芸能人は名前を売ってなんぼの世界。どんな手を使ってでも自分をテレビ局に売り込み覚えてもらいテレビに出演して人気を獲得しない限り、どれだけ頑張ろうが水の泡になる。
「みんなに希望を与えるアイドルになりたいです」
最初で最後のテレビ出演した時に一緒に出演したアイドルのことを今でも忘れることは出来ない。自分と同い年か一つ年下ぐらいの女の子が、超有名な芸能人たちを目の前にしても、なんとしてでも自分の信念を貫こうとしている姿に惹かれた。俺もあの子のように…なんて今更考えても遅いのは自分が一番理解している。
「それじゃ今までお疲れ様」
「はい、おせわになりました」
事務所もいつまでも売れないアイドルを置いておくわけにはいかない。新しいアイドルを確保してそのアイドルを俺とは違い売れるようにプロデュースする必要があるのだから。
「はぁ…さてただの高校生に戻りますか」
事務所を抜けた今俺はただの高校生、まぁお世辞にも芸能人とも言えなかった俺は元から普通の高校生とほとんど変わらないんだけどね。レッスンとかの時間も無くなったんだから、やっと友達と遊べると思えばいい。
「……悔しいな」
〜〜〜
「瀬海、おはよう」
「おはよう冬弥」
なんで俺みたいなフツメンがアイドルやってて、冬弥みたいなイケメンくんがアイドルをやってないんだろうか。スカウトさんももっと良い人材探してスカウトしてほしいわ、俺みたいなやつに希望を与えるのは地獄だ。
「彰人は?」
「彰人なら…」
「ふわぁ…」
「おはよう彰人」
「おぉ…」
彰人もイケメン、冬弥もイケメン俺は二人の引き立て役か何かなのか?なるほどスカウトさんも俺をイケメン芸能人たちの引き立て役にするためにスカウトしたのか、納得。
「ところで彰人、今日英語のテストだけど」
「…は?今日だっけそれ」
「あぁ、先生が今日だと言ってたな」
「頼む…教えてくれ」
「勿論」
俺なんかが芸能界に足を踏み入れたのが最初から間違いだったんだ。今みたいに友達と喋って笑い合ってる方が俺には合っている。あの子みたいな子しか芸能界では生きていけないと思う。
「そう言えば朝陽、お前どうなんだ?大変だろ?」
「あぁ…辞めたよアイドル」
「「は??」」
「だから辞めたって」
まぁそりゃそうか。今までレッスンがあるから〜って言って遊びやら何やらを全て断っていた奴が芸能界辞めましたなんて言われたら納得できないか。
「なんでだよ」
「おいおいそんな三件になるなよ。元より売れてなかったんだ。あれてないアイドルが一人辞めようが問題ないよ」
そう、名前が売れていてテレビにバンバン映るようなアイドルの電撃引退なら世間的にも有名になるだろうが、俺みたいな奴は新聞にも記載されない。
「お前…」
「ほら授業始まるぞ」
「……あぁ」
彰人も冬弥も優しい奴だ。俺ももう吹っ切れて忘れてかけていたのに心配してくれるなんて…俺そんなに顔に出てたかな?
〜〜〜
いつもなら学校が終わったら家とは真反対の方向に走り出して事務所に向かっていたのに、今ではもう走る必要もないなんてなんで素晴らしいんだ。そうだ今まで出来なかったこと全部しよう。寄り道してゲーセン寄ったり買い食いしたり…
「何からしようかな〜」
いざ自由になればやりたいことが一杯で何から手をつければいいかわからない。世の女子高生はすごいなぁ、ゲーセン寄ったりカフェ行ってパンケーキ食べたりして、俺には難易度が高すぎる。
「あれ、朝陽じゃん!」
「…瑞希と杏?」
「やっほー!今日はレッスン行かないの?」
「……うん、今日は休みなんだ」.
「へー珍しい!そうだ、瑞希!朝陽も連れてこうよ!」
「良いね!ほら行くよ!」
有無を言わさず他強引に手を取られ、向かったのはショッピングモールだった。小さい頃お母さんと一緒に行ったきり来たことが無かったけど、色々と変わっているんだろうな。
「どこ行く!?」
「服見に来たんじゃないの?」
「それはそうだけどさ、後でも行けるでしょ?」
「確かに、ならあそこのクレープ食べようよ!」
「賛成!」
これが女子高生の行動力なのかとびっくりしつつ、後を追う。やりたい、食べたいを優先して行動する力が俺に…いやそんなこと考えるのは辞めよう。今はせっかくのショッピングモールを楽しもう。
「朝陽は何にしたの?」
「おすすめだったイチゴとブルーべりーの奴」
「いいね、後で一口ちょうだい?」
「あ、私にもちょうだい」
「あぁ」
一口とは何だろうと考えさせられながら、クレープを食べた後はアクセサリーショップ、小売店と店全てを回る勢いでモールを歩いた。時刻は18時を超えておりもうすぐで19時になりそうというのに今から服を見に行くらしい。
「ねぇねぇこれどう?」
「…可愛いと思うよ」
「朝陽って可愛いって単語知ってたんだ…」
「怒るぞ」
「あはは!!」
結局帰宅したのは20時を超えており、クタクタになっていた。女子高生の行動力恐るべし。
「ただいま」
「おかえり、ご飯食べるでしょ?」
「うん」
クタクタだし疲れたし汗だくだけど、今日は楽しかったな。初めてクレープを食べて友達と遊んで。楽しかった、多分俺は今日のことを忘れることはないぐらい楽しかったけど、心のどこかに空いてる穴は埋まらなかった。
〜〜〜
引退してから数ヶ月が経った今日、久しぶりにテレビをちゃんと見ていたらそこには俺が惹かれたアイドルが映っていた。だがテレビに映る彼女の表情は前と違い、悲しんだ表情を浮かべている。その原因はデカデカと表示されている、引退の2文字だろう。
「あら、桐谷遥ちゃん引退するのね〜」
「うん…」
あれだけ希望を届けれるアイドルになりたいと思っていた彼女が夢半ばで引退するなんて思ってなかった。俺みたいに売れていないわけでもないし、実力も伴っているのにどうして…いや俺が考えたところで無意味か。彼女には彼女の事情がある。
「アンタが辞めた日と同じ顔してる」
「……」
俺はこんな絶望した表情を浮かべていたのか。だったら尚更なぜ彼女はここまで絶望した表情を浮かべてるのだろう。才能も実力も人気もあったのに突然の電撃引退、俺には理解できない。きっとあのままアイドルを続けていればいずれ、もっと有名になっていただろうに。
「昔共演したことあったでしょ?」
「あるけど喋ったことはないよ」
「あら、同い年なんだからてっきり連絡先ぐらい交換してると思ってたのに」
「売れてないアイドルと?冗談やめてよ母さん」
その日はなぜ引退したのか気になってあまり寝れなかった。今日が休日で本当に良かったと思う。アイドル時代の日課だったランニングをしていると近所の神社で見たことのある人が立っていた。
海のように綺麗な青色の髪、整った顔立ち、そして俺と同じ絶望の顔をしている。桐谷遥だ。
「桐谷遥…」
「…貴方は瀬海さん?」
「ッ!?…あの桐谷遥に名前を覚えられてるなんて光栄です」
まさか一度共演しただけの無名アイドルを覚えてるとは思ってなかった。咄嗟に名前を呼んでしまったから不審者と捉えられてもおかしくないのに。
「一度共演しましたよね」
「えぇ…」
お互いアイドルを引退した身と言えども知名度や引退理由が違いすぎて気まずい空気が流れている。ここで彼女が何をしているか皆目見当もつかないのに。
「……俺もアイドル引退したんですよ、だいぶ前ですけど」
「そうなんですか、お疲れ様でした」
何というかすごいやりずらい、何を喋っても相手にされない感じ?オーラがすごすごて話しかけづらい…
「…良かったら話聞きますよ」
「…いえ大丈夫です」
「じゃあ俺の話を聞いてくださいよ」
「…え?」
「まぁまぁこの神社、登ったらベンチあるんですよ。ジュース奢るんで行きましょ」
ほぼ無理やり、側から見たら誘拐に近いかもしれないが桐谷遥をベンチ座らせることに成功した。まさか俺がこんなことをするなんて誰が予想していた?母さんすら予想不可能だ。
「……」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「ふぅ…俺貴女と共演した時、こんな子がアイドルのトップに立つんだと思いました」
「……」
「あの日、俺は」初めてのテレビ出演ということもありガチガチに緊張していて上手く喋れてなかった。桐谷遥さんも覚えてるでしょ?俺が緊張しすぎて訳分からないこと言ったの」
目の前には何度もテレビで見ていた芸能人たち、横には番組を生で見ている視聴者さんたちが居て緊張がマックスに到達した俺は支離滅裂なことを喋っていた。周りの人たちは笑っていてくれたからこそ救われたが誰も笑ってくれなかったら俺は恥ずかしさで死んでいた。
「…はい」
「そんな時ですよ、貴女が『希望を届けるアイドルになります』って言った時痺れました。俺と同い年の子がこんなこと言い切れるんだと。そこから俺の憧れは貴女でした」
「……でも」
「桐谷遥はアイドルを引退してしまった。確かにもうアイドルとしての桐谷遥は見れないかもしれませんが、俺の心の中のアイドルの桐谷遥は消えることはありません。まぁ俺もアイドルを辞めてしまったんですけどね。何言ってるかわからないと思いますけど、俺が伝えなかったのは貴方がいたから俺は頑張れた、とだけ。それでは失礼します」
逃げるように神社を駆け降りて家に向かって走り出した。女の子一人を置いて逃げるなんて飛んだクソ野郎だと後で気付いたけど、逃げてしまった手前仕方ないだろう。俺はヘタレだったってこと。
それから数ヶ月が経った。もう桐谷遥に出会ったことすらなんて忘れていたある日、動画投稿サイトを眺めていたらある配信が急上昇一位になっていた。
「MOREMORE JUMP?」
動画配信を中心に活動するグループアイドルらしく、かなりの同接数を叩き出している。少し気になったため除くとそこには桐谷遥が映っていた。あの日とは違い楽しそうに笑ってダンスを踊っている。
「またアイドル目指すんだ」
後から映ってきたメンバーの豪華さに驚きを隠せなかったのは秘密。だって仕方ないじゃないか。チアデの日野森雫、キューティの桃井愛莉、後もう一人はわからなかっただけど、こんな豪華メンバーでもう一度アイドルを目指すなんて…
「『何でもう一度アイドルをやろうと思ったの?』だってみんな」
「私と雫はみのりに背中を押されたのが大きいわね」
「そうねぇ…みのりちゃんがいなかったらもう一度アイドルをやろうとは思わなかったわ」
「私は…みのりに背中を押されたのもあるけど一番は、ある人の影響かな」
『ある人?どんな人なの?』
「詳しくは言えないけど、私に大切なことを気づかせてくれた人かな」
何はともあれ楽しそうにアイドルしてるなら良かった。俺が惹かれたアイドルがもう一度見れると分かれば俺も勉強頑張るかな。そっとパソコンを閉じてペンを握った。
〜〜〜
「みんなお疲れ様、今日の配信も良かったと思うわ」
「えぇ、私も楽しかったわ」
「私も楽しかったな!」
瀬海さん、今何をしているんだろう。ランニングしてたはずだからあの辺に住んでいると踊って探したけど見つからなかったし、引っ越しちゃったのかな。
「遥?」
「え、なに?」
「大丈夫?ぼーっとしてるわよ」
「遥ちゃん、疲れちゃった?」
「だ、だ、大丈夫!?」
「うん私は大丈夫、心配かけてごめん」
私に大切なことを気付かせてくれた人、みんなの心の中の私は消えない。ちゃんとお礼を言いたいのに。
「……遙、アンタさっき言ってた恩人のこと好きでしょ?」
「え?そんなことないけど…」
「なら恩人さんについて話す時のあの顔は何なのよ!コメント欄もざわついてたわよ!」
「え…?」