METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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Vol.2 Clockwork Flower Pavane(時計仕掛けの花のパヴァーヌ)
Chapter Ⅰ-Ⅰ ”A long journey begins...”(なか゛いたひ゛が゛ はし゛まる..)


 薄暗い一室、窓は一切なく、外からの光が一切入りこまぬこの部屋はミレニアムの中でも秘匿されたものの一つ。

 その部屋の中で浮かび上がる人影が3つ、非常灯の赤い光が照らし出す。

 

 

「……この部屋を使ってくれということだ、ここを知る奴はほとんど居ない」

 

「まったく、太陽も嫉妬する超絶美少女であるこの私をこのような部屋に押し込むなど、あの女のやることには毎度驚かされます、悪い意味でですが」

 

「でもこの部屋、設備はどれも最新鋭で凄いね。これ全部使っていいの、副会長?」

 

「あぁ、ここが『特異現象捜査部』の部室になる」

 

 

 そう言い、部屋の照明スイッチを入れるのはミレニアムサイエンススクール生徒会セミナーの副会長、鷹乃リツコ。

 彼女の横にいるのは車椅子に乗った白髪の生徒、名は明星ヒマリ。

 明らかにこの処遇に不満をいだいているのがわかる彼女は、反セミナー集団である非公認部活動『ヴェリタス』の部長でもある。

 

 

「……科学で解明しがたい現象を調査、研究するためのセミナー傘下の部活、それが特異現象捜査部」

 

 

 リツコの説明を補足するのは、長い桃色の髪を途中で編んだ髪型をし、まるで下着のような露出度の高い服装をした生徒、名は和泉元エイミ。

 セミナー直属のエージェントであり、1年生でありながらその能力を評価されている有望株。

 

 

「説明ありがとうエイミ、ということでだが……ヒマリ、えーっと”ミレニアムの未来の太陽にして偉大なる全知”の―――」

 

「そんな独裁者が使いそうな自称はしたことがありませんよ!?」

 

「似たようなもんだろうがよ」

 

「全然違いますが!? それこそリツコ、あなた今述べたのは腐臭漂う権力の亡者が己を飾り立てるために他者に言わせるものです、しかし万年雪の結晶のように澄み切った私が述べるのはただの事実の羅列でしかありません」

 

「……毎度のことながらお前の自己肯定感の高さは何なんだ」

 

「私が清楚で可憐な病弱美少女なのは事実でしょう?」

 

「話が通じないな」

 

「……」

 

 

 ヒマリと呼称について言い合うリツコ、その隣で置いていかれたエイミは呆れた表情を浮かべ、ブラジャー(?)のファスナーに手をかけた。

 

 

「おい待てェ、それをどうするつもりだその手を離せ!」

 

「そうですエイミ、この様なところで脱ぐのはやめ……絶対にやめてください」

 

 

 それを目視するなり止めにかかる2人。

 2人の言い合いが終わったのを確認するなりエイミはファスナーから手を離し、ジト目で大人気ない先輩を睨みつける。

 

 

「本題に早く入って、副会長」

 

「あー、わかった、わかったよ。とにかくだ、案件を最初に持ちかけた時に話したが、特異現象捜査部は『デカグラマトン』なるAIの調査研究を行って欲しい。そのためには、お前の頭脳が必要だとリオが言ってる」

 

「……事情はおおよそ理解しましたが、であるならばリオが直接出向くのが筋というものでしょう? 何故リツコ、あなたが代理をしているのですか?」

 

 

 エイミに急かされ、ようやく話の本筋に戻す。

 特異現象捜査部は先のアビドス事件において出現した『デカグラマトン』の眷属である『ビナー』調査のために本格始動したのだが、専従人員がエイミだけであった。

 そのため、アビドスでの活動の時はリツコが部長代行として指揮したのだが、そもそも彼女は副会長兼保安部長として兼業している。

 この状態で特異現象捜査部の部長まで兼任したら普通に過労一直線だ。

 そこで、調査研究のために必要な能力の持ち主を部長に据えようとし、リオが選定した人員、それがヒマリであったということになる。

 だが、ヒマリ本人は反セミナー、というよりも反リオという立場であり、まともに要請を受けるはずがなく、やはりというかリオ本人が姿を見せないことに不満を表した。

 

 

「ヒマリ、お前がこの件を受けないのは勝手だが、その場合誰が不利益を被ると思う?」

 

「?」

 

「……ヴェリタスだ。今、音瀬コタマと小塗マキに対して学外から苦情が入っててね、セミナーとしては処分を考えなきゃいけなくなっている所さ」

 

「……人質とは、なんとも情けない。セミナーには誇りはないのですか? 生きやすいものですね、羨ましい」

 

 

 対し、受けなきゃヴェリタス所属の生徒に対し処分が発生するぞと脅しをかけるリツコ。

 無論、そんなことをすればヒマリの反発を買うわけだが、双方譲るつもりはないので話は平行線、しかしそのままでは終わらない。

 なにせ、ヒマリは見ての通り車椅子なのでミレニアムでも屈指の身体能力を持つリツコから物理的に逃亡は不可能なのだ。

 

 

「副会長、そういう脅しはヒマリ先輩には逆効果だと思う」

 

「ふふ、年下のエイミほうが物の道理をわきまえているではありませんか」

 

「チッ……こういうのはあまりしたくないんだが」

 

 

 エイミの指摘に、ヒマリは勝利を確信して笑う。

 しかし、リツコにはまだ取れる手段があった。

 それは―――

 

 

「……この通りだ、ミレニアムのためにこの仕事を受けてくれ、ヒマリ」

 

 

 ―――土下座である。

 

 

「……プライドの塊みたいな貴女がそうするということは、今回の件はそれほどということですか。まったく、最初からきちんと事情を説明すればいいものを」

 

 

 まさかリツコが土下座するとは思わず、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべるヒマリ。

 その背景にある事情を察し、大きく息を吐いた彼女は不本意そうな顔をしながらもそれを受け入れた。

 

 

「はぁ……リオも貴女も、人にものを頼むやり方を知りませんね。ですが、そうやって頭を下げたのならば私も意地を張るほど強情ではありません。いいでしょう、引き受けるとリオに伝えてください」

 

「じゃあ、これからはヒマリ先輩のことを部長と呼ぶね」

 

「えぇ、これからもよろしくお願いしますね、エイミ」

 

 

 その一方、特にしがらみのないエイミは新たな上司となったヒマリに気さくに接する。

 それが嬉しいのか、ヒマリは笑顔でエイミと握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

「それはそうとヒマリ、2人に学外から苦情が来てるのは事実だからなんとかしろ」

 

「……チーちゃんに伝えておいてください」

 

「おい」

 

 

******************************************************************

 

 

 一口にミレニアムサイエンススクールといっても、その敷地はモノレールが運行されるほど広大であり、多くの研究ラボの他にも電力インフラやレクリエーションセンターなどの様々な存在する。

 その一角、部活棟のある区画では現在進行系で一騒動が起きているのだが―――

 

 

”……”

 

 

 立ち尽くす濃紺色のパワードスーツ『メタルウルフ』、搭乗者であるマイケルはその前に立ち腕を組みながら己の愛機を見上げる。

 人で言えば耳に当たる部分に存在する鋭角なアンテナ、そこに突き刺さるのはプラスチックと半導体のゴミ、もといかつてプライステーションと呼ばれていたゲーム機。

 明らかに高い位置から放り込まれなければ刺さるはずのないそれは、まさしく高所から投げ込まれた結果突き刺さったものであった。

 

 

「うわーん! プライステーションがぁぁぁ!」

 

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん……」

 

 

 『メタルウルフ』の足元で、大泣きしながらぴょんぴょんと飛び跳ねてプライステーションを回収しようとするのは金髪で、桃色のラインが入ったパーカーを羽織ったネコミミ型ヘッドホンを身につける生徒、名は才羽モモイ。

 その隣で顔を引き攣らせるのは、ほぼ同じ顔をした緑色のラインのパーカーを羽織った生徒、こちらの名は才羽ミドリ。

 モモイのギャン泣きで周囲の生徒が集まり、人だかりが出来てることに思わず顔をしかめるマイケル。

 

 

Whatever...(やれやれだ)

 

「あ、あの、シャーレの先生……ですよね?」

 

”ん、あぁ……そうだが?”

 

 

 そんな彼におずおずと声をかけるミドリ。

 しかめっ面をした大人に声を掛けるのにはなかなか勇気が必要なものであったが、その勇気を振り絞っての行動である。

 

 

「ご、ごめんなさい、お姉ちゃんが投げたプライステーションが命中するなんて」

 

”あー、うん、いやなんというか……壊れてしまったな”

 

 

 視線の先にあるプライステーションであったものは、完全にど真ん中をぶち抜かれ、中のディスクも粉々になっている。

 これをどう主張してもゲーム機とは言えず、100人中100人がゴミと答えるだろう。

 

 

「少ない予算で買ったのにぃぃぃぃ」

 

「ヒートアップして考え無しに外に放り投げるからでしょ」

 

 

 ショックのあまり大泣きしながら喚くモモイだが、原因はミドリが言うように完全に自己の責任によるもの。

 誰かのせいにしたいが自分の顔しか思い浮かばないがために、彼女は泣くしかないのだ。

 

 

「弁償してよぉぉぉ」

 

「いやいやお姉ちゃん、それは流石に通らないでしょ!?」

 

 

 それでもなんとか自らの懐が傷まない僅かな可能性に縋るモモイ、その行為はこれ以上騒がしくなると面倒にしかならぬとマイケルを根負けさせる。

 

 

”はぁ……わかったわかった、弁償するから静かにしてくれ”

 

「本当!?」

 

「うわ、一瞬で泣き止んだよ……」

 

 

 弁償するという言質をとった瞬間泣き止むモモイ。

 あからさますぎて妹であるミドリもドン引きだ。

 

 

「え、えーっと……その、先生、とりあえずお話は私達の部室で……」

 

”ああ、そうしようか”

 

「あーっ! ちょっと、私を無視して進めないでよー!」

 

 

 こんな恥知らずな姉なんか知らないと言わんばかりに、ミドリはマイケルを部室へと案内していく。

 そんな薄情な妹に抗議の声をあげながら、モモイは2人の後を追った。

 

 

******************************************************************

 

 

 整理整頓とは程遠く乱雑に散らかった小部屋、部室棟の隅に存在するそこがモモイとミドリの言うところの部室になる。

 140cm台の2人と比べて図体の大きなマイケルは、少々窮屈そうにしながら胡座をかいた。

 無論、土足ではないので安心して欲しい。

 

 

「お姉ちゃん、お客さんなんだから飲み物とか出さないと」

 

「え、えーっと……コーラしかないけど大丈夫かな」

 

”まぁまぁ、楽にしてくれて結構”

 

 

 突然の来客に大慌てでもてなしの準備をする2人。

 そこまで改まる必要はないぞとマイケルは言うが、初の校外からの来客である。

 

 

「コップ、コップ……」

 

「ねえお姉ちゃん、コーラ飲みかけしかないんだけど!?」

 

「えーっ!? うぅ、今から買いに行くわけにもいかないし、そのままでいこう!」

 

 

 2人はわちゃわちゃとしながらも辛うじて来客をもてなす体裁を整え、座卓の上にコーラとスナック菓子を並べた。

 これが彼女たちの精一杯のもてなしだというのをひしひしと感じ、コーラを一口。

 コーンシロップの甘みではないサトウキビ糖の甘さ、キヴォトスではこちらが主流なのだろう。

 

 

”……さて、本題に入ろう。君たちがゲーム開発部でいいんだな?”

 

「そうだよ! 私は才羽モモイ、ゲーム開発部のシナリオライター!」

 

「才羽ミドリです。イラストレーターで、ゲームのビジュアル面を担当しています」

 

「本来はもうひとり、企画周りを担当する部長のユズ……この3人がミレニアムサイエンススクール、ゲーム開発部だよ!」

 

 

 双子らしい息ぴったりなテンポでの自己紹介をする2人。

 それが終わると、モモイがニンマリと笑みを浮かべてマイケルの袖を掴んだ。

 

 

「それじゃあ、先生が来たことだし『廃墟』に行くとしよっか!」

 

”おいおい、未来都市(ミレニアム)に来て即『廃墟』とは、ここは随分と時間の進みが早いな?”

 

「お姉ちゃん、説明不足が過ぎるって」

 

 

 そのまま連れ出そうとするモモイに思わず声を上げるマイケル。

 ミドリが指摘するように、それはあまりにも性急過ぎる。

 

 

「うーん、それじゃあ最初から説明しよっか。えーっとね、私達ゲーム開発部は平和に16bitのゲームとかを作ってたんだけど……先日、セミナーに目をつけられたの」

 

生徒会(セミナー)から? 何をしたんだ、怒らせるようなことをしたのか?”

 

「そ、そういうわけじゃ……」

 

 

 セミナーの名を出すモモイに、役員たちの顔を思い出すマイケル。

 彼女たちとの交流を思い出し、思わず詰めるような口調になってしまい、怯えてモモイが言葉を濁らせる。

 

 

「……それについては私から説明します」

 

”その声は……ユウカか”

 

 

 そこへ割り込む声に振り向けば、部室の入口に立つのは見慣れた菫色の髪をツーサイドアップにした生徒、早瀬ユウカ。

 マイケルは座ったまま軽く手を上げて会釈し、笑みを浮かべた。

 

 

「はぁ……まさか、こんなところで会うだなんて。話したいことはありますが、今は仕事の方を優先させてもらいます」

 

「出たな、生徒会四天王の一人! 『冷酷な算術使い』の異名を持つセミナー会計、ユウカ!」

 

 

 予期せぬマイケルとの遭遇に困惑するユウカであるが、本題ではないと気持ちを切り替える。

 一方モモイは敵愾心をむき出しにするが、その様子にユウカは少しだけ表情を引きつらせた。

 

 

「人を怪物みたいに呼ばないでくれる? まったく、シャーレを呼ぶだなんて本当に諦めが悪いわね、モモイ」

 

「な、なにをぉ……」

 

「ゲーム開発部の廃部は既に決定事項、覆すには規定を満たす他ないわ。部員を4名以上集め、成果を出す……そう、目に見える成果をね。そうでなければ今月中に即刻廃部、部室を明け渡してもらう他ないのよ、お金もスペースも無限じゃないの」

 

「せ、成果を出すって言っても、今月期限で目に見える成果を出すには『ミレニアムプライス』に入賞するしか」

 

「そうね、ミドリの言う通りミレニアムプライスが唯一のチャンスになるわ。でも、あなた達にできるの? ゲーム開発部の残している成果なんて、例の()()()()()あのゲームしか……」

 

「て、『テイルズ・サガ・クロニクル』を馬鹿にしないでよ、ユウカ!」

 

「そう? 今年のクソゲーランキング1位に輝き、多くのレビューも絶望的だの、正気が足りないだの、散々なものでしょう? 無数のユーザーの評価が収束していけば、最後に残るのは真実。一部の人間に受けたとしても、大多数が受け入れなければ名作とは言えないわ」

 

 

 ユウカの正論に、モモイとミドリは何も言い返せない。

 彼女は何一つ間違ったことは言っておらず、かなり無理筋に反論しているのは二人の方なのは間違いないのだ。

 

 

「つまり……ミレニアムプライスに入賞し、部員をあと1人入れさせればゲーム開発部の存続は可能、なんだよね?」

 

「ええ、何度も言ってるようにそれが部活動存続のための規定よ。できる見込みがないなら、この部屋のガラクタを片付けて―――」

 

「―――いいよ、やってやろうじゃない! ミレニアムプライスで成果を出す、部員を集める! 両方やればいいんでしょ、両方やれば!」

 

 

 モモイが啖呵を切り、ユウカは一瞬目を丸くしたものの、興味深そうに目を細めてモモイの顔をじっと見る。

 そして面白いと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

 

「―――へぇ、勢い任せ……というわけではなさそうね。ふぅん、期限は確かに今月末だし……いいわ、あなた達がそこまで言うなら待ってあげる」

 

 

 結論として、セミナーはミレニアムプライスまでゲーム開発部の廃部を猶予するということとなり、一先ずは安堵するモモイとミドリ。

 ユウカはそこでマイケルの存在を思い出し、思わず赤面した。

 あまりにも悪役っぽい振る舞いをしすぎて、彼からの印象を悪くしたのではないかと恥じたのだ。

 

 

”ユウカの言ってることは正しいぞモモイ、アメリカじゃあ成果を出せなきゃ即クビだ。その点、猶予をきちんとくれるユウカはとても優しいものだ” 

 

「ええーっ、先生は私達の味方じゃないの!?」

 

”たしかに私は生徒の味方だが、間違ってることは間違ってると指導するのも先生の仕事さ”

 

「あ……ありがとうございます、先生。モモイ、何をするにしても先生に迷惑をかけないように、いいわね?」

 

 

 しかし、マイケルはそんなユウカの苦労に理解を示す。

 不満の声を上げるモモイであるが、無理を言ってるのを自覚しているのでそれ以上は発言しない。

 そして、マイケルへの感謝とモモイへの忠告を述べ、ユウカは部室を後にした。

 

 

「……お姉ちゃん、あんなこと言って本当に大丈夫? 当てはあるの?」

 

「問題ないよ! 私達にはきちんと切り札があるんだから!」

 

「その切り札ってなんなの?」

 

「ふっふっふ……それはね、『G.Bible』という、読めば神ゲーを作れるようになる聖書なの!」

 

 

 不安げなミドリに自信満々に返すモモイであるが、そこから出て来たのはG.Bibleなる胡乱なもの。

 あまりの胡散臭さにミドリは一瞬で駄目っぽいなという表情を浮かべたが、モモイは更に語る。

 G.Bible誕生の経緯、そしてその存在が『廃墟』にあるということを。

 

 

”力説中悪いがモモイ、なんというか……あまりにも都合が良すぎないか?”

 

「でも、G.Bibleは実在するんだって! 座標はヴェリタスのヒマリ先輩が教えてくれたし、あの人が嘘を言うはずがない!」

 

”hmm...”

 

「お姉ちゃん、必死なのはわかるし、ヒマリ先輩がこういうことで嘘を付くとは思えないのはわかるんだけど……やっぱり怪しいってそういうの」

 

 

 一方でミドリは冷ややかだし、マイケルは懐疑的である。

 出来すぎた話だという指摘は当然のことだろう。

 

 

「ミドリ! ユウカにああ言われて悔しくないの!? 私は……私達のゲーム愛は、あんなものじゃないって! 私達の好きなゲームはガラクタじゃない、宝物だって証明したい! そして、私達の居場所であるゲーム開発部を守りたいの!」

 

「お姉ちゃん……」

 

 

 モモイの熱意、意気込み、それは理解できるものではある。

 自分たちの居場所を守りたいという思いは、万人共通のものだ。

 彼女の熱意を理解したマイケルはため息を一つ、覚悟を決めてモモイと向き合う。

 

 

”君の熱意は分かった、だからまあ……そのG.Bibleを探す手伝いはしよう”

 

「やったー! ありがとう先生ー!!」

 

「大丈夫かな……」

 

 

 ようやく運が巡ってきたと喜びを露わにするモモイ。

 その様子を見て、逆に不安になるミドリであった。

 

 

******************************************************************

 

 

”Yeahhhhhhhhhh!!!”

 

 

 廃墟の一角、大通りを屯する()()ロボット兵士の群れ、そのど真ん中に隕石のごとく飛び込む濃紺色の影。

 複数のロボットが下敷きとなり、砕けたコンクリートの粉塵が周囲を覆い視界を塞ぐ。

 兵士たちは銃口を爆心地へと向けるが、粉塵の中に赤い光が灯ると同時にモーターの回転音が響き、20mmのシャワーがすべての敵を粉砕した。

 

 

「すっごぉい……」

 

「先生のパワードスーツ、凄いパワーだ……」

 

 

 恍惚とした表情を浮かべ、粉塵の中から姿を見せる『メタルウルフ』を眺めるモモイとミドリ。

 廃墟に初めて忍び込んだ彼女たちはマイケルの先導のもと、奥へ奥へと向かっていく。

 道中遭遇するロボット兵士たちはその度その度に粉砕され、障害など無いに等しくピクニック気分である。

 

 

(”()()ロボット兵士、この白さは『ビナー』に通じるが、まさかこいつは『ケセド』の……?”)

 

 

 粉砕された白いロボット兵士の残骸を見下ろし、思案するマイケル。

 以前リツコが言っていた『デカグラマトン』の眷属『ケセド』の情報が頭をよぎる。

 もし『ケセド』が『ビナー』と同等の脅威であれば、ゲーム開発部の2人を連れたまま遭遇するのは避けたいものだ。

 

 

「先生、座標はもう少し奥の―――」

 

”ちょっと待て、まずいな……敵の大集団だ”

 

「えぇっ!? アレだけ倒したのに、まだ出てくるの!?」

 

 

 先へ進もうとするモモイであったが、『メタルウルフ』の戦術マップに現れる多数の光点にマイケルが制止する。

 直後、大通りを埋め尽くす勢いで多数のロボット兵士が現れて道を塞いだ。

 

 

「ど、どど、どうしよう!」

 

”一旦撒くか……あそこの工場に敵反応はないから2人は先に行くんだ、私はここで足止めする”

 

「わ、わかりました!」

 

 

 あまりの数に2人を連れての突破は不可能と判断したマイケルは安全そうな方向へと逃がし、自らが殿となってロボット軍団の足を止める。

 残弾の少なくなってきたM61バルカンを収納し、左肩に担ぐのは箱型のランチャー。

 MIM-204、パトリオットミサイル(MIM-104)を特殊機動重装甲用に改造した大型ミサイルだ。

 対地、対空両用で使えるそれを眼の前に迫るロボット軍団に向けてロックオン、最大発射可能数である4発のショート化されたミサイルが飛翔し、目標を違わず直撃、大爆発を起こした。

 ロボット兵士の群れに大穴が開くが、それを埋めるように新たなロボット兵士が廃墟の奥からやってくる。

 

 

”なるほどな、これは危険だ”

 

 

 右手に保持したGL95を連射し、最前列のロボット兵士を吹き飛ばす。

 行軍を無理に止められたことでロボット軍団の動きが鈍り、そこへリロードの済んだMIM-204を更に4発、再び大爆発が起きる。

 

 

『生徒さんは工場建屋に到達しました。これ以上の交戦は不要です!』

 

”了解したアロナ、そぉれコイツはお土産だ!”

 

 

 アロナがモモイ達が無事に逃げたことを知らせると、マイケルは再装填の終わったGL95を連射し、後ろへ向かってブースターを噴かして飛び立った。

 追撃はなく、程なく彼は工場の入口へと着地し、モモイとミドリがそれを出迎える。

 

 

「先生、本当に凄いよ! なんというか、アクション映画の主役みたいな!」

 

「インスピレーション湧いてくるけどそれを出力する暇が無い……」

 

”2人とも無事だな? よし、この工場を抜けるぞ”

 

 

 直ぐに2人の先頭に立ち、マイケルは工場の奥へと足を踏み入れた。

 この工場は使われなくなって久しいらしく、あちこち錆だらけではあったが、『メタルウルフ』の重量で床が抜けるわけでもなく、何処かチグハグだなと彼は思う。

 その後ろでは、モモイとミドリがやや警戒しながら小さな体で歩みを続ける。

 

 

「ここ、何の工場だったんだろう……」

 

「わかんない、ライン設備も見えないし」

 

”……待て、止まれ”

 

 

 3人で警戒しながら進むこと数分、工場施設の中心辺りまで来たところで『メタルウルフ』が足を止め、2人を制止する。

 『メタルウルフ』のセンサーが足元の異常を知らせていた。

 眼の前の部屋の床の下に、不自然な空間が存在するのだ。

 

 

”この下に空洞があるようだな……床が薄くなっている”

 

「えー、そんな風には見えないし……ほら、特になにもないよ」

 

「うん、怪しいところはないです」

 

『接近を確認』

 

「えっ、今の音声何ッ!?」

 

 

 モモイとミドリが制止を振り切り前に出た所、突然部屋全体に鳴り響く機械音声。

 銃を握りしめて警戒する2人だが、声の主は見当たらない。

 

 

『対象の身元を確認します。才羽モモイ、資格がありません』

 

「な、なんで私の名前を知ってるの!?」

 

『対象の身元を確認します。才羽ミドリ、資格がありません』

 

「私の名前まで……!?」

 

 

 人の出入りのない廃墟であるにもかかわらず、今の生徒の名を知る声の主。

 彼女たちは廃墟に知り合いなど居るはずがなく、当然のことながらマイケルも心当たりなどあるはずがなかった。

 

 

『対象の身元を確認します。マイケル・ウィルソン・Jr先生……』

 

”今は忙しいから、ホームパーティーのお誘いは後にしてほしいんだがね”

 

 

 当然のように自分の名を呼ばれ、軽口を叩くものの彼は警戒心を露わにする。

 

 

『……資格を確認しました、入室権限を付与します』

 

「えぇ……どういうことなの?」

 

「私に聞かれても困るよ」

 

 

 モモイとミドリの両名は、まさかの資格ありという判定に互いの顔を見合わせた。

 その一方で、マイケルは顔をしかめたまま次の出方を窺う。

 

 

『才羽モモイ、才羽ミドリを先生の生徒と認定、同行者の生徒にも資格を付与。現時刻を持って下部の扉を開放します』

 

「下部の?」

 

「扉?」

 

 

 足元を見る2人、先程の床が薄くなっているというマイケルの言葉を思い出し、2人同時に『メタルウルフ』の顔を見上げる。

 

 

”……これは詳細を省くが、結論から言うと床が抜けるな”

 

「うわわわっ!?」

 

「きゃあぁぁっ!?」

 

”よっと!”

 

 

 マイケルがやや諦観した様子で言葉を述べると同時に、部屋の床全体が抜けた。

 彼は咄嗟に前に出て両腕の伸縮機構を活かして2人を掴むが、かなりギリギリのところで足が半分はみ出している。

 

 

”ふぅ……危ない危ない、二人共大丈―――”

 

 

 ほっと安堵したのもつかの間、そのギリギリのところが崩れて『メタルウルフ』のボディが宙に浮く。

 そして間を置かずに重力が働き、3人まとめて暗闇の中へと落ちていった。

 

 

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「下手なジェットコースターより怖かった……」

 

「うっぷ……ぎもぢわるい」

 

 

 暗闇の先といえど、それはただ単に暗がりなだけであってそこまで深いわけではない。

 落下した高さはせいぜいが数m、しかし『メタルウルフ』の両手に襟首掴まれた状態のまま落ちれば、普通に飛び降りるよりもずっと恐ろしいことになる。

 まさしくその状態になった双子は、顔を真っ青にしながら床にへたりこんだ。

 

 

”いやぁ老朽化が酷いな、大家に文句の一つでも言いたくなる”

 

 

 一方で涼しい顔のマイケルは落ちてきた方向を見上げて状況の確認をする。

 元の部屋まではジャンプすればすぐ戻れるが、とりあえず2人が回復するまでは激しい機動は控えるべきだろう。

 続けて水平方向に視線を動かし、この空間の奥の方を見るが―――

 

 

『あっ、先生! 駄目です駄目!』

 

”ぬわっ!?”

 

 

 アロナがモニターに現れてある一点を隠す。

 唐突な出現に思わず声を上げてしまうが、彼はすぐに冷静さを取り戻した。

 

 

”アロナ、そこに何があるかわからないのは困るんだが”

 

『だ、駄目ですよ! 卑猥は一切いけません!』

 

 

 身体を動かし、頭を動かし、アロナが隠すものを見ようとするがアロナガード*1は固すぎる。

 そんな不審な挙動を繰り返している内に、モモイとミドリは回復して呆れ顔で『メタルウルフ』を見上げ、次にその視線の先を見た。

 そして彼女たちが目視するのは、奥の広場、全裸で椅子に力なく座る一人の少女。

 

 

”何があるんだ? 今その方向を見ることが出来ないんだが”

 

「は、裸の女の子が椅子に座っている……」

 

な、なんだって(What the Fuck)!?”

 

 

 モモイの言葉でそこに何があるのか理解した彼は思わず叫んだ。

 確かにそれならばアロナが必死こいて隠そうとするのもうなづける。

 

 

「死んでいるのかな……全然動かないや」

 

「お姉ちゃん、それは不謹慎だよ……先生、そのパワードスーツって生体反応とか見れますか?」

 

”……一応は見れるが、今この空間で生体反応は3つ、私と君たちだけだ”

 

「ほら、やっぱり生きてないんだよ」

 

「生きてる死んでるとかじゃなくて、この子……まるでスイッチが切れてるみたいじゃない?」

 

「言われてみれば……」

 

 

 裸の謎の少女を前に、モモイとミドリはああでもないこうでもないと議論を繰り広げる。

 一方、マイケルは距離をおいてアロナガードの任せるがままに腰を落ち着け、2人の間に一定の結論が出るのを待った。

 変な疑惑を持たれないように、彼なりの自衛措置だ。

 

 

「肌はしっとり、しかも柔らかい……」

 

「椅子になにか書いてあるよ、AL-IS?」

 

「アリスっていうのかな?」

 

「あっ、これはIじゃなくて1、つまりAL-1Sだね……いや、だから何だって話なんだけど」

 

(”それはアリス(Alice)とは読まないぞモモイ……”)

 

 

 今度は触れたり、椅子を調べるなどの直接的な調査に入る2人。

 内心ツッコミを入れながらも、マイケルは余計な口を挟まずにじっと見守る。

 もっとも、相変わらず彼の視界の中央ではアロナガードが発動しているのだが。

 

 

「駄目だ、全くわからない!」

 

「うーん、この子が起きて自分の口で説明してくれたらそれが一番早いんだけど……起こすにしても、何時までも裸は可哀想だし服でも着せようか」

 

「あれ? ミドリ、なんで着替えなんて持ってきてるの?」

 

「何でって……何かあって服がだめになった時のために決まってるでしょ、お姉ちゃんこそほとんど手ぶらで何考えてるのさ」

 

「に、荷物は少ないほうが身軽に動けるし……」

 

「……まぁいいけど、それじゃあ着せるよ」

 

 

 結局何もわからぬまま、とりあえず名前だけは仮に決めただけで行き詰まる調査。

 謎の少女、仮称アリスにとりあえず服だけは着せようと、ミドリは鞄から自らの服の予備を取り出して着せていく。

 だが―――

 

 

「……微妙に小さいなぁ」

 

「この子、私達より身長あるっぽいね。少しだけ緩めて……」

 

『状況の変化、および接触許可対象を感知。休眠状態を解除します』

 

「……えっ!?」

 

 

 服を着せ終わった瞬間、仮称アリスから響く機械音声。

 2人が驚愕で固まる中、眠り姫たる仮称アリスの両の眼が開かれ澄んだ青い瞳が辺りを見渡す。

 

 

「……状況把握、難航。会話を試みます……説明をお願いできますか?」

 

「せ、説明がほしいのはこっち! あなたは何者なの!?」

 

「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません」

 

「えぇ……記憶喪失ってこと?」

 

「肯定、本機は一切のデータがありません」

 

”その割には、接触許可対象なるものを認識しているようだが”

 

「回答不能、本機の深層意識における第一反応が発生したと推定できます」

 

 

 仮称アリスが口を開くものの、その内容に得られるものは一切ない。

 話し方は機械っぽく、一人称が本機、そして目覚めた状態でも生体反応は検出されず、つまり彼女は人間の見た目をした完全なアンドロイドであるということが唯一わかったことだった。

 

 

「……どうしようか」

 

「うーん……記憶喪失、記憶喪失かぁ……」

 

 

 謎のアンドロイド、仮称アリスの処遇をどうすべきか悩む2人。

 しかしここは廃墟の一角、立ち止まって悩めるほど安全な場所ではないのだ。

 その時、遠くで何かが爆発したのか、ずぅんとこの空間が微かに揺れて天井から埃が降ってくる。

 

 

”あまり長居するのも良くなさそうだ”

 

「そ、そうだね、先生の言う通りここに居続けても危ないよね」

 

「じゃあ先生、脱出しようか!」

 

”よし、では二人共肩に掴まれ。君は……腕にしっかり掴まっててくれ”

 

「要請承認、実行します」

 

 

 モモイとミドリを両肩に、仮称アリスを腕に抱えて、『メタルウルフ』は先程落下した穴から地上階へ戻ると、全力で工場を抜けて再び廃墟へと飛び出した。

 全力のブーストダッシュでかかる風圧によって両肩に掴まっているモモイとミドリは辛そうではあったが、腕に抱えた仮称アリスは顔色一つ変えずに正面をじっと見続けている。

 

 

「そ、速度緩めてせんせぇ~~」

 

「お、落ちるぅぅぅ」

 

”おっと失敬”

 

 

 2人の要請で僅かに速度を緩めた彼は、ひとまずロボット兵士達が居ない方向へと向かっていくものの、広域マップの情報からするとこのエリアの唯一の出口にはロボット兵士が屯しているようだ。

 単独で戦えばもちろん殲滅可能なものだが、記憶喪失のアンドロイドを抱えている以上は激しい戦闘は控えるべきだろう。

 つまり、やり過ごすか強行突破する他ない。

 

 

”二人共、安全バーは無いがもう少ししっかり掴まっててくれ、強行突破するぞ”

 

「うえぇぇ……」

 

「わ、わかりました」

 

 

 2人がぎゅっと肩に強く抱きつくのを確認し、彼は再び全力で大通りを滑っていく。

 粉塵を後ろに引きながら、前方に展開するロボット軍団を睨みつけるマイケル。

 ロボット軍団が接近する『メタルウルフ』に気づいて隊列を組み、迎撃フォーメーションを整えていくが―――

 

 

「おらぁぁっ!!」

 

 

 ―――その瞬間、ロボット軍団は背後から何かに襲われた。

 隊列に飛び込んだ何かは、ロボット兵士の隙間を縫いながらまるで玉ねぎの皮を剥くようにフォーメーションを崩していく。

 

 

”一体何だ……?”

 

 

 思わず減速し、何が起きているのか見極めようとするマイケル。

 瞬く間に50体は居たはずのロボット兵士は数を減らし、既に半分以下である。

 そして、ロボットの数が減ったことで暴れている何かが明らかになるのだが―――

 

 

「ンフ、フハハハ! 弱いな! 誰もが憐れむ雑魚っぷりだ!」

 

 

 ―――そこに居たのは、いつぞやの様に外骨格を着込み、両手に愛銃のパトリオットピストル(リツコスペシャル)を握りしめ、圧倒的なスピードでロボット兵士を蹂躙するセミナー副会長、鷹乃リツコであった。

 彼女は最後の一体の頭を蹴り飛ば(サッカー)し、残った胴体を踏み抜くと視線を『メタルウルフ』へと向け、いかにも面倒事がやってきたなという表情を浮かべる。

 

 

「まったく、どこかのアホが廃墟で暴れてるという通報があるから来てみれば……」

 

 

 武器を収め、段々と近づいてくる彼女の姿にモモイとミドリは顔を引き攣らせていく。

 

 

「せ、生徒会四天王の一人、『暴虐の破壊神』の異名を持つセミナー副会長……鷹乃リツコ!」

 

 

 今最も出会いたくない恐るべき先輩との遭遇、モモイ達ゲーム開発部の計画は、早速暗雲が立ち込めようとしていた。

 

To be Continued in ChapterⅠ-Ⅱ ”Awakening of the Hero”(勇者の目覚め)

*1
バリアではなくコハルガードっぽいやつ




お気に入り登録350人突破、ありがとうございます。
これからパヴァーヌ編が始まりますが、何かデカグラマトン編も混ざっているような……
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