柴大将を蔑ろにするつもりはなかったとこの場を借りてお詫びいたします。
ミレニアムサイエンススクール、ゲーム開発部部室―――廃墟で副会長、鷹乃リツコと遭遇したゲーム開発部とマイケル・ウィルソン、そして謎のアンドロイド仮称アリスは有無を言わさぬ勢いで部室へと押し込められていた。
主犯格である才羽姉妹は正座させられ、その前で仁王立ちするリツコの視線に怯えきっており、それはまるで捕食者を前にした被捕食者のようである。
「ったく、お前ら私の世話になるのもこれで3回目だぞ。違法カジノ建設、古代史研究会襲撃……そして今回の廃墟への無断侵入だ。しかもこんなのも連れてきて、一体何を企んでいる?」
「こ、この子を連れてきたのは不可抗力というか……」
「は、廃墟に倒れてたから助けたんだよ!」
「否定、本機は救助される状況にありませんでした」
「わーっ! な、なんで余計なことを言うの!?」
「……こいつも妙な奴だな、まるでロボットみたいな話し方をしているが、先生は何か知っているのか?」
始まる尋問、言葉を濁すミドリに対しモモイは明らかに誤魔化そうとし、
そして、その仮称アリスの不可解さに首を傾げたリツコはマイケルに助けを乞う。
”まぁ……生体反応がないからアンドロイドだな、ヘイローがあるが”
「ヘイローのある機械……まさかとは思うが、うーむ……おい、お前、名前は何だ?」
「本機は自我、記憶、目的が消失しており回答不能」
”聞いての通り、記憶喪失のアンドロイドだな”
「うわー、面倒だなオイ……このままではやりにくいし、名前くらいつけるべきか?」
アンドロイドであるとの回答を受け、その頭部に浮かぶヘイローを眺めた彼女は顔をしかめたままその名を問う。
だが、仮称アリスは己の記憶を一切持たないが故に答えられず、定型文で返すほかない。
名も呼べぬのは不便だとして呼び名を決めるべきかと悩むリツコ。
「はいはい! ”アリス”ってどうかな!」
「それそれただの読み間違いでしょ!? 本来はAL-1Sちゃんって呼ぶべきで……」
「そんなの長いし、可愛くないでしょ!」
「お前ら、自分の立場をわかってるのか?」
そこに割り込み、自らの主張を押し通そうとするモモイ。
ミドリがツッコミを入れるが、断じて譲ろうとしない。
そもそも『お前達に聞いてないんだが?』というリツコの主張は当然で、大人しく反省する様子のない2人に苛立ちを隠さない。
だが、当の仮称アリスはというと―――
「………」
「ほら、すごく気に入ってる感じしてる!」
「……肯定」
「マジかよ」
アリスという名が気に入ったようで、どことなく目が輝いているように見える。
これにはリツコも驚きを以て返す他ない。
「本機、アリス。承認しました」
「アリス、アリスかぁ……まあいい、こいつのことに関しては一旦セミナーで預かる」
「え、ええーっ! それは困る!」
「……何が困るんだ?」
「うっ!」
その名を気に入り、自らをアリスと定義したアンドロイドの少女。
故に、リツコもそれを受け入れてアリスの身柄をセミナーで預かろうとするが、そこに抗議の声を上げるのはモモイである。
しかしそれはあまりにも迂闊で、その裏に何かしらの思惑があることを暴露するものであった。
「……ふぅー、当てて見ようか? このアリスをお前達ゲーム開発部の部員として登録するつもりだった、違うか?」
「な、何でそんなにはっきりと断言できるのさ!」
「そりゃあな、ゲーム開発部が廃部寸前という情報、その理由、ついでにお前たちのやらかしの傾向から逆算すれば推理なんて簡単だぞ?」
「そ、そんなぁーっ!」
一呼吸置き、リツコは推理という形でモモイの思惑を言い当てる。
そして実際、まさしくリツコの推理は正鵠を射るものであり、モモイは強がるものの内心穏やかではなく、さらにダメ押しを食らってその場に崩れ落ちた。
「も、もう駄目だぁ……ゲーム開発部に新入部員が入る見込みなんてないのに……」
「………ん、電話か。少し待て」
絶望に沈むモモイを冷酷な瞳で見下ろすリツコであったが、己のスマホの着信が鳴るとその表情を崩してポケットから取り出す。
そしてスマホに映る発信者を見て―――困惑した様子で耳に当てた。
「いきなり何だよ、私は今……何? あぁ、先生ならここにいるが……おい、こっちのはどうするんだよ。何だと? あぁ、わかった……チッ」
「な、何の話してるんだろう……」
「うぅー……」
何やら不穏さを感じるリツコの様子に怯えるミドリ。
一方、モモイはダメージが高すぎて再起できておらず、唸り声を上げながら沈んだままである。
「事情が変わった。先生、直ぐに私についてきて欲しい……こいつの身柄についてはとりあえずは保留、ただしミレニアムの生徒でない以上外に出すなよ、いいな? さもなきゃ警備ドローンに蜂の巣にされるぞ」
”
「その
”わかった、すぐに行こう。すまんなモモイ、ミドリ、どの道今日はもう無理だろうから、明日にでもまた”
「あっ……」
電話を終えたリツコはいかにも副会長らしい表情に切り替えると、マイケルへの要請及びゲーム開発部への指示を出し、彼は突然の事態ではあったがそれを承諾する。
事態の急変に対応できぬモモイとミドリ、そしてアリスを含めた3人を残してリツコとマイケルはゲーム開発部の部室を飛び出していった。
「……どうしよう」
「うぅ~……」
「お姉ちゃん、もう現実を受け入れるしかないよ……」
「……」
急に静かになった部室、ショックから立ち直れぬ姉に諦めの表情を浮かべるミドリ。
一切の事情を理解できていないアリスは、そんな2人に首を傾げて見せた後に散らかった部屋を眺めた。
「正体不明の物体を発見、確認を行います」
「あっ、それは……」
アリスが目をつけたのは、付箋がやたらと貼り付けられたゲーム雑誌。
開かれたページに掲載されていたのは、『今年のクソゲーランキング』
一番大きく紹介されているのは勿論第1位に選ばれた作品であり、すなわちゲーム開発部謹製の『テイルズ・サガ・クロニクル』であった。
「……そのゲームは、私達が作った奴だよ。随分酷評されちゃったけど」
「酷評の意味を確認……『手きびしい批評をすること』」
「あはは……そうだね、アリスちゃんはゲームに興味ある?」
興味深そうにそのページを眺めるアリスに対して、ミドリは問いを投げかける。
お前もゲームをやらないか、そういう意味が込められた問いだ。
「……肯定、アリスはゲームに興味があります」
「そっか、じゃあどうせ副会長が戻ってくるまでアリスちゃんは部屋から出られないし、ゲームでもして時間を潰そう。お姉ちゃん、何時までもショックを受けてないで『テイルズ・サガ・クロニクル』を準備するの手伝ってよ!」
「うえぇぇっ!? あ、アリスに『テイルズ・サガ・クロニクル』をプレイさせるの!?」
「どうせ今やれること何も無いし、アリスちゃんの感想も知りたいし、いいでしょ?」
「う、うーん……そういうことなら、まぁ、やってみよう!」
ミドリに発破をかけられてようやく復活するモモイ。
散らかった部屋を少し片付け、モニターにゲーム機を接続、ついでに飲み物とお菓子も用意してプレイ環境を整えると、満を持して電源をONにした。
「アリス、ゲームを開始します」
―――その意志が、すべてを変える。
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リツコに案内されるまま、マイケルはミレニアムサイエンススクールの深部へと向かう。
当初セミナーのあるミレニアムタワーに向かうと思われたが、その行先は地下に張り巡らされたシャフトの一角、『メタルウルフ』ですら通れるそれなりに広い通路を進み、たどり着いたのは行き止まりのようであったが―――
「何代か前のセミナーが作ったセーフハウスの一つだ、ここはシェルター構造になっている」
壁の一部が動き、偽装された防爆ドアが開かれる。
二重構造らしく、入ってきたドアが閉じねば眼の前のもう一つの防爆ドアは開かない構造のようだ。
「この先にいるのはリオと、後2人は先生も初めて会うかな? うち一人の服装がまぁ……
”そういう方面で明日の一面を飾りたくはないな”
「安心しろって、そいつは見られても気にしないタイプだ」
扉が閉まり切るまでの間、リツコはこれから会う生徒について軽く説明するものの、その内容に不穏な点を感じ取ったマイケルは肩を竦める。
大丈夫だとリツコは言うが、どうにも安心できるものではない。
不安を払拭できぬ内に前方の扉が開き始め、緊張の一瞬。
「……特異現象捜査部ようこそ、先生。歓迎するわ」
「はじめまして、先生。私はヒマリ、ミレニアムサイエンススクールにおける天才ハッカーです」
「和泉元エイミ、よろしくね」
部屋の中で真っ先に反応するのは、以前であったときと同じく黒いセミナーの制服を着た生徒会長たるリオ、そして彼にとって初対面であるヒマリ、エイミが続く。
先ほどリツコが言っていた生徒が誰なのか、この一瞬で理解できてしまう。
上着を完全にはだけさせてブラジャー(?)丸見えの未成年というのは、相当にセンシティブなものだ。
”Ah...マイケル・ウィルソンだ。はじめましてだな”
「エイミ、先生が困っていますよ」
「暑いんだから仕方ないよ」
思わず視線をそらしながら対応すると、それを察したヒマリがエイミを注意するが、当のエイミは何も恥ずかしい格好をしているとは思っておらず、暑いのが悪いとする始末。
”まぁ……それはそうと、君がヒマリか。ゲーム開発部の2人にG.Bibleの在処を教えた?”
「はい、その通りです。可愛い後輩が困っているのですから、解決策を提示するのがキヴォトスのあらゆる情報を観測できるこの天才美少女ハッカーである私の務め」
”………”
「部長、先生が呆れてるよ」
ヒマリのあまりにも自己評価の高い肩書きに、思わずぽかんとした表情を浮かべるマイケル。
その様子に、今度はエイミがジト目でヒマリに注意を促した。
「まぁ、こういう奴らだ。慣れてくれとしか言えない」
”……やれやれ、前途多難だ”
「そろそろ本題に入っていいかしら?」
リツコのアドバイスにならないアドバイスを受け、表情を戻しながらも果たしてこの2人とうまくやっていけるのかという一抹の不安がよぎる。
そんな彼の内心を知ってか知らずか、リオは本題へと切り込んでいく。
「先のアビドス自治区における戦闘で出現が観測された『ビナー』、それのデータを解析して存在が確実視された『ケセド』、『デカグラマトン』というAIによるキヴォトスへの攻撃に対処するために私は特異現象捜査部を設立したわ」
「とはいえ、『デカグラマトン』に関する情報は殆どない。唯一タレコミのメールの内容だけが情報源というのは心許ないわけで、特異現象捜査部にはまずは『デカグラマトン』の眷属のデータの解析をやってもらっている」
「リツコの持ち込んだ『ビナー』の戦闘データだけでもいくらかの事実は判明しました。しかし、それだけではやはり足りないのでシャーレの先生、あなたの持つデータの提供をお願いしたいのです」
リオの説明、リツコの補足、そしてヒマリの要請、それはミレニアムは対『デカグラマトン』にシャーレと共同であたりたいという意思表明。
他の生徒の目に触れないような地下に招いたということは、この案件は極秘にしておきたいのだろうことが伺える。
”それくらいは構わないのだが、声を掛けるということは『デカグラマトン』の件で何か進展があったのか?”
「ええ、廃墟に居る『デカグラマトン』の眷属『ケセド』の位置が特定できたわ。これは先程、廃墟で『ケセド』の軍隊との交戦した結果解析できた情報よ」
”あの白いロボット、やはり『デカグラマトン』の関係だったか”
「ええ、でも新たに判明したのはその程度。それと……先生、ゲーム開発部と一緒に連れて帰ってきたアンドロイドの話もここで扱うわ」
場の空気が変わる。
リツコの表情が深刻なものにかわり、ヒマリはリオを注意深く―――まるで監視しているかのような視線を向け、エイミに関しては彼女自身はただの実働要員であり、高度な決定に関わるつもりは無いようで、隅で大人しくしていた。
”……リツコから聞いたか?”
「いいえ、ミレニアムサイエンススクールで私が知らない事はないというだけよ」
「先生、この女はビッグシスターとしてすべてを統制しようと目論んでいます。ミレニアムのあらゆる監視カメラは彼女の支配下にあると言っても過言ではありません」
リオに対して明らかに棘のある言葉を投げつけるヒマリ。
ヴェリタスはセミナーの、というよりリオのこの様なスタンスに反対して作られたものなのだから、その部長である彼女の態度は当然のものと言えた。
”つまり、監視カメラで見ていたと”
「ええ、そういうことです」
「必要なことよ。事故や事件を未然に防ぐためには危険行為、不審人物、学園を危険に晒すものを放置してはおけない……生徒会長として当然の行いと私は思っているわ」
”………”
腕を組み、マイケルは思案する。
果たしてリオのその様な行いを咎めるべきなのか、それともここは流してアンドロイド、アリスの話を続けるべきか。
彼の思想信条でいえば、その様な統制的手法は認められるものではない。
しかし、彼は今この場でそれを口にして場をかき乱すことを良しとしない分別のある大人であった。
ヒマリには悪いが、現在進行系で自由が抑圧されている状況でもない限り、そう簡単に同調はできない。
”……まぁ、学園の運営に関して私が口を出すようなことではないな。話を続けてくれ”
「……」
「ええ、それでそのアンドロイド―――」
「リオ、そいつは今はアリスと名乗っている。個体名として覚えておけ」
「―――アリスに関してだけれども、私はその正体について二通り考えているの」
”ほぅ”
故に建前を立てて言及を避けるが、やはり不満げな表情を浮かべるヒマリ。
一方でリオは少しホッとしたような表情を浮かべた後に、己の見解を述べ始める。
アリスが発見されてからまださほど時間も経っていないというのに、既に目星をつけているとはと感心しながら彼はリオの話に耳を傾けた。
「一つ、『デカグラマトン』の眷属だという仮説。ヘイローのある機械は『ビナー』という実例があり、『ビナー』は『デカグラマトン』の眷属である以上、同様の存在ではないかとするものよ」
ホワイトボードに要素要素を書き込みながら説明するリオ。
隅に描かれていた謎のロボットの顔らしき落書きは彼女なりの茶目っ気だろうか。
「もう一つは、古代文明のオーパーツであるという仮説。廃墟という未開の都市遺跡で発見されたということ、あれほど精巧な人型ロボットは今のキヴォトスの技術では開発できないのが根拠になるわ」
2つの仮説、どちらにしても確かに信じるに足りうるだけの状況証拠がある。
”こちらに関しては、私にどうして欲しいんだ?”
「アリスの正体を見極めるために協力してほしい、と言えばいいかしら。身体能力、人格、様々なデータを収集したいの。でも、彼女について私達はまだ何も知らない以上、まずは穏当な方法でやれないかとは思っているわ」
”なるほどな、そういうことなら喜んで協力しよう。それを踏まえて提案を一つ、彼女をミレニアムの学生にしてはどうだろうか? 既にゲーム開発部の2人が囲っている以上、隠すことは不可能だろうしな”
「なるほど、一度生徒にしてしまえばいい……その考えは無かったわね」
リオにとってミレニアム自治区の内情が外に漏れるのは看過できぬもの。
故に、アリスをミレニアムの学生にして外部へのカモフラージュとし、更には学園の権利として堂々とアリスに干渉できるようになるマイケルの提案はこれ以上無いほどに合理的なものに思えた。
「……結局チビどもの狙い通りになるのか」
「おや、リツコは不満ですか、あんな可愛らしい後輩ができるのに?」
「あの問題児共が調子に乗らないか心配なんだよ」
その横で明らかに顔をしかめて不機嫌そうにするるリツコに、それを揶揄するヒマリ。
才羽姉妹のやらかしの後始末をしてきた立場からすれば、色々と思うところはあるというもの。
「アリスに関しては、私の権限で彼女の学籍を用意するわ。検査の方については段取りがあるから今直ぐには出来ないけども……」
「まぁ、明日以降になるか? 今日はもう遅いしな」
「それと、『デカグラマトン』の件に関しては近い内に『ケセド』への調査を兼ねた攻撃を実施するつもりだから、その時には先生にも手伝ってもらいたいけど……いいかしら」
”ああ、問題ない”
最後の最後に
かくして方針が決まり、地下の秘密会議は幕を下ろしたのだった。
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―――翌朝、部室棟の廊下に響く2つの足音。
音は段々と部室棟の隅の方へと向かっていき、途絶える。
「……」
”……”
足音の主であるマイケル・ウィルソンと鷹乃リツコはドアノブに手を触れる前に、ドアに耳を当てて内部の様子をうかがった。
ドア越しに聞こえるのは、ゲームらしき電子音。
2人は顔を見合わせ、静かにドアを開けると―――
「おぉ、よくぞ戻ってきてくれた! 私はとても嬉しいぞ!」
―――まるで待ち構えていたかのように、アリスが一人で出迎えた。
昨日の話し方とは違い演技がかってはいるものの、声に感情が籠もっていることに2人は驚きを隠せない。
”どうなってるんだこれは?”
「この喋り方……まさかゲームで話し方を覚えたのか? おい、お前ら起きろ!」
「むにゃ……へぁっ!? な、何! あだっ!」
眠りこけているゲーム開発部の
モモイが悲鳴を上げ、寝ぼけながら勢いよく起き上がると同時に座卓の角に頭をぶつけて悶絶する。
「お姉ちゃんうるさ……わあっ!? ふ、副会長……」
「……ひっ!」
それにつられて起きるミドリは眼の前のリツコの姿に小さな悲鳴を上げ、そしてもう1人、明るい赤系統の髪色の見知らぬ生徒は、リツコとマイケルの姿を見るなりロッカーに駆け込んだ。
バタンと勢いよく閉められるロッカー、その様子にリツコは大きなため息を付く。
「あいつはゲーム開発部部長花岡ユズ、見ての通り対人恐怖症だ……カウンセリングを勧めてはいるんだがね、そもそもカウンセラーと会うのも怖いという感じで」
「ちょ、ちょっとそんなユズが病気みたいな言い方は失礼じゃん!」
「ユズは……病気なのですか?」
「それはちょっと違うかな……」
事情を知らぬマイケルに対し、セミナーの副会長として生徒、花岡ユズの紹介をするリツコ。
その内容にモモイは抗議の声を上げ、それを真に受けたアリスが不安そうな表情を浮かべ、ミドリが言葉を濁しながらも宥め賺す。
少し面倒なことになったなと内心ため息をつきながらも、リツコは本来の仕事を果たすべく、ポケットから1枚のカードが収まったカードストラップを取り出した。
それを見て目を見開いたのは、当然のことながら入っている
「え、なんで学生証が……!?」
「喜べチビども、リオが特例でこいつに正式な学籍を与えた。後でいろいろ検査をするが、以降こいつは正式なミレニアムの学生として扱う」
「嘘……まさか、夢じゃないよね!?」
「?」
学生証を前にし、己の顔をつねったり目を擦ったりする才羽姉妹に対し、差し出されたそれを前に良くわからないと言った様子で首を傾げるアリス。
「アリス、これはね……アリスが私達の仲間になるのに必要なものなの!」
「そうなのですか? パンパカパーン! アリスはモモイたちの仲間になりました!」
「どうして会長が……一体何があったんですか、先生」
単純にアリスの入学を喜ぶモモイに対し、ミドリはその裏を感じ取ってマイケルへと密かに問う。
しかし、その当人が仕掛け人とは彼女も思うまい。
”リオはアリスに興味を持った。良く知りたいと思うからこそ、手の届く範囲に置いておこうというつもりになったんだろう”
「ま、まさかアリスちゃんをバラバラに分解するつもりで!?」
「えっ! ま、まさかそんな非人道的な仕打ちを!?」
「う、うわーん! アリス、バラバラにされたくありません!」
自分の関与を誤魔化しながら理由を説明するマイケルであったが、ミドリがリオの意図を誤解をしてしまったのが発端となり、モモイとアリスが騒ぎ出す。
もしリオがこの部屋を監視していたらショックで膝を抱えるかもしれないが、幸いにも今は別の要件で席を外していたので一安心である。
「おいおい、取って食おうってわけじゃないんだよ。しかしなんだ、一体何をしたらあんなロボットみたいな口調がこんな風になるんだ?」
流石に呆れた様子で事態の沈静化を図るリツコ。
微妙に話をそらしながら、アリスの口調が変わった理由を探ろうとする。
アンドロイドの人格パターンに変化を与える代物をゲーム開発部が持っていたのなら、それは危険ではないかと思ってのことだ。
「変わったことだなんて……ただゲームをやっただけで」
「ゲーム? ゲームやってこうなったのか!? それで論文出せたらマジで実績になるレベルの話だぞ、まったく」
「最初にテイルズ・サガ・クロニクルをやって、それから―――」
「しかもテイルズ・サガ・クロニクルか。あれを何も知らないやつにやらせるのはキツすぎる」
「……あれ? もしかして副会長、テイルズ・サガ・クロニクルをやったことが?」
しかし、帰ってきたのはゲームをやらせただけだという回答。
単純にアリスが自身ハードスペックの高さから、ゲームの文体から様々な情報を吸収して自分のものとしただけという事がわかって脱力した。
そんなもの、
しかし、最初にやらせたゲームが『テイルズ・サガ・クロニクル』と知ってわずかに彼女が色めき立ったのをミドリは見逃さなかった。
「まぁな、私だってセミナーの副会長だ。知るために提出されたデータの確認ぐらいはしているが……あのゲームはな」
「うぅ……」
どことなくもったいぶる様な物言いに、モモイは胃がキリキリと痛みだすのを感じた。
元より世間からの評価は良くないというのは十分理解しているが、相手が相手であり、緊張するなというのが無理な話というもの。
『暴虐の破壊神』などというあだ名を一部においてつけられているリツコの評価は、セミナー保安部員達が持っている”面倒見が良い頼りになる部長”というものとは異なり、一般生徒の間では”よく顔を出すが、成果を出せねば鬼のように詰めてくる”と恐れられていた。
逃げようにも高い身体能力により地の果てまで追い詰められ、反論すれば高い知性によって逆に論破され、とにかく半端を許さない苛烈さがあった。
それを知っているからこそ、モモイは猛烈なプレッシャーを感じていたのだ。
「……色々作者の胸ぐらを掴みたくなる様な所もあったが、私としちゃ面白いものだった。勿論、その胸ぐらを掴みたくなる様な点が多くの不興を買ったというのも理解はしている」
「……え?」
「今なんて……面白いって、副会長が?」
しかし、予想に反し帰ってきたのは面白かったという声。
まさかの事態にモモイは続けるべき言葉を失い、ミドリも呆然とする。
「信じてないな? まぁ、仕方がないか……ところで、あのクソみたいなチュートリアルとバトルバランスにしたのは誰だ? あれが相当に面白さをスポイルしてると思うんだが」
「あ、それはお姉ちゃんです」
「い、妹よー!? はぶっ!」
「おお、モモイよ。死んでしまうとはなさけない」
自分の感想が信じてもらえてないことにちょっとだけ傷つきながらも、リツコはテイルズ・サガ・クロニクルの駄目な点を指摘すると、ミドリは即座にその責任を姉に投げつけて自らは安全圏に退避した。
実際、指摘された部分はモモイのこだわりによって誕生したものである。
そして責任を投げつけられたモモイは、リツコの拳骨を一発食らってその場に沈んだ。
「よし、スッキリした。さて、話は戻すが今回私がここに来たのは、アリスの処遇に関して通知するためだ。アリスは生徒として登録したが、所属部活に関しては未だ空白状態にある。どこに所属したいのかは自分で決めることだ」
「はい! アリスはモモイやミドリ、それにユズといっしょに居たいです!」
「そうかそうか、じゃあゲーム開発部はこれで部員が4名になったが……しかし、廃部勧告は未だ有効だということを忘れるなよ」
「えっ、なんで!? 部員4名か成果を出すかのどちらかを満たせば存続できるんじゃなかったの!?」
モモイの粛清を終え、スッキリした様子で本題に戻ったリツコはアリスに所属部活の選択肢を投げ、受け取ったアリスは迷うこと無くゲーム開発部への入部を宣言。
それに満足気に頷くリツコであったが、同時に廃部は撤回されないぞと告げると、モモイが死の淵から復活して噛みつく。
―――先日の部長会議で部の存続条件が改定されたのだが、ユズは
サボりの理由がゲームのキャンペーンだったからという理由であったため、リツコの粛清パンチ2発目が飛んできて再び彼女は轟沈する。
もう止めて! とっくにモモイのHPはゼロよ!
「ったく、お前らの新作ゲームを楽しみにしてるのはここに1人居るんだってことを忘れんなよ」
「
「も、モモイが2度も一撃でしんでしまいました。リツコは魔王なのでしょうか」
「おうおう、私が魔王ならお前は何だ?」
「アリスは……」
リツコの暴力に戦慄するアリス。
頭に大きなたんこぶを作って倒れ伏すモモイを背後に仁王立ちするリツコの姿は、確かに彼女が言うように魔王に見えるかも知れないが、しかし逆に問い返されれば言葉に詰まってしまう。
彼女はまだ、新たな自我を形成し始めて1日も経っていない赤ん坊みたいな存在だ。
言葉に詰まる彼女の姿を見て、リツコは
「お前は、ミレニアムサイエンススクールの学生にしてゲーム開発部の部員、アリスだ。これから先どうしたいのかはお前自身が決めることだな」
「……はい! アリスは、世界を救う勇者になりたいです!」
「おっ、随分と大きな夢を持ってるなお前。よし、それに恥じないように自己研鑽を怠るなよ」
”……驚いたな、君は随分と
まるで親御さんのようにアリスに語りかけるリツコの姿に、マイケルは驚きを隠せない。
彼女はまだ、17歳の子供であるはずなのに。
「3年前、色々あってね……ま、おかげで新しい価値観に目覚めたわけだが。さて、アリスにはミレニアムサイエンススクールを見て回ってもらうが、お前らはどうする?」
一瞬遠くを見るように過去を思い出す彼女ではあったが、すぐに現実に戻るとこれからの予定について話を始める。
生徒になったのならば学園見学をして色々知ってもらわねばならないというのは当然の話で、ミレニアムの広さを考えれば朝一から回る必要があるのも頷けるものだ。
「私も一緒に行くよ!」
「私も行きます。アリスちゃんは仲間ですから」
「それで、あっちは……駄目っぽいな。仕方ない、行くぞ」
ついていく気満々の才羽姉妹に対し、リツコがロッカーに視線を送って様子を見るものの、扉はうんともすんとも言わずに沈黙を保っている。
やはりと言うべきか、ゲーム開発部のメンバー以外と顔を合わせるだけの勇気が持てないのだろう。
諦めて5人で部屋を出ようとした時、わずかにロッカーの扉が開き、ユズがほんの少しだけ顔をのぞかせた。
「あの……副会長、お世辞でも『面白かった』と言ってもらえて……その、嬉しかった、です」
「……お世辞じゃないっての」
なけなしの勇気を振り絞って感謝を伝えるユズ。
それを背に受けながら小さく呟くリツコの声はワイワイと騒ぎ立てる3人の耳には入らず、虚空へと消えていった。
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様々な工作機械が置かれ、多少は整理されているものの色々と散らかっており、鉄と油の臭いが漂う部屋……ここはミレニアムサイエンススクールの中でも高い技術力を誇るエンジニア部の部室である。
動いている工作機械の中では大小問わず機械部品の製造が進められ、部屋の一角では完成品から未完成品まで、ある程度の形になっているものが並んでいる。
アリスを主役とする一行はミレニアム巡りの第一弾としてエンジニア部の部室を選んだわけだが、その理由は割と実利に基づいてのものであった。
「そういえばこいつは銃無しだな。武器を手に入れる必要があるが、お前らにアテはあるのか?
「大丈夫だって副カイチョー、ミレニアムで
―――とまぁ、この様な感じで正規のライセンス品を入手するつもりであったリツコに対し、品質と性能の点、そして何よりお値段でモモイが選んだのがエンジニア部なのだ。
武器の修理改造を手掛けている都合、習作や持ち主が所有権を放棄した銃などをプールしているため、それを譲ってもらえればタダで武器が手に入るというのがモモイの目論見である。
エンジニア部の技術の高さはミレニアム、ひいてはキヴォトスでも上位のものであり、よっぽど変な思いつき改造*1がなされぬ限りは下手なガンスミスの製品よりもずっと高品質が期待できるというのも大きい。
つまりのところ、モモイは懐を痛めたくないということだった。
「やあ、先生に副会長、それと……その子は初めて見るね、どうしたのかな?」
薄紫のロングヘアーを持つ少女、エンジニア部部長の白石ウタハは部室にやってきた一行を出迎えると、その中に混じっている
「転入生、例の奴だ」
「なるほど、例の……まだ準備は出来ていないが、ここに来たということは」
「ウタハ先輩、アリスに新しい武器をプレゼントしてあげたいの!」
「ふむ、事情はわかったよ。そういうことなら確かにここに来たのは素晴らしい選択だね」
セミナーを通じてある程度の事情を先んじて伝えていたこともあり、言葉少ない説明で大凡を把握したウタハは、モモイのお願いを快く受け入れた。
元よりアリスの身体検査はエンジニア部で行うつもりであったし、銃の扱いなどで簡素的ながらデータは取れそうだという目論見はあったが、何より自分達の作品に新たな使い手が生まれるというのはマイスターとしては喜ばしいものであったといえる。
「あそこに並んでいるものが私達の作品だ。あの中の物なら、どれを持っていっても構わないが……ヒビキ、コトリ、見繕ってあげて欲しい」
「わかった、先輩。私はヒビキ、よろしくね」
「呼ばれて飛び出て説明しましょう! ミレニアムのマイスター、コトリです!」
後輩2人にゲーム開発部を任せ、ウタハは残ったリツコとマイケルに向き合った。
「さて、先生とは先日のアビドス以来かな? あの時購入した戦車『ドロシー』のリバースエンジニアリングは2億円をかけただけの利益は十分に得られたよ。スーパーキャパシタ、冷却システム、どれも目を見張るものだった」
”それは結構、詐欺だったと言われずにホッとしてるよ”
「フフフ、それと『メタルウルフ』の調子はどうかな? 整備が必要になったら、何時でも私達に頼ってくれて構わない。リツコのパワードスーツを預かっているし、あの手のメカに対してある程度の整備能力は保有しているという自負はあるんだ」
ウタハが視線を動かした先には、先のアビドスの戦闘で大破した『マーク0』に類似したフレームが複数。
肩にナンバーが刻まれており、あそこにあるのは『マークⅠ』から『マークⅤ』だというのがわかる。
”それなら、簡単な整備からまずはお願いしてみようか? 先のアビドスでの事件でのダメージはある程度修復したつもりだが、君たちのお手並み拝見ということで”
「おや、見くびられたものだね。キヴォトスの外のメカをいじるのは初めてだけども、先生の期待を上回る成果を見せてあげようじゃないか」
『メタルウルフ』の整備、それはすなわち外の技術に触れるチャンスであり、千載一遇の好機といえるだろう。
ウタハのアピールに、マイケルは条件付きでそれに応じた。
『メタルウルフ』元々大統領専用機として開発され、機密性の高いものであったためあまり他人に触らせたくなかったのだが、アビドスの事件で相当のダメージを受けたのが理由としては大きい。
ある程度修復はしたが、マイケル自身は専門のメカニックでないため限度というのが存在する。
エンジニア部に『メタルウルフ』の修理、整備能力があるのならば、キヴォトスにおける活動もいくらか楽になるだろうという思惑があった。
軽く挑発される形になったウタハは意気込みを語り、ここに契約は成立したのである。
”それじゃあ、『メタルウルフ』を取りに行ってくるからこの場は任せたよ、リツコ”
「任されよと……さて、ウタハ、準備は何時頃終わるんだ?」
「簡易的なものならすぐにでも、本格的なものは今日は無理だね」
「簡易的なものでとりあえずは構わない。アリスの性能、どの程度のものか……」
『メタルウルフ』を取りに部屋を後にするマイケル。
彼が居なくなった後に、ウタハとリツコはアリスの処遇について話し合う。
エンジニア部の中でウタハだけがアリスがアンドロイドであるということを知っており、セミナーの、というよりも
「しかし、あの子がアンドロイドとはね……ヘイローもあるし、見た目は私達と殆ど変わらない。どれだけ高度な技術で作られたものなのだろうか」
「少なくとも、危険なものでなければいいんだがね」
「そうであることを願うよ」
2人の視線の先では、アリスが天井から吊るされた巨大な大砲に興味を示している。
ヒビキとコトリは困惑しているようで、助けを求める視線を送ってきたためウタハはリツコとの会話を中断し、彼女たちへと歩み寄っていった。
「アリス、君はこれが気に入ったのかな? コトリから聞いたと思うけども、こいつは私達が宇宙戦艦の主砲として建造した
「光の剣:スーパーノヴァMk.Ⅱだ」
To be Continued in ChapterⅠ-Ⅲ ”
マイケルよりリツコの出番が多いですが、元々パヴァーヌ1章って先生の活躍少ないんですよね。
それとデカグラマトン編みたいなことをしてますが、まだホドは発生してないので特異現象捜査部は色々と情報が不足しています。