METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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Chapter Ⅱ-Ⅰ ”I'll kill you”(殺してやるぞ)

 ゲヘナ学園のシンボルマークをつけた1機のNH90汎用ヘリコプターが風を切りながらアビドスの砂漠の上を飛行していた。

 機内には12名のフル装備の戦闘要員、機体に据え付けられたドアガンのガンナー2名、パイロット2名、そして通気性の良さそうな服装*1をした青い髪の少女、風紀委員会の行政官を務める天雨アコが搭乗しており、彼女は突然通話が途絶えたスマホを耳に押し当てながらヘリの音に負けぬほどの大声を出してヒナへと呼びかけを続けていた。

 

 

「ヒナ委員長!? 委員長! くっ、もっと飛ばしなさいパイロット!」

 

「無理です行政官! すでに本機は最大速度を出しています!」

 

「アコちゃん、焦っても良いことないよ。委員長ならよっぽどのことがない限り無事でしょ」

 

 

 戦闘要員の一人、前線指揮官として任務に当たる銀髪ツインテールの生徒銀鏡イオリがパイロットへの無茶振りをするアコを諌める。彼女は事態を楽観視しており今回の突発的な任務も遠足気分で臨んでいた。しかし、アコはそんなイオリを睨みつけると彼女の尖った耳の先をつまんで思いっきり引っ張る。

 

 

「いだだだだっ!?」

 

「そんなピクニック気分で居られても困るんですよイオリ!」

 

「で、でも……」

 

「黙らっしゃい! ヒナ委員長に何かがあれば一大事です。そして今回、その可能性があると言ったでしょう!」

 

「イオリ、今の行政官には何を言っても無駄です」

 

「そうは言ってもさぁ……」

 

 

 引っ張られた耳をさするイオリを一瞥し、アコはヘリのキャノピーの向こうに薄っすらと見えるアビドス自治区新市街地の街並みを見据えた。その後ろでは衛生兵として同行しているチナツがイオリに呆れながらも引っ張られた耳の傷の程度を確認していた。

 廃れつつあるアビドスの街並みの一角から黒煙が立ち上り、狼煙のように今そこで何かが起きているということを知らせていたが、その詳細を知るにはまだまだ距離がある。あと数分も飛べば把握は出来るだろうが、そのわずかな時間すら彼女には長く感じられた。

 

 

万魔殿(パンデモニウムソサエティー)のタヌキが何故あんな情報を送ってきたのか気になりますが……今は委員長の無事を確認することが第一。委員長、どうかご無事で―――)

 

 

******************************************************************

 

 

 1時間ほど前、風紀委員の執務室で何時ものように事務仕事をこなしていたアコは突然鳴り出した電話に明らかに不機嫌そうな表情を浮かべて手を伸ばす。朝からヒナが出張で不在であり、本日の彼女はご機嫌斜めであった。

 

 

『キキキッ、私だ行政官。朝からヒナが居なくて残念だなぁ?』

 

「……なんですかマコト議長、冷やかしなら切りますが」

 

 

 受話器の向こうから聞こえる特徴的な笑い方、万魔殿(パンデモニウムソサエティー)の議長羽沼マコトの声にアコは青筋を立ててそれに応えた。

 ただでさえ何時も嫌がらせをやってくる相手にまともに応対するもりは彼女にはなく、適当にあしらってガチャ切りしてやろうかと思っていたが、マコトが次に発した言葉に思わず手が止まる。

 

 

『ヒナがアビドスでシャーレの先生と会談するそうじゃないか。まあ、それ自体はどうでもいいがそのアビドスにマーケットガードの大戦力が向かっているぞ』

 

「……マーケットガードが? ブラックマーケットが何故、外に打って出てるんですか」

 

『キキキッ! 先日、ブラックマーケットで大規模な暴動があったことは知っているだろう。その時に銀行も襲われたらしくてな、マーケットガードの連中は面子を潰されたことで犯人探しに躍起になっているそうだ』

 

 

 マコトの言葉にアコは首を傾げた。何故それが風紀委員に電話をかけてくる理由になるのかさっぱりわからないのだ。アコの様子を電話越しに察したマコトはより嘲るように笑い、更に言葉を続ける。

 

 

『キキキキッ、どうやら行政官はわかっていないようだ。マーケットガードはどうやら銀行強盗がアビドスの新市街地に潜伏していると把握したらしい。盗まれた金に発信機でもつけていたんだろうな』

 

「はぁ、つまり強盗探しに出かけたと。アビドス市街地は確かカイザーの管轄でしたね、マーケットガードもカイザーがスポンサーですし話は付いてるでしょうから何もおかしくはないかと」

 

『そうだな、普通はおかしくはない。だが、今回出てきた戦力は機甲大隊規模だ』

 

「……ハァッ!? 強盗捜索に装甲部隊とか何を考えてるんですか連中は……ま、まさか」

 

 

 ここでようやくアコは事態に気づいた。マーケットガード装甲部隊がまともに捜索活動などするわけがなく、しかも犯人の位置をある程度特定できているのならば都市区画ごと粉砕して報復するという無茶苦茶な解決策をとるであろうということに。

 しかし、同時にそんな流石にヒナが会談している場所の近くでそんな作戦は行われないだろうという希望的観測を抱いたが、マコトが続けて放つ言葉はそれを打ち砕くものであった。

 

 

『奴らの狙いはアビドス市街地、柴関ラーメン周辺だ。キキキッ、新型戦車まで引き連れて絶対に強盗犯を殺すという強い意志を感じられるぞ。新型戦車の情報はサービスでそちらに送ってやろう、私の寛大な心使いに感謝することだな! キャハハハハ!』

 

 

 マコトの耳に障る笑いと同時にガチャンと受話器を叩きつけたアコは顔を青くして万魔殿(パンデモニウムソサエティー)情報部からメールで送信されたファイルを開いた。

 ファイル名が『DOROTHY(ドロシー)』となっているそれは先日アビドスで対策委員会が撃破した『ドロシー』と同一の戦車の図面であり、武装の詳細もどこから手に入れたのか記載されている。

 情報を確認したアコは戦慄した。この新型戦車の高エネルギー砲は明らかに過剰威力であり、生徒の生命を危険に晒す威力を持っているのがわかったからだ。そして彼女は震える手で受話器を取り、即応待機中の部隊を呼び出す番号を押した。

 

 

『こちら銀鏡、どうしたのアコちゃん。なにか問題でも―――』

 

「緊急出動です! 直ちに空中即応部隊を編成しアビドス市街地へと向かいます!』

 

『は、はぁ? そんな突然言われても即座に動かせるヘリは1機だけで1個分隊を動員するので手一杯なんだけど!?』

 

 

 電話に出たイオリは突然のアコの剣幕に面食らっていたが、それでも彼女の要求を把握して応えたのは流石であったと言えるだろう。

 

 

「構いません。それと、私も今回同行します! ヒナ委員長が危ない!」

 

 

 天雨アコ―――趣味がヒナ委員長である彼女はそのヒナの危機を前になりふり構わず風紀委員会の部隊を他の学園自治区へと向かわせようとしていたが、それに突っ込むものは誰も居ない。

 直ちに準備が整えられ、兵員を満載した風紀委員会のNH90ヘリが離陸しアビドス方面へ消えていくのを万魔殿(パンデモニウムソサエティー)執務室の羽沼マコトは満足そうに見送っていた。

 

 

「キキキッ、うまく風紀委員がシャーレの先生を救えれば貸しをつくることができる。失敗したら風紀委員の責任にすれば良い。完璧なプランだな」

 

 

 全ては計画通りと言わんばかりに彼女は笑う。キヴォトス全土の支配を目論むマコトは各地に諜報員を潜伏させており、その情報網から得られたシャーレの先生たるマイケルの危機を放って置くつもりはなかった。彼の権限は当面の間自らの野望に必要だと彼女は見做していたのだ。

 だが、正面切ってメガコーポであるカイザーグループ、その支援を受けるマーケットガードと対峙するつもりはなく、だからこそ頭に血が上りやすい風紀委員会の行政官に情報を流して風紀委員会の独断で武力行使を行わせるという算段であった。実際、それは現在進行系でうまく行っていると言えるだろう。

 

 

「カイザーコーポレーション……最近アレも調子に乗っているからな、先生が派手に暴れて勢力が削がれてくれれば万々歳だ。だからこそ、ここで先生に倒れてもらっては困る。キキキキキッ!」

 

 

******************************************************************

 

 柴関ラーメンで席について注文しようとした時に光に飲まれたアルは、目が覚めると自分が瓦礫の中に埋もれて逆さまになっていることに気づいた。

 一体全体何がどうなっているのかわからないのだが、呼吸は出来るし身をよじれば抜け出せそうであることを確認して一先ず現状からの脱却を目指す。

 そしてもぞもぞと瓦礫をかき分けながら彼女は便利屋68の仲間の名を呼んだ。

 

 

「ムツキー! カヨコー! ハルカー! 返事をして頂戴!」

 

 

 しかし、返事はない。最悪の予想に顔が青くなる彼女であったが、次の瞬間眼の前の瓦礫が動いて幼馴染の顔が見えたことでほっと胸をなでおろした。

 

 

「居た居た、アルちゃんみっけ! ねーカヨコちゃんハルカちゃん、ここだよここ」

 

 

 ムツキの方もアルを見つけて安心したのか、いつもの小悪魔的な笑みは無くカヨコとハルカを呼び集めてアルを瓦礫から引っ張り出した。

 

 

「一体何が起きたの……」

 

「静かに、この隙間から覗いてみて」

 

 

 いまだ状況を掴めず混乱状態のアルに対して、カヨコは口の前で人差し指を立てながら瓦礫の隙間から覗くように促す。

 その通りにアルが隙間を見てみると、その先には多数のマーケットガードの所属を示すマークを付けた戦車とその随伴歩兵が展開しており、一番奥には巨大な砲塔を持つ戦車が鎮座しているのが見えた。

 主砲の周囲の空気が揺らめいているのは極めて高い熱を帯びている証であり、あの戦車が砲撃してきたのだと理解できたのだが、それにしては先程の攻撃は爆発音が一切しなかったのが気になる所であり、彼女はその疑問を思わず口からこぼしてしまう。

 

 

「何、あの戦車……!?」

 

「おい、こっちから声が聞こえたぞ!」

 

「まずい……!」

 

 

 その声は近くに居たマーケットガードの兵士に聞きつけられてしまい、周囲の兵士が銃を構えながら近づいて来たことに4人は焦る。なにせ、突然瓦礫に埋もれたことで彼女たちは銃以外の装備を失っており、大人数を相手になど到底できないからだ。

 なんとか身を隠せる場所を探そうとするが、再び瓦礫の中に潜り込む以外に隠れられそうな場所は見当たらず、近づく足音に心臓をバクバクと鳴らしながらグリップを握る手に力を込める。

 すでに兵士は目と鼻の先、ハルカが爆発寸前な表情を浮かべながら飛び出そうとしたその時、ヘリのローターの風切音が周囲を覆い尽くし、それにつられて兵士たちは空を見上げた。

 

 

『こちらはゲヘナ学園風紀委員会! マーケットガードに通告します! 直ちに作戦行動を停止しなさい! この付近に―――』

 

「撃て!」

 

 

 その音の主はゲヘナ学園風紀委員会のNH90ヘリコプター。ついにアコ率いる部隊が現場に到着したのだ。

 しかし、マーケットガードの兵士たちは構わず銃を向けると躊躇なく引き金を引いた。問答するつもりなど無く、たとえ相手が三大校であろうとも邪魔するものは排除するという方針に従ってのものだった。

 そして、地上で瞬くマズルフラッシュを見たヘリのパイロットは即座に操縦桿を横に倒して回避運動をとる。

 

 

『きゃああっ!?』

 

『撃ってきたぞ!?』

 

『行政官掴まって! ガンナー、正当防衛だ。撃て!』

 

 

 回避運動をとりながらヘリのドアガンが発砲し、散開が甘いマーケットガードの兵士たちの何名かが.50口径の銃弾の餌食となって吹き飛ぶ。

 完全に兵士たちの注意が空に向いていることを確信したアルは他の3人と顔を見合わせ、頷いた。今動かずして何時動くのか。

 すかさずハルカが先頭を切って『ブローアウェイ』を背を向ける兵士に向けて叩き込みながら道路を駆け抜ける。

 柴関ラーメン跡の向かいの路地に滑り込んだハルカを追って何名かの兵士が走るが、それを横からムツキが『トリックオアトリック』の弾幕を浴びせかけて昏倒させると、ムツキも違う路地へ向けて走っていった。

 

 

「便利屋68だ!」

 

「生きていたか、始末しろ!」

 

 

 空の風紀委員会のヘリ、地上の便利屋68と完全に乱戦状態に陥ったマーケットガードの部隊は一旦建物の向こうに消えたヘリのことを忘れて地上の便利屋へと意識を向けた。

 見えた便利屋の数は二人、残りの二人が近くにいるはずだと兵士が柴関ラーメン跡の瓦礫の山に近づいた時、眼の前の物陰から飛び出したカヨコが『デモンズロア』を顎に突きつけ、兵士がそれに反応する間もなく引き金を引いた。くぐもった銃声とともに兵士のアイセンサーの輝きが消えてその場に崩れ落ちる。

 そして、その後ろに控えていた兵士も銃を構える隙を与えずに顔面に二発叩き込んで倒すと、彼女も路地めがけて道路を駆け抜けた。

 しかし今回は戦車の1両が狙いを定めており、連装砲型クルセイダーがカヨコめがけて主砲を放とうとしたその瞬間、砲口に飛び込んだ一発の銃弾が砲弾の信管を撃ち抜き、その場で砲弾が起爆して戦車は瞬く間にキャンプファイアーと化した。

 

 

「何のつもりか知らないけども、そっちがその気ならこっちだって容赦しないわよ」

 

 

 銃口から硝煙が立ち上る『ワインレッド・アドマイアー』のスコープから目を離し、アルはマーケットガードの一番奥に鎮座する巨大戦車『ドロシー2』を睨みつける。

 

 

『やはり貴様か、陸八魔アル!』

 

「ふふふ、そうよ、私が―――」

 

 

 怒号を上げるマーケットガード指揮官に対しアルはキザったらしく応じるが―――

 

 

『便利屋68! 銀行強盗を首謀した罪で貴様らを始末する!』

 

「―――は?」

 

 

 ―――まったく身に覚えのない罪を宣告され、その場で固まってしまった。

 

 

「ちょ、ちょっと待って! 銀行強盗って何!? 一体何のことなの!?」

 

『理由はもちろん分かっているだろォ!? 貴様らが盗まれた金を持っているということだ!!』

 

 

 本気で訳が分からない。先日の覆面水着隊との遭遇の後、ムツキに彼女たちの正体(アビドス)を教えてもらっていたアルはマーケットガードが自分たちを銀行強盗犯だと断定するロジックが理解できていなかった。

 実際のところは札束の中に防犯用の小型発信機が挟まっており、それの位置情報から便利屋を特定したというわけなのだが、アルはそれに気づいていないのでマーケットガードが言いがかりをつけてきているようにしか思えないのだ。

 ポカンとするアルの表情を見た指揮官は怒髪天の様相で宣言する。

 

 

『絶対に許さん……殺してやるぞ陸八魔アル!』

 

「な、なんでそうなるのよーッ!!」

 

 

 当人からすれば完全な八つ当たりでしかないそれに、アルはただ叫ぶしかなかった。

 

******************************************************************

 

「……生、先生!」

 

 

 心音、耳鳴り、硝煙、仄かな体温。そしてフィナーレを飾る、悲鳴と怒声の交響曲が彼を覚醒に導いた。呼びかける声に応じて閉じられた瞼を開けると、紫色の瞳がじっと見つめている。

 

 

天使様が迎えに来た(逝った)かと思ったよ……”

 

「悪い冗談はやめて先生。それよりも……怪我はないようだけど、痛むところはある?」

 

 

 起きがけにジョークを一発、ヒナは呆れた様子を見せながらもキヴォトス人より脆弱なマイケルの心配を忘れないが、彼にとって幸いなことに痛みはなく五体満足ではあった。

 ゆっくりと体を起こして辺りを見回してみると、倒壊した家屋の残骸が周囲に散らばり酷い有様だ。一体何が起きたのだろうか。

 

 

”大丈夫だ、ヒナは?”

 

「私は平気。気を付けて先生、今周囲は戦闘状態にあるから」

 

”……こんな状態(生身)で銃声の交響曲は聴きたくなかったんだがね”

 

 

 ヒナとの会話すら困難にするほどの複数の銃声、時折砲声、明らかに危険な状況にあり逃げるか『メタルウルフ』に乗り込む必要があったのだが、眼の前の瓦礫の山から横倒しになった頭だけ出しているそれ(メタルウルフ)を見てマイケルはがっくりと肩を落とした。あの状態ではとてもではないが搭乗することは不可能だ。

 

 

”なんてことだ……”

 

「あれでは掘り起こすのに手間がかかるわ。だとすると、さっきアコの声が聞こえていたし風紀委員会と合流するしたほうがよさそう」

 

 

 項垂れるマイケルをよそに、ヒナは瓦礫から自分の愛銃『終幕:デストロイヤー』を引っ張り出すと軽く動作確認を行い、構えた。

 瓦礫に埋もれたせいで表面に細かい傷はついたものの、見た所大きな損傷はなく引き金を引けば弾は出るだろう。身を守る手段が残っているのは幸運だった。

 

 

”そういえばヒナ、大将は見なかったか?”

 

「店主? それなら……」

 

 

 気を取り直したマイケルの問いにヒナは近くの瓦礫の陰になっている場所を指差す。気を失って倒れている柴大将の姿がそこにはあった。

 彼もヒナが掘り起こしたわけなのだが、小柄なヒナはマイケルと柴大将の二人を抱えることは不可能ではないものの困難なので適当に寝かされていた。

 柴大将の無事にマイケルはほっと胸を撫で下ろす。そして、ヒナが銃を構えたのを見た彼は彼女の意図を察して大将を担いだ。

 

 

「移動する」

 

”分かった、先導を頼むぞヒナ”

 

「任せて」

 

 

 物陰から大通り側の様子を覗き込んだヒナは、その先で便利屋のアルが必死の形相でこちらに向かって走り込んでくるのを確認して目を見開いた。何でこっちに来るんだこいつはと言いたげな表情だ。

 アルの後ろからは多数の兵士と何両かのマーケットガードのクルセイダー戦車が追いかけており、彼らが放つ銃弾が風を切る音がいくつも聞こえる。

 

 

「ひ、ひえぇっ! こっちにはヒナ!?」

 

「うるさい。今度は何をしでかしたの」

 

 

 銃弾を避けるために物陰に飛び込んだアルであったが、そこにヒナが居ることに気づくと白目を剥きながら壁に張り付いた。時間にして1秒にも満たない速さだった。

 

 

「わ、私は何もしてないわよ! 今回ばかりは銀行強盗とかいう濡れ衣を着せられてるの!」

 

「ふぅん……でもまあ、丁度いいわ。先生と店主をこの場から逃がすのに協力しなさい」

 

「先生を? あっ、そういう……」

 

 

 ヒナに問い詰められたアルは身の潔白を主張するが、ヒナとしてはアルがクロかシロかなどどうでもいい話であり、そんなことよりも手伝えと圧をかける。

 ”あの”先生を逃がすとはどういうことかと訝しんだアルであったが、彼女も瓦礫に埋もれた『メタルウルフ』を見たことですべてを理解した。これは駄目だと。

 そして、ヒナの後ろで柴大将を担いでいるマイケルの顔を見たアルは色々と言いたいことが込み上げてきた。今回の濡れ衣はそもそも彼とアビドスの行いが原因なのだ。

 

 

「ふ、ふん……以前は良いようにやられたけど今度は追い詰められてる側ね先生(キャプテン・ステイツ)? 助けが必要かしら?」

 

”おっと、そうきたか”

 

 

 やや顔を引き攣らせながら不敵な笑みを浮かべるアルの言葉にマイケルは肩をすくめた。あの時は気づいていなかったようだが、今はもう彼女が自分たちが銀行を襲撃した犯人だと知っているようであり、彼女の先程の物言いからして自分たちの銀行襲撃を便利屋68の仕業だとマーケットガードが誤認してこの戦闘が行われているということであればその責任はたしかに自分にあるといえるだろう。

 とはいえ、アルはそのことを責めるつもりは欠片もなかった。そのことを責めるよりも、マーケットガードの態度がムカつくし出来るならブチのめしてやりたい感情のほうが勝っている。

 

 

「良くわからないけど、もう敵が近いから準備をして」

 

「共同戦線ね。やってやろうじゃないの!」

 

 

 ブラックマーケットでの出来事を知らないヒナの言葉に従い銃を構える。最大の敵であったヒナが今は味方だという安心感がアルの精神を安定させ、呼吸も落ち着きを取り戻していた。

 

 

”よし、では……私が指揮を執ろう。ただのお荷物でいるつもりはない”

 

 

 その二人を見て、マイケルも負けじとシッテムの箱を起動させたが、画面が暗転状態のまま変化しない。よく見るとバッテリー消費が激しく残量が30%程度になっていた。食事中は90%を超える残量があったはずなのだが。

 

 

”……? アロナ、応答しろアロナ”

 

 

 シッテムの箱を揺さぶる。本来タブレットにやってもあまり意味のない行為であったが、シッテムの箱はただのタブレットではない。事実、揺さぶった結果暗転していた画面はいつもの教室へとかわり、机の上に突っ伏していたアロナはそれによって飛び起きた。

 

 

『せ、先生、無事だったんですね! よかった……先生をお守りすることができて』

 

”何があったのか良くわからないが……私が無傷だったのはアロナのおかげだったのか、ありがとうアロナ”

 

『えへへ……シッテムの箱はその所有者を守る力があります! ですが、それには色々と消費する物がありまして……』

 

 

 飛び起きたアロナは開口一番マイケルの無事を喜んだが、その内容から彼女が自身を守ったのだと悟った彼はその労をねぎらった。

 アロナが言うにはシッテムの箱の電力を消費する代わりに様々な攻撃から所有者、つまりマイケルを守る仕組みがあるらしく、今回攻撃をそれで防いだ代わりに残電量が30%にまで落ち込んでしまったということらしい。当然ながらこの残電量では同じ攻撃は防げない。

 

 

”いつもの機能は使えるか? 『メタルウルフ』は使えないから指揮オンリーで頼む”

 

『はい! 問題ありません! それにしても……招待したわけでもないのに図々しいですね、マーケットガードは』

 

”招かれざる客にはご退場願わないとな”

 

 

 何時もは『メタルウルフ』の機能の補助になっていて目立たないが、シッテムの箱はそれ単体で戦場を俯瞰できる能力を持つオーパーツだ。有ると無いとでは指揮における快適性が全く異なる。

 その場にいながら周囲を無人偵察機(ドローン)無しで把握出来る上に、敵味方のタグ付けまでしてくれるという万能タブレット。軍隊からすれば喉から手が出るほどに欲しくなるのは間違いない。

 

 

”ヒナ、近づいてくるのは歩兵12、戦車2だ。やれるか?”

 

「問題ない……ところでさっき誰と話してたのか、後で教えてもらって良い?」

 

”後で、な……今だ!”

 

 

 マイケルの指示の下、ヒナは物陰から飛び出して近づくマーケットガードの一群へと銃口を向け、すかさず引き金を引いた。

 『終幕:デストロイヤー』のリコイルブースターが紫色に光り、回転を始めるとともに銃口から光が溢れ出る。

 

 

―――その集団が戦車も含めて壊滅するのに、10秒もかからなかった。

 

 

******************************************************************

 

 アビドス廃校対策委員会が現場に到着した時、すでに柴関ラーメン周辺の家屋はその殆どが破壊されており瓦礫の山と化していた。

 幸いにもこの近隣区画は人の居住は少なく人的被害は少なそうではあるが、柴関ラーメンは完全に破壊し尽くされており、柴大将の姿も見えない。

 

 

「これは……酷い」

 

「い、一体何が起きてるっていうのよ……」

 

 

 あまりの惨状に言葉を失うシロコとセリカ。呆然と佇み、状況の把握をしようにも頭が真っ白に染まって何も考えられなかった。

 

 

「アヤネちゃん、先生の無事は確認できますか?」

 

『わ、わかりません……シグナルはロストしたままです。柴関ラーメンがあの様子では、もしかしたら……』

 

 

 辛うじて冷静さを保っていたノノミがアヤネにマイケルの安否を問うが、帰ってきた答えは望ましいものではなく、アヤネ自身も最悪の可能性が頭をよぎっているのか声が暗い。

 ノノミ自身、まさかという考えを捨てきれずに『リトルマシンガンV』を握る手に思わず力が入ってしまった。

 ―――銃声、怒号、そして悲鳴、戦闘はいまだ終結の気配を見せずに続いており、ここがアビドス自治区であるということを忘れそうになってしまうが、戦闘を停止させねばならない。

 何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『……ッ! こちらはアビドス高等学校です。戦闘中の全勢力に通告します! 直ちに戦闘行為を停止して自治区より撤収してください。繰り返します―――』

 

 

 戦闘を止めるべくアヤネが緊急周波数を用いて呼びかけるが、無線で反応するものは誰もおらず戦闘が継続されているのが返答といえた。

 

 

「な、なんで誰も私達の言う事を聞かないの!? ここはアビドス自治区でしょ!」

 

「こんな時に限ってホシノ先輩と連絡がとれないなんて……」

 

 

 困惑するセリカ、連絡が取れないホシノを案ずるノノミ。

 そもそも戦闘中の勢力が把握できていないため動くに動けない対策委員会の3人をよそに、戦闘の激しさは増す一方だ。

 

 

「こうなったら殴り込むしか―――」

 

「くそっ! あんなに戦車がいたら接近できないぞ!」

 

 

 シロコが意を決して戦火に飛び込もうとした時、砲撃に追われるように10人と少しの集団が彼女たちの視界に飛び込んできた。

 それは、マーケットガードの攻撃を回避して少し離れた場所に降下したゲヘナ風紀委員会の面々であり、彼女たちは地上から戦場にたどり着いたもののマーケットガードのクルセイダー戦車の集団に遭遇してしまい逃げ込んできたのだ。

 

 

『あの制服……ゲヘナ学園の生徒です!』

 

「げっ、アビドスの生徒と鉢合わせちゃったんだけどアコちゃん」

 

 

 対策委員会との遭遇に思わず顔を引き攣らせるのは部隊指揮官の銀鏡イオリだ。面倒ごとの気配を感じ取ったらしい。

 

 

『こちらで対応するのでイオリは委員長の救出を最優先に……さて、アビドス高校の生徒の皆さん、こちらはゲヘナ学園風紀委員会行政官の天雨アコと申します』

 

 

 風紀委員会の部隊に同行していたドローンがホログラムを投影し、着陸したNH90ヘリコプターの中で作戦の統括を行っている天雨アコの姿を映し出す。

 相対する対策委員会の3人とドローンの向こうで見ているアヤネは胡乱げな視線を向けた。

 

 

『我々は空崎ヒナ委員長救出のために作戦行動を取っています。そちらも、シャーレのマイケル先生の救出を優先したほうがよろしいのでは?』

 

「何よ、それがここで勝手に部隊を動かしていい理由になるわけが―――」

 

『あら、どうして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

「―――は?」

 

 

 ヒナのことで頭がいっぱいなアコは対策委員会に対して私達に構ってる暇は無いだろうと告げた。

 それに対しセリカが自治区における無断侵攻を抗議するが、アコの返答に言葉を失う。

 許可を取る必要がないとはどういうことなのか、あまりにも予想外の答えに思考が止まってしまったのだ。

 その様子を見たアコはやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。

 

 

『もしかしてご存じないのですか? ここはアビドス高校の所有する土地ではないのですが』

 

 

 明らかになる衝撃の事実。もしこのような状況でなければアコはアビドスの責任を追及するために黙っていただろうが、対策委員会と言い争いする時間すら惜しい以上は最初から情報を与えて黙らせる方が早いと彼女は判断した。

 

 

「……」

 

『……どうやらその様子では何も知らないようですね。信じられないのでしたらどうぞ地籍図でも確認してみてください。私達はヒナ委員長救出に忙しいので』

 

「ま、待ってください」

 

 

 話はそれだけです、とアコは話を打ち切ろうとしたが、ノノミはそれに待ったをかけた。

 まだ何かあるのかと少しうんざりした表情を見せるアコであったが、ノノミは臆さずに言葉を続けた。

 

 

「風紀委員長さんと先生は会談の予定があると聞いています。もしかしたら先生は一緒にいる可能性がありますから私達も一緒に行かせてもらえませんか?」

 

『ふむ……』

 

 

 わざとらしく顎に手を添え、考えるアコ。実際の所、アビドス高校側からの協力の申し出は悪くないものではあった。

 用意できた部隊は僅か1個分隊、殴り込んできたマーケットガードの歩兵の数だけで200を超えているので数で見れば圧倒的に不利な状況なだけに僅かな手勢も欲しくなる。

 

 

『わかりました。イオリ、調整はそちらに任せます』

 

「ちょっとアコちゃん!?」

 

 

 ヒナ救出のためであれば使える手はなんだって使う。アコの答えは是であり、細かい現場の調整はイオリにまかせて再び彼女はドローンの操作に集中する。

 面倒事を放り投げられたイオリは思わず抗議したもののスルーされ、ため息をつくと対策委員会の3名と正面から向き合った。

 

 

「……ゲヘナ学園風紀委員会2年の銀鏡イオリだ。手伝ってくれるなら歓迎する」

 

「はい、よろしくお願いしますイオリさん!」

 

「ん、よろしくイオリ」

 

「よ、よろしく……」

 

 

 一触即発の空気はどこへやら、穏やかな様子で握手を交わす対策委員会とイオリ。かくして、ゲヘナ・アビドスの連合部隊が編成される運びとなった。

 

******************************************************************

 

 硝煙が立ち上る銃口、赤熱化した銃身、ヒナの『終幕:デストロイヤー』がその破壊の力を開放した後にはぺんぺん草も残らないとはゲヘナの不良の言である。

 実際、彼女の前に立ちふさがったマーケットガードの兵士は軒並みボロの鉄屑に成り果て、戦車も()()()()()の前には自慢の装甲も水で濡れた段ボールのようなものであり、彼女の通った道に点々とその骸をさらしていた。

 

 

「……ふぅ」

 

「風紀委員長が味方だとこんなに頼もしいんだね~」

 

 

 ヒナが銃口を下ろすとその横でムツキがニコニコしながら率直な感想を述べる。

 アルとヒナの二人でマーケットガードの戦車中隊*2を攻撃している最中に便利屋68の残りのメンバーが合流してきたこともあり、最初は生徒二人と大人二人であった一行は今や2倍程度の規模に膨れ上がっていた。*3

 ゲヘナでも屈指の猛者揃いである便利屋68とゲヘナ最強のヒナがタッグを組めばまさに向かう所敵なしといったところであり、そこにマイケルの戦術指揮が追加されるのだから完全に手のつけようがない。

 

 

「そ、それに先生の指揮下に入ったらとっても戦いやすかった……です」

 

「そうだねハルカ。先生って直接戦わなくても居るだけで大きなアドバンテージになるんだね」

 

 

 初めてマイケルの指揮下で戦った便利屋たちはその効果の高さに感嘆するほか無く、特に最前線で戦うハルカからすれば視界に入らないはずの後方の敵の導線まで見通せるマイケルの指示は有ると無いとでは戦いやすさが段違いなのだ。

 そして、カヨコもハルカと同じ感触を得たことでそれを肯定した。彼女もまた比較的前方で戦うスタイルなので恩恵は大きい。

 

 

「それよりも先生、次はどっちに向かうべきかわかる?」

 

 

 じゃらりと音を立ててベルトリンクを装填しながらヒナはマイケルに問う。すでに多くの敵を撃破してきたこともあり、一時期の包囲状態と比べれば移動の自由度は高くなっていた。

 だが、それでも一個大隊レベルの部隊を展開しているマーケットガードの主力を駆逐するには至っておらず、指揮車である巨大な戦車、『ドロシー2』は健在でこの会話の途中に高エネルギー砲が放たれる音が銃声を上書きするように轟いていた。

 

 

”……どうやら探す手間が省けたようだ。連中の主力と風紀委員会、それに対策委員会の皆が交戦している”

 

「ふん、だったらこのまま一気に叩いてしまいましょう。私達の恐ろしさをマーケットガードの連中に刻み込んでやるわ」

 

 

 シッテムの箱を覗き込んでいたマイケルは、その轟音を聞いて肩を竦めた。画面に映し出されている戦術マップ上では友軍を意味する青いアイコンが敵軍を意味する赤いアイコンと激しく激突していた。

 隣で画面を覗き込んでいたアルは今こそマーケットガードにギャフンと言わせてやろうと意気込み、便利屋の他のメンバーたちも頷いて同意している。

 

 

”よし、無粋な連中にはそろそろお帰り願おうか。頼むぞ、ヒナ”

 

「任せて」

 

 

 装填の終わった『終幕:デストロイヤー』を構えてヒナは頷く。

 彼女の本気の射撃である()()()()()は正式に測定した訳では無いが、恐らく『メタルウルフ』の持つ最強のエネルギーマシンガンであるMG200ENに匹敵する威力を持つであろうとマイケルは推測しており、実際クルセイダー戦車を何両も葬っているので威力は折り紙付きだ。

 彼女を主力に据えて一気に横から敵主力を叩くというプランを実行すべく、一同は前進する。

 

 

”あれは……『ドロシー』か。なるほど、あいつの砲撃を食らったんだな”

 

 

 敵の不意をつくべく入り組んだ路地を通ってきたマイケルたちは、ついにマーケットガード主力部隊を望む位置にたどり着くことができた。そして指揮車である『ドロシー2』の存在を認識して彼は顔を歪める。同時に、よくもまああんなのを食らって無傷で済んだなという思いを抱いた。

 あれは生身の生徒では正面切っての戦闘は難しいだろう。それこそ、ヒナのような異常火力を用いるかホシノのように取り付いて搭乗者を無力化するしかない。

 

 

「先生はアレを知っているの?」

 

”ああ、それに一度撃破している”

 

「そう……なら、先生の指示通りにやれば撃破できるってことよね!」

 

 

 しかし、便利屋68は、陸八魔アルは怯まない。

 彼女が信じる自由のために、ブラックマーケットに君臨する大人たちへの反逆(リベリオン)は今始まるのだ。

 

******************************************************************

 

「ああもう! 銃弾が通らない!」

 

 

 自慢のライフルの速射を『ドロシー2』に弾き返され、イオリは思わず吐き捨てた。

 ゲヘナ・アビドス合同部隊はあれから何度かマーケットガードの小部隊を撃破しながら前進を続けた結果ついに主力部隊との遭遇を果たしたわけなのだが、主力部隊は『ドロシー2』とクルセイダー、固定戦闘室の突撃砲を主体とする重装甲部隊であり、合同部隊の火力の低さが露呈する形となった。

 何両かはシロコのドローンのミサイルで破壊できたし、随伴歩兵もどうにか部隊全員で攻めて半壊状態に持ち込めたが戦車、特に『ドロシー2』に対する対抗策の欠如は致命的だ。

 

 

「ホシノ先輩なら肉弾攻撃でやれるのに……!」

 

「居ない人の事を考えても仕方がないでしょ! ああもう! じっくり狙う時間もない!」

 

 

 己の実力不足を嘆くシロコ。ホシノであれば戦車に飛び乗って搭乗員を無力化するという戦法で戦えただろうが、彼女はまだ敵弾を全てかいくぐるだけの能力はない。

 一方でセリカは得意の射撃で砲口を狙おうとするが、こちらも確実に命中を期せる状況に持ち込めずにいた。

 

 

「アヤネちゃん、先生のシグナルはまだ確認できませんか!?」

 

『ちょっと待ってください、ノイズが激しくて……ッ!? ノノミ先輩、付近に先生のシグナルを発見しました! インカムでの応答はありませんが……接触してきます!』

 

 

 風紀委員会のミニガン持ちと共に戦車への牽制射撃を行っていたノノミは焦りを隠せずにアヤネにマイケルの所在を問う。これだけの質と量を併せ持つ敵と戦うには彼の指揮は不可欠だ。

 問われたアヤネはドロシーの砲撃で発生するノイズによって困難を極めたものの、ついにマイケルの所在を示すシグナルを見つけることに成功した。

 しかし、通信への応答は相変わらずなく、やむなくアヤネはドローンを向かわせて接触を図ろうとしたが、その瞬間『ドロシー2』の砲塔左右に装備されたミサイルポッドに()()()()()()が突き刺さり、僅かに間をおいてそれは大爆発を起こし、『ドロシー2』の砲塔は引火したミサイルの推進剤によって炎に包まれた。

 

 

『何だ! 指揮車がやられたぞ!?』

 

「あの銃撃、まさか……」

 

 

 予想外の攻撃で指揮車に大損害を被ったマーケットガードの部隊に動揺が広がる。

 イオリはその目の良さから()()()()()()を視認しており、それを放った人物を予想して銃撃の放たれた方向に顔を向けた。

 

 

「ふっふっふ……この銃弾は特別サービスよ」

 

 

 不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと路地から出てくるのは便利屋68の陸八魔アル。続けてハルカ、カヨコ、ムツキが飛び出して陣形を形成する。

 なんでコイツらがこんな所にいるんだとイオリが首を傾げたところで、マーケットガード部隊の最後尾から炎が上がった。

 

 

「あれはまさか!」

 

「委員長だ!」

 

「無事だったんですね!」

 

 

 その一方で、黄色い歓声。()()()()()がマーケットガードの戦車部隊を次々に穴開きチーズにしていくのを見て風紀委員たちが色めき立つ。あの攻撃を行えるのはキヴォトスでも一人しか居ない。

 火の海になった大通りを炎に照らされながらゆっくりと、まるで自らの武を誇示するように歩むヒナの姿を確認したその瞬間、風紀委員たちの士気は最高潮に達した。

 

 

「ヒナ委員長に続け!」

 

 

 マーケットガードが総崩れをし始め、兵士たちが背を向けて逃げ出すのを見た風紀委員達は直ちに追撃の姿勢に移行する。

 5名ほどが戦闘不能に追い込まれ、彼女(ゲヘナ風紀委員会)たちは極めて寡勢でありながら高い戦闘意欲によって攻撃の手を緩めることはなかった。

 

 

『お、おのれ……便利屋にいいようにされたまま終わってたまるか!』

 

「まだ動く!」

 

 

 最後まで便利屋への恨み言を漏らしながら『ドロシー2』は燃え盛る砲塔を振り回して近づくヒナに向けて主砲を向けた。

 エネルギーチャージと共に砲口から光が漏れ出すのを見てヒナは駆け出し、腰から生える翼を大きく広げると『ドロシー2』の主砲が放たれるより僅かに早く大地を蹴って宙を舞う。

 最大出力のエネルギーの奔流が道路を融解させるが、ヒナはその熱によって発生した上昇気流を翼で掴むと十分な高度を取ったうえで銃口を『ドロシー2』へと向け、引き金を引いた。

 回転するマズルブースター、銃口から溢れる光は一条の閃光となって『ドロシー2』の天板を撃ち抜き、車体を貫通して道路を穿った。

 

 

『ば……馬鹿なぁぁぁ!?』

 

 

 指揮官の絶叫を最後に『ドロシー2』は損傷したキャパシタから炎を噴き出し、車内の可燃物に引火して大爆発を起こした。

 巨大な砲塔が宙を舞い、ドロドロに溶けた路面に砲身が突き刺さって即席の墓標を生み出す。

 搭乗員たちは爆発の余波でバラバラになりながら周辺に散らばったものの、ロボット族なのでこの程度で死ぬことはないだろう。

 

 

「ふぅ……ようやく終わった」

 

「委員長、お怪我は大丈夫ですか!」

 

 

 着地し、静かになったアビドス市街地の様子に戦闘の終結を感じ取ってヒナは大きく息を吐く。

 駆け寄ってくる風紀委員達。チナツが即座に医療キットを持ち出してきたが、それを片手で軽く制止して路地を指差す。

 

 

「民間人の負傷者が居る。そっちを優先して」

 

「は、はい」

 

 

 医療キットの入った鞄を持ち、指示された路地へと向かっていったチナツは路地から出てきた人影を確認すると驚愕の表情を浮かべた。

 

 

”やあチナツ、迷惑をかけるね”

 

「せ、先生……」

 

 

 柴大将を担いだままのマイケルがそこにいた。

 

******************************************************************

 

「もう! 返事をしてくれないから死んじゃったかと思いましたよ!」

 

”すまない、インカムが吹き飛んで応えようがなかったんだ”

 

 

 戦いは終わった。静寂を取り戻したアビドスの市街地でむくれるノノミを宥めるマイケルは、四方をアビドスの生徒及びドローンに包囲され動けないでいた。

 チナツの診断により瓦礫から掘り出された時の小さな傷以外は特に無しとのお墨付きをもらっていたのだが、柴関ラーメンが吹き飛んでいる以上は安堵より心配が勝っているので全員で彼を囲んで安全を確保したいらしい。

 

 

「先生」

 

”あぁ、ヒナ……そっちはどうだ?”

 

「アコを落ち着かせるのに時間がかかった。それにしても、まさかマコトがマーケットガードの動きを掴んでいただなんて」

 

 

 風紀委員達から解放されたヒナが少しシナシナになりながらも、風紀委員会がやってきた経緯を話し始める。

 マコトの電話、それに焚き付けられたアコの半ば暴走じみた出撃、結果オーライではあったもののその経緯や意思決定には色々な問題があるのでヒナはかなり面倒そうな表情を浮かべていた。

 

 

「どうせマコトのことだから、先生に恩を売りたかったんだと思う。でも、マーケットガード、ひいてはカイザーと正面から争うつもりもないから風紀委員の独断で動いたという体にしたんでしょう」

 

”随分と頭の切れる奴だなマコトは。それだけ私に利用価値が有ると思っているのか”

 

 

 流石に付き合いの長いヒナはマコトの狙いを看破して呆れた様子を見せるが、マイケルは逆に関心した様子であった。まだ彼はマコトの騙されやすさを知らない。

 

 

「それはそうと先生、『メタルウルフ』はどうしたの?」

 

”あー、あそこだ。掘り起こすのを手伝ってくれないか?”

 

 

 そういえばなんで生身なんだという疑問にようやくシロコがたどり着き、マイケルが指し示した方を見ると、先程からずっと変わらず柴関の跡地で残骸に埋もれ、横倒しになっている『メタルウルフ』の頭が見えた。

 それを見た対策委員会の3名はあんぐりとした様子で、何ならドローン越しでみているアヤネすら呆然としている。まさかこんな事になっているなんて思ってもみなかったのだ。

 

 

「それなら、私にも手伝わさせて。先生にはお礼をしておきたいし」

 

「風紀委員長さんも手伝ってくれるんですか?」

 

「ん、4人でやればすぐ終わる」

 

「そうね、だから先生は休んでていいわ」

 

 

 『メタルウルフ』を掘り起こす作業をヒナも手伝うと手伝うといえば、対策委員会の3名もニッコリとそれを受け入れる姿勢を見せた。

 そして、いざ作業を始める段階になりヒナが手伝おうとしていることに気づいた風紀委員会の面々も、戦闘不能者以外の全員が手伝うことを選んだ結果、5分も経たずに『メタルウルフ』の上に覆いかぶさっている瓦礫を除去することができた。

 横倒しになっているが、この状態でも()()()に袖を通すことは可能だろう。

 

 

”……凄いな、人間ディガーかキヴォトス人は”

 

 

 生身で道具もほぼないのに、そこそこの重量のありそうな瓦礫をホイホイ除去した彼女たちの様子を眺めていたマイケルは思わずこぼす。地球人とはあまりにも膂力が違いすぎた。

 ついでと言わんばかりに『メタルウルフ』をクレーンも使わずに起こそうとした時―――

 

 

 

「うへー、柴関ラーメンが跡形もなくなってるのはどういうことかな?」

 

 

 

 ―――底冷えする気配を振りまきながら、ずっと連絡の取れなかったホシノが現れた。

 

 

To be Continued in ChapterⅡ-Ⅱ ”Debriefing”

*1
横乳

*2
小隊ではない!

*3
嘘はいっていない




ヒナが相当強い描写になっていますがゲヘナ最強ならこのくらいはやれるでしょう。
そしてマコトも何故かものすごく切れ者みたいな感じに。これではアリウスに騙されないのでは…?
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