METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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Episode4 ”Aftermath(事後)

 今日は快晴で、時間も真昼だというのに空が薄暗い。

 降り注ぐのは太陽の光ではなく、灰と火の粉。

 ぼんやりとする意識の中、ゲヘナ学園風紀委員長空崎ヒナは自分が石畳の上にうつ伏せに倒れているということに気がついた。

 

 

(一体、何が―――)

 

 

 はっきりとしない記憶をたどりつつ、彼女は痛む身体に鞭打って立ち上がろうとする。

 周囲を見渡せば、まるで市街地戦が起きたかのように建物の窓という窓は割れ、壁は崩れ、古聖堂の尖塔はその根本から崩れ落ち、先程までの荘厳な様子は見る影もなく、無惨な姿を晒している。

 通りも多数の瓦礫が散乱し、停めていた風紀委員の車は落下してきた古聖堂の壁面の直撃を受けぺちゃんこに。誰も乗っていなかったのが幸いといえた。

 愛銃を支えに何とか立ち上がった彼女の頭上を、RABBITのシンボルが描かれた青いブラックホークが黒煙を靡かせ、ぐるぐると機体を回転させつつ建物の向こうへと消えていく。

 

 

(真上で爆発が起きた……?)

 

 

 それにつられて空を見上げれば、真上には巨大な煤煙が空中にとどまり、周囲に煤と灰を撒き散らしていた。これは明らかに空中で何かが爆発した痕跡で、恐らくはその衝撃波の直撃を受けて昏倒したのだろう。

 ヒナは今感じている症状から推測するに、軽く脳震盪を起こしていると当たりをつけた。頭に銃弾をもらっても平然としている自分がこれほどの症状になるということは、爆発の衝撃波は凄まじいものがあったに違いない。自分ほど頑丈ではない他の風紀委員のメンバーはより重度の脳震盪になっていてもおかしくはなかった。

 

 

「くっ……体の動きが鈍い……」

 

 

 銃を杖代わりにしながら周囲を歩くヒナであったが、確認できる限り通りに出ていた風紀委員はほぼ全滅。外傷こそほとんどないものの、皆昏倒しており建物の中に居て直撃を避けられたものだけが行動可能だ。数えた所動ける人員は3割程度だろうか、部隊の戦力はかなり削がれている。

 特にアコが昏倒しているのはヒナにとっては痛手であった。彼女の補佐がなければ、この状態から無事なメンバーを掌握するのに時間がかかってしまう。風紀委員No.2という立場は決して伊達ではないのだ。

 

 

「委員長、ご無事ですか!?」

 

「少し脳震盪起こしているけど大丈夫よ。風紀委員で意識があるのはコレで全員? なら、救急医学部に連絡を―――」

 

「それが、爆発の前から通信が不通です。これは一体どういうことなんでしょうか」

 

「通信ができないなら足を使うだけよ。そこのあなたと、あなた、直ちに伝令に出発しなさい」

 

「はいっ!」「了解しました!」

 

 

 何とか意識のあるメンバーがぽつぽつと合流し始め、次の行動方針を伝えるヒナ。負傷者を収容するために救急医学部の装甲救急車を呼ぼうとするものの、無線通信は不可能。ジャミングはこの状態でもアクティブなままだ。

 ならばアナログな手法を用いるだけだと、彼女は最初に合流した風紀委員のメンバー2人を警備本部へと向かわせた。古来から存在する情報伝達の手段、伝令である。

 そして、伝令を出して終わりではない。まだまだこの状況下でやるべきことは多く、ヒナは少ない人数でどうやってそれらをこなしていくのか考える必要があった。返すも返すもアコが昏倒しているのが残念でならなかった。

 

 

「あなたたちは負傷者の収容を、そちらは近くの正義実現委員会との連絡を確立させて。あなたたちは私と一緒にさっき落ちてきたヘリの救助に当たるわ」

 

「わかりました、委員長!」

 

 

 風紀委員会のメンバーに仕事を割り振り、自身も警戒を厳とし武器を構える。もう脳震盪の症状は殆ど回復していたため、戦闘になっても支障はない。一刻も早く墜落ヘリの救助に向かうべきだろう。

 

 

「あ、あれ……? なんでこの程度の被害しか出ていないんですか……?」

 

「…………」

 

 

 そんな折、路地裏から突然姿を見せる武装集団。その服装はアリウス高校の生徒たちと同じながらも雰囲気が違うため、ヒナは即座にそれがアリウス分校のグループであることを見抜いた。

 ほぼ全員がマスクで顔を隠している中、一人だけマフラーで顔を隠しきれていない浅葱色の髪をした生徒がヒナの様子を見て、話が違うと言わんばかりに絶望を滲ませた表情を見せる。

 しかし、その手に握られた20mm級の大口径対物ライフルの銃口は、そんな言葉とは裏腹に真っ直ぐにヒナに向けられていた。

 

 

「アリウス分校ね、貴女達」

 

「ひっ……」

 

 

 ヒナが愛銃、終幕:デストロイヤーを構えると同時に他の風紀委員のメンバーも銃を構える。

 アリウス分校の集団は明らかに動揺しているようだが、風紀委員側もメンバーはアリウス側よりも遥かに少なく、全員が何かしらのダメージを負っている。

 しかし、多少のダメージがあろうとも、()()()()()たる空崎ヒナが居る限り、どのような相手だろうと風紀委員に敗北はない。

 

 

「所詮人生なんてこんなものなんです。苦しいですよね、辛いですよね……」

 

「そう……それじゃあせめて、痛みを感じずに気絶させてあげるわ」

 

 

 アリウスとゲヘナ、双方の引き金が同時に引かれ、古聖堂の周囲に銃声が響き渡る。

 これが、古聖堂周辺における戦いの始まりを告げる号砲となった。

 

 

******************************************************************

 

 

 激しい衝撃とともに古聖堂の内装が崩れ落ち、シスターフッドの生徒たちが悲鳴を上げる。

 ステンドグラスは粉々に砕け、壮麗なレリーフは壁ごと崩れ去って見る影もない。

 せっかく修復した巨大なパイプオルガンはその音色を披露する機会もなく倒れかかってきた柱によってひしゃげ、逃げ惑う生徒たちの頭上からは基部ごと脱落したシャンデリアが凶器となって迫る。

 

 

「きゃあああっ!?」

 

「痛い、痛いよぉ!」

 

 

 落ちてきたシャンデリアは直撃こそなかったものの、飛散した破片で傷を負う生徒のうめき声が聞こえ、消えずに散ったろうそくの火がカーペットや木製のチャーチチェアを焦がしていく。

 それに気づいた生徒が消火を試みるが、消火器の位置すら分からぬ状況では初期消火すらままならない。このままでは火が回るのも時間の問題だろう。

 

 

「皆さん、出口はこちらです! 慌てないで、私たちの指示に従ってください!」

 

「サクラコ様、私たちも早く脱出しましょう!」

 

「あぁ……そんな……」

 

 

 聖堂の中で警備にあたっていたハスミが大声を張り上げ、混乱状態にある群衆を何とか外へと逃がそうと誘導を試みる。この古聖堂の損傷状況ではいつ大規模な崩落に至るか分かったものではないため、彼女の判断は正しいといえた。

 ヒナタはサクラコに脱出を促すが、呆然としている彼女の反応は鈍い。

 アリウスの襲撃は予期していたはずであったにも関わらずこのような被害を出してしまったことと、アリウスは()()()()()()()()というショックが大きく、周囲の音が入ってこないのだ。

 

 

「……サクラコ様、失礼します!」

 

「ひゃあっ!? し、シスターヒナタ……!?」

 

 

 サクラコの反応が鈍いのを見たヒナタは、他に手はないと言わんばかりに一声かけて軽々と抱き上げた。彼女の膂力からすれば、人の体重など軽いものなのである。

 思わず素っ頓狂な声を上げるサクラコを無視し、ヒナタはハスミの元へと走り出す。

 

 

「サクラコさん、無事でしたか! 現在状況は不明、アリウスの攻撃なのは間違いないと思いますが、通信が一切できず警備本部との連絡が取れません。私たちは今孤立状態にあります!」

 

「ナギサさんとマコト議長はどちらに?」

 

「スケジュールの上では先程まで外で先生のスピーチに同席しているはずですが、この状態では確認のしようが……」

 

 

 ハスミとの合流を果たし、ヒナタに抱えられながらサクラコは状況の把握を試みるが、通信妨害がなされている状況ではハスミもサクラコと同じレベルの情報しか持ち合わせていない。

 警備本部に居るツルギとの連絡を取るべく伝令を走らせてはいるものの、古聖堂からの避難誘導は優先順位が緊急レベルに高いタスクで、こちらも無視できるものではなかった。

 

 

「まずは外へと出ましょう、こちらへ――――っ!?」

 

 

 何にせよ、考え込むには古聖堂の中は危険すぎる。早く安全なところへと避難するべきだと誘導を再開するハスミの前に、外から武装集団がなだれ込んできた。服装から推測するに、アリウス分校側の戦力だ。

 アリウス高校の生徒たちはガスマスクを身につけていないため、分校の部隊と遭遇した場合にはそのあたりの判別は容易なのはありがたいのだが、今はそれどころではない。

 

 

「……予想よりも全然被害が小さい。まさか、迎撃した? あのミサイルを?」

 

「アリウス分校……やはり、貴女達でしたか」

 

「ハスミ、サクラコ……トリニティの高価値目標(HVT)を確認、攻撃する」

 

 

 アリウス分校のグループの先頭に立つ黒いマスクの少女、戒野ミサキ。ミサイル攻撃の効果が小さいことに驚いた様子ながらも、サクラコ達を見つけるやいなや肩に担いだロケットランチャー、セイントプレデターを無造作に3人に向けて引き金を引く。

 ハスミと、サクラコを抱えたヒナタは咄嗟に弾を躱すものの、砲弾は彼女たちの後方、混乱状態にある生徒たちの真ん中で炸裂して多くの生徒が巻き添えを食らった。

 

 

「うわあああっ!!」

 

「そんなっ!?」

 

「なんて非道な……ッ!」

 

 

 突然の直接攻撃は、聖堂内の混乱を助長させるには十分すぎるものがあった。もはや状況の収拾は不可能で、人々は我先にと出口に向かって駆け出そうとする。

 しかし、聖堂の正面入口は尖塔の崩落に伴い瓦礫に埋もれて脱出不能であり、翼廊側の出入り口から逃げ出そうと詰めかける人々に対してアリウス分校の部隊は何の躊躇もなく引き金を引き、銃弾を浴びせかけた。

 これにより多くの人が傷つき、倒れ、混乱は更に広がっていく。

 

 

「これ以上の狼藉は許しません!」

 

「このような暴挙は止めねばなりません。シスターヒナタ、共に!」

 

「はい、サクラコ様!」

 

 

 その無法に対し、怒りに燃えるハスミ。使命感から止めようとするサクラコとヒナタ。

 アリウスとトリニティ、互いに銃口を向け、トリガーにかかる指に力が込められたその瞬間、双方の間に突如として揺らぎが生じ、その中からいくつもの()()()()()姿が現れた。

 最初は朧げであったが、時間が経つにつれてそれははっきりとした形になっていく。その姿を見たサクラコは驚愕に目を見開き、銃を構えた姿勢のまま動けない。

 

 

「あれは……そんな、どうして……」

 

「サクラコさん、どうしたんですか!? あれは一体……」

 

 

 それは、シスターの姿をしていた。

 今からすればかなり際どい格好ではあるものの、その姿は古の記録に残された由緒あるもの。

 ガスマスクを付けており表情は伺えず、ヘイローは砕け、青白く半ば透き通って見える四肢はその存在がこの世のものではないことを示し、サクラコだけではなくヒナタも驚愕の表情を見せる。

 ハスミはそれが何なのかは知らなかったが、しかしシスターフッドの2人には心当たりがあるのだと悟り、すかさず問う。サクラコは震えた声でそれに答えた。

 

 

「か、戒律の守護者……古き時代の、ユスティナ聖徒会に違いありません……!」

 

「それが何故、今ここに……」

 

 

 何故ユスティナが現れたのか、それを知る術を彼女たちは持たない。だが同時に、アリウス側も戸惑いが生じているかのように攻撃の手が弱まる。

 マスクで顔の半分を隠しているミサキであったが、その眼を見れば困惑している様子が伺えた。

 

 

「ユスティナが動かない……何故? あの人形との取引に問題が? それとも、別の……」

 

「話が違う……!」

 

 

 狼狽えるアリウス分校の部隊だが、その隙を突くほどの統制は正義実現委員会には残っていない。だが部隊としては機能しなくとも、個人は動ける。

 ハスミは即座に銃を構え、指揮官であろうと目星をつけたミサキに照準を合わせた。相手が反応する前に沈め、指揮系統を無力化するのは戦いにおける常套手段。

 しかし、いざ引き金を引こうとしたその瞬間、新たなユスティナがその射線を塞ぐように現れた。

 

 

「これは……!?」

 

 

 困惑するハスミだが、それはアリウス側も同じ事。逃げ惑う生徒たちの壁になるようにユスティナが現れ、アリウス側も射撃の機会を失ったのだ。

 ユスティナはアリウス分校の部隊を包囲するように現れ、しかし何もしない。何もしないからこそ、アリウス側はユスティナを攻撃するという選択を取れなかった。もし撃ったらどのような反応を示すのか予想が付かないというのが抑止力となり、古聖堂から銃声が止む。

 

 

「まさか、争いを止めようとしている……?」

 

 

 サクラコが呟いた言葉に反応するように、隊列を組むユスティナの一人が振り向く。ガスマスク越しなので表情は見えないが、不思議と彼女は微笑んでいるように思えた。

 

 

******************************************************************

 

 

 鳴り響く警報、赤く染まるコンソール。機体が異常振動を起こして今にもバラバラになりそうになっているが、SRT用に製造された強襲ヘリたるXAH-12はRABBIT小隊のMH-60(ブラックホーク)と違い非常に頑丈に作られているため、爆発の衝撃波を受けながらも辛うじて制御を保ち、その姿はいまだ空にあった。

 パイロットであるHOUND2、陸双カズミは必死に操縦桿やペダルを操作して機体を安定させ、ようやく落ち着いたところでキャビンからHOUND1、岸洲トミがドアを開けて顔を覗かせる。

 

 

「おい、HOUND2! 酔っぱらいの運転よりひどいぞ、どうなっているんだ!」

 

「爆発だ、それも相当デカいやつが空中で……煽りを受けたRABBITのヘリが落ちていくのが見えたが、どこに落ちたかまでは……」

 

「クソッ、どこのどいつがこんな馬鹿な真似をしてくれたんだ!」

 

 

 混乱の最中、悪態をつくトミ。このような事態を想定しなかったこともあり、非常に焦りの色がにじみ出ている。

 

 

「地上に負傷者多数。HOUND4、まだ通信妨害は突破できないのか?」

 

「駄目です! 妨害電波は広域、高出力で対策できません!」

 

「ちょっとこれ、まずいでしょ。FOXの先輩達との合流を優先したほうがいいんじゃないの?」

 

 

 地上との通信が途切れ、孤立状態にあるヘリの機内でHOUND小隊の不安は大きくなる一方。友軍との合流を優先したくなる心境も分からなくもない。

 墜落したRABBIT小隊のことは気がかりだが、何も情報が手に入らない状況で捜索救助(SAR)など二次災害待ったなしであり、そんな選択肢は取れるわけがなかった。彼女たちだって1年生とは言えSRTのメンバー、何とか自力でのサバイバルを期待するばかりだ。

 

 

「HOUND3、それはいい考えだと思うがどうやって連絡を取る? 無線通信は相変わらず使えないが」

 

「確実性には欠けるけども、ライトを使ってFOX小隊のいたビルに発光信号を送るというのは? サーチライトを使えばまあ、視界に入れば気づくでしょ」

 

「それしか無いか……HOUND2、良いな?」

 

「了解―――いやまて、ビルから発光信号を確認。流石は先輩方だ、状況把握が早い」

 

 

 FOX小隊との合流を図るべく、彼女たちがいたビルへと近づくHOUND小隊。すると屋上からチカチカとライトが点滅するのが見え、カズミはヘリを屋上につける。

 この状況では着地はできないので真横でホバリングさせる形だが、ダウンウォッシュを気にする様子もなく空いたキャビンドアからFOX小隊は一人の欠けもなく機内へと乗り込んできた。

 

 

「いやー、助かった。エレベーターが壊れた上に非常階段まで崩落してちょっと閉じ込められてたんだよね」

 

「私語は慎むように、FOX4。でも、HOUND小隊が来てくれて助かった」

 

 

 最後にヘリに乗り込んだFOX4、天神山オトギが軽口を叩くと小隊長たるFOX1、七度ユキノがピシャリと窘める。とはいえ、オトギがいうように大きく損傷したビルの上層階に取り残されていたのは事実なので、HOUND小隊のヘリが迎えに来たことに対し礼を述べた。

 

 

「RABBIT小隊のヘリが墜落したのはこちらでも目視で確認している。そして地上は負傷者が多数……銃声が聞こえ始めたということは、戦闘が始まっていると見て間違いないだろう」

 

「RABBITの捜索救助と、混乱の収束……どちらを優先するべきか。今回我々HOUND小隊はFOX小隊の判断に従います」

 

 

 ヘリがビルから離れ、周囲を旋回。周辺の状況を確認しながらトミとユキノはどう動くべきかを話し合う。とはいえ、状況は切迫しており悩む時間などありはしないのだが。

 

 

「混乱の収束を優先するべきだ。RABBIT小隊とてSRTの一員、きっと無事で居るはず。我々は我々でこの状況をなんとかしなければ、せっかく再始動したSRTの不要論に波及する恐れがある」

 

「了解しましたFOX1、HOUND小隊はこれよりVIP……シャーレの先生と合流し、古聖堂の安全確保に入ります。HOUND2、ファストで部隊を下ろした後にお前はトリニティ本校舎に状況を伝達、可能なら後に陸路で合流してくれ。この状態ではヘリでのCAS(近接航空支援)は不可能だ」

 

「荒事は苦手なんだが、そうも言っては居られないか……HOUND2拝命した」

 

 

 本来は互いに独自裁量による行動権限が付与されているSRTだが、今回は緊急事態であり一貫した指揮系統が必要だ。年長であるFOX小隊、その隊長であるユキノの判断にトミ、そしてHOUND小隊は従うことにした。

 そして方針が決まれば行動は早く、ヘリがビルの前にホバリングしてファストロープを垂らし、ヘリパイロットであるカズミを除いた全員がロープ身一つ、器具なしで伝って地上に降り立ち、着地点で銃を構えて周辺警戒。全員が降りた直後にロープが切り離され、ヘリは後方へと退避していく。

 

 

「展開、古聖堂への最短ルートを通る! 地上の敵は情報の通りアリウス分校のはずだ!」

 

「FOX3、前に出るわ」

 

「HOUND4、追従します」

 

 

 両小隊のポイントマンとしてFOX3高倉クルミとHOUND4礼文アリアが前に立ち、爆発で荒れた町並みを進む。

 爆心地からは距離があるためか、この周囲では昏倒した負傷者は見られず、皆既に逃げ出しているのか人の気配すら感じられない。故に、彼女たちの行軍は予想よりも早く古聖堂前の広場へとたどり着くことができたのであった。

 

 

「これは……既に交戦中か。FOX、HOUND各員、アリウス分校戦力を掃討しろ!」

 

 

 彼女たちが広場に到着した時には既に爆発から幾分時間が過ぎているため、爆発に合わせて突入してきたアリウス分校との戦闘が発生していた。正義実現委員会及びティーパーティー、万魔殿(パンデモニウムソサエティー)の儀仗隊の生き残りが交戦している様子が見える。

 一方、シャーレの先生(マイケル・ウィルソン)の姿は見えない。果たしてどこに居るのか、爆発の直前までそこで演説をしていたのは確認できているのだが―――

 

 

「新手か、多少数が増えたところで……!」

 

「来るぞ、各員応戦!」

 

「了解!」

 

 

 しかし、捜索する暇もなくアリウス分校の部隊がSRTに気づき、ターゲットを変えた。既に正義実現委員会と儀仗隊の戦力は壊滅寸前で、新たに接近してきた部隊を脅威と見なしたというわけだ。

 FOX、HOUNDの両小隊はポイントマンたる2人がその攻撃を引きつけながら各自遮蔽に滑り込み、火力支援役であるオトギ及びタエコがお互いの得物である対物ライフルとライトマシンガンを構え、前衛の前進に合わせて引き金を引く。

 狙いは擲弾射手とミニガン持ち。タエコは主として愛用するMk43 Mod1”アペリティフ”で巧みな点射(バースト)を行い、相手を怯ませて頭を下げさせた。これは教本にも載る典型的な制圧射撃だが、教本に載るが故に堅実。

 

 

「相変わらず良い筋してるじゃんタエコちゃん。それじゃ、こっちは……っと!」

 

「あぐっ!?」

 

「突入! 敵の防衛線は崩れた!」

 

 

 合わせて行われるオトギの狙撃もまた熟達者の領域で、頭を上げられないアリウスの射手を次々に沈めていく。これでアリウス部隊の一角が崩れ、すかさずFOX小隊の3名とHOUND小隊の2名が敵の隊列に殴り込む。白兵戦の始まりだ。

 

 

「FOX3、敵は広範に広がってるけど、保有する火力の射程にギャップがある。距離感をうまく取ればこっちが一方的に叩けるはずよ」

 

「了解FOX2、HOUND4も今のは聞いたわね?」

 

「聞こえています。HOUND4エントリー!」

 

 

 そんな中、FOX2吉野ニコは一歩引いた位置で冷静にアリウス部隊の装備を観察し、その編成の欠点を各員に伝達する。アリウス部隊の一般編成は短機関銃、ミニガン、グレネードランチャーと装備に大きな偏りがあり、近~中距離の火力発揮に問題があることを見抜いたのだ。

 それを受け、先頭をゆくポイントマン2人は一気に距離を詰めてアリウスの火力の隙間を突くように急速に浸透していく。

 サブマシンガン程度の火力ではSRTの防弾装備を抜けず、ミニガンやグレネードランチャーは近づかれると使いづらい。いくらアリウスが訓練を積んだ精兵とは言え、最高峰の熟練度と装備を誇るSRTを相手にするには編成やら何やらを間違えたと言えるだろう。

 ユキノやニコ、トミの3人が更に傷口を食い破っていき、またたく間にアリウスの兵力は削られていく。この場に7人ものSRTが居るとなれば、この結果は当然とも言えた。

 

 

「くっ、どういうことだ……!」

 

 

 アリウス側の指揮官である錠前サオリからすれば、それはまさに災厄といえた。ゲリラ戦術に関しては他の追従を許さぬ彼女であるが、現在一定規模の部隊を率いて攻撃を行っている以上、得意のゲリラ戦は行えるものではなかった。むしろ、相手のほうが少数で機動力があり、こちらが守勢に押し込まれている。

 当初の予定はミサイルの着弾に合わせて古聖堂へ突入、()()を得た後に周辺勢力を掃討。トリニティ、ゲヘナ、そしてシャーレの高価値目標(HVT)を殺害し、両校をキヴォトスから消し去るというものであったのだが、そもそも最初のミサイルの着弾からして予定通りとは言えなかった。

 3()()()()特殊(サーモバリック)弾頭を搭載した超音速巡航ミサイルを叩き込んだにも関わらず、周囲の被害は大きくない。想定では古聖堂の完全崩壊、警備部隊も壊滅まで追い込めるはずであったのだが、そのどちらも達成できていない。それでも攻撃を行わざるをえなかったのは、()()を得るための時間が必要だったからだ。

 

 

「……な、なんだこいつはっ!?」

 

「敵!? いや、これは一体……」

 

 

 そして、サオリ達にとって待望の瞬間が訪れる。

 突如として広場に湧き出るように現れるシスターたち、ユスティナ聖徒会。()()()()()()()()()がついに現れたのだ。

 SRTや他の交戦メンバーは突然の事態に射撃の手が止まり、押され気味となっていたアリウス部隊がすかさず反撃を試みるが、しかし―――

 

 

「何っ!? 何故ユスティナが勝手に動く……!」

 

 

 古聖堂内部における戦闘と同じく、ユスティナは戦いを止めるようにその身を盾とするように立ちはだかる。アリウス、SRT、警備部隊、そのすべてが射線を塞がれ、トリガーを引けずにいた。

 訪れる静寂、だがそれはアリウス側としては望むものではない。いまだ目標の1つも達成できず、計画の上ではスクワッドの指示に従うはずのユスティナ聖徒会の制御すらままならない。これでは自分たちはただの道化ではないか。

 

 

「ふ、ふざけるな……! 私たちの恨み、憎しみがこんな形で終わるはずが……!」

 

 

 怒りに震えるサオリ。どういう理由かは知らないが、そんな彼女にユスティナは武器を持たずに近づいていく。まるで怒りを鎮めようとしているような行動に、ユキノ達は目を丸くした。

 

 

「あれはシスターの幽霊……なのか?」

 

「FOX1、どうする?」

 

「わからない以上手を出すのは得策ではない。とはいえ、このままでは埒が明かないか……」

 

 

 ユスティナはサオリに対して両腕を広げ、近づいていく。抱擁を目的としているのが傍目にも理解できたが、それに対しての返答は―――

 

 

「ふざけたまやかしはやめろ! 私たちの復讐の邪魔をするな!」

 

 

 感情を爆発させ、ユスティナに対して何度も引き金を引いて銃弾を叩き込むサオリ。

 幽霊のようなものとは言え銃弾は通用するのか、撃たれたユスティナはほんの少しだけ悲しげな雰囲気を滲ませ、虚空に溶けるように消えていく。

 

 

「ハァ、ハァ……攻撃を続けろ、命令だ!」

 

「は、はい!」

 

 

 精神的な負荷からか、息も絶え絶えな様子でサオリはアリウス部隊に戦闘継続の指示を出す。

 即座に部隊はユスティナごと攻撃を始めるものの、彼女たちの攻撃を受けて消滅すると同時に新たなユスティナが湧き上がり、その数は増えるばかりだ。

 そしてユスティナに完全に包囲され、アリウス部隊は弾切れを起こす。既に消耗していたため予備弾は最早無く、次に訪れるであろう自分たちの末路を想像し、彼女たちは恐怖に震えた。

 

 だが、それに対し声を上げる人物がここにいる。

 

 

”ちょっと待った!”

 

 

 崩れた尖塔、その瓦礫の山が突如持ち上がり、突き出される濃紺色の鋼鉄の腕。

 それが何なのか、その場に居た生徒全員が理解する。あれは間違いなく―――

 

 

「先生、無事だったのか!」

 

「瓦礫に埋もれていたのか……」

 

「そんな……」

 

 

 瓦礫の中から身を起こすメタルウルフ。すっかり粉塵にまみれて白っぽくなっているものの、外観を見る限り大した傷はついていない。

 喜びの声を上げる警備部隊とSRTだが、一方でアリウス部隊は完全に心が折れた。結局、この襲撃で目標の1つも達成できなかったという事実を目の当たりにすればこうもなるだろうか。

 

 

「一体何があったのですか、先生」

 

”うん、まあ少々話は長くなるかもしれんが―――”

 

 

 果たして今まで何をしていたのかを問うユキノの質問に、彼は静かに語り始めた。

 

 


 

 

 時間は少々遡り、サオリが電子妨害装置の起動を指示した直後。

 演説を続けるシャーレの先生(マイケル・ウィルソン)だったが、巨大スクリーンで放送されている自身の姿が突如として砂嵐に変わったことで異常事態が起きたことを察知した。

 ゲヘナ、トリニティ問わず多くの生徒が一体何が起きたのかとどよめく中、彼は即座に身を翻して背後にあるメタルウルフへと乗り込み、シッテムの箱を接続。搭乗者の認証プロセスを経て機体のメインOSの起動シーケンスが始まる。

 コンソールが何度か点滅した後に機体のメインカメラに赤い光が灯り、モニターには周囲の様子が映し出され、アロナの声がスピーカーより発せられた。

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動します!』

 

”アロナ、状況を把握しろ”

 

『はい、強力な妨害電波を検出しています! 現在スペクトル解析中』

 

 

 アロナが冷静に状況を報告する中、上空ではHOUND小隊のヘリがフレアを撒き散らしながら周囲の建物に隠れるように高度を下げた。攻撃があったのか、予防的な回避行動なのかはわからないが、何か意図があるのは確かだ。

 

 

”諸君、どうやらこのパーティーに飛び入り参加したい連中が居るらしい。戦えない生徒は避難していたほうがいいぞ、今からここはパーティー会場(戦場)になる”

 

「えっ……あっ、はい、先生!」

 

 

 彼はメタルウルフの背後で状況が飲み込めないアリウス高校の生徒たちに声をかけ、直ちに退避を促す。そして正義実現委員会の生徒たちが状況を把握できず、右往左往しているのを見て顔をしかめた。こういう時に率先して動くのが治安維持組織たる正義実現委員会のはずであろうに。

 仕方がないとばかりに彼は声を張り上げ、彼女たちに発破をかけた。

 

 

”直ちに正義実現委員会は避難誘導に当たれ!”

 

「は、はい! 皆さん、私たちの誘導に従ってください!」

 

「慌てないで! 落ち着いてください!」

 

 

 ようやく避難誘導が始まり、群衆や式典参加者がぞろぞろと動き出す。いつアリウス分校の攻撃が始まるか分からぬ状況に焦りを覚えながら、彼はメタルウルフを跳躍させ古聖堂の尖塔に飛びつかせた。

 まるでエンパイアステートビルに登ったキングコングを思わせる姿勢で古聖堂の近辺を見渡すものの、周囲で戦闘が起きた形跡はない。どういうことだと思い顔を上げたメタルウルフであったが、結果として搭載された高性能カメラは地平線の向こうから迫るミサイルの姿を捉えることに成功した。

 

 

”あれは……まさか、ミサイルか!?”

 

 

 様々な戦場を渡り歩いていた彼は、朧げなシルエットでありながらも迫りくる物体がミサイルであることを看破する。そして直ちに背面の武装コンテナからレールガン、RG70(MCKINLEY)を取り出し、迎撃の構えを取った。

 迎撃ならMIM-204(PRES PATRIOT)ミサイルも手段の1つだが、レーダーがホワイトアウトして使い物にならない以上、直接照準で狙撃するしか無い。不安定な姿勢だが、彼はRG70(MCKINLEY)の銃口をミサイルへと向けた。

 

 

『あのミサイル、速度が音速を超えています! 今計算しましたが、現状射撃チャンスは3回のみです!』

 

”1本に付き1発あれば十分さ!”

 

 

望遠で見るミサイルは()()()()()()()。つまり、自分に向けて飛んできているというわけだが、それは逆に偏差を取る必要がないということでもある。

 ならば狙いをつけるのは容易い。彼は即座に引き金を引き、コンデンサに蓄えられた電力が解放され、弾体がプラズマと共に銃口から飛び出していく。

 最初の一発は先頭を飛ぶミサイルの真芯を捉え、弾頭を粉砕。構造を破壊しながら推進剤に引火し、炎と残骸を市街地へと撒き散らす。

 

 

大当たり(Bullseye)! 次だ!”

 

 

 2発目もミサイルの真芯を捉え、構造を完全に崩壊させる。降り注ぐ残骸による被害はコラテラル・ダメージと言うほか無い。

 

 

”そして最後……これで、終わ……ッ!?”

 

 

 3発目、既にミサイルは目前まで迫っており、外せば直撃は免れないだろう。

 流れるように銃口を向け、引き金を引こうとしたその瞬間、掴んでいた尖塔の一部がボロリと脱落してメタルウルフの姿勢が一瞬ずれる。尖塔は修復作業が行われておらず、メタルウルフの重量と射撃の反動にとうとう耐えることができなくなったのだ。

 

 そして発射時のズレは僅かではあったものの、それは致命的な結果をもたらす。

 

 真芯を貫けなかったが故に弾頭はその機能を保持したまま、信管が損傷により誤作動を起こした結果―――空中でミサイルが炸裂したのだ。

 

 

”うおおっ!?”

 

 

 極めて強烈な、そのミサイルのサイズでは信じられぬほどの大爆発。爆風と衝撃波で周囲の木々はなぎ倒され、式典のために準備された機材は吹き飛ばされる。周囲の建物のガラスは粉々に砕け散り、古聖堂はそそり立つ尖塔が耐えられずに崩壊した。

 無論、尖塔にしがみついていたメタルウルフは崩れ落ちる構造材と共に地面へと放り出される事となり、激しい衝撃波を受けてシェイクされるコックピットの中で先生(マイケル)は辛うじて機体を減速させて落下の衝撃を和らげることに成功するものの、直後尖塔の残骸が彼の居る場所目掛けて降り注いだ。

 

 

”おふっ!”

 

 

 そのまま大重量に押しつぶされ、この衝撃にメタルウルフそのものは耐えたものの、流石に生身の体は耐えられずに意識を手放す。最後にもう少し鍛えておくべきだったという後悔が残ったが、これほどの衝撃を受けて無事で済むのは最早伝説級のニンジャのレベルだろう。それを求めるのは酷というものだ。

 

 


 

 

「なるほど、先程まで意識を失っていたと。まあ、あんなものの下敷きになっていれば無理もない話ですが……」

 

”ここまで気を失ったのは久しぶりだよ、衰えを感じるな”

 

 

 ユキノが見る先にあるのは、ほぼ根本から折れた古聖堂の尖塔の残骸。バラバラになった石材だけでも相当な重量があるということが伺え、体積的には小さなビルが1棟そのまま降ってきたようなものだ。3m程度の大きさしか無いメタルウルフからすれば大きな衝撃を受けたのは間違いない。

 むしろよく生きていたなという感想を彼女は持ったものの、シャーレの先生(マイケル・ウィルソン)がキヴォトスで行った戦闘の数々を思えばさもありなんといったところだ。

 

 

”さて、それでは……”

 

 

 メタルウルフの顔が向いた先にいるのは、意気消沈してユスティナに包囲されているアリウス部隊。武装解除こそしていないものの、マガジンどころかチャンバーにすら弾薬は装填されておらず、一切の抵抗ができない状況にあった。

 彼女たちは近づくメタルウルフの姿に肩を寄せ合い、恐怖に震える。きっとこれからひどい目に遭うのだと予想しているのだ。唯一サオリだけは憎悪や怒りのこもった視線を向けていただが、彼はそれを無視して彼女たちの前に腰を下ろす。

 ユスティナたちが見守る中、彼は大仰に両腕を広げて歓迎するようなポーズをとった。

 

 

”おめでとう、これで晴れて君達もアリウス高等学校の一員だ”

 

「は……?」

 

 

 何故歓迎されるのか、さっぱりわからないとばかりにアリウス分校の生徒たちは呆気にとられた様子でメタルウルフを見上げる。

 

 

”放送は聞いていたかな? アリウス高校は連邦生徒会のデータベースに新たに登録された、キヴォトスで最も新しい学園だ。アリウス分校という未承認の学校を正規に登録し直したもので、君達の学生証は自動的にアリウス高校のものとなるように手続きを済ませた。君達のお友だちだってそうだ”

 

 

 そう言い、メタルウルフの顔が古聖堂へと向けられる。彼女たちがつられて見ると、別のアリウス分校の部隊が同じようにユスティナに包囲され、ハスミ達が連行する形で翼廊側の出入り口から出て来た。

 また古聖堂の裏側からは、ゲヘナ風紀委員会に引き立てられる形で別のアリウス部隊が歩いてくる。こちらにはユスティナはついていないが、アリウス部隊はやたらとボロボロだ。恐らくだがヒナにやられたのだろうなと先生(マイケル)はあたりをつけた。

 実際その通りで、殆どヒナ一人のために古聖堂裏にやってきたアリウス部隊は壊滅している。

 

 

「うぅ……もうおしまいです。私たちはこれから銃殺されてカタコンベに捨てられてしまうんですね。せめて死ぬ前に美味しいものを食べたり綺麗な服を着たかったです……」

 

「ヒヨリ、うるさい……」

 

 

 連れてこられたアリウス部隊の指揮官役、スクワッドのメンバー。ミサキは意欲を喪失して大人しくしているのだが、縄で縛られているヒヨリが横でネガティブに喚くため、不機嫌そうにしている。

 サオリはミサキとヒヨリが捕まったことに驚きを隠せなかったが、しかしこの場にいないもう一人のスクワッドのことに気づき、僅かに安堵する様子を見せた。

 

 

「姫は無事か……」

 

”ほぅ、姫か……秤アツコのことだな?”

 

 

 小さく呟いたその声は、メタルウルフの集音マイクによって拾われてシャーレの先生(マイケル・ウィルソン)の耳に届く。アズサが向こうについた以上予想できていたことだが、アツコの存在が露呈していることにサオリの表情に焦りがにじみ出る。しかし、だからといってこの状況では彼女に打つ手など無い。

 

 

”まあ、それよりもだ……この電波妨害は君達の仕業だろう。どこに装置を仕掛けてある?”

 

「素直に吐くとでも……」

 

”まあ、それは良い。()()()()()()()()()()からな”

 

「!?」

 

 

 ジャミング解除を求める先生(マイケル)に対し、電波妨害を続けていればアツコが逃げる時間ぐらいは稼げるだろうと、そんな見込みのもと少々強気に出るサオリだったが、そんな彼女の予想に反して彼は場所の特定ができたと言う。

 一瞬ブラフかと思ったものの、彼の素振りからしてそうではないのは明らかだ。

 

 

「……何が望みなんだ、お前は」

 

 

 底知れぬ大人を前にし、恐怖に震えた声でサオリは問う。対し、シャーレの先生(マイケル・ウィルソン)はそんな彼女の態度に心外だと言わんばかりに肩を竦めて答えた。

 

 

”君達アリウス分校の生徒たちに()()()な教育を施すことと、君達を抑圧する現アリウス指導体制の打倒だ。こう何度も命を狙われた以上、この場を凌いで放置はできん”

 

「……!?」

 

「マダムを倒す……?」

 

「そんな事が出来るのか……!?」

 

 

 アリウス指導体制の打破、それを聞いた他のアリウス分校の生徒たちが色めき立つ。

 あのマダムを排除するなど一度も考えたことがなかった彼女たちであったが、こうも堂々と宣言されるとなれば彼女たちの中でもその可能性を考えるようになるというものだ。

 そして、一度そういう変化が生じれば最早その流れは誰にも止めることが出来ぬ不可逆の変化となり、人々の中に変化への渇望が生じていく。

 アメリカ独立宣言の中にも盛り込まれていた革命権(Right of Revolution)という考えが、虚無に染められていた彼女たちの心に火をつけようとしていた。

 

 

「そうだ、マダムを倒すんだ!」

 

「アリウスに自由を! 抑圧者を倒すんだ!」

 

 

 アリウス分校の生徒たちが新たに生じた価値観に戸惑いを覚える中、現れたのはアリウス高校の生徒たち。

 ミサイル着弾前に広場から避難し、そのまま警備本部に駆け込んだ彼女たちは可能な限りの情報を伝え、待機していたツルギ等の予備戦力への出動を要請。ミサイルの起爆後の混乱こそあったものの、部隊の編成などを終えてようやく到着したといったところである。

 

 

「あっ……」

 

「ユスティナ聖徒会が……」

 

 

 そして、増援部隊の到着と同時にユスティナ達は己の役目は終えたと見たのか、サクラコ達シスターフッドが息を呑む中虚空へと消えていく。

 彼女たちが何故手を貸してくれたのかは分からないが、しかし彼女たちのお陰で殆ど被害が生じなかったのは事実。シャーレの先生(マイケル・ウィルソン)はその行いに敬意を表し、敬礼を行いユスティナ聖徒会を見送った。

 

 

To be Continued in Episode5 ”What will be, will be(なるようになる)




 ミサイル攻撃とユスティナ聖徒会の掌握に失敗するとアリウスの勢力って本当に小規模で、あっという間に鎮圧されそうなんですよね。正直な所ミサイル攻撃が成功したとしても、ユスティナが居ないだけでずいぶん違う。
 そして調印式襲撃を乗り切ったマイケル・ウィルソンはアリウス、ベアトリーチェを打倒することを誓いますが、まだまだ混乱は収まっていません。彼はこの状況をどうやって収拾するのでしょうか。


用語解説
アリウス高等学校
 マイケル・ウィルソンが捕縛したアリウス分校の生徒たちに正規の学籍を与えるべく、連邦生徒会に掛け合って登録したキヴォトスで最も新しい学園。
 アリウス分校の生徒全員を学生として登録しているため、サオリ達アリウススクワッド他、現在アリウス分校に所属している生徒たちも書類の上ではアリウス高校の学籍を持っている事となっている。
 現在の代表者はマイケル・ウィルソン。自治区、校舎などはアリウス分校のそれを引き継いでいると登録されているため、アリウス分校という存在は書類上存在しないこととなった。
 ユスティナがアリウススクワッドの命令を聞かない原因でもある。
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