「帝国歴881年。三日月戦争にて、」
かっかっとチョークの音と、説法のような解説はシェズの右から左へ流れていく。昨夜、遅くまで起きていたこともあってもう我慢の限界であった。
一瞬、心地よい感覚に沈んだと思うと、はっと目が覚める。また心地いい感覚。
こっくりこっくりとシェズは船を漕ぐ。
もう、ダメだ……
また寝てる……
今月に、急遽編入した紫色の髪をした男の子は今日、5度目の居眠りを始めた。寝息も聞こえてきた。リシテアはうっとうし気に横目でシェズという隣の席の編入生をにらみつける。のんきによだれを垂らしている。
はぁ……気が散る。
リシテアはすこし腰を浮かせて足を隣席へのばしこっそりと椅子を蹴ったが起きない。ちょっとは良いところがあると思ったのに……と先日行われた学級交流戦で見せたシェズの活躍を思い出す。そこで柄でもなくかっこいいなと思った自分を戒める。
この学校伝統の鷲獅子戦の模擬戦を兼ねた三学級交流戦では、シェズが入る前まではヒルシュクラッセはずっと最下位を記録し続けていた。しかし先月末に行われた交流戦では、なんと初めて最下位を脱し二位になった。残念ながら一位は、シェズと同時期に教師に任命されたベレス率いるアドラークラッセだった。それでも私達でも出来るという自信がつきクラスが活気づいたのは彼のおかげだった。
「……ぐぅ」
「はぁ……」
どうしようか。シェズは一番後ろの窓際の席なので隣の席は私しかいない。消す用のパンをちぎってカスを投げる。効果なし……。
ぐぅ、ぐぅと寝息が大きくなる。本格的に眠っている。イライラがたまる。ただでさえ歴史の授業は聞き漏らすと前後の出来事がなぜ起きたのかがわからなくなる上に、その出来事はは意味を持たない文字列と化し頭に入らなくなってしまう。
「……であるからして、」
と話を止めたハンネマンの視線が居眠りをするシェズへ。急に黙り込んだハンネマンの視線を後追いするようにクラス全員の眼がシェズに集まった。
「……シェズくん、シェズくーん?」と声をかける生徒もいたが、彼女の声はどうやら届かなかったらしい。
「おほん」とハンネマンが大きめの咳ばらいをするが効果なし。
彼の眉間に皺が寄る。クラス全員が緊迫した空気をまとう。
「うぉほん!シェズ君、シェズ君!おきたまえ!」
「うおっ!?なんだ敵襲か!?」
立ち上がってファイティングポーズをとる寝ぼけたシェズ。教室内がどっと笑い声がおこる。私も笑いがこらえきれない。
「くっくっくっ……」
「居眠りをするなら、寮へ帰り給え。そこなら敵襲の心配もあるまい」
耳を赤くしてシェズは座った。いい気味だ!
『盛大に笑われてしまったね』
うるせぇ
シェズは頭の中の声の主(ラルヴァ)に向かって心の中で怒鳴る。昨日の日曜日に寝つくのがおそくなったせいだ。
シェズは傭兵稼業を営んでいるが、学校の生徒になった今は、放課後、ガルグマクの街で傭兵の仕事をしている。まぁ引っ越しの手伝いとか犬の散歩とか実態は何でも屋だが……。
聖歌隊を志すある商家の娘の稽古の送り迎えの用心棒をしている。最近、ガルグマクでは夜間に強盗が出るらしい。心配した娘の父親は近所とはいえ傭兵であるシェズを雇った。昨夜は稽古に熱が入っていたのか、終わるのは日付が変わる直前だった。彼女を無事家まで送り届けてから、修道院に帰って寝たがおよそ一時頃だろう。学生の朝は早く七時に起床しなくてはならない。一日だけならともかく、ここ一週間はこんな調子なので睡眠負債が溜まってしまったせいだろう。
ちょっとは起こしてくれてもいいだろうと隣の席の少女、リシテアに逆恨みの視線を送る。すると彼女もそれに気づいたのかべーっと舌を出してきた。さっきかいた恥のせいですこしイラっとしてしまう。この少女は俺を毛嫌いしている。そう思うのは気のせいではない。
「それでは、資料集の地図を見ていただこう」
とハンネマンが指示を出す。
あっ。
寮に歴史の資料集を忘れてきてしまった。寝不足のせいだ。さすがに持っているふりをし続けようと思ったが、シェズは小テストに落ちまくっている。このままでは落第。そうなるとまた来年、年下の生徒と並んで授業を受けることになる。それは避けたい。
「……な、すまん見せてくれ」
と小声で銀髪の少女に声をかける。
「……」
「頼むよ、この通り」と手を合わせる。
「……?」
とぼけたように耳に手を添えるリシテア。
こいつわざと聞こえないふりしてやがるな。なんて底意地の悪いガキだ。仕方ない。
「あとでお菓子やるから……」
彼女はお菓子に目がないと風の噂で聞いていた。
「ふんっ」
ぷいっと首を振られてしまった。
とうとうシェズはあきらめた。そして彼女がこういう態度をとる原因となったある夜のことをシェズは思い出し始める。
件の稽古の送迎の帰り道。すっかり寝静まったガルグマク修道院に帰ったのはおよそ夜十一時ごろだろう。寮への道を歩いていた時、うっすら白い影が遠くに映った。
「うおっ!?」
思わず声を出して驚いてしまったが、よくみると足がある。
『あれは、同級生の女の子じゃなかったかな。たしか名前はリシテア=フォン=コーデリア』
「よく覚えてんじゃねえか」
『まぁね。彼女はどこか、どこか雰囲気が僕たちと似ている気がして……。うーん…うまく説明できないけど……』
ラルヴァが独りブツブツと思索に耽る。
しかしこんな夜になぜ一人で出歩いているのだろう。せっかくなので声をかけることにした。ゆっくりとシェズは彼女の後を追う。
「よぉ、リシテアこんな時間に、」
どうしたんだと言い終わる前に、
「ぎゃああぁああああお化けぇええええ…………きゅぅ」
つんざくような悲鳴を上げた後、リシテアはばたりと、石畳の上に倒れてしまった。
「おい!おい!しっかりしろ!おい!……だめだ……気を失ってる」
『傍から見ると君が気絶した彼女を襲っているみたいだね』
「おい、誰が夜盗だ」
だが確かにそのとおりである。シェズは仕事帰りなので制服ではなく傭兵の時の服装。誰かが通りがかれば、生徒を手籠めにしている夜盗と誤解されてもおかしくはない。
「しかたねぇな……よっ……って軽っ?!ちゃんと飯食ってんのかこいつ」
制服越しに伝わる彼女の体の感触は骨ばっていて、女性の柔らかさが一切感じられない。戦場で用いる土嚢よりも軽いかもしれない。いや、それは言いすぎか。
俵担ぎで気絶した彼女を左肩にのせた。
というかこの時間に彼女はなぜうろついていたのだろうと思いながらヒルシュクラッセの寮へ。
「こいつの部屋は……ここか?」
部屋の扉の前の表札を確認する。コーデリアと書かれているから間違いないだろう。
鍵がかかっているかと思ったが、空いていた。
「不用心だなー」
『ちょっとした用ですぐに帰るつもりだったんだろうね』
「何の用だよ」
『さぁ?僕が知るはずないだろう』
だが部屋は明かりが消えていた。彼女の人柄が垣間見える。ゆっくりと部屋の中へ。なんだか悪いことをしている気分になる。
靴を律儀に脱いで、闇へと体を入れていく。
「うおっ?!」
足元に何か置いてあったらしい。それのせいで姿勢を崩してしまう。何とか体勢を立て直そうとするが、一歩進んだ席にも物があった。
バタンっと二人は倒れてしまう。
幸い、倒れる寸前に彼女の頭を抱きかかえるようにしてシェズが倒れたので腕の中のリシテアはどこにもぶつからなかっただろう。
「いててて、なんだよもう。ってこれ本か?」
床には分厚い本が山のように積み重なっていて足の踏み場がない。
「……っ!?」
「あ」
腕の中の彼女が目覚めた。彼女は目をむいて口をゆっくりとあけて
「きゃああっむぐっ?!」
間一髪シェズの手の方が早かった。悲鳴をあげられて誰か来たらもう、弁明できない。
「むぅっ!んうっ!むーっ!」
鳴きながら手のひら越しに叫ぶ彼女。手が熱く、ぬめる。
「落ち着け!落ち着け!どうどうどう!」
「んー……ん?!んむむむ?」
『えーとあんたは、って言ってるみたいだよ?』
ラルヴァが言う。
「俺の事覚えてないか?お前の隣の席の」
するとじーっと目を細めたシェズの顔を見るリシテアは、思い出してくれたらしい。
「んっ!んっ!」
「わかったわかったって言ってるよな?そうクラスメイトの俺」
「んむむ、むむむ、んんむむむむむ?」
「なんで、あんたが、ここにいるって?ほら、気絶する前のこと覚えてないか?」
「んーっ!」
「あーっ、思い出してくれたか。そう、お前が道で気絶してたところを俺が拾って寮まで送り届けたってわけ。OK?」
「んっんっ!」
「うんうんってことだな?よし、手を離すぞ。叫ぶなよ?」
「きゃーっ!だれかっ…んぐ?!」
「ぜんぜんわかってねえじゃねえか!」
というか翻訳あってねえし。適当言いやがって。
「いいか、もう一度聞くぞ。おれ、シェズわかる?」
「ん、」
「いいか、よーく思い出せよ……おまえは」
と説明を今度は懇切丁寧にする。すると警戒心が薄れたのか先ほどより表情の険しさがなくなったように感じる。
今度こそ、と思い手をはなすと
「ぷはっ、あー死ぬかと思った」
「……はぁ疲れた」
「あんたの事一応信じてあげます。そういえば服も、髪も乱れてないし」
耳を赤くしながらリシテアは服に着いたほこりをぱんぱんと払い落す。
「子どもに手をだすわけないだろ……」とシェズは不機嫌に吐き捨て、ぬめりがついた左手をズボンで拭く。
「はぁーっ誰が子供ですって?!」
きっとシェズをにらみつける。
「しーっ声がでけぇんだよ」
「もう一度言ってみなさい!私のどこが子供ですか!」
「しーっ、わかった、わかったリシテア嬢、だから静かにしてくれ頼む!」
声が漏れて、見回りが来たら今度こそ言い訳できない。明らかに俺が夜這いをかけているように思われる。仕方がないのでそそくさと背中を向け出口へ逃れようとすると
「待ちなさい!待て!誰か、誰か―っ!」
「わかった、わかった俺が悪かっただから大声だけはやめてくれリシテア様」
だが彼女の神経を逆なでしたらしかった。
「イラっと来ますねその言い方。いいでしょう、子供じゃない証拠を見せましょう!」
「おうみせてくれ」
こうなったら、さっさと彼女の怒りを鎮めた方がいいかと考えた。シェズは床に胡坐で座った。彼女はゆっくりと立ち上がると、部屋に灯がともる。短いろうそくから見るに、普段から夜間も勉強しているようだ。
「い、いきますよ……」
おもむろに彼女は黒の上着を脱いだ。火が揺れる。リシテアは白いブラウス姿で薄い胸を張った。薄闇が彼女を大胆にさせているらしかった。ふわりと洗剤の香り。
「ど、どうですか。ちょっとは私だって……その、あるでしょう?」
「……」
どう見たってないだろう。というかそれふくらみか?てかなんで脱いだ?シャツ越しじゃわからん。
「な、何か言ってくださいよ!お、おれいのつもりでとくべつにごにょごにょごにょ……」
最後の方は聞き取れなかったが、礼か。
「おう、……おう」
「なんかいえーっ!」
と顔を真っ赤にしたリシテアが爪でシェズの顔に赤筋を作った。そのあとぎゃあぎゃあと騒ぐ彼女をなだめるのに大変だった。今夜見回りの人がさぼって?くれていて本当に良かった。
同時刻、アドラステア帝国寮。
「せ、先生?こんな時間にどうしたの?」
「夜這いに」
「へっ!?」
ということがあったのである。更に、俺が仕事で娘の送迎のために後をつけているところを誰かに見られすっかり俺は色情魔のような噂が立ってしまった。彼女の爪痕が顔に残っていたせいもあってその裏付けになってしまった。本当は全く違うのに……。
今夜も娘の送迎の仕事がある。
重い腰を上げ着替えてガルグマク修道院を出て街へ。
石畳の道を歩き、商家の屋敷の前に立つと
「あ、シェズさん」
「よう」
屋敷の門の前で護衛対象の娘と侍従が立っていた。ちょうど時間通りだ。
「えへへ、今日もお願いします。」
と娘はシェズの隣に寄った。二人は音楽教師がいる教会へ並んで歩く。門の前に立つと
「中でお待ちになります?」
「いや、また時間になったら来る」
そういって通りに出る。さて、終わるまで街をぶらぶらするか。よい香りがする方へシェズは歩き出す。
噂は本当だった……。
あの晩のことをリシテアは反省していた。部屋まで運んでくれたことを、ちゃんと礼をしようと思い声を掛けようと放課後に機会をうかがっていた。しかし彼はどこか向かうので仕方なく彼の後をつけていたのだが……。シェズと茶髪の女の子。二人が並んで歩く姿を見てしまった。
ずきっとなぜか胸が苦しくなった。楽し気に何かを話しているらしい二人。
私よりも背が高くてずっと大人びている……。
しゅんとしたまま帰ろうかと思ったが、身が入らないだろう。街には有名な菓子屋がある。リシテアは踵を返した。
菓子屋の帰り。
「あ」
「お」
シェズとばったり会ってしまった。
あの晩と今日の事もあって通り過ぎようとしたが
「おいリシテア、待てよ」
「なんですか?」
ぶっきらぼうに応える。
「何持ってんだ?お、菓子か俺にもくれよ」
「嫌です、自分で買ったらどうです?」
「けちだなー」
「それじゃ、あの子と仲良くよろしくやったらどうです?」
「は?おい待てよ」
がしっと肩を掴まれる。
「は、はなして」
「あ、悪い」
シェズはポリポリと頭を掻いた後、
「な、悪かったよ……これ」
と髪飾りと紙袋を差し出された。ぞわりと悪寒が走った。
「……何のつもりです?」
「すまん、怒ってるだろ?」
「はぁ?怒ってませんけど?……そうやってほかの女の子も口説いてるんですか?」
「は?おまえ、なんか勘違いしてねーか?」
「あれが、新しい彼女さんですか?そういえば、昨日は違う女性と歩いていたみたいですね?」
「あれはまた違う依頼で……引っ越しの礼で飯をごちそうになった帰りで……」
「そういって私が子供だからって煙にまいて!」
あの夜、あんたは私を抱きしめたのに。自分でもわからなかった。別に恋人同士でもなかったのに。不可抗力なのに。なぜかあの夜のことが思い出される。逞しい腕に包まれたときの感触が。勝手に惚れておいて彼女面した自分が憎い。そもそも彼と私はただのクラスメイトなのだ。ただの……。
「ふんっ、もう言い訳は聞きたくありません」
リシテアは修道院の方へ足を向ける。しかし彼は追ってこなかった。春風が山から花粉を運んだせいだろうか。鼻がツーンとした。
「すみません、待ちました?」
「いや」
燭台をもったままシェズは娘と並び帰路に着く。
「それで、どうなりました?」
リシテアの件である。あの晩から決定的に嫌われてしまったことを彼女に相談したのだ。おなじ女性の彼女なら、女性が喜びそうなものがわかると思ったのだ。そこで彼女の好物と髪飾りを買ったのだ。
「これから一年間同じ教室で過ごさなきゃならねぇし……それにあいつの力がなければ鷲獅子戦は勝てない」
拳に力が入る。彼女との連携が取れないままでは、あの灰色の悪魔には勝てない。
「シェズさん、シェズさん」
「なんだ?」
娘はシェズの耳に顔を寄せてささやく。
「私達、つけられてませんか?」
考え事をしたせいで不覚を取ってしまった。確かに耳を澄ますと足音が複数。
そして前後に挟まれている。二人は囲まれてしまった。
十人ほどの顔を覆面で隠した男たちが短剣を抜いた。これが街で噂の夜盗たちだろう。
「なんの用だ?」
「逢引の最中すまねぇな兄ちゃん」
後ろから声がかかる。視線を後ろへ向けると、首魁らしい背が異様に高い男が現れた。
「わりぃが金目のもんと嬢ちゃんを渡してくれねぇかな」
ひひひと邪悪な笑いが立ちあがった。娘は心配そうな目をむける。
「大丈夫だ、安心しろ」
そうはいったが状況は最悪だった。まず逃げ場がない上に、同時に前後から仕掛けられたら娘を守り切れない。
くそっどうする?
そう思った時、前方から閃光。まともに喰らった男たちは吹き飛び道の脇で倒れた。
「大丈夫ですか?」
声の主はリシテアだった。
急いで彼女の方へ走り礼を言う。
「すまん、助かった。なぜここに?」
「話すのは後です、きますっ!」
後方から二人が同時にシェズに切りかかる。娘をリシテアの方へ押し付け、鞘から、虚空から剣をそれぞれ抜いて繰り出される剣を受ける。
「なっ」
「こいつ?!」
異形の剣を見た賊たちが声を上げる。
シェズは受け流して反撃をするも、男は素早く身をかわして逃げる。
だがこの隙に
「二人とも走れるかっ?」
「だ、だめ足が……」
娘が腰を抜かしてしまったようだ。
くそっ。全員倒すしかないらしい。
シェズが振り返り、追おうとすると夜盗たちは下がる。しかし娘を依然狙っているのは明確だった。ぬっと隙をみてシェズの腹を狙ってと突きを繰り出してくる。弾き返し、切り返そうとすると、男たちは間合いから離れる。まともに打ち合おうとはしない。
明らかに、シェズが疲弊するのを待っている。
こいつら、ただの夜盗ではない。
すると、足音が遠くから聞こえてくる。どうやら新手らしい。
『君っ!二人を置いて逃げるんだっ!死ぬぞ!』
頭の中でラルヴァが大声で騒ぐ。
夜盗たちは同時に襲ってくる。同士討ちを避けるためか、全員まとめてではなく数人程度で交互に波のように仕掛けてくる。何度目かの打ち合いでようやく、一人、リシテアが後ろから魔法を飛ばすが、闇と男たちの身のこなしのせいで当たらない。
そうして彼らの動きに翻弄され、肩、脚、腕にいくつか傷を負っていた。
「はぁ……っ、はぁ……っちょこまかと」
『いい加減にするんだ!本当に死んでしまうぞ!』
うるせぇ。
なぜかこの状況を愉しむ自分がいた。多分、あいつなら灰色の悪魔ならこの状況を必ず切り抜けているだろう。そんな気がしていた。
この死地を潜り抜ければ俺はアイツに近づける。そんな気がしていたのだ。
だが、血を流しすぎたらしい。足元がふらつく。
その隙を逃さず賊は一気に仕掛けてきた。
避けられない。
その時だった。一陣の風が吹いたかと思うと、風が彼らを切り裂いた。
「そこまでだ」
声の方を見ると、屋根上にずらりと人影が並んでいた。
「お頭っ!?」
「てめぇ、俺が留守の間に、好き勝手しやがってっ!」
月明かりで彼を照らした。
絶世の美人の顔をした青年は灰色の制服を身にまとっている。
「堅気に手をだしやがって……」
「お、お頭、ひ、ひいいぃ」
「死んで償え」
束の間、シェズ達を襲った夜盗は死体になった。
血塗られた剣を懐から出した布で拭きながら、青年はにっと笑いかける。
「すまなかったな。けがしてねぇか?」
青年は治癒の魔法でシェズにかけた。
娘を無事に屋敷に送り届け、リシテアとシェズは修道院へ帰る。
「そういえば、なんであそこにいたんだ?」
「……あんたと別れた後で、屋敷の侍従さんが話してくれたんです。全部。」
「そうか……」
「ごめんなさい。私、あんたのこと誤解してたみたいです」
「俺も、悪かった」
「え?」
「……実はな、お前が倒れた原因。俺なんだ。お前が倒れたところを見つけたんじゃなくて、俺がお前に話しかけたせいで気絶したんだ。」
「……そうですか」
「怒らないのか?」
「……別に、薄々そんな気がしてました。おばけなんているわけないですから」
「……ふっ……そうだな」
次回いつ更新か不明です。なぜか最新作遊ぶと過去作の二次創作したくなる……。