METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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もしかしたら次回から投稿時間変わるかもしれません


Interlude Ⅱ Epilogue ”To tomorrow(明日へ)

 あれからしばらく後、なんとか アリスやアヤネ、そしてジャブジャブヘルメット団のお陰で海中から引き上げられた先生(マイケル)は、ひどく疲れた様子で砂浜に設置されたビーチチェアに腰掛けた。

 ジャブジャブヘルメット団は先生(マイケル)救助後に投降し、浜にドルフィン号を置いて砂浜の一角にまとめられている。ワカモも一緒ではあったが、先程まであれほど好戦的であったにもかかわらず随分と大人しくなっているようだ。

 その後にヨツイ不動産開発のヨツイが誰の差し金なのか尋問したようだが、結局のところ彼女たちのクライアントに関してはペーパーカンパニーであったようで、その正体が何なのかは不明なまま。

 ただ、対策委員会の面々はやり口からカイザーグループではないかと推測していたが、そこに至る証拠はない。

 そして最後に、海没したメタルウルフは回収こそされたものの、緊急の修理が必要になったためミレニアムに修繕を依頼。同時に今回の件を連邦生徒会に報告する必要が生じたため、ミレニアムの輸送機が到着すると同時に彼もまたリゾートから引き上げる事となっていた。

 つまり、彼がこうしていられるのは残り数時間程度。本来の予定では明日の朝に皆と一緒に帰る予定であったので、かなり前倒しされた形である。

 

 

「あ、先生、先生!」

 

”ン、君は……あぁ、あの時バーベキューのことを教えた子だったね”

 

 

 疲れ切って休息している彼のところへと駆け寄る一人のアリウスの生徒、その顔には覚えがあった。つい数時間ほど前にウィルソン家の秘伝レシピを教えた生徒だ。

 彼女は先生(マイケル)が自分の顔を覚えていたことにいたく感動しながらも、ビーチの一角を指さす。

 そこにあったのは彼が設置したバーベキューグリルの一群で、あれだけの大騒動があったというのにきれいにその場に残っていた。

 

 

「……先生の焼いていたお肉、私たちがあれからずーっと見ていました。教えてもらった手順通りに、きちんとテキサスクラッチ? とかいうのもやって、温度も確認して……それで、ようやくさっき出来上がったんです!」

 

”本当か!?”

 

 

 まさか、あの戦闘の最中に彼女たちがバーベキューの管理を引き継いでいたとは想像もしていなかった先生(マイケル)の声に喜色が乗る。

 彼は居ても経っても居られずにビーチチェアから立ち上がり、グリル群へと走っていく。

 気付いた生徒たちが笑顔で肉を見せているが、遠目で見ても見事なバーク*1が表面にしっかりと出来ていた。今回は途中まで自分がやっていたものだが、彼女たちはそれから引き継いで完璧にこなせた証といえた。

 

 

「えーっと、それで断面にスモークリング*2っていうのができていれば良いんでしたよね」

 

”ああ、そうだ。丁度スペアリブも上がっているし、見てみよう”

 

 

 そう言い、彼はスペアリブとブリスケットにナイフを入れる。何の抵抗もなく刃が入り、断面からは肉汁が溢れ出す。その断面には、見事なスモークリングが現れていた。

 

 

”……これはこれは、見るからに完璧だ。食べてみると良い、君たちにはその権利がある”

 

「え、いいんですか?」

 

「食べてみようよ、もう我慢できない……」

 

 

 先生(マイケル)に促され、調理していたアリウス生徒たちは切り出された肉片をつまみ、口の中に放り込む。瞬間、スモーキーな風味と溢れ出る肉汁の旨味が口の中に広がり、まるで天国の中に居るかのような気分になった。

 恍惚とする彼女たちを見て、先生(マイケル)は満足げに頷く。こうやって初めてバーベキューを口にし、その美味しさの虜になる瞬間を見るのは大好きなことの1つだ。

 

 

「お、おいしい! こんなに美味しいなんて、アリウスで食べていたのはただの生ゴミだよ……」

 

「に、肉がすっごい柔らかい……あぁ、直ぐに無くなっちゃうよぉ……ばにたすばにたーたむ」

 

”ははは、皆で一緒に食べればもっと美味しいし、ソースをつけたりバゲットに挟んで食べるなどの食べ方もある。よし、もう昼時だし……みんなを呼ぼうじゃないか”

 

 

 先生(マイケル)がいうように、時計を見ればもう12時を回っている。盛り付けの時間などはあるが、生徒たちを呼んでも問題ないだろう。

 シッテムの箱を通じてメッセージを送信し、彼は肉の切り分け作業に移る。ついでに自作のバーベキューソースとマスタードも用意し、準備は万端。

 サイドメニューに関しては、リゾートのシェフに頼んで色々と用意してもらっている手筈になっているのでそちらも問題はないはずだ。コールスロー、ベイクドビーンズ、マッシュポテト、マカロニチーズ……定番のものを揃えている。

 さあ、それではバーベキューを楽しもう。美味しい食事は人に幸福をもたらすのだから。

 

 

 

******************************************************************

 

 

 残骸や破片の片付けがある程度終わって海水浴も再開できるようになったビーチにて、生徒たちが行儀良く列に並んでいる。

 彼女たちが向かう先にあるのは、配膳のために用意されたスペース。肉を切り分け、サイドメニューを盛り付け、そして完成したBBQランチプレートが次々に並ぶ生徒に配られていた。

 

 

「うへぇ~……すごいボリュームあるねぇ」

 

「いい匂いがする。これが先生の故郷の味になるんだね」

 

「これが10時間焼かれた肉なの? 全然固くないし、なんかこう……不安になるくらい柔らかいわね」

 

「ソースをかけたり、バゲットで挟んだりでいろんな食べ方が出来るみたいですね~」

 

「あの辺りがきれいに空いてますから、あそこで食べましょう」

 

 

 対策委員会の面々がプレートを受け取り、そのボリュームと見た目に圧倒されつつも、未知との遭遇を楽しむような感じでビーチの片隅へと向かった。彼女たちはこれからアメリカンな味に衝撃を受けることになるだろう。

 他にもアリウス生徒、トリニティ生徒、百夜堂の店員、さらにはヘルメット団にも配膳していけば、200人前はあった肉はあっという間に品切れになる。しかし一通り全員に行き渡ったのは幸いといった所か。

 一先ず配膳を終えた後、先生(マイケル)は生徒たちの反応を見るべく周囲を歩き回ることとした。

 

 

”シズコ、どうだい? 怪我の方は大丈夫か?”

 

「あ、先生。すみません、お店の方を守ってもらって、その上にこんなものまでご馳走になるなんて」

 

”気にするな、元々好きでやってたことだからな。君は良く食べて、早く回復することを考えるんだ”

 

 

 早速彼が向かったのは、ドルフィン号に轢き潰されそうになっていた海の家、百夜堂。

 シズコが椅子に座って丁度スペアリブを食べている所に、彼はその隣の椅子に座った。

 

 

「骨付き肉なのにこんなに簡単に肉が剥がれるんですね。色々興味深いところではありますけど、百夜堂のメニューとはちょっと方向性が違うから取り入れることは出来そうにないですねー」

 

”まあ、君のところは基本喫茶店だからな”

 

「でも、美味しいですよ。百鬼夜行に戻ったらちょっと自慢できるかも」

 

 

 今百鬼夜行で留守番をしているフィーナやウミカのことを思い、シズコはいたずらっぽく笑う。先生(マイケル)の手掛けた料理を食べたという話は、確かに自慢話にはもってこいだ。

 

 

「それにしても、あのワカモさんを抑えるなんてすごいですね、先生は」

 

”私だけの力ではないのだがね……ところで、シズコはワカモのことを知っているのか”

 

「はい、災厄の狐と呼ばれて有名でしたから。ただ、巷で語られているようにただ怖いだけの人手は無いと思います。なんというか、ただちょっと我慢できないだけで」

 

”ふーむ……あぁ、ドリンクを1つくれないか”

 

「はーい、ありがとうございまーす」

 

 

 どの道後でワカモとも話をしなければならない以上、シズコの話は少々気になる所。彼はドリンクを頼み、椅子にさらに深く腰掛けた。

 

 

「実を言うとですね、私はワカモさんの顔を見たことがあるんですよ。とっても綺麗な人で、あんなに暴れるような人物にはとても見えないんですが……ただ、小さな子が不良にカツアゲされてるのを見た途端、表情が変わって……その後は仮面を付けて、不良たちをしばき倒していました」

 

”……なるほどな”

 

「まあ、私がワカモさんが暴れるところを見たのはそれっきりです。暴れ方も派手で、周囲の被害を考えない……災厄の狐と呼ばれるのは、そういうところなんでしょうね」

 

”面白い話を聞かせてもらったよ、シズコ。私はここで失礼させてもらうが、また機会があれば百夜堂に立ち寄らせてもらう”

 

「はい、百夜堂はいつでもお待ちしています、先生!」

 

「すいませーん、焼きそばくださーい!」

 

 

 ワカモの人となりを知るのに中々に重要な話を聞かせてもらった彼は、そのまま席を立つ。

 肉だけでは満足できない食いしん坊の生徒が訪れ、それと入れ替わるように海の家を出ると、彼は他の生徒の元へと歩いていった。

 

 

******************************************************************

 

 

「うわ~、こんなの病みつきになりそうだよ~」

 

「モモイ、こっちの野菜もきちんと食べないと行けませんよ」

 

「そうだよお姉ちゃん、ちょっとはバランスを気にしないと……」

 

「そんなこと言っても、ミドリだって似たようなものじゃん!」

 

 

 次にゲーム開発部のところに向かった彼は、ソースで口周りをべちゃべちゃに汚しながらも美味しそうに食べているモモイ達を目にする。ケイが横からナプキンで拭いて野菜も食べるように促しているが、それはまるで母親のような仕草といえた。

 

 

「あ、先生」

 

”やあ、気に入ってくれたかな? こいつは故郷の味でね”

 

「あ、はい……そう、ですね……今までこんなに柔らかいお肉、食べたこと無かったです」

 

「アリスはこのお肉たっぷりサンド、大好きです!」

 

 

 ユズはお行儀良くナイフ・フォークを用いて食べ、その柔らかさを堪能する。

 一方でアリスはバゲットに肉を挟んで小さな口を大きく開けて一口、二口。眩い笑顔で感想を述べると、彼は満足そうな表情を浮かべて頷いた。

 

 

”そいつは何より、といったところか”

 

「そういえば先生、もう帰っちゃうんですか?」

 

”ああ、あいつを早く修理しないと流石にS.C.H.A.L.Eの業務に支障が出るからな、迎えの輸送船で一緒にミレニアムに行かなきゃならん”

 

「あー……まあ、そうだよね。海水に浸かるってあんまり機械に良いものじゃないし」

 

「私も軽く診断しましたが、左腕部と推進系にダメージがありましたね。まあ、()()エンジニア部になら1日程度あれば直せる範疇だとは思います」

 

”それを聞いて安心したよ、ケイ。1週間かかるとか言われたらどうしようかと思った”

 

「今ならリオやリツコも手伝ってくれるでしょうからね、先生からの頼みと言われて断る生徒はミレニアムにはいません」

 

 

 食べながらではあるが、これからの予定について言葉をかわす先生(マイケル)とゲーム開発部、そしてケイ。

 彼女がメタルウルフの損害状況をある程度チェックしてくれたお陰で、修理にかかる時間がある程度推測できるのは非常にありがたいことだった。

 

 

”それでは、私はここで失礼させてもらうよ”

 

「はい、先生! またシャーレで会いましょう!」

 

 

 そして彼女たちに別れを告げ、次に向かうのはヘルメット団が居るエリア。

 どういうわけかその側にはクルセイダー戦車が停車しており、乗っていた元補習授業部の面々がヘルメット団の一人と話しているように見える。

 

 

”やあ、ハナコ。もしかして、彼女は知り合いか?”

 

「あ、先生……はい。元トリニティで私の1年の時のクラスメイトだった河駒風ラブさんです」

 

「……なによ、もう。うちに何か言いたいことでもあるの?」

 

 

 近づいてハナコに問えば、ヘルメット団のリーダーである彼女とは知り合いであると言う。そういえば制服がトリニティのデザインだなと一人納得し、彼はラブだけではなく他のヘルメット団員、そしてワカモを見る。

 疲れ切った様子の彼女たちであるが、用意されたバーベキューランチプレートを見て食欲をそそられているらしい。恐る恐る手を付け始め、肉を一切れ口に放り込む。すると―――

 

 

「あ、温かい! うますぎる!」

 

「犯罪的だ……こんなの食べたらもう冷たいたこ焼きなんて食べられないよ!」

 

「こんな温かい食事、どれくらいだろう……」

 

 

 よほどヘルメット団での暮らしがひもじいものであったのか、温食を口にして感激した様子。その様子に彼は居た堪れない気持ちに襲われた。

 カタカタヘルメット団の時もそうだったのだが、貧しい環境に子どもたちが置かれているというのは元々政治家であった彼には非常に心に来るものがあるのだ。

 しかし、そんな彼の心中をある程度察知したのか、ラブは不機嫌そうな顔を見せつつ肉を一口。途端に表情を綻ばせたが、先生(マイケル)の視線に気がついて取り繕う。

 

 

「あ、これおいし……オホン。一応、うちらは学校のしがらみとかそういうのに嫌気が刺してこういうコトをやってるの。安易に同情なんてされたくないわ」

 

「ラブさん、やっぱり……」

 

「浦和、あんただってあんな学園のこと嫌ってたでしょ。昔はあんたも優等生面してたけども、うちにはわかるのよ、そういうのは……それなのになんでまだ在学してるの?」

 

「そうですね……私は、そう。一緒に過ごして楽しいお友達が出来たから、ですかね」

 

「そうです、ハナコちゃんは私たちの大切な友達なんです!」

 

「あんたは相変わらずモモフレンズにハマってるのね、阿慈谷。まあ、それなら別にいいわ。はぁ、うちもあそこでそういう友達の一人でも出来たら人生違ってたのかしらね……」

 

 

 ほんの僅かな後悔を滲ませた様子で、ラブは元補習授業部のメンバーを見る。

 在学中、ハナコには及ばないがなまじ優秀であったばかりに政治抗争に巻き込まれかけ、それが原因で中退した彼女にはハナコの言う所の友人と言える存在は居なかった。

 もしもハナコのように友達の一人でもできていたら、自分はもしかしたら中退しなかったのかも知れない……そんなもしものことを一瞬考えるラブだが、頭を振ってその思考を追い出す。そんなもしものことを考えるぐらいならば、これからのことを考えねばならない。

 

 

「それで、ラブさんはこれからどうするんですか? このリゾートの修繕費用を払うとなると結構なお金になると思うのですが……」

 

「あーうん、それなんだけどもさ……このリゾートの責任者、ヨツイだっけ? そいつから尋問の後にちょっと契約を持ちかけられたのよね……」

 

”契約? どんなものだ”

 

 

 大人からの直接提示される契約というものに対し、かつての経験からほんの少しの警戒の色を滲ませながら先生(マイケル)は問う。

 

 

「そうねぇ……うちらの家、あのドルフィン号でのリゾート客の送迎。あれって元々揚陸艦だから少し手直しすれば貨客に使えるって言うんで、目をつけられた感じね。一応D.U.からここまで往復するだけの航続距離はあるし、条件も悪くないのよ意外と」

 

「ええ、丁度送迎用の乗り物を用意したいと思っていたんですよ」

 

”ミスターヨツイ……”

 

 

 ラブが話をする最中、現れるヨツイ。その脇には契約書らしき印刷物を抱えていた。

 

 

「河駒風ラブさん、あなたの行った破壊行為による被害額は相応の額になりますが、実を言えば保険でカバーできる範疇です。しかし、だからといって無罪放免というわけにも参りません。私どもはあなたの持つ機材、あのホバークラフトを有効活用し、我々の利益にすることを望んでいます。この契約を飲めば、被害は保険でどうにかしますが、どうでしょうか」

 

”一応、確認させてもらおう”

 

「ええ、どうぞ」

 

 

 ヨツイの持つ契約書を受け取り、先生(マイケル)は読み解いていく。

 黒服やカイザーのように変な条件があってはならないと隅から隅まで読んだ結果―――この契約書にそのような不審な点は一切無く、真っ当な期間雇用の契約書であることが判明した。

 

 

「この契約を飲まなければ被害額は自腹ってわけね……あ、休憩時間とかはこのリゾートで遊べるんだ。へぇ……お給料も悪くないわね、期間は今シーズン……うん、いいわ、この契約で合意するわよ」

 

”そんな安易に決めて良いのか?”

 

「ヘルメット団とかやってるとね、もっとひどい条件の仕事とか山のようにあるのよ。それに部下たちを食わせてやらなきゃいけないってことを考えると、選べる仕事は多くないの。今回の仕事だって報酬額の高さだけで決めたようなものだし」

 

”………”

 

 

 随分と大人びた考えをするラブであるが、それはつまりそれだけ社会の荒波に揉まれたという証でもある。ここに至るまでにどれだけ「騙して悪いが」されたのか、それを知る術は彼にはない。

 

 

”それが君の選択なら、私はそれを尊重しよう。だが、もし他の道を進みたいとかそういう子がいたのなら、私のところに相談しにきてくれないだろうか。直ぐに正解を出すことはできないが、できる限り希望に沿うような形で道を示す……そんな場所でありたいんだ、S.C.H.A.L.Eは”

 

「……へぇ、先生って変わってるわね。でも、まあ……そういう場所があるっていうのも悪くはないわね。覚えておくわ」

 

 

 最後にラブに対してシャーレへの誘いを忘れずに、対して彼女も悪い感じはしないと言った様子で答えてからヨツイの契約書にサインをする。

 他のヘルメット団員も不服は無いようで、これで彼女たちの処遇は決まったようなものだ。だとすれば、残るは―――

 

 

「………」

 

”………”

 

 

 ワカモの仮面越しの視線が背中に突き刺さっている。

 何かを期待しているような、あるいは伝えたいのか、そんな彼女にどう向き合えば良いのか。

 彼女たちより倍以上生きているマイケル・ウィルソンであったが、彼女のようなタイプと向き合うのは初めてであり、その正解などわかるわけがない。

 

 

”あ~……ワカモ、言いたいことがあればはっきり言ってくれ。人間であるならば言葉を使い、己の思いを表現するのが常道だ。誰もが他人の心の内を理解する事が出来ない以上、正しく思いを伝えられるのはじぶんしかないんだ”

 

「え、あ……ひゃぃ」

 

「……なんなのよもう、全然うちらのときと態度が違うじゃないの」

 

 

 ジャブジャブヘルメット団を乗っ取ったときと違い、まるで生娘のような*3態度をとるワカモに、ラブがスペアリブを骨ごとかぶりつきながらぼやく。

 

 

「えぇっと……あなた様、その、私……つい気持ちが昂って、あのようなはしたない真似をしてしまい……ま、誠に申し訳ございませんでした」

 

”あー、そういうタイプか、君は”

 

「ひっ……」

 

 

 恥ずかしそうに頭を下げるワカモに対し、先生(マイケル)はやや呆れた様子で肩を竦める。

 彼は決して怒っているわけではないのだが、しかしその態度はどうもワカモを怯えさせてしまったようで彼女が小さく悲鳴を上げた。

 

 

「そ、そんな、あなた様に嫌われてしまったら、私……私……」

 

「ちょっと先生、泣かせるなんて大人として駄目でしょ!」

 

”う、うーむ”

 

 

 仮面越しにさめざめと涙を流すワカモの姿を見て、たまらずコハルが声を上げる。彼女の持ち前の正義感によるものだが、それは相手は七囚人の一人である以上に一人の子供*4ということを強く意識させるものとなった。

 

 

”……はぁ、ワカモ。君が私に好意を向けているのは理解しているんだが、私は……ほら、見ての通りにな”

 

 

 そう言い、左手を見せる。その薬指には指輪が嵌められており、彼が未婚ではないということをワカモに示すが―――

 

 

「いいえ、あなた様にどのようなお相手がいようとも、このワカモがあなた様を想うことを止める理由にはなりません!」

 

”……そ、そうか”

 

 

 それは、ワカモの湧き上がる情動を沈静化させるものとはならない。むしろ逆に、己の感情を自覚させ、油を注ぐような行為にほかならなかった。

 彼女の気迫に思わず先生(マイケル)もタジタジといった様子で、頼りになる大人といういつもの姿は無い。

 

 

「あそこまで先生がタジタジなのは見たことがない」

 

「あ、あはは……」

 

「これは……なるほど」

 

「何がなるほどなのよ、ハナコ」

 

 

 元補習授業部の面々はそんな彼の様子に、声を潜めて思い思いの感想を述べる。

 ハナコだけこの状況を楽しんでいる様子だが、他人の色恋沙汰は面白いということだろう。

 

 

(”まいったな、これは。そりゃあ、キヴォトスは地球とは文化が違うんだから倫理観も違うだろうが……助けてくれジョディ、女性関係でのスキャンダルは身の破滅だぞ”)

 

 

 しかし、マイケル・ウィルソンとしては何も面白いものではなかった。むしろクーデター事件を含めて人生最大の危機が訪れたともいえる。

 彼から何代か前の大統領がホワイトハウスで不倫をして弾劾騒ぎとなったことは、決して忘れてはならないアメリカ政治上における事件であった。

 

 

「あの、あなた様……もしかして、ご迷惑でしたでしょうか?」

 

 

 そんな彼の葛藤を知ってか知らずか、ワカモはまるで仔犬のような雰囲気で見上げてくる。

 実態としては犬ではなく狐で、それも相当に凶暴なものということを知らねばコロッといってしまいそうな感じではあるが、彼はなんとかこの場を切り抜けようとその頭脳を働かせた。

 

 

”……君が私にどんな感情を抱くのかは自由だが、それは私が振り向くことを保証するものではない。先程も言ったように、()()だからな。それでも構わないというのならば、好きにすると良いさ”

 

「……は、はいっ!」

 

 

 左手の指輪を見せつつ、それでもワカモが自身を想うのを否定はしない。それが今の彼に出来る最大の譲歩、内心の自由を取り締まる法律など無い故に。

 彼女の心は彼女自身のものであり、いくら先生といえど強制することなど出来はしない。そんな事は神であったとしても不可能だ。

 だからこれは決して不倫を容認するものではなく、()()()への仁義を通すものである。

 

 

”それで……ああ、うん。君は連邦生徒会の矯正局から脱走し、傭兵稼業をしていた。それで今回、ジャブジャブヘルメット団に雇われてこのリゾートの襲撃に参加した……それで間違いはないか?”

 

「はい、あなた様の仰るとおりです」

 

”うーん……本来、このまま矯正局に戻すのが筋なんだが……”

 

 

 ワカモの感情問題に関して一段落したところで、彼女の処遇についての話に移る。

 こちらが本題なのだが、何か問題があるようで彼は眉を下げた。

 

 

”今、矯正局は全面改修の真っ最中で収容できる状況ではない。かといって、君を野放しにする事もできない。となればS.C.H.A.L.E預かりとなるが、その場合社会奉仕として業務に携わってもらうこととなる。無論、そこで問題を起こせば……まあ、S.C.H.A.L.Eに特別な独房を作ってそこで収容することになるだろうな、そして改修が済み次第矯正局に送り返される”

 

「……つまり、今自首すればあなた様のおそばに居られる、ということでしょうか? でしたらこのワカモ、喜んで自首致しましょう」

 

”……君が想像しているような暮らしはできないぞ、結局は矯正局の代わりでしかないからな”

 

「それでも、連邦生徒会のような組織に捕まるよりかは私の心は満たされます」

 

 

 自分の側に居られるのならば自首することも厭わぬ彼女の姿勢に、ここまでくると呆れるよりも感心が先にくる。彼女ほど情熱的で一途な人間を彼は見たことがない。

 そしてここまで彼女と話をしてわかったのだが、狐坂ワカモという少女は自らの感情をコントロールすることが出来ぬ人間であり、他者と交わる事がとにかく苦手なタイプだということだ。

 このままでは本人のためにもならないということは明らかであり、故に彼女に必要なのは教え導く存在、それは親であり、先生だろう。

 

 

”では、これから私と一緒にキヴォトスに戻るぞ。ミレニアムを途中経由するが、大人しくしていてくれよな? メタルウルフがあのザマだから今君に暴れられても止めることができないんでね”

 

「ええ、ご心配なく……あなた様が望まぬことなら、私は絶対にいたしません」

 

「……あの災厄の狐を手懐けるとは、只者ではありませんな、マイケル・ウィルソン先生」

 

 

 話が纏ったのを見て、ヨツイは感心した様子で2人を見る。

 百鬼夜行連合学院は彼女を御することが出来ず、最終的に自治区から追い出す形で矯正局に送り込んだというのに、あの男はこうも容易く言うことを聞かせることができたというのは彼自身この目で見なければ信じられない事であっただろう。

 

 

”それではミスターヨツイ、私はもう少ししたらこの島を離れなければいけません。モニターの件は後ほど生徒たちから意見をまとめて送付しますので”

 

「ええ、わかりました先生。今回はあなたが島に居てくれて本当に助かりましたよ、そうでなければリゾートは滅茶苦茶になって我が社は倒産していたかもしれません」

 

”私としても、連邦生徒会の子たちの要望を叶えてあげたいところであったのでね、お互いにめぐり合わせが良かったということでここは1つ。では、このリゾートの繁盛をお祈りします”

 

「ありがとうございます、先生。私もシャーレのこれからのご武運をお祈りさせてもらいます」

 

 

 最後にヨツイと別れの挨拶を交わし、その後彼はミレニアムの迎えの船がくるまでの間、連邦生徒会への報告書を纏めていく。

 リゾートを襲撃を企図した集団の存在、ワカモの確保、そしてメタルウルフの修理に関しての諸々を記入し、アップロード。これで今回の仕事に関する必要な業務は終わりだ。

 今回のリゾートのほんらいの目的であるアリウス生徒の社会学習も、まあ成功したと言えるだろう。これでキヴォトスにもっと馴染む事ができれば良いのだが、それは彼女達自身にかかっていた。

 

 

”さて、明日からエデン条約まわりで忙しくなるが……ワカモには少し大人しくしてもらわないとなぁ”

 

 

 先生(マイケル)の思考は既に明日以降のものに切り替わっている。

 エデン条約の調印式まで残り1週間、新たにシャーレビルの住人となるワカモの扱いに早速頭を悩ませながらも、7月4日という記念すべき日を楽しみにしている自分を自覚するのであった。

 

 

To be Continued in Vol3.2 ” Treaty of Eden(エデン条約)

*1
肉のタンパク質とスパイスが長時間のスモークで結びついた表皮のようなもの

*2
ピンク色の層。決して生焼けではない

*3
多分実際にそう

*4
尚ワカモは18歳であるが、彼の年齢からすれば()()()()()()()なのは間違いない




 これにて間章は終了です。
 ワカモがシャーレ預かりとなり、ラブはホバークラフトを失わないなど原作からどんどん乖離していきますが、ようやく次回からエデン条約編の後半に入ります。
 7月4日の調印式に向けて色々と準備を始めるマイケル・ウィルソンはゲヘナ学園に向かいますが、そこで何が起きるのでしょうか。


メカニック名鑑
名前:ドルフィン号
種別:エアクッション揚陸艦
製造:不明
 ジャブジャブヘルメット団の拠点として運用されていたホバークラフト、赤い色は高難易度の証。
 我々が知るところのポモルニク型エアクッション揚陸艦と良く似ているが、巡航ミサイルの発射管を持つなど差異が存在する。
 本作においては撃沈を免れ、後にロスト・パラダイス・リゾートの客の送迎に使われることとなった。

キャラクター名鑑
名前:ヨツイ
種族:獣人(柴犬)
所属:ヨツイ不動産開発
 百鬼夜行自治区のリゾート開発企業ヨツイ不動産開発の代表取締役。
 自治区外に進出するための足がかりとして連邦生徒会の保有するロスト・パラダイス・リゾート群島の開発事業を入札し、プロジェクトを進めている。
 正規の自治区で活動しているからか、真っ当な倫理観を持つ人物で、生徒に対しても公平な取引をもちかける人物。
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