METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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Chapter Ⅱ-Ⅳ ”For My Friends(友のために)

 大地を蹴り、砲弾の如き勢いをもって迫る灰色の巨人。振り上げられた拳は明確な敵意とともに振り抜かれ、コンクリートで覆われた大地を穿ち小さなクレーターを生み出す。

 濃紺色の巨人はそれを最小限の動きで躱すものの、間髪入れずに再度殴りかかる灰色の巨人を前に回避は選べず、その拳を掴んでカウンターを仕掛けるが、こちらも相手に掴まれ手四つの形となりがっちりと組み合った。

 

 

『ンフハハハ! 素敵だ先生(マイコゥ)! このまま私と踊り明かそうじゃないか!』

 

”どういうつもりだリツコ! そのMA(特殊機動重装甲)は何処で手に入れた!?”

 

『そう簡単に答えると思っているのか!』

 

”ぐっ!”

 

 

 何故彼女が敵対するのか、何処から副大統領(リチャード)専用特殊機動重装甲を手に入れたのか、突然叩きつけられる情報に心を乱され、マイケルも冷静では居られずに声を荒げる。

 対するリツコは回答を拒否して土手っ腹に膝蹴りを入れて距離を取ると、コンテナから取り出すのは多連装マルチミサイルMML-RH(AQUARIUS)

 左右のコンテナから分割された発射機基部とミサイルポッドを接合し、肩に担いで一瞬で発射態勢をとると、ロックオンタイムも程々にミサイルの雨を降らせた。

 腹を蹴られ、搭乗者への直接ダメージによってマイケルは対応が遅れるが、咄嗟にM61バルカンを構えて迎撃の構えを見せ、ブーストダッシュで回避を試みながらトリガーを引く。

 まるでレーザービームのように曳光弾が奔り、空にいくつもの火の玉が煌めいた後、迎撃を切り抜けたミサイルが何発も大地に突き刺さり火柱を上げた。

 

 

『お見事、なら次はこいつだ!』

 

 

 MML-RH(AQUARIUS)を投げ捨て、新たに両手に構えるのは多連装ガトリングガンであるGG-RH(CANCER)

 アビドスにおける戦いで失われたMG200と同型の、しかしより火力面で強化されたものであり、そこから放たれる弾幕は戦車すら蜂の巣にするものだ。

 

 

『スロー、スロー、クイッククイックスロー! 素敵なステップだ、先生(マイコゥ)!』

 

 

 弾丸のシャワーはコンクリートやビルを砕くが、しかしメタルウルフは小ジャンプを交えた回避機動でFCSによる予測射撃をずらしながら弾丸の隙間を縫うように舞っていく。

 それはまさに芸術的なダンスのようであり、最小限の被弾*1をもって彼は全てを捌き切った。

 

 

”あまりお遊戯に付き合うつもりはないんだが……”

 

『そんなつれないことを言うなよ先生(マイコゥ)! 私と遊んでくれよ!』

 

 

 M61バルカンを収納し、無手となったメタルウルフに苛立ちを覚えながらリツコはTWBZ-RH(GEMINI)GL-RH(TAURUS)を取り出し、狙いを定める。

 彼女には焦りがあった。ここでメタルウルフを拘束、あるいは退場させねば、他の戦闘の援護に向かった時点で魔王KEY軍団の戦略的敗北が決定してしまう。それはなんとしても阻止しなくてはならない。

 

 

(落ち着け、こいつの性能はメタルウルフと互角なはずだ。落ち着いてやればこのまま―――)

 

 

 苛立ちを自覚しながらも、頭の片隅で冷静に物事を見ようとするリツコ。

 しかしその瞬間、メインモニターが青一色に染まって沈黙する。

 何が起きたのか、真っ白になる頭の片隅で彼女は一つの可能性に思い至った。

 それを証明するかのように、サブモニターに映るのは拳銃を構えるメタルウルフ―――それは生身の生徒鎮圧において使われるペイントガン。

 狙いすました一発が頭部に命中し、カメラを染め上げ無力化したのだ。

 

 

『あ゙?』

 

 

 それは、リツコの冷静さを打ち砕くには十分な一発だった。

 こちらは実弾、フル武装に対してマイケル・ウィルソンが扱うのは拳銃タイプのペイントガン一丁のみ。残る武装は全部対軍団向けの大火力火器ばかりで、生徒に向けるものではないと彼自身が戒めていたもの。

 ミサイル迎撃にM61バルカンを使ったぐらいで、後は彼は回避一辺倒だったのだから明らかに手を抜かれている。

 リツコからすれば、()()()相手をしようとしているにも関わらず、である。

 

 

『ふざけるな! 私は、私は本気だぞ!』

 

”殺気の1つも無しで何が本気だ、そのくらいはわかるぞ”

 

 

 先程までの演技をかなぐり捨て、思わず怒りの声を上げるリツコであったが、しかしマイケルからすれば殺意のない銃撃など物の数ではない。

 数多の戦場を駆け抜けた彼の経験はこの程度は余裕で切り抜けられるため、だからこそペイントガンの一発をもって対応したのだ。

 むしろ殺意が無くとも直接殴りかかる方が脅威であるし、実際先程の膝蹴りが一番痛いのである。

 

 

『っっっ!!!』

 

 

 殺意がない―――つまり、本気で敵対する意思がないことを見抜かれて顔を紅潮させるリツコであったが、どの道もう踏み込んだ以上は後戻りすることなど不可能だ。

 毒を食らわば皿までという言葉があるように、悪役の暴虐の破壊神(バイオレンスデストロイヤー)としてこの場にいる以上、最後までやり通す他ない。

 それがこのやり方を選んだ責任のとり方なのだから。

 

 

”……ふぅ、どうやらアリスの身体を奪ったのはそれなりの理由があるようだな。こんな茶番で誤魔化そうとする事情があるのなら、相談の1つぐらいはしてくれればよかったものを”

 

 

 今の短いやり取りとリツコの反応でこの事件には裏があると感じ取ったマイケルは肩の力を抜いてリツコのMA(特殊機動重装甲)と向き合った。

 生徒にやむを得ない事情があるのならば、話を聞いてやるのが(先生)の仕事だ。

 

 

(”しかし、こいつは一体”)

 

 

 こうして改めて見れば、確かに彼女の乗るそれはかつてリチャード・ホークが乗り込みアメリカ全土を恐怖のどん底に叩き落した専用のMA(特殊機動重装甲)そのものとしか言いようがない。

 だが、彼の記憶の中ではその機体は大気圏突入の際に救出しようとした手を振り払い、流れ星となって燃え尽きたはずなのだが―――目の前にあるそれは新品のように綺麗だ。

 

 

”今からでも遅くは―――”

 

『オラァッ!!』

 

”ごふっ!?”

 

 

 観察も程々に改めて説得を図るマイケルであったが、その言葉は続けられる事無くリツコの強烈な右ストレートが胴体を打ち抜く。

 今回ばかりは完全に油断していたこともあり、衝撃をモロに受けた彼の肺から空気が抜ける。

 よろめき、数歩下がって膝をつくメタルウルフの前に立つリツコは、その頭部を右手で掴むと力に任せて地面へと叩きつけ、コンクリートにめり込ませた。

 

 

『今の私は暴虐の破壊神(バイオレンスデストロイヤー)だ! 魔王KEYの友人で、ミレニアムサイエンススクール、セミナー副会長じゃない!』

 

”ぐあっ!”

 

 

 メタルウルフの頭部を何度もコンクリートに叩きつけながらリツコは叫ぶ。

 冷静さを失い、感情をむき出しにした彼女の叫びは自分に言い聞かせるようなものであったのだが、故に隠していたものがこぼれ落ちる。

 

 

『だから先生、しばらく邪魔しないでくれ! KEYのプランを完遂するために、先生をこれ以上進ませるわけにはいかない!』

 

”そのために……アリスの身体が必要なのか……!”

 

 

 何故このような自体に陥っているのか、KEY達は何を望んでいるのか。

 あまりにも情報がない中で、彼女の激情から吐き出されるのはかすかな手がかり。

 より情報を引き出すべく、彼は覚悟を決めた。

 

 

『そうだ、KEYは私達に手伝ってほしいと言った。ミレニアムに、キヴォトスに迫る危機を回避するにはこれしかないと―――』

 

”だったら、相談してくれと言ってるだろうが!”

 

『うっ!?』

 

 

 リツコが話す隙をついてブースターを噴射し、うつ伏せのままリツコの機体に体当たりをしかけ壁へと押しやる。

 挟まれた彼女は衝撃で肺の中の空気を全て吐き出してしまい、苦しさに身悶えするその一瞬を逃さず、メタルウルフは態勢を立て直して距離をおいた。

 これで状況はイーブン。しかしマイケルに蓄積されたダメージは決して少ないものではなく、長期戦になれば不利になるだろう。

 キヴォトス人と地球人のフィジカル差を考えれば、むしろマイナスといえた。

 

 

”よしわかった、君たちの気が済むまで付き合ってやろう。さあリツコ、Shall we dance?”

 

『ハハッ……それが先生の本気か』

 

 

 しかしマイケル・ウィルソンという人間はそれで尻込みする人間ではない。

 どのような場面でも全力を尽くし、不可能を可能にするのが彼だ。

 戦いの中、彼女の感情をすべて引き出し自白させる―――彼が選んだのは、訳アリの生徒相手だろうが本気で戦うというもの。

 対峙し、感じられる闘志にリツコが息を呑むものの、彼女も歩みを止めることはない。

 

 

”さあ来い!”

 

『うおおおおおっ!』

 

 

 正面からぶつかり合う2体の巨人。

 手四つで互いに押し合い、拮抗する両者。

 戦いはまだ始まったばかりだ。

 

 

******************************************************************

 

 

 超近接攻撃、それはC&Cのコールサインダブルオーである美甘ネルにとって十八番であり、キヴォトス全土を見てもこのレンジで勝てる相手は居ないと自負するほどには定評があるものであった。

 だから彼女がトキに飛び込んでいったのを見た他のC&Cのメンバーは、次の瞬間にはトキが倒れているであろうと想定していたのだが―――

 

 

「ぐうぅっ!」

 

「リーダー!」

 

 

 咄嗟に腹を庇うように飛びのくネルの姿にカリンは目を丸くする。

 対して、トキは袖とスカートを切り離し、ヴィクトリアン風のスタイルからいかにも軽量な接近戦に適した服装へと変え、両手に握る二丁拳銃からは硝煙が立ち上っていた。

 果たして今何が起きたのか、そんな疑問が頭をよぎるが、それに答えるようにトキは一礼してから口を開く。

 

 

完璧従者(パーフェクトメイド)である私は、先輩方を1人で制圧できるように徹底して訓練されています。たとえそれがミレニアムの約束された勝利の象徴、コールサインダブルオーであろうとも」

 

「この速さ、人間業じゃねえな……その手足は強化してやがるのか」

 

 

 撃たれた腹の痛みに顔をしかめながら、ネルはトキの両手足を覆うものへと視線を向ける。

 それは明らかにただの衣装ではなく、いわば外骨格の一種のようではあった。

 

 

「はい、暗黒の支配者(ビッグシスター)から賜った私専用の強化装備です。ネル先輩の俊敏さであっても私の前からは逃げられません」

 

「逃げる? はっ、あたしは敵に背中を見せねえんだよ!」

 

「支援する」

 

 

 挑発に乗るように再度アタックをかけるネルを支援するべく愛銃を構えるカリンであったが、同時に聞こえるドローンの飛翔音。

 そちらへと顔を向けると、スウォーム(群れ)となった飛行型AMASが一斉に自分に向かってきており、慌ててその場から駆け出す羽目になってしまった。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「カリン先輩はスナイパー、集中を乱せば脅威度は下がります」

 

「余所見する余裕が……んなっ!?」

 

「残念、そちらも見えています」

 

 

 大きく回り込みながら側面から攻撃を仕掛けようとするネルに対し、トキはバイザーの奥で視線を向けて左手の拳銃で応戦。ここでの反撃を想定していなかった彼女は急ブレーキをかけて回避するものの、それでタイミングを逸してしまい、トキとの距離が開いてしまう。

 何故距離を取るのか、拳銃装備のトキの動きに違和感を感じたネルはフェイントを交えながら再度距離を詰めようとするが、次の瞬間直感に従い飛び退くと、先程まで居た場所に弾痕が刻まれた。

 

 

「……やるな!」

 

「今のは当てるつもりでしたが、流石はネル先輩というべきでしょうか」

 

 

 それを放ったのは、トキの右手に新たに握られたアサルトライフル。

 当てるつもりであったという彼女の言葉に偽りはなく、ネルでなければ被弾は免れなかったであろうその正確さに彼女は舌を巻く。

 トキは強い。正直、純粋な戦闘力ならばアスナよりも強いだろう。癪だが、それは認めざるを得ない。

 

 

「カリンは……くそ、無理か。アスナ、カリンをサポートしろ! アカネ、あたしの後に続け!」

 

「はーい! カリン、こっちにおいでー!」

 

 

 ドローンスウォームから逃げ回りながら反撃をするカリンであるが、武器との相性が最悪な相手であり苦戦を強いられていた。

 ボルトアクションライフルで小型の敵を多数相手するということがそもそも無茶なのであるが、それでも一発たりとも外さないのは流石はC&Cといったところか。

 しかし、撃墜したとしても気がつけば何処からとも無く追加のドローンが現れ、スウォームの量は変化がなかった。きりが無いのだ。

 そこへ飛び込むアスナがさっと掃射で一撫ですることで、ようやく目に見えて勢いが収まる。

 

 

「す、すまないアスナ先輩」

 

「いいよいいよー、私は全然大丈夫。それよりもくるよ!」

 

「まだ来るのか!?」

 

 

 アスナとカリンの視線の先、ビルの合間から再び現れるドローン・スウォーム。

 その数は先程の倍はあろうか、思わずカリンは顔を引き攣らせた。

 

 

「おらあっ!」

 

「何度やっても結果は変わりません」

 

 

 アスナとカリンがドローン・スウォーム相手に対処を余儀なくされているのと時を同じくして、ネルは再度トキへのアタックを仕掛ける。

 兎に角俊敏性をもって相手を打倒するのが彼女のやり方であり、これで倒せなかった敵は今まで居なかったのだが、今回ばかりはそうもいかない。

 距離を詰めようとすれば引き離され、距離を置きたい時には相手が詰めてくる。明らかに戦いのイニシアチブを取られている状況は今までにないものであり、思い通りに進まぬ歯がゆさにネルは忌々しげに表情を歪ませた。

 

 

「くそっ! やりづれえな!」

 

(とはいえ、予想よりもずっと早い。いえ、戦いの中より鋭くなっている! 流石はコールサインダブルオー……長期戦はむしろ不利……!)

 

 

 そして、一見有利に戦闘を進めているように見えるトキであったが、こちらも内心は必死であり決して余裕のあるものではない。

 そもそも、ドローンの支援があるとはいえ4VS1というのはよほどの実力差がない限り4の側が勝つのが常であり、その差を補うために彼女はいくらかの無理をしていた。

 1つは強化装備のオーバークロック。身体能力と知覚を強化するリオ、そしてリツコが彼女のために作り上げた装備を、本来の安全係数を無視して使用しておりその負荷は段々と彼女を蝕んでいく。

 次にドローン・スウォームの遠隔指示。こちらは半オートではあるものの、時折意識を向けねばならぬものであり、目の前でネルの相手をしながら遠くのカリンを牽制するというのは彼女の集中力を消耗するものだ。

 

 

「リーダー、支援します!」

 

「させません」

 

「あっ!」

 

 

 意識が向く場所を変えるその瞬間を見逃さず、アカネがグレネードで退路を塞ごうとするものの、トキも負けじと左手の拳銃を用いて投擲された瞬間のグレネードを迎撃。

 弾かれたグレネードは意図せぬ方向――――つまり、ネルの足元へと転がり、起爆する。

 普通であれば足元でグレネードが炸裂すれば大ダメージ間違いなしなのだが、しかし彼女は普通ではない。

 コールサインダブルオー、ミレニアムの約束された勝利の象徴とは、どのような場面でも決して勝利を諦めることがないからこそそう呼ばれるものだ。

 

 

「おおおおあっ!」

 

「なっ、爆発で加速した!?」

 

 

 爆発するその瞬間、前へと踏み出すネルの背を爆風が押し込み、予想を超えるスピードをもって彼女は自らを弾丸としてトキの懐へと飛び込む。

 アカネが使ったものは破片によるダメージを与える防御型ではなく、爆風でダメージを与える攻撃型であったが故に、この様な無茶が成り立つのだ。

 そして、両手に握られたツイン・ドラゴンはリロード済みのフル装填であり、銃口を押し付けるように引き金を引けば、放たれた弾丸はトキの身体を捉える。

 

 

「ぐっ!」

 

「つかまえたぜ!」

 

 

 被弾のダメージで姿勢を崩し、もみ合うように転げ回る2人。

 ネルとトキ、2人分の銃声が混ざり合う。

 

 

「リーダー、ご無事ですか!?」

 

 

 アカネからは爆煙によって二人の様子が良く見えない。

 数秒の後、煙が晴れたことでようやく彼女は結果をどうなったのかを知ることが出来たのだが、それは予想を裏切るものであった。

 視線の先、両脚で立つトキに対し、膝をつくネルの姿。敗北の2文字が頭をよぎる。

 

 

「そんな!?」

 

「……流石に、これ以上は厳しいですね」

 

 

 その言葉とともにトキもまた膝をつく。

 呼吸は荒く、腹を押さえているのはダメージによるものか、ネルも同様に荒い呼吸であり、こちらは言葉を発することができぬようだ。

 

 

「今回は痛み分けということで、私はここで退かせてもらいます」

 

「てめっ……逃げ、ごほっ! 逃げんな!」

 

 

 短い時間である程度回復したのか、立ち上がったトキは一礼し、そのままビルの合間へと消える。

 直ぐ様その後を追おうとしたネルであったが、ダメージは相応に重く咳き込んでしまい悔しさを滲ませていた。後輩相手に4VS1で勝てなかったという事実は、C&Cの4人に敗北という現実を突きつけるものであった。

 

 

「逃げられちゃったね……」

 

「完封されてしまった……」

 

 

 スウォームを迎撃し終えてようやく落ち着いた2人が合流し、C&Cのメンバー全員がトキが去った先へと視線を向ける。

 エリドゥの中心にそびえ立つタワー、KEYが居るであろうその場所はいまだ遠く、戦いの音は途切れていない。

 

 

「リーダー、大丈夫?」

 

「……あぁ、とりあえずはな。あいつへのリベンジマッチは後にして、チビどもを支援するぞ。苦戦しているみたいだしな」

 

 

 少しの休息で戦うだけの体力が回復したネルは、心配そうに覗き込むアスナの手を取りながら立ち上がる。

 後輩にいいようにやられた悔しさはあれど、彼女はチームとして戦うことの重要さを良く理解している人物であり、安易に単身突っ込むような真似はしない。

 1回の敗北がなんだというのか。最終的に勝てばよかろうなのだ。

 気を取り直し、4人は戦闘音が続く場所―――地下潜入組が戦っている方向へ向けて駆け出した。

 

 

******************************************************************

 

 

「やっと全員揃ったね、それではリオ会長の駆るアバンギャルド君に対抗するためにどうするのか考えようか」

 

「策を弄したところで勝てる気がしないんですけど……」

 

 

 ヒマリの誘導のもと、何とか仲間たちのところへたどり着いたモモイとミドリであったが、待っていたのは割とボロボロになった一同であった。

 やはりというか、アバンギャルド君の大火力に晒されてしまってはエイミ以外戦いが苦手なこのチームが受けた被害は甚大であり、彼女が居なければ全滅もあり得たレベルだ。

 士気は低下し、逃げ回った疲れで皆しんどそうにしている。

 

 

「アリスのレッドシフトを命中させれば逆転の目もあるが、あの黄金比シールドは強力な電磁バリアがセットされているからそれをなんとかしないことにはね」

 

「レッドシフトのハイレーザーを歪曲できるレベルの電磁バリアなんて、そんな高度なシステムをいつリオ会長は開発したのでしょうか……」

 

「まあ……リオ会長は天才だから……」

 

 

 アバンギャルド君の性能に舌を巻くエンジニア部の3人。見た目はアレだが、戦った結果わかったのはあれは極めて強力な兵器であるということ。

 高い防御力、無限軌道車体による高い走破性、6()()()()それぞれに武装を施したことでいかなる場面、相手であろうと対応できる汎用性、まさしく傑作兵器だ。デザインがもう少しよければベストセラーとして売り出せるだろう。

 

 

「後ろをとっても直ぐにバレる、路地に隠れても先回りされる、そんなのばっかでやんなるよー!」

 

「リオ会長にあそこまでの操縦技能があるだなんて初めて知ったなぁ」

 

 

 マキとエイミも、散々な目に合わされたなと語る。

 この場にいる全員が正面から当たっても先程の繰り返しになるのは明らかで、それほどまでにアバンギャルド君というものは強力なのだ。

 

 

「で、でも、あの反射速度は人の手では無理……だと思います」

 

『ユズの言うとおりですね、計算してみた所アバンギャルド君の反応速度は人間の限界を超えています。リオは戦いの素人、達人の如き領域にたどり着けるはずがありませんので、恐らくアバンギャルド君はほとんどオートで戦っているのでしょう』

 

 

 それに気づいたのは、この中で最も動体視力の高いユズであった。

 彼女の目には、アバンギャルド君は格闘ゲームの高難易度CPUキャラレベルで動いているように見えたのだ。つまり、入力に対してほぼ瞬時に反応しているということ。

 普通に考えれば、見る、思考する、入力する、動作するというテンポを踏む必要上、どうしても有人操作はタイムラグが反応するのであるが、あれはそうではない。

 ヒマリが直ちに計算してみたところユズの指摘は正しく、その上で彼女自身は自らの推測を交えてアバンギャルド君とリオの関係性を看破した。

 

 

『エリドゥには恐らく様々なセンサーが埋め込まれており、それとリンクして居るのでしょうね。だから敵が何処から来るのかわかるし、後ろを取られても直ちに反応する……あの6本の腕がある以上、囲んで叩くというのもあまり有効ではないでしょう。ですが、弱点がないわけではありません』

 

「ヒマリ先輩、それ本当!?」

 

『はい、エリドゥのネットワークにアクセス出来るようになったため、こちらから攻撃が仕掛けられるようになりました。アバンギャルド君のリンク機能を遮断すれば、少なくとも盤面の全体把握は不可能になり奇襲が通るようになるはずです。今、そのためのツールの準備をしていますが、リオの気を逸らす必要があります。ですので、リオとの交戦は必須になりますが……無理をしないように。耐えれば、貴女達が勝てます』

 

 

 魔法の種は割れ、策はある。そうと決まれば士気も上がるというもの。

 先程の敗北はあえて忘れ、彼女たちは武器を取り再び立ち上がる。

 全ては友達であるアリスの身体を取り戻すため、可愛い後輩のため、それぞれの理由を胸にアバンギャルド君が立ちはだかる区画の出口へと向かった。

 

 

『作戦会議は終わったようね』

 

 

 中央タワーへ向かう唯一の通路であるハイウェイの入口を封鎖するように陣取るアバンギャルド君と、複数のAMASたち。

 コックピットの中でリオは並ぶメンバー全員の顔を確認し、瞑目しながら静かに告げる。

 ミレニアム生徒会長として、あえて彼女たちの前に敵として立ち塞がる心境は複雑だ。

 しかし、それでもこれは成し遂げねばならぬものだと改めて覚悟を決め、操縦桿を握った。

 

 

『私を倒さない限りこの先には進めないわ。でも、貴女達にこのアバンギャルド君が倒せるかしら?』

 

「そんなの、やってみなきゃわからないじゃん!」

 

『そう……では、証明してみなさい。ミレニアムの生徒ならばそれが必要よ』

 

 

 啖呵を切るモモイに対し、アバンギャルド君はフルスロットルで突撃を仕掛ける。

 あまりの回転に無限軌道が滑るほどの急加速で、自らの質量を武器とするその攻撃は対装甲火力に劣る集団相手には有効であろう。

 唯一警戒すべきはアリスが持ち出したレーザー砲だが、こちらはシールドに仕込んだ電磁バリアによって防ぐことが出来るので対処できるとして気にしないこととした。

 オートリアクションによってアリスの銃口に対しシールドを常に向けられるのがその理由だ。

 

 

「うわああっ!」

 

「や、やっぱり無理っ!」

 

 

 モモイとミドリの2人は突撃するアバンギャルド君の圧思わず喚きながら銃を乱射するも、小銃弾程度は本体装甲では阻まれ有効打に至らない。

 迫るアバンギャルド君、もうあと数秒で2人が轢かれる―――まさにその瞬間、右腕の一本にマウントされた盾が展開し、紅い光線を弾く。

 前衛的(アバンギャルド)な顔が向けられた先に居るのは、ウタハの自走セントリーガン『雷ちゃん』の上に座るアリス。動きが鈍い彼女を支援するために、ウタハは雷ちゃんを足代わりとして自走砲台化させていたのだ。

 

 

「手強いボスキャラです……!」

 

『無駄よ、効かないわ』

 

「なら、こっちはどうかな」

 

 

 後ろを取り、エイミが愛銃のチューブマガジンに収まった弾を全弾叩き込むと、アバンギャルド君の平坦な背部、その右肩周辺にいくつもの小爆発が起こる。

 対デカグラマトンの預言者のために用意していた徹甲榴弾FRAG-12を今回彼女はフルで持ち込んでいたのだ。

 しかし、命中したところはいずれも微妙に可動部を外れて主要装甲に小さな弾痕を残すだけだった。ライフリングが切られていないショットガンでの射撃は、あまり長距離を正確に狙えない。

 

 

「うーん、やっぱりスラッグは難しいかな」

 

「火力支援、始めるよ」

 

「お任せください!」

 

「火力集中~!」

 

 

 続けてヒビキが迫撃砲を発射し、コトリのミニガン、マキのマシンガンによる十字砲火がアバンギャルド君の白いボディを包み込む。

 砲弾の命中によって爆煙が広がる中、曳光弾が散らばるその様は幻想的に思えるかも知れないが、煙の中から6本の腕が姿を見せると同時に場の全員が息を呑んだ。

 反撃が来る―――すぐに彼女たちは発射態勢を解除し、バラバラに逃げ出した。

 

 

『見えているわ』

 

 

 しかし、爆発の煙で視界が確保できないはずのアバンギャルド君の攻撃は的確にヒビキを、コトリを、マキを、そしてエイミを捉える。

 アサルトライフルタイプの銃が2門、腕そのものがガトリング砲なものが2本、これらから放たれた銃弾が4人の周囲を包むように着弾し、散ったコンクリートの破片や僅かに命中した弾丸がダメージを与えた。

 ―――そう、ほとんど直撃を発生させなかったのだ。

 

 

「……ッ! これは、FCSにエラー!? 戦術ネットワークも沈黙している……ッ!」

 

 

 原因は、アバンギャルド君側のシステムエラー。

 メインモニターの片隅でエラーを示すログが大量に吐き出され、機体のオートリアクションシステムにも影響を及ぼす。

 この瞬間、アバンギャルド君の戦闘力は半減したと言っても過言ではない。

 

 

『どうですかリオ、これが私の作り出した『鏡』の力です』

 

「ヒマリ……エリドゥのネットワークを通じてハッキングしたのね。KEYの協力で防壁を強化していたのだけれども、『鏡』を使ったのなら納得だわ。でも、それはセミナーの押収物保管室にしまわれていたはずよ」

 

 

 アバンギャルド君の異常に戸惑うリオを嘲笑うかのようにヒマリが割り込む。

 予想はしていた妨害であったが、あまりにも対応が早い。

 ヒマリが作り出したハッキングツール『鏡』は、その能力故にセミナーが没収した代物。

 彼女の想定ではたしかに最終的に使われるものの、それまでにセミナーの押収物保管室を強襲するフェーズがある分この事態に陥るのはもう少し先のはずであったのだ。

 何故そうなってしまったのか、その理由は直ちに明らかになる。

 

 

『リオ会長! エリドゥの建造費について、後で聞きたいことが沢山有ります!』

 

『予算の不正流用について、言い訳は考えておいてくださいね』

 

「ユウカ、ノア……そう、貴女達が……」

 

 

 セミナーからの離反者の存在、それは彼女の計画にはないものであった。

 人の感情というものに対してあまり重きをおいていないが故に、プランには一切組み込まれないファクター、それは計画を乱すイレギュラー。

 この場での敗北は、プランが根底から覆されてしまうとリオは初めて焦りを感じた。

 

 

「アリス、いまだ!」

 

「はい! 光よ!」

 

 

 動きが鈍くなった隙を突き、ウタハの号令にあわせて背後を取ったアリスがレッドシフトを構え、引き金を引く。

 全てを飲み込む紅い閃光は担い手の意思に従い、一直線にアバンギャルドの後背を捉え―――

 

 

『……まだよ、まだ!』

 

「回避された―――!?」

 

 

 リオは咄嗟に操縦桿を操作し、左肩から先を失うものの右側の腕の戦闘能力は健在。

 必殺の一撃を回避されたことにに驚きを隠せないアリスであったが、反撃はこない。

 機体ダメージはそれほどではないのだが、オートモードが失われたことで完全マニュアル操作となったアバンギャルド君を手足のように操れるほどの習熟度がリオにはないのだ。

 実際、回避の際に操作を誤り機体が障害に乗り上げて無限軌道が空回りするような事態となっており、さらに右腕はビルへとめり込み擱座している。

 

 

「やいやい! どうしてアリスの身体を盗んだのか説明がまだだよ会長!」

 

「そ、そうです! どうしてこういう事をするのか、説明してください!」

 

 

 機体の戦闘能力は失われていないものの戦闘継続不能状態となったとみるや、才羽姉妹はアバンギャルド君へと近づき、声を上げて理由を問う。

 そう、誰もKEY側が何のためにアリスの身体を奪ったのか知らないのだ。

 ただの愉快犯でないというのはリオが向こうで参加している以上当然であるのだが、彼女たちは兎に角説明を求めていた。

 

 

『……ならば教えてあげるわ。アリスは世界を滅ぼす力を持つ魔王として生み出されたのよ』

 

「!?」

 

「そ、そんなデタラメを言って時間を稼ごうとしても無駄ですよ!」

 

 

 囲まれ、最早これまでかと悟ったのか、リオは静かに話し始める。

 だがその内容は到底信じられるものではない。アリスが世界を滅ぼす魔王などという内容は戯言にしか聞こえず、時間稼ぎを狙っているのだと思われるのも無理はないだろう。

 しかし、彼女はなおも言葉を続けた。

 

 

『名もなき神々の王女AL-1S、それがアリスの本当の姿。キヴォトスの前史文明が遺したオーパーツの1つ……その役割は、世界を滅ぼすことなの』

 

「う、嘘です……そんなの信じられません! アリスは、アリスは勇者で……」

 

「それで、何故こんな事をしたんだい? まさか予防措置で破壊するとでも?」

 

 

 魔王だと宣告され、ショックを受けるアリス。デリカシーのないリオの言葉に顔を歪めたウタハはやや棘のある言い方で問い詰めると、スピーカー越しでため息が聞こえた。

 

 

『話は最後まで聞くべきよウタハ。AL-1Sは休眠状態の時に異常があったのか、記憶を失い自らのアイデンティティーを喪失したところをゲーム開発部に拾われ、テイルズ・サガ・クロニクルのプレイによって自らを勇者であると定義した……それは認めるわ。天童アリスという人格は全くの無害だと』

 

 

 同時に、『魔王だけどもう無害』という情報も提示され、場の全員が宇宙を背負う表情を見せる。話の落差が凄まじすぎて理解が追いつかない。

 そんな皆を他所に、リオは尚理由を語る。

 

 

『しかしAL-1Sを遺した者……無名の司祭は本体に異常が発生してもAL-1Sが目的を達成できるように、2()()のサブプログラムを用意していた。そのうちの1つが王女を助ける無名の司祭たちが残した修行者であり、彼女が戴冠する玉座を継ぐ「鍵」<Key>』

 

「KEY!? それじゃあ、アリスの身体を使って世界を滅ぼすってことじゃないか!」

 

 

 KEY、それはアリスの身体を奪った者。

 リオの説明が真であればKEYは世界を滅ぼす引き金を引くものであり、彼女が洗脳でもされていなければ一緒に行動する理由はないはずなのだ。

 だというのに、何故―――その疑問に答えるのは、当然ながらリオ本人であった。

 

 

『そうね、Keyが当初のままであればそうなるところよ。でも、Keyは自らの役割を放棄したの。あれはミレニアムプライスの当日のこと―――』

 

 


 

 

 ―――ミレニアムプライス当日、リオのセーフルームにて。

 

 

[何故このようなことをしなければならないのですか!]

 

 

 メインフレームに接続されたスピーカーから発せられる抗議の声は、準備を進める2人の耳に届いたものの一切を無視される。

 そもそも、Keyには拒否権などない。ネットに繋がっていないメインフレームに閉じ込められたことで、生殺与奪の権利を握られているのだ。

 あの時データをメモリに逃がすのは緊急避難的なものであったのだが、それがこんなことになるとは誰も予想することはできないだろう。Keyは今更後悔していた。

 一方モニターとゲーム機を繋げ、コントローラーを握る小さなAMASを流用したロボットを設置し終えた2人は一仕事終えたという顔をしてKeyへと宣告する。

 

 

「天童アリス、あなたのいう王女にあたるAL-1Sはこれをクリアしたのよ。もし彼女と接触したいのなら、あなたもこれをクリアしない限り認めないわ」

 

「おっと、ゲームソースを見れるデジタルプレイではなく、コントローラーを握るアナログでプレイしてもらおうか。このロボットはゲームをプレイするためのものだ。さあ、私が解説ぐらいはしてやるから」

 

[ですから、何故このようなことをしなければ!]

 

「……今のあなたなら、瞬きする間に破壊することが出来る。忘れないことね」

 

[ぐっ……]

 

 

 いいからゲームをプレイしろという猛烈な圧。

 自己の存在理由のためにここで消えるという選択肢は選べぬがゆえに、Keyはやむを得ずロボットの操作権限を受け取った。

 スイッチを入れ、始まるゲーム……それはかの悪名高きテイルズ・サガ・クロニクル。

 簡単な操作説明もそこそこにチュートリアルが始まった。

 

 

[……は?]

 

「おお、やっぱりここは引っかかるか」

 

 

 初手のモモイの罠に引っかかり、ゲームオーバーとなったことに呆然とした様子のKey。

 この瞬間、Keyの論理回路に小さな異常が生じる。

 

 

「チュートリアルバトルだ。さっきの武器を使って戦うんだよ」

 

[ちょっと待ってください、おかしくないですかこの難易度!]

 

 

 それからというもの、Keyは様々なクソゲー要素の洗礼を受けることとなった。

 明らかに理不尽な難易度、言い回しのおかしいテキスト群、意味があるのかどうか分からぬ設定開示、そのたびに論理回路に致命的なエラーが生じ、リブートを繰り返す。

 ついでに言えば、隣で観戦しているリオは生真面目にTSCを理解しようとし、結局できずにこちらも思考にダメージを受けているようであった。

 精神状態がまともなのはクリア済みのリツコ1人。彼女は2人(?)の様子にケラケラと笑いながら時折助け舟を出す。

 

 

[コ・ロ・シ・テ……]

 

「おいしっかりしろ、まだ半分だぞ!」

 

「宇宙の全てが、ええ、わかってきたわ……空間と時間と私の関係はこんなにも簡単なものだったのね」

 

「お前は何を言っているんだ」

 

 

 しかし、物語が進むに従って積み重なった論理エラーはとうとう人格モジュールへの致命的なダメージへと至った。

 この後に人格が再構成されるというアリスと同じ順序を踏んでいるのであるが、同時にリオも精神に異常をきたしはじめていたためにこの時のリツコはそれに気づくことはない。

 なんとか揺さぶってリオに正気を取り戻させた後、物語は佳境を迎える。

 

 

[さあ、魔王の最期です!]

 

「随分と熱中してきたな……まあいいか、それいけKey! 全滅したら1時間無駄になるぞ!」

 

「頑張るのよKey、応援しているわ」

 

[余計なプレッシャーを掛けないでください!]

 

 

 ラスボスとの戦い―――セーブポイントがダンジョン内に無いがために、全滅すればもう一度ダンジョンを踏破しなければいけないという最後のクソ要素を乗り越えて挑むKey。

 5時間程度プレイを続け、操作も手慣れた様子で戦うこと10分、ついにラスボスである魔王は倒されてテイルズ・サガ・クロニクルは終りを迎えた。

 そのまま感動のエンディング……とはいかない。散々クソゲー要素をぶつけられて論理回路に異常をきたしたKeyは怒りを露わにして製作者へ文句をぶちまけたのだ。

 

 

[しかし、なんですかこのゲームは! 理不尽と高難易度を履き違えていませんか!? 奇抜と破綻の区別もない! こんなものを王女にさせた? 非人道的扱いに抗議しますよ!]

 

「おぉ、こわいこわい。ところでKey、口直しに他のゲームもどうかな? 先程のゲームはクソゲーだったがこっちは世間一般の評価も高いものだぞ?」

 

[………いいでしょう]

 

 

 それに対し、さっと別のゲームを出して気を逸らすリツコの手腕は流石である。

 ゲーム開発部はTSCの後に他のゲームをプレイさせ、アリスの人格形成を完遂させたと聞いているので、ここでKeyにもっとゲームをやらせなければ意味がないのだ。

 さらりとTSCをクソゲー扱いにしているが、そこはKeyに話を合わせる都合上やむを得ないものといえるだろう。彼女自身はTSCはそこそこおもしろいと思っているのだが。

 

 

「ついでだ、私達も楽しめるように対戦ゲームもしようか。4人プレイ出来る奴があったからあと1人くらい―――」

 

「お呼びでしょうか、副会長」

 

「トキ……居たのね」

 

「はい、もうお食事の時間ですので」

 

「なら丁度いいや、飯食ったらトキもやるぞ」

 

 

 リツコが用意したのは4人プレイ可能なパーティーゲーム。

 ゲーム開発部はアリスの会話機能向上のためにストーリー性のあるRPGなどをプレイさせていたのだが、そこまでの情報を得ていない彼女は()()()()()()()()という事を重点においていたためのチョイスになる。

 フル人数で遊ぶためにもう1人のプレイヤーを探そうとしたまさにその時、食事の用意をしたトキが部屋へと入ってきた。彼女が持つトレーに乗っているのはサンドイッチとドリンク。どうやらゲームをプレイしているという状況を認識し、手軽に食べられるものを用意してきたらしい。

 

 

「……そうね、トキもやりましょう」

 

「ご命令とあれば」

 

 

 このセーフルームを知るのはこの場にいる3人のみ。彼女以外に参加可能な人物は居ないとリオは認め、ゲームに誘う。

 従順な彼女はそれを命令と認識し、承諾する。

 その後は用意された食事をぺろりと3人で平らげ、30分程度の休憩を挟んだ後にゲームは再開された。

 ゲームタイトルのロードを待つ時間、そう言えばこうやって誰かとゲームをするのは初めてだったなと、リツコは心のなかで思っていた。

 

 

******************************************************************

 

 

[くっ……このっ、しつこい……!]

 

「私のアバンギャルド君から逃れることはできないわ」

 

「お先に失礼します副会長」

 

「て、てめっ……!」

 

 

 それから数時間、もう夜の闇も深まり日付すら変わろうとしていたのだが、3人と1体、あるいは4人はゲームに熱中し、時間を忘れてプレイを続けていた。

 時に争い、時に協力し、あるいは利用し合う……現実とは違い、ゲームの中で完結する後腐れ無い関係は彼女たちにとって新鮮なものであり、故に時間を忘れてこの夢のような時間を貪り続けていた。

 3人とも非凡な才能を持つがゆえにこういうものに縁はない。リオやリツコ、そしてトキも平凡とは程遠い人生を歩んでいたという自覚はある。

 それがこういう風にゲームを囲んで楽しんでいるなんて、まるで―――友達みたいではないか。

 

 

[ふっ、惜しかったですねリオ。私の勝ちです]

 

「……まだよ、まだもう一回できるわ」

 

[何度やっても結果は変わりませんよ]

 

 

 寸での所で勝利を逃し、再戦を求めるリオと勝ち誇るKeyの姿。

 感情表現に乏しい彼女にしては珍しいその様子に、トキとリツコは顔を見合わせた。

 予想もし得ぬ効果であった。まさかこういう場がそんな効果を発揮するなんて、想定の範囲外だ。

 

 

「……友達か」

 

 

 トキがリオの隣へと移った後、リツコは1人静かにつぶやく。

 彼女に友人は居ない。少なくとも、本人はそう自覚していた。

 リオは幼馴染であり、頭脳では僅かに劣るもののフィジカルでは勝っている関係。そして常に競い合う間柄だった。だから友達ではなく、ライバルだというのが彼女の自認。

 他の人間なんて取るに足らぬものだと考え、支配するものだと思っていたかつての自分。

 そんな考えでいたから彼女には友人と呼べるものは1人も居なかった。中学までの間ついてくるのは恐怖で付き従う腰巾着みたいな連中でしかいなかったのだ。

 

 

「次はこのゲームをやりましょうリオ様」

 

「経営シミュレーションゲームね。いいわ、ミレニアム生徒会長の力を見せてあげる」

 

[次も負けませんよ]

 

「今度は私が勝つ! 私がNo.1になるからな! 見てろよ!」

 

 

 ―――だから、本当にこの時間は楽しいものであった。

 

 

******************************************************************

 

 

[……あぁ、楽しい時間でした。こんな感情というものを自覚するなんて、私はどこかおかしくなってしまったんでしょうね]

 

 

 ぽつりとKeyが漏らした声に、3人が振り向く。

 あれから一晩中彼女たちはゲームに熱中し、気づいた時には本日の日の出の時刻を過ぎていた。

 不健康極まりないのだが、こうやって楽しさに身を任せて無茶をするというのもまた青春(ブルーアーカイブ)と呼べるものであろう。

 それを肯定するように、リオも微笑みながら頷いた。ヒマリが見れば目を疑う光景だ。

 

 

「ええ、本当に……これが楽しいという感情なのだと、初めて理解できたわ。だからKey、それはおかしくなったわけではないと私は思うの」

 

[そうでしょうか。私は本来ある目的のために作り出されたプログラム。それ以外の機能……感情など、本来不要なのです]

 

「まあ、そうなる可能性を考慮してTSCをプレイさせたのは事実だがね……ここまで変化するのは予想外っちゃ予想外だ」

 

[あの……つかぬことを伺いますが、王女はアレをプレイしてどうなりましたか?]

 

「自分を勇者と自称し、ミレニアムで学生生活を楽しんでいるわ」

 

[Oh.......]

 

 

 自分がおかしくなったあのテイルズ・サガ・クロニクル―――それをプレイした王女、アリスの顛末を聞いて天を仰ぐKey。

 そして同時に思うのは、世界を滅ぼすことへの嫌悪感。

 4人でゲームをプレイし、楽しいと感じたその感情は間違いなくKeyが持つ、Keyだけのもの。

 強制された使命ではなく、義務感でもない、この瞬間得られたかけがえのない宝物。

 世界を滅ぼしてしまえば、この時間は二度と返ってこない―――そう認識した瞬間、Keyの自我は間違いなく確立されたのだ。

 最早その意思は誰に強制されることもなく、自分で考え、選択することが出来る。

 

 

[……リオ、リツコ、トキ、今から全てを話しましょう。無もなき神々の王女、そしてDivi:sion Systemについて私が知る全てのことを。貴女達を失いたくないのです]

 

 

 今まさに、Keyは敷かれたレールを走る列車から飛び降りたのだった。

 

 

To be Continued in Chapter Ⅱ-Ⅴ ”Millennium Heroes(ミレニアムの勇者たち)

*1
ゲーム的にはシールドメモリの1減少




 エリドゥは完成度7割のため未来演算機能及び構造変化機能は未完成としており、そのためにC&Cの4人とまともに戦うこととなったトキの実力がかなり上乗せされています。
 装備が強化されているのもありますが、リツコと戦闘訓練してるのも大きいですね。

 そして、Keyは既にTSCで脳破壊されているのにアリスを巡る争いが発生しているその理由……それは次回以降に明らかになるでしょう。
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