―――ミレニアムタワー、第3小会議室
収容人数は20名程度の、ミレニアムの生徒数からすればほんの小さな部屋は今や持ち込まれたラップトップPCや紙の書類、ドローンなどの機材によってかなり窮屈なことになっていた。
ヴェリタスの全員、それとセミナーから参加した2人が情報収集に勤しみ、その横ではエンジニア部が必要な装備の選定、調達について取りまとめている。
その一方でゲーム開発部は手持ち無沙汰のようであり、部屋の隅でアリスの身なりを整えるぐらいしかやることがなかったわけだが、そんな彼女たちの前にエンジニア部の部長、ウタハが立つ。
「アリス、奪われた君のスーパーノヴァMk.Ⅱの代わりに新たな武器は私達の方で用意しよう」
「本当ですか!?」
ウタハの言葉に反応するアリスであるが、やはりランクが下る身体では今までのような感情表現がしにくいようで、おそらく本人的には目を輝かせているつもりだろうが、眼球のカメラが小さく音を立ててフォーカスを合わせているだけだ。
そんな彼女に対し、ウタハは自信満々に頷くと言葉を続けた。
「ああ、スーパーノヴァMk.Ⅱの廉価版でハイレーザーキャノンとしての機能のみを持たせたものだが、そのプロトタイプが丁度出来ているんだ。性能的に恐らくこれもアリスにしか使えないもので、名前はまだないが一応HLR01というコードはつけてある。君が好きに名前をつけるといい」
「名前、名前ですか……」
「アリス、だったら勇者の剣とかどうかな!」
用意された専用の装備、それに好きに名前をつけて良いと言われれば思わず心が躍るもの。
考え込むアリスであったが、横から口を挟むのは何時ものようにモモイである。
あっ、と言うように口をぽかんと開けるアリス。先に名付けられた悔しさに頬をふくらませ、モモイを何時ものようにポカポカと叩くのだがこの身体は加減が効きにくい。
その一撃の威力は、モモイの発するカエルの潰れたような声が証明していた。
「ぐえぇぇ」
「今のはお姉ちゃんが悪いと思うよ、私は」
「ちょっとウタハ先輩、そんなものを作る予算は何処からでてきたんですか!?」
「し、試作品の転用だから思ってるほどお金はかかってないさ……」
冷酷にモモイを切り捨てるミドリ。その横では、予算の不正使用の気配を感じたユウカにウタハが問い詰められていた。
ユウカの近くでお金の気配のすることを話すとこういうことになるのは分かっているはずなのに、何故人は過ちを繰り返してしまうのだろうか。
「……」
そして1人で考え込むアリス。勇者の剣という響きは心躍るものの、もう一押し欲しい所だ。
しかしこれ以上は実物を見ないことには思いつかないだろう。この部屋に持ってくるわけにもいかないし、仕方がない。
「その、見てからでも大丈夫ですか?」
「ああ、それは構わないよ。どの道あれはこの部屋に持ち込むことはできないからね……あれでも重量120kgはあるから、会議が終わってからにしようか」
「はい!」
ぎこちない笑顔を向けるアリスに、ウタハは穏やかな微笑んだ。
どんな身体であってもアリスは仲間だという思いが彼女たちを動かす。
「……出来た! 例のファイルの復元、完了したよ」
「ありがとうございます先輩。セミナーのデーターベースで不自然に削除、隠蔽されたデータ……リオ会長がこの件に関与しているなら、これで追跡出来るはずです」
「ファイルの解析を引き続き行います。コタマ、ハレ、マキ、手分けしてリオの隠しているものを見つけてください」
「わかりました」
「うん、わかったよ部長。マキはこっちをお願い」
「はーい」
本来対立しているはずのセミナーとヴェリタスが手を組み、一つの目標に向けて取り組むその様子は、千年問題解決というミレニアムの本来の姿なのかもしれない。
もっとも、その対象がセミナー会長の隠蔽したものの解析というのがしまらないものではあったのだが。
「偵察ドローンが目標エリアに到達しました! 映像、きます!」
「安全のために一定の距離を保っているから、望遠での撮影になるからそこは注意してね」
エンジニア部のコトリとヒビキは、エリドゥに向けて飛ばしていたドローンの操作をしながらそこから得られる情報を処理していく。
カメラから得られた映像は直ちに3Dモデルへと変換され、部屋の中心に投影されるホログラフィックで段々とエリドゥの全貌が形となっていった。
「……なんだぁ、こりゃあ?」
「中央のタワー、悪趣味な装飾がついてますね」
「あれれ? 結構可愛くない?」
「かわいい……のか?」
現れたのは相当な面積を占有して生み出された城塞都市。
城壁の中に多くのビルが立ち並び、一見すれば近未来都市に見えるかも知れないが、良く見ればビルの多くはオフィスビルとは構造が異なっている。
一体中に何があるのか、そんな疑問が浮かぶものの、そんなものよりも中心にそびえる大きなタワーのデザインに皆の視線が集まる。
高くそびえ立つそのビルは元は相応のデザインであったのだろうが、様々な装飾が付け足されてまるで出来の悪いハロウィンのようになっており、一番目につくのは正面に大きく施されたロボットの顔のようなもの。
歯を食いしばったようなデザインの口らしきもの、赤く細い両目、耳の位置から生えたアンテナなど、子供の描いた落書きのようなそれはとても目立っていた。
それを見た全員が呆れた様子の中、1人だけ好感触なアスナは同時に気づく。
「これ、絶対リオ会長が関わってるよね!」
「あー……そういやあいつこういうデザインのロボット作ってた気がするな」
アスナの言葉に、ネルはそういえばとリオの研究室に置いてあった謎のオブジェクトを思い出す。*1
それを模したロボットも作ってたし、何ならその顔はまさしくビルに貼り付けられているものと同一であったため、彼女もここでリオの介入を確信した。
こんなデザイン、好んで採用するのはリオ以外には存在しないと思われるのは、ある意味信用されていると言えるだろう。
「つまり、想定通りリオ会長はKEYと協力関係にあると?」
「可能性の一つとして十分ありうるって話だ。となると、ちーっとばかし面倒なことになるかも知れねえな……あいつなら、あたしら相手にメタを張ってくるだろう」
「メタ……ですか。確かに会長は私達の能力を把握はしてるでしょうが、そう簡単に行くのでしょうか?」
アカネの疑問はもっともなものであったが、それに対しネルは首を横に振る。
ネルとアスナはこの場にいる人間の中で最もリオとの付き合いが長く、その能力の高さをとても良く理解できていた。
平時においても高い能力を誇るリオであったが、こと有事における彼女の能力の高さは中学時代に実際に目にしているのだ。
「いや、あいつならやる。それだけの能力があるからミレニアムの生徒会長をやれてるんだ。それにリツコも居るとなると一筋縄じゃいかねえだろ」
「そうだねー、リッちゃんは頭もいいしリーダー並に動けるし、リオ会長だって人並み以上には動けるからね!
笑うアスナであったが、話の内容は決して穏やかなものではない物だ。
3年前、彼女たちが中学3年生の時に何があったのか、それを知るものはこの場には居ない。
カリンとアカネは詳細を聞こうとしたものの、それはヴェリタスのメンバーが上げた声によって阻まれることとなった。
「やーっと解けた! 部長、できたよ!」
「良くやってくれましたねマキ。コタマとハレ、2人の担当したものと突き合わせましょう」
「……プロジェクト:エリドゥ、やっぱりというかリオ会長が密かに作っていたのをKEYが利用しているようだね。終焉に備えるための要塞都市、こんなものをどうやって作ったのやら」
復元したリオの秘密データを解析し終えたヴェリタス組はその膨大なデータの中から目当てのものを見つけると、会議室のディスプレイに表示させる。
それは要塞都市エリドゥの都市設計図面であり、ドローンで観測した3Dモデルと合わせればより詳細なマップを作ることが出来るだろう。
「それに関してですが……不自然な資金の流れがいくつか確認できました。リオ会長、セミナーの予算を不正流用していたみたいです。うぅ、会計として見抜けなかったのが恥ずかしい」
「かなり巧妙に隠されていたから無理もないですよユウカちゃん、それにこれはユウカちゃんだけの責任ではなく、セミナーの役員全員の責任みたいなものですから」
「まったく、後輩にこんな思いをさせるなんて、色々言ってやらないと気が済みませんね」
建造資金はセミナーの予算の不正流用という事実に、ユウカは会計という立場から阻止できなかったことを恥じるが、ユウカのチェックをすり抜けるリオの手腕が優れていただけだとノアが慰めるものの、ユウカはあまり納得はしていないようで表情は険しいままだ。
その様子を見て1人リオに対し立腹するヒマリであったが、手元ではデータの統合作業を進めており、程なくして収集されたデータはわかりやすく纏められてホログラフィックで部屋の中心部へ投影される。ついでに部屋の隅に置かれたプリンターからは大量に印刷されたものが吐き出されていた。
今まで黙って見守っていたマイケルは、それをもって沈黙を破り宣言する。
”情報収集はこのくらいだな。では、今からエリドゥ攻略のための会議に入る。本作戦の目標はエリドゥ中枢に居ると推定される魔王KEYを倒し、アリスの身体を取り戻すことにある。各自、今纏められた資料をよく読み込んでくれ”
「わからないことがあったらミレニアムの清楚な高嶺の花であり、みなさんの憧れである「全知」の学位を持つ眉目秀麗な乙女である私が親切丁寧説明してあげましょう」
「せ、説明や解説は私の仕事なのに……」
ドローンで印刷されたばかりの資料を配りながら、マイケルとヒマリが司会進行及び解説のポジションに付く。人知れずコトリがショックを受けているが、それは些事でしかない。
「見ての通りエリドゥは城壁に囲まれた城塞都市。城壁には多数の防衛システムが配備され、市内には対空システムも配備されている――――完成していればの話だが」
「工事の進捗状況は7割が最新のデータです。現状、偵察映像と設計図を見比べて見れば明らかに未成の部分が見受けられます」
「そこに付け入る隙がある……ということだ」
ホログラフィックで表示されるエリドゥの様子を解説するのは、この面子の中でもっともハード面に精通しているウタハ。
隣でユウカがリオの資料から得られた情報で補足しつつ、それを受けてウタハは表示されているモデルを切り替えた。
赤く表示されているのは地下構造か、細かいメンテナンス用の通路などが網の目のように張り巡らされているようだが、それとは別に太いトンネルが2本通っている。
「これは工事資材搬入用のトンネルだ。ミレニアムでは無人の列車で貨物の運搬をしているが、リオ会長はその路線から引き込んでエリドゥ建設のための資材を搬入していたようだね。ここならセキュリティも比較的手薄だろうから、潜入するならここ一択といっても過言ではない」
エリドゥから伸びていく線は、ミレニアムの無人貨物路線へと接続されていく。
無から有を作るような魔法でもない限り資材は他所から運んでこなくてはならないわけで、それ故に唯一この貨物路線がエリドゥと外界を繋ぐ道なのだ。
しかし、そこでネルが手を上げて意見を述べる。
「しかしよぉ、出入り口一つで全員がぞろぞろと行くのは流石に目立つと思うぜ」
「それはそうだけれども、戦力を温存しながら侵入するにはここしか―――」
「もっと確実性を上げる必要があるってことさ。派手に暴れる奴がいればそっちに注意が向くだろう? つまり、陽動作戦ってやつだ」
にやりと笑うネル。その狙いが自由に暴れるためということであるのは明白であったが、確かに彼女のいうように全員で地下トンネルを移動するのもまたリスクがあるもの。
別方向から暴れるものがいれば、そちらへの対応にリソースを割かれてより侵入が容易になるというのは確かにその通りではあったが、バカ正直に地上から突っ込むのはそれはそれで問題がある。
自治区市街地から離れたところにあるエリドゥは、周囲を更地にしてあるため接近する段階で発見されるのが見込まれる上に、防衛システムの洗礼を受けねばならないのだ。
「チーちゃん、エリドゥのシステムにハッキングは出来ますか?」
「さっきから試みてるけど、駄目だね……あのKEYってのが対応してるのか、突破の糸口すら掴めない。ヒマリも手を貸して」
「これは……なんて強力なものなのでしょうか。このIT技術のあらゆる面に精通するこの私が手も足も出ないとは……!」
防衛システムを無力化出来ないかとハッキングを試みるチヒロであったが、エリドゥの電子障壁は極めて強力であり、彼女の能力をもってしても突破が出来ない。
ヒマリが手を貸すがそれでも焼け石に水レベルでしかなく、まさかここまで強力なセキュリティがあるとはと舌を巻く他無かった。ついでにプライドが傷ついたようでギリギリという音が聞こえてきそうな程に歯を食いしばっている。
もし彼女たちが防衛システムのハッキングに成功していたのなら地上からの陽動作戦は何の問題もなく採用されていただろうが、残念ながら今回はそうはいかないようだ。
「地上も厳しいとなると空からになるのですが、エリドゥの対空システムはこの状態でも稼働しているようです。幸い短距離・近距離防空の装備しか展開していないようですが、ヘリで乗り付けるのは……無理っぽいですね」
”なら、そこは私がやろう。メタルウルフならばレーダーに引っかかることもないだろうし、少し離れて降下すれば誤魔化しも効く。私が空から先陣を切り、続けてC&Cが地上から攻撃、最後に地下からの潜入部隊が中枢を叩く、これでどうだ?”
空は危険、地上は危険、地下トンネルに全ツッパは危険……話がループする寸前、マイケルはあえて自ら名乗り出ることで会議を踊らせない。
しかし、それに反対の意見を表明するものは当然居る。最高指揮官である先生が前に出ることのリスクを考えれば当然と言えば当然ではあるが、対空ミサイルで武装した拠点への空挺降下など自殺行為ととられても仕方がないだろう。
「それは先生が危険すぎます!」
”私が問題ないと言っているんだ。君たちに出来ぬことをするのが大人である私の役目だと考えている。
反対派の急先鋒はシャーレ最古参の部員であるユウカ。
マイケルのことを案じているが故に反対しているのは彼には良く分かっているものの、だからといってそれに甘んじるわけには行かない。
誰かが危険を冒さねばならぬのならば、それを背負うべきは子供ではないのだ。
「先生のことなら心配すんなよ、あたしが保証するからさ」
「そうそう! ご主人様はとーっても強いんだからね!」
「……ネル先輩とアスナ先輩がそこまでいうのなら」
そこでC&Cのトップ2が保証するとなれば、ユウカとしても引き下がらずを得ない。
C&Cのコールサイン持ちが戦いの場において判断を誤ったことなど一度もないという信用があるが故に。
「……本当に大丈夫なんですよね?」
”心配性だなユウカは。私を信用してくれてないのか? 少なくとも私が急用以外で約束を違えたことは無かったとは思うんだが”
―――とはいえ、やっぱり心配の方がやや勝っているようではあったが、それを突っ込むのは野暮であろう。
「それで、先生の案で行くのならあたし達は二の矢ってところか。不満はあるがあたし達は空を飛べないからなぁ、仕方ないっちゃ仕方ないか」
”地下から突入する組も志願制としよう。確かにあちらは安全だが、比較的という枕詞が付く程度だからな。それに後方支援だって必要だ”
「はい! ゲーム開発部は突入組でいくよ!」
「お姉ちゃん!?」
「アリスの身体を取り戻すのに、私達がいかないでどうするのさ! アリスは仲間なんだから私達が頑張らないと!」
「そ、そうだね……部員が困ってるなら、部長の私も頑張らないと……」
地下からの突入組を募れば、真っ先に手を挙げるのはゲーム開発部のモモイ。
先程までの小難しい戦術論はなんだか難しいやという顔で理解してるか怪しいところがあったものの、やる気だけは人一倍あるようでゲーム開発部の残りの2人を引っ張っている。
実際、ミドリとユズは多少の恐れこそ見えるもののエリドゥへ赴くことへは異論はないらしい。
「……何にせよ、ミレニアムのネットワークに安易にアクセスし、チーちゃんとヒマリのハッキングを軽く跳ね返すKEYは放っておけないね。それに私達エンジニア部の作品である光の剣:スーパーノヴァMK.Ⅱも盗られたとなればこっちだって思うところはある」
「あたしも行くよ!」
続けてエンジニア部部長ウタハが手を挙げる。
その後ろではヒビキとコトリの2人もやる気に満ちた様子を見せており、エンジニア部は3人が参加するつもりのようだ。
その横でヴェリタスのマキもまた手を挙げる。1年生である彼女はゲーム開発部と一番交流があるため手伝いたいのだろう。
それに、遠隔ではなく現場で作業を行う可能性もあると考えると、マキが現場に行くことは決して無駄にはならないはずだ。
「私とノアはミレニアムに残ってセミナーのサブオペレーションルームから支援します。セミナーは組織として支援出来ない以上、私達で頑張らないといけないので」
「ヴェリタスは残る全員で支援に当たります。突入部隊がKEYの気を逸らすことが出来れば、エリドゥのシステムにハッキングすることも出来るでしょう」
一方で残るヴェリタスのメンバーとセミナーの2人は残留を申し出る。
特にKEY相手のハッキング勝負においてはヒマリとチヒロをもってしても勝てない以上、更に人手や高度な機材が必要になるため妥当な判断と言えた。
そしてそれぞれの役割が明確となった中、配置が決まらない生徒が1人、特異現象捜査部のエイミがどうしたものかという様子でいることにヒマリが気づく。
「おやエイミ、どうしたのですか?」
「あ、うん……誰と一緒に行くべきかなって」
「ふむ……」
和泉元エイミは効率性を重視する傾向のある生徒だ。どうすれば最短で目標に到達できるか、それを優先的に考えるタイプである。
今彼女の中では3つの選択肢があった。
1つ目はC&Cと協力して敵の突破に当たるもので、一定水準を超える戦闘力を有する彼女がC&Cと合流すれば地上陽動が確実化し、本命の地下部隊が中枢へと無事に到着する可能性が上昇するだろう。
2つ目は地下部隊の護衛として中枢へと向かうもの。ゲーム開発部にしろエンジニア部にしろ荒事には慣れてないので場慣れしたエイミがいれば彼女たちの安全はより確保しやすくなるはずだ。
3つ目はヴェリタス・セミナー組の支援。彼女たちには劣るものの、エイミだって電子戦や情報収集をする能力を有しており、助けにはなる。
万能であるがゆえに選択肢が多く、だからこそ決めづらいものだ。これを解消するいちばん簡単なものは、誰かに決めてもらうことだろう。
”ではエイミは地下突入組の護衛に当たってくれ。これで全員の配置が決まったな”
「即決ですか……確かにエイミの能力を思えば最適には思えますが」
だからこそ、マイケルは即決する。C&Cと組ませるには連携力の面で問題があり、後方支援に回すには彼女の戦闘力は高すぎるのだ。
戦いでは素人に近いゲーム開発部、エンジニア部、そしてマキの護衛に回したほうが効率的というのはエイミの考えにも合致する。
「わかった、そうする」
”よし、では2時間後に作戦を開始する。本作戦はミレニアムがミレニアムとアリスのために行う大作戦……名付けて、ウィー・ラブ・ミレニアム作戦だ!”
ブリーフィングを絞めながら作戦名を宣言するマイケル。
その少し古いセンスに呆れやら感心したような表情を見せる生徒たちであったが、シッテムの箱の中でアロナが悔しげにしていたのに気づいたのは誰一人としていなかった。
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ブリーフィングが終わり、作戦開始までの間に準備を整えようと各々の部室へと向かう中、ゲーム開発部の面々はエンジニア部の部室へと集まっていた。
先程アリスとウタハが話していたように、身体ごと光の剣:スーパーノヴァMk.Ⅱを奪われたアリスに武器はなく、このままでは武器なしで魔王城へと向かう羽目になってしまうわけで、その代替としてスーパーノヴァMk.Ⅱの開発で生じたプロトタイプを再利用した武器を手に入れるためだ。
そして、その新たな剣『HLR01』はかつてのスーパーノヴァMk.Ⅱと同じように台座の上に鎮座しており、自らの主を待っているかのようであった。
「赤と黒だね」
「うん、赤と黒。白と青のスーパーノヴァに対して赤と黒……対になる感じでデザインしたのかな?」
その銃はモモイがいうように赤く、それでいてミドリが指摘するようにスーパーノヴァと対になるようになっていた。
スーパーノヴァとは違う開放型の銃身であるため細く見えるそのデザインはまさに剣のようにも感じられるもので、黒をベースに所々差し込まれる赤い色が禍々しさを感じさせるものとなっていたが、別に呪われているとかそういう話ではない。
「光の剣:スーパーノヴァMk.Ⅱの原型であるスーパーノヴァ、そのプロトタイプとして作った筐体にMk.Ⅱのハイレーザーの発振器の試作品をねじ込んだものだ。説明はこのくらいにして、早速試射したいようだねアリス」
「はい! 呪いの武器が聖剣へと浄化されるのもまた王道ですね!」
別に呪われてはいないのだが、アリス的にはこのカラーリングは呪いの武器なのだろう。
早速グリップに手をかけ、力を込めて持ち上げるアリスであったが、実体弾は搭載していない上に機能単純化によってスーパーノヴァMk.Ⅱよりも軽く、苦労せず持ち上げられることに感動した様子を見せていた。
「これは……とても扱いやすいです!」
「ふふ、そう言ってもらえると助かるよ。さあ、あの目標を破壊してくれ」
「はい!」
ウタハに促され、HLR01を構えるアリスは本来の身体よりも微調整が効かぬ今の身体にいらだちを覚えながらも、狙いを完璧に定めることに成功する。
そのままトリガーに指をかけ―――
「―――光よ!」
刹那、セイレーンの悲鳴ともとれるような轟音とともに、紅い閃光が目標を貫く。
完全に融解した標的は放たれたレーザーの威力の高さを物語っていた。
周囲の面々がその威力の高さに目を見張る中、アリスはゆっくりと銃口を下げながら満足げな表情を浮かべた後に振り返り、宣言する。
「……間違いありません、これは勇者の剣です! 勇者の剣、そう、
天(井)へ向けて勇者の剣:
ゲーム開発部の3人が喜びを隠すことなくアリスを囲み、勇者の復活だと持て囃すその様子を見ながらウタハは誰にも知られること無く微笑みを浮かべた。
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遥か上空、高度5000m近辺―――
生身の人間であればあっという間に凍てつくほどの冷気の中、空気を引き裂きながら落ちていく濃紺色の一筋の流星。
『―――下方1300m、敵哨戒ドローンを確認しました。
”了解、こいつがFirst Stepだ!”
その正体は、大型の輸送ドローンによって高度8000mまで運ばれた後、自分の推進力でエリドゥへと向けて降下していくメタルウルフ。
アロナによる電子的妨害によって敵の監視の目をくぐり抜け、ついに到達した上空において彼の視線の先には円形に広がる城塞都市の姿があった。
その途中には哨戒飛行中のEV-22型の早期警戒用大型ドローンが1機、丁度降下ルートと被るように進んでいる。周囲には子機であろう武装ドローンが数機。
狙い通りだとマイケル・ウィルソンはコックピットの中で獰猛な笑みを浮かべ、右腕に装備したM61バルカンを向けると、間髪入れずにその引き金を引く。
”Let's partyyyyyyyyy!!!”
短い時間の射撃ではあったが、それは2基あるエンジンの両方と周辺の子機を破壊し、推力を失ったドローンは空気抵抗でがくりと速度と高度を落としたのを見るや、より速度を上げたメタルウルフはドローンが背負った三角形のレドームへと強烈な蹴りを叩き込み、ドローンごと燃え盛る火の玉となってエリドゥ市街地へと墜落していく。
ここに至ってようやく防空システムが反応を示すものの、墜落するドローンの残骸とともに降下するメタルウルフを探知することが出来ぬ様子でミサイルが打ち上げられる気配はない。
そのまま高度はどんどん下がっていき、ある程度地面まで近づいたその瞬間を逃さず、マイケルは残骸を蹴って防壁付近へと軌道を逸らした後、ビルへと腕を伸ばす。
ビルの壁面はメタルウルフの強度と自由落下の速度が合わさった力によってえぐれていき、地上が間近となったところで再度跳躍、完全に落下の速度を打ち消したうえでエリドゥの大通りへと彼は見事な着地を決めた。
その背後では防壁のゲート付近に墜落したドローンが、周辺の防衛システムを巻き添えにしながら炎を上げている。
”エリドゥへの
『潜入したと言う割には―――随分と派手にやったじゃねえか?』
奇襲成功の通信を入れれば、返ってくるのはため息混じりのネルの声。
いきなり大きな花火を打ち込んで奇襲なんて普通は言わないが、本人が潜入といえばこれは潜入なのだから仕方ない。
その一方で聞こえるネルの声はどこか楽しげではあった。好きなだけ暴れられるという舞台を前にテンションが上がっているのだろう。
『あたしたちも今から動く。先生も無茶すんじゃねえぞ』
”ふっ、この程度は無茶ではないさ。何故なら私は連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生なのだからな!”
通信が切れると同時に防壁の方向で爆煙が上がる。C&Cが動き出したのだ。
ただちに彼も動き出し、中枢へと向かうもののビルの合間から多数の攻撃ドローン、AMASが飛び出してきて銃弾を浴びせかけるが、対人用の火力しかないAMAS程度ではメタルウルフの鋼鉄のボディを傷つけることは不可能。
『2時方向、お客さんです!』
”大歓迎だな!”
銃弾を使うまでもないと言わんばかりに体当たりで文字通り蹴散らしていく中、現れたのは大型の戦闘用ドローン。
四脚の上に一輪型AMASを大型化したボディを乗せた上、両脇の武器をMPXから35mm対空機関砲へと変更したもの。言うなれば対空自走砲型AMASというところか。
直ちにメタルウルフをロックし、35mmの曳光弾が奔るものの―――濃紺色の巨人は寸での所で回避した上で、カウンターの20mmを叩きつけてAMASのボディを蜂の巣にした。
『まだ来ます! 数は3!』
”お礼に
続けて現れる3機の対空AMASが6門の35mm機関砲の銃口を向けるが、火線をまるでローラースケートのように滑り抜けたメタルウルフはM61バルカンをトリガーを引きながら振り回し、すれ違いざまにその上半身を言葉通り
”次!”
瞬く間にスクラップとなるAMAS達を置き去りにして飛び立つメタルウルフであったが、次の瞬間
『敵です! 未確認……いえ、これは!?』
着地し、光弾が飛来してきた方向へと顔を向けるメタルウルフ。その視線の先にはビルの上に佇む人影。
しかしそれは普通の人ではない。明らかに巨大な、全高3m程度の、背部に巨大な武装コンテナを2つ背負った異様なスタイル。灰色ベースの迷彩模様で彩られたその姿は、マイケル・ウィルソンの記憶の中に確かに存在した。
”バカな……!”
オレンジ色に光る単眼がメタルウルフの姿を射抜くような視線で睨む。
手にした
『フフフ、ンフフフ、ンフハハハハハ! 私が相手になってやるぞ、
それは、特殊機動重装甲。かつて副大統領専用機として開発された物と全く同じ姿をしていた。
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燃え盛るゲートを背景として押し寄せるAMASの群れを一体、また一体と破壊していくメイド達。流石はミレニアム最強と呼ばれる戦闘集団C&Cと言われるレベルでその動きには一切の無駄はなく、銃声が聞こえるたびに敵が減っていく。
スピードを活かした戦い方をもって照準をつけさせないネルとアスナ、一歩引いた位置で正確な狙撃を行い文字通りの一撃必殺を体現するカリン、得意の爆発物をふんだんに活用し、広域の敵を粉砕するアカネ、それらが抜群のチームワークをもって戦うのだから、普通の相手では勝ち目がないというものだ。
「これで40か。随分倒したが、もう少し粘るべきか?」
「ご主人様は随分先に進んだみたい。私達も追いかけないと!」
「敵の襲来も散発的になってきた。私達も動くべきだとは思う」
蜂の巣になったAMASを足蹴にしてネルはあたりを見回すが、カリンが言うように最初こそ次から次に襲いかかってきたAMASは今となってはその姿が見えない。
まるで早く進めと言わんばかりのその様子に、ネルは不満げな表情を浮かべた。
「気に入らねえ、誘ってやがる」
「ですが、先に進まなければKEYのところにたどり着くことも出来ませんよ、リーダー」
「わーってるよそんくらいは。あたしが気に入らないのはな、KEYが陽動作戦すら読んでいそうなことだよ。先生の攻撃とあたし達の襲撃、両方を想定していたら……」
ネルの言葉を肯定するかのように、エリドゥの奥の方で激しい砲火の音が聞こえてくる。
それはマイケルが向かった方向ではなく、事前計画では地下からの潜入部隊が地上に上がってくると推定されるエリアからだ。
「クソ、待ち伏せされてやがるな! 予定を変更して救援に向かう―――」
『そういうわけには参りません』
「!? だ、誰だ!」
急いで救援に向かおうとするC&Cであったが、それを阻止するようにビルの間から大量のAMASが現れる。
そして道を外れる事は許さないと言わんばかりの声が聞こえたのでカリンが誰何すれば、続けて現れるのは一人の生徒。顔にバイザーをつけているため誰かまではわからないものの、メイド服を着ているその姿にC&Cの4人は首を傾げた。
メイド服、それはミレニアムにおいてはC&Cの証であり、軽い気持ちで着られるものではない。コールサイン持ちの前に立ち塞がる場合では特にだ。
「テメエ……なにもんだ?」
「私はC&C所属、コールサインゼロフォー……もとい、
「コールサインゼロフォー!? まさか、リオ会長直属の……ということは、やはりKEYの背後にはリオ会長が関与しているということで間違いありませんね」
完璧な所作をもって自己紹介をするトキの姿にアカネは驚きを隠せない。
コールサインゼロフォー、本来は存在しない5人目のコールサイン持ち。ミレニアム生徒会長である調月リオの直属として指揮系統は独立しており、その実態を知るものは少ない存在。
それがこの場で現れたということは、やはりリオはKEY側についているということに他ならないのだ。
「トキちゃんだっけ? 私達急いでるから邪魔しないでもらえるかなぁ」
「残念ながら、先輩方を邪魔するのが私の今の仕事です。シャーレの先生も今は
「リオ会長が
「リツコ副会長、でしょうね……」
ミレニアムのトップ2が敵対していることが明らかとなり、険しい表情を見せる4人。
想定していたものとは言え出来れば直接相対はしたくないものであったのだが、なってしまったものは仕方がない。
「しょうがねえなぁ……おい後輩、さっさと終わらせてやるよ」
「どうぞ、出来るものなら」
1VS4、あちらにはAMASがついているとは言えC&Cのコールサイン持ちの前には戦闘ドローンなど物の数ではない。
短期決戦で終わらせて潜入組への援護に回らんとするネルに対し、トキは表情を崩さずに応じる。まるで思い通りにはさせぬとばかりに。
「はっ! 算数の計算ぐらいできるようになってからほざきな!」
「―――対応、開始」
戦いが始まるその瞬間、トキは袖とロングスカートを切り離し―――
******************************************************************
「うわああああー!!」
「何アレぇー!」
エリドゥの無人の市街地の中、銃撃と爆発音の合間に響く悲鳴。
曳光弾が奔り、ミサイルの爆発が街を彩り、侵入者をひたすらに追い詰めていく。
続けて大通りを高速で走るのは無限軌道車体の上に人型の上半身を乗せた戦闘メカ、
「クソダサいのにあの強さはなんなの!? 先生のパワードスーツ並に理不尽だよあれ!」
「わわ! こっちにくる!」
デザインに対する悪口を検知したのか、高速で迫るその戦闘メカに恐れを抱いたモモイとミドリは慌てて路地へと逃げ込み躱すが、手にしたマシンガンの銃口がねじ込まれるのを見て顔を青くした2人はさらに路地を曲がって射線から逃れた瞬間、その背後を曳光弾が通過する。
恐怖に顔が引きつるものの、ここならばとりあえず隠れられそうだとホッと一息。
「みんなと分断されちゃった……どうしよう、お姉ちゃん」
「あのクソダサロボット、銃弾を弾くしアリスのレッドシフトも盾で反射するなんて反則だよ!チートだチート!」
既に地下からの潜入組はあの戦闘ロボット単騎に蹂躙され、バラバラになって逃げ回る羽目になっていた。
皆が何処に居るかなんて気にする余裕もないほどに一方的な戦いだったとミドリは思い出す。
その無法な性能ぶりにモモイは怒りを露わにするが、だからといってなにかが変わるわけではない。ただ文句を言いたいだけだ。
「先生からの指示があればなんとかなるかも知れないのに……」
「ないものは強請っても仕方ないよ! 兎に角、皆を探さなきゃ―――」
息を整え、仲間たちを探すべく路地を進もうとしたその瞬間、スピーカーを通した声が市街地に響く。
『……勇者のパーティーはこの程度なのかしら? この程度では魔王KEYを倒すどころか、
「ち、挑発してる……」
「まともに付き合う必要はないけど、少しだけ様子は見てみよう。大通りを渡る必要もあるかも知れないし」
それは明らかに挑発を目的としたもの。
路地に逃げ込んだ皆を誘い出すために煽っているのだとミドリは判断した。
しかしここで動かねば事態は良くなることはないので、モモイはあえて動く。
静かに路地から顔を出し、声のする方向を見れば先程の戦闘ロボットが佇み、その肩には1人分の人影が立っているように見える。
ミドリが愛銃のスコープで覗き込むと、その人物は豊満な身体を薄手のボディスーツで覆い、長い黒髪をポニーテールで纏めていることまでは分かった。
どうやらあの戦闘ロボットは有人式で、彼女はそのパイロットのようだ。
「お姉ちゃん、あれ有人式だよ」
「マジで!? じゃあミドリ、狙撃しちゃって狙撃! パイロットを倒せば無力化できるでしょ!」
「えぇ……」
パイロットを狙えというロマンも何も無い選択肢を選ぼうとするモモイであったが、ミドリは渋い顔をする。
気が進まない上に、距離的に彼女の腕で狙えるかどうか怪しいのだ。
『私を狙おうとしても無駄よ。このアバンギャルド君は自動で私を守るように作られているわ』
「ほらバレてるよ!」
「嘘ォ!?」
しかも狙撃をしようとしているのがバレているという事実に、2人は目を丸くしながら顔を引っ込める。
このままでは完全に手詰まり―――そう思ったその瞬間、彼女たちのインカムから聞こえてくるのはヒマリの声。
『ようやく繋がりましたか。マキがネットワークハブにアクセスポイントを作ってくれたお陰ですね。皆、怪我はありませんか? 状況はおおよそ把握していますが……あれはリオですね、間違いありません』
「えぇ……あれリオ会長なの?」
「あのクソダサロボットも会長の作品!?」
クソダサロボット―――アバンギャルド君に乗るのがリオであるという事実に、この日何度目かわからぬ衝撃を受ける2人。
まさか最前線にでてくるなんてと驚きを隠せずに居ると、通話の向こうでヒマリがため息を付きながら言葉を続けた。
『どうしてこんな事をするのか、相変わらずわかりませんが……ここからは私達ヴェリタスが支援に回ります。まずはチームの合流を目指してください、すでに貴女達2人を除いて向こうは合流を完了していますのでこちらの指示通りに動けば問題ありません』
「わかった! ありがとうヒマリ先輩!」
『いえいえ、これも可愛い後輩のためですから。では、案内を始めます』
「はーい!」
一時はアバンギャルド君の圧倒的性能で蹴散らされたチームであったが、希望はまだ失われていない。
戦いはまだまだこれからだと意気込みながら、モモイとミドリの2人はヒマリの指示に従いながら路地の間を駆け抜けていく。その先にあるはずの勝利という結末を求めて。
To be Continued in Chapter Ⅱ-Ⅳ ”
3つの場面を同時描写するのって滅茶苦茶大変ですね
メカニック名鑑
名前:勇者の剣:
分類:ハイレーザーキャノン
製造:ミレニアムサイエンススクール エンジニア部
エンジニア部が光の剣:スーパーノヴァの試作品とMk.Ⅱのレーザーの試作品を組み合わせて制作した武装。
青い光線を放つ光の剣とは違い、紅い光線を放つことから
デザイン的にはノア(初期案)の持っていたレールガンをベースに、赤と黒の色調に塗り替えたものである。