METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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今更ですが、本作のアメリカはフィクションです


Interlude Ⅱ-Ⅳ ”Dive into Summer(夏に飛び込む)

 大気が揺らぎ、海が割れる。その一撃はリゾートを破壊せんとするヘルメット団に対しての神の怒りを思わせるものであった。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……ッ! 人様の楽しみを邪魔しようだなんて、私が許しませんよ!」

 

 

 砂浜に長い痕跡を作って発射の反動を抑え込んだケイは、スパークするルミナス・ノヴァを構えたまま肩で呼吸をする。青筋を立て、ヘルメット団への怒りの感情を隠そうともしない。

 彼女たちゲーム開発部はヘルメット団との遭遇で早々に後退を余儀なくされ、そのままビーチへと撤退したたことでワカモとの戦闘に参加することはできなかったが、それが結果としてヘルメット団の艦隊への対処が可能となり、このように浜辺からの砲撃を行うことが出来た。人生、何が正解なのかわからないものだ。

 ケイの放った出力120%のレールガンは開発時に想定されていたよりも遥かに遠くに弾体である特殊合金のロッドを届かせ、ヘルメット団のコルベットの艦橋を破壊、これを撃破することに成功したものの、リミッターを解除した反動でオーバーヒートを起こしており、暫くの間使用できないであろうことは素人目にもわかるものだった。

 

 

「今の、海割れなかった?」

 

「すっごぉーい! 大砲じゃんそれ!」

 

 

 多くの生徒達がケイに称賛の声を送る一方、沖では航行不能に陥ったコルベットを回避すべく、残りの2隻が隊列を乱している。

 一先ず艦隊の接近を一旦は阻止することが出来たが、しかしどうしたものか。生徒たちには艦船に対する攻撃手段などなく、生徒たちはただ海を見るばかり。

 ケイはルミナス・ノヴァの冷却時間を計算し、無意識の内に顔を歪ませた。どうあがいても再使用まで10分はかかってしまうという事実は、それまでの間敵に対して無防備であるということと同義であった。

 

 

「ケイ! もう一発……は、できなさそうかぁ……」

 

「こ、これからど、どうすれば……」

 

「ユズちゃん落ち着いて、先生とアリスちゃんが戻ってくるのを待とう」

 

 

 ゲーム開発部一同は他の生徒達とは違い、撃破されたコルベットを見て歓声を上げることはせずに()を見据える。以前(エリドゥ)の経験から長期戦を意識するようになったため、リソース管理を気をつけるようになっていた。

 まるで戦闘を主体とするグループみたいだが、彼女たちはあくまでゲーム開発部。普通はそういう集団がこんなことを考慮することはなく、彼女たちが異常なだけだ。

 

 

「沖の船からミサイル攻撃、来ます!」

 

「退避、退避ーっ!」

 

 

 そうしている内に沖のコルベット2隻から白煙が伸びる。接近を危険と見たヘルメット団のコルベットから再び巡航ミサイルが発射されたのだ。

 目視で確認した正義実現委員会の生徒が声を上げ、皆は砂浜から一斉に駆け出して物陰へと隠れた。いくら生徒といえど、巡航ミサイルを撃墜するのは手持ちの中では不可能。

 同時にビーチに唯一残る対空システムが反応し、30mmの曳光弾が奔ってミサイルを絡め取る。撃墜するたびにシステムは次々に目標を変え、幾つものミサイルが海へと墜落して水柱が上がった。

 システムがミサイルを撃墜するたびに歓声があがるものの、それでもたった1基の対空システムでは全てのミサイルを迎撃できるものではない。弾薬が切れ、沈黙するその瞬間は必ずやってくるのだ。

 

 

「ミサイル、着弾来ます!」

 

「伏せろーッ!」

 

 

 最後の一発を撃墜する寸前に弾薬が切れ、それでも辛うじて命中弾を与えたことでフラフラになった巡航ミサイルは目標としていたホテルではなく、力尽きて砂浜へと突き刺さる。弾頭も起爆せずに不発弾となるが、最後のあがきと言わんばかりに対空システムとレーダーをつなぐケーブルを切断した。

 これによってシステムは目を失い、その機能を停止させる。自動で再装填はしているようだが、銃座は最後の位置で止まったままとなり、うんともすんとも動かない。

 

 

「止まっちゃった……」

 

「復旧が可能かどうか調べます。モモイ、ミドリ、ユズ、ここで待っててください」

 

「あっ、ケイちゃん!」

 

 

 対空システムが停止する瞬間を見るなりケイは駆け出し、銃座を調べ始める。アンドロイドである彼女はシステムにダイブし、それが生きているかどうかを判別できるのだ。

 

 

「……ユニット本体は生きています。ですが、データリンクが途絶えていてオートでの射撃ができませんね……マニュアル射撃ならなんとか出来るのではないでしょうか」

 

「マニュアルって言ったって……」

 

「そんな、目が良くて反射神経も高く、見越射撃が得意そうな人は……」

 

「な、なんで私を見るんですかぁ……」

 

 

 銃座そのものは生きていると判明するが、レーダー連動による自動射撃は不可能。マニュアル射撃は可能だが、FCSに接続できぬ場合は普通は命中を見込めない。しかし、人間FCSと呼べるような人物がいれば、あるいは。

 そんな人物が居るかと言えば、ここに一人。UZQueenとして呼ばれ、様々なゲームでトップスコアを出している花岡ユズは、当然のことながら様々なジャンルのシューティングゲームでもトップランカーであった。

 彼女の反射神経、動体視力、そして予測の精度をゲーム開発部の皆は知っていた。だからもしかしたら、この銃座もシューティングゲームみたいな感じで行けるのではないだろうか? 悩む時間は惜しいとばかりにケイは即決する。

 

 

「ユズ、あなたが頼りです。お願いします」

 

「ひぃ……なんでこんなことに……」

 

 

 嘆くユズの背中を押してマニュアル操作用の席に座らせ、操作方法を軽く教える。簡単に言えば目標を捉えてスイッチというわけだが、マニュアル用の補助照準器は簡素で、これで見越射撃をしようとすればかなりの直感が必要になるだろう。

 恐る恐るユズはトリガーを引いて試射を行う。1回、2回、3回……何度か繰り返した後、彼女はこの銃座の癖を把握した。そして銃座が自分の体の一部のように感じられた瞬間、彼女のスイッチがカチリと切り替わった。

 

 

「あっ!」

 

 

 それとほぼ時を同じくして周囲を警戒していたモモイが声を上げ、島影から飛び出す赤いホバークラフト。ドリフトしながら艦首をビーチへと指向し、搭載された2基の140mm22連装ロケット弾発射機をすかさず放つ。

 狙いはビーチ全体のようで、合わせて44発のロケット弾が白煙を引きながら向かってきた。このまま行けば、間違いなく砂浜は月面のようになってしまうだろう。

 周囲の生徒たちが悲鳴を上げるが、神経が研ぎ澄まされたユズの耳には雑音として処理されて入ってこない。彼女の意識は全てロケット弾へと向けられ、照準を定めると同時にトリガーを引く。

 

 

「うぎゃー! うるさい!」

 

「………」

 

 

 30mmの射撃音を間近で浴びせられ、モモイはたまらず耳をふさいだ。それを無視するようにユズはトリガーを引き続け、青い空を彩る赤い曳光弾は次々にロケット弾をまるで投網のように絡め取り、空中で爆発の花が咲いていく。

 そして最後の一発を撃ち切ると同時に44発目のロケット弾が空中で撃墜され、破片がビーチに降り注ぐ。だが、それだけだ。彼女は一発たりともビーチへの着弾を許さなかった。

 これがUZQueenの実力なのかとケイは感心しつつ、迫りくるドルフィン号を睨みつける。基準排水量415トンの巨体がビーチを踏み潰そうと全速で向かってくるが、今の彼女たちには対抗するべき手段がない。

 ルミナス・ノヴァは冷却中な上に機関砲は全部の弾薬を撃ち切ってしまったために、補充の必要があるのだ。

 

 

「ひ、ひいっ」

 

「ユズちゃん、隠れて!」

 

「私、弾薬を取ってくるよ!」

 

「私も行きます、モモイ」

 

 

 手も足も出ないことからUZQueenモードから元に戻ったユズは、情けない悲鳴を上げながらミドリに引っ張られる形で物陰へと隠れ、入れ替わるようにモモイとケイが再装填のために弾薬の保管庫へと走っていく。

 その直後にドルフィン号がビーチングし、手持ちの銃火器の射程に入ったことで弾丸を浴びせかける生徒の姿が確認できるが、艦船に対して対人用の弾薬でダメージを与えることはほぼ不可能。

 空崎ヒナなどの一部例外を除き、装甲兵器に対しては対応する武器を用いなければ相手に出来るものではないのが常識だ。

 

 

「あわわ、どいてくださーい!」

 

「何、何なの!? 戦車なんて誰が持ち込んだのさ!?」

 

 

 そんな中、1両のクルセイダー巡航戦車がドルフィン号に向けて砂浜を激走する。ティーパーティーの生徒が驚きの声を上げ、走り去るそれを見送った。

 操縦席ハッチを全開にして顔を出しているのは、この戦車を操る阿慈谷ヒフミ。彼女は警告を発しながらも、眼の前に何がいようともブレーキは一切かけない。

 右に左に、時折ドリフトをかけて逃げ惑う生徒を避け、遮二無二突っ込んでいく。

 

 

「ヒフミ、狙いはバッチリだ。いつでもいける」

 

「なんで私が装填手なのよ、ハナコが車長で!」

 

「それはその、私だと車内はちょっと狭いので……」

 

 

 砲塔を動かし、狙いをつけるアズサ。2ポンド砲弾を抱え、自分のポジションに不満を表明するコハル。最後にハナコは上半身を砲塔から出しながら苦笑した。

 先程ティーパーティーの生徒が何故ここに戦車があるのかということを叫んでいたが、この戦車はヒフミが海を楽しむのには戦車が必要だと強く主張し、ナギサはそれはおかしいと言ったものの、とうとう折れた形でクルーズ船に搭載されたものである。

 その話を後に知ったセイアが呆れた様子で「君の友人は変わった感性をしているね」と言ったというが、まあそれは置いておこう。

 

 

「このっ! これ以上好きにさせるかっ!」

 

「バカ! 枕を投げてホバークラフトが止まるわけ無いでしょ、逃げよう!」

 

 

 銃弾が効かないからとヤケクソになってドルフィン号に手当たり次第に物を投げつけるアリウス生徒。その腕を引っ張って退避する正義実現委員会の生徒の横をすり抜け、完全にドルフィン号と並走したクルセイダー。

 砲手であるアズサはすかさず引き金を引き、主砲である2ポンド砲が放たれる。

 放たれた徹甲弾はドルフィン号の薄い装甲を貫通するものの、炸薬がないただの金属塊でしかないためそのダメージは限定的。それでも何発も叩き込んでいけばそのうち致命打になるかも知れないが、そのためには相手の構造を良く知っておく必要があった。

 無論、アズサはドルフィン号の構造など知らないため、その狙いはかなり適当である。

 

 

「これ以上、邪魔はさせませんわ!」

 

「ヒフミちゃん、RPGです!」

 

「はわわわっ!」

 

 

 ダメージを受けたことで脅威と認識したのか、甲板から覗き込んだワカモがRPGを担いでクルセイダーを狙う。ハナコが声を上げ、脅威に気づいたヒフミが回避機動を取ると同時に、放たれた対戦車擲弾が砂浜へと突き刺さった。

 今の回避機動で距離を離されるが、ヒフミはクルセイダーのリミッターを解除し、全速力で猛追する。それによって履帯が一瞬滑るが、直ぐに砂を踏みしめて車体は猛烈に加速した。

 そのまま走行間射撃でドルフィン号に砲弾を放つものの、ヒフミの無茶苦茶なドライブテクでアズサの狙いが定まらないので中々に命中弾が出ない。明後日の方向に飛んだ砲弾で他の生徒が逃げ惑うのは所謂コラテラル・ダメージというものだ。

 その後もワカモのRPGを何度も避けつつ、クルセイダーは再びドルフィン号と並走。ここでようやくアズサも落ち着いて狙いを付けられるようになり、ドルフィン号の船体に安定して砲弾が命中し始めた。

 

 

「ちょっと! うちらの船になんてことすんのよ!」

 

「そうだそうだー!」

 

 

 そして何度も砲弾を叩き込まれたからか、ワカモの他にジャブジャブヘルメット団のメンバーが甲板から身を乗り出してヒフミ達に文句をつける。思わず見上げたハナコはそのリーダー格らしき生徒と視線が合い、目を丸くした。

 

 

「まさか……ラブさん!?」

 

「うっそでしょ、あんた浦和!?」

 

「えっ、隊長……知り合いですか?」

 

「昔のクラスメイトよ……って、そんなことはどうでもいいわ! そのまま全速前進、全部轢き潰しなさい!」

 

 

 まさか、昔のクラスメイトとこんなところで出会うと思っていなかったラブは複雑な表情を見せるものの、仕事は仕事と割り切りリゾートの破壊を優先する。

 浜を爆走し、砂を巻き上げながらビーチチェアやパラソルなどを轢き潰しながら進むドルフィン号の進行方向にあるのは―――百夜堂出張版、海の家だ。

 

 

「委員長、逃げてください!」

 

「シズコ死すとも百夜堂は死せず! 店を見捨てて逃げるなんて私には出来ません!」

 

 

 迫るホバークラフトに対し、シズコは真正面から対峙して桜ボンボンを向けて引き金を引く。しかし、当然ながら船舶にそんなものが通じるわけもない。

 

 

「ヒフミちゃん! 海の家、店主さんが!」

 

「突っ込みます! つかまってください!」

 

 

 それに気づいたハナコの声に応じ、ヒフミはクルセイダーをぶつけてドルフィン号の進路を変えようと試みる。だが、20t程度の重量で20倍を越える重さのホバークラフトにぶつかったところで普通はどうにもなるものではない。むしろ、逆に踏み潰されるのがオチだろう。

 しかしヒフミは眼の前で危機に陥っているシズコを放ってはおけなかった。ハンドルを切り、ドルフィン号へと近づくクルセイダーにラブは顔を青くする。

 

 

「バカなの!? 踏み潰されるのがオチよ、やめなさい!」

 

「いっけええええっ!!」

 

 

 ヒフミ達を案じて制止するラブを無視し、ヒフミが突撃した次の瞬間……激しい衝撃がドルフィン号を襲う。それはあまりにも突然のことであり、誰も備えていなかったため甲板にいたヘルメット団員とワカモがバランスを崩す。そんな中、一人の生徒が空中へと放り出された。

 

 

「えっ……!?」

 

「た、隊長ーっ!!」

 

 

 天地が逆転し、ラブは自分が落下しているという事実を飲み込めない。ただ、ドルフィン号に先生(マイケル)のメタルウルフが体当たりをしかけたのが先程の衝撃の原因だと言うことを理解し、彼女は頭からクルセイダーの車上に墜落、意識を手放すのであった。

 

 

 

******************************************************************

 

 

 横合いからドルフィン号に全速力で体当たりをしたメタルウルフは、その艦首に張り付きながら海へと向けて押し出すように背面のブースターを全開。

 甲高いタービン音と連動するように青白い炎がまるで尾のように伸び、ホバークラフトの巨体が段々と曲がり始め、その事実にジャブジャブヘルメット団のメンバーは驚愕する。

 

 

”たかがホバークラフトの1隻、このメタルウルフで押し出して見せる! メタルウルフは伊達ではない!”

 

 

 伊達ではないのだというその言葉に偽りはなく、3mという主力戦車にも満たぬサイズでありながらも、メタルウルフは完全にホバークラフトの進路を変更させることに成功した。

 

 

”シズコ、ちょっとこいつを沖まで運んでくる!”

 

「あっ……」

 

 

 結果、百夜堂は直撃コースから外れ、巨体が真横を通り過ぎたことで砂をかぶったシズコは呆然としながら去っていくホバークラフトを見送ると、ついに緊張の糸が切れたのかその場にへたり込んだ。強がっていたものの、とっくに限界は越えていたのだ。

 そして、そんな彼女の上空をヘリと人が通り過ぎていく。ヘリの方はアヤネが操縦するアビドス高校のヘリ、雨雲号。キャビンには対策委員会の面々が詰めており、各々ホバークラフトとヘルメット団の艦隊を睨みつけていた。

 その隣を天童アリスがブレイブアーマーのまま並び、飛んでいる。こちらは主砲としてレーザー砲と小型ミサイルを内蔵しており、舟艇程度であれば容易く相手することが出来るだろう。これが先生(マイケル)直率の部隊になる。

 

 

「……行っちゃった」

 

 

 シズコはへたり込んだまま空を征く彼女たちを見送り、呟く。

 そんな彼女の横に、車体に目を回しているラブを乗せたままのクルセイダー戦車が停車。ハッチから顔を出したヒフミがシズコの顔を確認すると、ホッとした様子で話しかけてきた。

 

 

「えーっと、お怪我はありませんか。もしよければ乗っていきません?」

 

「あ、えーっと、その……」

 

 

 シズコはヒフミの顔を見上げ、はみかみながら答える。

 

 

「その、腰が抜けちゃって……ちょっと、自分じゃ乗れそうにないです」

 

「あ、はい。アズサちゃん、手伝ってください!」

 

「わかった、ヒフミ」

 

 

 ヒフミとアズサがクルセイダーから降りてシズコに肩を貸す。

 足元がおぼつかない彼女をなんとか車体に乗せ、自らも操縦席に座ろうとするヒフミが沖の方に視線をやると、ここから見えるホバークラフトはすっかり小さくなっていた。もうここからでは手を出す事はできないだろう。

 

 

******************************************************************

 

 

 沖へと向けてしばらく走っていたドルフィン号とその乗員はラブの転落により指揮系統を失い、混乱状態に陥っていた。

 そもそも20名程度の人員しか居ない上に、半数が森の中の戦闘で負傷して戦闘不能である。そんな状況では、艦首に取り付いているメタルウルフと背後から迫る空中戦力に対応できるはずもない。

 最初の奇襲攻撃を迎撃された時点で彼女たちの敗北は決まっていたようなものと言えただろう。

 

 

”よいせっと”

 

 

 艦首から手すりにつかまり、よじ登ってくるメタルウルフ。赤い単眼がギラリと光り、ヘルメット団のメンバーは恐怖におののく。

 甲板のCIWSが対応しようとするものの、照準を向けるよりも早くメタルウルフが飛びつき、その銃身を握りつぶした。

 

 

「ひ、ひぃっ」

 

”いいぞ、アヤネ来てくれ”

 

『わかりました!』

 

 

 CIWSを破壊し安全が確保されたため、雨雲号がドルフィン号の甲板の上を低空で通過。その瞬間に合わせてホシノ、シロコ、セリカの3人が飛び降り、銃を向ける。

 既に士気が限界を迎えつつあるヘルメット団員はそれでも応戦する姿勢を見せるが、銃口が震えており立っているのも精一杯という感じだ。

 

 

”ノノミは艦橋を制圧、シロコとセリカでヘルメット団を、私とホシノはワカモをやるぞ”

 

『了解です! そーれ!』

 

「ん、いくよセリカ」

 

「分かったわ!」

 

 

 ベルトで落下しないように自身を固定したノノミは、武装を積んでいない雨雲号のドアガンの代わりに艦橋へとリトルマシンガンVを向け、徹甲弾のシャワーを降らせる。

 ラブに代わって操舵輪を握っていたヘルメット団員はこの一撃で昏倒、操縦者を失い漂流を始めるドルフィン号の甲板上では、シロコとセリカのコンビがヘルメット団員達を瞬く間に撃ち倒していた。

 戦闘時間にして30秒もかかっていないほどの速攻で、2人の戦闘力の高さを証明するものだ。

 一方、ホシノと先生(マイケル)によるワカモ制圧はそれ程容易ではない。七囚人、あるいは災厄の狐と称される彼女の戦闘能力は相当に高く、しかも日傘が防弾仕様ということも相まってホシノの攻撃すら有効打にならない。

 

 

「シロコちゃ~ん、セリカちゃ~ん、早く終わらせて手を貸してほしいかな……こいつ、ちょっと面倒でさ……!」

 

「中々の手練……ですが!」

 

 

 超近接戦となりワカモの銃剣をいなすホシノであるが、今回は空中投下を前提としていたのでIRON HORUSを置いてきているが故にいつもの戦い方ができず、苦戦を強いられる。

 一方のワカモも、これほどの使い手と戦うのは自身を捕縛したSRTのFOX小隊以来であった。

 破壊、略奪を趣味とする彼女の内に秘められた闘争本能が激しく燃え上がる。仮面の中で口端がつり上がっていくのを自覚し、攻撃が更に苛烈になっていく。

 

 

”こいつは……迂闊に撃てないな”

 

 

 まるでダンスを踊っているかのような距離感の2人に、フレンドリーファイアの可能性から発砲することが出来ずに居た先生(マイケル)は、徒手空拳で割り込もうと拳を握る。その時であった。

 

 

『先生、沖の敵船2隻に動きがあります。どうやら再び攻撃するつもりのようです』

 

”わかった、アヤネ。アリス、君の出番だ……ただし、轟沈はやめてくれよ”

 

「了解、エナジーブースト、オーバードライブ!」

 

 

 コルベットの接近を知らせるアヤネの声に、先生(マイケル)はアリスにその迎撃を指示。あれも撃破しなければいけないターゲットだ。

 彼女は主砲発射の前に主砲システムへのエネルギーチャージを行うと、発射形態へと移行してその狙いをコルベットの一隻へと絞った。

 ミレニアムで実戦向けに再調整されて実装された非実体型の照準器は、被害予想をAIによって表示し、使用者に知らせるシステムだ。無闇に周りを壊すことがないようにというユウカの思惑があってのものだが、それが今回役に立つ形となった。

 艦後方の水面に主砲を最大威力で射撃すれば、その際の水蒸気爆発によって推進系を破壊できるというAI予測を基に照準をつけ、思考でトリガーを引く。

 

 

「最大火力展開! 目標、制圧します!」

 

 

 排水量が500tに満たぬ彼女にとって、アリスの武装はどれもが致命的といえた。戦艦が簡単に沈むか、などというのは容易いが、それはあくまで大型艦の話でしかない。

 背面から展開し、両肩に担ぐ形となった主砲から放たれる赤い閃光はコルベットの上部構造をかすめ、後方の海面へと狙い通りに命中。そのまま水蒸気爆発が発生し、船はつんのめるように急激に速度を低下させた。

 

 

「これがアリスの、暗雲を切り裂く光の一撃です!」

 

『す、すごい……』

 

『アリスちゃん、可愛い顔して容赦ないですねー』

 

 

 自らの戦果を誇るアリス。その光景を見ていたアヤネとノノミは目を丸くしながら各々の感想を口にする。

 そうしている間に残る1隻のコルベットは慌てた様子で撃破された方に横付けし、乗員の収容を行うと尻尾を巻いて遁走を始めた。

 どうやら、あの艦隊は立て続けにコルベットを1撃で撃破されたことで戦意を完全に喪失したのだろう。であれば、残るはこのホバークラフトのみ。

 

 

『最後の敵船、逃げていきます』

 

”そうかい! こっちはまだ……うおっ!?”

 

「うっ!?」

 

「よそ見をしている場合ではありませんわ、あなた様!」

 

 

 アヤネからの報告に気を取られた僅かな隙をつき、ワカモがホシノの腹を蹴ってよろめかせた直後にメタルウルフに向けて銃剣が突き出した。

 姿勢を崩すホシノはそれでも咄嗟に銃口を向けるが、ワカモとメタルウルフが射線上で被っているために引き金を引くことが出来ない。

 そして銃剣を向けられたメタルウルフだが、こちらは辛うじて身を翻して刺突を回避するも、次の薙ぎ払いにつながる動作を躱すことができなかった。3m級の巨体に対して、ワカモの距離が近すぎるのだ。

 とにかく嫌な予感がして彼は左手を前に突き出すと、装甲に覆われていないメタルウルフの()にざっくりと銃剣の刃がめり込んでいく。機体に深刻なダメージが発生した警告が現れ、モニター上では左手が赤く点滅。生徒一人相手にここまでのダメージを受けるのは、正直初めての話であった。

 

 

”なんとっ!?”

 

「これでこのリゾートは終わりにしてさしあげます!」

 

「あっ、まずい!」

 

 

 メタルウルフがよろめき、ワカモはそれを見逃さずに超近接戦のレンジから僅かに距離を取った。それも射線が被るような絶妙な位置取りで、包囲射撃を受けないように意識したものだ。

 ハンディキャップはあれど、二人がかりであるにもかかわらずワカモをフリーにしてしまったことにホシノが思わず声を上げる。シロコとセリカの支援射撃は間に合わず、ワカモは足元のハッチに手をかけると、それを力いっぱい引っ張って全開放させた。

 それは、ドルフィン号に搭載されている巡航ミサイルの発射口。垂直発射式であるため、このままの状態で発射可能だ。すかさずワカモは手元のスイッチを押し、ミサイルの発射を強行する。

 

 

「巡航ミサイル!?」

 

”しまった……!?”

 

 

 ドルフィン号の垂直発射式装置はガスでミサイルを垂直に飛ばし、ロケットモーターに点火するコールドローンチ方式を採用している。船へのダメージが少ない発射システムだ。

 ミサイルが空中に飛び出したのを見た彼は撃墜しようとするものの、左手が損傷で動かなくなっているのがよろしくない。今回M61バルカンを搭載しているのは左側のコンテナなので、取り出すことが出来ないのである。

 このままロケットモーターに点火してリゾートにミサイルが飛んでいく―――かと思いきや、10m程上昇した時点で本来点火するはずのそれがうんともすんとも言わない。シロコ達にやられてぐったりしているヘルメット団の一人がそれを見て「作戦前にメンテしてなかった」と小さく呟いた。

 

 

「嘘でしょう……!?」

 

 

 運動エネルギーを失い、重力に引かれて落ちるミサイル。落下予測地点はドルフィン号の甲板上、落下して引火誘爆すれば大惨事は免れないだろう。

 特に直下にいるワカモは下敷きになる公算が大きいのだが、彼女自身予想外過ぎて落ちてくるミサイルを見上げたままピクリともしなかった。

 その光景を認識した瞬間、マイケル・ウィルソンは考えるよりも先に動き出す。

 

 

”うおおおおっ!!!”

 

 

 落ちてくるミサイル目掛け、ブースターを全開に突撃するメタルウルフ。まるでアメフトのタックルのようにミサイルを抱え込み、ドルフィン号から1mでも遠くへと持っていこうとする。

 そして100m程離れたところで捨てようと手を離した瞬間、不安定であったミサイルは推進剤が引火誘爆してメタルウルフをその爆発の中に飲み込んでいった。

 

 

「せ、先生……?」

 

「え、冗談よね……?」

 

「先生が死ぬはずがない! アヤネ、探して!」

 

『は、はい!』

 

「アリスも行きます!」

 

 

 甲板に居たホシノは爆発を呆然と見上げ、セリカは眼の前の現実が信じられず、シロコは感情を昂らせ、声を荒らげながらアヤネに爆発地点へと向かうように強く言いつけた。

 いつもは冷静なシロコの言動に驚きつつも、アヤネは言われたとおりに雨雲号を爆発地点へと向かわせる。アリスはその後を追い、捜索救助に参加するつもりのようだ。

 

 

「そんな……あなた様……このワカモを庇って……う、うぅぅ……」

 

 

 そしてワカモは先程まで散々攻撃を仕掛けていたにも関わらず、自身のせいで先生(マイケル)が爆発に巻き込まれたことにさめざめと涙を流す。勝手なことをと思うだろうが、彼女にとっては先生(マイケル)と戦う事も愛情表現の一種であるため、本人的には矛盾がない。

 そうしている内に爆発はおさまり、煙が風に流されて爆発地点の様子が見え始めるが―――

 

 

”あぁ、くそ……ひどい目にあった”

 

「先生!」

 

 

 ほぼゼロ距離での爆発であったにも関わらず、メタルウルフは機体のあちこちを焦げつかせながらも原型をとどめて空中にあった。

 ジャブジャブヘルメット団を含む生徒たちが歓喜の声をあげる中、メタルウルフはドルフィン号の甲板に戻ろうと前進するが、その瞬間機内に警告音が鳴り響く。モニター上に表示されるステータスは、メインブースターの損傷を操縦者に伝えていた。

 

 

 

”なっ……メインブースターがイカれただと……こんな海上で……!?”

 

 

 

 並走して飛んでいたアリスはメタルウルフのブースターが咳込み、チカチカと点滅していることに気づく。しかし、だからといってどうしようも出来ず―――

 

 

「せ、先生? 推進系が咳き込んでいるようですが……」

 

”だ、駄目だ、飛べん……あっ

 

 

 そのまま海面へと落着、水しぶきが上がる。その瞬間、メタルウルフのメインシステムが致命的なエラーを起こし、画面がブラックアウト。

 慌てて彼はリブートを試みるが、システムはうんともすんとも言わない。これが水辺におけるMA(特殊機動重装甲)最大の敵、カッパなのだ。

 

 

「えっ、ちょっと、あれやばくない?」

 

「沈んでいく……」

 

 

 右手を天に掲げたままメタルウルフが泡を立てて沈んでいく。生徒たちはカッパのことを知らないため、それが致命的な状況であると気づかない。あの大暴れしたパワードスーツが水没に弱いなど、思うはずもないのだ。

 彼女たちがそれが危険な状況であると気づいたのは、最後まで見えていた右手が親指を立てながら完全に海中に没してからであった。

 

 

「あ、あなた様ーーーーーっ!!!」

 

「助けないとやばいんじゃないの!?」

 

「良いから手を貸して、ヘルメット団!」

 

「わ、わかった……」

 

 

 ワカモの絶叫も虚しく、メタルウルフの姿が完全に消えて泡立ちだけが海面に残る。ジャブジャブヘルメット団は対策委員会にせっつかされながらも先生(マイケル)救助のためにドルフィン号を再起動させるのだった。

 

 

 

To be Continued in Interlude Ⅱ Epilogue ”To tomorrow(明日へ)

 




 文字数が2万を越えてしまったのでエピローグと分離することにしました。本当は4話で締めたかったんですが、登場人物が多すぎて纏めきれませんでしたね……
 そして後半、エピローグ部ですが、そちらは本日18時に投稿します。
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