METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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Episode2 ”Detective Michael(名探偵マイケル)

 トリニティ総合学園は、その敷地を管理しきれていないレッドウィンター連邦学園には流石に劣るものの、それでも広大な面積を誇る学園敷地を持つ。

 そして複数の学園が統合されたとは言え、成立当初は異なるカリキュラムで教育をしていたことから同一校舎で学ぶということが難しく、複数の分校舎で徐々に慣らしていくという手法をとっていたこともあり、今は使われていない校舎というのも存在する。

 今回補習授業部の合宿場所として指定されたのは、そんな校舎のうちの一つであった。

 使われていないとはいえ、見栄えを気にするお嬢様学校らしく近代化改装は行われているようであり、校舎の中は用意さえあれば普通に授業ができるように整っている。

 そんな別館の地下にある一室、合宿では食堂として使われる部屋に集められた補習授業部一同は、イルミの口から合宿における注意事項を聞かされていた。

 

 

「それでは、本日よりあなたがた補習授業部はこの校舎で勉強を行ってもらいます。基本的に別館から離れるには私か先生の許可を貰う必要があり、また脱柵防止のためにGPSタグを装備してもらいますので悪しからず」

 

「つまり、私達は外では首輪をつけられてお散歩させられるワンちゃんだと……」

 

「黙りなさい浦和ハナコ、そういうのはゲヘナの行政官で十分です」

 

「「「「………」」」」

 

 

 合宿におけるルールを語るイルミに茶々を入れるハナコ。

 それは明らかに先生(マイケル)とイルミを揶揄するような物言いであり、対して青筋を浮かべて高圧的にイルミは言葉を吐き捨てるが、その内容に周囲の空気が凍りつく。

 

 

「……あの、ゲヘナの行政官という方は実際に首輪をつけてお散歩を?」

 

「え、エッチなのは駄目よ!」

 

”……おっほん”

 

 

 先程までの態度を一変させ、思わず真顔になって前のめりに聞くハナコ。

 その後ろで小鳥のように囀るコハルの言葉によって、イルミはマズいことを口走ったと知覚し思わず赤面。

 同時に、先生(マイケル)がわざとらしく咳払いをし、その話題を無理やり終わらせた。

 彼にはそれが誰のことなのか心当たりがあるので、その生徒の名誉のためにも必要な措置だ。

 先生(マイケル)のアシストで何とかイルミは気を取り直し、再びプリントを手にして話を続ける。

 

 

「……とにかく、許可なく外出することは禁じられます。また、消灯時間は22時、起床時間は6時ですので時間を厳守するように。日中のスケジュールに関しては、こちらのプリントに書いてあるので良く読んでおきなさい」

 

「座学ばかりではなく、運動の日程もあるのか」

 

「その通りです白洲アズサ。勉学、運動、そして規則正しい生活。学生としてあるべき生活を通し、あなた達のような問題児を更正するのがこの補習授業部のあり方なのです」

 

「まるで監獄みたいです……」

 

「……テストを無断欠席をした本人が何を言いますか。スマートフォンを取り上げられないだけ感謝しなさい」

 

「運動の時間はお前が私の相手をしてくれるのか? 下級生相手じゃ退屈になりそうなんだが」

 

「あなたは反省の色が一切ありませんね!?」

 

 

 合宿のスケジュールが印刷されたプリントを配りながら説明するイルミ。

 質問や疑問、ついでに要望に対して事細かく対応するのは神経質な彼女らしい。

 もっとも、幼馴染であるイトハに対しては感情を剥き出しにしているのは、役職とかを抜きにした関係性だからだろうか。

 

 

”とにかく、今日はもう残りは自由時間になるからこのまま部屋で親睦を深めると良いだろう。明日以降が合宿の本番になる。私は宿直室にいるから、夜間何かあれば訪れてくれて構わない”

 

 

 先生(マイケル)が締めの言葉を述べ、場は解散する。

 監督生(イルミ)先生(マイケル)の2人が部屋を出ていった後、少しの沈黙の後にフリーダムな1人(イトハ)を除いた4人は互いに顔を見合わせ、その中でヒフミが遠慮しがちに口を開いた。

 

 

「その、何時まで続くかわからない合宿ですし……親睦を深めるために、皆でおしゃべりしませんか?」

 

「あら、私は構いませんよ♡」

 

「そうだな、先が長い任務をこなす時は部隊の空気というのは大事になる。ヒフミの提案は理にかなっていると私は思う」

 

「えっ、あっ……えっと……」

 

「コハルちゃんとも、仲良くしたいですね。折角の機会ですし、肌を寄せ合い秘密を見せあって……」

 

「な、なに変態なこと言ってるのよ! 死刑よ死刑!」

 

「うふふ、コハルちゃんは厳しいですね♡」

 

「あはは……」

 

 

 終わりの見えぬ合宿という現実を前に、それでも尚快適に過ごすために交流を図るヒフミ達。

 その中で人見知りの気質があるコハルが孤立しないようにするためか、ハナコが微妙にからかいを交えて声掛けすれば、それに呼応するようにコハルの「しけえ」という声が響く。

 そんな2人の様子を苦笑しながら見るヒフミだが、輪に入らない人物が1人。

 唯一の3年生という声掛けしづらい立場のイトハに対し、彼女は怖ず怖ずと近づいていく。

 

 

「あ、あの、先輩はどうですか……?」

 

「そうだな……まあ、今なにかするとイルミに小言を言われるだろうからな、少しくらいは付き合ってやろう、暇つぶしにはなる」

 

「あ、あはは……」

 

 

 1人退屈そうにしていた彼女はヒフミの提案に応じて立ち上がると、そのまま話の輪に首を突っ込んでいく。

 唯一コハルがぎょっとするものの、それを無視する形でイトハはニンマリとした表情を浮かべて会話に加わり、すっと右手を差し出した。

 

 

「まあ、改めてだ。私は風路イトハ、よろしく後輩達」

 

「よろしく先輩」

 

「お前は白洲アズサか……なるほど、かなりの訓練を受けていたようだな。そういえば転校生だったか……どうだ、私と一戦交えないか?」

 

「!」

 

 

 差し出された手を最初に握ったアズサであったが、その手にある()()()()に気づいたイトハは興味深そうな顔をして一歩踏み込みんだ発言をする。

 まさか、手を握っただけでそこまで読まれるとは。思っても見なかったアズサは僅かに表情を強張らせた。

 

 

「あ、あの先輩、そんな事したら……」

 

「ふふっ、冗談だ。流石の私も釘を刺されてすぐやるつもりはない……だが、お前には興味が湧いた、いつか手合わせ願いたいものだな」

 

 

 顔を引き攣らせてイトハが暴走しないように声をかけるヒフミ。

 流石のイトハも後輩相手に無遠慮に暴れたりはしないだけの倫理観はあるため、肩を竦めて無害をアピールし空気をリセットする。

 戦うのが好きなのと、暴れん坊というのはイコールではない。

 彼女にだって多少の社交性というのは存在するのだ。

 

 

「風路先輩は本当に戦うのが大好きなんですね?」

 

「ああ、大好きだよ浦和。特に強いやつと戦うと、ギリギリの駆け引きが出来る……そのスリルがたまらないんだ私は。生きているということを実感できるというか……うーん、言葉にしようとすると意外とと難しいな」

 

「だ、だからってゲヘナの風紀委員長に喧嘩を売るのってどうかと思いますけど……」

 

「戦うのが好きだから仕方ないだろう阿慈谷、お前がモモフレンズが好きなのと同じようにな。モモフレンズが好きだからって、この合宿にグッズを持ち込むのにイルミを根負けさせるお前も相当だと私は思うが……あいつが私以外で根負けするのは初めて見たぞ」

 

「うっ」

 

 

 まるで探るように質問をするハナコ。

 ティーパーティーの次官と明らかに親しい間柄の3年生など、トリニティ的に考えれば補習授業部内での監視役ではないかという疑念を抱くのも当然であり、対してイトハ自身にそのようなつもりはないし、そもそもイルミはそういう事をさせない。そういうことが出来る人間ではないのだ。

 少年のように笑いながら嬉々として戦いが好きだと語る彼女にヒフミがツッコミを入れるものの、大好きなモモフレンズを例えに出して反論されればぐうの音も出なかった。

 実際、これがないと集中できないんですと強硬に主張してイルミに匙を投げさせたのは事実である。平凡とは一体なんなのか。

 

 

「……」

 

 

 そんな中、やはりというべきかコハルはそわそわと落ち着かない様子で非常に居心地が悪そうであった。

 年上ばかりの環境に置かれれば仕方がないところがあるが、だからといってこのままでは孤立化が進んでしまう。

 しかし彼女に進んで輪の中に入る勇気はなく、正義実現委員会所属というプライドも補習授業部送りとなった今では虚しいばかり。

 そんなコハルの様子に気付いたイトハは、近づいて顔を覗き込むように声をかけた。

 

 

「どうした下江、陰気な面をして……お前も正義実現委員会だろう? そんなんじゃ剣先ツルギに笑われるぞ」

 

「な、何よ! そのツルギ委員長を毎度困らせてる問題生徒のくせに……!」

 

「はははっ、そうは言うが今はお前も問題生徒の一員だ。どうせなら、楽しく過ごしたほうがお得だぞ下江」

 

「う、うるさい! ほっといてよ!」

 

「おっと、嫌われてしまったな」

 

「こ、コハルちゃん、先輩相手にそういう口のきき方は……」

 

「これは……困りましたね……」

 

 

 気にかけられたコハルであったが、やはり自身の人見知り気質やプライドによって拒絶してしまい場の空気が凍りつく。

 もっとも、拒絶された本人はそんなに気にしてなさそうだが、ハナコとヒフミは気まずそうだ。

 結局、初日の補習授業部は全員が打ち解けることは出来ぬまま、消灯時間を迎えることとなった。

 

 

******************************************************************

 

 

 消灯時間を迎え、静まり返った別館。

 その一角、宿直室では先生(マイケル)が1人シャーレの業務をシッテムの箱を使ってこなしている。

 連邦生徒会に提出する各書類の分は既に終え、今はトリニティの生徒から寄せられた依頼や要望についての確認を行っているようで、その数は軽く2桁に達しているようだ。

 その一つ一つを精査していくと、背後でドアが叩かれた。

 

 

”入ってくれ”

 

「失礼します」

 

 

 やってきたのは消灯後の見回りを終えたイルミ。

 彼女の部屋はここではないのだが、何の用事だろうか? 先生(マイケル)は椅子を回して彼女と正面から向き合った。

 

 

「ようやく初日が終わりますが……先が思いやられますね」

 

”まあ、仕方ないさ。それよりも、何があったんだ?”

 

 

 ただその言葉を言いに着たわけではあるまいと、要件を問う。

 すると彼女は外の様子を気にしながら近づき、そっと耳元で小さく囁く。

 

 

「……桐藤ナギサに何を頼まれたのですか?」

 

”その様子では……詳しい話は聞いてなさそうだな”

 

「ええ、ただ補習授業部の監督生をやれとしか……」

 

”……やれやれ、秘密主義がすぎるぞナギサ”

 

 

  困惑の表情を浮かべたままの彼女の様子に、先生(マイケル)はため息を一つ。

 No.2の存在である次官にすらことの詳細を教えぬナギサの姿勢に苦言を呈しながら、どこまで教えるべきか考える。

 今知っている全部を話すのも一つの手だが、それをして良い相手かどうかきちんと見極める必要があった。

 

 

”君は……秘密は守れる方か?”

 

 

 その質問に、イルミは目を丸くする。

 セキュリティ・クリアランスに関わる話とは、つまり機密に属する話ということだ。

 この補習授業部という問題児の集いがそういう方向性を持つということは、つまりティーパーティーだけではなくトリニティ全体に関わる話だと彼女は持ち前の頭脳で理解した。

 

 

「……なるほど、そういう話ですか。そういうことならご心配なく、秘密の保全に関して言えば自信がありますので」

 

”わかった……君を信じてすべてを話そう”

 

 

 自信満々な彼女の様子に、先生(マイケル)は話し始める。

 エデン条約を妨害しようとする者がいて、その容疑者を一纏めにしたものが補習授業部という枠組みであること。

 ナギサは退学に追い込みたい意向であるが、そのための権限はトリニティ側には委譲してないためマイケル・ウィルソンの認可が必要であること。

 話しを聞き終え、イルミは大きく息を吐く。

 何も聞かされず、ここに監督生として放り込まれたということは、自分もまたナギサからすれば監視したい対象なのだろう。

 

 

「それで、先生はどうするおつもりですか?」

 

”補習授業部のメンバーを退学させるつもりはない。だが、そのままにしておくつもりもない……私がやるべきは2つある。真の妨害者を見つけることと、補習授業部を何事もなく完遂させること。そして蒼森ミネを見つけることだ”

 

「3つありますが……というか、蒼森ミネを? 何故ですか?」

 

 

 先生(マイケル)に冷ややかにツッコミを入れながらも、イルミは首を傾げる。

 蒼森ミネ……救護騎士団、ヨハネ分派の長。

 長期にわたって消息が不明となっていることを彼女は知っていた。

 だが、それがどのように補習授業部と関わりがあるのだろうか? その疑問に応えるように、先生(マイケル)は再び話し始める。

 

 

”イルミ、セイアに関してどの程度知っているんだ?”

 

「百合園セイアですか……入院中ということぐらいしか聞いていませんね、所属派閥のサンクトゥスはそろそろ代行ぐらい決めてもらいたいものですが」

 

”やはりそのくらいの話しか知らないか……実はな、セイアは何者かに襲われてヘイローを破壊されたらしいんだ”

 

「なっ……っ!?」

 

 

 突然のカミングアウトに、イルミは言葉を失う。

 ヘイローを破壊される―――それが何を意味するのか、キヴォトスで知らぬものはいない。

 ティーパーティーの三頭政治の一角が何者かに殺されたなど、まさかまさかである。

 信じられぬという思いと、だからナギサはという納得が彼女の中に渦巻く。

 

 

「……待ってください先生、であれば何故あなたはそれを知っているんですか?」

 

”それを今から話そう”

 

 

 そして、彼は話し始める。

 1週間前、ティーパーティーのテラスで何が起きたのかを―――

 

 


 

 

 がっくりと項垂れ、明らかに気落ちしている目の前の大人を眺めながらナギサは内心ほくそ笑んでいた。

 この大人、連邦捜査部シャーレの顧問である先生、マイケル・ウィルソンという人物は数多くの問題を解決しているものの、それは所有するパワードスーツの武力によるものだというのがティーパーティー諜報部の見解である。

 故に、それに制限をかけることでトリニティ内部における活動のイニシアチブを握る……それがナギサの狙いであった。

 

 

(”だが、それは読めている”)

 

 

 表面上、気落ちした様子を見せていた先生(マイケル)であったが、それはナギサの狙いを読んだうえでの演技である。

 セイアに関する彼女の嘘を暴き、真相を聞き出さねばならない……少なくとも彼女は今、為政者の孤独に押しつぶされそうになっているように彼は感じていた。

 誰にも相談できず、1人で抱え込む……それはとても精神衛生上よくないことだ。

 多少強引であっても、彼女の抱えているものを吐き出させねばならない。

 そうしなければ、彼女はいつか潰れてしまうだろうという直感が彼にはあった。

 

 

「先生は私達と違って銃弾一発で命に関わるようですから心配でしょうが、ご安心ください。正義実現委員会が目を光らせ、完全なる安全と安心をお届けしましょう」

 

「うわ、ナギちゃんすっごい悪い顔してるよ」

 

 

 完全に先生(マイケル)が気落ちしてると思ってるナギサは、さも恩を着せるように話す。

 それはミカが言うように、悪党の言い方に近い。完全に自身が優位に立っているという自信がそうさせるのだろう。

 ナギサは余裕さを示すかのようにカップを手に取り、口につけようとする。

 

 

”配慮感謝するよナギサ、それと―――”

 

 

 だからこそ、仕掛けるならば今。

 勝利の確信はすなわち、最も油断する瞬間でもある。

 

 

”―――セイアに伝えてくれないか、人が休んでいる最中に突然話しかけられても困るとな”

 

「「!」」

 

 

 故に、セイアと会話したという事実をこの場でぶちまける。

 事実、その効果はてきめんであり、ナギサはティーカップを取り落とし、ミカはこれでもかというほどに目を見開いた。

 

 

「……それは冗談にしては笑えませんね、先生」

 

「そ、そうだよ、先生がセイアちゃんと会話できるはずがない……だって、だってセイアちゃんは……!」

 

”ふむ、ではその内容を口頭で述べてみるが―――”

 

 

 顔が引きつり、取り繕うということを放棄した2人は先生(マイケル)を睨みつける。

 どうしてこんな事を言うのか、そう咎めるような物言いであったが、しかし彼は続けて夢の中でかわした会話の内容を話し始めた。

 いくらか要約はされてはいるものの、その話しぶりに心当たりがある2人の表情はより険しくなり、まさか信じられないという気持ちと、もしかしたらという気持ちがせめぎ合っているようだ。

 

 

「……その話し方は間違いなくセイアさんのものですね」

 

「長ったらしくてもったいぶって、それでいて皮肉っぽくて……うん、セイアちゃんの話し方だ……セイアちゃんの……」

 

 

 衝撃はあれど、ある程度冷静に受け止めるナギサに対し、ミカは情緒がぐちゃぐちゃになっているようで今にも泣きそうである。

 

 

「ですが先生、私は先生の言うことが真実ではないと断言できます」

 

Hmm(ふむ)?”

 

 

 衝撃から立ち直ったナギサは、その美しい顔を怒りで歪めながら先生(マイケル)の言葉を否定した。

 私は真実を知っているのだというその物言いは、2人がひた隠しにする事実を探る彼に判断材料を与えることになるのだが、ナギサはそれでも言わねばならない。

 しかし、ミカはそうではない。彼女は溢れ出す感情を制御できず、椅子を倒しながら勢い良く立ち上がると、大きく身を乗り出して問いかけた。

 

 

「先生! セイアちゃんは、セイアちゃんとは何処で会話したの!? わ、私、私は―――」

 

「ミカさん!」

 

「……っ! あ、ご、ごめんナギちゃん……つい……」

 

 

 慌ててナギサが制止するものの、縋り付くようなミカの問いかけは彼に一つの確信をもたらす。

 

 

”なるほど、なるほど……良く分かった。君たちが隠したがっていたのは、百合園セイアが、そう……君たちの手の届かぬところにいる、あるいは死亡しているという事実だな?”

 

 

 ナギサとミカは、マイケル・ウィルソンという大人を見誤っていた。

 ただただ強引に物事を力付くで解決するようなタイプかと判断していたが、思った以上に弁が立つタイプの人間だ。

 それに、物事を良く調べている……相手にすれば厄介極まりない。

 彼女たちは、彼がアメリカ合衆国という3億を超える人口を持つ国家のトップとして、選挙によって選ばれ、8年にわたり政治の世界で渡り歩いていた事実を知らないのだ。

 政治家としての年季が違う以上、同じ土俵で戦えばどうなるかなど明らかであり、就任して1年未満の駆け出しでしかない彼女たちが彼に駆け引きで勝てるわけがなかった。

 

 

「まさか、先生……私達を嵌めたのですか!?」

 

「ひ、ひどいよ先生……嘘つくなんて!」

 

”そのあたりの事情を正直に話してくれないからだ。それに、私は嘘をついてはいない……セイアと会話をしたというのは事実だ。もっとも、夢の中でという但し書きがつくがね”

 

 

 ナギサはより警戒心を強めて非難し、ミカはひどく傷ついた素振りを見せるものの、先生(マイケル)は平然としながらセイアと会話したという事実を主張する。

 夢の中での対話……荒唐無稽なものであるが、ナギサとミカにとってセイアと夢は切り離せるものではなかった。

 百合園セイアという人物は病弱で知られていたが、その理由は彼女の特異な能力、未来予知を伴う明晰夢によるものだということを2人は知っていたのだ。

 

 

”私は百合園セイアという生徒をデータでしか知らない。そう、例えて言えば瓶に入ったドリンクのラベルを見ただけでその味を知らないといったところだな。だが、それでも君たちは私の語りがセイアのものだと判断した”

 

「……そこまで見透かされてしまっては、もう隠す意味もありませんね」

 

「ナギちゃん……」

 

「先生のおっしゃる通り、セイアさんは……ヘイローを破壊されました。ですから、普通は先生がセイアさんと会話することなど不可能なはずなのです」

 

”確認だが、ヘイローを破壊されたというのは殺害された事の比喩表現で問題ないな?”

 

「……はい、キヴォトスでは()()()()()に多用される表現です」

 

 

 ついにナギサは観念し、彼に全てを打ち明けることにした。

 どうやったとしてもこの大人に打ち勝つビジョンが見えない以上、抵抗してより変に探られるよりはマシだろうと思ってのことだ。

 

 

「事の始まりは昨年度、セイアさんは何者かに襲撃され自室を爆破されました。第一発見者は救護騎士団の蒼森ミネ団長で、彼女はセイアさんがヘイローを破壊されたと知らせて来たのです」

 

”蒼森ミネ……救護騎士団からシャーレに捜索願が出されているな”

 

「その日以降、ミネ団長は消息を絶っています」

 

”……疑わないのか? 第一発見者が行方不明とか、推理小説とかではありきたりすぎるだろ?”

 

 

 セイア殺害事件、その状況を話すナギサは苦々しい表情を浮かべるものの、引っかかるところはかなり多い。

 第一発見者である蒼森ミネが行方不明だというのに、ティーパーティーがそれを問題視しないとはどういうことだろうか。

 だが、その疑問に対してナギサは極めて冷静に返した。

 

 

「ミネ団長は決して他人の命を奪うようなことはしません。彼女は、救護に全力を尽くす医療従事者です。誰かを殺すくらいならば、自分の命を断つ……それほどまでに覚悟の決まった人物になります」

 

”なるほど、その1点だけで十分か……それで、セイアの遺体は?”

 

「恐らくミネ団長が……あっ」

 

 

 ナギサからの蒼森ミネという人物に対する評価を聞き、納得した様子で先生(マイケル)は続けてセイアの遺体の行方についてを聞く。

 死んでいるにも、生きているにしろ、本人の身体がどこにあるのかというものは、それは重要な手がかりになるのだ。

 記憶から確認している最中にナギサは気づく。ミネ以外、誰もセイアの遺体を確認していないということに。

 その反応に、先生(マイケル)は肯首して言葉を繋いだ。

 

 

”気がついたか……つまり、ミネがセイアを匿っている可能性がここに浮上するわけだ。今までの口ぶりからすれば、セイア襲撃の犯人は不明なのだろう。であるならば、君たちの考える蒼森ミネという人物はどうすると思う?”

 

「……はい、セイアさんが襲撃されたのはセーフハウスでした。つまり、犯人は内部の人間であり、ティーパーティーの情報に通じているということですね。ですから、ミネ団長はセイアさんを死んだと見せかけ、私達の前から姿を消した」

 

「確かに、あのミネ団長ならそのくらいのことはやりそうだけど……」

 

 

 ティーパーティー、その長である生徒会長の一角の自室が爆破されるというのは、アメリカで言えばホワイトハウスが爆破されたようなもの。

 当然警備が厳重であるはずだが、それをくぐり抜けて爆破するとなれば詳細な情報を得なければならないのは当然のこと。

 つまり、犯人はティーパーティーの内部情報に詳しい……そういう結論になるのは当然のことであった。

 そして、そういう時に蒼森ミネという人間がどういう判断を下すのか。極めて具体的なビジョンが二人の頭の中に浮かぶ。

 

 

”まあ、とはいえ確定したものではない。これはまだ、私の推理にすぎないからな”

 

「ですが……確かに先生のおっしゃることには説得力があります。どうして私達はあの時その考えに至れなかったのか……」

 

”君たちはまだまだ若い、それは仕方がないよ”

 

 

 重要参考人となるはずのミネの捜索を数ヶ月も行えてない失態に顔をしかめるナギサ。

 あの事件こそがすべての始まりであったにも関わらず、初動に完全に失敗してしまった以上ミネを今更捜索するのは難しいだろう。

 先生(マイケル)の慰めも、今の彼女にとっては虚しいものでしかない。

 

 

”……さて、次だ。ナギサ、君はセイア襲撃犯がエデン条約の妨害者と見ているのか?”

 

「はい、元々エデン条約は―――」

 

”―――連邦生徒会長が主導していた、つまり私がキヴォトスに来る以前から進んでいた話だったな。その時のホストはセイアであった、ということであっているか?”

 

「その通りです。そのセイアさんが襲撃され、殺害されたとなれば、犯人はエデン条約に反対するものだというのが私の理解となります」

 

 

 続けて、セイア殺害事件とエデン条約の妨害者についての認識をすり合わせる。

 夢の中でセイアが話していたように、エデン条約とは元々連邦生徒会長が推進していたものであり、その失踪によって空中分解しかけていたもの。

 それを紆余曲折の末調印目前までこぎつけたというのだから、ナギサの政治力というのは中々のものだ。

 だが、それが意味することは―――

 

 

”つまりナギサ、君は次は自分が狙われていると思っているんだな?”

 

「……その通りです、先生」

 

 

 エデン条約の妨害者がセイアを殺害したのならば、エデン条約を推進するナギサもまた狙われる存在だという事実。

 彼女が焦っている理由を理解し、先生(マイケル)は顔をしかめた。

 この様な子供が殺されるかも知れないという恐怖に曝されるなど、到底看過できるものではない。

 

 

”すると、次のホストはミカになる。なるほど、君がエデン条約にこだわる理由がわかった”

 

「……ご理解いただけたようで、何より」

 

「ちょ、ちょっとぉ、先生もナギちゃんもそんな生暖かい目で見ないでよ」

 

 

 ミカに政治など出来ない。それは先生(マイケル)とナギサの共通認識となっていた。

 だからこそ、殺される前にエデン条約を締結したいというのがナギサの本当の目的であり、それ故に容疑者を一纏めにする補習授業部を作り出したのだ。

 その強引さは、最悪残されるであろうミカをフォローするためのもの。

 ここに至って全てのピースが出揃い、彼は決断する。

 

 

”……よし、分かった。ミネを探し出してセイアの現状を聞き出すことと、補習授業部を通じて妨害者をあぶり出す事、その両方を引き受けよう”

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 

 まさかの満額回答、それはナギサにとって望外のものであった。

 2度も意図的に嘘をつき、自分にとって都合良く動いてもらおうと義理を欠く行いをしたというのに、まさかの逆転ホームランに思わず声に喜色が乗るというもの。

 そんなナギサの様子を見て、先生(マイケル)は頷きながら言葉を続ける。

 

 

”ただし、補習授業部の運営と捜索についてのやり方は私に任せて欲しい。結果は出すつもりだ、心配なら監視の一つでもつければいいだろう”

 

「わかりました先生、そこはお任せしますが……それでもパワードスーツに関しては学園敷地内での使用はお控えくださいね?」

 

Jesus(なんてこった)……”

 

 

 最後に彼は、依頼に関してのフリーハンドを主張するも、結局メタルウルフ禁止要請は解除されなかったことにがっくりと項垂れた。

 

 


 

 

「……先生の前職は探偵か何かですか?」

 

”まさか、私はベーカー街の住民でもないし潔癖症のベルギー人でもないよ”

 

「なんなのですかその比喩は」

 

 

 話を聞き終え、イルミは開口一番呆れ半分、感心半分と言った様子の言葉を述べた。

 あの状態のナギサ相手に正面から切り込んだ上に主導権を握り返すとは、やはりというか只者ではないようだ。

 

 

”ま、そういうことでだな、補習授業部の担当をしながらミネを探す必要があるわけだ。元々、救護騎士団のセリナから捜索依頼を受けていたからちょうどいい機会といったところだが、ここで問題が一つ”

 

「人手が足りない、そういうことですね」

 

That's right(その通り). 私は1人しか居ないが、やるべきことが多すぎる! そこで私はトリニティ学園に通うシャーレ所属の生徒の力を借りることにしたが―――”

 

「つまり、スズミですか……」

 

”彼女だけではない。救護騎士団鷲見セリナ、図書委員会円堂シミコ、その2名も協力してくれることとなった”

 

 

 しかしながら、抱え込んだ仕事量に対してあまりにも人手は足りない。

 シャーレの先生としての業務の上に補習授業部の顧問、さらにミネの捜索を考えると1人で回すことは不可能だ。

 シャーレ所属の生徒の手を借りると先生(マイケル)は言うものの、それでも3名が追加された程度ではどうこうできるものではないだろう。

 イルミは顎に手を当て、考える。

 ちなみに、トリニティのシャーレ所属生徒はもう少し居るのだが、所属(シスターフッド)の都合上こういう問題に首を突っ込めない生徒(マリー)や、あまりにも政治方面に無関心(放課後スイーツ部)なために巻き込めない生徒たちなのでこの3名が選ばれたという経緯がある。

 

 

「……一応聞きますが、どのように捜索するつもりですか? キヴォトス全体を捜索するなど、連邦生徒会長を探すようなものでしょう」

 

”それに関してだが……私はミネはトリニティ自治区の何処かに居ると考えていてね”

 

「何ですと?」

 

 

 捜索方針について問えば、意外にも先生(マイケル)は無策ではないようであった。

 思わず聞き返すイルミに、彼は自身の推測を話す。

 

 

”まず第一に生存していたらという前提がつくが、彼女は今セイアという保護対象を抱えている。セイアは病気がちで、医療体制の整った場所にしか匿えないと推測できる。そしてこの件を秘匿するのであれば、下手な病院に駆け込む事もできない。であるならば―――”

 

「救護騎士団、ヨハネ分派のセーフハウスを使う可能性が高い……!」

 

”その通り、やはり君は優秀な人間だ。トリニティでは各派閥がそれぞれ独自にセーフハウスを構えているとナギサやミカから聞いているからな、ヨハネ分派のセーフハウスともなれば医療設備の整ったものもあるだろう”

 

 

 トントンと机を指で叩きながら話す先生(マイケル)の言葉に耳を傾けるイトハ。

 セーフハウスに関して言えば、フィリウス分派も80を超える数のセーフハウスがあると彼女は聞き及んでいたものの、その全貌を把握しているのは長であるナギサぐらいだろう。

 であるならば、ヨハネ分派もそのようなものがあるというのは確かにその通りであった。

 

 

”次に、補給物資の問題だ。人間何ヶ月も保存食で過ごすのは健康に悪いからな、どこかで生鮮食品を確保する必要がある。また、医療品の補充のことも考えると、流通ルートがきちんと確保できる地域に潜むのが最もコストや安全面でベストになる。これは他の自治区やブラックマーケットでは難しい話だな”

 

「そこに手がかりがあると先生は考えているのですか」

 

”ああ、購入ルートを捕捉できれば生活地域を特定することが出来るだろう。そうすればあとは虱潰しに捜索できるようになるということだ”

 

「……やはり先生の前職は探偵では?」

 

 

 あまりに緻密なその推理に、イルミはやはりこの人は探偵をやっていたのではないかという疑念を深めるものの、一方の彼は肩を竦めるばかり。

 しかし、これはあくまで推理に過ぎず、実態がどうなのかは一切が不明のまま。

 それでも彼の言う事が正しいと思えるのは、聞けばもっともらしいと感じられる根拠と、それを信じさせられるだけのカリスマによるものだろう。

 

 民衆に夢を()()()()()ことが出来なければ、大統領選挙で勝てるはずがないのだ。

 

 

”問題は購入ルートがどうなっているのか、そして資金面はどのように克服しているかだ。ミネの個人マネーでやっているのか、救護騎士団の予算を流用しているかで捕捉難易度は全く違ってくるが―――”

 

「そのあたりは救護騎士団の人間が一番理解していることでしょう」

 

”まあ、それはセリナに聞くしかないか”

 

 

 そこまで語り、彼は大きく息を吐いて椅子へともたれかかる。

 今日できる事は精々が情報のすり合わせぐらいで、実際に捜索が行えるようになるのは第一回特別学力試験の後になる明々後日からになるだろう。

 とはいえ、シャーレの生徒達に説明することぐらいは出来るはずだ。

 スズミ、セリナ、シミコの3人へと明日の予定を送信しようとスマホを取り出すものの、既に23時を回っていることに気づくと、やはり明日にするべきだなと考え直して机の上に伏せた。

 

 

”さて、もう今日は遅いから君もそろそろ就寝したらどうだ? 寝不足は健康と美容の大敵だ”

 

「先生も日付が変わる前にはお休みになったほうがよろしいですよ」

 

 

 過労傾向のある2人は、互いに相手の健康をいたわりながらも話を打ち切る。

 こうして、補習授業部合宿の初日は特に問題が起きることもなく終わりを迎える事となった。

 

 

******************************************************************

 

 

 日付が変わる頃、静かに寝息のみが聞こえる寝室、真っ暗なその部屋の中で人影が一つベッドの上から動き出した。

 それは物音を立てぬように部屋から抜け出すと、非常灯のみが灯る廊下を足音を立てずに1階へと移動し、周囲を気にしながら勝手口から別館をあとにする。

 

 

「……」

 

 

 直後月明かりに照らされ、浮かび上がる姿。

 白洲アズサ―――彼女は僅かに目を細めた後、なるべく早く物陰に隠れようと歩みを早めたが、この別館は周囲が開けており少なくとも100m程は無防備な平地を走らざるを得ない。

 宿直室から直に見えないようにルートは考えているものの、それでもどこで目が光っているのかわからぬ状況に彼女は僅かに焦りの表情を浮かべた。

 この姿を見られるわけにはいかない―――補習授業部から無断で抜け出したのを咎められれば、それはもう言い逃れができないのだ。

 

 

「早く、知らせないと……」

 

 

 ティーパーティーから完全に目をつけられている以上、これからの活動の自由は失われてしまう。

 なんとしてもこの事を伝えなければ、事がコントロール不能な方向に転がりかねない。

 その焦りゆえに、彼女は些か周囲への警戒が疎かになってしまった。

 

 

「!!」

 

 

 敷地の一角、あまり周囲からの視界が通らない場所でコンテナの横を通り過ぎようとした時、ぬっと飛び出した腕に銃を掴まれたと思ったその瞬間、天地がひっくり返った。

 そのまま地面に背中を打ち付けられ、肺の中の空気を全部吐き出したアズサは声もなく苦悶の表情を浮かべる。

 ぼやける視界の中、目の前には夜の闇より深い暗闇が一つ。

 それが自身に向けられた銃口であると気づいた時には銃は遠くに蹴飛ばされ、アズサの抵抗する手段はここに失われた。

 

 

「おまえ、は……」

 

 

 焦点を銃口からその射手へと合わせた彼女は驚愕した。

 白い外套に小さなプレートキャリア、その装いは彼女の記憶にとって()()()()()のものであったが、唯一違うのはプレートキャリアに縫い付けられたトリニティの校章。

 ガスマスク越しに見える赤い瞳がアズサを射抜く。

 

 

「……」

 

 

 襲撃者は銃を突きつけたまま何も話さない。

 睨み合うこと数秒、抵抗しないままでいると襲撃者は左手でガスマスクに手をかけ、自らの顔を露わにした。

 その瞬間、アズサは目を見開き息を呑む。

 今目の前にいる人物は、かつて死んだはずの―――

 

 

「生きていたのか、スズミ……!」

 

 

 自身と同じ()()()()()()()、守月スズミだったのだから。

 

 

To be Continued in Episode3 ”Model Student(模範的な生徒)




 InterludeⅠ-Ⅱなどで匂わせていた通り、本作においてはスズミはアリウス出身という事になっています。
 ただし、どうやらアリウスに対しては穏やかでは無いようで……

 コハル、補習授業部初期だと生意気かつキレまくりでいつの間に馴染んだんだお前……って感じで非常に難儀しています。
 この状況をなんとかするためには、ハナコがエ駄死させまくるしかないのか。

 そして、メタルウルフ禁止令によって生身での活動を余儀なくされるマイケル・ウィルソンですが、現在心情的にはかなりナギサよりです。
 というか、補習授業部が問題児すぎるというのであまり同情できていないと言いますか……
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