METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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Chapter Ⅱ-Ⅵ ”Endless Carnival”(終わらない祭典)

 翌朝、窓から差し込む朝日に照らされ、眩しさを覚えたシロコは誰に起こされるわけでもなく目を覚ました。

 穏やかな目覚めであり、昨日のような身体の不調は感じられず、気持ちも落ち着いている。

 

 

「ん……」

 

 

 ふと横を向けば、そこでは椅子に座ったまま俯き、眠っているマイケルの姿。一晩中そこに居たのか、服装も昨日のままだ。

 眠りにつく前に「そばに居て」とお願いした記憶が蘇り、思わず顔を赤らめて思わず掛け布団を引っ張りあげて顔を隠したが、ここには眠りについているマイケルしか居ないこともあり、直ぐに隠すのをやめた。

 眠っている彼の横顔をじっと見つめる。

 何時もオールバックでまとめていた髪型は崩れ、頬は最初に出会った時と比べてやや痩けているようで、ヒゲも処理する暇がなかったのか無精髭だ。

 ただでさえ忙しいのに、対カイザー作戦に加え、自分が勝手な行動をした結果より負担をかけてしまったのだということに思い至ると、申し訳無さで顔向けできないという思いが強くなる。

 

 

「ごめん、なさい……」

 

 

 絞り出すように謝罪の言葉を口にするシロコ。それは昨日のような困惑のまま口にしたものではなく、心の底からのものであった。

 

 

”……謝るのは私の方だ”

 

「ッ! せ、先生!?」

 

 

 それに答えるように目を覚ますマイケルに、シロコは目を丸くする。そして身体を伸ばし、髪型を整えた彼は椅子に座ったままシロコに向き直すと、その手を力強く握った。

 握る手の暖かさに心が解されていくのを自覚した彼女は、静かに彼が続ける言葉に耳を傾ける。

 

 

”カイザーとの戦いに必要だからと、あの時君たちのそばに居てやれなかった……それは私の完全な落ち度だ。下手な策を弄するべきではなかったと、今更ながら反省している。もっと君たちに寄り添っているべきだった”

 

「そ、そんな事無い……先生が居なかったら、アビドスは何も変われなかった。先生のお陰で、私達は今こうしてカイザーと対峙できてる。先生は何も間違ったことなんて―――」

 

 

 マイケルの懺悔にシロコは大いに狼狽える。彼のアビドスへの貢献は誰もが認めるものであり、故に彼女は全幅の信頼をおいていたのだ。

 その彼が間違っていたなんて、俄には認められなかった。

 

 

”シロコ、確認したいことがある。何かこう……『死』というものを強く連想することがなかったか? これは重要なことだ、正直に……答えて欲しい”

 

「えっ……あっ……」

 

 

 唐突な質問に、シロコは言葉に詰まる。

 質問された内容を理解するのに少々時間を要し、それを理解した瞬間、頭の中に広がるのは悪夢の光景。撃ち倒されたホシノと、血まみれで倒れるノノミ、セリカ、アヤネの姿。

 それを強く意識した途端、猛烈な不快感と共に吐き気を覚え、シロコは口元をおさえた。

 

 

「うぅっ……」

 

”シロコ! すまない、無遠慮すぎたな……忘れてくれ”

 

「大丈夫……大丈夫、私も……先生に相談したかった」

 

 

 吐き気を堪えながら、シロコは悪夢の内容を話し始める。

 あまりにも現実離れした、しかし何故か現実感を感じられるその内容は、マイケルの中にあった疑念を確信へと変えていった。黒服の推論は、おそらく正しいと。

 

 

”すまないシロコ、私の責任だ。君がその悪夢を見るようになったきっかけは、おそらく私なんだ”

 

「どういう事なの先生?」

 

”話せば長くなるが―――”

 

 

 そして、マイケルは黒服との会話を要約しながら話し始める。とはいえ、シロコを過剰に傷つけることがないように、シロコがキヴォトスを破壊しかねない存在になりうるというところは隠したのだが。

 話を聞き終えたシロコはその情報量のためうまく飲み込めずに居たのだが、それでも理解できたのは、先生は外の世界では多くの人を殺し、死地へと追いやる命令を出す立場にあったということ。それが何の因果か、自分に影響を与えてしまったらしいということだった。

 先生に人殺しの経験がある、という事実は生徒であるシロコ大きな衝撃を与えるものだ。

 このキヴォトスでは、人殺しというものはかなり忌避されているが、その理由の一つに()()()()()()()がなければそれを成し遂げることは出来ないから、というのが存在する。

 その一方で外の世界(地球)では、キヴォトス人のように銃弾に耐性がないにも関わらず、人々は銃を使って争い、傷つけ合う。その常識の違いは大きい。

 

 

「……でも、先生はとても優しい。それは間違いないから、私は先生を嫌いにはならないよ」

 

 

 マイケルにとって拒絶されることを覚悟したうえでの告白であったが、予想に反してシロコはすべてを悟ったような顔をしてそれを飲み込んだ。予想外の反応に、彼は目を丸くする。

 

 

”それでいいのか? 私は清廉潔白な人間ではない……”

 

「うん、先生が私を、アビドスを、ホシノ先輩を心配してくれているのはすごく良く分かってる。それで十分だよ、皆もそう思ってるよね?」

 

”皆?”

 

 

 シロコの言葉に振り向くと、保健室の戸のガラス越しに映る複数の人影。彼がぎょっとすると、勢いよく戸が開いて対策委員会の3人が姿を見せた。

 

 

「水臭いですよ先生、たとえ先生の前職がなんであったとしても、今は私達の先生なんです。そこに嘘偽りがないのは私達が一番良く知っています」

 

「そうよ、先生が命がけで私達を助けてくれようとしているのは、ここに居る全員が分かってるんだから」

 

「今の話も、シロコ先輩のことを心配したうえでのことですよね?」

 

”おいおい、どこから話を聞かれていたんだ?”

 

「それはもう、”話せば長くなるが”というところから?」

 

”ほとんど最初からじゃないか”

 

 

 まさかの話を全部聞かれてたという事実にマイケルは脱力する。こうなっては隠し事にすることは不可能だ。

 

 

「私達は運命共同体ですから、隠し事は駄目ですよ先生? それに、シロコちゃんも」

 

 

 ほんの少し「私怒ってますよ?」という表情を見せるノノミに凄まれれば、最早どうしようもないと彼は苦笑し、巻き添えを食らう形となったシロコは納得いかないという表情を浮かべたものの、ノノミがより笑顔で圧をかけると、頭部の耳が垂れ下がりしゅんとした様子で頷いた。

 そんな二人の様子にノノミは満足気に頷くと、両手を叩いて皆の注目を集めた後にニッコリと笑って口を開く。

 

 

「それでは、みんなで朝ご飯を食べた後にホシノ先輩救出のための行動を起こしましょう!」

 

 

******************************************************************

 

 朝食を済ませ、アビドス高校の校庭に出た対策委員会のメンバー4人とマイケルを迎えたのは近くの事務所からやってきた便利屋68のメンバーたちだ。

 包帯をまだ身体に巻いているハルカを支えるようにアルとカヨコがその両脇に控え、ムツキはフリーで何時ものようにカバンと愛銃『トリックオアトリック』を抱えていた。

 彼女たちは対策委員会のメンバーの中にシロコがいることを確認すると一瞬だけ目を丸くし、僅かな間をおいた後にハルカを引っ張りながら駆け寄ってきた。

 遠くから見てもリーダーであるアルの顔は歓喜の色に染まっているのがわかる。

 

 

「シロコ、あなた無事だったのね!」

 

「ん、先生のおかげ」

 

 

 シロコの手を握り、ブンブンと上下に振るアルは満面の笑みを浮かべており、とてもアウトローグループのリーダーとは思えない。

 便利屋68がこうしてシロコとの再会を喜んでいると、今度はアビドス高校の敷地外から掛け声、というか歌が聞こえてくる。その声は対策委員会のメンバーには一切聞き覚えのないものであったが―――

 

 

「整列! 全体、止まれ!」

 

 

 正門から走り込んでくる4人の人影、各種タクティカルギアをつけておらず制服のみの姿であったが、彼女たちはSRT特殊学園2年のHOUND小隊だ。

 朝の鍛錬としてのランニングを終えた彼女たちは小隊長であるトミの号令の下、整列する。

 先程の歌はトミのミリタリーケイデンスであったのだが、その内容はかなり卑猥であったのでこの場では割愛させていただく。

 

 

「あれはカズミさん、ということはあの方々はSRTの人でしょうか?」

 

「そうだ! 我々はSRT特殊学園2年、HOUND小隊。私は小隊長の岸洲トミだ!」

 

 

 カズミ以外のHOUND小隊のメンバーと顔を合わせるのは初めてであったため、対策委員会の面々は互いに顔を合わせて自己紹介を始める。シロコに至ってはカズミがやってくる前に行方不明になっていたので、全員初対面だ。

 

 

「ほほう、貴様が行方不明者その1の砂狼シロコとかいうやつだな。中々いい面構えをしている、HOUND(猟犬)小隊に入らないか?」

 

「ん、私は犬じゃない。それに、私の居場所はここ(アビドス)だから」

 

「ハハハ! いい根性だ、だったら二度とカイザーに捕まるようなヘマをするなよ」

 

 

 自己紹介を終え、シロコに興味を示したトミが勧誘を試みるも、本人はアビドスが大事だとして一蹴するが、トミとしても本気ではないので笑って済ませる。

 とはいえ、イヌ科のケモミミを備えている同士ということでシンパシーを感じるらしく、部隊員全員がシロコを比較的好意的な目で見つめていた。

 

 

”よし、とりあえず全員いるな。これから対カイザー作戦についての説明を始める”

 

 

 アビドスに協力するメンバーが集合したため、マイケルは皆の交流もそこそこに話を始めた。全員の視線が彼へと集まっていく。

 

 

”シロコの救出と同時に、ホシノの居場所も判明した。砂漠のカイザーPMC基地で間違いはないが、そこに攻め入るための戦力が不足している。そこで昨日、三大校に協力を要請したわけだが、まずゲヘナはマコト議長から許可を得られた。しかし、トリニティとミレニアムからはまだ回答がない。そこで本日はまずゲヘナへと向かい、風紀委員に事情を説明していこうと思う”

 

「昨日言ってたようにヒナを呼ぶわけね」

 

 

 相変わらずヒナに対して苦手意識が抜けないアルは、若干顔を引き攣らせたまま合いの手を入れたわけだが、それに対してマイケルはしっかりと頷いて答えた。

 

 

”そうだ、それとアル……今回は攻める側だ。君たち便利屋には依頼料を支払うべきだろうな、どうだ、いくらがいい?”

 

「……え?」

 

 

 そのまま自分達の依頼料の話になるとは思わなかったこともあり、アルは数秒反応ができずに固まってしまう。その数秒、僅かな瞬間を見逃すことなくムツキが割って入ってきた。

 

 

「あのムカつくPMC理事をぶっ倒せるならタダでもいいってアルちゃんなら言うよね?」

 

「さ、流石アル様……気に入らない相手を消せるならタダ働きも厭わないなんて、なんてハードボイルドなアウトローなんでしょうか! 今度こそ私もアル様の足を引っ張らないように一生懸命頑張ります!」

 

 

 ムツキとしては最近ちょっと()()()()()になってきたアルに対する意趣返しであったのだが、それをアルの意思と誤解したハルカがキラキラと目を輝かせて尊敬の念を見せてくると、アルとしても否定がしにくくなる。

 彼女のネガティブさを知っているとその期待を下手に否定できないのだ。

 ついでに言えば、対策委員会の4人もひどく感心した表情を浮かべており、もとより見栄っ張りであった彼女の性格からすれば、ここまでの人数に()()思われているとなると、多少改善傾向にあるとはいえ、思わずそれに乗ってしまう。

 

 

「そ、そうよ、大金を積んでもらう必要なんて無いわ。私達は私達の名誉のためにカイザーPMCを倒す、それだけよ」(い、言っちゃった~~~!!)

 

「はぁ、まったく社長は……」

 

 

 せっかくの機会をとカヨコはため息を付くが、もちろんマイケルはそういうことで金額をケチるような真似をしないので、後で直接手渡される札束に便利屋一同目が飛び出そうになるのはまた別の話である。

 

 

******************************************************************

 

 ミレニアムサイエンススクールの中心にそびえ立つミレニアムタワーの最上階、生徒会セミナー会長である調月リオの執務室は日中であるにもかかわらず全てのブラインドカーテンが降ろされ、薄暗い照明の中部屋の主であるリオがタブレットを手に思案に耽っていた。

 タブレットにはユウカから送られてきたシャーレ支援に対する提案書が表示されており、今彼女を悩まさせているのはまさにそれだ。

 どう対応するのが合理的なのか、メリット・デメリット、そしてリスクを天秤にかけながら彼女は天才的な頭脳で考えるものの、決定打となるものがないのでいまいち決めきれない。

 そんな中、無遠慮にドアが開かれ、特徴的な笑いを伴いながら一人の生徒が入ってきた。

 

 

「ンフフフ、呼んだかリオ?」

 

「……えぇ、貴女の考えが聞きたいの、リツコ」

 

 

 やってきたのはセミナー副会長兼保安部長である鷹乃リツコ、セミナー単独で動かせる最大戦力かつ幼馴染の彼女の意見を聞くべく、リオは呼びつけていたのだ。

 先程まで一般業務をこなしていたこともあり、保安部としての兵装ではなくセミナー制服を身にまとったリツコはズカズカとリオのデスクに近づくと、彼女のタブレットを覗き込む。

 

 

「これはユウカの……ははぁ、シャーレからの支援要請か。悩む必要はないだろ、ミレニアムは先生に借りがある。というか、私がだな」

 

「それは……そうなのだけれど、ゲヘナとトリニティにどの程度まで見せていいのか、そこで貴女の意向を知りたいのよ。出すならば、貴女に頼みたいと思っているのだから」

 

「あぁ、私が出ることは内定しているわけかよ、そこは勝手に進めるんだな……まぁそれは別にいいが、私としては出すなら『マーク0』くらいだったら構わない。お前のAMASだっていうほど秘匿する必要はないしな」

 

 

 事も無げに出せるものを出せばいいというリツコに、リオは豆鉄砲を食らったような表情で彼女を見上げる。

 リオはミレニアムの優位性維持のために機密保持を徹底する傾向があるが、リツコはそうではないのでその齟齬が表面化した形といえた。

 

 

()()()()()だったら問題だったかもしれないが、今のゲヘナにミレニアムの技術をどうこうする頭脳はないだろ? それに、トリニティは保守的でミレニアム(うちら)の新兵器に興味を持つとは思えん」

 

「……そうね、ではミレニアムはシャーレの支援をするということで連絡をしておくわ」

 

「あいよわかった、私はマーク0の準備をするから、お前はAMAS1セットと輸送機の手配をしてくれ。AMASの戦闘テストにピッタリの相手だ、カイザーPMCは」

 

 

 方針が決まればあとは早い。

 リツコは即座に会長室を出て自身のラボへと向かい、部屋に残ったリオは手元のタブレットを操作してマイケルへと回答を送った後、諸々の準備のために彼女もまた会長室を後にした。

 

 

******************************************************************

 

 

 トリニティ総合学園本館、生徒会たるティーパーティーの専用テラスは、ティーパーティーの役員以外の人間が立ち入る事はほぼない。

 ティーパーティーのホストがこの場に相応しいと認めない限り、門をくぐることが出来ないのだから当然と言える。

 そんなこの専用テラスに、ティーパーティーの制服を着ていないトリニティの一般生徒が一人。

 その背後にすんと控えているのはフィリウス派次官である洲根イルミ、対して一般生徒―――阿慈谷ヒフミと向き合っているのは、ホスト代行である桐藤ナギサだ。

 

 

「なるほど、イルミさんの入れ知恵でしょうか?」

 

「ち、違います! これは私の意思で、私が望んでのことなんです!」

 

 

 ギロリ、と控えるイルミを睨みつけるナギサ。

 ヒフミは慌ててそれを否定するが、政敵(ライバル)として知られる二人の関係性を鑑みると、寵愛しているヒフミに何吹き込みやがったコイツと思われても無理はない。

 とはいえ、今回は双方の目的の一致―――トリニティによる対シャーレ、アビドス支援実施―――があるため、ナギサが思っているような事態ではないのだが、やはり割と事あるごとに嫌味を飛ばしてくるような同派閥のNo.2が後ろにいると、何事もなくとも疑ってしまうのものだ。

 

 

「……連邦捜査部シャーレの顧問、マイケル・ウィルソン先生から要請があったのは事実ですが、私がこのことを持ち込むより早く阿慈谷ヒフミが貴女の下に走り込もうとしていたのもまた事実。むしろ、今回は阿慈谷ヒフミに半ば引きずられる形であったと言うことは理解していただきたい」

 

 

 目を瞑ったまま、抑揚もなく述べるイルミの姿を胡乱げにに見上げるナギサであるが、彼女の持ち込んできた書類とティーパーティー諜報部の得た情報を突き合わせてみてみると、現在アビドス自治区で発生している一連の事件は最早自治区内で完結するレベルを超えているのは確かだ。

 詐欺的手法による自治区内権限の侵害、グレーゾーン事態、最終的には直接攻撃による自治権の侵害など、カイザーグループのやり口は非常に陰湿かつ攻撃的で放置することは出来ないものであるが、とはいえアビドス高校側のアクションがない限り何も出来ないのが学園自治の取り決めというもの。しかし、連邦捜査部シャーレが動いたとなれば話は違ってくる。

 

 

「ヒフミさんの説明でカイザーグループの不正行為がおおよそ把握できました。何故そのような情報を知っているのかこの場で問うことはしませんが……」

 

「あ、あぅ……」

 

「捨て置くにはあまりにも案件が重大すぎます。この件、ゲヘナやミレニアムも動いているとなれば、私達だけが何もしないという選択肢を取ることは出来ませんね」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 ナギサの言葉に、ヒフミの表情が明るくなる。最初からダメ元での突撃説得であったのだが、()()目的を同じとする先輩(イルミ)と遭遇し、その協力のもと説得ができたというのは喜ばしいことだ。

 

 

「しかし、例の条約締結が近づいている以上、正義実現委員会主力を動かすわけにはいきません」

 

「屋外授業の名目なら色々言い訳ができるでしょう。あるいは、正実から選抜部隊を編成するか。さあ桐藤ナギサ、貴女はどのような選択をするのですか?」

 

「……」

 

 

 明らかに試すようなその声色に、ナギサの表情筋がピクリと引きつる。しかし、仮にもホスト代行であるため、内心を決して外に漏らすことなく彼女は出せそうな戦力を勘定していった。

 航空、機甲、この2つは展開こそ早いものの準備に時間がかかってしまうので即時に動かすことは不可能だが、そこでナギサは思い出す。丁度、ティーパーティー砲兵の屋外授業が今日行われるということを。

 

 

牽引式榴弾砲(L118)の屋外授業が今日予定されていましたね、どうですかヒフミさん、ちょっとしたピクニックなどは」

 

「待ちなさい桐藤ナギサ、まさか貴女、阿慈谷ヒフミにティーパーティー砲兵部隊の指揮を執らせるのですか!?」

 

「えぇ、ヒフミさんのたっての希望ですから。そしてイルミさん、あなたにはヒフミさんの補佐をお願いします。これはホストとしての指示です」

 

「っ!」

 

 

 先程の意趣返しと言わんばかりに、プライドの高いイルミに下級生の補佐につけと言い放つナギサ。

 今度はイルミの表情筋が引きつるも、彼女もここで騒ぎ立てることの無意味さを理解しているのでなんとか堪えた。嫌味や当てつけの応酬は派閥争いではよくあることだ。

 

 

「ヒフミさんが望むように、全てはお任せします」

 

「はいっ!」

 

 

 穏やかに微笑むナギサ。その裏に潜む意図(シャーレに貸しを作る事)に気づかぬまま、ヒフミはまばゆい笑顔でそれに応えた。

 

******************************************************************

 

 ゲヘナ学園風紀委員会の保有するヘリポートに誘導をされながら着陸する大型の強襲重攻撃ヘリコプターが1機、側面にヤギのエンブレムが描かれたそれはSRT所属のXAH-12だ。

 周囲の風紀委員の生徒たちがなんだなんだと騒ぎ立てている中、来訪予定を聞かされていないイオリが困惑しながら建物を飛び出してヘリへと近づいていく。

 

 

「一体急に何なんだ? このヘリ、SRTの所属じゃないか」

 

「ん、イオリ、元気にしてた?」

 

「シロコ! ということは、アビドスも一緒にいるのか、SRTのヘリに?」

 

 

 ヘリのローターが停止し、一番最初に降りてきたシロコが見知った顔(イオリ)を見つけて右手を軽く上げながら会釈する。

 イオリとしてはSRTのヘリからシロコが降りてきた事実に驚きながらも、この良くわからない組み合わせに首を傾げた。

 そして、対策委員会の残りの3人とHOUND小隊の3人がランプドアから降りてくると、最後にヘリのキャビンから出てきたのはマイケルその人であった。珍しいことに、今は生身である。

 

 

”すまないなイオリ、急に押しかけてきて……ヒナはどうした?”

 

「先生か。ヒナ委員長なら今万魔殿(パンデモニウムソサエティー)に呼び出されているけど……何時ものパワードスーツはどうしたんだ?」

 

”ヘリで持って来るには重量オーバーだったんだよ……しかし、万魔殿(パンデモニウムソサエティー)に?”

 

 

 生身で居ることを訝しむイオリに対して軽くジョークで誤魔化すマイケルであるが、実際はパイロットのカズミが上に乗せることを嫌がったためなので、決して重量オーバーというわけではない。

 女子高生が7人追加で乗った程度で重量オーバーになるほどXAH-12はヤワではないし、彼女たちの体重が重いわけでもないことをここに記しておく。

 

 

「理由はわからないけど、まぁ何時もの嫌がらせだろう。それよりも先生、何の用事なんだ?」

 

()()()()()手を貸してもらいたくてね、大変な事になっているんだ”

 

「そう、アビドスは今最大の危機を迎えている。だからゲヘナ風紀委員の、イオリの力を借りたい」

 

「お願いしますイオリさん、私達を助けてください」

 

「お、おい」

 

 

 同学年であるシロコとノノミに頭を下げられ、イオリは困惑した。

 権限がないというのもそうであるが、彼女はゲヘナでこれほど強く縋るように頼られたことがないので無理もないだろう。

 

 

「そんな事言われても、私だって勝手に動けな―――「イオリ」―――ヒナ委員長!?」

 

 

 回答に窮し、頭の中が真っ白になりそうになったその時、イオリにとって待ち望んでいた人物であるヒナがその場に現れる。

 自らの背後にアコとチナツを控えさせ、カツカツとブーツを鳴らしながら彼女はイオリの隣につくと、マイケルを見上げて口を開いた。

 

 

「マコトから話は聞いたわ。小鳥遊ホシノを救出するため、人手が欲しいのでしょう? そのために三大校に頭を下げて、戦力を集めていると……生徒一人のためにそこまでやる大人は今までいなかった。だから、あなたの本気に応えてあげる」

 

 

 愛用の黒いグローブの裾を引きながらヒナが言い切る。

 これは気合をいれる時の彼女の仕草の一つで、ものぐさな彼女が気合を入れる時に行うものだ。

 そして、後ろに控えていたアコがタブレットを片手に前に出て、対策委員会の4人とSRTの4人*1が揃っているのを確認し、話を始めた。

 

 

「ここからは私が説明を。ゲヘナ学園風紀委員会はアビドス高校の救援依頼を受諾した連邦捜査部シャーレの要請を受け、兵力を供出します。供出戦力は2個分隊、輸送用のヘリ2機となります」

 

「あのゲヘナ生、凄いファッションしてるよ。アリア、どう思う?」

「胸が蒸れるんでしょう。あなたも真似したらどうですか、タエコ」

「それは……あんまり笑えないねぇ」

 

「そこ、なんですか! 私のファッションに何か文句でもあるんですか!? この、ゲヘナ風紀委員会行政官である私の!」

 

 

 説明の最中、その特徴的な服装(横乳)に衝撃を受けたHOUND小隊の一部がヒソヒソと話し始めると、その内容が耳に入ってきたことでアコの目が一気に吊り上がる。

 なんて沸点の低さだと怒られた当人であるタエコとアリアは呆れたが、その背後に密かに動いていたトミがすかさず二人の頭に拳骨を振り下ろした。

 まるで金属塊を殴ったような明らかに尋常ではない音に、その場に居た全員が微かに肩を震わせる。

 殴られた二人(タエコとアリア)が頭を抱えながら悶絶して地面にうずくまると、殴った側(トミ)は軽く手を払いながらアコに頭を下げた。部下の不祥事は上官の責任なのだ。

 

 

「うちのバカ共が申し訳ない行政官、話を続けてくれ」

 

「……あっ、はい。ええと、元より治安維持能力維持のために2個分隊以上の戦力は出せませんが、ヒナ委員長が参戦します。委員長はゲヘナにおいて一騎当千ですので作戦の成功は確実ですね、これは万人が認めるものです!」

 

 

 ヒナに全幅の信頼を置いているアコは、絶対の自信をもって勝利を断言すると、一歩下がって話を終えた。同時に、兵舎から完全武装のゲヘナ風紀委員の2個分隊が現れ、格納庫からNH-90ヘリコプター2機が引っ張り出されていく。その様子を見たヒナは、右手を挙げて宣言した。

 

 

「ゲヘナ風紀委員会、出動」

 

 

******************************************************************

 

 広がり続けるアビドス砂漠に侵食された地において、いまだ機能を維持する建造物は唯一カイザーPMCの駐屯基地だけである。

 大規模な防壁とシェルター機能で時折襲いかかる砂嵐をやり過ごし、規模を年々拡大させているこの基地に駐留するのはPMCの中でも精鋭の連隊だ。

 とはいえ、その連隊を編成する大隊の一つは先のアビドス高校侵攻作戦で壊滅、作戦初期の内にブービートラップで後退を余儀なくされた部隊以外の全員が未帰還(即時退職)という散々な結果に終わり、唯一理事だけが『オメガワン』によって退却してきたこともあって士気は高くない。

 それを示すように、正門ゲート前で警備するオートマタ兵士が緊張感の欠片もない様子で隣の同僚と話をしていた。

 

 

「なぁ、聞いたか?」

 

「なんだよ」

 

「理事、アビドス高校での戦いでシャーレの先生にボロ負けして頭がおかしくなったらしい。ダチが『オメガワン』の砲手の一人なんだが、味方ごと撃ちまくったって話だよ」

 

「は、はぁ? おいおい、シャーレの先生は入院してるはずだろうが」

 

「罠だったらしい。そのせいで、カイザーPMCは連邦生徒会憲章違反ってことになって……なぁ、このままだと俺達ヴァルキューレにしょっ引かれるんじゃないのか? いっそのこと、辞めたほうが良くないか?」

 

「でもさぁ……お前の話が本当だとして、前歴にカイザーPMCって書くと不利にならないかそれだと。そんなことより、あの『オメガワン』を軸に防衛してシャーレを返り討ちにすりゃあ力を失った連邦生徒会を屈服させられるだろ」

 

 

 カイザーPMCの行く末を悲観視する兵士と違い、楽観的な兵士は上空で警戒を続ける超大型強襲重攻撃ヘリ『オメガワン』を余裕をもって見上げる。その巨体はまさに不沈艦と呼べるものであり、カイザーPMCの最終兵器と呼べるものといえるだろう。

 当然、ヘリとしては非常に防御性能も高くミサイルの直撃を受けてもびくともせず飛行可能な代物だ。*2

 

 

「あいつが見張っているから、この基地を攻撃するなんてことは無理さ、誰にもな」

 

 

 楽観的な兵士がそう笑い飛ばした瞬間、一条の閃光が『オメガワン』の4基あるエンジンのうちの一つを貫き、僅かに遅れて貫通孔から炎と黒煙を噴き出した。

 飛び散った破片が基地に降り注ぎ、基地内で悲鳴が上がると同時に警報が鳴り響く。

 

 

『敵襲! 敵襲! 総員配置につけ、これは演習ではない!』

 

 

 突然の攻撃でバランスを崩した『オメガワン』は、本来であれば3基のエンジンが生きていれば飛行は可能であった。しかし、警戒せずに被弾したことでパイロットが操縦席から転げ落ちるというアクシデントに見舞われてリアクションタイムを取れず、辛うじてコントロールを取り戻した時には最早不時着が不可避となっていた。

 防壁内の開けたエリアになんとか不時着した『オメガワン』であったが、同時にこの基地の警戒能力は大幅に低下し―――次の瞬間、正門にミサイルの雨が叩き込まれる。

 

 

「うわあっ!?」

 

「な、なんだぁっ!?」

 

 

 吹き飛ばされる正面ゲート、大きな破孔ができて機能を失う鉄扉、正門の防衛部隊の大半は巻き込まれて壊滅し、最早数える程度の兵士しか残っていない。

 その機を見逃さず、基地の周囲を囲う丘陵の影から飛び出す1機のヘリ、それはSRTのエンブレムが刻まれたXAH-12であり、大型のスタブウィングに搭載された大量の無誘導ロケット弾(ハイドラロケット)を基地全体へばらまくと、防壁より低く飛びながら基地近くの砂に埋れたビルの影に移動した。

 

 

「グリーンライト! さあ行け命知らず共!」

 

 

 キャビンからロープが垂らされ、それに掴まり降下するのはアビドス対策委員会の3人(シロコとノノミとセリカ)と、HOUND小隊の2人(トミとタエコ)で、5人が降下し場を離れると、ヘリのキャビンからもう一人がその姿を表す。

 全身に防弾装備を貼り付け、強化外骨格でそれを支える超重装備をしているのは、HOUND4のアリアだ。彼女はそのままランプドアから飛び降り、外骨格に搭載された制動用ロケットで減速しながら着地すると、使用済みのロケットを切り離して先に降下したメンバーへと合流した。

 

 

「アヤネ、このまま低空で敵の抵抗を排除する。機関砲の射撃はわかるな?」

 

「はい、説明書で読みました!」

 

 

 降下部隊を支援するように再びXAH-12はビルの影から抜け出し、その姿を晒すと同時に近づくカイザーPMC部隊に30mm機関砲の雨を降らせていく。

 操作するのはガンナー席に座っているアヤネで、カズミの巧みな操縦で対空砲火を躱しながら的確な狙いで危険度の高いロケットランチャーを持つ兵士を吹き飛ばしていった。

 

 

「いい腕だ、このまま支援を続ける」

 

「右30°方向、対空戦車!」

 

「くっ! 掴まれ……ッ!!」

 

 

 防壁から飛び出してきた対空戦車の大口径機関砲の曳光弾が掠め、とっさに砂に埋れたビル群へと機体を滑り込ませるカズミ。

 航空支援が途絶えたことでカイザー部隊の反撃の勢いが増すが、地上部隊は人間戦車と化したアリアを先頭に順調に押し込んでいく。

 

 

「私達が道を切り拓きます。アビドス高校の皆さんは、そのまま目標ポイントαへ向かってください」

 

「ありがとう、アリア!」

 

 

 正面ゲートの防衛部隊は猛攻の前に完全に壊滅、増援部隊が到着するまでの数十秒間の間完全にフリーとなったゲートをいとも容易く突破に成功し、HOUND小隊は自らを囮にして対策委員会を基地の奥へと向かわせる。

 3人が基地の奥へと消えた直後にカイザーの増援が到着するが、真っ向から弾丸を受けても一向に怯む気配のない人間戦車(アリア)の姿に兵士たちが恐怖し、その隙をついてトミが集団へとスライディングで飛び込むと、正確な狙いでその頭を撃ち抜いて制圧、そこを拠点としてHOUND小隊は対策委員会の3名からカイザーの目をそらすべく、タエコは信号拳銃を取り出すと頭上に向けて発射、赤い信号弾が青い空へと伸びていき―――

 

 

******************************************************************

 

 

 基地の囲むように存在する丘陵の峰、その影に隠れながらカイザー基地から打ち上げられた赤い信号弾を双眼鏡で追いかける2つの人影。

 うち一人の白い制服はトリニティ総合学園の生徒会ティーパーティーに所属する証で、隣りにいるのはトリニティ総合学園の一般制服を身にまとっている。

 一般制服の生徒はナギサから砲兵部隊を任されたヒフミであり、隣りにいるティーパーティーの生徒はその補佐を命令されたイルミであった。

 

 

「レッドシグナルを確認、座標は事前打ち合わせ通りです。いいですね、阿慈谷ヒフミ?」

 

「は、はいっ! 指定目標ノベンバー、砲撃お願いします!」

 

『了解、指定目標ノベンバー、砲撃開始します』

 

 

 急峻な基地側と違い、反対側はなだらかな傾斜となっているこの丘陵の裾野に展開しているティーパーティー砲兵部隊は、ヒフミの指示に従い直ちに装填、試射として一発を放つとその砲弾は見事な放物線を描き、防壁の上にある監視塔を見事に粉砕した。

 

 

「初弾命中を確認」

 

「移動弾幕射撃、効力射おねがいしまーす!」

 

 

 初弾は目標をそのままに、ティーパーティー砲兵部隊は僅かに照準をずらしながら砲弾の雨を基地へと撃ち込んでいく。それはまるで大地を砲撃で耕していくかのようで、砲撃の進路にある全ての建造物を兵士諸共吹き飛ばしていった。

 

 

「敵基地格納庫の炎上を確認……まぁいいでしょう、このくらいはやってもらわねば困ります」

 

「きょ、恐縮です……」

 

 

 砲撃の評価を下すイルミに、ヒフミはなんとも落ち着かない様子で答える。

 ナギサとは正反対なおっかない上級生という評価を貰っている以上、仕方のないものとは言えるが。

 

 

「ここからは乱戦になりますので、砲撃支援は控えるように。陣地転換するかどうかはそちらの判断に任せます」

 

「わ、わかりました。部隊前進、丘陵を越えてシエラフォックスに展開してください」

 

(ここで前進を選択するとは、ただの生徒ではありませんね……阿慈谷ヒフミ、思い切りが良い)

 

 

 ヒフミの指示で移動を始めるティーパーティー砲兵部隊を横目に、イルミはヒフミに感心しながら評価を改めていた。ただのナギサの腰巾着みたいなものだと思っていたが、どうにも色々と思っていたよりも度胸がある。

 ブラックマーケットに出入りしているということを知らぬまま、彼女はヒフミに比較的高評価を与えた。

 

 

「さて……お膳立てはできましたよ先生、あとはミレニアムの副会長の実力でも拝見させてもらいましょうか」

 

 

 そう呟き、双眼鏡で基地に近づく砂煙を確認するイルミ。

 砂煙の先頭には、2つの巨大な人型のシルエットと、1両のピックアップトラック、そしてその周囲に追従する一輪駆動の白い無人兵器の姿があった。

 

******************************************************************

 

 基地中央に存在する司令部ビルの中でも最も堅牢な位置に存在する司令室の中は、今や完全な混乱の中にあった。

 突然空で警戒をしていた『オメガワン』が長距離狙撃で不時着し、立て続けに基地全体への砲爆撃が行われたのだから無理はない。むしろ、部隊が崩壊しないことを褒めるべきだろう。

 司令部に詰めるオペレーター達は、基地全体から絶え間なく届く救援信号の前にパニック状態に陥っている。

 基地のステータスを示すモニターも全体がレッド、あるいは通信途絶を示すブラックとなっており、基地機能の大半は既に失われたということをこの場の全員に知らしめていた。

 

 

「砲撃で格納庫が崩壊、戦車部隊出撃不可能です!」

 

「外縁警備の連中を呼び戻せ!」

 

「正面ゲート、完全に敵に制圧されました! 奪還は不可能です……」

 

「第3中隊壊滅、残存兵力7割を切っています!」

 

 

 悲鳴ばかりが飛び交う中において、一人静かに椅子に座っているのは最高責任者であるカイザーPMC理事。

 幕僚たちが慌ただしく指示を飛ばす中、何も言わずモニターを見上げると正面ゲートを突破する敵性後続部隊の姿を認めたその瞬間、彼の目つきが鋭くなり勢いよく立ち上がる。

 

 

「きたな……マイケル・ウィルソン! 三大校を味方に引き入れ、私を殺しに来たか!」

 

 

 彼の目に、再び狂気の光が宿る。

 異様な雰囲気の理事に怯える幕僚をよそに、彼は大声で司令室全体に指示を飛ばした。

 

 

「発掘兵器を出せ、あれを使わなければ奴に勝つことは出来ない! それと量産型ゴリアテ部隊と、北方に展開している対デカグラマトン大隊も呼び戻せ! これは総力戦だ!」

 

 

 狂気に飲まれた結果とは言え、その堂々とした態度に司令室内の混乱が収まっていく。

 トップが見た目上落ち着いてみせれば、下々もそれにつられるというものだ。

 直ちに命令は各部署に通達され、地上部隊も徐々に当初の混乱から立ち直りつつあるが、それでも戦闘力の差は如何ともしがたくカイザーの基地支配率はどんどんと低下していく。

 何も言う事もなくそれを見ていた理事は、ある程度見届けた後に踵を返して司令室を出ようとし、幕僚の一人に呼び止められた。

 

 

「理、理事、どちらに……」

 

「あの発掘兵器は私が使う! 邪魔をするな!」

 

 

 狂気の光が宿る理事を止める手段は、幕僚には何一つとして存在しなかった。

 

 

******************************************************************

 

 

 ミサイル攻撃で破壊された正門ゲートをくぐれば、その先は昏倒したPMC兵士が山のように転がっており、区画の一部を要塞化させたHOUND小隊が持てる弾薬の殆どを使い果たした状態ながらも保持していた。

 ここに増援のカイザー部隊の姿はなく、この場はHOUND小隊が支配している。

 しかし矢面に立っていたアリアは全身の防弾装備の殆どを破壊され、意味をなさなくなった外骨格ともども脱ぎ捨てており、トミも愛用のバリスティックシールドが月の裏側のような状態になっていたためこちらも放棄、タエコに至っては愛用のマシンガンが銃身の加熱で動作不良を起こしたためにサブで持っていた拳銃一丁を構えながらPMC兵士の銃を拾っているような有り様だ。

 そこへ飛び込んできたのがマイケルの『メタルウルフ』と武装ピックアップトラックにまとめて乗り込んだ便利屋68の面々、その周囲を走り回る一輪駆動でミレニアムのマークが付いた無人兵器『AMAS』、そして最後が脚部を装甲で覆ったものの、胴体部はむき出しで、自身の腕の動きと大型の腕部を連動させるマスタースレーブ方式のパワードスーツ『マーク0』を身にまとったセミナー副会長、鷹乃リツコである。

 

 

「先生、ようやくですか」

 

”なんとか、間に合ったな”

 

「遅いぞ先生、もう少しで拳で抵抗しなければならなくなるところだった」

 

「見ておくれよ先生、この銃身にベーコン巻き付けたらカリッカリに焼けそうじゃない?」

 

 

 マイケルが要塞化されたHOUND小隊の陣地を覗き込めば、満身創痍ながらも余裕の態度を崩さない3人の姿。赤熱化して白煙を立てているマシンガンを指さしながらタエコが笑うが、それは彼女たちがいかに限界を迎えようとしていたかの証であった。

 少し遅れてリツコもHOUND小隊の陣地を覗き込み、補給品の入った木箱を置く。かなりの重量物だが、『マーク0』を使っているため余裕の表情だ。

 

 

「悪いなSRT、少し狙撃地点を遠くに置きすぎたみたいだ。あとはミレニアム軍団にまかせて水でも飲んでリラックスしてな」

 

「余計なお世話といいたいところだが、装備がなけりゃ戦えんのは確かだ。補給する間前線は任せたぞミレニアム、それと便利屋」

 

 

 援軍の到着でようやく安心できたのか、非常に疲れた様子で地面に座り込んだHOUND小隊の3人に補給物資を渡しながら、マイケルは戦況を確認する。

 当初の作戦プラン―――遠距離からのレールガン狙撃による『オメガワン』の撃墜、それと同時にHOUND小隊と対策委員会が正門を突破、トリニティ砲兵による支援で基地防衛部隊を大きく減らし、ゲヘナ風紀委員が敵増援を阻止して、その間に対策委員会が目標地点へと突入するという計画は、今の所おおよそうまく行っていた。*3

 基地守備隊の数が想定より多く、対策委員会が目標ポイントに到達出来ていないが、そのための後詰めのミレニアム軍団と便利屋であり、まだ焦るような状況ではない。

 その一方でリツコが視線をピックアップトラック乗る便利屋68に向けると、リーダーたるアルの顔色が非常に青く、今にも吐きそうな様子であった。こっちのほうがよっぽど焦るような状況だ。

 

 

「うっ、うぷっ」

 

「あちゃー、アルちゃん車酔いしちゃったかな? まあ、オフロードを全力で飛ばしてきたから仕方ないね!」

 

「アル様、エチケット袋はここにあります!」

 

「だ、大丈夫よ、こんなところで吐くだなんてそんなの……うぇっぷ」

 

「……大丈夫かあいつら」

 

”大丈夫さ、アルならやってくれる”

 

 

 とても敵地にいるとは思えぬ便利屋の姿に思わず呆れるリツコに、マイケルはその肩に手を置きながらやんわりと心配は無用と説くが、どう見てもアルの顔は真っ青で、大丈夫そうには思えない。

 しかし、だからといって立ち止まる時間も惜しいのが現状だ。リツコはAMASを率いて便利屋達と共に基地の奥深くへと侵攻していくと、激しい戦いの痕跡と共に弾薬が付きかけている対策委員会と合流することができた。

 即座にリツコはAMASを支援に走らせ、対策委員会の前に並んだAMAS達は搭載されたMPXを斉射し、立ちはだかるPMCの分隊を釘付けにすると、続けて便利屋の武装ピックアップトラックが現れ、ムツキが操作する重機関銃(Dshk)の掃射が遮蔽ごと兵士を撃ち抜く。

 突如現れた援軍に対策委員会の3人は一瞬驚いた表情を浮かべたものの、直ぐに笑顔を浮かべて振り返った。

 

 

「これは……ミレニアムの!」

 

「待たせたわね!」

 

「便利屋も合流したのね! 目標ポイントはもう目と鼻の先だけど……」

 

 

 友軍との合流に喜ぶセリカが視線を送った先にあるのは、真新しいカイザーの施設と違う古びた廃墟、砂に埋もれて久しい様相のそれはしかし、一般的な建造物とは違う様子であった。

 だがその建築物の様式は彼女たちにとって覚えがある。そう、ほぼ毎日のように見ているもの……学校の校舎のそれだ。

 

 

「これって、校舎……よね?」

 

『確認しました。この基地のある座標を旧アビドス自治区の地図と重ねましたが、ここは……』

 

 

 対空装備を一通り排除し、ようやく基地内にやってきたXAH-12のガンナー席でアヤネがタブレットを操作していると、彼女はこの中で一番最初にある事実に気づく。それは―――

 

 

『―――そうだとも、ここは旧アビドス高校本校舎。アビドスで最も古い建造物だ』

 

「この声は、PMCの理事! 姿を見せなさい!」

 

『言われずとも、見せてやろう!』

 

 

 セリカの声に応えるように、地下格納庫から直通するエレベーターの出口が開き、中から出てくるのは全高10mを超える巨大な白い4足型の戦闘マシーン。

 各部の装甲が所々抜け落ち、砲台も欠損が見られるが、その姿はマイケルにとっては忘れることが出来ないもの……開発コード『究極兵器(Ultimate Weapon)』、かつてクーデター事件において最後に戦ったクーデター軍の最終兵器だ。それも、他の兵器のように()()()()()()()ではなく、眼の前にあるのは()()()()のように見えた。

 

 

”どこからそんなものを!”

 

『ククク……知りたいか、では何故カイザーコーポレーションがアビドスの地に固執していたのか、教えてやろう。それが答えだからな』

 

 

 出所を問うマイケルに、理事は大きく笑いながら答える。

 

 

「カイザーがアビドスの土地を買った理由……そんなの、自治区を乗っ取るためじゃないんですか!?」

 

『ハッハッハ! 自治区を乗っ取るなど()()()にすぎない。本来の目的、それは……宝探しだよ、アビドスの砂漠にはお宝が眠っている。その一つがこいつ……オーバーテクノロジーの塊、発掘兵器(Excavation Weapon)だ!』

 

”なんだと、発掘兵器(Excavation Weapon)? そんなはずがあるか!”

 

 

 ノノミの声に対し、高らかに笑う理事。しかしマイケルはそれが信じられなかった。何故なら、眼の前にある究極兵器(Ultimate Weapon)は彼の眼の前で粉々に吹き飛んだはずなのだから。

 宇宙の藻屑と化したものがこのように現実として存在するなど、あり得るはずがない。ましてや異星、あるいは異世界であるキヴォトスになど。

 

 

『信じようが信じまいが、これが発掘されたのは7年前……以前よりアビドスの地に眠る遺産を探し求めていたプレジデントは歓喜した。この兵器の解析によって得られた先進技術はカイザーにより一層の利益をもたらしたのだからな、当然だろう』

 

「……アビドスにこんなものが埋まっていただなんて」

 

 

 まさかの事実に、シロコが唖然としながら発掘兵器(Excavation Weapon)を見上げる。

 それは彼女だけでなく、その場にいる全員が同じように武器を構えることも忘れ、理事の話す内容に衝撃を受けたままであった。

 

 

『だがプレジデントはそれで満足することはなかった……プレジデントの望みはキヴォトス全土の支配、この兵器には本来そのための武器もついていたようだが、発掘した段階でそいつは失われていたようだ。そして、他にも同じような、あるいはより強大な武器が眠っていると確信したプレジデントはより強力にアビドス土地の買収を進めていった』

 

 

 発掘兵器(Excavation Weapon)の砲塔が動き、その砲口が向けられる―――それに気づいた瞬間、この場に居た全員は一気に駆け出した。この後に理事が何をするかなど、最早説明するまでもなく明らかだ。

 

 

『だが、今ここで貴様を倒せば連邦生徒会も、三大校も、我がカイザーに屈する! そうすれば私はカイザーの救世主として、プレジデントをも蹴落としトップに君臨する事ができるのだ! だからここで死ね、マイケル・ウィルソン!』

 

 

 理事の雄叫びと同時に発掘兵器(Excavation Weapon)の砲塔からミサイル、グレネードが周囲に放たれ、辺りを焼き払う。

 基地施設の損傷など気にする様子もないその猛攻に、対策委員会の3人は物陰への退避を余儀なくされた。

 物陰に隠れて様子を窺えば、便利屋達は車を捨てて理事を挟んで反対側の物陰に隠れているのが確認でき、リツコとマイケル、そしてAMAS軍団は遮蔽に隠れずに迎撃している様子が見えたが、あちらの戦況としては芳しくないらしく、飛来するミサイル等を回避するのに手一杯のようだ。

 

 

「ちょっと、何あれ! あんな状態じゃ駆け抜けるなんて出来ないわよ!」

 

「あと少しでホシノ先輩の所に行けるのに……!」

 

「どうすればいいんでしょう……」

 

 

 何も出来ないことを悔しがる3人であったが、その眼の前にリツコの『マーク0』とAMAS軍団が滑り込んでくると、リツコは向かってくるミサイルを狙って両腕に装備された3連装ガトリングガンユニット『トライポッド(P)』を突き出し、全力での射撃を続けながら大声で叫ぶ。

 

 

「あれは私達に任せろ! AMASを盾にしていいから、行け!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 グレネードやミサイルの雨が降り注ぐ中、シロコ達は全力で走った。決して止まらず、振り向くこともなく、隣を並走するAMASが流れ弾の直撃を受けて爆散してもなお走り、100mを全力で駆け抜けた彼女たちはようやく旧アビドス本館の入口へとたどり着いた。

 護衛していたAMASは全機が破壊されたが、その甲斐あって対策委員会の3人に一切の怪我はない。

 リツコはそれを確認すると身を翻し、生徒たちから射線を外すべく囮となっているマイケルの横へと滑り込んで肩を叩く。

 

 

「アビドスは目標に到達した。あとはコイツを倒すだけだ、先生」

 

”そうか、だったらできるだけ早く(as soon as possible)終わらせるぞ!”

 

 

 右手にGL95、左手にTWBZを構え、『メタルウルフ』は発掘兵器(Excavation Weapon)と対峙した。

 避けきれぬほどの攻撃を受けたこともあり機体ダメージは50%に達しようとしていたが、彼の戦う意思は決して挫けることはない。なぜなら彼は、先頭を切るべき存在(連邦捜査部シャーレの先生)なのだから。

 

 

******************************************************************

 

 

 基地北方の旧市街地の一角、砂に沈みゆくビル群の中、一瞬閃光が走ったと思えば激しい爆発と共に黒煙が噴き上がっていく。

 ここに展開しているのはゲヘナ風紀委員会の2個分隊、それにに対してカイザー側兵力は1個大隊という大人と子供を思わせる兵力差があったのだが、その差は今や2個分隊VS1個中隊というレベルにまで差が縮まっていた。

 ここまで一方的な展開になっていた原因はといえば、やはりゲヘナ風紀委員長、ゲヘナ最強と名高い空崎ヒナが参戦していたことだろう。彼女の攻撃は戦車すら撃ち抜き、カイザーの兵力をことごとく粉砕していったのだ。

 カイザー部隊の主力は『ドロシー』タイプの戦車が2両を中核とした機甲戦力であったのだが、これらはいとも容易くヒナの放つ紫色の光弾(終幕:イシュ・ボシェテ)の前に倒れ、残された一個中隊は最早歩兵しか残っていない。

 

 

「さて、これで―――」

 

 

 先生の仕事が減る、と言葉を続けようとしたヒナであるが、その瞬間大地が激しく揺れたことで彼女は思わずバランスを崩し、片膝を突くかたちになってしまった。

 他の風紀委員のメンバーも両足で立っていられぬ程の揺れに襲われ、悲鳴が上がる。カイザー部隊も同様に動けないようだ。

 周囲の廃ビルから様々なものが降り注ぐ中、()()()()()()()()()のを感じ取ったヒナは『終幕:デストロイヤー』を杖代わりに立ち上がると、震源の移動先、カイザー基地の方向に顔を向けた。

 

 

「あれは……蛇?」

 

 

 巻き上がる砂、その中心に浮かび上がるシルエットの姿を呟くと、()()は再び砂の中に消えていった。

 

 

To be Continued in Chapter Ⅱ-Ⅶ ”Endgame”

*1
カズミも降りて合流した

*2
大口径高射砲に耐えられるらしい

*3
『メタルウルフ』が最初から前面に出ないのは対策委員会側の要望によるもの




あと1~2話で対策委員会編2章が終わります。

メカニック名鑑
名前:マーク0
分類:試作型パワードスーツ
製造:ミレニアムサイエンススクール
調月リオと鷹乃リツコが共同開発しているパワードスーツ『アビ・エシュフ』の試作フレームをリツコが自分用に改造したもの。
リツコの戦闘能力を活かすべく反応速度を上げているが、完全にフレームだけの状態から組んでいるため装甲は薄く、火器管制システム用のバイザーもないため、完成形と比べると戦力は格段に低い。
さらに背面武装もないため、両手に装備した12.7mm3連装ガトリングユニット『トライポッド(P)』が唯一にして最大火力となっている。
マーク0は実戦投入にあたって脚部にローラーダッシュ機構を組み込んでおり、開けた所での戦闘はそれなりの性能を発揮できるだろう。

名前:JGNT-12(通称”人間戦車”)
分類:歩兵用増強防弾装備
製造:ミレニアムサイエンススクール&SRT特殊学園
突入部隊用にSRTが考案した歩兵用防弾装備であり、全身を防弾プレートで覆ってその重量を強化外骨格で支えるという力技な発想で誕生したもの。
使用される外骨格はミレニアムサイエンススクールが販売している戦闘用外骨格で、それにSRTが独自に用意したアーマーを着せることで完成する。
装備した生徒はあらゆる集中砲火から一定の防御力を得るが、通気性が悪く照りつける太陽の下で使用すると熱中症の危険があるため使用したがる生徒はあまり居ない。
カイザー基地襲撃にあたりアリアが持ち込んだものがこれになる。
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