傀儡のナハラース   作:魔法使(えな)い

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思いついて即書き失礼。続きは何一つ考えてはいない。

※6月21日追記
話を大幅に修正しました。
書き直してて思ったのが、情報が不明な部分が多くて結構困っちゃうです。


迷宮の遺品

 

勇者ヒンメルの死から二十九年後。

 

 

 

 迷宮(ダンジョン)零落(れいらく)王墓(おうぼ)

 

 一級魔法使いの資格を得るための第二次試験。その内容は難攻不落と言われた迷宮、零落の王墓の最深部への到達だった。

 受験者らは皆、その最深部を目指して各々のルートを開拓していく。そうして辿り着いた最深部である宝物庫を前に、立ち往生する羽目になっていた。

 

 宝物庫の扉を守るように立ち塞るのは、迷宮の主“水鏡の悪魔(シュピーゲル)”が生み出した魔法使いフリーレンの複製体。間違いなく、この迷宮内に於ける最大にして最強の敵だった。

 

 最深部を目前に、広間へ集まった受験者らは協力して迷宮を攻略することにした。その作戦の要である複製体の討伐をフリーレンとフェルンが担うことになったのだが。

 

 

「よくやった、フェルン。あれを見せるほど追い詰められたのは八○年振りかな」

 

 

 フェルンが複製体の隙を作り、その隙を付いてフリーレンが複製体を撃破。複製体が施していた宝物庫の扉の封印も無事に解かれた。

 

 

「それじゃあ、終わらせようか」

 

 

 宝物庫の中央に水鏡の悪魔(シュピーゲル)が鎮座している。複製体は強力だが、本体は脆弱な魔物だ。フリーレンは杖を構え、即座に撃ち抜いた──筈だった。

 

 

「本当に、お前達は何処にでも湧いて出てくる」

 

 

 巻き上がった粉塵が晴れると、水鏡の悪魔(シュピーゲル)を守るように、角の生えた“人型の魔物”が防御魔法を展開し攻撃を防いでいた。

 

 

「魔族……」

「の、複製体だね」

 

 

 フリーレンは水鏡の悪魔(シュピーゲル)目掛けて“一般攻撃魔法(ゾルトラーク)”を放つ。が、魔族の複製体によって容易に防がれてしまった。

 

 

「魔族が防御魔法を……」

 

 

 フェルンが驚くのも無理はない。

 

 ()腐敗(ふはい)賢老(けんろう)クヴァールがそうだったように、魔族はその長い生涯の中で一つの魔法の研究に生涯を捧げる。

 

 そんな魔族が人間の生み出した防御魔法を使うのか。もしくは防御魔法(これ)こそがこの魔族の研鑽した魔法なのか。今のところ判別はつかない。それに。

 

 

「まさか、この迷宮(ダンジョン)内に魔族がいたなんてね。魔力探知に引っ掛からなかった所を見るに、何処かに隠れていたのかな」

 

 

 迷宮に入ってから複製体を見るまで、この魔族の魔力を誰一人として探知出来ていない。

 

 

「魔族が何の為に……」

「さあ。あいつらの考えることはわからないよ。でもきっと、碌でもないことなんだろうね」

 

 

 その狡猾さも去ることながら、目的が不明だ。目の前にいる複製体を叩きのめしたところで答えは得られるものではないだろう。

 

 とは言え早いところ駆除した方が賢明だと、フリーレンは杖を魔族の複製体へ向ける。

 

 

「魔力探知と言えば、フェルン」

「はい。倒された筈の複製体が復活していますね」

 

 

 フリーレンの複製体との挟み撃ちにならぬよう、その他の複製体の足止めを任せていた他の受験者達。彼らが一度倒した筈の複製体の魔力がまた復活している。

 

 

「どうやらあまり時間は無いみたい」

 

 

 間違いなく現状に於ける最悪の場合(ケース)はフリーレンの複製体が復活することだ。水鏡の悪魔(シュピーゲル)もそれを狙っているのだろう。復活までのインターバルは不明だが、時間を掛けるのは得策ではない。

 

 

「それにしても不気味です。この魔族の複製体、攻撃をする素振りを見せません。フリーレン様の複製体が復活するまでの時間稼ぎだとして、本人を完璧なまでに模した複製体です。魔族が防御のみの戦いをするなんて……」

 

 

 そんなことあり得るのだろうか。

 

 それは魔族にとって、誇りを捨てる行為そのもの。仮に魔法が防御に特化したものであろうと、積み重ねた鍛錬を経て攻撃手段を編み出せるだけの技量を奴らは持っている。

 

 

「そうだね。実に魔族らしくない」

 

 

 フェルンの疑問にフリーレンも同じ見解だった。

 

 フリーレンがこれまで戦ってきた魔族達は、自分が魔法使いだとわかるや否や堂々と勝負を仕掛けてきた。それは魔法への誇りを持っているからだ。要するにクソみたいな驕りと油断。だからその隙を付いてフリーレンは数多の魔族を葬ってきた。

 

 

 この魔族には、自らの魔法に対する自信と信頼がない。

 

 

「こういう奴が一番厄介なんだよね」

 

 

 フリーレンは再び杖を構えて“一般攻撃魔法(ゾルトラーク)”を放つ。威力は先ほどよりも高く、発射の速度も格段に上がっている。それに対して魔族の複製体はドーム型に防御魔法を展開し、その悉くを防いでみせた。

 

 

 ここで驚くべき点が二つ。

 

 

 一つは、魔族の複製体が防御魔法を全面に展開したこと。

 

 防御魔法は基本的に、着弾の瞬間に部分的に展開する。理由は単純であり、魔力の消耗が激しいからだ。

 

 だがこの魔族の複製体はそれをしない。と言うよりは出来ないのだろう。

 

 防御魔法は“人間を殺す魔法(ゾルトラーク)”の対処法として生まれた比較的新しい魔法だ。人類史に登場してから日は浅い。つまりこの魔族には防御魔法を完璧に扱うだけの技量がないということ。

 

 

 そしてもう一つ。

 

 その事実から察するに、この魔族が()()()()()()()()()()()()()と考えるべきだ。

 

 

「本当に厄介な相手だ」

 

 

 これは参ったな、とフリーレンは素直に思った。自身の複製体が倒された上での保険として、水鏡の悪魔(シュピーゲル)が忍ばせていたことも納得できる。

 

 

「フリーレン様」

 

 

 打開策を考えていたフリーレンに、傍観に徹していたフェルンが呼び掛けた。

 

 簡単な話、フェルンの一般攻撃魔法(ゾルトラーク)の発射速度であれば、防御魔法を展開する前に魔族の複製体も水鏡の悪魔(シュピーゲル)も貫くことが可能だ。

 

 しかし、今のフェルンはフリーレンの複製体との戦闘で杖が壊れてしまった為、思うように魔法を使えない。だからフリーレンが魔族の複製体に攻撃を仕掛けている間は、ずっとその様子を観察しているしかなかった。

 

 だがそのお陰でフェルンは、フリーレンでさえ気がつかなかった現状を打破するだけの一手を思いついていた。

 

 

「その顔は、何か思いついたみたいだね」

「はい」

 

 

 フリーレンの問いにフェルンは力強く頷く。

 自分よりもずっと背の小さかった少女が、これほどまでに逞しくなっていたとは。弟子の成長を嬉しく思いながら、フリーレンはフェルンの言葉に耳を傾けた。

 

 

「あの魔族の防御魔法には、致命的な弱点があります」

「……発動の際に魔力探知が途切れる?」

「それはフリーレン様だけです」

 

 

 弟子の厳しい一言にフリーレンはしょぼんとなった。いつか師弟の立場が逆転してそうで怖い。

 そんな様子のフリーレンを放って、フェルンは一度呼吸を整える。

 

 ──この戦いは、自分に掛かっている。

 

 

「フリーレン様は攻撃を続けてください。その間に、私がなんとかしてみせます」

「ふーん。そっか、わかった」

 

 

 作戦とも言えない杜撰な指示を、フリーレンは二つ返事で了承した。

 その即答に驚いたのはフェルンである。

 

 

「自分で言うのも何ですが、詳しい作戦を聞かなくても良いんですか?」

「フェルンは私に伝えない方が良いと判断したんでしょ。なら、それでいい」

 

 

 それに、とフリーレンはフェルンを見つめる。

 

 

「確かに、私はフェルンをなめていると言った。でも同時に、私はフェルンを信じているんだよ」

 

 

 その言葉に、いつだったか育ての親であるハイターに訊ねたことをフェルンは思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハイター様はどうやって連携を取っていたのですか?』

 

 

 ハイター様がベッドの上で過ごすようになってから数年。私はフリーレン様が留守にしている間に、ハイター様に訊ねました。

 

 

『不安ですか。彼女との旅は』

 

 

 たった一言で私の心情を汲み取ったのでしょう。ハイター様は優しい双眸を向けて、しわしわになった手で私の頭を撫でました。

 

 

『……はい。連携の取れない冒険者は、戦闘に於いて隙が生まれます。その隙が命取りになると、ハイター様から教わりました』

『そうですね。基本的に冒険者は数人でパーティーを組みます。前衛後衛どちらかが欠けては旅路は困難を極めますし、一人だと対処出来るものも限界がありますから』

 

 

 ハイター様は懐かしむように、此処ではない何処か遠くを見つめた。

 

 

『私達も、最初は上手く連携を取れませんでした。と言うよりも、彼女は独りよがりの戦い方をしていました』

 

『でも私達は諦めなかった。信じて彼女に歩み寄り続けた。するといつからか、言葉を交わさずともスムーズに連携を取れるようになったのです』

 

『気がつけば彼女もまた、私達に歩み寄ってくれていたのです』

 

 

 その瞳が、再び私を見つめる。

 

 

『共に旅を続けていれば、意見が食い違い、仲違いもするでしょう。でもそうした事の積み重ねを経て、お互いの事を深く理解できます。何も言わずとも、何も語らずとも、お互いの考えていることがわかるようになる』

 

『あなたは幸運です。今の彼女はきっと、初めからあなたに歩み寄ってくれる。私達が出会った頃とは大違いだ』

 

 

 はっはっは、と笑うハイター様に釣られて、私も笑みが溢れました。

 

 

『あなたも彼女を信じて、歩み寄ってあげてくださいね』

『はい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリーレンが魔族の複製体へ夥しい量の攻撃を浴びせ続ける。それを魔族の複製体は、防御魔法を全面に展開し続けることで防いでいた。

 

 

「まさか、人類の防御魔法よりも遥かに燃費が良いとはね」

 

 

 この魔族の魔力量は決して少ないわけではない。だが防御魔法を全面に展開し続け魔力切れを起こさないのは、もはや同じ防御魔法とは思えなかった。

 

 

「でも、お陰で理解できたよ。フェルンの狙いはこれだったか」

 

 

 フリーレンの魔法により粉塵が巻き上がる最中、フェルンが魔族の複製体の背後から姿を現す。魔力を消して潜んでいたのだろう。魔族がその姿を認識した時にはもう、フェルンは手を翳していた。

 

 

「“魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)”」

 

 

 杖がない状態で放たれた一撃は、速度も威力も下がっている。先程までなら防がれていたであろう一撃。だがフェルンの魔法に魔族の複製体は防御魔法の展開が間に合わず、水鏡の悪魔(シュピーゲル)諸共その心臓を穿った。

 

 

「今度こそ終わりかな」

 

 

 水鏡の悪魔(シュピーゲル)は粉々に砕け、迷宮内にあった他の複製体の魔力ももう感じない。紛れもなく、二人の勝利だった。

 

 

 フェルンが魔族の魔族の複製体の心臓を貫けたのは、至極単純なこと。

 

 ()()()()()()()()()()だったからだ。

 

 魔法使いはただでさえ近接戦に弱い生き物だ。魔法使い同士の戦いとなれば必然的に、互いが間合いを確保する。

 

 あの魔族は防御魔法を使用する際、()()()()()()()()()()()()防御魔法を展開していた。それは魔力探知で魔法の発動を感知し、反射的に防御魔法を展開する現代の戦いにはそぐわない手法だ。

 

 何故そのように防御魔法を使うのか、理由は不明だ。しかしあの魔族にとって、至近距離で放たれる魔法は防御魔法が間に合わず、不可避であるということだけは確かだった。

 

 

「信じてたよ、フェルン」

「……はい、フリーレン様」

 

 

 魔力切れで仰向けに倒れそうになったフェルンを、フリーレンは魔法で受け止め腕の中に収める。魔法を撃った際に使ったフェルンの右手は少し焼け爛れていて、勝利の代償は安くはなかったことがわかる。

 

 

「その手は後で治してもらおう」

「はい」

 

 

 応急処置として、フリーレンは包帯を取り出してぐるぐると巻いていく。されるがままに、フェルンは一つ疑問を浮かべた。

 

 

「そういえば、魔族本人は何処にいるのでしょうか」

 

 

 倒した魔族はあくまで複製体だ。本人はまだ存在する。フェルンの懸念は尤もだ。

 

 

「あの魔族は魔族の中でもかなり狡猾な奴だ。最後の最後まで、防御魔法しか使わなかった」

 

 

 フェルンの問いに、フリーレンは冷静に分析する。

 確かに、あの魔族は対魔法使い戦に於いて最も面倒な相手だ。至近距離まで近づけなければ、魔力が切れるまで防御魔法を展開され続ける。その戦い方は、魔族らしくない。

 

 まるで私達に手の内を晒したくないみたいだ。

 

 

「……そんな奴がこれだけ魔法使いのいる迷宮に、まだ残っていると思う?」

「……思いません」

 

 

 複製体の足止めを任せていた他の受験者達は、皆複製体が消えたことでこちらに向かって来ている。仮に魔族がこの場に現れたとて、実力者達がこんなにもいるのだ。その際にはずっと傍観を決め込んでいる試験官であるゼンゼにも一仕事してもらおう。

 

 今度こそ安心だ、と一息ついたフェルンの視界に、ある物が映り込んだ。

 

 

「あ、宝箱……」

 

 

 思わず呟いてしまって、すぐに後悔した。

 

 先ほどまで包帯を巻いてくれていた師の姿は、いつのまにか宝箱へと向かう後ろ姿になっている。

 

 

「ま、待ってくださいフリーレン様!それ絶対ミミックです!」

「フェルン、私は思うんだ。これだけの努力を経て辿り着いた先にある物は、きっととても素晴らしい物なんだって」

 

 

 何を言ってるんだこの人は。フェルンは本気でそう思った。

 

 

「フリーレン様、“宝箱を判別する魔法(ミークハイト)”で結果は見えてますよね」

「でも、今回こそは一パーセントを引ける気がする」

「一体どこからそんな自信が湧いてくるんですか」

「私は開けないことで後悔したくないんだ」

 

 

 呆れた目を向ける弟子の制止を振り切り、フリーレンは宝箱を開けてしまった。

 またいつもの惨状が広がる。

 フェルンの経験から基づく予想は、しかして裏切られることとなった。

 

 

「ほらね。そんな気がしたんだ」

「嘘……」

 

 

 いつもなら下半身だけ出して「暗いよー!怖いよー!」と叫ぶフリーレンが、得意気に鼻を鳴らす。そのしたり顔にフェルンはちょっとだけ苛立った。

 

 

「それで、何が入ってたんですか」

 

 

 フェルンの問いにフリーレンはフフフ、と不敵な笑みを浮かべて宝箱の中を覗かせた。

 

 

「それは……ゴーレム、ですか?」

「うん。それも、かなり精巧に作り込まれている。まるで生きている人間そのものだ」

 

 

 宝箱の中に入っていたのは土人形(ゴーレム)だった。

 

 腰まで伸びたしなやかな髪に、血色の良い白い肌。見た目は完璧と言える程に人間を模しており、その生々しさは伝わる筈のない体温さえ感じさせる。

 

 

「恐らく統一帝国時代に作られた物だろうね。軍用では無さそうだけど、何の用途で作られたかまではわからない。魔法全盛期とは言え、ここまで人間に寄せて作るにはかなりの技術が必要だった筈だ」

 

 

 それ程までに希少な代物を見つけて、フリーレンはご満悦だった。やっぱり宝箱を開けて正解だったと、これからも自制することなく九十九パーセントミミックの宝箱を開けるくらいには喜んでいた。

 

 

「それにしても、本当に良く出来てますね」

 

 

 これからの旅に不安を覚えつつも、フェルンはその出来に感心していた。このゴーレムを作るために、どれだけの時間と労力を捧げたのだろう。一つだけ言えることがあるとすれば、製作者は間違いなく変わり者だ。

 

 

「本当に、人間みたいですね……」

「そうだね。まるで……まるで………」

 

 

 フェルンの呟きに同調していたフリーレンだったが、途中で言葉が途切れてしまう。

 

 

「フリーレン様?」

「……いや、なんでもない」

 

 

 その様子を怪訝に思ったフェルンはフリーレンの顔を窺う。伏せられた目は何かを懐かしむような、慈しむような、そんな感情が見て取れる。

 さりとて突っ込むことは出来なかった。本人がなんでもないと言ったのだ。触れるのは野暮だろう。

 

 

「とりあえず……フェルン」

「はい」

「これ運んでくれない?」

「え、嫌です」

 

 

 先ほどまで哀愁を漂わせていた師匠の頼みを、弟子はキッパリと突っぱねた。

 




フリーレンに登場する魔法の中では、服が透けて見える魔法とガチャで爆死した記憶を消す魔法が好きです。
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