METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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Chapter Ⅰ-Ⅴ ”Go to the Black Market”(ブラックマーケットへ)

 キヴォトスの街並みを見下ろす高層ビルのオフィス、絢爛豪華な装飾のインテリアが並ぶそこで一人のロボット族の男が静かに、しかし隠しきれぬ怒りを滲ませながら手元のタブレットを眺めていた。

 記されていたのは経過報告と言う名の()()()()書、彼がどれだけの予算を注ぎ込み、それが失敗したかということをまじまじと見せつけられれば怒りも湧いてこよう。特に、()()()()()()成功しているはずの案件においては。

 

 

「おのれ……ヘルメット団も便利屋も役に立たん!」

 

 

 ドン、と力強くデスクを叩くが眼の前の数字が変わるわけでもなく、ただデスクに傷がつくだけであったのだが兎に角腹の虫がおさまらない。

 何度も怒りに任せてデスクを殴っていると、不意に真後ろに人の立つ気配がして彼は振り返った。

 そこにいたのは、上下黒のスーツを身にまとった黒いヒトガタ。顔がひび割れ、内から漏れる光が目や口を形成している。

 

 

「クックック……どうやらお困りのようですね」

 

「貴様か……ふん、貴様のデータを参考にやったが結果は失敗だ。貴様のデータが間違ってたんじゃないだろうな?」

 

 

 黒いヒトガタの言葉に若干の皮肉を込めながら男は2つのデータを見せる。一つは『ドロシー』を運用したヘルメット団の戦闘記録、そしてもう一つは便利屋68とアビドス高校の戦闘記録。

 ヘルメット団の記録は『ドロシー』に搭載されているカメラによって撮影されていたもののようであり、燃え盛る車両の残骸の中、戦車相手に立ち回る対策委員会と濃紺色の人型が映し出されいた。

 映像は空に飛び上がった濃紺色の人型がロケットを発射した直後に途切れており、その攻撃で破壊されたものだと推測できた。

 そして、もう一つの便利屋68とアビドス高校の戦いは超望遠で撮影されているようで画質は少し悪いが、それでも個人を特定できるレベルの解像度だ。

 こちらは空から濃紺色の人型が便利屋側に飛び込んできたシーンで停止され、濃紺色の人型を更にズームする。

 黒いヒトガタはそれをまじまじと眺めると、目を細めるように亀裂が変形した。

 

 

「なるほど、これは想定外のファクターですね。興味深い……」

 

「こいつがアビドスと合流してからもう滅茶苦茶だ。アビドスの生徒もデータより強力な戦闘能力を発揮している」

 

 

 男は右手を強く握りしめ、怒りを静かに表す。一方で黒いヒトガタは映像と別途にまとめられていた資料を手に取り、読み込んでいく。

 それは男が調べさせた濃紺色の人型、すなわち『メタルウルフ』とその操縦者であるマイケル・ウィルソンについてまとめ上げられたものであり、キヴォトスで得られる情報のすべてが記載されていた。もっとも、ほとんどの部分が「不明」となっているのだが。

 

 

「連邦捜査部シャーレの先生、マイケル・ウィルソン・Jr……そしてパワードスーツ『メタルウルフ』ですか。これは調査のしがいがありますね」

 

 

 黒いヒトガタの口元の亀裂が歪み、まるで笑うかのような形状に変わる。

 男はそれを見て不機嫌そうに鼻を鳴らすと、椅子から立ち上がって窓に近づき窓ガラスに映る自分の姿に手を添え、静かに己の怒りを言葉に乗せた。

 

 

「連邦捜査部シャーレ、必ず叩き潰してやる……!」

 

 

******************************************************************

 

 

 便利屋の襲撃の翌日、まだ早い時間ではあるがマイケルは新市街地からアビドス高校の校舎へと向かっていた。

 今日はアビドスにとって重要な、借金の利息返済日であると知らされたため同席するためだ。

 ミレニアムからの支払いは1日間に合わなかったが、それでも今月分の支払いするための金はあるというので特に焦ることもないのだが、引っかかるものが一つ。

 

 

―――現金でしか受け取ってもらえません。

 

 

 数日前に借金について相談に乗っていた時のアヤネの言葉を思い出し、顔をしかめる。

 普通、ローンの支払いは口座引き落としが主流で、現金での支払いは強盗のリスクもあり一般的ではない。

 ついでにいえば、電子マネーが一般化しているこのキヴォトスにおいて現金を要求するのは一般的にはカタギとはいえなかった。

 

 

(”裏はありそうだが……”)

 

 

 特に急いではいないため、思案しながら二本の脚でゆっくり歩いていた彼は、途中の交差点で登校中のアヤネとばったり出会う。

 彼女はマイケルとの遭遇を予期してなかったのか、少し目を丸くしていた。

 

 

「お、おはようございます先生。どうなされたんですか、まだ早いのに……」

 

”利子支払いの立会のためさ。少し気になることがある”

 

「気になること、ですか?」

 

”ああ、だがアヤネは気にしなくて良い。こっちの話だからな”

 

 

 あくまで借金の支払いに関する心配は自分だけのものだとし、アヤネに歩調を合わせる形で通学路を歩いていく。

 そして少し進んだ先、昨日便利屋との遭遇があったポイントまで来た時、彼は誰かが接近してくるのを感じて顔を向けた瞬間―――

 

 

「やっほー、先生じゃんおっはよー!」

 

”んんっ!?”

 

 

 彼の眼の前にチェック柄が広がった。

 便利屋68のムツキが顔面にダイブしてきたことで、スカートがカメラを完全に覆っていることに気づくのは、それから数秒の後。

 人間一人が飛びついてきたところでたじろぐ『メタルウルフ』ではないが、メインモニターが塞がってしまうのは良くない。

 サブモニターを参考に慎重に両脇をつかみ、正面に持ち上げるとまるで下半身が伸びる猫みたいな姿勢になったムツキがケラケラと笑った。

 

 

「あはは! 昨日も見たけどそれ器用だねー、全然苦しくないや」

 

「な、なにしてるんですか!! 先生、絶対放さないでください!」

 

「ありゃ、昨日は見えなかったけどアビドスのメガネっ娘ちゃんじゃん。やっほー、ムツキだよー」

 

「やっほーじゃありません! それと私はメガネっ子ではなくアヤネです!」

 

「別にいいじゃーん、減るもんじゃなしー?」

 

 

 持ち上げられたままのムツキに対し昨日の襲撃の記憶も新しいアヤネはあからさまな敵意を向けるが、ムツキは全く気にする様子もなく笑っている。

 このままではアヤネが銃撃しかねないと判断したマイケルはゆっくりとムツキを地面におろし、手を放した。

 

 

「もうおしまいー? 楽しかったんだけどなー」

 

「せ、先生!? どうして離すんですか、折角捕まえたのに!」

 

”まあまあ、ムツキはどうしてここに来たんだ? こうやって私達に遭遇する可能性だってあるだろうに”

 

 

 怒るアヤネを左手で制止しながらマイケルはムツキに問う。

 問われた彼女は僅かに考え、別に隠す必要もないかとあっけなく己の目的を話した。

 これが便利屋としての仕事の案件ならば彼女もはぐらかしたであろうが、今回の件を別に話したとしても恥ずかしい思いをするのはアルだけだ。

 

 

「昨日の戦闘でアルちゃんがコート落としちゃったからねー、落ちてないかなって」

 

”あぁ……あれか”

 

「何々? もしかして先生、拾っちゃった?」

 

”ああ、それでボロボロだから業者に修理に出した。すまないな、無駄足を踏ませて”

 

 

 予想していたこととはいえ、拾われていたのであれば仕方がない。

 むしろ誰にも拾われずに風に流されたり砂に埋れたりするよりもずっとマシだ。

 ムツキは笑ってマイケルに応えた。

 

 

「別にいいよー、先生やメガネっ娘ちゃんに会えたし。コートの修繕が終わったら事務所に遊びに来てよ、アルちゃんもきっと喜ぶよ!」

 

「何言ってるんですか、私達は敵同士ですよ!?」

 

「私達は別にアビドスが憎いわけじゃないからさ、仕事を請け負ってるだけだし?」

 

「今更公私を区別しようだなんて!」

 

「別にいいじゃん。先生だって、皆の先生でしょ?」

 

 

 憤慨するアヤネに悪びれる様子もなくムツキは笑う。

 まいったなと言わんばかりに肩をすくめたマイケルは、しかしムツキの問いに首肯した。

 

 

”まあ、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの顧問だからな”

 

「くふふ、さっすが先生。それじゃあ、アルちゃんのコートを拾って直してくたお礼にちょっとだけ教えるけど、今回の件の黒幕は裏社会の大物だって! アルちゃんもそれ以上知らないからね。先生、アヤネちゃん、ばいばーい」

 

 

 最後にとても重要な証言を残し、ムツキは軽やかな足取りで路地に消えていく。

 まさかそんな簡単に情報を聞き出せるとは思っていなかったアヤネは目をパチクリさせ、しばらく呆然としていた。

 

 

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 アビドス高校の校門前に物々しい装いの装甲車が停まり、そこから降りてきたロボット人種の銀行員がネクタイを直しながら並ぶ対策委員会を見た後―――彼女たちの背後にいる3mの巨人を見上げ息を呑んだ。

 彼は金融大手カイザーローンのただのヒラ、言われた通りの仕事をこなすだけのサラリーマンであり、予想外の事態にうまく対応できる能力はない。

 威圧感に腹部のアクチュエーターがキリキリ痛むが、辛うじて対策委員から渡されたケースを受け取り、中身を確認することができた。

 

 

「……お待たせしました。変動金利等を諸々適応し、利息は788万3250円ちょうどを現金で確かに受け取りました」

 

「うへ、今月は利息だけだけど来月はもっと支払えるから期待しててね」

 

「!?」

 

 

 ホシノの言葉に僅かに銀行員が動揺したのを、マイケルは見逃さない。

 

 

「……おほん、それは吉報ですね。では来月もよろしくお願い―――」

 

”失礼、いいかな?”

 

 

 ケースを閉じ、帰ろうとする銀行員を呼び止めると露骨に彼は肩を震わせた。

 どうせ下っ端だろうという諦観はあれど、諦めることはせずにマイケルは言葉を続ける。

 

 

”彼女たちの顧問のマイケルだ。質問があるが、アビドスは最近治安が悪くヘルメット団が跋扈しているのに何故現金のみなんだ? 見たところ護衛の姿もないが、最近のヘルメット団は戦車も運用している。大丈夫なのか?”

 

「そ、それは……えーっとですね、その、ハッキング被害の防止のためでして……」

 

 

 露骨に動揺する銀行員、彼は内心この場所へ向かわせた上司への罵倒を連呼するが、努めてそれを表に出さぬようにしていた。

 とはいえ、ここではぐらかすのは不信を招くということで彼は必死に言い訳を頭の中で構築し、営業スマイルを崩さぬようにする。

 しかし、その涙ぐましい努力はマイケルの前には全くの無駄であり、動揺は手に取るように分かってしまう。

 ため息をつきたい気分であったが、マイケルは彼の言葉を待つ。

 

 

「……それと、我々カイザーローンは安全な道を知っておりますので。他に用事はございませんね? では、また来月もよろしくお願いします」

 

 

 逃げるように装甲車に乗り、走り去る銀行員。

 その姿を見送った後、見繕う必要もなくなったマイケルは大きくため息をつき、対策委員会の面々に向き合う。

 彼のため息に首を傾げる彼女たちは思わず疑問を口にした。

 

 

「先生、どうしました?」

 

”あの連中、ただの貸金業者じゃないな。100%裏がある”

 

「え、えぇっ!? じゃあ何、あいつらに返済しても無駄って……?」

 

”それは金の流れを知らないとな。調べるべき物が増えてしまった”

 

「……まあ、でも今解決すべきは襲撃者の黒幕を探る方だよ。みんな、部室で話し合おうねー」

 

 

 増えるばかりの問題。うんざりしそうになるが、ホシノは年長者として後輩たちをまとめて校舎へと向かっていった。

 

 

******************************************************************

 

 

「それでは、全員が揃ったので会議を始めます。今日の議題は先の襲撃者である便利屋68と、ヘルメット団の運用していた軽戦車に関してです」

 

 

 いつもの対策委員会の部室に並べられた椅子に座り、マイケルはアヤネの進行による会議を聞く。

 他のメンバーは既に机に身を投げ出していたり、お菓子の入った器に手を伸ばしたりと落ち着きがないが、聞く耳だけは持っているようだ。

 

 

「便利屋68に関しては先生から提供していただいたゲヘナ学園の指名手配書に載っていますね」

 

 

 アヤネはそう言い、ホワイトボードに印刷された4人の顔写真を貼り付けた。

 便利屋68社長陸八魔アル、課長鬼方カヨコ、室長浅黄ムツキ、平社員伊草ハルカと丁寧に注意書きを添えているのは彼女の几帳面さ故か。

 

 

「ゲヘナの校則で禁止されている起業を行い、依頼と称して様々な悪事に手を染めている……で、合っていますよね先生?」

 

”少なくともそうだと聞いている。暴れたら大きな被害が出るとも”

 

「はい、ありがとうございます。それで、分かっていることですが、便利屋68は何者かからの依頼を受けてアビドスを襲撃してきたということですね。

これがヘルメット団の黒幕と同一なのかはわかりませんが、ここ3日ヘルメット団の動きがないことを考えると同一と見ていいかと」

 

 

 黒幕とカタカタヘルメット団と文字を書き加え、カタカタヘルメット団にバツ印を上書きする。

 彼女の言う通りここ3日はヘルメット団の動きはなく、周辺をシャーレから持ち込んだスキャンイーグル無人航空機で見て回るなどできる限りの偵察活動を行っていたが、拠点らしき建物は何者かに襲撃されたと思しき痕跡を残し放棄されており、カタカタヘルメット団はアビドスから撤退したという評価を下していた。

 無論、対策委員会にも情報を共有しており、誰一人驚きの声を上げることはなかった。

 

 

「それと、本日早朝学校の近くで便利屋68の室長、浅黄ムツキさんと遭遇しました。

その際に便利屋の依頼主は裏社会の大物という証言を引き出せましたが……」

 

”裏社会の大物なんて表現は対象が多い。ここから絞るのは難しいが、そこでもう一つ情報がある。アヤネ、次を”

 

「はい、大型戦車『ドロシー』に関してはまだミレニアムの解析待ちですが、ヘルメット団の持っていた軽戦車に関しては新しい情報があります」

 

 

 マイケルに促され、アヤネは新しく写真をホワイトボードに貼り付ける。

 軽戦車の残骸の一部、シリアルナンバーが残っていたフレームのアップ写真だ。

 

 

「CV-33-M3E、一般に流通している警備用のCV-33-M3軽戦車の装甲強化型ですね。これは既に製造が終了して10年は経っているモデルです」

 

「車重が過大で、警備用としても軍用としても使いづらくて不人気、生産台数は少なく流通在庫はない……ん、つまり普通は手に入れられないってこと?」

 

「その通りですシロコ先輩。ですがキヴォトスではそのような一般流通在庫にない製品を取引する場所があります」

 

 

 大きく『ブラックマーケット』と殴り書きをするアヤネ。

 

 

「ブラックマーケット、様々な事情で休学、停学、退学になった生徒が屯し、独自の秩序が形成された場所と聞きます。違法合法問わない取引も行われ、一般的には製造が終了した製品が違法に再生産されていることもある……」

 

「つまり、アヤネちゃんはこれがそういう再生産品だと見てるわけだねー」

 

「はい、それに以前ヘルメット団の拠点で押収した弾薬や銃器も同じルートだと見ています」

 

「ブラックマーケットに乗り込んでみれば何かわかるかもしれないわね」

 

「裏社会の大物もブラックマーケットに絡んでる可能性は高そうですね!」

 

 

 新たな手がかりに沸き立つ対策委員会のメンバー達。

 勢いをそのままに、委員長たるホシノは椅子から立ち上がって宣言した。

 

 

「じゃ、調べよっかブラックマーケットで」

 

 

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 秩序なく乱立する看板、広告の主張が激しい雑居ビル、行き交う人々はどこか異様な雰囲気が漂う路地、ここはキヴォトスの中でもD.U.地区に近いもっとも大きなブラックマーケットだ。

 そもそもブラックマーケットとは連邦生徒会の管理が及ばぬ地域、そのなかでも商業活動が活発なエリアの総称であり、ここ以外にも複数のブラックマーケットが存在している。

 広大なキヴォトスでは時折そういう無秩序なエリアが現れる事があり、大体学校の廃校で自治権を失った旧自治区がそれになる。

 他の自治区に併合されるならまだいいが、そういうところにメガコーポが乗り込んできて勝手に統治しはじめるとブラックマーケット化するものだ。

 この最大のブラックマーケットは複数の旧自治区が連結して誕生した巨大なエリアであり、キヴォトスにおけるメガコーポの勢力の強さが見て取れた。

 

 

「凄い……これがブラックマーケット」

 

「人通りも多くて賑わってますねー、ビックリです」

 

 

 上京したての田舎者みたいな雰囲気を醸し出す対策委員会の4名がブラックマーケットの雰囲気に呑まれて周囲を見渡す。

 その後ろにつく『メタルウルフ』を身にまとうマイケルはその様子に苦笑しながらも警戒を怠らない。

 

 

”観光じゃないんだから気を引き締めてくれよ”

 

「先生は心配性だねー、まあでもここが色々怪しいのは確かかな」

 

「ここだと私達が厄介事に首を突っ込むよりも、トラブルの方からぶつかってきそう」

 

「そうだねシロコちゃん、例えば―――「うわああっ! つ、ついてこないでくださいー!」―――早速銃声だねぇ、こっちに近づいてくる」

 

 

 まだブラックマーケットの入口のようなところだというのにトラブルのほうがやって来たことに一同苦笑いしながらも、銃を構えて待ち構えると、路地から飛び出す一人の少女。

 よほど慌てているのか積み上げられたゴミを蹴飛ばし、それで転びそうになりながらもなんとか立て直して後ろを気にしながらまっすぐ走ってくる。

 そして遅れること数秒、先の路地から二人のチンピラが飛び出し、銃を乱射しながら少女を追いかけていた。

 

 

”あの制服は……トリニティの生徒がなんでこんなところに”

 

 

 逃げる少女の制服に覚えのあるマイケルは訝しみながら身構える。

 逃走ルート上に居たシロコはとっさに避けようとしたが、トリニティの生徒も同じタイミングで同じ方向にサイドステップを掛けたために結局衝突コースに入ってしまった。

 ギリギリで足を止めようとするが、動いているものはなんであれそう簡単には止まらず、シロコとトリニティの生徒は激しくはないがぶつかり、構えたシロコは大丈夫ではあったがトリニティ生は見事に尻餅をついてしまう。

 

 

「い、いたた……ご、ごめんなさい」

 

「大丈夫? なわけないか、追われてるみたいだし」

 

 

 シロコは手を差し出して尻餅をついたトリニティ生の手を引き起こしたが、チンピラがその隙を逃さずに追いつき、慌てたトリニティ生はとっさにシロコの背中に隠れた。

 盾にされる形になったシロコは困惑したものの、一先ずは中立という立場を活かして自制を呼びかけようとしたが、いきり立つチンピラは銃を振り回しておりあっけなくプランは破綻。

 

 

「邪魔すんな、アタシらはこの金持ちトリニティを拉致って身代金で一儲けするんだ!」

 

「それともアタシらに協力するか? 分前ぐらいは考えても―――」

 

 

 獲物を前に皮算用を始めるチンピラたちは気づかない。

 眼の前にいる5人の生徒の視線が自分たちではなく、その背後を見上げるようになってることを。

 

 

Easy come, easy go(悪銭身につかず)

 

 

 がしっと後ろから頭を掴まれた彼女たちは状況の把握をする間もなく、ガツンと凄まじい音を立てて互いの頭がぶつかり一瞬で意識を手放す羽目になった。

 頭の上のヘイローが消え、だらりと力なく垂れ下がった四肢、落ちる銃。

 気絶したチンピラ二人をとりあえず壁にもたれかからせ、マイケルは改めて場を見渡した。

 少なくない量の通行人が行き交うが、この騒動を注視するものはいない。

 

 

「え、えと、その……」

 

”一先ず場所を移そうか、目立つ必要もないだろう”

 

 

 マイケルの言葉に全員が頷き、足早に場を離れていく。

 チンピラの仲間たちがこの場所に押し寄せてきたのはそれから間もなくのことであった。

 

 

******************************************************************

 

 

”それで、トリニティの生徒が何故こんなところにいるんだ。今日は自由登校日でも休日でもないだろう”

 

「うっ」

 

 

 対策委員会の面々が自己紹介をしてから即続けて発せられたマイケルの言葉にトリニティ生は言葉に詰まった。

 ブラックマーケットへの出入りは校則で禁じられているのだから無理もないだろう。

 

 

「ん、先生……この子の名前まだ聞いてない」

 

「あ、あはは……そういえば名前言い忘れてましたね。私はトリニティ総合学園2年の阿慈谷ヒフミといいます」

 

 

 シロコに促され、名乗りお辞儀をするヒフミ。肩に掛けたなんとも言えぬデザインのキャラクターバッグが揺れる。

 

 

「そ、それでですが、その、私どうしても手に入れたいのがありまして……もう一般には流通してなくて、ブラックマーケットで取引されるということらしく……」

 

「違法な再生産品とか?」

 

「それとも不法銃器?」

 

「あるいは違法弾薬!」

 

「な、なんでそんな物騒な選択肢ばっかり出るんですか……!」

 

 

 話に乗っかる対策委員達が物騒すぎてドン引きするヒフミであったが、見てもらえばわかると言わんばかりにバッグに手を突っ込み、少しまさぐってから何かを取り出した。

 明後日の方向を見ている瞳、口らしき場所に突っ込まれたチョコミントっぽいアイス、全体的なスタイルは鳥のキャラクターのようであるが、このようなものをマイケルは知らない。

 

 

「これです! ペロロ様の限定ぬいぐるみ! アイス屋とのコラボでわずか100個しか作られなかった逸品ですよ!」

 

「アイスを突っ込まれて悶絶しているようにしか見えない……」

 

 

 セリカのツッコミにマイケルとシロコは思わず首を縦に振って同意した。

 その一方でノノミは目をキラキラ輝かせながらヒフミの手を取り、激しく上下に振る。

 どうやら彼女はこの謎の鳥について知っているようだ。

 

 

「モモフレンズ、私もファンなんですよ! ペロロちゃんかわいいですよね、私はミスター・ニコライが好きなんです」

 

「わかります! ニコライさんの哲学的なところカッコいいですよね!」

 

「おじさん、最近の若い子の趣味はよくわからないねぇ」

 

”おほん”

 

 

 意気投合し、モモフレンズなるキャラクターの話題に花を咲かせる二人であったが、残りはついていけずに肩を竦めるばかり。

 ホシノに至ってはおじさんムーブに磨きがかかっていたが、本当のおじさんであるマイケルが軽く咳払いすると少しばつが悪そうに頬をかいた。

 

 

「……ま、それはそうとヒフミちゃん、君何度もブラックマーケットにやってきてるのかな?」

 

「え? あ、その、そうですね。ペロロ様の限定グッズはチャンスを逃すとブラックマーケットを探すしかないので……」

 

”これティーパーティーに通報したほうがいいのか?”

 

「そ、それだけは許してください……な、なんでもしますから~」

 

 

 思った以上に素行が悪いヒフミに呆れるマイケル。

 ティーパーティーへの通報を口にすると彼女が『メタルウルフ』の脚にすがりつきながら哀願し、その様子を見てホシノが悪い笑みを浮かべた。

 

 

「先生、話の腰を折らないでほしいなー。それでまあ、ティーパーティーに通報されたくなければブラックマーケットの案内をお願いしたいかなーってね、今何でもするって言ったし?」

 

「あっ……」

 

「先輩、そういうやり方は良くないでしょ! ごめんねヒフミさん、私達ブラックマーケット初心者だから案内してくれると心強いかなって」

 

「私からもお願いしますヒフミちゃん」

 

 

 ホシノを叱りながらセリカは改めてヒフミに協力を要請し、ノノミが手を握ってお願いすれば、面と向かってお願いされることに弱いヒフミの心は揺らぐ。

 助けられた恩、通報される恐怖、そして頼られたことへの高揚感、全てが複雑に入り混じった結果、ヒフミは首を縦に振った。

 

 

「あ、あぅぅ……わ、わかりました。先ほど助けられましたし、皆さんのお役に立てるなら喜んで」

 

「やったぁ! それじゃあ早速案内をお願いね、ヒフミさん!」

 

 

 頼りになる案内役の参加、対策委員会のブラックマーケット捜索はまだまだこれからだが幸先の良いスタートを切ることができた。

 

 

 

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 幸先の良いスタートを切ることができたものがいれば、将来が真っ暗なものもまた同時に存在しうるものだ。

 ブラックマーケットの片隅で肩を落としながら歩く陸八魔アルはまさに今お先真っ暗な状況に陥っていた。

 先の襲撃の失敗、完全に手玉に取られて人質にされ、挙げ句に雇った傭兵は高い金を出したにも関わらずほぼ戦闘に参加せずに契約終了、もはや彼女に残された財産はわずかなものしかない。

 正確に表現すればゲヘナ風紀委員会に凍結された個人の口座には相当のお金が入っていたのだが、使えない以上はそれは存在しないに等しいものでしかなかった。

 

 

「はぁ……結果を出さないと……便利屋68の未来が……」

 

「ねえカヨコちゃん、アルちゃん大丈夫だと思う?」

 

「完全に参ってるね……クライアントに詰められて視野狭窄になってなければいいんだけど」

 

 

 ふらふらと真っ直ぐに歩けていないアルの後ろ姿を見て、ムツキとカヨコは声を抑えつつも社長たるアルの心配を口にする。

 この少し前、便利屋68はクライアントからの電話を受け取っていたのだが、相当にダメ出しが行われたようで矢面に立たされたアルはそれから様子がおかしかったのだ。

 明らかに余裕を失い、他の3人に怒鳴り散らすなど今までの彼女からはかけ離れた様子に流石のムツキも気が気でない。

 ハルカは最初からずっと心配そうにしていたが、声をかけるのも憚るのか見つめるだけだ。

 

 

「アビドスに再戦を仕掛けるために資金調達、それはいいんだけどブラックマーケットの闇銀行頼るのはちょっと、ね」

 

「でもアルちゃん、風紀委員会に口座凍結されてるし、ゲヘナの中央銀行にいっても門前払いされるからねぇ」

 

 

 便利屋68がゲヘナの風紀委員会から指名手配されているのも今の苦境の原因の一つではある。

 もちろん、それはアウトロー(自由人)を目指すアルの行為故なので誰かのせいにしたいが自分の顔しか思い浮かばない、というやつでしかないのだが。

 アウトロー(無法者)を気取るのであれば、社会システムから放逐される覚悟を決めなければならないのだが、アルの子供じみたアウトロー(自由人)願望は今現実に打ちのめされていた。

 

 

「審査、通ると思う?」

 

「……闇銀行は身分を問わないけど、今の私達の経営状況じゃ難しいと思う」

 

「やっぱりねー、でもアルちゃんはやる気だし、なるようにしかならないかなぁ」

 

 

 ムツキとカヨコが話し合う中、アルは現状を嘆いていた。

 

 

(どうして、どうしてこうもうまくいかないの……私はただ何者にも縛られないハードボイルドなアウトロー(自由人)になりたいだけなのに)

 

 

 始まりが何だったのか、今となっては思い出せないが現在のアルの原動力はアウトロー(自由人)への憧れである。

 彼女たちは強く、風紀委員会もそのトップである空崎ヒナ以外が相手であれば十分に戦え、その力を担保にキヴォトスの裏社会に名を轟かせる……はずであった。

 しかし実際には彼女の詰めの甘さ、ハルカの暴走などが合わさってせいぜいが小悪党という評価。

 便利屋68としては初めての挫折、アルは目尻に涙を湛えながら闇銀行へと向かう。

 

 

(大丈夫、融資さえ受けられれば……お金さえあればなんとかなる……!)

 

 

 努めて楽観的に未来を見ようとするも彼女の足取りは覚束ない。

 気分転換になるものがあればよかったのだが、お金のない彼女たちには常に現実がのしかかり、性質が真面目なアルはそれに押しつぶされそうになっている。

 そのプレッシャーは顔にもでており、彼女の顔色は非常によくない。

 さすがのムツキもこれにはいつもの小悪魔仕草をしかけるのは憚られ、カヨコと一緒にどうにかできないかと頭をひねることしかできなかった。

 

 

「うーん、なんかこう、アルちゃんが楽しめるイベントでもあればいいのにね」

 

「例えばどんなのがあるの?」

 

「そうだねー、マーケットガード相手に大立ち回りするアウトローな集団を特等席でみるとか!」

 

「そんなに都合の良いこと、起きないでしょ」

 

 

 カヨコが呆れ、「いいアイデアなのになー」とムツキはほんの少し拗ねる。

 少なくとも彼女たちにとって明るい話題は当分訪れそうになかった。

 

 

 

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 経験者の解説を交えてブラックマーケットを探し回ること数時間、対策委員会とヒフミ、そしてマイケルは流石に疲労の色が隠せなくなったことで一先ず休憩をしようと目についた屋台のたい焼きを買い、道端で食べながら成果の確認を行っていた。

 いくら無法地帯といってもある程度の治安はあり、ここで起きる騒ぎの殆どは喧嘩レベルの小さなものばかり。

 ブラックマーケットの治安組織マーケットガードはよほど恐れられているのか、ヘルメット団やスケバンもブラックマーケットでは騒ぎを起こさないほどだ。

 ヒフミが誘拐されかけたのはブラックマーケットの外縁地区でマーケットガードの監視がゆるく、さらには個人で行動していたからだろう。

 こうして集団で行動していれば、行き交う人々はトリニティの制服に一瞬視線を向けるものの何事もなく通過していく。

 

 

「いやー、全然手がかりないね。ブラックマーケットで売られてる銃器弾薬、戦車、どれも目的のものじゃない」

 

「流通してるアサルトライフルの品質は低いし軍用規格の弾薬は売られていない。戦車に至っては影も形もない」

 

「おかしいですよ、そんなの……普通、ブラックマーケットでは違法品だろうと大っぴらに流通してるんです。連邦生徒会の統制も及ばないので、隠す必要がないって言いますか……ほら、あのビルなんて完全に違法の闇銀行です。立派ですよね」

 

 

 そう言ってヒフミが指さした先にあるのは立派なビル。

 まるでウォール街を思わせるその佇まいは、確かに金融に関するものだと思わせる説得力があった。

 密かにアロナが『あんな立派なビル、壊したら凄い綺麗でしょうね』と言っていたのだが、マイケルはとりあえず聞かなかったことにした。

 

 

「闇銀行はキヴォトスにおける犯罪に密接に関わっていて、盗品の買い取りや違法資金の洗浄も手掛けているそうで……それが新たな犯罪を生む悪循環になっていると言われています」

 

「そんなの、まるで銀行が犯罪を煽っているようなものじゃありませんか」

 

「はい、間違いなく闇銀行も犯罪の片棒を担いでいるわけです」

 

「連邦生徒会は何をやってるのよ!」

 

 

 ヒフミが話すブラックマーケット、闇銀行の実態に対策委員会の面々は憤りを示す。

 しかしそれでどうにかなるものではなく、かといって直接行動を起こす理由もなかった。そう、今は。

 

 

『皆さん、大通り側から接近する武装集団があります。数は相当数、組織だって動いています』

 

 

 突如のアヤネの警告に一同はにわかに色めき立つ。

 丁度たい焼きの最後の一切れを口の中につっこみながらシロコが立ち上がり、大通りへと顔を向けた。

 

 

「ん……あのチンピラの仲間ってわけじゃなさそうだね、もう何時間も前の話だし」

 

「あれはマーケットガードです。護衛をしているのでしょうか?」

 

「現金輸送車を護衛してる感じですね、見た感じ闇銀行に向かってるようです」

 

 

 彼女らの視線の先にいるのはジープやサイドカーに乗り込んだ黒塗りの集団、チンピラと違いパリッとした制服を着たロボット族と生徒の組み合わせのマーケットガードの部隊だ。

 中心に装甲車を据えた輪形陣を取るその一団は我が物顔で大通りを進み、闇銀行の前に停車すると装甲車から一人のロボット族が降りてきた。

 マイケルはメタルウルフのカメラをズームさせ、その人物を見る。

 

 

「ねえ、今降りてきたのって毎月利息支払ってる銀行員じゃない?」

 

「ホントだ。装甲車も今朝うちに来たやつと同じ、ナンバーも一致」

 

「ということは……カイザーローンは闇銀行と関係があるってこと!?」

 

 

 倍率スコープを持つシロコとセリカも同様に降りてきた人物を眺め、抑えてはいるものの驚きの声を上げた。

 まさか違法な闇銀行とカイザーローンがつながってるなんて、対策委員会の誰もが予想していなかったのだ。

 二人の驚きの声につられてホシノとノノミ、通信を繋げているアヤネも動揺を隠せず息を呑んだ。

 

 

「えっ、アビドス高校ってカイザーローンからお金を借りてるんですか!?」

 

「私達が借りたわけではないんですけどね……」

 

「カイザーローン、問題ある所なの?」

 

「カイザーローンはカイザーグループ傘下の高利金融業者です。カイザーグループ自体は合法な多角化企業でD.U.に本社ビルがありますが……実態としてはグレーゾーンにかなり手を入れているようで、トリニティの生徒会ティーパーティーも動向に目を光らせています」

 

「へぇ、ティーパーティーが……」

 

 

 シロコの疑問に対してヒフミが答えるが、その内容は一般生徒にしてはやけに詳しい。

 特に生徒会の動向を詳しく知るというのは関係者くらいでしかないのだが、彼女の着ている制服はティーパーティーのものではなくトリニティの一般制服だ。

 この娘、もしかしてティーパーティーの諜報員ではないかという疑問がホシノの中に浮かび上がったが、それにしてはペラペラ喋り過ぎであった。

 

 

「グレーゾーンって、闇銀行と手を組んでるなら思いっきりブラックじゃないの」

 

「まぁまぁ、アヤネちゃん、あの現金輸送車の走行ルートとか調べられない?」

 

 

 ボルテージの上がるセリカを抑えながら、ホシノはアヤネに問う。

 通信機越しにタイピング音が聞こえた後、アヤネは残念そうな声色で応えた。

 

 

『駄目です。恐らくオフラインで運行しているようで、一切ヒットしません』

 

”それに関してだが、良いかな? あの車がどこを経由してたか、少なくとも一つはわかった”

 

「えっ!?」

 

 

 突如割り込むマイケルに、対策委員会の面々は驚きの声を上げるとグループトークにスクリーンショットが転送される。

 それはマイケルのモモトークのものであり、相手は先日シャーレに入った黄花トウカだ。

 拡大するとカイザーローンの現金輸送車と銀行員が写っている写真と、「ヘルメット団に居た時に資金提供してきた大人だ」というメッセージが添付されていた。

 タイムスタンプは今日、写真の背景からこれはD.U.のシャーレのビルからそう遠くないところで撮影されたことがわかるが、これは極めて重要な情報だった。

 

 

「……ちょっと待って、カイザーローンはヘルメット団に資金提供をしていた?」

 

「それどう足掻いても真っ黒じゃないの!? もしかして、現金だけ受け付けてたのって……」

 

「うへぇ、来月来たらとっちめておいた方が良いねー」

 

”まあ待て”

 

 

 思わぬ情報にいきり立つ面々、しかしマイケルはそれを片手で制止しあくまで冷静であれとした。

 怒りの感情に身を任せてしまっては大きな失敗をすることになるからだ。

 

 

”組織的なものか、単独犯なのか、まずそこから調べる必要がある”

 

 

 そう言い、顔を闇銀行の方に向けるマイケル。既に現金輸送車は走り去り、物々しい空気は過ぎ去っていた。

 

 

”そのための証拠を見つけなければいけない”

 

 

 彼の言葉に、一同は考え込む。

 お金の流れを掴むもの、あまり馴染みがないだけにぱっと浮かんでこないものだ。

 

 

「証拠って言っても……」

 

「……あっ、お金の流れが指示通りならきっと集金の書類がありますよ! それを見れば、きっと……でも、もう銀行の中にあるでしょうから無理ですね……」

 

 

 そんな中、ヒフミがそれに思い至るが、入手難易度を考えると現実的ではないと首を横に振って否定する。

 しかし、その言葉に反応するものがいた。

 

 

「なら、方法は一つしかないよ」

 

 

 シロコが静かに口を開く。

 その言葉に反応する対策委員会の面々、ホシノとノノミは納得したように頷き、セリカは若干顔を引きつらせた。

 蚊帳の外であるヒフミは困惑しっぱなしであったが、シロコは鞄から覆面を取り出し手慣れた様子でそれを被った。

 

 

「銀行を襲う」

 

「え、ええええっ!?」

 

”Shhh! ヒフミ、静かに”

 

 

 驚愕するヒフミの口を塞ぎ、マイケルは路地を指差す。

 大通りではなく路地で話を詰めようというその意味を、対策委員会の皆は正しく理解して頷いた。

 

 

”それでシロコ、計画を聞こうじゃないか”

 

「うへ、先生止めるかと思ったら意外と乗り気なんだね。理由ぐらい聞いても良い?」

 

 

 路地に移り、聞き耳を立てる人物が居ないことを確認した後にホシノはマイケルに問いかけた。

 あのときは銀行強盗をしようとするシロコを止めようとしたにも関わらず、今回はGOサインを出す彼の真意を確かめたかったのだ。

 

 

”この案件を進展させるにはそれ以外の方法はないと判断した……それに、ここが無法地帯なら訴えるべき相手もいないだろう。目には目を、そっちがルール無用ならこっちもルール無用だ”

 

「ん、つまりこれは先生公認。プランは単純、アヤネがハッキングをかけて銀行のセキュリティをダウンさせる。こういうのは外部への通報回線があるからそこからアクセスすれば良い。そしたら内部の警備を制圧して行員を脅し、目的の書類を手に入れた後にささっと退散する」

 

 

 先生公認ということがよほど嬉しいのか、嬉々としてプランを語るシロコを見ながらホシノは先程のマイケルの言葉を考えた。

 アビドス高校の支払った利子の行方を知るためには集金書類を手に入れる必要があり、それは銀行の中にある。だからこそ、それを部外者が手に入れるには銀行を襲うしかない。

 シロコの理屈はそうであり、ここで普通の大人はそれでも犯罪は良くないと言うだろう。

 しかし彼はそれを肯定した。正しい目的のためには、多少の規則破りもやむを得ないという考えを持っていることになる。

 だがそれは、決して私欲に基づくものではないということも理解できた。

 ここ数日、彼の行動をつぶさに監視していたホシノであったが、彼が身を粉にして対策委員会の手伝いと、連邦生徒会への書類仕事を行っているのをよく見ていたからだ。

 

 

(多分、任せても大丈夫とは思うけども)

 

”いいぞシロコ、私も手伝おう。シッテムの箱は優秀なハッキングツールでもあるからな。それと、この案件は連邦捜査部S.C.H.A.L.Eが立案する特殊作戦(Black op)とする。責任者はこの私、マイケル・ウィルソンだ”

 

「なんかもう滅茶苦茶だけど……やるしかないか」

 

「はい、悪い銀行をおしおきです!」

 

「ヒフミは覆面を用意できてないから、かわりにこんなのでごめん」

 

「え、ええっ!?」

 

 

 ノリの良いマイケルに呆れながらもセリカはシロコに渡された覆面を被り、続けてノリが良いノノミも同じく渡された覆面を被る。

 一人素顔丸出しのヒフミは混乱しっぱなしであったが、先程まで食べていたたい焼きの入っていた紙袋に穴を開けた即席の覆面をシロコに渡され、混乱は更に加速した。

 

 

「一蓮托生だよーヒフミちゃん」

 

「うぅ、ナギサ様ごめんなさい……」

 

 

 気を取り直して悪い顔をしたホシノの言葉に観念したのか、ヒフミはその紙袋を被ってティーパーティーのホスト代行たるナギサへの謝罪を口にしつつ身を縮こまらせた。

 もはや準備は整ったと言わんばかりのシロコの期待に満ちた眼差しを受け、マイケルは宣言する。

 

 

”これより、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eによる強制捜査作戦を実施する。作戦名は―――”

 

『先生! 私、いい名前を思いついています!』

 

 

 突然割り込むアロナ。思わず言葉が止まり、周りの皆が訝しむように首を傾げた。

 

 

”あー、シッテムの箱のAIが名前を提案してきた。それを今回は採用しようと思う”

 

 

 何とか誤魔化すマイケル。アロナは何故か彼以外には見えないため、以前にシッテムの箱には高性能のAIが搭載されていて音声入力で色々やってくれると説明していたこともあり、対策委員会の皆は一先ず納得はしてくれたようだ。

 そんな彼の視界の端でアロナは『じゃん!』とパネルを大きく掲げた。そこに書かれていたのは―――

 

 

”―――『悪党たちに明日はない!闇銀行をぶっ飛ばせ』大作戦、だ”

 

「ダサッ!」

 

『そ、そんなぁ!』

 

 

 渾身の命名もセリカにダサいと断じられ、アロナは画面の向こうでがっくりと項垂れた。

 

 

To be Continued in Chapter Ⅰ-Ⅵ ”Masked Swimsuit Squad Assemble!”

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