METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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Episode8 ”Infinite possibilities(無限の可能性)

 バシリカ―――聖堂を意味するその場所は、かつてはアリウス自治区において重要な意味を持つ建物であった。今でこそ荒れ果てているものの、往年の面影は今でも感じられる荘厳な建築様式は古き時代の信仰心の高さを思わせる。

 

 時折出現するユスティナの複製(ミメシス)がミカとアリウススクワッドの行く手を阻もうとするが、疎らに襲いかかってくるだけのそれらに彼女たちを止められるようなものではない。だが、休息の時間を取らせんとばかりに五月雨式に襲いかかってこられては、使用した弾丸を再装填する暇が無いということでもある。

 一応、彼女たちはこの戦いに備えて通常の2倍以上のマガジンを今回携行しているが、それでも敵を倒せば倒すだけ弾は消費し、空のマガジンばかりが増えていく。特にミサキ(ロケットランチャー)ヒヨリ(大口径狙撃銃)のような特殊な装備は弾薬の多数携行が難しく、できるだけ温存する必要があるので消耗戦を強いられると厳しいものがあった。

 

 

「とりあえず、バシリカに突入はできたな……」

 

「サオリ、今のうちに再装填するべきだ。ミカも余裕があるなら、1発でも多くマガジンに込めよう」

 

「スピードローダー持ってないんだけどなぁ……」

 

 

 バシリカの入口を突破し、拝廊に転がっている崩れ落ちた建材の陰に隠れた一堂は、ユスティナの攻撃が落ち着いたこともあり、ミサキとヒヨリが警戒する中使用したマガジンへと弾薬を装填していた。

 アズサとサオリがスピードローダーで手早く装填していくのに対し、ミカは一人でマガジンに弾薬を装填した経験が少ない。その立場故に長期にわたる銃撃戦というものをしてこなかったことと、基本的に他人がやってくれていたということもあり、スピードローダーのような補助器具を持っていないのだ。そのため一発一発丁寧に詰めていくのだが、バネの抵抗を無視するように詰めているのは流石のフィジカルと言うべきか。

 

 

「……聖園ミカ」

 

「なぁに、サオリ?」

 

 

 先にマガジンへの再装填を済ませたサオリは、いまだ再装填作業に集中しているミカに対し声をかける。まだミカの装填作業は少し時間が掛かりそうだが、できる限り手を止めないようにと彼女は顔を向けずにそれに応えた。

 

 

「その、手助けには感謝するんだが、お前は良いのか? アリウスとの和解を望んでいたお前の願いを踏みにじったのは我々の側だというのに……」

 

「あ、今更そんな事を聞いちゃう? まあ……確かに恨んでないと言えば嘘にはなるかな、セイアちゃんやナギちゃんに大変なことをしちゃったわけだし、私自身もあのオバサンに大変な目に合わされたわけだし? でもね、この件で悪いのはあのオバサンでしょ? サオリ達が悪いって言うのはちょっと逆恨みになっちゃうかなって」

 

 

 和解の想いを踏みにじり、騙していたという罪悪感を吐き出すサオリであったが、対するミカは既に気持ちの整理はついていたので、なんとも軽い調子で彼女たちを許す。自身が失ったモノはあまり多くないという現金的なところもあるが、既に元凶が見えているのが大きい。

 そんな彼女の言葉は予想外だったのか、サオリは鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべた。

 

 

「そ、そんな感じでいいのか? 私たちは―――」

 

「はいストップ、それ以上言うと流石に私も怒るよ? 折角そういう風に先生がシナリオを描いたんだから、素直にそれに乗っておこうよ。責任感が強いのは美徳だけどさ、不必要に背負うのは生きづらいだけだよ」

 

「私もミカの言うとおりだと思う。そもそもサオリは昔から責任ばかり背負い込もうとする所があるから、もう少し肩の力を抜いたほうがいい」

 

「あ、アズサ……」

 

 

 ミカとアズサの2人に嗜められ、サオリはたじたじといった様子。ミサキとヒヨリはそんな彼女の様子に思わず目をパチクリさせて互いの顔を見る。

 

 

「あぁ、それと……守月スズミ、随分と距離をおいてるみたいだけど、元々あなた達の家族でしょ、そこの所はどう思っているの?」

 

「スズミか……」

 

 

 もののついでだと言わんばかりに、もう一人のスクワッドのメンバーと言える存在であった守月スズミについてミカは問う。彼女がアリウスから消えた経緯と、元々の性格を知る身としてはいつかはきちんと向き合わねばならないだろう。サオリは顎に手を当て、その場で考え込んだ。

 

 

「……そうだな、いつかは向き合わないといけないか。マダムを倒したら―――」

 

「ストップ! それ以上言うのは縁起が悪いからやめて!」

 

「む……」

 

 

 ベアトリーチェを倒し、アリウスを解放したその時に改めてスズミと向き合おう―――そう決意を表明しようとするものの、何故か知らないがミカはそれを言い切らせない。縁起が悪いとはどういう意味だとサオリは首を傾げるが、それに答えることなくマガジンに最後の一発を込めた。

 そして再装填したマガジンをポーチに差し込み、立ち上がる。準備が終わった以上はもう突撃するばかりだ。

 

 

「それじゃ、行こっか」

 

「ああ、この奥にマダムは居るはずだ」

 

 

 一同は警戒しつつ、ミカを先頭にバシリカの通路を進んでいく。いつどこから敵が出てくるか分からない中、足早に回廊を抜けようとするが―――彼女たちの進行方向、柱の陰から大柄な人影が姿を現す。

 普通の人より頭1つどころか2つ、あるいは3つほど高いガスマスクを付け、拘束衣を身に纏った一人の女性。ひび割れ、砕けたヘイローはそれがこの世の存在ではないことを示していた。恐らくはユスティナの複製(ミメシス)と同質の存在。両手には巨大な、それこそメタルウルフで運用していそうなほどの大口径の火砲を携え、行く手を阻む。

 

 

「あれは……」

 

「何だか他のユスティナとは雰囲気が違う……」

 

 

 眼の前の複製(ミメシス)異様な気配を感じ、足を止めるミカ達。その瞬間、激しい弾幕が襲いかかり、彼女たちはバラバラに物陰へと逃げ込む事となった。

 大口径の銃弾が柱を、壁を、床を穿ち、隠れている遮蔽物は時間を追うごとにどんどん削り取られて小さくなっていく。弾切れを待とうにも、果たして通常のものとは違う複製(ミメシス)の持つ武器にそれが訪れるかどうかも分からない。

 

 

『よくもここまで来れたものですね、サオリ。それに聖園ミカ』

 

 

 彼女たちが物陰で縮こまっていると、不意に弾幕が止み、代わりに聞き覚えのある声が響く。恐る恐る顔を覗かせれば、先程の複製(ミメシス)の隣にベアトリーチェの立体映像が並んでいる。その姿を見た瞬間ミカはこみ上げる怒りを押さえきれず、その美しい顔を歪めて声を上げた。

 

 

「出たね、オバサン……!」

 

『……不躾な、これだから品性に欠ける子供は嫌いなのですよ』

 

 

 早速()()()()呼ばわりされ、歯を食いしばり音を鳴らすベアトリーチェ。多数の目がミカを睨む。

 

 

『まあ、良いでしょう。どの道あなた達に勝ち目などありません。この複製(ミメシス)はユスティナ聖徒会で最も偉大な聖女と呼ばれたバルバラを元に私が仕立て上げたもの……マエストロの人工天使よりも強力な兵器です』

 

 

 気を取り直し、バルバラと呼ばれた複製(ミメシス)の頬をそっと撫でるような動作をしながら、ベアトリーチェは意気揚々とした様子で自分の創り出したものの素晴らしさをミカ達に語る。しかし、彼女たちはあのヒエロニムスほどの威圧感をバルバラから感じ取ることは出来なかった。恐らくは、求める方向性が違うのだろう。

 

 

『もうそろそろ月が天頂に達する頃合いになります。儀式は直に始まり、ロイヤルブラッドのヘイローは砕け散り、その神秘の欠片を通じて私はより高位の存在へと至る……いえ、それだけでは足りませんね、予言の大天使と力の大天使の神秘も私の糧とすることで、私は絶対者となるのです』

 

「やめろ、ベアトリーチェ!」

 

「アツコ……!」

 

 

 ベアトリーチェの背後に現れたのは、十字架に茨のようなもので磔にされた秤アツコの姿。痛ましい姿に思わずサオリ達が声を上げる。その左右にも同程度の大きさの十字架が建てられているが、そちらには誰も居ない―――筈なのに、何故かミカの心臓の鼓動が早鐘を打った。

 

―――どうして、セイアちゃんの気配を感じるの?

 

 ミカの脳裏に過ぎる疑問。しかし、冷静に考えればそれはあまりにもあり得ない話であった。セイアはトリニティ本校舎で後方支援の指揮をとっているはずで、アリウスに踏み込む余地はない筈なのだ。しかし彼女は、その十字架の1つにセイアが括り付けられている光景を幻視する。

 

 

「セイアちゃん……!?」

 

「何……?」

 

 

 何故ここでセイアの名前がミカの口からでてくるのか、サオリはその理由が分からず呆然とするが、一方でベアトリーチェはその言葉でニヤリと笑った。

 

 

『ほほう、()()()()()のですか聖園ミカ。ええそうですとも、百合園セイアは私の手中にあります。ふふふ、あなた達のような子供がどれほど足掻こうとも、大人に勝つことなど不可能なのですよ』

 

「……絶対に許さない!」

 

「ま、待て!」

 

 

 傍から見れば安い挑発。しかしそれはセイアに対して負い目のあるミカにとっては逆鱗に触れるものでしかない。彼女はサオリの制止を振り切り、バルバラへと単身突撃する。

 

 無論、それはバルバラにとって最も狙いやすい目標になることと同義。両手の大口径火砲の銃口が向けられるが、既に頭に血が上っているミカには見えていない。咄嗟にサオリとアズサが援護しようとするが、彼女たちの持つ5.56mm口径のアサルトライフルで致命打が与えられるだろうか。

 

 その一瞬の躊躇は絶好の射撃機会を逃す事となり、ミカへの射撃を阻止する機会を失った―――かと思われたその瞬間、雷鳴が如き砲声と共にバルバラの右腕が吹き飛ばされ、続けて高速で飛来したロケット弾が左半身を焼き尽くす。

 

 

「えへへ……あんなので撃たれたら痛いですよね、苦しいですよね……」

 

「お姫様に夢中になってて隙だらけ、狙いやすかった」

 

「ヒヨリ、ミサキ……!」

 

 

 射撃の主はスクワッドのスナイパー、槌永ヒヨリと戦況把握に才覚がある戒野ミサキ。ヒヨリは悲観主義者ではあるものの、スナイパーとしての実力はアリウスでも随一であり、また自分の一撃の威力を信じていることもあって射撃に躊躇をすることもなかった。

 そしてミサキの方はと言うと、彼女自身が言うようにバルバラの狙いがミカに集中した結果、自分とヒヨリがフリーになったのを見逃さずにアクションを起こしたわけである。実際の所ヒヨリに射撃を促したのは彼女の判断によるものだ。

 

 彼女らの支援によってバランスを崩すバルバラの懐に飛び込んだミカは、右手に握る愛銃に力を込めてその土手っ腹に銃口を押し当てる。同時に引き金が引かれ、虹色に輝く弾丸がねじ込まれた。そして、彼女のヘイローが輝きを増すと同時に、周囲に渦巻くエネルギーがバルバラへと流れ込んでいき―――次の瞬間、爆ぜた。

 

 

「ううっ!?」

 

「一撃で粉砕したのか……!?」

 

 

 砕け散ったバルバラの残滓が空気中に溶けて消えていく中、アズサとサオリはミカの攻撃の凄まじさに言葉を失っていた。元々彼女のフィジカルの高さは知っていたが、こんな必殺技めいた一撃まで使えるとは。

 一方、眼の前で切り札であるバルバラを粉砕されたベアトリーチェであったが、だというのにその態度には余裕があるように見えた。口元を扇子で隠しながらも、其の実嗤っているのが見て取れる。

 

 

『なるほど、流石は力の大天使。大したものですね』

 

「ふん、オバサン自慢のバルバラも大したこと無かったね」

 

『……減らず口をたたけるのもそこまでです、聖園ミカ』

 

 

 ベアトリーチェの感心するような口ぶりに対し、バルバラを粉砕したことで心に余裕が戻ったのか、煽るようにオバサン呼びをするミカ。何度もオバサン呼ばわりされ続けたオバサン、もといベアトリーチェの表情に怒りが滲む。しかしここでヒステリックに騒がないのは流石というべきか。

 

 切り札を失い、それでも余裕そうなベアトリーチェに怪訝そうな表情を浮かべるミカであったが、次の瞬間彼女の、いや、彼女とアリウススクワッドの表情が驚愕に歪んだ。

 

 

「嘘でしょ……!?」

 

「ば、バカな……」

 

「なにこれ、ふざけてるの……!?」

 

 

 バシリカの柱の陰という陰から現れたのは、先ほど粉砕されたはずのバルバラ。それも1体ではなく、2体、3体とどんどん数が増えていき、10体を越えたところでベアトリーチェの高笑いが回廊に響いた。

 

 

『フフフ、どうですか。兵器というものは性能と生産性が両立してこそ優秀というものなのですよ。マエストロの作品のような一品物は性能こそ優れていても、必要な場に存在しなければそれは意味がありません』

 

 

 隊列を組み、迫るバルバラの群れ。たった一体倒すだけでもかなりの力を使ったというのに、それが10体以上も居るとなれば、ミカ達にできることは―――

 

 

「……やるよ、サオリ」

 

「ああ、わかった」

 

「たとえ勝ち目が無いとしても、それは抗わない理由にはならない……!」

 

「や、やっぱりこうなってしまうんですね……」

 

「……ほんと、バカみたい」

 

 

 僅かな可能性に賭け、彼女たちは戦う。諦めなければ万が一の可能性だって拾えるのだと、ミカとアズサは先生(マイケル)から教わっていたのだから。

 

 

(だから、無事で居てね、セイアちゃん……!)

 

 

 

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 不意に誰かに呼ばれたような気がして、深淵に沈んでいたセイアの意識は急速に浮かび上がっていく。今が果たして何時なのか、明晰夢の中では時間が前後する事などよくあることであり、今の彼女にそれを認識することは不可能であった。

 視界が開け、目に飛び込むのはトリニティの自室―――ではなく、荒れ果てたアリウス様式の聖堂の一室。部屋の中心には十字架が立ち、一人の生徒―――秤アツコ―――が磔にされている。

 

 

(ここは……)

 

 

 周囲を見ようとするセイアであったが、そこで身体の自由が利かないことに気づく。手も、足も、まるで何かに打ち付けられているかのようだ。

 

 

「おや、意識を取り戻しましたか百合園セイア」

 

 

 何とか場を脱しようとするセイアだが、やはり身体は動かない。指先1つ動かすことも出来ずにいると、炎のように赤い肌の異形、ベアトリーチェがそれに気づき、眼前に立つ。

 

 

「ふふふ……どうですか、これが私が絶対者に至るための儀式の場。あなたと、ロイヤルブラッド、そしてもう一人を生贄にすることで、このキヴォトスに於いて最高レベルの神秘を手中に収めることができるのです」

 

 

 まるで自らの権能を誇示するかのように、ベアトリーチェは高らかに笑う。そして彼女の異形の証である多数の目がギョロリとセイアを睨みつけた。

 

 

「……儀式のためには、まず()()と接触を図る必要がありました。力を利用するにしても、パスが繋がらなければ全ては画餅というものです。そこであなたという存在を利用させてもらいましたよ、セイア」

 

(私を、だと……?)

 

「あなたという存在を闇夜に浮かぶ篝火とすることで、アレはこのキヴォトスへと近づいてくる。自覚が無いようですが、あなたは既にアレと接触しているのですよ? 神秘が恐怖へと反転し、裏側の原理があなたを支配しようとしている……このままではあなたの器が崩壊するのも時間の問題でしょうね」

 

(……!?)

 

 

 ベアトリーチェの言葉に呼応するように、セイアはビジョンを見る。空が赤く染まり、滅びゆくキヴォトスのイメージ。それを知覚した瞬間、身体がバラバラになるかのような痛みに襲われ、彼女は苦痛に顔を歪めた。

 

 

「アレについて我々は何も知りません。解釈されず、理解されず、疎通されず――ただ到来するだけの不吉な光。目的も疎通もできない不可解な観念……私たちゲマトリアはそれを「色彩」と呼んでいます」

 

(う、ぐ……うぅ……)

 

「……このままではあなたの神秘は完全に恐怖に裏返るでしょう。黒服がかつて観測することを望んでいた成果ですが、それでは私が困るというもの。完全に反転する前に、私が有効に活用して差し上げましょうか」

 

 

 その瞬間、至聖所の入口の扉が開き、大柄の人影―――バルバラ達―――が隊列を組んだまま入ってくる。朦朧とする意識の中、セイアがそちらへと視線を向けると、自らの苦痛すら一瞬忘れるほどの光景を目の当たりにする。

 

 

(ミ、ミカ……アズサ……それに、アリウススクワッド……)

 

 

 バルバラ達に担がれ、あるいは引きずられている少女たち。激しい戦いがあったのだろう、衣服はあちこちが擦り切れ、焦げ付いている。全員ぐったりとしており、その頭上にヘイローの輝きは無い。

 

 

「ふふっ……見なさいセイア、あれが大人に逆らった子どもの末路です。そして、これで私の儀式の準備が完全に整いました。さあバルバラ、聖園ミカを十字架へ」

 

 

 指示されるがまま、ミカを担いだバルバラが十字架へとミカを括り付けていく。かくして3つの十字架に3人の生贄が捧げられ、燔祭の準備が整った。

 

 

「……あの男がトリニティに介入し始めてから私の計画は大きく狂い始めました。疑心暗鬼に駆られて崩壊するはずのトリニティを繋ぎ止め、アリウスの生徒を引き抜き、エデン条約をあのような形で成立させるなど、もはや本来の計画に戻すことは不可能に近い状況に陥りました」

 

 

 天を仰ぎ、ベアトリーチェが語るのはシャーレの先生(マイケル・ウィルソン)に対する怨恨。10年かけて築いてきた様々なものがまたたく間に崩されていくともなれば恨む気持ちも分からなくもないが、そもそもとして彼女がアリウスの生徒達にしてきた様々な仕打ちを考えれば、そうされるのは当然のことと言えるだろう。

 

 

「挙句の果てにはアリウスにまで殴り込んでくるとは、正気を疑うレベルですが……まあ、良いでしょう。お陰で聖園ミカや百合園セイアが私の手中に収まり、私の儀式はより高次元なものになろうとしている」

 

「うぅ……」

 

「おや、意識を取り戻しましたか、サオリ」

 

 

 その時、床に無造作に転がされていたスクワッドの中からサオリが意識を取り戻し、うめき声を上げる。彼女のヘイローの輝きが戻り、されど朦朧とする意識の中、見上げた先にあったのは磔にされたアツコの姿。それを遮るように間にベアトリーチェが立ちはだかる。

 

 

「ベアト、リーチェ……」

 

「その傷では銃を持つことも無理でしょう。ふふ、無様ですねサオリ。この私に逆らうとどうなるか、分からないあなたではないでしょうに」

 

「くっ……」

 

 

 立ち上がろうとするサオリであるが、バルバラ軍団との戦いで受けた傷は深く、脚に力が入らない。生まれたての子鹿のようにプルプルと震えながらようやく立つことが出来たが、周囲に完全武装のバルバラ達がいる状況で、武器もない彼女が立ち向かえるはずもなかった。

 この状況を生み出した張本人であるベアトリーチェは、扇子で口元を隠しながら自らを裏切ったサオリの決定を嘲笑う。自らの勝利を確信しながら。

 

 

「まさか、私に本気で勝てると思っていたのですか? だとすれば、なんと愚かしい決定を下したものですね、サオリ」

 

「ハァ……ハァ……」

 

「儀式は既に始まっています。ロイヤルブラッド、予言の大天使、力の大天使の神秘を搾取し、キヴォトス外から到来する力を借り、私はより高位な存在へと昇華される。完遂までにはまだ少々時間は必要ですが……」

 

 

 次の瞬間、ベアトリーチェの肉体が膨れ上がっていく。

 頭部以外人間と変わりなかったはずの肉体は枯木のような異形へと変形し、頭部はまるで蕾が花開くかのような形へと変わっていった。血のように赤い肌は地面に根付いた下半身へと集中していき、傍から見れば血を吸い上げているかのように見える。

 その姿は、この至聖所に大きく飾られているステンドグラスに描かれているものと酷似していた。

 

 

「な、なんだ、これは……」

 

 

 驚愕に歪むサオリの表情。そんな彼女の眼の前でベアトリーチェは天を仰ぎ、巨大なヘイローを背負い、そして骨格だけの翼が広げられる。同時に生贄に捧げられているミカとアツコ、そしてサオリの目には映らないが、セイアまでもがまるで魂を啜られているかのように苦悶の声を上げた。

 

 

「ふふふ……しかとその目に焼き付けなさい。これこそが高位の存在となった私の、いえ……絶対者の姿!」

 

「こ、こんな怪物が……ベアトリーチェの正体だったのか……!?」

 

 

 自らを絶対者と僭称する傲慢な女は、異形の姿を誇るように枝とも骨とも取れるような腕を広げる。生じる凄まじい威圧感を前に、サオリは身動き1つ取ることが出来ずにいた。

 

 

「まだ完全ではありませんが、これほどの力があれば十分でしょう。あの男がこの場に来る前に―――あなた達の始末を付けましょうか」

 

 

 そしてベアトリーチェが取る選択は、アリウススクワッドの粛清。既に生贄が揃い、儀式が進むのであればサオリ達スクワッドが必要になる事はない。むしろ粛清し、その死体を晒すことで裏切ったアリウスの生徒に対して恐怖を植え付け、自分の教えこそが正しかったのかと知らしめるのだ。

 

 そしてもう一つ、スクワッドを殺すことであの男(マイケル・ウィルソン)に深い絶望を味あわせてやりたいという欲求が彼女にはあった。そうでもしなければ気がすまないという器の小ささの発露でもあるが、ベアトリーチェはそれを気にするような人間ではない。

 

 バルバラの群れが隊列を組み直し、いまだ意識の戻らぬスクワッドのメンバーへと手にした重火器の銃口を向ける。彼女たちのヘイローを破壊するに当たり、特殊なものを使用する必要はなく、バルバラ軍団の火力があれば事足りるという判断によるものだ。

 

 

「う、あぁ……カハッ……!」

 

「う、うぅ……」

 

「くっ……」

 

 

 右手を振り上げ、今まさに射撃命令を出そうとしたその瞬間、残りのスクワッドのメンバーの頭上にヘイローの輝きが戻る。襲いかかる激しい痛みにうめき声を上げ、意識が急激に覚醒していく彼女たちが自分たちの置かれている状況を読み取るのにそれ程時間はかからなかった。

 

 

「な、何、これは……」

 

「ば、化物が……」

 

「まさか、あれがマダムの……!?」

 

 

 変貌したベアトリーチェの姿に驚愕する一同。同時に、周囲をバルバラに囲まれて既に逃げ場がないことを理解した。せざるを得なかったのだ。

 

 

「ふふふ……良いですね、死の間際に恐怖に歪む顔を見るのは。あなたたちは何一つ成し遂げられることもなく、ただこの場で朽ち果てるのみ……所詮、子供がどう足掻こうとも大人に勝つことなど不可能なのですよ」

 

「ま、まだだ、ベアトリーチェ……」

 

「おや、この場から逆転するチャンスがあるとでも? 呆れるほどに愚かしいですね……今、この場に助けが来る可能性など、万に一つも――――」

 

 

 自身が絶対的に優位に立っていると見て、サオリ達の反応を愉しむ余裕すら見せるベアトリーチェは、まだサオリやアズサの目には希望の光が灯っている事に気づき、バルバラへの命令を保留して甚振ろうとする。だが、もし彼女が本気で勝利を掴むのというのであれば、そのような余計な行為を行うべきではなかった。何故ならば―――――

 

 

 

”あるのさ、これがな!”

 

 

 

 突然至聖所響き渡る声。同時にステンドグラスが砕け散り、鋼の巨人がエントリーして盛大に破片を撒き散らしながら宙を舞う。右手には複合アサルトライフル、左手には青く輝く刀身を持つ月明かりの大剣(Moonlight Sword)が握られ、宙返りを決めながらベアトリーチェとアリウススクワッドの間に割って入る。

 

 

”そうら、切れ味はお墨付きだ!”

 

 

 そしてすかさず剣で一閃、スクワッドに銃口を向けていたバルバラ4体の首がまるで熱せられたナイフを押し当てられたバターのように断ち切られ、頭が落ちる。頭部を失ったバルバラはそのまま断面から青白い炎を上げ、空中に溶けるように崩れ落ちていった。

 

 突然のことにサオリ達が呆然とする中、今度は至聖所の入口の方向から多数の人物の足音が響いてきた。閉ざされた扉は無数の紫色の光弾によって穴だらけの廃材へと早変わりし、音を立てて倒れ込む。そして現れたのは、ヒナを先頭とする強襲部隊とスバル他数名のアリウス分校の生徒達。

 

 

「ば、馬鹿な……こんなに早く、どうして……!?」

 

 

 ベアトリーチェが知覚できた限りでは、あの男(マイケル・ウィルソン)ヒエロニムス(マエストロの作品)相手に苦戦を強いられていたはずであった。だからこそアリウススクワッドをいたぶり溜飲を下げていたのだが、まさかこれほどの短時間でバシリカまでたどり着くとは。

 先程までの絶対者を僭称し、生殺与奪の権を握っていたはずの立場が一気に崩れ去り、焦りの色が滲んでくる。だが、儀式が進行する限り自身の負けはないはずなのだと気を取り直す。

 

 

「……そんな原始的な武器を振るうなどという品位に欠ける行為には目を瞑りましょう、シャーレの先生、マイケル・ウィルソン」

 

”ハッ、紳士的な時間はとっくに過ぎているのさ。それに、よくも()()生徒達に手を出してくれたなベアトリーチェ、落とし前をつけさせてやる”

 

 

 ベアトリーチェの言葉に対し、棘のある物言いで月明かりの大剣(Moonlight Sword)切先を向ける先生(マイケル)。何時ものような穏やかな話し方ではなく、極めて語気の強い言葉を用いるあたり彼の怒りの大きさが見て取れた。

 

 

「……やはり相容れられないようですね。ですがまあ、良いでしょう。本来人間とはわかりあえず、本質としては憎しみ合うことこそが真理。愛や友情などまやかしであり、世界の本質をごまかすだけのものでしかないのですから」

 

くだらない事を言うな(Cut the crap.)ベアトリーチェ、良いからさっさとかかってこいよ。そんな整形手術に失敗した化物みたいな姿になって、私を倒したいんだろう? それとも何だ、そんな姿になってもこの私が怖いのか?”

 

「……ッ!! バルバラ、ただちに殺しなさい、この男を!!」

 

 

 大仰に自らの思想を開示しようとするベアトリーチェであったが、そんな事はさせぬとばかりに先生(マイケル)の挑発が飛ぶ。悪党の言い分など聞く必要はないという彼の態度に、尊大な自尊心を持つベアトリーチェは頭に血が上る。

 

 やはりこの男は殺さなければならないという確信のもと、彼女はバルバラ軍団に指示を出す。先程4体がやられたとは言え、まだまだバルバラの数は10を軽く超えており、その戦闘力を用いればこの男(マイケル・ウィルソン)のパワードスーツを破壊することだって可能なはずだ。しかし―――

 

 

「そうはさせない」

 

「キヒャハハハ! ぶっ潰してやるぅ!」

 

「面白くなってきたな、こいつは!」

 

 

 先んじてヒナが制圧射撃を行い、バルバラの動きを拘束。そして弾幕の中、ツルギとイトハという近接戦闘を好む二人の生徒が飛び込んでいく。大口径の重火器を用いるバルバラは、本来敵に対し正対して火力を浴びせかける運用が正解で、乱戦に向くものではない。こうして隊列の内側に入りこまれてしまえば、小回りがきかない性能であるが故に翻弄されてしまうのだ。

 

 

「くたばれぇぇぇ!!」

 

 

 しかし、バルバラの耐久力は普通の生徒を大きく上回っており、一般的な火力で倒すことは困難。ツルギは両手に持つ2丁のショットガン(ブラッド&ガンパウダー)の集中射で首元などの急所を狙うことでダメージを与えることに成功するが、単発で撃破するには少々火力が乏しい。

 それでも装填された全弾を叩き込めば、バルバラはついに倒れて溶けて消えていく。

 

 

「なるほど、硬いな。だが、こいつはどうだ?」

 

 

 ツルギやヒナと比べて少々劣るフィジカルのイトハだが、彼女の強みは手数の多さ。ドローンで牽制しながらアサルトライフルの集中射をかけつつ、本命はポーチに忍ばせていた対戦車手榴弾。

 

 左手に忍ばせていた特殊警棒で殴りかかると見せかけてガスマスクに対戦車手榴弾を投げつければ、バルバラの首から上が爆炎の中へと消えていく。いかにバルバラといえど頭が吹き飛ばされては存在を維持できず、力なく膝をついてこちらも消えていった。

 

 

「……皆さん! 大丈夫ですか!?」

 

「す、スズミ……」

 

 

 続けて他の強襲部隊の面々も突入しての乱戦が始まり、バルバラ達の注意がスクワッドからそれたその隙をつくように、守月スズミが自身の銃を背負い、両手に2丁のアサルトライフルを持ってアリウススクワッドへと駆け寄る。

 

 それはバルバラとの最初の交戦の場に捨て置かれていたはずのアズサのEt Omnia Vanitasと、サオリのアリウス製アサルトライフル。彼女は元の持ち主にそれらを返却した後、手を差し伸べて立ち上がらせた。

 

 

「しっかりしてください、ミサキ、ヒヨリ」

 

「す、スバル先輩……」

 

「この場は一旦引きますよ。そのザマでは戦うことも難しいでしょうし、何より武器がない」

 

「……了解」

 

 

 一方、ミサキとヒヨリに手を差し伸べるのは梯スバル。こちらは武器を持ってきていないが、そもそも2人の武器はとてもではないが一人で抱えてこられるものではないので、彼女が持ってこれなかったとしても仕方がない事だろう。2人に肩を貸し、至聖所の入口へと後退するスバルはアイコンタクトでスズミとやり取りし、バルバラとの乱戦から抜け出していく。

 

 強襲部隊の面々はその際に彼女達に被害が及ばぬよう、我が身を盾とするようにバルバラとの交戦状態を維持していた。そういう彼女達の献身は実を結び、アリウススクワッドの4名は無事に後方へと下がる事に成功するが、アツコとミカはベアトリーチェの背後でいまだに十字架に磔にされている。彼女達を救わねばならない。

 

 

”さあ、決着をつけるぞベアトリーチェ!”

 

「私に勝てるなど、思い上がるのはお止しなさい!」

 

 

 背後でバルバラ軍団と生徒達が乱戦を繰り広げる中、先生(マイケル)は右手の複合アサルトライフルの銃口をベアトリーチェに向けて引き金を引く。放たれる.50口径の銃弾は一般的な生徒を一撃でKOさせることが出来るものだが、異形の怪物と化している彼女の肉体にはあまり有効打を与えられていないらしい。

 

 ならばと月明かりの大剣(Moonlight Sword)を振り上げて力を込め、刀身に青い輝きをまとわせる。そのまま振り抜こうとしたその瞬間、二人の間に数体のバルバラが割って入り、手にしたバルカンで迎撃しようとするが、このままでは後方の生徒達を巻き込んでしまうと瞬時に判断、クイックブーストで軸をずらす。

 

 放たれた実体とは思えぬ青白い曳光弾は彼の姿を追うように壁に弾痕を刻むが、メタルウルフには一発も掠ることなく、逆に頭部への正確な.50口径の集中射撃を喰らい、盾となっているバルバラが崩れ落ちた。

 

 

「砕け散りなさい!」

 

 

 しかし、その隙を狙い、ベアトリーチェは自らの頭上に吸い上げられた神秘の力を集中させ、赤いエネルギーの塊を生み出す。所謂必殺技を繰り出そうとしていると見た先生(マイケル)はどう対処するのが正解なのか、一瞬考え込む。

 もし着弾して大爆発を起こせば生徒達が巻き込まれることも十分に考えられるし、かといって斬りかかるにはまだまだ間合いは遠い。なら、やるべきことは―――

 

 

”Yeahhhhhhhhh!!!”

 

 

 複合アサルトライフルをその場に投げ捨て、月明かりの大剣(Moonlight Sword)をまるでバットのように構え、放たれたエネルギー球目掛けて振り抜く。蒼く輝く軌跡が向かってくる赤黒い光球とぶつかり、確かな手応えと同時に閃光が走った。

 

 

「……ば、バカな!?」

 

”ハッ! 今シーズンの第一号ホームランだな!”

 

 

 光に覆われた視界が元に戻ると同時に、ベアトリーチェは驚愕した。必殺の一撃のつもりで撃ち込んだはずのエネルギー球はメタルウルフに直撃することなく、自身の背後にあるステンドグラスを貫通して遥か彼方へと消えていたのだ。

 そのあまりにも完璧なホームランの軌跡。メジャーリーガーも顔負けの一発に、先生(マイケル)はコックピットの中で一人ドヤ顔を見せた。

 

 

「おのれ……おのれおのれおのれぇぇぇ!! 絶対に殺す! 殺してやります!」

 

”そうイライラするなよ、更年期障害か? だったらいい病院を紹介してやろう”

 

「いい気になるのもそこ迄です! アツコとミカ、そしてセイアの命は私の手のひらの上にあるということを思い知りなさい!」

 

”何……?”

 

 

 先生(マイケル)の挑発行為を前にとうとうなりふり構わなくなったベアトリーチェは、儀式の完遂という前提すら投げ捨てて眼の前の『敵』を討つべく生贄から神秘を更に吸い上げる。2人がうめき声を上げ、仮面で隠れているアツコは分からないものの、ミカの顔からどんどん生気が失われていくのを見て彼は目を見開いた。

 

 

「この一撃で子供ごと消えなさい! お前たちに未来など無い!」

 

 

 力を吸い上げたベアトリーチェは天を仰ぎ、花弁のような異形の顔が閉じられた後、中から赤黒い光が漏れ出す。丁度最後のバルバラを倒した強襲部隊の生徒達だが、ほぼ全員が消耗していて機敏な動きは出来そうにない以上、この攻撃を回避することは不可能だろう。

 

 彼女達が何とか身構えようとした次の瞬間、ベアトリーチェの顔から漏れ出た赤黒い光は奔流となって視界を染め上げる。巻き上げられ、吹き飛んでいくモザイクタイルの床。スローモーションのように体感時間が引き伸ばされる中、彼女達の盾となるようにメタルウルフが割り込み、月明かりの大剣(Moonlight Sword)を構えた。

 

 腰を落とし、切先を地面へと向け、蒼く輝く刀身でエネルギーの奔流を受け止める。コックピットの中で激しい警報が鳴り響くが、彼はそれを一切無視してその場を動こうとしない。対するベアトリーチェも必ず消し飛ばすという強い意思を以て一歩も引き下がらない。

 

 

”ベアトリーチェ、お前に一つだけ言っておくことがあったな……”

 

 

 段々とシールドエネルギーが減衰して装甲へのダメージが現れ始める中、シャーレの先生(マイケル・ウィルソン)は諦めることはしなかった。彼の辞書に不可能と諦めるという単語はないのだ。

 

 

”子供には、無限の可能性が存在する……! それを破壊してきたお前を、私は絶対に許さん!”

 

「ふん、そのような偽善……!」

 

 

 力強く宣言するものの、相手の力は強大。赤黒い光の奔流の圧によってじりじりメタルウルフの足が下がる。ベアトリーチェは勝利を確信し――――その刹那、彼女は乾いた銃声を耳にし、自らの背にありえぬ衝撃を受けた。

 

 

”なっ……!?”

 

「な、に……!?」

 

 

 力が急速に失われ、高圧放水がごとき力強さで放たれていた奔流はまたたく間に窄まっていく。攻撃を受け続けていたメタルウルフは周囲が揺らぐほどの熱を持ち、力尽きたかのように膝をつくが、その赤い単眼の輝きはいまだに健在。

 

 一方、ベアトリーチェは己の身に何が起きたかと振り返り、本来であればあり得ない光景を目にしていた。十字架に磔にしていたはずの百合園セイアが拘束から抜け出し、銃口をこちらに向けていたのだ。立ち上る硝煙は彼女が今の一撃を放ったことを如実に示しており、その表情は苦しげながらも一矢報いたというような晴れやかさがあった。

 

 

『ふ、ふふ……現実から夢に直接介入できるなら、逆もまた可能かと思ってやってみたが……うまく行ったようだ』

 

「ゆ、百合園セイア……!」

 

『残念だったねベアトリーチェ、私を拘束したことが逆に仇となったようだ。今の一発でお前と、私たちに繋がれているパスは絶たれた……お前はもう、絶対者になることは出来ない!』

 

「おのれえええええええっ!!!」

 

『さあ先生! 今だ、トドメを!』

 

 

 セイアに気を取られたその隙を、歴戦の戦士であるマイケル・ウィルソンが見逃すはずもなかった。慌てて意識を正面へと戻すが、蒼く輝く大剣を手に近づくメタルウルフはもはや至近距離まで近づいており、逃げることなど不可能な状況だ。

 最後の悪あがきとばかりに両手に力を集め、振り上げるが―――

 

 

”ヒナ!”

 

「任せて、先生」

 

 

 右腕は集中射撃態勢を取ったヒナの一撃により前腕から断ち切られ―――

 

 

”ツルギ、イトハ!”

 

「ふ、ふふふ……キエェアアアアアッ!!!」

 

「そろそろ終わりか、勿体ないが……!」

 

 

 左腕は、飛び込んできたツルギとイトハの攻撃によって妨害される。

 

 

「ひっ……!」

 

”終わりだ、ベアトリーチェ!”

 

 

 ベアトリーチェの目に恐怖の色が滲んだその瞬間、メタルウルフは月明かりの大剣(Moonlight Sword)の切先を向け、ブースターを噴射して突入した。蒼く輝く刀身はそのまま枯木を思わせる胴体を貫き、異形の怪物は全身を襲う激痛に身を捩らせるが、そんな事など知ったことかと言わんばかりに先生(マイケル)は更に刀身をねじ込んだ。

 

 

 

「ぎゃあああああああっ!!!」

 

 

 

 断末魔の悲鳴を上げ、ベアトリーチェの枯木のようなその身体は至る所にヒビが入り、蒼い光が漏れ出ていく。そして剣を引き抜き、残心をとりながら刀身を払ったその瞬間、ベアトリーチェの巨大な肉体はあちこちから青白い炎を上げ、全身に燃え広がっていった。

 

 

To be Continued in Episode9 ”New Dawn(新たな夜明け)




 バルバラは原作では人工天使より優れているとベアトリーチェが自慢していましたが、完成版ヒエロニムスと比べるとやはり劣るものでしょう。ただ、ベアトリーチェの性格からすれば量産を企図していたんじゃないかなと思って量産型配備と相成りました。結果はご覧のとおりですが……

 そしてベアトリーチェ、ついにTODOMEを刺されましたが殺にまでは至っていません。以前黒服にキヴォトスで殺しをするなと言われたのを覚えているわけですね。さて、この後どうなるのか、アリウスの夜明けはもうすぐそこにまで来ています。
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