METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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Episode7 ”Hope(希望)

 夜が終わりを告げ、東の空が白ばむ時間帯。トリニティ自治区のスラム地区に位置する廃校舎、不良すら近寄らぬ荒れ果てた地区、そこがアリウススクワッドのアウトポスト(前哨基地)である。

 ボロボロになった身体をようやく休められる事に安堵し、息を吐くサオリ。マイケル・ウィルソンとの格闘戦で一方的に叩きのめされた彼女はアツコに支えられ、トリニティの裏路地を追われぬように何度も何度も遠回りをした結果、こんな時間になってようやくたどり着けたのだ。

 荒れた果て、ゴミが散乱する廃校舎の廊下を歩くサオリは、目的の教室へと滑り込むと崩れ落ちるように腰を下ろした。先に帰っていた槌永ヒヨリが心配そうな表情を見せながら近づいてくる。

 

 

「り、リーダー、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ、命に別状はない。しかし……」

 

「任務は失敗……きっとマダムも怒るだろうね」

 

「ミサキも無事だったか……」

 

 

 スクワッドの全員が無事であることを確認し、ほっと息を吐くサオリ。インカムを紛失したとはいえ、全員が無事に帰還できたのは喜ばしいことだ。だが、サオリの表情は晴れない。

 

 

「――――――」

 

「……えっ、アリウスの格好をしたトリニティ生がいた……んですか?」

 

「例の裏切り者……」

 

 

 アツコがボディランゲージを用いてサオリの身に何が起きたのかを語れば、その内容に現場に居なかった2人は訝しむ。アリウスの裏切り者、まさか本当に存在するとは。

 しかし、それに対してサオリは頭を振って否定する。

 

 

「あれは……あいつは、裏切り者じゃない。裏切り者なんかじゃ……」

 

「リーダー?」

 

「……皆、覚えているか、3年前のことを。一人居なくなってしまったあの日を」

 

「3年前……」

 

 

 サオリの言葉に3人は記憶を遡る。とはいえ、アリウスでの過去などおおよそがろくなものではなく、苦しく辛い記憶ばかりしかないのだが、1点だけ引っかかるものがあった。

 それはかつて、このアリウススクワッドのメンバーと共に生活していた一人の生徒の記憶。優秀な技量を持ちながらも、誰かを傷つける事を拒み続けた結果不要とされ「訓練標的」にされた少女がいた事を思い出す。

 アリウス生全員に追われた彼女はカタコンベへと逃げ込み、そのまま行方知れずとなった。一度カタコンベに迷い込めば二度と出られぬとして捨て置かれていたのだが……まさか生きて脱出したとは。

 

 

「守月……スズミ……」

 

「生きていたんだ……あんなに苦しい思いをしてまで」

 

「……スズミが私を見る目つきは、以前の彼女とは違うものだった。激しい怒りに染まり、敵意を剥き出しで……無理もないとは思う。あの時、アリウスはスズミの敵になった」

 

 

 死んだはずのルームメイトが実は生きていた。それだけなら嬉しいものであるのだが、生きていた上にまるで仇を見るような目で見られたことを思い出し、サオリは震えた。まるで3年前とは立場が逆転しているように感じられたのだ。

 同時に、彼女が居るのであればアズサの事が露呈するのも当然のことだろうと頭の中の冷静な部分が判断する。スズミは誰かを撃つことこそ拒絶していたが、それ以外は極めて優秀な兵士となる素養があった。それがトリニティについている以上、生半可な工作は通用はしないだろう。

 

 

「どうするの、リーダー」

 

「……マダムへの報告を先にしよう。安心しろ、全責任は私が取る。罰を受けるのは私だけでいい」

 

 

 何にせよvanitas vanitatum, et omnia vanitasという教義にあるように全ては虚しいもので、感傷に浸る必要などはない。サオリは何とか腫れが引いた右手で軍用無線機を手にする。

 一瞬の逡巡の後、通話スイッチを押した彼女はできる限り冷静を装いながら話し始めた。

 

 

「こちらアリウススクワッド、錠前サオリです」

 

『―――この時間に連絡を入れるということは、失敗しましたねサオリ?』

 

「お許しくださいマダム、私は貴女のご信頼に背きました……」

 

 

 開口一番作戦の失敗を指摘するマダムの声に、サオリは哀願するように作戦の失敗を謝罪し、まるでひれ伏すように彼女は頭を垂れた。この場にマダムなど居ないにも関わらず、まるで謁見しているかのようだ。

 

 

『……まずは状況を説明しなさい。何故失敗したのか、それを分析せずにただ失敗したとだけ言うのは無能のすることです』

 

「わかりました……」

 

 

 マダムの要求に対しサオリは丁寧に、声を震えさせながら説明する。シャーレの先生であるマイケル・ウィルソンという人間がいかに強大で、経験豊富な兵士であったのかを。そして同時にアリウスの裏切り者の正体を話す。

 僅かな沈黙。マダムが思案しているその瞬間でさえ、サオリにとっては恐ろしい。

 

 

『……なるほど、理解しました。予想外のファクターが多すぎたのが失敗した要因、そういうことですか』

 

「は、はい……」

 

 

 サオリを叱責するでもなく、思案するマダム。余程マイケル・ウィルソンという不確定要素(イレギュラー)を排除したいのだろうか。答えるサオリの声は震えており、顔色は悪いままだ。

 

 

『ですが、既に次の手は打っています。アリウススクワッドはアリウス大隊(バタリオン)の先遣隊と合流した後、アリウス自治区へと戻りなさい。後はアリウス大隊の仕事となります』

 

「アリウス大隊を投入するのですか?」

 

 

 アリウスの大半の学生を動員するアリウス大隊を動かすというマダムの言葉に、思わずサオリは反応してしまう。しまったという表情を浮かべる彼女だが、通話の向こうのマダムは咎める事なくその意図を説明する。

 

 

『ええ、成功するにしろ失敗したにしろ一度動いてしまったのならば、その勢いを保ったままにするのが重要でしょう? トリニティほどの大きな学園ならば1日程度で戦時体制に移行することは不可能、その隙を突くのです』

 

 

 マダムの言う通り、一度動いた組織というものはそう簡単には止まれない。しかし同時に、動くには多大な労力を必要とする。巨大な組織が簡単に動き、止まれるのならば地球における第一次世界大戦はああも凄惨な形にならなかっただろう。

 しかしサオリは気づくことはなかったのだが、アリウススクワッドという特殊部隊は本来そういう小回りを利かせるための集団だ。たとえ事が露呈したとしても、カタコンベという要害によって来訪者を拒むアリウス自治区へとトリニティが攻め入ることはできない。それ故に非正規特殊部隊としてのアリウススクワッドに価値があった。

 だが、それでもマダムはアリウス大隊という主兵力を投入する事を選んだ。全てはドミノ倒しのように段々と事態がエスカレートしていくことになるが、それでも構わないとしたのだ。

 そして、アリウス大隊がトリニティに攻め込むというのならば、気になるのは潜入しているアズサの処遇だ。潜入は既に露呈し監視下にあると推測される彼女であるが、サオリとしては戻ってきて欲しいと思っている。しかし――――

 

 

「……わかりました。それで、アズサはどうするのでしょうか」

 

『―――顔の割れた工作員の回収に兵力を割く必要などありません。アズサが合流するのを止めはしませんが、配慮する必要もない』

 

「―――」

 

 

 ドクンと心臓が跳ねる。マダムはアズサを見捨てる選択をしたのだ。家族のように一緒に居た仲間がまた一人消えることとなる未来を想像し、サオリは歯噛みする。

 もちろん、アズサが無事に脱出できればそれで問題はないし、彼女にはそれだけの技量があるのは間違いない。だが、アズサの救出に関与できぬ立場に追いやられたのはなんともどかしいことか。

 

 

『ああ、そういえばサオリ、アリウス自治区に戻る前に一つ仕事をしてもらいます』

 

 

 無力さに打ちひしがれるサオリに、マダムはさも当然のように任務を告げる。生徒個人の都合、感情など一切気にする様子はそこには無い。

 

 

『アリウス大隊の先遣隊に()()()()を持たせています。それを受領し、あなたの手で聖園ミカに渡しなさい』

 

「あるもの、ですか」

 

『ええ、聖園ミカにトリニティ崩壊の引き金を引かせるための重要なものです。マイケル・ウィルソン暗殺と比べれば子供のお使いのようなものでしょう?』

 

「……承知しました、マダム」

 

 

 マダムの悪意に震えながらも、サオリは静かに頷いた。彼女に歯向かえば、アズサだけではなくアツコやヒヨリ、ミサキの命がないだろう。彼女には従う以外の選択肢など最初から無かったのだ。

 

 

******************************************************************

 

 

「ねえ、私達何もしなくていいの、先生?」

 

 

 補習授業部の教室にて、挙手をしながら疑問を述べるコハル。深夜の会議で夜が明けたら勝負だと言っていた割には、朝食をとった後も何もアクションを起こしていないのだからその疑問も当然のものだろう。

 

 

”直接行動は起こせなくとも、プランを練ることはできるさ。だから今日は補習授業なんて放り投げて夜までに行動を起こせるようにするぞ”

 

「……それまでにセイアちゃんを見つけられなければ厳しいことになりますけどね」

 

 

 答える先生(マイケル)の背にある黒板には、トリニティ総合学園のおおまかな見取り図が描かれている。建物の配置、正義実現委員会の巡回ルート、予想されるアリウスの侵入ルートなど、様々なルートで手に入れた情報がぎっしりだ。

 一方、ハナコが言うようにこれらを完全に生かすにはセイアを発見し保護しなければならない。決して簡単な話ではないということだが、それは全員が理解している。

 

 

”しかし、シスターフッドがここまで情報網を広げているとは……ティーパーティー派閥のセーフハウスの位置まで知ってるというのは中々に強烈だな”

 

 

 黒板に描かれているそれらの情報はイルミが独自に調べていたものや、ハナコがシスターフッドの伝手で手に入れた情報網からもたらされたものだ。学生がこんな事に精力的に取り組むのは間違ってないかと思うところだが、それを問うべきは今ではないだろう。

 

 

「ですが、シスターフッドは基本的に政治には関与しない事になってるんです。あくまで中立的立場に居るべきだと……」

 

”だが、そうも言ってられなくなってきた。すまないなハナコ、あまり使いたくない伝手だっただろうに無理を言ってしまった”

 

「いえ、今回はイルミさんのお陰でとても気が楽でした。でも、悪いと思うのならあとで埋め合わせをしていただけると嬉しいですね♪」

 

”やれやれ、財布が軽くなるな。だが君たちみたいな年齢はそのくらい遠慮がない方が健全だ”

 

 

 シスターフッドに頭を下げてきたハナコを労う先生(マイケル)。元々シスターフッドに参加を求められていたが故の伝手で、貸しを作りたくなかったから使わなかったそれを今回の非常事態に対して持ち出したのだ。

 しかし、イルミが同行を申し出た結果すんなりとサクラコから協力を取り付けられたのは意外であった。2人はクラスメイトかつ友人同士らしくトントン拍子で話は進み、ハナコの申し出に「1度だけシスターフッドを手伝ってもらう」という破格の条件で様々なものを提供してもらったのだ。流石にこれにはハナコもびっくりである。

 まあ、それはそれとして先生(マイケル)に対し彼女は働きの対価を笑顔で求めた。その様子はまるで父親にねだる娘のようであるが―――それは置いておこう。

 

 

「この建物の主要部分へのトラップの設置は終わった。これでここは要塞として利用できる」

 

「あはは……なんだか弾薬庫みたいなことになってますけど……」

 

 

 別館の各所に対人地雷やプラスチック爆弾などを設置していたアズサとヒフミが教室に戻り、一息つく。アズサが用意した爆発物は相当な量があったはずだが、手ぶらで戻ってきたということはそのすべてを使い切ったということだろうか。

 だとすれば、ヒフミが言うようにこの別館が弾薬庫みたいなことになってるのは間違いないだろう。よっぽどでもない限り誘爆などはしないが、火の取り扱いには気をつけよう。

 

 

”では、改めてプランを確認する。アリウスによる大規模襲撃が予想される現状において、最も優先するべきはホストであるナギサの保護になる。彼女に何かがあればミカが権力を掌握し、アリウスは大手を振ってトリニティを闊歩できるようになるだろうからな”

 

 

 アズサのトラップ設置が完了したこと事前にやれることが全て終わったため、先生(マイケル)は補習授業部に向けてブリーフィングを始める。コハル、ハナコ、アズサ、ヒフミ、そして奥で暇を持て余しているイトハへ向け、彼は話を続けた。

 

 

”ナギサの保護に関してはセーフハウスの場所を知るハナコ、その護衛としてアズサが担当してもらうことになるだろう。コハルとヒフミは待機し、ここを守ってほしい。そして私とイルミ、イトハで正義実現委員会の格納庫へと向かう。ナギサを保護した後にメタルウルフを取り戻すことで敵を全部返り討ちにするというわけだ”

 

 

 先生(マイケル)は大仰に言うが、要はナギサを誘拐し、正義実現委員会を襲撃して没収品を奪還するという第三者から見れば中々にヤベーことをするという話である。正義実現委員会の副委員長とティーパーティーの高官が協力するあたり、下手なクーデターよりもたちが悪い。

 とはいえ、アリウスの襲撃が目前に迫っていることを訴えようにも、ミカに情報が上って先手を取られる可能性が常にあるのが痛いのだ。権力というのは敵に回すと恐ろしいということの証左である。

 だが、そういう時には暴に走るのがキヴォトスのやり方で、彼もそれに倣っただけに過ぎない。郷に入っては郷に従えとは違うかも知れないが、現地なりのやりかたというのも試してみる価値はあるだろう。

 

 

「このプラン、ハスミさんがが正義実現委員会の状況を流してくれるのは正直助かりますね」

 

”ああ、警備状況を教えてくれるだけで随分楽ができる”

 

「それにしても、ナギサさんを()()()()、正義実現委員会を襲撃するだなんて……まるで私達こそトリニティをひっくり返そうとしているみたいじゃありませんか?」

 

 

 ハナコがいたずらっぽく笑う。彼女の言うようにアリウスの襲撃という一大事がなければ、こっちこそが体制転覆を目論むテロリストなのは間違いない。

 一方、その横ではコハルが何とも言えぬ表情を浮かべながら黒板を眺めている。ただ赤点を取って補習授業部に放り込まれただけのはずが、トリニティ体制の危機にまで至ったという状況に理解が中々及ばないようだ。

 

 

「なんだかとんでもないことになっちゃったな……」

 

「うふふ、こんなにスケールの大きい事をやるなんて、そう滅多にありませんよコハルちゃん?」

 

「でも、これが正しいことなのか、私には全然わからないの」

 

”……それはとても良い感性だコハル。盲信するわけでもなく、自分で状況を考えられるのは中々に出来ることじゃない。そういう姿勢を貫くことは正義実現のために必要になるはずだ”

 

「そ、そう? えへへ」

 

 

 思いも寄らない方向から褒められ、照れるコハル。おバカだとかエッチだとか散々な言われようの彼女だが、()()()()()に関してはかなり真摯に考えている少女だ。そうでなければ正義実現委員会へ入ることはなかっただろう。

 

 

”では、後は連絡を待つばかりだが……それがなくても行動を起こす。各自準備の再確認を―――”

 

「そういえば先生、このプランに名前とかはあるのか? 作戦名とかそういうやつだ」

 

 

 最終確認を行おうとしたその時、今まで散々暇そうにしていたイトハが口を挟む。作戦名をつけるのは意外と重要で、参加者が共通意識を持つのに役立つため付けて損はないものだ。

 そう言えば考えてなかったなと先生(マイケル)は顎に手を当て考えるが―――

 

 

”本作戦の名前はそうだな……”

 

『はいはい! 先生、いい案がありますよ!』

 

 

 即興で作戦名をいざ決めようという段階になり、急に大声で自己主張を始めるアロナ。どうやら最近命名に絡めていないのを気にしているようで、シッテムの箱へと視線を落とせば多数の命名案と共に目を輝かせている彼女の姿があった。

 

 

『特にこれが一押しです!』

 

 

 そう言い、ドラムロールと共にかざすパネル。そこに書かれていたのは―――

 

 

”『楽園を守れ! トリニティSOS大作戦』……だそうだ”

 

「なるほど、古臭いな。そういうセンスか」

 

『ガーン!』

 

 

 デカデカと表示されるその文字を皆に見せながら彼がその名を告げれば、イトハは情け容赦なく断ずる。命名に自信を持っていたアロナが目に見えてショックを受けていたが、その姿は先生(マイケル)以外に見られることはなかった。

 

 

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 ひび割れ、補修もされず放置されたアスファルトの路面を進む4()()の人影。荒れ果て、人の気配など欠片もない団地を彼女たちは周囲を見渡しながら探っている。

 高いところから見定めるカラス達の視線を背に錆で覆われた鉄扉をくぐった後、散乱するゴミを避けながら進めば、目の前には違法増築されたマンションがそびえ立っていた。かつてはヨハネ救護学校の別館であったというここは、トリニティに統合されて以降様々な用途に使われ、最終的には住宅用として改築された、とはシミコが調べたトリニティの歴史に記されていたが、ここまで違法改造されていたとは。

 地球人が見れば九龍城砦を想起させるこの違法建築物は、しかしその中心部はかつてのヨハネの別館のままだという。セリナが調査の末ようやくたどり着いたミネの潜伏先、それがここだ。

 

 

「人の気配がありませんね」

 

「この団地から人が去ったのはもう十数年も前みたいですからね、不良やホームレスも近づかないんですよ、近場に商店もないから暮らすのに不便すぎて」

 

「でも、人が通った痕跡はありますね……」

 

 

 警戒を続けながら先頭で進むスズミと、その後ろで痕跡を探るシミコとセリナ。人気はなく、ほとんど電気なども通っていないだろうこの場所だが、床に目をやれば埃が堆積していない道がある。誰かが定期的に通っている証拠だろう。

 

 

「セリナさん、確認しますが……ミネ団長は戦闘においても相当な上位者であるというのは間違いありませんね?」

 

「はい、ライオットシールドとショットガンで武装し、近接格闘から銃撃まで対応する……2年生の時点で団長は救護騎士団のトップエースでした。倒した不良などの数は3桁に達します」

 

「誰が言ったか、「蒼森ミネが壊し、救護騎士団が治す」……スズミ、警戒は怠らないようにしなさい」

 

「イルミ先輩……」

 

 

 この場にいると思しき唯一にして最強の抵抗勢力の存在を確認するスズミに対し、列の最後尾にいた洲根イルミが警告を発し、腰のベルトから下げた銃剣を抜き出すと自身の愛銃へと着剣する。

 彼女は本来補習授業部の方に居るべきなのだが、今回はセイア及びミネへの事情説明のために捜索隊に同行していた。セリナとシミコはまだ裏の事情を知らないものの、ミネを見つければ自動的にセイアのもとに到達できるであろうと見込んだ彼女が無理を言ってついてきたというわけだ。それに、十中八九ミネは妨害してくるだろうし、その際にスズミ一人では心もとない。彼女なりの心遣いである。

 

 

「さて、この建物の何処がセーフハウスなのかを探す必要がありますが……」

 

「もう少し人数が欲しかったですね」

 

「埃の量から推測は出来ると思いますよ。増築部分には埃が堆積したままですし、旧別館エリアを調べるだけで済みそうです」

 

「なら、手分けして探しましょう! 早く団長には戻ってきてもらわないと」

 

 

 増築されたエリアを通過し、旧ヨハネ救護学校別館の荒れ果てたロビーにたどり着いた4人は早速どう動くべきかを話し合う。軽く探索した結果増築部分には恐らくセーフハウスはないであろうと予測を立て、ヨハネ別館エリアを中心に各自手分けして捜索を行うこととした。

 

 

「……清掃された痕跡がありますね」

 

 

 捜索を初めて5分程度しか経過していないが、スズミは持ち前の洞察力から違和感を辿った結果、中庭の突き当りにあるドアの前までたどり着いていた。ドアノブに埃はなく、扉付近の床は周囲と違い拭き取られた痕跡がある。

 もしや、ここがそうなのでは? スズミは右手で愛銃を握りしめ、そっとドアノブへと触れる。トラップがないか慎重に感触を確かめていると―――不意に視線を感じ、振り返る。

 

 

「な……っ!?」

 

 

 その瞬間、目前に迫るトリニティの校章と青い影。状況を把握する事もできぬまま、彼女は強烈な一撃をもらい意識を手放した。

 

 

******************************************************************

 

 

 ―――建物が揺れ、堆積していた埃が舞う。だがそれは爆発によるものではないとシミコは即座に判断し、発生源へと向かって走る。少なくとも、良くないことが起きたのだけは間違いない。

 2階へと上っていた彼女は軽やかに階段を飛び降りると、愛銃の安全装置をフルオートへと切り替え通路を曲がる。埃が堆積した床はグリップが利かないが、彼女は優れた身体能力をもって強引に身体を制御した。司書としての日々の業務が生み出した鍛えられた肉体がなければ転倒していただろう。

 

 

「……! スズミさん、大丈夫ですか!?」

 

 

 真っ先に駆けつけた彼女が見たのは、壁に埋め込まれるようにぐったりとしているスズミの姿だった。ヘイローが消えているということは、間違いなく意識を失っていることだろう。

 見る限り、外部からの衝撃で叩きつけられた結果彼女はやられたのはわかる。さらに言えば、一撃で昏倒させられたのだろうと。では、誰がこんなことを?

 疑問に思った次の瞬間、彼女は咄嗟に飛び退くと、先程までいた場所に青い流星が突き刺さる。辛うじて直撃を避けたシミコは、攻撃を仕掛けてきた人物を目視で確認し驚愕した。

 

 

「……ミネ団長!?」

 

「どうやってここを突き止めたのかは知りませんが……この先へ通すわけには参りません!」

 

「あっ!?」

 

 

 捜索対象であるミネの攻撃により、裏の事情を知らぬシミコは何故攻撃してくるのかを理解できずに思考がフリーズしてしまい、その隙を逃さずミネが大地を蹴る。踏み込みでコンクリートの床が砕けるあたり、とんでもないフィジカルである。

 しかし、シミコもまた負けては居ない。迫りくるライオットシールドに対して銃を手放し素手で受け止めたのだ。さすがのミネもその対応は予想外だったのか、目を丸くするものの右手に保持したレバーアクションのショットガンはフリー。そのまま動けぬシミコの頭を狙い―――

 

 

「ミネ団長! 何をなさっているのですか!」

 

「蒼森ミネ、何を血迷っているのです!」

 

 

 引き金を引く直前に、セリナとイルミが乱入。2人からの銃撃を受け、ミネは咄嗟に飛び退きながらシミコへ向けて引き金を引く。放たれた散弾は押さえていた盾がなくなったことで姿勢を崩した彼女の顔面に突き刺さり、眼鏡が割れた。

 

 

「きゃあ!?」

 

「シミコさん!」

 

「スズミと円堂シミコのことは任せますよ、鷲見セリナ!」

 

 

 悲鳴を上げ、倒れるシミコ。気絶には至らないが顔面への被弾は相当に痛かったようで、咄嗟に起き上がる事ができないらしい。セリナが彼女の元へ駆けつけると同時にイルミは着剣した愛銃を構え、ミネへと突進する。

 ティーパーティーの優雅な制服からは予想もできぬ脳筋な戦法、咄嗟にミネは盾を構えて正面からぶつかるもののイルミの突進力は高い。盾の曲線で刺突を受け流すが、イルミはそこで踏ん張りながら横に薙ごうとし、ガッツリと盾と銃がぶつかる。

 

 

「洲根イルミさん、貴女がもしや!」

 

「蒼森ミネ、勝手に決めつけないでいただきたい!」

 

 

 銃剣と盾で鍔迫り合いをしながら至近距離で睨み合う2人。均衡状態が生じるものの、盾を片手で保持するミネの方がやや有利か。

 

 

「この先に通すわけには参りません!」

 

「人の話を……聞きなさい!」

 

「問答無用!」

 

 

 先ほどと同じようにフリーな右手で顔面を狙うミネ。キヴォトス人といえど、この至近距離で12ゲージの弾丸を顔面に喰らえば余程の相手でもない限り戦闘不能に追い込める。しかしイルミはこう見えてフィリウス分派の中でもきっての武闘派、その手を読めぬわけもなく、あえて引くことでミネの姿勢を崩そうとした。

 

 

「ええい、相変わらず人の話を聞かない!」

 

「させません!」

 

 

 僅かに距離をとり、ミネは盾で身を守りながら左右にステップを踏むイルミへと銃口を向け、引き金を引く。しかしイルミその直前に大きく飛んで攻撃を躱すと、愛銃を腰だめに撃って牽制とした。

 きちんと狙わなくてもこの距離ならおおよそで命中が見込める以上、無理に構える必要もない。ミネは盾で弾丸を受けると、愛銃をスピンコックで次弾を装填させる。

 

 

「蒼森ミネ! 私達はシャーレの先生の依頼で貴女を探しにきたのですよ、戦う必要は無い!」

 

「信用出来ません、特にティーパーティーである貴女は!」

 

 

 ミネが頑ななのには勿論理由がある。セイア暗殺事件の首謀者はティーパーティーのメンバーだという推測のもと彼女は動いており、このセーフハウスにセイアを匿ったのだ。

 そこにノコノコとティーパーティーの制服を着て現れれば苛烈な救護思想を持つミネのことだ、障害と見なして救護に走るのも当然と言えた。さらに言えば、可愛い後輩を騙して*1いるともなれば怒りも倍増するというもの。

 

 

「裏切り者の聖園ミカ……話を聞かない蒼森ミネ……そして何より火をつけようとするアリウスの連中……どいつもこいつも、この私を苛立たせる……!」

 

「ミカ様が? 何を言って……!?」

 

 

 しかし、怒りに燃えるのはこちらも同じ。穏便に済ませたかったというのに、その前提条件をひっくり返されたイルミははっきり言ってキレていた。彼女は謀略を好み、ライバルを蹴落とすことを何とも思わぬ精神性をしているものの、愛校心は人一倍あった。

 愛するトリニティの危機を打開しようと動いているのに妨害された結果―――彼女の堪忍袋の尾が切れた。切れちゃったのだ。イルミが身にまとう雰囲気がかわり、ミネは思わずたじろぐ。

 

 

「死んで平伏しろ! 私こそがティーパーティーだ!」

 

「うっ!?」

 

 

 先程とは比べ物にならぬほどの踏み込みで繰り出される銃剣突撃。ミネはたまらずシールドバッシュで迎撃をするが、完全に受け止める事はできない。撥ね飛ばされるようにたたらを踏み、しかし態勢を持ち直してがら空きの背中に銃口を向けるが―――急停止したイルミは即座に跳躍側転、それに合わせて振り回された銃剣の切っ先が振り下ろされた。

 咄嗟にミネは銃でそれを受けるが、遠心力で強化された斬撃の威力は高くグリップが手からすっぽ抜けて地面に転がる。予期せぬ事態に一瞬目を見開くものの、彼女は落ちた銃を一顧だにせず、右手を盾に添える。救護騎士団の制圧術は銃が無くとも戦えるのだと闘志を燃やした。

 

 

「先程から一段と圧力を増している……何かを選んだ、あるいは捨てなければ得られない圧力、ですが……!」

 

「消えろ! 蒼森ミネ!」

 

 

 盾ごと刺し貫かんとする勢いのイルミの突進、それに対しミネは腰を落として踏ん張りながらわずかに盾を下げる。何をするつもりか―――キレながらも頭の片隅に冷静な部分が残っていたイルミは一瞬警戒するが、銃無しとなったミネに何が出来るものか。突進の勢いはそのままに、切っ先が触れるまで残り1メートル。

 

 

「はあっ!」

 

「なっ、そんな!?」

 

 

 次の瞬間、思いっきり振り上げた盾の縁が銃身を下から跳ね上げ、イルミはその無防備な身体を晒してしまい―――

 

 

「やあああっ!!」

 

「ごふっ!?」

 

 

 続けて振るわれるミネの拳。鳩尾をしっかり捉えたその一撃は、トリニティの戦略兵器と称される剣先ツルギでさえも悶絶させる威力を持つ。そんなものが直撃したのだからイルミはたまったものではない。

 肺の中の空気が抜け、横隔膜が一瞬止まる。叩き込まれた衝撃と痛み、呼吸困難で彼女の姿勢が崩れ、そこを目掛けて今度こそ気絶させるべく更に盾の縁を叩き込んだ。が、イルミは咄嗟に左腕で庇ってしまい―――

 

―――バキッ

 

 嫌な音とともに、イルミの左腕の曲がらない場所が曲がる。完全に骨を砕いたその一撃はミネにとっても想定外のようで、やってしまったと言わんばかりに目を見開く。

 

 

「し、しま―――ッ」

 

「 ゔ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ ! ? 」

 

 

 廃墟に木霊するイルミの絶叫、銃を手放し折れた腕を押さえながら悶絶する彼女の姿に流石のミネも動揺を隠せない。ミネが壊して救護騎士団が治すとはよく言われるが、実際のところミネはあくまで状況を落ち着かせるために気絶させるに留めるのが殆どで、()()()を増やすなんてことはしないのだ。だが、今回は一方的に気絶させるほどの技量差がなかったがために相手に大怪我を負わせてしまった。

 

 

「があああっ!」

 

「くっ……セリナ! 私はセーフハウスで受け入れる準備をするので、イルミさんの応急措置をお願いします!」

 

「あっ、は、はい!」

 

 

 痛みに呻くイルミ。目の間に現れた急患を前に、ミネの思考が一気に医療従事者のものへと切り替わる。何をすべきか瞬時に判断し、応急処置をセリナに任せた彼女はセーフハウスへと駆け込むと、処置室で必要な器具を用意し、ベッドのシーツを清潔なものへと交換し、ストレッチャーを()()()()()中庭へと舞い戻る。

 

 

「団長、患部固定完了しました!」

 

「では、搬送します。セリナは足を持って……よいしょ!」

 

「う、うぅぅ……」

 

 

 応急処置を終えたセリナと共にイルミをストレッチャーに乗せ、彼女はセーフハウスの中へと駆け込む。すっかり蚊帳の外に置かれてしまったシミコと、戦いの最中にいつの間にか気絶から復帰したスズミは理由もわからず互いに顔を見合わせた。

 

 

******************************************************************

 

 

「この度は誠に申し訳ありませんでした……」

 

 

 左腕を吊るし、ベッドの上で上体を起こすイルミの前で正座し、土下座するミネ。負傷者の発生で救護モードから治療モードに思考が切り替わり、ようやくこちらの事情を聞いてくれたため誤解が晴れたわけだが、覆水盆に返らず。イルミの腕を折ってしまったという事実は覆らない。

 一方イルミはといえば、腕を折られたことで生じた激痛を沈静化させるために鎮痛剤のロリポップ(ペロペロキャンディ)を口に咥えた状態でいかにも不機嫌ですという表情を見せている。

 

 

「謝罪で済めば正義実現委員会は要りません」

 

「返す言葉もございません……かくなる上は私の命を以てお詫びを」

 

「あ、そういうのは結構」

 

 

 あまり性格が良いとは言えぬイルミはチクチクとミネの失態、それによる自身の負傷を責め立てるが、そうしているばかりでは物事が進まぬことも理解している。ミネがハラキリをしそうになった段階で彼女は本題に入ることにした。

 

 

「さて、蒼森ミネの失態を突くのはこの程度にして本題に入りますが……百合園セイアを貴女が匿っているのは調べがついています。現在トリニティは極めて危険な状態にあり、百合園セイアの健在を示す必要に迫られているのですが……その、百合園セイアはどちらに?」

 

「それは……」

 

 

 周囲を見渡してもセイアの姿が見えぬことに疑問を抱くイルミ。今回ここに来ているのはセイアの身柄を確保するためなのだから当然ではあるのだが、ミネは何とも話しにくそうにしている。

 

 

「何か?」

 

「いえ……その、確かにセイア様は生存しており、私が匿っているのは事実なのですが、セイア様をここから移動させるのは不可能です」

 

「それは何故ですか? ドクターストップ等と言っている場合ではありませんよ、文字通りトリニティが滅茶苦茶になるかどうかの瀬戸際なのです。引っ張ってでも連れて行くつもりですが」

 

 

 セイアは居るが、出せない。そんなミネの言葉にイルミは顔をしかめる。一体どういう理屈でそうなっているのか想像もつかないのだが―――

 

 

「……セイア様はあれから一度も目を覚ましておりません。すでに負傷は完全に治り、脳の損傷がないにも関わらず、です」

 

「な、なんですと!?」

 

 

 まさかセイアが意識不明のまま今に至っているのは予想外であった。組み上げていたプランが崩れる音が聞こえ、イルミはがっくりと肩を落とす。このままでは文字通り骨折り損でしかない。

 

 

「……ミカ様がセイア様を襲撃するようにアリウス分校に依頼し、ナギサ様はそのために疑心暗鬼に陥った。あの時私が姿セイア様と共にをくらましたのはセイア様の救護のために必要でしたが、その結果ここまで事態が悪化しとなれば、確かに私に責任の一端があります」

 

「蒼森ミネ、何を……」

 

「シャーレの先生が命を狙われながらも事態収拾に尽力する中、私がただ籠るというのはあまりにも不義理というもの。不肖の身ながらこの蒼森ミネ、トリニティの安定のためにあなた達の手足として協力いたしましょう」

 

 

 しかし、イルミとスズミから事のセイア暗殺事件の真相を聞かされたミネは、ここに至って場を静観するわけには行かないと決断する。身を隠していたのは暗殺犯の正体が不明であったからであり、その正体がミカとアリウス分校と判明したのならば彼女は()()するのが手っ取り早いと判断した。いつまでも隠れてなど居られないということだ。

 

 

「団長、戻ってきていただけるんですね!」

 

「はい、救護騎士団の皆には迷惑をおかけしましたが……」

 

「いいえ、団員一同団長の帰りを待っていました!」

 

 

 ミネの帰還という決断に誰よりも強く反応するのは同じ救護騎士団であるセリナ。数カ月に渡って探し続けていた敬愛する先輩との再会は感動もひとしおといったところだが、彼女は先程セイア暗殺事件などの本件の裏の事情を聞かされて大きな衝撃を受けたばかりだ。

 同時に聞いたシミコも相当なショックであったようだが、彼女の方は少々落ち着いていた。推理小説等のサスペンス系を良く読み込んでいた影響か、そっちのほうには少々耐性があったらしい。

 

 

「ですが団長、トリニティに戻るにしてもセイア様はどうなさるおつもりですか? ここにいつまでも匿っていくわけには……」

 

「それに関しては救護騎士団本部へと連絡を入れましょう。ここなら1時間も経たずに救急車が到着できるはずです」

 

 

 いまだ昏睡状態にあるセイアの身柄を救護騎士団本部へと移送することを決め、そのための準備をするべくタブレット端末を手にするミネ。救護騎士団本部へと連絡を入れれば即座に反応が返ってくる。団長の帰還という大イベントに興奮しているのか、大量のスタンプまで送られてくる始末。とはいえ、ミネの要請に従い即座に救急車を出したようだ。

 

 

「救護騎士団が味方についてくれたのは助かりますね」

 

「ああ、スズミ……調子は大丈夫ですか?」

 

「ええ、まあ……一撃で昏倒させられましたが、打ちどころは悪くなかったみたいで」

 

「私はこのザマですがね……」

 

 

 セリナからの治療を終え、顔に幾つかの絆創膏をつけたスズミがイルミの横に座る。幸いにも彼女は打撲程度の負傷で大事ではないが、一方のイルミはギプスで固定された左腕をさする。これでは愛銃を振るうのは不可能であり、この後に行われるアリウスとの戦いに参加できぬ事を示していた。

 そうしてため息を付くイルミとスズミの前に別の少女が立つ。予備のメガネに変え、額に包帯を巻いたシミコだ。彼女はこの中でアリウスやミネ、セイアという本件の裏事情に一切関知していない唯一の存在であり、いまだ戸惑いを隠せないでいるが……

 

 

「えーっと、その、私はどうすれば良いんでしょうか」

 

「ああ……そういえばあなたはこの件ではあまり因縁の無い図書委員でしたね、円堂シミコ」

 

「ええ、はい。でも、先生がアリウスのことを調べろという理由がわかってスッキリしたところはあります。こんな事が裏で起きていたなんて……」

 

「これからアリウスとの戦いになります。もしこれ以上踏み込むつもりがないのならここで帰ってもらっても結構ですが……」

 

「いえ、先生が戦おうとしているのに私だけ一人で逃げるわけにはいきませんよ。私も一緒に戦います!」

 

「……シミコさん、ありがとうございます」

 

 

 しかし彼女も裏の事情を知ったことで逃げる事はできぬと覚悟を決めた。ここで立ち向かわなければアリウスの手によって図書館の蔵書がどうなるかわかったものではないし、何より先生(マイケル)が戦う意志を見せているのに逃げるなんてことは出来ない生真面目さがあった。

 

 

(それにしても、プランがここまで崩れるなんて……)

 

 

 すっかり鎮痛作用が効いてきたためイルミは咥えていたロリポップを吐き出すと、顔をしかめて考え込む。セイアの確保による正当なホスト権限の掌握という目標を果たすことはできなくなった。

 これでは正義実現委員会を動かすことなどままならないのだが、それでも時間制限が迫っている以上は動かねばならない。他に希望はないものか……悩む彼女の耳に、別室からミネの声が飛び込んでくる。なんだと視線を向けると、絶句した様子のミネとセリナの姿があり―――

 

 

「やあ、ミネ……すまないがトリニティへ連れて行ってくれないかい?」

 

「せ、セイア様……!?」

 

 

 壁に手を付け、よたよたとした足取りで歩む狐耳の少女の姿。イルミは当然ながら彼女に見覚えがある。サンクトゥス分派のリーダーにして正当なトリニティ、ティーパーティーのホスト―――

 

 

「百合園セイア……目が覚めたのですか!?」

 

「君はフィリウスの……ああ、そうだ。先生に伝えたいことがあるんだ、急がないと取り返しがつかないことになる」

 

「セイア様、無理はなさらず……」

 

 

 ミネが急いで駆け寄り、明らかに弱っているその身体を支える。実際セイアの顔色はあまりよろしくないのだが、それでも彼女は力を振り絞って言葉を続けた。

 

 

「このままでは……ミカが、ミカが死んでしまう……!」

 

 

To be Continued in Episode8 ”Malicious Gift(悪意ある贈り物)

*1
ミネの主観




 予想外に予想外を重ね、それでも何とかマイケル・ウィルソン率いるチームはアリウスへの対抗策を重ねていく。しかしセイアが見た最悪の未来、ミカが死ぬとは一体何なのでしょうか?
 ついに次回、メタルウルフが久しぶりに登場します。これはブルーアーカイブとMETAL WOLF CHAOSのクロスオーバーだということを忘れないようにしましょう。

 臨戦リオ、なんだかモーション見ると運動音痴な感じですが、本作のリオは鍛えていますので! まだ引けていないのですが絶対取ってやりますよ。
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