METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

33 / 58
Chapter Ⅱ-Ⅵ ”Mechanized Friendship(機械仕掛けの友情)

 絶え間なく鳴り響く銃声、サーチライトが夜空を照らす中、爆炎がビルの外壁を一瞬浮かび上がらせた後、わずかに遅れて雷鳴が如き音が貫く。

 積み上がる灰白色のロボットの残骸は自然とバリケードに早変わりし、それを乗り越えようとした無名の守護者は瞬く間に弾丸に貫かれ、バリケードを構成する一部へと早変わりした。

 しかし、何度も何度も敵を倒したとしても、きりなく現れる守護者達はじわりじわりと前線を押し上げており、バリケードは次第にバリケードではなくなりつつある。

 これはまずい。最初に危機感を抱いたのは当然ではあるが前線で走り回るネルだ。

 

 

(くそ、押し返す力が足りねえ!)

 

 

 愛銃ツイン・ドラゴンをリロードしながら近づくクモ型の守護者に蹴りを叩き込み、吹き飛んだ守護者は奥に並ぶ守護者をボウリングのピンのようになぎ倒していく。

 だが、肉弾攻撃では銃弾ほど機械に対しダメージは与えられるわけもなく、ひしゃげて動きが悪くなる程度でとどめを刺すには至らない。生身の生徒なら一発でKOなのだが。

 

 

「アカネ! 手持ちの爆弾はどれくらいある!?」

 

「手持ちはあと15発です!」

 

「1時間も持たねえよなぁ……だが仕方ねえ、前線を押し上げる! 派手に使っていいぞ!」

 

「お待ちを、先輩方」

 

「あぁ?」

 

 

 アカネの爆破で戦線を押し上げようとするネルであったが、それに割り込むトキに思わずガンを飛ばす。

 だが、一向に怯む様子もなくアビ・エシュフの火力で目の前の敵を一掃しながら彼女は言う。

 

 

「本機の主砲で掃射します。レーザーなら、砲身を冷却すれば再使用できますので」

 

「なるほど、実弾の消費は押さえたいわな……わかった後輩、やってみせろ」

 

 

 アビ・エシュフの火力を用いて前線を押し上げるという提案は奇をてらうわけではなく、正攻法のように思える。ただし、その性能を知らないためネルは戦術に組み込めていないのだ。

 だが本人からの提案で、それに自信があるようならば断る必要もない。ネルは頷いた。

 直ちに発射態勢に移行するアビ・エシュフ。背面に収納されていたハイレーザー砲が展開して前方を向くと、トキは踏ん張るような姿勢を取る。

 

 

「エネルギーライン、全段直結。エネルギー充填70……80……90……充填完了、チャンバー内圧力上昇、主砲発射!」

 

 

 刹那、青い閃光が大通りを奔る。

 砲口の先にある全ての存在を消し去るように守護者とその残骸を蒸発、融解させ、5秒に及ぶ照射の最中に砲身を振るえば、それに追随するように光はうねる。

 光が収まり、熱を帯びた砲身は陽炎を生じさせながら収納場所へと戻され、トキの視線の先に広がるのは敵とバリケードがかつてあった空間のみ。

 

 

「すげえな……おい、次はどれくらいだ?」

 

「冷却完了まで10分です」

 

「……思ったよりかかるか。まあいい、前に行くぜ」

 

 

 冷却時間こそ長いものの、照射によって生じた穴は大きい。

 ネル達C&Cは直ちに前進し、押し込まれた分を遥かに上回るレベルで前線を引き直していく。

 それに追従するように、ゲーム開発部やエンジニア部も前へと進んだ。

 だが、あまり前に進むと回り込まれた時にタワー入口が無防備になってしまう。一応残存AMASが何機か待機しているものの、対守護者においてのキルレシオはよろしくないので当てには出来ないものであった。

 

 

『こちらはユウカです。偵察ドローンが到着したのでこちらからも管制します。只今の攻撃で敵の第一波は壊滅、第二波接近まで残り5分』

 

「ユウカ、先生の位置は確認できるか? 遠くで戦闘の音が聞こえる……無事かどうか知りたい」

 

『了解、サーチ中……少し待ってください』

 

 

 同時に、要請していたスキャンイーグル無人偵察機がようやくエリドゥ上空に到達したことで、セミナーのオペレーションルームからの支援が受けられる。

 早速戦場を上空から監視してもらいながら探すのは先生(マイケル)の現在位置。

 通信は相変わらず不通であるが、しかしネルは確かに遠くでの戦闘音を耳にした。

 それはM61バルカンの発射音。ここでそんな物を使うのはただ1人しかいない。

 

 

『居ました! 先生のメタルウルフを確認、近くに似たような機体が倒れているようですが、これは……副会長のシグナルです!』

 

「やっぱり先生の足止め役はあいつだったか。何としてでも先生と通信を繋げろユウカ、こっちに来てもらわないと手が足りない!』

 

『は、はい!』

 

 

 ユウカを急かして先生(マイケル)との通話をつなげようとしながらも、タワー防衛組は次の敵のウェーブに備えて陣を構える。

 前衛としてのエイミ、ネル。その支援をするアカネ、遊撃のアスナ、トキ。

 その後方に展開するのはモモイとミドリ、そしてマキ、コトリ。支援要員としてのウタハ。

 更に後方、タワーのバルコニーにはヒビキとカリンがそれぞれの得物の特性に合わせて手ぐすねを引いて待ち構えていた。

 第1波はまともに陣地構築出来なかったものの、今度は陣形を整えての接敵だ。果たしてどれだけの効率性を発揮しうるか。

 

 

「来たぞ!」

 

「了解、火力投射始め」

 

 

 再び大通りを埋め尽くす勢いで前進する守護者達。

 まっすぐにこっちへと向かってくるのを確認すると、一番最初に攻撃を始めるのは射程が長く、爆発性の武器である迫撃砲を持つヒビキだ。

 軽量小型なコマンド迫撃砲というハンデこそあるものの、小銃より有効射程は長く、またヒビキはこれを速射で5発撃つことを得意としており、遠くから数を減らすならまず彼女であろう。

 立て続けに敵の真ん中で起こる5回の爆発は、小型守護者を数多く吹き飛ばしていく。

 

 

「命中確認、いい腕だ。私も続こう」

 

 

 続けてカリンが愛銃の対物ライフル、ホークアイをもって目に付く脅威度の高い守護者を狙う。

 特に大型の、6本脚のハサミのないサソリのような守護者は見るからに高火力で、紫色のレーザーやエネルギー弾を連射しながら前進しており最も脅威度が高い。

 その中でもレーザー発射態勢を取った守護者を狙い、引き金を引く。

 雷鳴のような銃声とともに反動で大きく銃身が跳ね上がるが、放たれた弾丸はレーザーの発射直前に命中し、体内に溜め込まれたエネルギーが暴走して爆発を起こした。

 巻き込まれた小型の守護者が何体か擱座し、戦果を確認する間もなく彼女はボルトを引いて排莢、装填を行い次の標的へと狙いを定め、再び引き金を引く。これを繰り返す。

 1マガジン5発を打ち切る間に、撃破したのは9体。撃破率180%という好成績だが、押し寄せる守護者の前には焼け石に水に過ぎなかった。

 

 

接触(Contact)!」

 

「ここは通さねえぜ!」

 

 

 ついに前衛に接触した守護者達に対し、エイミはチューブマガジン一杯に装填したFRAG-12を叩きつける。

 1発で1機、今までのショットシェルと比べれば圧倒的交換比率で敵を撃破していくが、コストで換算すれば大赤字だ。だが背に腹は代えられない。

 敵の光弾を出来る限り回避しながら、しかしそれでも被弾を免れることはできずにエイミは痛みに顔をしかめるものの、前衛として一歩も退くことなく引き金を引き続ける。

 

 

「リロード!」

 

「カバーは任せて!」

 

「ゴミは掃除しねえとなぁ!」

 

 

 エイミのリロードに合わせ、アスナが近づく守護者へと銃撃を行いながら手榴弾を一発敵集団へと放り込む。

 小型守護者程度ならばこれでも相当なダメージを与えられるが、完全撃破に至るのは爆心地から1m程度の範囲に限るようだ。

 さらにネルも敵への接近戦を行い、肉弾を交えた近接格闘攻撃で敵の足を止めようとする。

 実際、守護者のロジックは単純で前へ進むか近い生徒への攻撃を行うかの2択しかないようで、あえて近づく危険を冒せば敵集団を足止めすることが出来るのはネルにとって幸いであった。

 何故なら、難しい事を考えなくても済むからだ。

 

 

「武装変更、グレネード及びミサイル。スタンバイ、モードチェンジ完了」

 

「うふふ、トキちゃんも爆発の良さを理解しているようですね。では、私も参りましょうか」

 

 

 そして、トキとアカネは爆発物による範囲攻撃が密集隊形には有効と見て装備を切り替える。

 トキはアビ・エシュフの肩部ハンガーにマウントされていたグレネードランチャーとミサイルへと持ち替え、アカネはカバンの中にしまい込んでいた爆弾を両手に持ち、それぞれを守護者の集団へと叩きつけた。

 前線で起こる大爆発により、これで敵集団の半数近くを吹き飛ばしたが、それでも前衛を抜ける守護者の数は決して少なくはない。

 それを待ち構えるのはウタハ率いる1年生の集団で、マキとコトリのダブルマシンガン、そしてウタハのセントリーガンである雷ちゃんの弾幕が守護者の群れをまず迎え撃った。

 

 

「あわわわ、こないでください―!」

 

「くらえ~~!!」

 

「雷ちゃんの真の力を見せてあげよう!」

 

 

 4丁の機関銃による突撃破砕射撃は曳光弾の投網のようであり、投げつけられた敵は瞬く間に絡め取られ、スクラップへとその姿を変えていく。

 .338ノーママグナム弾を放つマキと、多少デチューンはされているものの高い発射レートで.308NATO弾を放つコトリと雷ちゃんの弾幕は、投射量だけでみればアビ・エシュフを除いてこの中でトップクラスの破壊力を持つ。大型の守護者であってもこの破壊力の前にはあっという間に蜂の巣だ。

 だが、それでも阻止しきれない守護者は発生し、それに対して最後の防衛線として立ちはだかるのが才羽姉妹。彼女たちが抜かれればもう直掩のAMASとヒビキ、カリンの火力投射組しか残らない。

 

 

「アリスのところには行かせないよ!」

 

「私達を抜けると思わないでください!」

 

 

 幾重にも重なるキルゾーンは、突撃してくる百を超える守護者を確かにしのぎ切ることができた。生徒たちはほっと胸を撫で下ろす。

 第2波最後の1体が崩れ落ちたその時、タワーの方から響くのは無限軌道が大地を踏みしめる音。

 場の全員が振り向けば、そこには念願の機動兵器、アバンギャルド君Ver:Asuraが応急修理を終えて戦線に復帰する勇姿があった。

 破壊された左肩は対空自走型AMASの砲塔に交換され、2門の35mm機関砲となっており瞬間的な火力は高くなったものの、3本の腕を失ったことで同時に対処できる敵の数は減っているがそこは操縦者の腕でどうにかごまかせるだろう。

 操縦席に座るユズは深呼吸した後にすっと目を細め、操縦桿を動かし機体の動作をチェックする。右腕、左腕部砲塔、車体動作、全てよし。

 

 

『ユズです。アバンギャルド君、戦線に復帰します!』

 

「やった! これで百人力だね!」

 

「よぉーし、何体でも叩き潰してやる!」

 

 

 第2波も危なげなく対処し、更に増援まで得られたことで彼女たちの士気は高まる。

 このままあと50分くらい耐えるなんてわけもない、そんな自信が溢れていた。

 

 ―――だが、それが驕りであったと気づくのには、それほどの時間は必要無かった。

 

 

******************************************************************

 

 

 近づくクモ型守護者を弾が惜しいと言わんばかりに踏み潰し、右手に構えたM61バルカンの掃射はサソリやクラゲのような守護者を瞬く間にスクラップへと変える。

 ブーストダッシュで火花を散らしながらアスファルトの路面をまるでローラースケートのように滑り、守護者の群れへと突撃する彼は激突の寸前に跳躍、前方宙返りの最中に左手に構えたGL95(VOLCANO)を乱れ撃ち、爆発を背に着地した彼は振り向いた後に大きく見栄を切った。

 

 

”It's over!”

 

 

 この一撃をもって動く守護者の姿は消え、周囲を静寂が支配する。

 遠くからまだ銃声は聞こえるものの、この区画だけの話とすれば全く静かだ。

 今回のウェーブで倒した守護者の数はざっと250で、単身で生徒たちがタワー前での防衛線で倒した守護者の数とほぼ同数を倒したことになるが、それを知る術は今はない。

 しかし、敵はまだ来るであろうという予感によって彼は動く。

 まず、彼が向かったのは倒れているリツコの所であり、彼女の様子を外から確認する。

 彼女の着ているアーマーは右半身が大きくダメージを受け、一次装甲がかなり融解しているのが見て取れる。レーザーの直撃を受けたのでだろう胴体部の損傷は大きい。

 本来はたった一回のレーザー照射でこのレベルの破壊は起こらないはずだが、彼女は先の戦闘においてクイックブーストを多用していたことを思い出した。オーバーヒートでシールドエネルギーが尽きてしまったところに被弾した結果がこれだ。メタルウルフのほうは表面が焦げているものの見た目のダメージは少ない。

 それ以外の損傷としては右腕と右脚が破損してそれぞれ脱落しているが、腕の方は機械しかないので一先ずは無視し、膝から下が脱落している脚の様子を見る。

 幸いにも千切れるということには至っておらず、内部フレームの中に彼女の生足は確かに存在していたが、大きな破片が突き刺さっており、血が周囲に溜まっていた。

 相当な量の出血があり、現状でも相当危ういように見えるが、破片を抜けば間違いなく命に関わることになるのだけは素人でも理解できるだろう。訓練を受けた人間であれば余計に、だ。

 

 

”リツコ、しっかりしろ。返事をするんだ”

 

『うぅ……先生、私の脚はついているか……?』

 

”安心しろ、増えも減りもしてない。だが、出血している……感覚はあるか?”

 

『わからない……寒くなってきた。私は死ぬのか……?』

 

”死なせるものか! 死なせはしないさ、私は約束を守る男だ。だが、治療するには―――”

 

 

 よほど消耗しているのか、意識もおぼろげで弱々しく話すリツコを励ましながらマイケルは考える。出血性ショックの症状がでている以上、あまり猶予はないように思えた。

 兎に角止血、破片除去を優先しなければならないが、この無人の都市エリドゥにそういう設備があるとは思えない。

 これからどうするか―――悩むマイケルの耳元で僅かにノイズが走った。シッテムの箱の中でアロナが着信履歴に気づき、無線封鎖を解除したのだ。

 

 

『―――生、先生! 聞こえていますか、先生!』

 

”ユウカか! 一体どうし―――”

 

『どうしたもこうしたもありません! 無線封止して、こちらで何回呼んだと思ってるんですか!? 中央タワーで皆が防衛線を作っています。先生の援護が必要なんです』

 

 

 聞こえてくるのは切羽詰まった様子のユウカの声。

 ここに至ってようやく彼は無線を切りっぱなしであったことに気づき、気まずそうに頭をかく。

 もしアロナが無線で呼びかけられていることに気づかなければ、永遠に無視していたかも知れない。

 ユウカは焦った様子で皆との合流を呼びかけるが、しかしマイケルも彼女に問うべきことがあった。

 

 

”ユウカ、リツコが重傷だ。このエリドゥで治療できる場所はあるか? 出血性ショックの症状が出ている……輸血が必要になるぞ”

 

『えぇっと……』

 

『その質問には私から答えるわ、先生』

 

 

 エリドゥの仕様を全く知らないのでマイケルの質問に答えられぬユウカにかわり、即座に回線に割り込んでくるリオ。

 エリドゥ全体の管制をしながらだというのに、通信内容にも目を光らせているとは。

 

 

『エリドゥで医療機器があるのは唯一この中央タワーだけよ。最新の医療メカを用意していて、かなり自動化されている……人工血液も用意しているわ』

 

”そうか……わかった、すぐ行く。あったかいミルクと柔らかなベッドでも用意して待っててくれ”

 

 

 リオの案内によって目指すべき場所を把握したマイケルは、直ちにリツコの生命を救うために動き出す。

 武器を収納してリツコをMA(特殊機動重装甲)ごと抱きかかえ、目指すは中央タワー。ブースターの出力を最大に、青い噴射炎を引きながらメタルウルフは空を飛ぶ。

 とはいえ、重量オーバーなのですぐに高度を落とすが、ビルの屋上で僅かにブースターを冷却し、再び跳躍。八艘飛びの要領で彼は進んでいった。

 いつもであれば数分で到着できる距離にあるにも関わらず、サーチライトに照らされる中央タワーがやけに遠く思えるのは1人分の命を抱えているからだろうか。

 

 

”頼むから無事であってくれよ……”

 

 

 夜明けは遠く、いまだエリドゥを覆う影は晴れる様子はなかった。

 

 

******************************************************************

 

 

「クソッ! さっきよりも数が多いぞ! 倍以上いる!」

 

『リーダー、敵が7分で道が3分だ! 撃てば当たるが、減ってる感じは一切しない……ッ!』

 

「そろそろ弾薬が……」

 

 

 タワー前の防衛線では、再び現れた守護者の群れを迎え撃つネルたちが先ほどとは桁が違う物量の前に悲鳴を上げていた。

 既に戦闘開始から20分が経過し、残りは40分。耐える時間はまだ長いというのに、この物量で押し寄せられてはあっという間に物資が底をつきかねない。

 基本的に生徒たちが持つ武器の予備マガジンは3つである。装填済みのマガジンを含めると4本を所持するのがキヴォトスにおいては一般的だ。

 それでも30連マガジンの場合、120発の弾を即応状態で所持していることになるが、守護者相手に確実にキルを狙うなら最低でも有効打が3発は必要になるだろう。命中しなかったり有効ではない位置に命中することも考えると、8発ぐらいは必要と見るべきかも知れない。

 単純計算でみれば120発を撃ち切って15体撃破が限界で、既に2波に渡る攻勢をしのいだ彼女たちは持ち込んだ弾薬を既に消費しきっていた。

 

 

「アスナ先輩! 予備マガジン持ってきたよ! エイミもほら、ここに!」

 

「わあっ、ありがとうモモイちゃん!」

 

「ありがとうモモイ、助かる」

 

「ネル先輩、どうぞ!」

 

「おう、サンキュー!」

 

 

 ユズの操るアバンギャルド君のおかげで守護者の数が増えたとは言え持ちこたえられる前線を支援すべく、モモイとミドリは後方にあるシェルパドローンから予備マガジンをかき集めて最前線を張るメンバーへと渡す。

 彼女たちは最後の防衛線ではあるが、それ故にまだ余裕があったのでこの様な雑務を行っていた。

 予備弾薬を渡し、火力支援を少々して下がってもう一度弾薬を回収、単純なルーチンではあるもののこれが前線組からすれば本当に助かるというもの。

 一々後退せずとも火力発揮が可能なのは前線維持には必要不可欠だ。

 

 

『ネル、前方から先生がくるわ。重傷のリツコを抱えてるから決して誤射しないように』

 

「重傷だぁ!? おい、どうなってるんだリオ、何が起きたんだ?」

 

『そこまではわからないけども、出血性ショックの症状が出ているそうよ。直ちに受け入れる準備をするから決して敵を通さないで』

 

「……ちっ、わーったよ! おい後輩、もうレーザー砲使えるよな? あたしが合図したら撃て!」

 

「了解、スタンバイ」

 

 

 主砲を発射位置へと移動させ、トキは自らの位置を固定させながら両手の3連装ミニガンユニット、トライポッドの空となったアモケースを排出する。

 彼女の足元には多数の薬莢が転がっており、かなりの長時間射撃を続けていたことを示していた。

 

 

「音が聞こえる……これはタービンの音!」

 

「リーダー! ご主人様は上からくるよ!」

 

「よし、今だやれ後輩!」

 

「主砲発射!」

 

 

 戦いの最中、銃声や爆発に混ざって聞こえ始めるタービン音にエイミが声を上げると、アスナは持ち前の直感からやってくる方角を正確に予測。それに従い、ネルはトキに主砲の発射を指示する。

 ビルの上から飛び出す濃紺色の巨体と入れ替わるように地上を青い閃光が薙ぎ払い、守護者達が飲み込まれて消えていく。

 だが、今度は先ほどと違い、消滅した穴を埋めるように多くの守護者が再び押し寄せてくる。舌打ちするネルであったが、その時間はメタルウルフがタワー前に着地するのを阻止する行動を取らせないのには十分だった。

 

 

”Medic!”

 

「アスナ、先生を手助けしてやれ。多分お前の勘の良さが役に立つはずだ」

 

「はーい、いってきまーす!」

 

 

 そっとリツコのアーマーを降ろし、脱がそうとする先生(マイケル)を手伝わせるべくネルは前線からアスナを向かわせた。

 前線がいくらか敵の圧力に対して弱くなるし、咄嗟の場面で困ることになるがアスナは無意識に正解を引く生徒だ。何か困ったら適当にぶつけてみるのが最適解だったりする。

 メタルウルフの元へ駆け寄ったアスナは、その直ぐ側に横たわっている半壊状態のアーマーの胴体が開き、中でぐったりしているリツコの姿を見て目を丸くした。顔は青白く、生気がない。

 

 

「ご主人様、リッちゃんは……」

 

”出血性ショックだ。まずアーマーを脱がしたいが、脚に刺さった破片のせいで引き抜けない……どうにかする方法はないか? 抜くのは無しだ、死んでしまう”

 

「うーんと……あっ、そうだ!」

 

 

 敵が直ぐ側だと言うのに、メタルウルフから降りて救命措置を取ろうとする先生(マイケル)の相談を受け、アスナは少し考えた後に銃を構える。

 一瞬先生(マイケル)はぎょっとしたものの、アスナの直感を信じた彼はアスナの思うがままに任せることにした。何にせよ、手段はあまり選んでいられない。

 

 

「こうやれば!」

 

”おお、破片が切れた”

 

「それじゃ、リッちゃんを引っ張るよ!」

 

 

 アスナは破片に銃口を突きつけ、僅かにずらしながら発砲を数度繰り返す。

 彼女の小銃は徹甲弾を装填していたために簡単に貫通孔が刻まれ、それは即席のミシン目となって大きく突き出た部分が排除される。マズルフラッシュで肌が少々焼けるのはコラテラル・ダメージとしておくべきだろう。

 撃たれたことで破片が動くものの、リツコは意識が混濁してきており痛みを訴えることはなく、小さいうめき声が聞こえるばかりだ。はっきり言って危険領域に近づいていた。

 急いでアスナと協力してアーマーの操縦席から引き抜いたリツコに対し、止血帯を用いて緊縛法による止血を行う。今更ではあるが、無いよりはマシだ。

 本来ああいうアーマーは搭乗者の負傷の度合いによって薬物投与を行い鎮痛、止血などを行うはずだが、彼女が乗っていたあれにはその備えがなかったのがここまでの事態に陥る原因であった。

 

 

『先生、運搬用ドローンがそこにいるはずよ。ストレッチャーにリツコを乗せて貰えれば、後はこちらで』

 

”すまないリオ、頼んだぞ”

 

『ええ、任せて』

 

「それじゃご主人様、こっちはこっちで頑張ろうね!」

 

”ああ、助かったアスナ。さあ、いくぞ!”

 

 

 先生(マイケル)は主を失ったリツコのアーマーのコンテナをこじ開け、中に収まっている武装を取り出す。彼女の鎧もMA(特殊機動重装甲)であるため、同じ規格を用いており使いまわしが出来るのだ。

 残弾が少なくなってきたM61バルカンをその場に置き、GG-RH(CANCER)に持ち替えた後、更に他の武装もそれぞれ交換して彼は最前線へと向かう。

 果たして残り時間、タワーの防衛が出来るだろうか。

 押し寄せる守護者の大軍の前に、彼女たちの心に小さな不安が生じるのを止めることは先生(マイケル)であっても難しいことであろう。

 

 

******************************************************************

 

 

『”前線を下げるぞ、もうこれ以上はバリケードが意味をなさない! 殿は私に任せろ!”』

 

『応急手当完了、先生を支援する』

 

『銃身が真っ赤になっちゃったよぉ! あちち! 交換銃身どこにあるの!?』

 

『右から来るよミドリ! 右! ほらきた!』

 

『お姉ちゃんうるさい!』

 

 

 戦いが始まり30分が過ぎようとしている。既に残り時間は半分を切ったが、戦況は芳しくないようで無線で聞こえるのは怒号、絶叫、嘆き。

 リオはその全てを耳に入れ、モニターに映し出されるエリドゥの戦術マップを睨みながら右手で補給用シェルパドローンの制御を、左手で残存AMAS部隊の指揮をとりながら、時折視線を部屋の隅へと向ける。

 そこには、ストレッチャーに乗せられたまま医療メカによって応急手当を受けているリツコとそれを心配そうに眺めるアリスの姿があった。

 

 

「リツコ先輩は大丈夫でしょうか……」

 

[少なくとも、直ちに命を落とすことはないでしょう。それよりもアリス、外へと向かってはいけませんよ。あなたの今の身体では邪魔にしかなりません]

 

 

 呟くアリスに応じるように、部屋に備え付けられたスピーカーから響く声。

 声の主であるKEYは冷たく突き放すように言うが、それは実際にはアリスのことを心配しているのだと彼女は理解していた。既に歩くのもおぼつかなくなっている自覚はあったのだ。

 

 

[残り30分、仲間を信じましょう]

 

「そうですね……アリスは今は信じることしか出来ません。ですが、もやもやします……」

 

[私もですよ、身体がないのが恨めしい。見ていることしか出来ないのは辛いものです]

 

「KEYは身体がほしいのですか?」

 

 

 KEYの言葉に思うところがあると感じたアリスは率直に問いかけた。

 まだまだ対人コミュニケーションに幼いところのある彼女だが、姉妹のような関係であるKEYの感情を少しは理解できるようだ。

 忙しそうに管制するリオをよそに、アリスとKEYは対話を重ねる。

 

 

[ええ、そうですね……身体があれば、リオ達の手伝いもやれることが増えるでしょう? 私はそうしたいと思っています]

 

「……KEYにとってリオ先輩たちは、アリスにとってのモモイ達みたいなものですね。仲間ということです」

 

[……仲間ですか、私は友達だと思っています]

 

「友達? 仲間とは違うのですか?」

 

[仲間とは、共通の目的のために集う間柄。友達とは、対等に打ち解ける親しい間柄……とされています。困った時に見返りなく助けてくれるような……アリスにとってゲーム開発部は仲間ですか? 友達ですか?]

 

「……!」

 

 

 RPGをベースに情操教育が施されたアリスにとって仲間とは=友達という構図が出来上がっていたものの、それを上書きするようなKEYの言葉は雷に撃たれたような衝撃だった。

 瞬く間にその人工知能は価値観を上書きし、出力する。

 

 

「……モモイ達ゲーム開発部は、仲間であり友達です!」

 

[友達ならば、困っている時は手助けしたい。手があれば銃を持ち、足があれば駆けずり回り、そうして困難を共に打ち払いたい……私は機械ですが、それが友情というものだということを理解しています。アリスも同じですね]

 

「はい、KEYの言うとおりです!」

 

 

 2つの人工知能は確かに友情というものを理解し、その心のうちに燻る感情を認識した。

 それは製作者(無名の司祭)の望むものではなかっただろうが、2人が決められた役目を完全に捨て去る第一歩だといえるだろう。

 力強く頷くアリス。この時間さえ耐え凌げれば―――しかしそんな願いは最悪の形で破られることとなった。

 

 

「高速で接近する物体あり!? これは……」

 

『ミサイルか!?』

 

『”違う! あれは……特攻兵器(KAMIKAZE)だ!”』

 

『早すぎて迎撃できない! ああっ!』

 

 

 リオの叫びと無線から溢れんばかりの悲鳴の後、中央タワーは激しい揺れに襲われる。

 固定されていないものはほとんどが倒れ、天井からはパネルが幾つも落下して床に散らばり粉塵が舞う。

 アリスは咄嗟にリツコに覆いかぶさって彼女を守ったものの、今の動作で脚部へのダメージがほとんど限界に至ってしまった。もう這いずるぐらいしかできそうにない。

 

 

「そんな……!」

 

 

 揺れが収まり顔を上げたアリスの視線の先には、先程まで存在したはずの壁が失われてエリドゥの街並みが広がっていた。

 曳光弾が空へと伸びて空に幾つもの閃光が走り、それに照らされ浮かび上がる複数の影。

 アリスの今の身体に搭載されていたサーマルカメラはそれをはっきりと捉えており、その正体がミサイルブースターを背負った小型のクモ型守護者であるということを看破する。

 敵は地上からの突破が困難とみるや、戦法を変えてきたのだ。

 

 

『リオ、リオ、聞こえますか!? 現在ヴェリタスはミレニアム自治区中のドローンをハッキングしてそちらに向かわせています。先鋒は5分でそちらに到着予定です! それまで持ちこたえてください!』

 

『攻撃で通信回線が幾つか不通になってる……迂回させるルートの維持は私がやるからコタマはドローンの管制を続けて』

 

『一体何機のドローンをかき集めたんですか部長は……』

 

『こっちは処理が限界だよ……』

 

『終わった後の損害賠償額考えると頭が痛くなるわ……』

 

『ユウカちゃん、世界が終わったらお金なんていくらあっても使い道なんてないんですから、ここはパーッとやるつもりで考えたほうが気が楽ですよ』

 

 

 セミナーのオペレーションルームで支援をするヒマリの悲鳴に似た声は、事態が最悪の状況一歩手前だと正しく認識している故。

 彼女たちも彼女たちで増援の準備をしていたのだが、その矢先に起きた急変によって混乱状態にあるらしく、ヒマリ声に混じってヴェリタスのメンバーやユウカの疲弊した声が聞こえてきた。

 ノアだけは少し余裕がありそうだが、それを気にするほどの余裕はリオにはない。

 

 

「り、リオ先輩! 敵が、敵が入ってきました!」

 

「分かってるわ。アリス、あなたはミレニアムの生徒……私が守る」

 

 

 アリスの声が示すように、エリドゥの管制センターはついに敵の侵入を許していた。

 数は少なくまだ4体だが、これからどんどん増えることが予想できる。リオは太もものホルスターから立案者を引き抜き、スライドを引いて初弾を装填しながら守護者へと向ける。

 下がることも逃げることも不可能な状態の中、にじり寄ってくる敵集団に対しリオは大きく息を吸い―――

 

 

「さあ、来なさい。逃げも隠れもしないわ……なぜなら私は、ミレニアムサイエンススクールの生徒会長なのだから」

 

 

 ―――戦う覚悟を決め、引き金を引いた。

 吐き出される銃弾はまっすぐに守護者のアイセンサーと思しき部分へと吸い込まれ、破孔を生み出す。その一発で撃破され、崩れ落ちる守護者。

 残る3体が紫の光弾を放つべく狙いを定めるが、それよりも前にリオは駆け出した。

 あのまま撃たれればアリスやリツコへと流れ弾が向かってしまうだろう。それは避けたい。

 

 

「こっちよ!」

 

 

 その姿を追うように守護者達の射撃が行われるが、リオの動きは鋭く照準が追いきれていない。

 光弾は虚しく彼女の後ろを通り過ぎ壁やデスクを破壊する。狙い通り2人への流れ弾は全く生じることはなかった。

 

 

「す、すごい……リオ先輩はこんなに強かったのですか!?」

 

[あのスーツは身体能力を強化します。トキがつけているのと同じ理屈ですね]

 

「それでも弾を走って避けるなんて、漫画みたいです!」

 

[……まあ、それは否定しません。リオ、ドローンの制御はこちらでやりますから思う存分戦ってください]

 

 

 応援するようなアリスとKEYの声を背に、リオは射撃をしながら走り回る。

 弾丸は流石に弱点への命中はなく、その装甲表面で火花を散らせるものの敵の注意はリオへと向かい、アリスへと進む守護者は1体も存在しない。

 その結果に安堵しながらも、彼女はマガジンをリロードして狙いを定める。

 走りながら撃っても弱点部位に命中しないのならば―――近づいて接射すればいい。

 強化された身体能力、そして敵の性能を一瞬で計算に入れ、彼女は跳躍した。

 

 

「遅いわ!」

 

 

 姿を追いアイセンサーを向ける守護者の1体に対し、飛び蹴りを一発。

 ネルのように装甲をへこませるような鋭さはないものの、蹴られた守護者は姿勢を崩す。すかさず立案者をアイセンサーへと押し当て、引き金を引く。

 

 

「残り2体」

 

 

 撃破した守護者には目もくれず、残る2体へとスライディングで懐に滑り込み、彼女は極近距離で素早く2回引き金を引いた。

 2発の銃声の後、守護者達は崩れ去り動かなくなる。リオの完全勝利だ。

 

 

「……ふぅ、流石に疲れるわね」

 

『リオ、あなたそんなに運動ができる人間でしたか!?』

 

 

 戦いを観測していたのだろうか、ヒマリがひどく驚いた様子で声を上げる。

 それを聞いたリオはストレッチャーの上に横たわるリツコに目をやり、静かに答えた。

 

 

「……私だって、負けっぱなしなのは悔しいもの」

 

 

******************************************************************

 

 

「リオ……リオ!」

 

『聞こえているわ、ネル。敵は倒したから安心して』

 

「安心できるかよ! まだ敵は山のように向かっている。お前1人でどうにかなる数じゃないだろ!」

 

 

 既に戦線は崩壊し、前線がどこにあるかなど誰にもわからぬ状況の中、ネルは目に付く敵に鉛玉を叩きつけながらインカムに向けて叫んだ。

 タワーへと次々に着弾する敵を搭載したロケットはその数は10を超え、今尚増え続けている。

 あれを地上から迎撃するのはアバンギャルド君か、アビ・エシュフ、あるいはメタルウルフでないと不可能だろう。生身の生徒の武器では射程外だ。

 タワーの被弾から程なくして、ヴェリタスがハッキングしたドローンの大軍が参戦し空中で迎撃に当たっているものの、元が警備用のドローンとあっては火力不足は否めない。

 だからこそ、その着弾先にいるリオの身を一番に心配する。彼女は()()()強くないから心配で仕方がないのがネルという生徒の心情であった。

 

 

『大丈夫、ヒマリ達がドローンの増援を送ってきているわ。だからネル、あなたたちは地上を―――』

 

「お、おい!?」

 

『……平気よ、倒したわ』

 

 

 突如通信にノイズが走り、その中に混ざる銃声。

 ネルが声を上げた直後、大きく息を吐く音に続いてリオは自らの無事をアピールする。

 制御室に断続的に敵が入り込む状況は最悪だが、だからといって今あそこへ向かう術など無いだろう。

 タワーは大きく損傷し、装飾品の殆どは特攻兵器の激突で崩壊、広場にその残骸を残すのみだ。

 特にアバンギャルド君の顔の装飾はヒビキとカリンのいるバルコニー目掛けて落下し、2人は無事だったものの火力支援を行う上での適地を喪失する結果となった。

 ビル内にどれほどのダメージが有るかわからないが、この状況下でエレベーターに乗って最上階へ向かうのは余りにも下策という他なく、その歯がゆさにネルは苛立ちを隠さない。

 

 

「リーダー、落ち着いて。リオ会長ならきっとうまくやるから」

 

「……チッ!」

 

 

 隣で戦うアスナの声に冷静さを僅かに取り戻した彼女は視線をタワー前の広場へと向ける。

 エイミを除く1年組がウタハを中心に輪形陣を組み、できる限り敵を近づけないようにしているもののあれでは弾薬が長持ちしそうにない。

 トキとユズは装備を活かして戦場を駆けずり回っているものの、増え続ける敵の前にダメージの蓄積が無視できないレベルになってきており動きが鈍くなってきた。

 そしてエイミはアカネと一緒に後退を企図しているようだが、身動きが取れないでいるようだ。

 ヒビキとカリンはタワーの入口前で火力投射を続けているものの、ここまで乱戦状態では効果が薄い。

 唯一有効打を与えているのは先生(マイケル)の操るメタルウルフで、その通った後にはぺんぺん草も生えないというべき状況が広がっている。

 この場を切り抜けるためには彼に頼るしか無い。そう判断してアスナとネルの2人は守護者を排除しながらメタルウルフへと駆け寄った。

 

 

「ご主人様ご主人様! リーダーが相談したいことがあるって!」

 

「先生、リオがやばい! どうにかあの最上階へあたしを送り込めないか!?」

 

 

 アスナの呼びかけで足を止めた先生(マイケル)は、振り向きながらも銃撃を止める様子はない。その音に負けぬようにネルは声を張り上げる。

 

 

”あそこへか? 少しスリル満点なやり方があるが……”

 

「構わねえよ、この際贅沢は言えねえからな」

 

”わかった。だが、まずはこの場を整理してからだ!”

 

 

 ネルの願いを汲み取った彼は、しかしそのために必要なのは場の制圧だとしてコンテナから武器を引き出す。

 MML32(METEOR SWARM)……広域殲滅ならこれだという代物だが、乱戦状態でどうするのか。これの破壊力を目にしている2人は表情を強張らせた。

 下手に使えば生徒たちを巻き込んで広場を吹き飛ばしてしまうが……彼はMML32(METEOR SWARM)を肩に担ぐと一気にブースターを噴かして跳躍しする。

 

 

”全員動くなよ! アロナ、照準サポート!”

 

『了解です!』

 

 

 そのまま滞空し、目標をマルチロック。

 敵ではなく、座標を捕捉した32発のミサイルシャワーが降り注ぎ、広場を爆発の炎が彩っていく。

 生徒たちに被害が及ばぬよう緻密に計算された攻撃は正しく芸術的と言う他無く、かつての彼の秘書官が見ていれば「お見事です大統領!」と称えることだろう。

 

 

『わあ! すごいです先生!』

 

 

 その代わりというべきか、称えるのは秘書を自称するスーパーAIアロナ。彼女は視界の端でパタパタと身振りで興奮を示している。

 何時もであれば微笑ましいものであるが、今の彼にはそんな余裕はあまりなかった。

 思えば、クーデター事件の時にここまで余裕がなかったのは市街全域に毒ガスを散布されたシカゴと、囚われた部下を救出するべく単身向かったリバティ島の時くらいだろうか。

 手のひらにじんわりと汗をかくのを感じながら、着地した彼はネルの前に立つと手を差し伸べた。

 

 

”ネル、1つだけ聞くが―――”

 

「あ? なんだよ」

 

”高いところは平気か?”

 

「? そりゃあ、平気だが……」

 

”そうか!”

 

 

 ネルの返事を効くやいなや、彼は抱きかかえると再び跳躍する。

 ブースター出力は全開で、青白い炎を引きながら濃紺色の巨人はロケットのように300m近くの高さまで一気に上昇した。

 生身で、かつ安全装置など一切ない逆ジェットコースターに思わずネルも悲鳴を上げてしまう。

 

 

「うわあああああっ!?」

 

”このままデリバリー……むっ!”

 

 

 タワー最上階と視線を同じくして滞空する先生(マイケル)であったが、視界の端にあるレーダーに接近する影を見つけ顔をしかめる。

 敵、それも高速で接近しているとなれば間違いなくロケットに乗って直接攻撃を目的としているタイプだろう。迎撃しなければならないが、ネルを抱えたままでは戦えない。

 かといって彼女をゆっくり管制センターに送り届ける猶予もない……ならば、やることは1つ。大きく構えを取ると、ネルはその先に起こることを想像したようで顔を真っ青にした。

 

 

”すまないネル、舌を噛まないでくれよ。風速3ノット、方位274、距離50m……”

 

「えっ、あっ、先生、マジかよ!?」

 

Trust Me(信じて)!”

 

「お、覚えてろよおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

 

 そのまま謝罪を一言述べた後に思いっきり投げ飛ばすと、彼女はドップラー効果を証明しながらタワーに空いた穴へと吸い込まれていく。

 猫のように空中で姿勢を制御したネルは着地の衝撃をきれいな受け身を取ることで完全に受け流したものの、いきなり放り投げられたこともあり目を吊り上げながら怒りの声を上げているようだが、コラテラル・ダメージとして勘弁願う他ないだろう。怒りそのものは正当なのだが、タイミングが悪かったということで。

 申し訳ないという気持ちはあるが、それよりも接近する敵増援の対処が先だ。

 

 

”招待状のないやつはお断りさせてもらう!”

 

 

 空中で姿勢制御を続けながらGG-RH(CANCER)MIM-204(PRES PATRIOT)をコンテナから取り出し、狙いを定める。

 あまり長時間この状態を維持するとリツコのようにシールドエネルギーを消費してしまうが、しかし落下しながら射撃するよりは向かってくる相手への命中はより高く期待できる。

 1つのミスが許されないのならば己の安全と生徒の安全、どちらを優先するかなど言うまでもないだろう。彼は大人であり、指導者、先生なのだから。

 次の瞬間、空にいくつもの火の玉が煌めいた。

 

 

******************************************************************

 

 

「くっそぉ、無茶苦茶しやがって!」

 

 

 50mの距離をぶん投げられ、口から心臓が飛び出そうな思いをしたネルは悪態もそこそこに管制センター内へと視線を向けると、何体もの守護者の向こうで驚愕の表情を貼り付けたまま固まるリオの姿。その横にアリスとリツコの姿を認め、彼女は安堵した。何とか間に合ったようだ。

 そのままぶん投げられても決して手放さなかったツイン・ドラゴンを強く握りしめ、振り向こうとする守護者へと狙いを定め引き金を引く。

 跳弾方向すら計算にいれたプロフェッショナルの一撃は、一瞬で守護者の半数を撃破することに成功した。

 さらに敵が態勢を整える暇を与えずに急速に距離を詰めると、リオのそれとは比べ物にならないほどの鋭さの蹴りが叩き込まれ、鈍い音を立てた守護者は壁へと激突し崩れ落ちる。

 ここに至って残存の守護者はネルを最上級の危険因子と認定して攻撃の態勢を取るが、リオに背中を見せるという愚かさの代償を払うこととなった。

 4発分の銃声が響き、丸い身体の心中に弾痕を刻まれた守護者は仲間たちの後を追い、これで動く守護者は再び管制センターから一掃することができたようだ。

 

 

「……助かったわ、ネル。流石に今のは私の手に負えなかった」

 

「すごいですチビメイド様! 今のはまるでヒーローみたいでした!」

 

「あ゙?」

 

「ひぃっ」

 

 

 危機が一先ずは去り、安堵して息を吐くリオ。スーツで強化しているとはいえ連戦は慣れぬ人間には辛いようで、下げた立案者が小刻みに震えている。

 その横でリツコの身体に覆いかぶさったままのアリスはネルの活躍を称賛するものの、変わらずの呼び方によってガンをつけられ小さく悲鳴を上げた。まったく学習しないものだ。

 

 

「もう少しで作業が完了するわ。そうすれば、この戦いも終わりを迎える……アリス、そろそろ身体に戻る準備をするべきよ」

 

「そ、それなのですが……この身体はもうほとんど動きません。ですから、何処かに移動するならその、抱きかかえて貰わないと」

 

「……その身体、確か重量148.8kgだったかしら」

 

 

 戦闘続きで動かす暇もなかったアリスをそろそろ身体へ戻す準備をしなければならない。ようやくそこまで気が回るようになったが、今度はアリスが機能不全を起こしていると自主申告したことで新たな問題が浮上した。重量問題だ。

 今のアリスは、光の剣とほぼ同等の重量があり1人で抱きかかえて移動する事は厳しいだろう。つまり、2人でどうにかする他無い。

 

 

「ネル、先生が食い止めてる間に……」

 

「分かった、左右から行くぞ」

 

 

 身長差が相当にあるが、リオとネルはアリスの身体を左右から抱えて起こし、見た目からは想像もつかぬその重量に二人して歯を食いしばりながら引きずっていく。

 管制センターの最奥、防弾ガラスで仕切られた一角には、魂がなくただの人形でしか無いアリスの身体がカプセルの中に入れられており、その隣には空いたカプセルがある。明らかにここにアリスを寝かせろというような作りだ。

 最初からここにアリスを寝かせればこんな苦労はせずに済んだのではないか? ネルはそんな疑問を抱いた。

 

 

「リオ、何で最初からここに寝かさなかったんだ?」

 

「充電したままスマホを操作するのは本来良くないことよ。それと同じ」

 

「わかるような、わからないような……」

 

「うぅ、アリスは恥ずかしくて顔から火が出そうです」

 

 

 二人がかりで抱え上げられて恥ずかしそうにするアリスをカプセルへと寝かせる。準備は整い、あとは文字通り時が来るのを待つばかり。

 しかし、それが楽なことではないということがインカムを通じて告げられた。

 

 

『”まずい、新手だ! 迎撃……しきれない!”』

 

「来るぞ、リオ」

 

「ええ、これが最後よ」

 

 

 残り時間的にこれが最後の大攻勢となるだろう。

 2人は愛銃のリロードを済ませ、穴から飛び込んでくる敵を待ち受ける。

 最初にやってきた3体は真っ先にネルの射撃によって沈黙するが、続けて5体の敵が光弾を乱射しながら部屋へと突入すると、それに合わせてリオは天井を撃った。

 既に室内は戦闘の余波でボロボロであったが、そこにはまだパネルが原型をとどめており、リオの射撃でついに崩れ落ちるとバラバラと守護者達の頭上から降り注いだ。

 小型のクモ型は生徒よりもやや小さい大きさしかなく、この程度の質量でさえ有効な打撃となる。実際、守護者は今の一撃で小さくはないダメージを受けたようで、動きが鈍い。

 

 

「合わせろ、リオ!」

 

「わかったわ」

 

 

 ならばとタイミングを合わせて弾丸を浴びせかけ、守護者達は次々に機能を停止していく。

 だが、それでも次の敵がやってくる。

 

 

「こなくそぉっ! ぐあっ!?」

 

「ネル……ッ!?」

 

 

 迷うことなく飛び込むネルであったが、今度の守護者は最初から光弾を決め打ちしてくるロジックをしていた。

 意表を突かれ、腹に突き刺さる光弾に弾き飛ばされた彼女はそのままリオへと激突、2人は重なり合うようにボロボロとなったデスクに倒れかかる。

 今の一撃はトキとの戦いで直撃を受けた場所と奇しくも同一の場所へと命中し、それによってダメージがぶり返したネルは苦しそうに咳き込み、力が入らないようで立ち上がろうとするも何度も滑ってしまう。

 そのために、下敷きになっているリオもまた身動きが取れずに居た。人間1人分の重量が直撃すれば、受けるダメージは決して小さくはない。戦いそのものに慣れていない彼女にとって、それは致命的な隙を生じさせるのには十分なものだ。

 

 

「ま、まずい……」

 

 

 吹き飛ばされた時に銃を落としてしまい、反撃の手段を失ったネルは近づく守護者を前に手も足も出ない。だが―――

 

 

 

[――――カウントゼロ、全工程終了。勇者よ、目覚めの時です]

 

「運命を乗り越え、新たな未来を掴み取るために―――勇者アリスは進みます!」

 

 

 

 青白い閃光が、守護者達を纏めて飲み込み夜空を貫いた――――

 

 

******************************************************************

 

 

 タワー前の戦闘は先生(マイケル)の攻撃で一旦リセットされたものの、再び押し寄せてくる守護者の前に、生徒たちが支配する領域は正面玄関前のほんの僅かなスペースに過ぎない。

 ネルがおらず、前線を支える力が相当に下がってしまったが故に火力を集中させるための決断であったが、一先ずそれは想定通りに機能はしていた。

 トキと先生(マイケル)の遊撃によって圧を減らしながらの持久……それこそが唯一の勝ち筋。

 だが、密集しているということは敵の攻撃も集中してしまうということであり、大型の守護者からのレーザーが何条も向けられる。

 

 

『それは通しません……!』

 

 

 それを電磁シールドで歪曲させ、あらぬ方向に飛ばすのはユズの乗るアバンギャルド君の仕事だ。残弾がない以上、彼女に出来るのは盾役しかない。

 

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!」

 

「こっちへこないでください!」

 

 

 言葉にならぬ絶叫を上げながら愛銃を乱射するモモイと、狙いを付ける暇もなく手当たり次第に指切りでの連射をするミドリ。

 他のメンバーはもう残弾が心許ない状況であったが、この2人だけはある程度の余裕があったが故に前に出た。最後の防衛線として後方待機を続けていたのが功を奏したというべきだろうか。

 

 

「このマガジンが最後だよ!」

 

「も、もう駄目……」

 

「大丈夫だよ、きっとね!」

 

 

 しかしそれでも限度があり、ついに手持ちのマガジンを撃ち尽くしたモモイとミドリは絶望的な表情を見せたが、それを打ち消すようにアスナが声を上げる。

 一体どんな根拠で―――そう返そうとする2人だったが、次の瞬間タワーの最上部から一条の光が夜空を切り裂いたことがその答え合わせとなった。

 

 

「あれは!」

 

「スーパーノヴァの光!」

 

 

 歓喜の声を上げるモモイとミドリ。あの光は見間違えるはずがない。

 場の全員が見上げた先、最上階の崩れた壁面から飛び降りる誰かの影。それが何かとスコープで確認したミドリは仰天する。

 

 

「あ、アリスちゃん!?」

 

 

 身一つで飛び降りるなんてなんて無茶な―――そう言いかけ、アリスの口元が何かを唱えているかのように動いている事に気付いた。

 

 

******************************************************************

 

 

 地上に落下するまでの僅かな時間、しかしそれは彼女にとって永遠とも等しい時間となる。

 加速された知覚は時間を引き伸ばし、アリスは己の中に居る友達(KEY)に己に秘められた真の力を解放させた。

 魔王としての力、世界を滅ぼすためのもの―――だが、それは今や完全にアリスのものであり、彼女の自由意志が望めば必ず答えてくれるのだ。

 

 

[プロトコルATRAHASIS稼働]

 

「今ここに、新たな聖域(サンクトゥム)が舞い降りん―――!」

 

 

 望むのは、敵を打ち倒す力ではない。

 友達を、仲間を、皆を、守るべき力、その象徴たるべき鎧。

 アリスの中のイメージが、今まさにこの世に現出する―――それがアリスに秘められた真の力。

 プロトコルATRAHASIS、真の名はアトラ・ハシースの方舟。

 無名の司祭が世界を滅ぼすために作り出した力は、世界を守るために振るわれる。

 それこそが彼女(アリス)の、そしてKEYの願い。

 未成の要塞都市エリドゥに残された最後の情報リソースを変換し、アリスの身体が光に包まれ、その姿が変わっていく。

 それは仲間の元へと駆けつけるための翼を持つ、光の剣と似た意匠の強化アーマー。強いてその名を呼ぶとすれば勇者の鎧というべきだろうか。ミレニアムの紋章は彼女がそこを守るべき場所だと認識している証だ。

 アリスは一瞬でそれを身に纏うと、タワーの前で戦いを続ける皆の前に舞い降りたのだった。

 

 

「たとえ世界を滅ぼす魔王であっても、望めば世界を救うことは出来るのです!」

 

 

 構えるアリスは、光の剣をハイレーザーモードに切り替える。モーターの動作音とともに変形するスーパーノヴァMk.Ⅱに皆の視線が集中する。

 勇者(アリス)の登場で動揺したのか、守護者達はただただ呆然としていると形容できるように動かない。あるいは目標(名もなき神々の王女)を見失い、デッドロックに陥っているのか。

 しかし、そんなことなど知ったことではない。アリスは引き金にかけられた指に力を入れた。

 この戦いを終わらせるためにやるべきことはただ1つ。

 

 

「光よ――――ッ!」

 

 

To be Continued in Epilogue ”Day After Day(変わらぬ日々)




 次回、エピローグである後日談にてパヴァーヌ編が終わりとなります。
 KEYの本来の計画とはなんだったのか、本件の後始末をどうするのか……それが終わればついにエデン条約編になりますね。
 エデン条約編は基本でかい敵はいないぞMr.President、どうするんだMr.President!


メカニック名鑑
名前:アビ・エシュフ改
分類:パワードスーツ
製造:ミレニアムサイエンススクール 調月リオ 鷹乃リツコ
リオが名もなき神の遺産である名もなき神々の王女との戦闘を想定し作り上げたパワードスーツ。
メタルウルフを参考に本来のアビ・エシュフを改造しており、ブースターユニットと肩部武装ハンガーを増設、戦闘能力の向上を図った。
本来はエリドゥの演算機能とリンクして限定的な未来予測が可能であるが、エリドゥが未成のためその機能は使用不能のまま運用されている。

名前:ラストミレニアム・ヒーロー(リツコ命名)
分類:特殊機動重装甲
製造:KEY(プロトコルATRAHASIS)
KEYが計画実現のためにリツコに与えた特殊機動重装甲。
KEYがアリスの体を手に入れてすぐ、アトラ・ハシースの方舟のテストを兼ねて製造された
メタルウルフに対抗可能な性能を持つ機体であり、本機が名もなき神々の王女の代理人たるKEYによって生み出されたことは、古の文明が本機を運用していたという可能性を提示している。
あるいは、他の世界から流入した因子が影響したのだろうか。
無名の守護者の奇襲により直撃を受け大破、搭乗者救出の後に放棄された。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。