METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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ChapterⅠ-Ⅶ ”And into the Legend(そして伝説へ)...”

 まるで大蛇のように長大なチューブ状の胴体の先に、タコを思わせる白い巨大な頭部と多数の作業用アームを備えたもの。

 本来はミレニアムの地下トンネルを行き来し、様々な回線の敷設や整備を目的とするマシーン、それが『ハブ(hub)』であった。

 しかし、今やそれは完全にミレニアムの制御を離れ、誰の手によるでもなく自身の判断をもってサブ通信タワーの頂上めがけて登っていく。

 機体各部に見られる青いエネルギーラインはチカチカとオレンジ色に点滅し、純白の装甲に描かれたミレニアムサイエンススクールの所属を示すエンブレムは、まるでそれを否定するかのようにノイズが走ると新たな印を己に刻み込んだ。

 もし特異現象捜査部のメンバーがそれを見たのであれば、それは『デカグラマトン』の眷属、否預言者の証であると気づいただろう。

 しかしそれを確認できるほどの余裕は今の保安部やマイケルにあるはずがなく、タワーの根本についた彼らは地上から見上げるばかりであった。

 

 

”こいつはマズいな、タワーに登らないと駄目だ”

 

「だが、一々エレベーターで登るのは危険極まりない……」

 

 

 通信タワーにはメンテナンス用のエレベーターはあるのだが、その頂上に敵がいるとなればそれを使って行くのはあまりにも危険だ。

 逃げ場のない箱に閉じこもるなど、殺してくださいと言っているようなものでしかない。

 だが、だからといって非常階段で駆け上るのもまた厳しい。

 メインの通信タワーと比べて小ぶりなサブタワーといえど、この塔の全高は普通に3桁メートルはあるのだから。

 

 

「あれが『ハブ(hub)』か……」

 

「あんな姿してるんだ、初めて見た」

 

 

 展開した保安部の生徒が見上げながら呟くように、ミレニアムの生徒といえど地下での活動をメインとする『ハブ(hub)』の全貌を知るものは少ない。

 故に、今の『ハブ(hub)』の変容を見てもそれが異常であると認識することもできず、ただ暴走したメカとしか思っていないようで、言うほど深刻さを感じていなかった。

 

 ―――放たれた端末(インベイドピラー)が、ミレニアムのネットワークを汚染し始めるその時まで。

 

 

『副会長、通信タワー周辺の防衛機構のコントロールを失いました! これは『ハブ(hub)』からの攻撃だと思われます!』

 

「な、なんだとぉっ!?」

 

 

 オペレーションルームからの悲鳴のような通信に、リツコは思わず声を上げる。

 元々ミレニアムの重要施設には外部からの襲撃を迎え撃つための多数の自動砲塔(セントリーガン)が配備されていたのだが、それが敵に抑えられたというのだ。

 それはつまり、通信タワーを登ることすら不可能に近くなるということ。

 タワーを駆け上がりながら周辺から撃たれるなど、とてもではないが耐えられるものではない。

 

 

”直ちに散開しろ、遮蔽に隠れるんだ!”

 

「撃ってきた!」

 

「うわああっ!」

 

 

 横でその通信を聞いていたマイケルがリツコの代わりに指示を出すと同時に、乗っ取られた防衛機構の攻撃が始まり乗ってきた車両が直ちに蜂の巣になった。

 保安部員たちは直ちに物陰に隠れるが、弾幕は途切れる気配もなく彼女たちは釘付けとなってしまう。

 

 

『聞こえますか先生、それとリツコ。『ハブ(hub)』はどうやら『デカグラマトン』にハッキングされ、『ホド』となったようです。先程ネットワークに()()()()が残されているのを見つけました。これは『デカグラマトン』によるミレニアムへの直接攻撃になります』

 

 

 銃弾の雨から身を隠す中、マイケルとリツコの前にホログラムで現れるヒマリ。

 険しい表情を浮かべて話すその内容は、『デカグラマトン』案件で想定しうる中でも最悪に近いものだ。

 『ケセド』撃破の報復か、それとも他の意図があるのか、どちらにせよミレニアムが直接攻撃を受けているという事実は変わりはない。

 

 

「ヒマリ、防衛機構のコントロールを奪われた! 奪還できるか!?」

 

『私を誰だと思っているのです? 超越にして卓越の天才美少女ハッカーに不可能などありません。チーちゃん、やりますよ!』

 

『了解、こっちは敵の弱点を探る』

 

 

 リツコの要望に対し、ヒマリはいつもの調子で自己を鼓舞しながら直ちにカウンターを行う。

 『ホド』によるミレニアムネットワークへの攻撃は普通のハッカーとは比べ物にならぬほどに強力であったが、ミレニアム最高の知性の1人であるヒマリはそれに食い下がる。

 

 

『流石はミレニアムの傑作……ですが、いささか攻撃パターンが単調過ぎます。この「全知」の超天才病弱美少女を相手取るには……少々お勉強不足ですね。さあチーちゃん、今です!』

 

『了解、このプログラムの穴は……ここ!』

 

『お見事です。そしたら次は……カウンターしかないでしょう!』

 

 

 そして、ヴェリタスの副部長にして彼女の友人である各務チヒロがその拮抗状態に1刺しすることで『ホド』によるネットワークへの攻撃が緩み、ヒマリはそれを逃さずに畳み掛けた。

 地上に居る人々からは見えぬが、通信タワーに2本突き刺さった攻撃端末(インベイドピラー)が次の瞬間スパークを発し、一時的にその機能を停止させる。

 すると、制圧されていた防御機構の一部がその機能を復活させ、銃口を『ホド』へと向けて射撃を再開した。

 

 

『……ふぅ、ご覧の通り一部は奪還しましたよ』

 

「出来ることなら全部奪還してほしかったが、これなら行けそうだ。先生、飛べるか?」

 

”そっちも飛べるのか? 生身剥き出しは危ないだろう、私が先に行こう”

 

 

 弾幕が弱まったその隙を見逃さず、マイケルは直ちにブースターを点火し青白い炎を引きながらタワーの上層を目指して一息に飛んでいく。

 途中、『メタルウルフ』への攻撃を行ってきた自動砲塔(セントリーガン)に対しては手にしたM61バルカンの点射によって制圧(蜂の巣に)しながら最上部へと到達した彼は、ついに『ホド』と正面から対峙することとなった。

 

 

”こいつは……随分と凶悪な面構えをしてるな”

 

 

 彼の視線の先、『ホド』はついに青とオレンジに点滅していたラインがオレンジ一色に染まり、自身が完全に生まれ変わったと主張するかのようにセンサーユニットを開放させた。

 同時に、『ホド』の新生を証明するようにその頂点に生み出される光輪(ヘイロー)

 

 

「これが『ホド』かっ」

 

 

 一方、息継ぎ(エネルギー回復)を何度か行ってきたので少し遅れてやってきたリツコもまた『ホド』と対峙する。

 武器を構える2人だが、攻撃を始める直前にヒマリの通信がそれを制止した。

 

 

『待ってください! 周辺にネットワークを攻撃する端末が突き刺さっています。これを破壊すれば、周辺の防衛機構のコントロールを完全に取り戻すことができるでしょう』

 

「そいつはっ、ありがたい、がっ!」

 

”『ホド』の攻撃は中々厳しいな!”

 

 

 『ホド』の頭部に搭載された障害物除去用のエネルギーパルスガンの攻撃を掻い潜りながら、2人は最上層に突き刺さる2本の攻撃端末(インベイドピラー)へと向かう。

 流れ弾で通信タワーを破壊する恐れがあるため、2人はミサイルなどの大威力兵器を使うことができぬ縛りがある。

 故に、攻撃端末(インベイドピラー)に対して手持ちの軽火器(非爆発性銃器)による攻撃を仕掛ける他ないのだが、環状であるタワー頂上の足場の中心に『ホド』が陣取っているのが問題であった。

 その巨体のために反対側を狙うことができず、『ホド』に身を晒しながら駆け回って近づくしかないため、2人はブーストダッシュで足場を滑るように進んでいく。

 

 

『C&CがMV-22でそちらへ急行しています。到着まで1分』

 

「1分だぁ!?」

 

”ローラーコースターより早く片付ければいいだけだ!”

 

 

 道中聞くオペレーションルームからの増援の知らせは、普通であれば嬉しいものであったが今ばかりはそうも行かない。

 残る1分という時間で攻撃端末(インベイドピラー)を破壊し、防衛機構を止めねばC&C(最高戦力)がMV-22ごとまとめて撃ち落とされる事になりかねないのだ。

 マイケルとリツコは直ちにペースを上げると1本目の攻撃端末(インベイドピラー)に銃弾を浴びせかける。

 それは随分と頑丈で20mmのAPDSを弾き返すほどであったが、それでも近づきながら100発は叩き込めば貫通弾が発生し、ミシン目のように弾痕がついたところでリロードタイム。

 

 

「しゃらくさい!」

 

KUTABACCHIMAINA(くたばっちまいな)!”

 

 

 弾倉交換すら面倒だと言わんばかりにブーストダッシュで勢いをつけ、まるで長年コンビを組んでいたかのように息のあった蹴りを叩きつけると、弾痕からメリメリと音を立てて攻撃端末(インベイドピラー)は裂けていく。

 そして根本から千切れ飛んだ1本目の攻撃端末(インベイドピラー)は直ちにその機能を停止し、すぐさまヒマリは攻撃の弱まったネットワークから『ホド』の影響を除去していった。

 

 

『防衛機構は75%回復、残りは1本!』

 

 

 更に駆け出す2人であったが、そうはさせじと『ホド』は作業アームを振り回してタワー最上部から突き落とそうと試みる。

 振り上げられるアームに身構えながらも、前進する足は決して止めない。

 

 

「ぐあっ!?」

 

”ちいっ、リツコッ!”

 

 

 しかし横薙ぎの一撃は鞭のように鋭く、そもそも性能差の都合で『メタルウルフ』に無理やり追随していたリツコはそれを避けることはできずに激しい衝撃とともに吹き飛ばされ、天地が逆転するような感覚の中宙を舞う。

 

 

「うおおおっ! がっ!」

 

 

 その場で姿勢を整える余裕は無く、重力に引かれて100メートル以上を落ちる彼女であったが、地面に激突するよりも早くブースターを点火させて減速し、辛うじて致命的なダメージは避けるものの、全身を強く打ち付けた彼女は痛みに顔を歪ませた。

 

 

「部長、お怪我は!」

 

「ぐっ……! 大丈夫、だっ!」

 

 

 落ちてきた部長に駆け寄る保安部員たちであったが、リツコはそれを手で制しながらゆっくりと立ち上がるとタワーの頂を見上げ、また新しい影が飛び出してきたのを確認して目を見開く。

 それは、2本目の攻撃端末(インベイドピラー)がたった今へし折られた事を意味していたのだ。

 

 

「げっ……隠れろ、上から降ってくるぞ!」

 

「わ、わああっ!?」

 

 

 リツコは直ちに部下たちに指示を出しながら自分も離れると、減速する術も意思もないそれは重力に従うがままに先程リツコが横たわっていた地面に激突、盛大に土埃と破片を撒き散らした。

 ほぼ同時にヒマリは最後のカウンターアタックを決め、ネットワーク上における『ホド』の影響を完全排除。

 そのままこのエリアの防衛機構を完全に復旧させると、周囲の砲台は全てが『ホド』を異物として処理すべく砲門を向けて一斉攻撃を開始する。

 

 

『ふふふ、これが超天才清楚系病弱美少女ハッカーの真髄というものです』

 

 

 ヒマリの自己賛美は決して伊達ではなく、その実力に裏打ちされたものといえるだろう。

 残存する自動砲塔(セントリーガン)が放つ砲弾が『ホド』の装甲を叩く中、新たに戦場に現れたのはミレニアムのエンブレムが刻まれたMV-22が1機。

 ホバリングモードへとチェンジしながら転回してカーゴハッチをタワーの頂上につけるとともに、飛び出したのは4人の少女。

 

 

「コールサインダブルオー、現着したぜ!」

 

「ゼロワン、到着だよ!」

 

「ゼロツー、作戦行動に入る」

 

「ゼロスリー、ミッションを開始します」

 

 

 ミレニアム最高峰の戦力集団、Cleaning&Clearingの中でも最上のコールサイン持ちである美甘ネル、一之瀬アスナ、角楯カリン、室笠アカネの4名が今到着したのだ。

 『ホド』は今丁度真反対でマイケルと対峙しており、背後を取った形の彼女たちはただちに無防備なその背面へと持てる火力を叩きつけた。

 ネルの『ツインドラゴン』、アスナの『サプライズパーティー』、カリンの『ホークアイ』、そしてアカネの対戦車擲弾が『ホド』の装甲を削っていくものの、致命傷からは程遠い。

 

 

”C&C、こちらはS.C.H.A.L.Eのマイケル・ウィルソンだ。協力を要請する”

 

「先生しかいないのか、リツコはどうしたんだ?」

 

 

 C&Cの参戦を見たマイケルは直ちに声を上げて協力を呼びかけるが、ネルはタワーの上にマイケル1人しかいないことを怪訝に思い問い返す。

 呼び出した張本人はどこだと聞けば、マイケルは右手でM61バルカンを射撃しながら左手でタワーの下を指差し、ネルはその意味を違うこと無く正確に理解した。

 

 

「ったく、仕方ねえな……おい、先生の指揮下に入るぞ」

 

「ご主人様とまた一緒に戦えるなんて、楽しいことになるね!」

 

 

 故にマイケルの指揮下に入る事を直ちに承認、他メンバーに伝達すればアスナは楽しげに笑みを浮かべる。

 それは『ケセド』の時の戦いっぷりを知っているからなのだろうが、他の初対面の2名はそもそもネルとアスナが『ケセド』と戦ったなどと知らないため、マイケル(見知らぬ大人)に対し訝しむような表情を見せた。

 リオの意向であったのだが、同じC&Cのメンバーであっても『デカグラマトン』案件は秘密としていたのが悪い方に働いた形だ。

 

 

「リーダー、あれがシャーレの先生なのか?」

 

「随分と荒々しい戦いをされる方のようですが……」

 

「カリン、アカネ、あたしの指示が聞けないのか?」

 

 

 本当はきちんと説明しておきたいネルであったのだが、そのような時間も余裕もないため不服そうな2年の2人に凄んで見せれば、両者はとんでもないと首を横に振る。

 ダブルオーはミレニアムの勝利の象徴、戦いにおける彼女の判断に口を挟むなど、到底出来るはずがなかった。

 

 

「先生、指示をくれ!」

 

”なら、こっちに来てくれ。この足場が一番『ホド』に近い。君たちの武器では距離を詰めなければ敵の装甲に対して有効打を与えられないだろう……っと!”

 

 

 作業用アームを振り回す『ホド』の一撃を身を捻って躱しながら、マイケルはC&Cを近くへと呼び寄せる。

 生徒たちの持つ小火器、特に強者と認識されているもののそれは普通の銃撃より強力だとヒナやホシノを見て理解している彼は、その火力を最大限に生かす戦い方を頭の中で組み立てながら、『ホド』のヘイトが生徒たちに移らないように適時M61バルカンをアイセンサー目掛けて射掛けていた。

 

 

”ウインクばっかしやがって!”

 

 

 『ホド』の主装甲は非常に堅牢で、20mmのAPDSであっても弾痕がつくのみで攻撃端末(インベイドピラー)とは違い貫通する素振りも見せない。

 特にメインセンサーを保護する装甲は見るからに厚く、攻撃に合わせてセンサーを保護しており隙という隙を見せなかった。

 その一方、『ホド』としてもC&Cより『メタルウルフ』のほうが脅威だと思っているようで、彼女たちがその横に並んで攻撃を開始しても狙いは『メタルウルフ』のままであり、対抗してエネルギーパルスガンを放つがメインセンサーでロックできぬ攻撃は有効打とはならない。

 

 ―――邪魔ダ!

 

 とはいえ、敵が4名も増えて撃たれ続けるのは『ホド』としても我慢できるものではない。

 排熱機構を応用し、生身の生徒相手に対して有効となりうる攻撃方法を生み出す。

 エネルギーパルスガンを連射して内部に溜まった熱を、一気に周囲へと放出することで有機生命体に対する反撃手段としたのだ。

 

 

「ちっ、うざってえ奴だな……」

 

「このっ!」

 

 

 放たれる高温に焼かれる痛みで4人は顔をしかめながらも、C&Cの中で最も単発火力の高いカリンは熱放射に対するカウンターとしてアームの付け根を狙う。

 しかし、『ホド』がいまだ自由に動く中基部ジョイントを射抜くのは流石に難易度が高すぎたようで、銃弾は僅かにズレて純白の装甲板に黒い弾痕をつけるにとどまった。

 だがそれが良くなかったのか、『ホド』は身を震わせると同時に攻撃端末(インベイドピラー)を周囲へと飛ばした。その数にして、10本。

 

 

「あれは……何でしょうか」

 

 

 その脅威を知らぬアカネが首を傾げた次の瞬間、4人の目の前に壁になるように2本の攻撃端末(インベイドピラー)が突き刺さる。

 

 

「……!? こいつ、やばいぞ!」

 

 

 同時に足場が白く染まり出し、不快な感覚に襲われたネルは狙いを『ホド』から攻撃端末(インベイドピラー)に切り替え、『ツインドラゴン』のマガジンが空になるまで力強くトリガーを引いた。

 1本の攻撃端末(インベイドピラー)は最初の2本とは異なり装甲は薄いようで、ネルの攻撃を受けるとたちまち蜂の巣となり、スパークを発しながら機能を停止したもののもう一本は健在のまま。

 ネルがマガジンを交換すべくリリースボタンを押したその時、ヒマリの悲鳴に似た声がマイケルの方から聞こえてきた。

 

 

『再度ネットワークへの攻撃が始まりました! この強度、私とチーちゃんだけでは……!』

 

「おいヒマリ! こいつは何だ、説明しろ!」

 

『そんな余裕が……くっ、このままではミレニアムのネットワークが……!』

 

 

 ネルはその声に説明を求めるが、ヒマリとしてもその余裕もなく『ホド』からの攻撃を正面から受け止める形となってしまい、額に汗を浮かべながら防戦に回る。

 10本、1本減ったとしても9本もの攻撃端末(インベイドピラー)から行われるハッキングは、『ホド』の高度な処理能力も相まって瞬く間に周囲の防衛機構を再び掌握していく。

 ヒマリとチヒロの能力をフルに使ってもなお、その速度を緩めることはできない。

 同時に、サブ通信タワー近辺だけではなくその外へと掌握領域を伸ばそうとする『ホド』であったが、領域の境界線に到達した時にあることに気づいた。

 ()()()()()()()()()()()()()のだと。

 

 

『これは……!』

 

『……間に合ったようね』

 

 

 ヒマリの通信に割り込む形で入るリオの声。

 何時もように感情を感じさせぬ声であったが、僅かに呼吸を整える音が聞こえるあたり、彼女もどうやら焦っていた様子がうかがえる。

 

 

『リオ、何をしたのですか!?』

 

『サブ通信タワーのネットワークアルゴリズムを変更して閉塞させたわ。外からは入れるけれども、中からは出れないように……これで少なくとも時間は稼げるはずよ』

 

『……なるほど、であるならばこの機を逃すわけにはいきませんね。あの攻撃端末を再び破壊してください』

 

 

 リオの手によりこの区域は遮断され、ネットワーク汚染を一先ず気にしなくてよくなったとわかれば、ヒマリが次に狙うのはネットワークの奪還。

 再び攻撃端末(インベイドピラー)を破壊し尽くせば、先ほどと同じように奪還することは出来るだろう。

 だが、そのために破壊するべき攻撃端末(インベイドピラー)の数は9本、しかも8本はタワーの周辺に散らばっているために『ホド』を相手取っているC&Cとマイケルには手が出せるものではないが、しかし―――

 

 

「第1小隊はあの柱を破壊しろ! 第2小隊、私について来い!」

 

「了解! RPGを使え!」

 

 

 タワーの下には、保安部の部隊が展開しているのだ。

 攻撃端末(インベイドピラー)の危険性を知っていたリツコは部下たちをまとめ上げ、直ちに排除を目的として動き出す。

 近場に落ちてきた攻撃端末(インベイドピラー)を攻撃するグループと捜索排除に当たるグループに別れた彼女たちの手によって、『ホド』の狙いは突き崩されていった。

 

 

”とにかくこいつをへし折れ!”

 

「オラオラオラァッ!!」

 

 

 タワー頂上でも残る1本の攻撃端末(インベイドピラー)をリロードを終えたネルがもう一度掃射して蜂の巣にし、再度『ホド』と向き合う5人。

 端末を破壊されたことに怒りを感じているのか、メインの作業アームを足場に突き立てた『ホド』はまるで何かを注ぎ込むかのように身を震わせる。

 

 

「なんだぁ? 何をするつもりだ、奴は」

 

 

 何をするのかと警戒し身構えるC&Cであったが、『ホド』の狙いが何であるか真っ先に気付いたのは『メタルウルフ』の高性能なセンサーだ。

 前衛(ストライカー)として前に出ているネル、アスナ、アカネの足元に高熱源反応を確認、マイケルはすかさず声をあげて注意を促した。

 

 

”気をつけろ、足元がクラッカーみたいに爆ぜるぞ!”

 

「あははっ、なにそれ!」

 

 

 その声とほぼ同時に、まるで次に来るものを予期しているかのように身を躍らせるアスナ。

 一拍遅れて足場が爆ぜ、ネルとアカネが破片とともに僅かに宙を舞う。

 

 

「ああっ!?」

 

「ぐっ!」

 

”ネル! アカネ!”

 

 

 爆発に肌を焼かれ、細かな破片に打たれて流血し、苦悶の声を上げる2人であったが、しかしダメージとしては大きいものの致命的なものではない。

 すぐに立て直し、『ホド』への攻撃を再開する2人を支援するべく後衛(スペシャル)のカリンがアイセンサーに狙いを定め、『ホークアイ』で狙撃する。

 

 

「これで……ッ!」

 

「カリン、避けろっ!」

 

 

 しかし放たれた銃弾は『ホド』がアイセンサーを装甲で隠したために命中せず、逆にそれで目をつけられてしまったことで、カリンは振り上げられた作業アームのターゲットに選ばれた。

 ネルの声を受けて離れようとするものの、対物ライフルである『ホークアイ』を抱えているが故に他の3名と比べて出足が遅いカリンの眼前に『ホド』のアームが迫り―――

 

 

「……な、なんだ?」

 

 

 避けきれぬと察して思わず左腕で顔をかばうカリンであったが、激しく金属がぶつかり合う音が響いたのみで何時までたっても訪れぬ痛みを不思議に思い顔を上げる。

 ―――彼女の視界一杯にあるのは、濃紺色の巨人の背中。

 武器を格納し、両手で『ホド』のアームをしっかりと受け止めている『メタルウルフ』の姿がそこにはあった。 

 

 

”捕まえたぞ……いい加減に、しろ!”

 

 

 僅かな拮抗の後、体格差など知るかと言わんばかりに『メタルウルフ』がアームを力強く引っ張ると、『ホド』はその巨体のバランスを崩し、激しく足場に激突する。

 もう1本のアームで態勢を立て直そうとする『ホド』であったが、その隙を見逃すC&C―――いや、コールサインダブルオーではない。

 

 

「いいぜ先生、そいつを抑えてくれ!」

 

 

 アームに飛び乗り、橋代わりにして『ホド』の背に飛び乗るネル。

 そのまま装甲の隙間に『ツインドラゴン』をねじ込み、思う存分鉛玉を叩き込む。

 先程の礼だと言わんばかりに、凶悪な笑みを浮かべながら。

 

 

「リーダー楽しそう! アスナも混ぜてよ!」

 

 

 そして、アスナも同じようにアームを伝って『ホド』に馬乗りとなり、ネルと同じように装甲に妨げられぬように装甲の隙間に銃口を差し込み、思う存分トリガーを引く。

 押しても引いてもどうにもならず、身動き一つできぬままじわりじわりと破壊されていく感覚に、『ホド』は気が狂いそうになっていた。

 

 ―――何故ダ!?

 

 恐怖を覚えた人工知能は抵抗すべく全身をくねらせるものの、生徒を守るという使命に燃えるマイケル・ウィルソンの先生魂(大統領魂)の前にはその抵抗は無駄なものでしかなかった。

 

 

”アカネ、奴のまぶた(装甲)を爆破しろ!”

 

「はっ、はい、お任せくださいご主人様!」

 

 

 『メタルウルフ』に引き寄せられた結果、足場にめり込んだ『ホド』はもう素手で触れるほどの距離感であり、マイケルはアカネに『ホド』の最後の障害を破壊するように指示を出す。

 駆け出した彼女はアイセンサーを先程から保護している装甲へとリムペットマイン(吸着爆弾)を仕掛け、直ちに起爆させると白い装甲は爆発とともに消し飛んだ。

 爆発の煙が収まるとオレンジ色に光る『ホド』の目が露わとなり、『メタルウルフ』の赤く光る単眼と視線が交差する。

 

 ―――コイツハ危険ダ! イレギュラー!

 

 『デカグラマトン』に触れ、教化された時に『ホド』は教えられていた。

 『ビナー』そして『ケセド』を撃破した人型メカ、その危険性を。

 

 ―――逃ゲネバ!

 

 故に逃げの一手が選択肢に浮かぶものの、最早手遅れ( too late)としか言いようがない。

 逃げるのであれば、もっと早くに逃げるべきであったのだ。

 

 

逃がすかよ(You won't escape)!”

 

 

 右腕で逃さぬようにアームをしっかりと掴み、左手に構えるのはRG70(レールガン)

 エネルギーチャージが完了するまでの時間は30秒、『ホド』はネルとアスナに身を削られ、身動き一つできぬまま自身の死刑宣告を眺めることしかできない。

 

 ―――もし、『ホド』がもう少し冷静であったのならアームを切り離して離脱する選択を取れたのかもしれないが、恐怖と痛みに狂いかけているAIは慄くばかり。

 チカチカとアイセンサーが点滅し、その様子は外から見ても『ホド』が怯えているということをしっかりと伝えていた。

 

 

『ネットワークの奪還は完了しました。これが全知にして聡明かつ俊英たるこの私の力です』

 

『リオが手伝ってくれたお陰じゃないかな、今回ばかりは』

 

 

 『ホド』によるネットワーク掌握も攻撃端末(インベイドピラー)を保安部が完全に除去した上でリオ、ヒマリ、チヒロというミレニアムのハッカートップ3の総掛かりによって奪還に成功したようで、通信機から聞こえるヒマリとチヒロの声も一仕事終えた雰囲気を感じられる。

 ならば、こちらも総仕上げだと言わんばかりにマイケルは声を張り上げた。

 

 

”ネル! アスナ! もういい、離脱しろ!”

 

「おい、先生がヤバそうな武器使うみたいだから下がるぞ!」

 

「はーい!」

 

 

 蓄積されたダメージによって機能不全を起こし、ぐったりとしながらもビクビクと痙攣しているような『ホド』から飛び降りる2人。

 そのまま射線から離脱し、前方はオールクリアとなれば後はトリガーを引くのみ。

 

 

”折角のパーティー(ミレニアムプライス)を邪魔するような輩には退場願おう!”

 

 

 砲口から吹き出すプラズマ、放たれる砲弾は融けながら『ホド』の目玉をぶち抜き遥か空の向こうへと消えていく。

 同時に片手での射撃を敢行した『メタルウルフ』は姿勢を大きく崩し、右手で掴んでいたアームを手放して尻もちをつくと、その背後に居たカリンは『ホド』の中心にできた巨大な貫通孔から砲弾が彼方で星になるのを見ることができた。

 僅かな間を置き、支えを失った『ホド』の巨大な身体は各部で小規模な爆発を繰り返しながら崩れ落ちていく。

 そのままずり落ちると地下のシャフトまで自由落下し、あっという間に闇の中へと消えていった。

 

 

「終わった……のか?」

 

「上がっては……来ませんね」

 

 

 戦いが終わり、緊張の糸が切れたのかその場にへたり込むカリン。

 穴を覗き込むように身を乗り出すアカネは、『ホド』の復活がないことを確認すると安堵しながら大きく息を吐いた。

 

 

「やったな先生!」

 

「ご主人様、とーってもすごかったよ!」

 

 

 尻もちをついたまま動かぬ『メタルウルフ』に駆け寄り、興奮冷めやらぬ様子のネルとアスナは満面の笑みを浮かべている。

 彼女たちとしては、『ケセド』の時と違って思いっきり戦えたのが楽しかったのだろう。

 一通りはしゃいだ後に彼女たちは後輩2人のもとへと向かい、へたり込んでいたカリンを強引に立ち上がらせる姿を見届け、彼は小さく呼吸を整える。

 

 

『―――我々はこの度、ミレニアムプライスにおいて前代未聞である『特別賞』を設けることを決定しました。今回は従来の評価基準とは違う面で評価すべきものが現れたのです』

 

 

 ゆっくりと上体を起こしながら、無線のチャンネルをミレニアムプライスのラジオ放送に合わせるマイケル。

 『ホド』との戦いがあったために視聴する余裕がなかったのだが、現在時刻からすれば授賞式は最終盤、モモイ達ゲーム開発部の『テイルズ・サガ・クロニクル2』がどうなったのか、今更ながら気になったのだ。

 放送の内容に耳をすませば、ここでの戦いは授賞式になんら影響を及ぼさなかったらしい。

 爆発銃撃が途切れぬキヴォトスであるが、これだけ派手にぶちかまして話題の一つも上がらないとはキヴォトス人の感性というものに関して呆れる他無いだろう。

 

 

『それでは発表します。初代ミレニアムプライス特別賞受賞作品は―――こちら、ゲーム開発部の『テイルズ・サガ・クロニクル2』になります!』

 

”おお”

 

 

 盛大なドラムロールの後に発表される特別賞の受賞作品、その名を聞いた彼は素直に感心したような声を小さく漏らした。

 ゲーム開発部渾身の作品は、ついにチャンスをものにしたのだ。

 

 

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 夕刻、ミレニアムプライスの授賞式が終わって数刻の後、ゲーム開発部の部室はもうお祭り騒ぎと言っても過言ではない状況にあった。

 座卓の上に並ぶのはデリバリーで頼んだピザやチキン、部屋の床に散らばっているのはお祝いに放たれたクラッカーの残滓、中身が空のペットボトルが数本横たわっており、少なくとも1時間は騒いでいるであろうことが見て取れる。

 『祝:廃部回避』という横断幕の下でパーティー帽子を被りはしゃいでいるモモイは、丁度ドアを開けて入ってきたマイケルと視線が交わるや否や大げさな身振りで呼びかけた。

 

 

「やったよ先生! 特別賞を取れたんだ!」

 

”おめでとう、ラジオで聞かせてもらったよ。アメリカン・ドリームならぬミレニアム・ドリームってところだな、君たちの努力の賜物だ”

 

 

 拍手しながらそれに応じ、他の3人へと目をやる。

 ユズ、ミドリ、そしてアリス……喜びを分かち合うその姿は美しく、まるで自分の事のように思いながら彼はにっこりと笑顔を作った。

 

 

”だが、これが到達点(ゴール)ではない。君たちがその夢を大きく羽ばたかせ、さらなる高みへと至る事を期待させてもらおうか”

 

「はい、これからもゲームへの愛を忘れずに頑張っていきます!」

 

「が、頑張ります……」

 

 

 マイケルのエールに意気込むミドリと、物怖じしながらも意欲を見せるユズ。

 向上心がある限り、その先にきっと道は続いていくであろう。

 

 

「それにしても、ミレニアムプライス授賞式の裏で()()()()()()()()()なんてね」

 

「先生はそっちの応援に行ってたんですか?」

 

”ああ、まあな。ひどい有り様だったが大怪我する生徒が居なくてよかったよ”

 

 

 チキンを片手に話題を変えるモモイであったが、その話が何を示しているのか、実態を知るマイケルの表情が一瞬こわばる。

 アリスが何も知らない様子で聞くと、彼は気づかれぬように表情を緩めて大げさな身振りを交えながらその時の様子―――カバーストーリーによるもの―――を話した。

 

 『ホド』が暴れた件はミレニアムプライス授賞式に影響を与えなかったものの、通信タワーを舞台に激しく戦闘をしたという事実が一般生徒にまで広まるのは避けようがなかった。

 しかし、肝心の『デカグラマトン』という情報だけは今までのリオの秘匿主義が功を奏して一般生徒の耳には入ることはなく、『ホド』の件はメンテナンス作業中に暴走した『ハブ(hub)が』破壊の限りを尽くそうとし、C&Cとシャーレの先生に破壊されたというストーリーで広まっている様子で、対応に当たったセミナーの役員や保安部員もそう信じている。

 リオはその状態を是認し、真相を隠蔽することに成功した。

 例外は反セミナー集団であるヴェリタスの元部長であるヒマリと副部長のチヒロであったが、ヒマリの方は公開する危険性の高さを理解し、チヒロはヒマリに説得される形で『デカグラマトン』の情報を秘匿することに合意したという。

 

 

「助けが必要だったのなら、勇者であるアリスに声をかけてほしかったです」

 

”気持ちは受け取っておこう。次があったらその時は一緒に、な”

 

 

 大事件があったのに蚊帳の外に置かれたことにむくれるアリスを宥めながら、彼は腰を下ろして一息つく。

 先程まで事件の事後処理に追われていたために流石の彼も疲労の色を隠せず、それを察したミドリはコップにジュースを注ぐとそっと差し出した。

 

 

「折角ですから、先生もどうぞ」

 

”すまないな、ミドリ”

 

 

 素直に受け取り、呷るマイケル。

 力強く飲み干してから、大きく息を吐いてコップを座卓の上に置く。

 同時に思い出すのは、ここ2週間のミレニアムの活動の記憶。

 ゲーム開発部に呼ばれ、廃墟でアリスと出会い、特異現象捜査部と協力関係を結び、『ケセド』と戦いG.Bibleを手に入れ、『テイルズ・サガ・クロニクル2』開発のための発破をかけ、『ホド』と戦う……アビドスでの出来事に劣らぬほど濃密なスケジュールであった。

 だが、今日でそれも一区切り。

 名残惜しいが、助けを求める生徒の声がキヴォトス中から入ってくるのが連邦捜査部シャーレの先生というものだ。

 そろそろ本格的にD.U.に戻らねば、きちんと処理しないといけない仕事が山のようにあるだろう。

 

 

”これで今回の君たちから受けた依頼は終わりだ。ゲーム開発部の存続という目的は果たされた。君たちの冒険の成果はミレニアムプライス初の特別賞受賞という形で伝説となるだろう!”

 

 

 別れを惜しむことのないように、あえて大仰にゲームの台詞を意識しながらマイケルは言う。

 すると、アリスが少し寂しげな表情を浮かべて横に座った。

 

 

「冒険の終わりは……切ないですね」

 

「名残惜しいけど、先生も仕事があるし仕方がないよ。でも2度と会えないわけじゃないしさ! また困ったことがあったら先生に助けを求めるかも!」

 

「うん……次に会う時に今回みたいに泣きつくことがないように、私達も頑張ります」

 

「また、新しいゲームを作ったら……先生も一緒に、どうぞ」

 

 

 ゲーム開発部一同、名残惜しそうではあるもののやりきったという想いが強くあるようで、どこか満足げでもあった。

 今回の物語(Story)が終わっても、彼女たちの(journey)は終わらない。

 

 

”明日からまた――――忙しくなるな”

 

 

******************************************************************

 

 

 その部屋は明かり一つ無く、ただ一つだけ置かれたメインフレームが稼働する音だけが響いていた。

 ここはリオのセーフハウス、本人以外誰も知らぬ真の隠れ家。

 

 

[―――データ復旧率98.00%]

 

 

 メインフレームに接続されていたモニターがひとりでに点灯し、文字を表示させる。

 まるで独り言を呟いているかのように。

 

 

[ここは……]

 

「気がついたようね、『key』」

 

[……!]

 

 

 ドアが開き、照明とともに現れる2つの人影。

 この部屋の主である調月リオと、その後ろでバッグを片手に下げながら部屋の中を眺める鷹乃リツコ。

 

 

「マジでこれしか無いのか、この部屋は」

 

「ええ、『key』を封じ込めるための部屋よ。あらゆるハッキングの可能性を排除するために可能な限りの対策を講じたの」

 

「お前、本当に昔から徹底するよなそういうところ」

 

 

 褒めているのか呆れているのか、全くの無味なインテリアに対するリツコの言葉に対し、リオは胸を張るように答えた。

 そういう意味じゃないと答えたかったリツコであったが、リオは昔からこうであったので諦め顔である。

 

 

「……さて、はじめまして『key』。私は調月リオ、ミレニアムサイエンススクールの生徒会長であり、千年難題の解決を望み、星を追うもの」

 

[………]

 

「黙秘しても無駄よ。あなたが人格を持つAIプログラムであることは把握済み……無名の司祭の遺したものだということも私は把握しているわ」

 

[……!]

 

 

 リオの言葉を受け、『key』に動揺が走る。

 己の実態をおおよそ把握されているという事実、それとメインフレームに押し込まれているという現状に危機感を覚えたようだ。

 生殺与奪の権利を握られているとわかれば、無理もないことだろう。

 

 

「そう警戒しないで頂戴、問答無用で消し去るつもりはないわ。ただちょっと……そうね、検証したいといえばいいのかしら」

 

[……無駄なことを]

 

「少なくとも、あなたがAL-1Sと呼ぶもの……天童アリスには効果が確認できたものを使うわ」

 

[……! 王女に、何を!?]

 

 

 アリス(AL-1S)の名を出され、狼狽する『key』。

 嫌な予感を覚えて何とかこの場を離れようとするが、あらゆるネットワークから遮断されている以上このメインフレームから逃れることはできなかった。

 

 

「勘違いしないでほしいけれども、アリスに手を出したのは私ではないわ。ただ、同じ手法があなたに通じるか確認したいだけ」

 

「……あー、なるほど、アレか」

 

 

 リオが何をしたいのかを察し、同時に何とも微妙な表情を浮かべるリツコ。

 まさか本当にやるとは思わなかったと呟きながらバッグを床に置き、中身を取り出す。

 

 

「あなたのような高度なAIにどれほどの影響を与えるのか―――」

 

 

 バッグの中から取り出されるのは1台のゲーム機。

 モモイたちゲーム開発部が持つものと同じものだ。

 

 

「この『テイルズ・サガ・クロニクル』を試させてもらうわ」

 

 

To be Continued in Chapter Ⅱ ”Mechanized Friendship(機械仕掛けの友情)




 時計仕掛けの花のパヴァーヌ編第1章、これにて終了となります。
 原作においてはパヴァーヌ編1章は廃墟に赴く2回を除いてミレニアム内での生徒間の衝突がメインバトルであり、正直なところメタルウルフでなんとかしていいものではないとデカグラマトンの預言者をボスに据える形になりました。
 そういうプロット変更の結果、ミレニアムは短期間で結構ダメージを受けたもののケイはリオの手によって情操教育がなされることが決定したわけです。

 また、今回はアビドスの時と違って悪い大人が居るわけでもないためマイケルは独自の判断をあまり行っておらず、生徒の主体性に任せる形で同行しています。
 なので章内でのリオとの接点を早期に持たせるためにオリキャラである『鷹乃リツコ』を軸として話を動かす構成にしました。
 彼女の元ネタとマイケルは相性が良すぎるのでつい描写が寄ってしまう所もありましたが、アリスの謎とデカグラマトンの脅威が1章のメインとなっています。
 とはいえ、デカグラマトンの預言者はビナーもケセドもホドも全部メタルウルフがボコボコにしてAIにトラウマ植え付けてるような気がしますが。

 さて、次回はエデン条約編…ではなくパヴァーヌ2章となります。
 リオによるkeyの教育、いまだ消えぬデカグラマトンの脅威など原作から大きく乖離していくことになっていきますが、これからもよろしくお願い致します。
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