METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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Vol4.1 Proof of Justice(正義の証明)
One day(とある日)


 夏―――あらゆる生物を射殺さんと言わんばかりに降り注ぐ太陽の光によって気温は35度を大きく超え、炎天下の中熱せられたアスファルトは蜃気楼を生み出している。もしかしたら目玉焼きが作れるのではないか―――そう思えるほどの暑さに襲われるキヴォトス。それでも人々は学校へと通うため、あるいは働くために外出をしなければならない。

 

 そんな中、D.U.の外郭地区に存在するひときわ目立つ白いビル―――連邦捜査部シャーレの本部、先生(マイケル)が住み込んでいることから何時からかホワイトハウスと呼ばれるようになった―――の執務室でシャーレの先生、マイケル・ウィルソンは冷房を効かせながら日々の業務である各種書類決裁をこなしていた。

 

 

”暑くてかなわんなぁ……冷房28度設定厳守というのは少々非現実的じゃないかねぇ”

 

「うわぁん! こんなに暑いとアイスを食べる手が止まりません!」

 

”食べすぎてお腹痛くなっても知らないぞ、ヒヨリ”

 

 

 効きの悪い冷房に文句を垂れる彼の服装は見事に夏仕様で、薄いスーツパンツと半袖のワイシャツ。一応上着は椅子に掛けてはいるものの、こんな気温では着る気も起きない。ミレニアム製であるため多少の防弾能力はあるらしいが、フルセットと比べると雀の涙であり、この状態でキヴォトスの銃撃戦に巻き込まれたらひとたまりもないだろう。まあ、彼には生身の状態でもシッテムの箱の防御機構があるのでそのあたりを心配する必要はないのだが。

 

 そして、彼と向き合う形でデスクに座っているのは本日の当番である槌永ヒヨリ。しかし先程からアイスを食べてばかりで日常業務に関してあまり役に立っている様子はない。先生(マイケル)も呆れているが、アリウス生徒の境遇を知っていると「もっと食べろ」という気持ちが勝ってしまうため、食べすぎに気をつけるように忠告するだけで止めるつもりは無いようだ。

 

 今彼が行っているのは連邦生徒会から回されてくる書類の決裁、そしてアリウス自治区復興に関する各種業務。自治区に関する話は本来アリウス生徒会の仕事だが、アリウスの特別な事情に鑑み彼がある程度代行しているといったところである。その生徒会のメンバーであるヒヨリがアイスを食べてばかりというのは……この際無視しておこう。

 

 

”ふーむ……新制服の案について? どうしてこんな案件が私の所に……”

 

「あ、すみません……それ、私がやる仕事でした。えへへ、シャーレだと他の学校の資料とか見れますからね、可愛いデザインがあれば参考にしようかなって。サオリ姉さんや他の皆さんも楽しみにしているようですし……」

 

”なるほど、そういうことなら他学校の制服のカタログはそこの本棚にあるぞ”

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 

 アリウス関連の書類の中に混ざっていた「アリウス高校新制服について」という1枚のプリント。彼が知らぬ間にアリウスの生徒達は自分達が着るための制服のデザインについて議論できるようになっていたというのは驚きだが、それ自体は喜ばしい変化と言える。他の学校の制服のデザインを参考にしたいと語るヒヨリの言葉に、彼は喜ばしい内心を隠そうとせずに資料がある場所を教えた。

 

 教えられた本棚の前で屈み、制服カタログを探すヒヨリ。指で一冊一冊確認しながら数えていき、お目当てのものを見つけた彼女は口元を緩ませながらその場でペラリペラリとページを捲る。セーラー服、ブレザー、様々な種類の制服を着たモデルがポーズを決めているそれは、カタログというよりかはファッション誌に近いかもしれないが―――そうやってヒヨリが夢中になっている最中、シャーレの執務室入口の磨りガラスに人影が映る。

 

 

「先生、ちょっといいかしら」

 

「ひっ――――!?」

 

 

 その人物が部屋に入ってきた瞬間、顔を見たヒヨリが顔を引き攣らせる。やってきたのはゲヘナ風紀委員会、その委員長である空崎ヒナ。エデン条約調印式の事件の際に徹底的にボコボコにされた記憶が蘇ってしまい、ヒヨリはまるでたぬきのように動かなくなってしまった。

 

 

「あなたは……槌永ヒヨリね、別に取って食べようとかそういうわけじゃないから安心して」

 

「おやおや、随分と怖がられているようだね、ヒナ委員長」

 

 

 動かなくなってしまったヒヨリに困惑しながら声をかけるヒナの後ろから、更にもう一人が姿を見せる。大きな狐耳に長い尻尾、袖の長い白い制服を着ている彼女の名は百合園セイア。まさか彼女がシャーレに出向いてくるとはと先生(マイケル)は驚き、仕事の手が一瞬止まる。

 

 

”ヒナ、それにセイア……随分とまあ、珍しい組み合わせだな”

 

「ただ丁度タイミングが被っただけ、特に狙ってはいないわ」

 

「ふふっ、私としてはこれを切っ掛けにしてもう少し交友を深めていきたいところだがね」

 

”それで、どんな用事だ? まあ、どんな要件だろうが歓迎するのがS.C.H.A.L.Eなんだが”

 

 

 2人が揃って来客用のソファーに座るのを確認すると、先生(マイケル)は仕事を中断して2人に茶菓子と飲み物を用意するべく冷蔵庫を開ける。ロールケーキが丁度目についたのでそれを取り出し、適当に切って皿の上に。そのまま2人のところへと持っていき、彼女達の前に並べた。

 

 

「ありがとう、先生」

 

「ありがたく頂戴させてもらうよ」

 

”コーヒーを淹れてくるから少し待っててくれ”

 

 

 礼を述べる2人だが、飲み物がまだ用意できていないと先生(マイケル)はコーヒーメーカーの所へと向かい3人分のコーヒーを淹れる。スイッチを押し、カップに注がれる黒い液体。ガムシロップとミルクを2人分用意し、ソーサーの上にカップと一緒に並べた後、彼はそれを2人の所へと持っていく。ヒナが差し出されたコーヒーを嗅ぐと、深みのある芳香が鼻腔を通り抜けていった。

 

 

”さて、話を聞かせてもらおうか”

 

「うぅ……私の分のロールケーキは無いんですね……辛いですね、苦しいですね……」

 

”ヒヨリ、君はもうアイスを3つも食べただろう。これ以上はサオリに怒られるぞ”

 

「うわあん! こんなことなら2つだけにしておくべきでした!」

 

「……ふふっ」

 

 

 コーヒーとロールケーキを配り終え、いざ話を聞こう―――そういう段階になった時、硬直状態から脱したヒヨリが自分の分のロールケーキがないことを嘆くが、先生(マイケル)が指摘するように彼女は先程までカップアイスを3つ食べている。そんなところにロールケーキを出したら普通に食べすぎなので、彼女の分が無くとも致し方ない。

 

 2つだけにしておくべきだったと喚くヒヨリの姿を見て、思わずヒナは笑みをこぼす。アリウスの過酷な状況下にあった生徒が食べることに苦労しなくなったとことは純粋に喜ばしいものであった。

 

 

「ええっと、とりあえずエデン条約とアリウスについて現状を報告させてもらうわ。まず、エデン条約に関してだけど……万魔殿(パンデモニウムソサエティー)、というよりもマコトはあの事件の後、最初は不満たらたらといった様子だった。気絶している間に勝手にエデン条約機構が発動されたのが気に入らなかったようね」

 

「マコト……ああ、羽沼マコトか。あの時私はトリニティの校舎に居たからそのあたりは詳しく知らないが……」

 

「でも、アリウス自治区解放の為にエデン条約機構が動いたことが世論的に称賛されるようになると、途端に自分の成果として主張するようになった。現金なものよね、マコトらしいといえばらしいけれども」

 

「なんとまあ、凄まじい速さの手のひら返しだ。手首に高性能モーターでも搭載しているのかな?」

 

 

 ヒナはゲヘナがエデン条約調印後の万魔殿(パンデモニウムソサエティー)、というよりかは議長であるマコトについて話していく。あの事件では途中アリウスとの内通を自分から暴露してしまった結果ヒナの怒りを買い、そのままブチのめされてフェードアウトしたのだが、その後彼女がどういう反応をしたのかというのは外にはでてこない情報だろう。

 

 元よりエデン条約調印式をトリニティへの宣戦布告の場にするつもりであったマコトであるが、彼女は権謀術策を好むとはいえかなり機会主義なところもある人物である。自分の名を称えられるのならば本来敵対しているはずのトリニティとも手を取り合うだけの器量は兼ね備えていた。だからこそ、世論がエデン条約を称賛するのならば調印を自分が主導したと、実情を知る人間からすれば噴飯ものの主張だって簡単に行えるのだ。聞いたセイアが呆れるのも無理はない。

 

 

「……とりあえず、イブキがエデン条約に賛成していると表明した以上マコトはこの件で変に蒸し返すことはないと思うわ」

 

「イブキ……あぁ、丹花イブキか。この間トリニティに親善訪問とかいう形で来てくれたね、私の派閥であるサンクトゥスでもかなり好評だったと聞いているよ」

 

”それはそれは、イブキの可愛らしさはキヴォトスでも有数だからな”

 

 

 エデン条約調印後、ゲヘナ・トリニティ両校の交流は活発化しており、万魔殿(パンデモニウムソサエティー)ではイブキの強い意向によってトリニティへの友好使節団が派遣されたという。結果としてこれは成功を収め、イブキの愛くるしさにメロメロになったトリニティ生が多数生じ、友好ムードの醸成に一役買ったという。セイアもそのあたりの顛末は配下の生徒から聞いていたのだが、先生(マイケル)としては初耳であった。

 

 

「……本当はエデン条約機構が実働するようになったら、私は風紀委員を引退するつもりだった。でも、アリウスで見たあの巨大な異形……ヒエロニムスを先生一人に任せてしまったことで、私もまだまだ至らないって思い知らされたわ。だから引退は撤回、まだまだ頑張って先生の負担を減らせるようにしないと」

 

”気持ちは嬉しいが……ヒナ、君自身の健康を損ねないように気をつけてくれ”

 

 

 そして、ヒナは誰にも知らせていなかった自身の引退、その撤回を語る。元々、主にマコトのせいで余計な仕事ばかり背負わされた彼女にとって、ゲヘナの治安の安定化をもたらすエデン条約の締結は引退する好機であったのだが―――アリウス自治区に出現した巨大な怪物、人工天使ヒエロニムスの相手をシャーレの先生(マイケル・ウィルソン)に一人に任せてしまったことで自身の力不足を実感した。

 

 結果、彼女は引退を撤回し、風紀委員の戦力向上に努めることを決意する。再びヒエロニムス級の敵が襲来してくると想定して、自分抜きの風紀委員の戦力で撃退できるほどまでにしなければ到底安心して引退することができないのだ。

 

 

「……私の話はこれでおしまい。百合園セイア、あなたの番」

 

「んん、私からは非常に個人的な話になるな……申し訳ないが、少し場所を変えてくれないか先生、少々デリケートな話をしたいんだ」

 

”ふむ、生徒のプライバシーを守るのも先生の仕事だ。休憩室で話をしよう、そこなら盗聴器や覗き見される心配もない”

 

「あの、先生……今、聞き間違いじゃなければ盗聴器って……」

 

”まあ、パパラッチやスパイと比べれば可愛いものだよ。とりあえず気にしないでくれ、()()盗聴器はオフィスにもないからな”

 

 

 ヒナの話が終わり、次はセイアの番となったが、どうやら人に聞かれたくはない話らしい。そういうことならばと彼は休憩室へとセイアを誘う。ここならば防音もしっかりしているため、ヒナとヒヨリに話を聞かれる心配もないが、彼の説明に聞き捨てならぬ単語が含まれていたのをヒナは聞き漏らさない。

 

 盗聴器や覗き見―――それは普通に考えて犯罪行為、ないし迷惑行為である。風紀委員の長である彼女としては到底無視できるものではないが、しかし先生(マイケル)はあまり気にする様子はなくサラリと流す。盗聴犯(コタマ)覗き見犯(ノドカ)は特定されており、彼女達の行いも彼が言うようにアメリカでのパパラッチや他国スパイの活動と比べればまさに子供のやることといえるだろう。彼は心配無用とのジェスチャーをヒナにしながらセイアを連れて休憩室のドアを開けた。

 

 シャーレの休憩室はマッサージチェアと座卓、冷蔵庫そして本棚が置いてあり、それ以外の雑貨は置いていない質素なものであった。唯一、壁に星条旗が飾られているのがアクセントと言えるだろうか。セイアは見たことがないそのデザインに一瞬興味を引かれたようだが、今話すべきはそんなものではない。

 

 

”ところでセイア、体調の方は良いのか? ミネも連れずに一人で来るのはナギサが反対しそうだが”

 

 

 ドアを締め、開口一番先生(マイケル)が心配するのはセイアの体調である。元々病弱という情報があり、エデン条約の事件の際には一時意識不明にまで陥ったのは記憶に新しいので無理もない話だが、問われたセイアは小さな胸を張って答えた。

 

 

「それなら問題ないよ先生、あれから私は今までの人生で一番身体の調子が良いんだ。見てくれ、こんなに身体が動くんだよ」

 

”おお”

 

 

 そして軽やかなステップを踏むセイア。よくよく見れば血色もよく、たしかに健康そうだと感心した声を先生(マイケル)は漏らす。

 

 

「さて……早速だが、私がアリウス自治区で体験した事を話そう。白昼夢の中、ベアトリーチェに囚われて生贄に捧げられた話だ。話は少々長くなるが―――」

 

 

 そして彼女が語るのは彼女以外の誰も知らぬ、精神世界での話。アリウス自治区に白昼夢の中訪れた結果、ベアトリーチェに囚われ儀式の生贄にされた事であった。

 

 『色彩』と呼ばれるキヴォトス外の存在を呼び寄せようとしていたベアトリーチェによって器が崩壊する危機に見舞われたセイアは、再びマイケル・シニアと出会い、その導きによって謎の人物クズノハとの邂逅を果たし、自らを侵食していた『色彩』から逃れる術を教えてもらったという。無論、それは犠牲を伴うものであり、代償として予知夢等の白昼夢に関する能力を失ったとセイアは言うが、あまり惜しんでいるようには思えない。

 

 

「……まあ、つまるところは小さな取引をしたということだ。そして私は生来の能力を失ったが、その対価として随分と体調がよくなってね、ついでにというべきか、勘もよくなった気がするよ」

 

 

 そう言い、セイアは小さく笑う。彼女にとって予知夢というのは便利そうに見えて、実際の所は発動を制御できずに睡眠を妨害し続けるものでしかない。それが無くなったことで、セイアの健康状態は急速に改善の兆しを見せつつあったのだ。

 

 それ自体は喜ばしいことだが、気になることはやはりマイケル・シニア―――自分の父とセイアが遭遇したということである。1度だけなら奇跡の一言で済ませられるが、2度目となるといささかおかしい話だ。父は何年も前に地球で死んでおり、宗教柄死後の世界という概念をあるものと思っている彼ではあるが、地球で死んだものがキヴォトスに流れ着くはずもないという考えも持っていた。それこそ、()()()()()()()()()()()()()―――

 

 

「それとだ、能力を失った時に最後の予知というのを見たのだが……その、あまりにも衝撃的な内容だったのか、恥ずかしながら少々記憶が飛んでしまっていてね。先生に伝えねばならぬことだったような気がするが……ただ、一つだけ伝えられるビジョンがあるんだ。それだけは今言わないといけない」

 

 

 考え込む先生(マイケル)の様子に気づかないのか、セイアは少し捲し立てるように話を続ける。とても重要な事を忘れてしまったという気恥ずかしさからか、兎に角それを誤魔化すように微妙に早口になりながらも、唯一憶えていることを伝えようとしていた。

 

 

「……赤い空、キヴォトスの空が赤く染まっていたんだ。朝日とか夕日とかそういうものではなく、まるで血のように赤い空が広がっていた」

 

”赤い空か……憶えておこう”

 

 

 キヴォトスの空が赤く染まる日、果たしてその時何が起きるのか……今は分からないながらも、嫌な予感というのは感じ取れる。その日に備えるためにも、今からできることはしておかねばならぬと彼は決意するのであった。

 

 

******************************************************************

 

 

 セイアとの話を終え、休憩室を出た2人を待っていたのはヒナとヒヨリだけではなく、もう一人……連邦生徒会の制服に身を包んだ生徒が居た。菫色のボブカットと、長耳が特徴の彼女の名は扇喜アオイ。連邦生徒会の財務室長であり、少し前にはロスト・パラダイス・リゾートの件で顔を合わせていた記憶がある。

 

 

「おや、君は……」

 

「あなたは……確かトリニティの百合園セイアさん、よね? 私は連邦生徒会、財務室長の扇喜アオイ」

 

「あぁ、よろしく。連邦生徒会の室長級と顔を合わせるのは今回が初めてかな?」

 

 

 初めて顔を合わせたが故に挨拶を交わすアオイとセイア。外の人間との接触経験が少ない故に、どのような人物だろうと物怖じすること無く好奇心に従い彼女は握手を交わす。

 

 

”アオイか……今日は総決算の日じゃないだろう、何の用事で来たんだ?”

 

「呆れた……先生、あなたが呼んだのでしょう? ()()()()()()があったから精査してもらいたいって」

 

”冗談だ、冗談。そう怒らないでくれ”

 

 

 すかさず要件を問う先生(マイケル)の言葉に、彼女は明らかに不機嫌な表情を見せる。彼から冗談のつもりだろうが、自分から呼んでおいてそれは流石にノンデリがすぎるだろう。彼女の機嫌が垂直降下するのを見た彼は流石に悪ふざけが過ぎたと謝罪し、何とかアオイの機嫌を取ろうとした。

 

 

「……はぁ、まったく。悪ふざけは大概にしてほしいものね」

 

”すまんすまん”

 

 

 素直に平謝りする先生(マイケル)の姿にアオイは呆れながらも謝罪を受け入れ、その様子を見たヒナとセイアは互いに顔を見合わせる。

 

 

「ふむ……これは、私達は少々お邪魔かな?」

 

「そうね……先生、ロールケーキとコーヒーは美味しかったわ。特にコーヒー、アコのよりもずっとよかった」

 

 

 自分たちの用事が済んだ以上、この場に居続けるのも気が引けるというもの。2人は大人しく空気を読み、一言残して執務室を後にした。残されたのは来客用の机の上に残された小皿とコーヒーカップ、そしてソーサーのみ。

 

 

「………」

 

 

 それを名残惜しそうな顔で見るヒヨリ。そこまでロールケーキが食べたかったのだろうか、先生(マイケル)は呆れ顔を浮かべながら懐から財布を取り出し、チケットを1枚抜くと彼女の手に握らせる。何事かと思ったヒヨリがチケットをマジマジと見ると、なんとそれはシャーレに併設されているカフェのケーキ交換チケットであった。

 

 シャーレに併設されているカフェは()()()()()()()が特徴の学生の休憩スペースとして解放されており、シャーレに訪れた生徒が必ず足を運ぶ場所と言っていいだろう。ここで勉強をしたり、友人と駄弁って時間を潰す生徒の姿は定番と言える。

 

 当然カフェであるので飲食の提供もあるが、今のヒヨリのような貧乏学生には僅かな出費も惜しい―――そんな生徒のために、シャーレ当番生徒の報酬の一つにカフェの食事券が用意されてる。シャーレ当番というのは中々大変なので、そのくらいの役得はあって然るべきだろうというのがシャーレの先生(マイケル・ウィルソン)の考えだ。

 

 

”今からアオイと話し合いをするが……ヒヨリ、休憩してきていいぞ。そのチケットで美味しいケーキでも食べてくるんだ”

 

「えっ、でもさっき食べすぎだって……」

 

”細かいことは気にするな!”

 

「え、えへ、えへへ……それじゃあお言葉に甘えて……」

 

 

 先程まで食べ過ぎを気にしていたにしては突然ケーキでも食べてこいと言われ、ヒヨリは当然のことながら困惑するものの、無料でケーキが食べられるというのは非常に魅力的なもの。それに抗うことはできず、結局彼女は言われるがままに執務室を後にする。

 

 そして残されたのは先生(マイケル)とアオイの2人。2人分のコーヒーを淹れ、一つをアオイの前に置き、彼は深々とソファーに座る。そして懐から取り出すのは1枚の手紙、中々におしゃれな封筒に収められたそれをアオイの手に渡す。

 

 

「これは?」

 

”あのアタッシュケースに同封されていた手紙だ”

 

 

 そう言い、先生(マイケル)が視線を送った先にあるのはジュラルミン製アタッシュケース。その中身を追求するのは一先ず後回しにし、渡された封筒から便箋を取り出し、一通り目を通すアオイ。しかし直後、彼女の眉間にシワが寄る。

 

 

「何これ……キヴォトスの言語ではないわね」

 

”私の故郷の文字(英語)だな、代読しよう”

 

「お願いするわ」

 

 

 便箋に書かれている文字はキヴォトスのものではなく、先生(マイケル)の故郷である地球のもの。読めぬ彼女のために、彼はアオイから返された便箋を手に取る。英語(地球の言語)英語(地球の言語)と認識し、キヴォトスの文字と区別できるのは不思議なものだが……彼はそれを気にすること無く、まさにネイティブであるかのように翻訳を始めた。

 

 

『シャーレの先生よ、この度は私の同僚が非常に無礼な態度を取ったことに対し、私なりのお詫びというものを表現させてもらうことにした。そなたはこれからアリウスの地を学園都市の一角としてふさわしい形に再建するのであろうが、ともすれば多額の予算が必要になることは予想するのも容易い。故に、そなたの助力となるべくこの手紙とケースを送らせてもらった。どのように使うかは任せるが、アリウスの生徒が芸術を解するようになれば私個人としては喜ばしい』

 

「ええっと……アリウス復興のための寄付、という理解で良いのかしら?」

 

”まあ、それで良いんじゃないか? それで、これが中身だ”

 

 

 先生(マイケル)が読み終えると、その内容に少々回りくどい言い回しが多かったためかアオイは困惑した表情を浮かべながらアタッシュケースを見る。その視線に応じるように彼はケースをテーブルの上に乗せ、ロックを外して開くと―――その中には多額の現金が入っていた。総額にして1億くらいか、アオイは驚愕のあまり目を見開く。

 

 

”ちなみにこれが全部で5個ある”

 

「ということは5億? とんでもない富豪ね、これを寄付した人間は……先生はその人物に覚えはあるの?」

 

”まあ……匿名の芸術家とだけ言っておくか。あまり深くお付き合いをしたい人物ではないがね”

 

 

 差出人の素性を問う彼女の言葉に先生(マイケル)は双頭のマネキンの姿を思い浮かべるが、文体の言い回しや内容からしてマエストロに間違いはないだろう。あの気難しそうな芸術家がこのようにある意味媚びを売ってくるなど、よほどシャーレの先生(マイケル・ウィルソン)という人間を気に入り、かつ決定的に敵対したくはないということだろうか。彼は呆れ半分感心半分といった様子でケースの蓋を締めた。

 

 

「確かにこれは私の仕事ね。ただ……先生も知っての通り、連邦生徒会の業務は非常に滞っているわ。この手の処理をやるとすれば普通に1か月は後になるレベルだけれども……それだとアリウス復興に支障が出るのよね」

 

”というか、そもそも何故連邦生徒会の業務が滞ってるんだ? サンクトゥムタワーの制御権はすでに返還して数ヶ月経ってるだろうよ”

 

「……非常に言いにくい事なのだけれども、サンクトゥムタワーのシステムを使いこなせるのは連邦生徒会長だけなの。私達だけではずっと効率が落ちてしまって、そのせいで皆残業を繰り返しているのよ。リン先……リン行政官なんてもう3日は徹夜しているの」

 

”それはそれで問題だな!?”

 

 

 そしていざこの寄付金をどう処理するべきか、そういう話になった時にアオイの口から出て来たのは連邦生徒会が抱える問題。個人に頼りすぎた体制故に、その人物が行方不明になった結果通常業務すらままならない状況にあるというのは正直な所組織として破綻しているというもの。アメリカ合衆国大統領であったマイケル・ウィルソンが呆れてしまうのも無理はない。

 

 普通に考えれば、トップが居なければ動かないというのは行政機関としては近代以前の問題である。独裁制であっても官僚が動いて政府というものは機能するものであり、その動きが止まるとすれば予算が尽きた時だろう。実際アメリカでは予算編成が期限に間に合わず、政府機関が停止するというのが1980年以降時折発生しているのだが―――連邦生徒会が直面しているのは予算ではなく、システムそのものの問題だ。

 

 行政システムの根幹であるサンクトゥムタワーを使いこなせるのが行方不明の連邦生徒会長しかいないというのは彼としては完全に予想外の話であり、そんな状態では到底連邦生徒会の業務が改善する見込みはない。そのまま業務を続ければ間違いなく決定的な破綻を迎えるのが目に見えている以上、なんとかする必要があるのだが……少なくとも、連邦生徒会の内側から改革をするのは不可能だろう。皆過重労働によって頭が働いていないのは誰の目から見ても明らかであった。

 

 

”……なぁアオイ、連邦生徒会の業務内容と言うか体制は刷新したほうが良くないか? そこまで君達が残業を続けるというのは不健全にもほどがあるというか……”

 

「一応、足りない部分は人手で補うことはできるのだけれども、リン行政官が連邦生徒会長捜索に多くの人員を割いているせいで本当に人手が足りないのよ。行政官は連邦生徒会長が帰ってくれば問題は解決すると思ってるでしょうけれども、帰ってくるという確証が無い以上時間とお金と労力をドブに捨ててる可能性は無きにしもあらずだし……」

 

おおっと(Oops)

 

 

 連邦生徒会の改革について話そうとした所、それを聞いたアオイはよほど思う所があるのか捲し立てるようにリン体制での不満を述べる。行政が滞っているにもかかわらず連邦生徒会長捜索にかなりの労力を割いているのが気に入らないのか、よく見ると彼女の目元には小さく隈が見えているので恐らくは実感のこもった批判なのだろう。

 

 しかし、だからといって全面否定しているという様子はなく、「気持ちはわかるが今足りてないものを優先してくれ」という思いは透けて見えていた。結局のところ()()()()()()()、そういう話でしか無いのだが、連邦生徒会内部の事情を詳しく知らぬ彼はアオイが溜めていた不満を全部ぶちまけるのを時折相槌を打ちながら耳を傾け、ようやく全部吐き出してスッキリした様子の彼女を労うように口を開いた。

 

 

”君の話を聞いて思ったが、やはり連邦生徒会の改革は必須だろう。どうだいアオイ、私と業務改善のために手を組むとか”

 

「先生……あの、あなたの分の仕事は大丈夫なの? シャーレには結構な量の仕事が回っていると思ったけれども」

 

”仕事の効率化を進めているから全然問題ないさ、それくらい出来なきゃキヴォトス全土を回るなんて出来やしないだろう?”

 

「……それもそうね」

 

 

 連邦生徒会の改革は不可避であり必須―――先生(マイケル)はアオイの愚痴からその実態を推測し、強く決意する。休日0日、連日徹夜などはっきりいって子供がやって良いものではない。*1彼女達が真っ当に日々の暮らしを取り戻すためには、それこそ誰かが音頭を取って改革を断行するしか無いだろう。となれば、その役目はアメリカ合衆国大統領であった自分をおいて他にない。

 

 アオイとしても、自分の仕事はともかくリンの過重労働改善のために何かをしなければならないと強く考えており、素性の怪しい大人(シャーレの先生)だろうが手を貸してくれると言うならば構わないと思っていた。そのあたり、彼女も過労で頭の回転が鈍くなっている部分はあるだろうが―――兎に角、今ここに連邦生徒会の働き方改革という一つの目標のもと、2人が手を組んだのであった。

 

 

「それで、どういう案があるのかしら」

 

”そうだな、例えば――――”

 

 

 その日、2人は日が暮れるまで改革案について議論を重ねていく。結局マエストロからの寄付金をどうするかについては最終決定は持ち越しになったものの、アリウス復興計画の予算として全額を消費するのが一番だろうという結論に達したため、実際の所はほぼ決まりと言えるだろう。なにせ相手は財務室長、連邦生徒会の財務処理に関して決定権を持つ人間なのだから。

 

 

******************************************************************

 

 

 それから数日後、連邦生徒会からの呼び出しがかかってきたのは先生(マイケル)にとって少々予想外の話であった。呼び出したのは連邦生徒会会長代行を務める七神リン、果たしてどんな用事なのかと思ったものの、連絡メールに詳しい内容は書かれていないため今から察することは出来ない。だが、呼ばれたからには行かねばならぬと彼はサンクトゥムタワーへと出かける準備を進める彼に声を掛けるのは、本日の当番である狐坂ワカモ。

 

 

「あなた様、どちらへ向かわれるのですか?」

 

”ワカモか、連邦生徒会に呼ばれてな、サンクトゥムタワーへ行ってくる。数時間もあれば戻ってこれるだろう”

 

「まったく、お忙しい先生を呼びつけるとは、連邦生徒会は何様のつもりなのでしょうか。あぁ、腹立たしくて―――」

 

”暴れるのは無しだぞワカモ、そういう約束だろう?”

 

「は、はい……大変申し訳ございませんでした」

 

 

 ロスト・パラダイス・リゾートで捕縛して以来、矯正局からシャーレでの保護観察処分となっている彼女は時折こうして当番としての業務もこなしていた。元より多彩な彼女は事務作業でも即戦力であり、連邦生徒会から回される仕事の消化速度は3割増となっている。それに、彼女の戦闘能力の高さはシャーレの業務の一つである治安維持活動においても発揮されており、昨晩も2人で暴走オートマタの制圧という仕事を無事に終わらせるなど、彼女の存在はシャーレにとって無くてはならない人物の一人といえる。

 

 とはいえ、その凶暴性は相変わらずであり―――先生(マイケル)は彼女が他人に牙をむかぬようにうまく誘導する必要があった。幸いにも彼が怒ればワカモはしおらしくなるので言うほど大変ではないのだが、連邦生徒会などの行政組織に対する敵意は如何ともしがたい。実際、連邦生徒会に呼び出されたというだけで襲撃を仕掛けそうな雰囲気を醸し出すというのいただけないというものだ。

 

 

”それじゃあ出かけてくる”

 

「はい、このワカモ……あなた様の帰りをお待ちしております」

 

 

 シャーレビルの正面入口まで見送りにきたワカモに手を振りながら先生(マイケル)はミレニアムから提供されたSUVタイプの専用防弾車「メタルビースト」に乗り込むと、V8エンジンの音を周囲に響かせながらD.U.の街並みの中へと消えていった。

 

 

******************************************************************

 

 

 サンクトゥムタワー―――それはキヴォトスの中心に存在する超高層建築物のことと一般的には知られている。ただ、正確に言うならばサンクトゥムタワーを中心としてキヴォトスが形成されたというのが事実に即しているだろう。遥か天まで伸び、先が見えぬほどの巨大構造物……誰が作ったのかは一切不明のオーパーツの一つだ。

 

 その根本にある駐車場の一角にメタルビーストを停めた先生(マイケル)は足早にメインロビーに滑り込むと、早速メインエレベーターのボタンを押して降りてくるのを待つ。上層階に停まっているエレベーターが降りてくるまでの少々の時間、特にスマホを弄ったり音楽を聴くではなく、ただつま先でリズムを取っている所―――急に後ろから人が近づく気配がした。

 

 

”………”

 

「―――っ」

 

 

 素知らぬ顔をして振り向くと、近づいてきた生徒は少々驚いた様子であった。ピンク色の髪……恐らく背中まで伸びていると思しきそれを後頭部で編んで纏めている少々小柄な人物、少し開かれた瞳は碧色で、瞳孔はまるでヤギかタコのように横に長い長方形。お見合い状態になった数秒の後、先生(マイケル)笑み(営業スマイル)を浮かべて手を差し出した。

 

 

”君は防衛室長の不知火カヤだね? こうして顔を合わせるのは初めてだが、私は連邦捜査部S.C.H.A.L.E顧問のマイケル・ウィルソンだ”

 

「これは……どうも、ご親切に。ええ、確かに私は不知火カヤと申します。驚きましたね、まさか私の顔を見ただけで役職まで言い当ててしまうだなんて」

 

 

 差し出される手をとり、握手を交わす防衛室長不知火カヤ。先程までの崩れていた表情は無かったかのように澄ました顔をし、言葉をかわす。

 

 

”資料に目を通すのは当然のことだろう? きちんと予習するのが大人というものだ”

 

「それは……確かにそうですね。ああ、先生、エレベーターが着きましたが」

 

”君は乗るのか? 私はリンに呼ばれているが―――”

 

「はい、私も同じフロアに用事がありますので」

 

 

 話をしている最中、到着するエレベーター。二人して乗り込んで目的階のボタンを押せば、扉が閉まって加速度を感じる。数字は段々と大きくなっていくが、サンクトゥムタワーは相当な高層建築であり、目標階に到達するのには些かの時間を要するだろうと彼は思った。しかし、当然ながらその分エレベーターも高速なため、彼が思っているよりも早く目標階へとたどり着く。

 

 

「……先生、先日アオイ室長がシャーレに伺った際に彼女に何を吹き込んですか? 何やら働き方改革と謳って各部署に働きかけを行っているようですが」

 

”ほう?”

 

 

 エレベーターを降りたその直後、カヤは足を止めて先生(マイケル)に問う。どうやら先日取りまとめた連邦生徒会の改革案を元にアオイは各部署と調整し、内側から変化を起こそうとしているらしい。ただ、カヤの話し方から察するに、彼女はどうやら改革案に対してあまり好意的ではないのが見て取れる。

 

 

「連邦生徒会長の権限を縮小し、各室長に振り分ける。行政委員会の独自性を高めるというのは現状の硬直した体制を考えればアリかもしれませんが……あなた(大人)が噛んでいるとなれば話は変わってきます。シャーレの持つ権限は強大で、もし連邦生徒会長という枷をなくしてしまえば―――それは、シャーレに連邦生徒会が支配されると思われても仕方がありませんよ?」

 

”……やれやれ、独裁者に思われるのは心外だ。私が心底嫌いなものの一つなんだがね”

 

 

 アオイと考えた連邦生徒会改革案、それはアオイが単独で思いついていたのならば問題は無かったのだが、ここは学園都市キヴォトス。学生が主体として運営する場所である以上、そこに大人の意思が介在するとなれば話が変わってくる。()()()()()が連邦生徒会の構造を変えてしまうとなれば、それは即ち大人の意思でキヴォトスが運営されることと同義といえるだろう。

 

 カヤはシャーレという組織が連邦生徒会の内部でどう思われているのかを言外に述べる。リンやアユム、アオイ、モモカのように比較的頻繁に顔を合わせている役員の他にも連邦生徒会には多くの役員がいるのだが、そういった人々からすればシャーレ、そしてシャーレの先生(マイケル・ウィルソン)というのは得体のしれないものなのかもしれない。

 

 しかし、彼としてはまるで独裁者のように思われるのは好ましいものではなかった。当然だが彼の気質は自由と民主主義を愛する戦士であり、それらを否定する独裁者とは真逆の存在である。少し不機嫌そうな表情になった彼を見てカヤは肩をすくめた。

 

 

「まあ、私は防衛室長ですので、先生がキヴォトスの各地でどれほどの活躍をなさっているのかは知っています。シャーレについて悪い噂を立てているのは連邦生徒会に籠りきりのたぬきのような輩でしょう。先日のエデン条約調印式では事態の沈静化に大いに活躍したことは記憶に新しいですし」

 

”そう言えば……君がSRTの派遣を決定したんだったか”

 

「はい、SRT特殊学園は連邦生徒会長失踪後に指揮権が喪失し、活動停止状態に追い込まれました。リン行政官は存在が浮いてしまったSRTの扱いに難儀していたようですが……先生がアビドスの件でその必要性を証明したため、どうにか運用する術がないかと関係部署との協議の結果、連邦生徒会長代行と防衛室長の双方が承認する形で動かせるようになったのです」

 

”なるほど、そういうことか”

 

 

 先生(マイケル)のあり方に理解を示しつつ、エデン条約調印式の事件の事を語るカヤ。SRT3個小隊を派遣したのは自分の権限によるものだと強調し、比較的起伏に乏しい胸を張る。

 

 

「……話が逸れましたね。先生はリン行政官に呼ばれたそうですが、恐らく話は働き方改革に関することでしょう。彼女は連邦生徒会では保守派として知られていますので、あまり良くは思ってないでしょうね」

 

”まあ、とはいえ彼女の過重労働を放ってはおけないんだがね”

 

「随分とお人好しですね先生は……まあ、これ以上引き止めるのは悪いですし、私はこれにて」

 

”ああ、すまんなカヤ”

 

 

 カヤと別れ、レセプションルームへと向かう先生(マイケル)。彼の姿がエレベーターホールから見えなくなったところで彼女は足を止め、スマートフォンを懐から取り出す。モモトークではない秘匿性の高いメッセージアプリに新着があり、それを読んだ彼女は大きなため息をついた。

 

 

「……一度弱みを見せれば延々と付け込まれる。本当に嫌ですねぇ、大人の付き合いというのは。歴代の防衛室長はこのようになるのを予見できていたのでしょうかね? まあ、仕方がありません。今手を切れば歴代の癒着が暴露され、失脚するのは私の方ですから……少なくとも、今は耐えないと」

 

 

 彼女にメッセージを送ってきたアカウント、その名は―――将軍(General)

 

 

******************************************************************

 

 

 レセプションルームで会談をするリンと先生(マイケル)であったが、やはりカヤが忠告したように彼女の話は働き方改革に関するものであった。曰く、連邦生徒会長が帰って来た時に権限が縮小されたままでは彼女の能力が発揮しきれないだの、室長権限の強化は行政委員会の派閥化を招くだの、兎にも角にも現行態勢を変化させたくないという彼女の意思はよくよく理解できた。

 

 また、連邦生徒会長捜索にあたっている人員を縮小させるという案についても彼女は難色を示す。連邦生徒会の3割の人員を割いているという現状は正直異常であり、そのために行政が滞っていることは本末転倒なのだが―――誰が何を言おうともリンは連邦生徒会長を探すことに心血を注いでいるようだ。彼女と連邦生徒会長は親しい友人であったとはアオイから聞いていたが、しかしこれでは公私混同ではないか。

 

 

”しかしねぇ、それで行政が滞ったり君達が過重労働してるようでは本末転倒なのだから……”

 

「……これは連邦生徒会の問題です。先生といえど、そこに口を挟む権利はないはずですが」

 

”君が3日も徹夜してると聞けば口を挟みたくもなるだろうよ”

 

 

 何が何でも連邦生徒会の過重労働状況を解消したいシャーレの先生(マイケル・ウィルソン)と、連邦生徒会長帰還まで体制を維持したい七神リン。双方譲らずといった状況で膠着するが―――直後、レセプションルームの扉が勢い良く開かれ、3名の生徒が勢い良く踏み込んできた。

 

 

「何事ですか、今は―――」

 

「失礼、リン首席行政官。ヴァルキューレ警察学校公安局長、尾刀カンナです」

 

 

 突然の来訪者に思わず腰を浮かせて抗議するリンだが、踏み込んできた生徒―――ヴァルキューレ警察学校の制服に身を包んでいる―――は生徒手帳を見せた。公安局といえば対テロなどの専門だが、一体何故ここにと先生(マイケル)は首を傾げるが―――

 

 

「連邦捜査部シャーレ顧問、マイケル・ウィルソン。狐坂ワカモとの共謀、破壊行為の容疑で逮捕する!!」

 

 

 先頭の生徒―――尾刀カンナが逮捕令状を見せると同時に、脇に控えていたヴァルキューレ生が金属製の手錠を呆然としている先生(マイケル)の手首にかけた。

 

 

”……What's!?”

 

 

To be Continued in Episode2 ”False accusation(冤罪)

*1
だからといって大人がやっていいものとも言えない




 シャーレの先生、逮捕!? SRT特殊学園閉校が無いため本作ではカルバノグの兎という物語ではなく、Proof of Justice(正義の証明)というタイトルで章が進行していきます。
 見に覚えのない罪状で逮捕されたマイケル・ウィルソンは果たして自分の無実を証明できるのでしょうか。
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