧活動に移れることを加味して、人型というデザインを採用している。
それがこの世界における主力兵器である《ゲイズチェイサ》の実体だ。
彼が転生した世界は、彼が生前生きていた世界によく似ている――ものの、歴史はまったく異なる。
まず、第三次世界大戦が二一五〇年に勃発。
核を使ったおぞましいその戦争は、およそ十年程度で終戦し、講和条約が結ばれた。
《国家統合平和条約》と呼ばれるその条約は、数多も存在していた世界の国々を
国家統合後は、すべての国々が代表議会制を採用し、以前までの政策より回転率が悪いものの、理にかなった国づくりができるように――という意図が込められているらしい。
だが、問題は山積みだ。
何よりの問題は、紛争やテロの異様なまでの増加である。
それもそうだ。国家統合により、各々がそれまでに築き上げていた文化や歴史が無かったことにされるようなもの。
過激な宗教団体や民間のテロリスト組織が世界中で横行。
そこで国際連合から発展した”人類連邦”は、対テロリスト対策部隊として《アティーアト》を結成。
今の世界は、いつどこで火種がばらまかれるか分からない不安定すぎる世界に仕上がっていた。
格納庫に眠る一機を取り囲むキャットウォークの上で、何人かの整備員が立ち話をしていた。
「《レギオン》の調子はどうだ」
「ゲイズチェイサとしての性能は申し分ないが、問題は
「例のって……超高性能AIを使った、戦闘学習プログラムのことだろ? 動かないってどういうことだ?」
男たちの会話に耳を傾けた青年が分かったことは数多くある。
まず、自分はゲイズチェイサの中でも特殊なゲイズチェイサであるということ。
《レギオン》――というのが、それを示唆する言葉なのだろうか。
AI搭載の戦闘学習プログラムが内蔵された、一言で言えば《とってもつよいろぼっと》ということと見て間違いない。
次に、自分を操るパイロットはまだ見つかっていないこと。
どういう訳か、彼を操ることができるパイロットはこれまで皆無。
明確に言えば、操縦までは可能なのだが、さらにその先――彼に内蔵された特殊なシステムを起動するに至らないのだ。
だってパイロット選り好みしてんだもーん!!
誰が青臭い男なんか乗せたいと思うんだよバーカ!!
と言っても、整備員の者たちには届かない。
そう。今までのパイロットたちがシステムを起動できなかった理由は単純。
彼の好みに合わなかったからである。
そんなことを整備員の者は知る由もなく、単に
◇
――否、”レギオン・マハラレル”は巨大な布をかけられ、荷台に載せられて何処かに移動していた。
整備員たちの話によれば、本日はここ、多国籍都市が築かれる人工島《アヴァロン》にて、各国の代表が集結し、式典が開かれるようだ。
紛争・テロが横行する中で、今一度世界平和について考えるべく、各国代表による国際会議が開かれるようだ。
その最中、なぜか彼もその式典に参加することになる。
移動が完了し、”レギオン・マハラレル”は寝たきりのまま放置されるのだった。
あーあ、可愛い女の子が見つけて乗り込んでくれねぇかなぁ。
青年の想いはただひたすらにそれだった。
せっかく乗せるパイロット、すなわち運命共同体。自分自身が気に入った人を乗せたいに決まっている。
――それにしても、と青年は暗闇の中に外の光景を思い浮かべた。
この世界は人型兵器がある、ロボアニメのような世界だ。
ロボアニメなら、こういう式典的なことが行われる時に、何かしらの事件があるのが鉄板である。
もうこの際元の組織の人じゃなくていいや。可愛い女の子なら誰でもいい。
もはや自暴自棄である。
そんなこんなで、幾分かの時が経った。
案の定、彼のセンサーがけたたましい爆発音をキャッチ。
微かに彼にかかる大きな布を揺らすほどの爆風も検知した。
ほら見たことか。
テロ、紛争が横行するこの世界で国家元首を集めて会議をしようなど――平和ボケにもほどがあるのだ。
どかん、ばこーん。
何が起こっているかは容易に想像がつく音が、辺り一帯で響き渡っている。
人型兵器《ゲイズチェイサ》は、皮肉にもテロなどのゲリラにはうってつけの戦闘兵器だ。
陸戦時には脚部に備わった高速回転ホイール”スパークドライヴ”による高速移動が、空戦時には装甲材である”ハイテクカーボン”の超軽量さを活かし、さながら戦闘機であるかのような飛行が可能であるためだ。
さっさと襲い、さっさと撤退する。
テロ対策にと造られた兵器が、テロにうってつけの兵器として利用されているのが、何とも滑稽と言うか、愚かと言うか。
ある時、爆音に混ざって忙しない足音が聞こえてくる。
被せられていた布がばっ、と退けられれば、センサーが捉えたのは、こちらを覗き込む一人の少年の姿だった。
ふわふわの天然パーマで、(腹立つけど)なかなかいい顔をした少年。軍服は着ていない。
白いワイシャツに青のジーンズ、民間人でーすと自白しているような格好だった。
主人公枠か……? んだよ男かよ。
乗ったとしても頑なに動いてやらないんだからな!! と、固い意思を持つ。一度転生を経験したのだ。命は惜しくない。
「こいつ、動くのか……?」
動きません男だから。もうちっと中性的だったら操縦ぐらいなら許してやってたがな。
”レギオン・マハラレル”の開かれたコックピットに乗り込む少年。
置かれっぱなしのマニュアルを読み込みながら、少年は”レギオン”の性能に驚愕する。
「な、なんだこれは……”サーペイン”の五倍以上のエネルギーゲインがあるぞ……」
どうせ動かないゲイズチェイサの機器系統をマニュアル通りにぎこちなく弄り、少年は”マハラレル”を動かそうとしていた。
「やってやるさ……今も人が死んでるんだ。強い機体があるなら、出し惜しみしちゃいけない……!!」
おそらく民間人であるのにも関わらず、そこらの軍人と変わらぬ正義感。
彼の想いは、ひしひしとコックピットから伝わってきた。
オイルが熱くなる。
思わず、バッテリーに火がつきそうになった。
このまま動かしてあげてもいいのでは?
この少年なら、きっとうまく使えるのでは?
「立ってくれよ!!」
立ちません。
少年が幾ら操縦桿を動かそうが、ペダルを踏もうが”マハラレル”はびくともしない。
「そんな……!! くそぅっ!!」
少年は自分が動かせる代物ではないのだと悟り、屈辱に染まった表情を浮かべながらコックピットを飛び出した。
危ない危ない。ブレるところだった。
いけないな。信念を揺るがしては転生した甲斐がないというもの。
この機体の信念は、決して歪まない。
可愛い女の子に乗ってもらう。それさえ果たせれば、もうどうなってもいい。
そう、強く願った”レギオン・マハラレル”から、不気味な光が放たれていることに、誰も気がつくことはなかった。
◇
「何が起こっている……?」
護衛として派遣された”人類連邦”軍所属の、レナ・アンタレスは待機所で何かに感づいた。
彼女はとても軍人には似つかわしくない、絶世の美人であった。しかも、年はまだ二十歳になって間もない。
ウェーブのかかった人形のような金髪、精巧なガラス細工を思わせる面立ち。
連邦軍の白い襟詰めの軍服は、彼女の清廉さに拍車をかけていた。
「アンタレス少佐!! 敵襲です!!」
「敵襲だと……」
部屋に飛び込んできた軍人の言葉に、レナは相変わらずの違和感を覚えた。
国際平和を貫こうとする世界で、敵などいていいものなのか、と。
しかし彼女も心まで軍人だ。
敵襲とあらば出撃しなければならない。
格納庫へ向かったレナ。
パイロットスーツを着用する暇などなく、彼女は自らの機体に乗り込む。
格納庫に立ち並ぶは量産機の”サーペイン”。
青い装甲と天界の騎士を思わせる清廉たるデザイン、兜から覗く一つ目を彷彿とさせる頭部が特徴的だ。
彼女の機体は――どういう訳か、派手に目立つ赤色に塗り替えられている。
「出力正常――システム異常なし」
レナはコックピットに着くやいなやOSを起動。発進シーケンスを速やかに完了させた。
「レナ・アンタレス、”サーペイン”出る!」
紅い”サーペイン”のモノアイに、緑色の火が灯る。
展開されたスパークドライヴの高速スピン、スラスターユニットから燃え上がる蒼炎が、十八メートルもある鉄の巨体を軽々と前進させた。
その紅い”サーペイン”の武装は、セミオートのアサルトライフル、コンバットナイフ、そして対拠点攻略を目的とした単発ミサイルランチャーのみ。一般の量産型とはかなり異なる武装構成だった。
「例の新型は出られないのか……? 何のために造ったと言うのだ」
現状に苦言を呈しながら、生半可な人間ならばGで押し潰されそうになるコックピットで”サーペイン”を繰る。
そんな中、光学センサが敵機を捕捉し、彼女が凝視していたメインモニターに投影される。
おそらくは廃棄パーツか何かで組み立てたジャンク品同様の”サーペイン”。ゴミ箱を彷彿とさせるくすんだ青色に塗り替えられており、出力低下を意味する赤のモノアイになっていた。
「一つ!!」
敵機は先手を仕掛けてきたが、彼女の”サーペイン”は攻撃された時には既に回避していた。
敵の死角からアサルトライフルを連射し、パイロットの乗っているであろうコックピットを的確に射ぬく。
バッテリーが誘発されず、機体だけがその場に倒れた。
「さて、次は――」
鉛玉が飛び交う戦場に差し掛かった時、彼女の機体に異変が起こる。
突如としてメインモニターにノイズがかかったかと思えば、コックピットが暗黒に包まれた。
「――パワーダウン……!? なぜ……」
出撃前に異常など何も無かったし、先の戦闘で被弾したわけでもない。
ちっ、と舌打ちをしながら、渋々予備カメラを点灯させ、周囲の状況を素早く確認する。
「……!! あれは!!」
そんな彼女の目に入ったのは、一機のゲイズチェイサ。
鉄の台車に寝そべり、コックピットハッチを開きっぱなしにされたその姿は、まさに新品同様だった。
動かなくなった愛機を躊躇なく乗り捨て、彼女は地上に降りる。
焦燥に駆られながらその機体へと駆け寄り、台車に設けられた梯子を登った。
その機体は――異質だった。
まず目に入るはヒロイックなデザインだろう。緑、赤、白と子供が喜びそうな配色のスリムなボディ。そして、頭部はヒーローを彷彿とさせる一対のアンテナと、鋭いツインアイを有している。
「……動いてもらわなければ困る」
そうつぶやき、彼女はその機体――”レギオン・マラハエル”のコックピットに飛び乗るのであった。