METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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Episode2 ”False accusation(冤罪)

 D.U.シラトリ区、鐘崎港―――漁港と貨物港の両方の機能が存在するD.U.の物流拠点の一つ。草木も眠る丑三つ時ではあるが、漁業では真夜中の出漁というのは珍しくはなく、この時間帯であっても港には幾らかの人気があった。

 

 今日は本当ならば月が明るい夜だが、どんよりと雲が立ち込め星の一つも見えやしない。そんな中、そこに現れた違和感に気づいたのはこの港の警備業務を請け負っているカルパッチョ・ファミリーというマフィアの構成員だ。

 

 彼女は倉庫群を巡回中、とある倉庫の屋根の上に人影が浮き上がっているのを偶然にも見つけた。すわ侵入者かと通信機で仲間を呼び、直ちに倉庫の周りを包囲する。

 

 

「このカルパッチョ・ファミリーのシマに忍び込むとはいい度胸してるな! 二度と朝日を拝めなくしてやる!」

 

 

 マフィアらしい脅し文句を言いながらカルパッチョ・ファミリーは銃口を人影へと向け―――次の瞬間、雲の切れ間から月が顔を覗かせ、孤独なシルエットに色を付ける。屋根の上に佇むそれの正体、それは人よりも大きなパワードスーツであった。

 

 濃紺色に染められ、背中に大きなコンテナを2つ背負ったそれは赤い単眼を輝かせると、両手に握っていた巨大な銃器を彼女達へと向ける。

 

 

「……へっ?」

 

 

 まさか自分たちに銃口を向けてくるとは思わなかった彼女達は一瞬思考がフリーズし、その場に呆然と立ち尽くす。パワードスーツはそれを見逃す事無く引き金を引き、大口径の機関砲弾がカルパッチョ・ファミリーの構成員を尽く薙ぎ払っていった。

 

 

「に、逃げろ! あんなの相手にしてたら命が何個あっても足り―――ぎゃあっ!?」

 

「なんなんだ、あれ!?」

 

 

 まるで戦車を相手にしているような大火力を前に、カルパッチョ・ファミリーは逃げ惑うことしか出来ない。追い詰められた彼女達は散り散りになって倉庫群に逃げ込むが、しかし―――

 

 

「は、はやくボスに知らせないと!」

 

「その前にファミリーの財産を逃さないとうちらは無一文になっちまうぞ!?」

 

「ひいっ!」

 

 

 カルパッチョ・ファミリーが使用している倉庫に駆け込む構成員が数名。呼吸は荒く、いかにも全力で走り込んできたという様相の彼女達は、この倉庫に収蔵されているファミリーの財産を逃がそうと努力する。普通に考えればバカバカしいものだが、マフィアという集団に属している彼女達からすればボスの財産を喪うということは死刑宣告にも等しいのだ。

 

 

「うふふ……小鼠がこんな所に集まって」

 

「ひいっ!?」

 

「だ、誰―――」

 

 

 不意に掛けられる仲間以外の声。恐怖に震える彼女達は銃を向けながら誰何するが、彼女達の眼の前に飛び込んできたのは―――信管がセットされたコンポジション爆薬の塊。全員の顔が恐怖に引きつったその瞬間、光とともに倉庫が爆ぜた。

 

 さらに他の倉庫も次々と爆発、炎上していき、一帯は炎と黒煙に包まれる。ここに至って漁港に詰めていた漁師たちが大変な事になっていると気づき消防や警察へと通報を行うが、少なくともシラトリ区のヴァルキューレの校舎から鐘崎港に到達するにはまだまだ時間がかかるだろう。消火器や消火ホースを手に倉庫に駆け寄る漁師たちの前に、一人の生徒が立ちはだかる。

 

 

「だ、誰だあんた! 火事を消さなきゃならないんだから邪魔すんじゃねえ!」

 

「――――」

 

 

 道を塞ぐ生徒に漁師は苛立ちを隠さず吠える。しかし、()()()()()()生徒は動揺する様子もなく、手にしたライフルを漁師たちへと向けた。

 

 

「な、なんだっ、やる気かお前……」

 

 

 まさかいきなり銃を向けられるとは思っていなかった漁師は後退りし、それでも舐められてたまるかと言わんばかりに虚勢を張る。だが、生徒はそんな彼の事情など知ったことかと言わんばかりに軽く引き金を引き、銃声とともに漁師はその場に崩れ落ちて動かなくなった。

 

 消火しようとするものは尽く撃ち抜かれ、警備のカルパッチョ・ファミリーは壊滅状態。結果として倉庫群の火災は初期消火が行われる事無く、勢いに任せる事となる。十数分後に到着したヴァルキューレ消防局の果敢な消火活動によって火災は朝までには消し止められたが、彼女達が到着した時点で襲撃犯の姿はなく、残されたのは無惨な骸を晒す倉庫群と、壊滅したカルパッチョ・ファミリー、そして襲撃を受け傷ついた漁師たちのみ。

 

 一体誰が、何の目的でこんな事を―――ヴァルキューレ生徒の疑問に答えるものは、いない。

 

 

******************************************************************

 

 

”それで、これが私が襲撃したという証拠だと? そんなことより弁護士を呼んでほしいんだが”

 

 

 ディスプレイに映し出されている、鐘崎港を襲う謎のパワードスーツ。確かにシルエットはメタルウルフに似ているが、この映像からそれを断定することは難しいだろう。先生(マイケル)は呆れ果てた表情を見せながらテーブルの向かいにいる人物―――ヴァルキューレ公安局長、尾刀カンナ―――に顔を向ける。垂れ目ながら何処か尖さを感じる少女は突き刺すような視線で先生(マイケル)を睨みつけるが、彼は全くプレッシャーを感じる様子もなくパイプ椅子の背もたれに深く寄りかかった。

 

 

「おっしゃるとおりです、先生。目撃者の証言、そしてカメラの映像からあなたが鐘崎港をワカモと共に襲撃したと我々は判断しました」

 

”おいおい、私は昨晩はD.U.郊外の無人地帯の暴走オートマタ制圧に出かけてたんだ。私のパチモンでも出たんじゃないか? 著作権や肖像権の侵害で訴えたい気分だ”

 

「それを証明する事ができますか?」

 

”生憎、人気のない時間だったからなァ……通り道の監視カメラにでも映ってるんじゃないのか?”

 

 

 事件当時の時間帯、確かに彼とワカモは武装してシャーレを出撃したが―――それはあくまで郊外で暴走オートマタが暴れているという通報に基づくものだ。決して港湾地域へと向かってはいないのだが、カンナはそれを聞いて頭を振る。

 

 

「我々は連邦生徒会の交通室を通じてD.U.各地の監視カメラの映像を確認しています。襲撃の1時間前、シャーレから出たあなたと狐坂ワカモが真っ直ぐに鐘崎港へと向かっている姿が映像で確認できました。それでも尚自分はやっていないと言うつもりですか?」

 

”何度も言うが、私は海へは行っていない。一体全体どういう理屈で逮捕されたのか、それすらわけがわからない状況だ。弁護士はまだ来ないのか?”

 

 

 覚えのない罪を着せられ、ヴァルキューレに拘束されているというこの現状。先生(マイケル)は不満を述べながら足を組む。

 

 

”それに、そんな映像があるなら捏造されたものだろう。今はAIによるディープフェイクも珍しくないからな、私の知り合いなんて淫語を話す動画をネットに上げられたらしいし”

 

「話が噛み合いませんね……ですが、交通室の持つ監視カメラの映像は()()()()()()()()()()()()()()()なものです。先生が何を言おうとも、映像に残されている以上、襲撃犯はあなたと狐坂ワカモ以外にあり得ない」

 

”やれやれ……”

 

 

 映像の捏造を指摘する先生(マイケル)に対し、カンナはそれは不可能だと返す。しかし、ヴェリタスやリオといった超一流のハッカーの存在を知っている彼としては、その言葉を何処まで信用していいのか分からないものであった。

 

 ミレニアムのサイバーテクノロジーはキヴォトス1だと思っている先生(マイケル)だが、彼女達がこのような事をするはずがないので、もし動画を捏造したものがいるとすればそれは悪意を持つものだろう。

 

 

「今認めれば執行猶予もありえますよ先生、あなたの経歴にこれ以上傷がつくことは私としても望んでいません」

 

”量刑を盾に自白を迫るのは人質司法と呼ばれる手法だな、好ましくはない”

 

「ぐっ……」

 

 

 自白を引き出すためにあの手この手を弄するものの、黙秘権を行使すること無くあれこれ言い返す先生(マイケル)の言葉の前にカンナは苦戦を強いられていた。だが、意外ではあるが彼女とてこのような尋問をするのは本当は不本意なものでる。彼のお陰でD.U.の犯罪件数は右肩下がりであり、当然ヴァルキューレ全体としても恩恵に預かっていたのだが、今回の事件では警備業務を委託されているカルパッチョ・ファミリーと鐘崎港漁業共同組合の双方から被害届が出されている以上、警察としてはきちんと捜査はしないといけない。

 

 そして、捜査の結果事件への彼の関与が濃厚となったのならば―――尾刀カンナは警官として、個人的な恩義等は一旦忘れて公正に対応する必要があるのだ。それこそが彼女の矜持、もし恩人だからと甘い対応をしてしまえば、それは警官としては不適切なものと言えるだろう。

 

 

「……今日は此処までにしておきましょう。先生を拘置所に連れて行くから付いてこい」

 

「はっ」

 

 

 これ以上尋問を続けたところで成果は得られそうにない―――そう断じたカンナは席を立つと扉の向こうに待機しているヴァルキューレ生に声をかけ、彼を拘置所へと連れて行こうとする。両手を手錠で繋ぎ、拘置所のあるヴァルキューレ警察学校の地下へと3人で歩いていくが―――

 

 

”……あぁ、そういえば”

 

「うおっ!? 先生、足を止めないでください!」

 

 

 ふと足を止め、先生(マイケル)は何かを思い出したかのように呟く。後ろを歩いていたため止まりきれずにぶつかったヴァルキューレ生が文句を言うが、それを無視して彼は言葉を続けた。

 

 

”いやね、今日のシャーレの当番はワカモなんだよ。すぐ帰ってくると言っておいたが、もしかしたら―――”

 

 

 彼がそう言った次の瞬間、爆発音とともに激しい振動が起こり、カンナとヴァルキューレ生は耐えられずにその場に蹲った。爆発は1回ではなく、2回3回と立て続けに起こり、しかも段々と近づいてくるように感じられる。顔を上げたカンナは状況を把握するべく壁に手をつきながら立ち上がるものの、警報が鳴り響くばかりで何も分からないというのが現状であった。

 

 

「様子を見てきます!」

 

「ああ、頼む」

 

 

 地下に居ては何も分からないということで、ヴァルキューレ生は地上に出て状況を把握しようとしてドアに手をかけたまさにその瞬間、ドアが勢い良く蹴破られ、ヴァルキューレ生はピンボールの玉のように跳ね飛ばされて壁に叩きつけられる。頭の上からヘイローの輝きが消え、意識を失った彼女は力なく崩れ落ちた。

 

 

「なっ……」

 

「うふふ、ようやく見つけました。このワカモ、あなた様を助けるためならたとえ火の中水の中、ヴァルキューレの牢獄であろうと駆けつけますわ」

 

”おいおい……”

 

 

 ドアを蹴破り、現れたのは―――狐面を付けた和装の少女。七囚人と呼ばれる矯正局脱獄犯が一人、百鬼夜行連合学院3年生狐坂ワカモその人であった。

 

 

「……貴様っ!」

 

「先生は返していただきます!」

 

 

 突然のことに一瞬呆然としたカンナであったが、気を取り直してすぐさま腰のホルスターから拳銃を引き抜きワカモに向けようとするものの、すで銃を手にしているワカモの方が引き金を引くのは早い。放たれたライフル弾はカンナの右手に命中し、痛みに顔を歪めた彼女の手から銃は離れ、軽い音を立てて床へと落ちる。

 

 

「くっ……」

 

待て待て(Wait Wait)! 今私は弾を防ぐ術がないんだ、二人とも銃はやめろ銃は!」

 

 

 手を押さえたじろぐカンナと銃を構えるワカモの間に立たされた先生(マイケル)は、防弾衣やシッテムの箱を持っていない全くのプレーンな状態である。この状態で流れ弾を喰らえば間違いなく重傷、ないし死亡の可能性が高いので、彼は必死にワカモがこれ以上発砲しないように大声を出す。銃社会アメリカで生まれ育った彼は銃の威力を良く知っているだけに、恐らく生涯でこれ以上必死になったことはないレベルであった。

 

 そんな彼の必死の訴えを聞いたワカモは自分がとんでもない事を仕掛けたということに気づき、仮面の下で顔を青くするが―――その隙を見逃さず、カンナが先生(マイケル)を押しのけてワカモに飛びかかる。銃が使えないのならば、己の身一つで制圧する。それがヴァルキューレ警察学校の生徒というものだ。

 

 

「私の手で矯正局に送り返してやる!」

 

「チィッ!」

 

 

 インファイトとなれば、ヴァルキューレで1,2位を争うフィジカルを持つカンナの間合いである。ワカモもワカモで相応に強いのだが、彼女の強みはゲリラ的な破壊行為を可能にする総合的な戦闘力と、他に類を見ないほどの扇動力からくる集団戦にあるので、このような1対1のガチンコバトルではその強みは活かせない。

 

 カンナはワカモの懐に飛び込むと、ライフルの銃身をすかさず握り力の限り手前に引く。ヴァルキューレ全体の事を甘く見ていたワカモはこの動作を予想できず、引っ張られるように姿勢を崩す。それを見逃す事無くカンナはがら空きとなったワカモの胴体へと目一杯の力を込めて膝蹴りを叩き込んだ。

 

 

「かはっ!?」

 

「トドメだっ!」

 

「くっ……させませんわ!」

 

 

 みぞおちへの一撃を受け、たまらず一瞬呼吸が止まるワカモ。しかし彼女も百戦錬磨の生徒、続けて放たれるカンナの意識を刈り取らんという意思が込められた顔面へと向けられた掌底を紙一重で回避し、逆に彼女の顔面に頭突きをねじ込む。ほぼ密着しているが故に、この一撃を回避することは出来ない。

 

 

「がっ!?」

 

 

 防弾の狐面によるヘッドバットの直撃を受け、カンナは堪らず鼻血を出す。眼の前に火花が散り、軽度とは言え脳震盪が引き起こされたことで彼女はふらつき姿勢を崩した。同時に銃身を掴む手も緩み、それをワカモは見逃すことなく銃を取り戻し―――よろめくカンナの土手っ腹に目掛けて後ろ回し蹴り叩き込む。まるで風のように速く鋭い一撃は、無防備となった彼女の腹に突き刺さった。

 

 

「はあっ!」

 

「ぐあっ!」

 

 

 そのまま勢い良くカンナは吹き飛ばされ、床でバウンドしながら転げていく。その先でヘイローの輝きが消え、意識を失った彼女はぐったりとしたまま動かなくなった。思わず彼女の傍にかけつけた先生(マイケル)が状態を確認するものの、すぐさま目覚める気配はない。

 

 

”なんてことを……まるで私がワカモをけしかけたみたいになってしまったじゃないか”

 

 

 この事態に先生(マイケル)は思わず頭を抱えた。彼は決してこのような事を想定していたわけではなく、もう少し穏便に解決することを望んでいた。冤罪で捕まったとしても無実を証明する機会はあるはず―――そういう考えで居たのだが、それがワカモの乱入が滅茶苦茶にしてしまったのだ。

 

 ヴァルキューレの校舎を爆破し、生徒を何人も叩き伏せ、ついには公安局長さえノックアウトしてしまったのは隠蔽しようにも出来ないだろう。しかも直前に思わせぶりな事を言ってしまったため、まるで自分がワカモにヴァルキューレを襲わせたかのように取られかねないのは非常にまずい。一筋の汗が彼の額から落ちた。

 

 

「あなた様から受けた恩をこのような形で仇で返すヴァルキューレには相応しい末路でしょう?」

 

”ワカモ……彼女達だって好き好んでこういうことをしているわけじゃないだろう。警察なら、事件が起きて被害届が出され、それを受理したら捜査せざるをえない。その結果得られた証拠に基づき、仕事をしているだけだ。ただ……多分、その証拠が誰かに捏造されたものだというだけで、彼女達に悪意はないはずだ”

 

 

 ヴァルキューレに対し恨み節をぶつけるワカモであったが、一方当事者である先生(マイケル)はあくまでカンナ、そしてヴァルキューレ擁護の姿勢を崩さない。警察が動く仕組みを良く理解している彼は、彼女達が自分を逮捕したとしてもそれ自体に憤る事はないのだ。ただ、完全に身に覚えのない案件で逮捕されたというのは腑に落ちないし、出された証拠は恐らく捏造されたものというのが一番の問題であった。

 

 事件の時間帯に鐘崎港に行っていないということを証明できるのは己の記憶とワカモの証言のみ。双方事件の当事者である以上、証拠として取り上げられることはないだろう。であるならば、公的には監視カメラの映像こそが真実―――それはつまり、彼が鐘崎港を襲い、倉庫群を焼き払った犯人ということになる。

 

 

「つまり、先生は誰かに嵌められたということでしょうか?」

 

”嵌められたのは君も同じだ。どうやら、気づかぬ間に陰謀に巻き込まれているようだな……”

 

 

 ここに至り、彼はこの事件が仕組まれているという考えに到達した。何者かが意図して自身を陥れるべく、壮大な陰謀を巡らせている―――そうとなれば、マトモに正面から挑んだところで無実を証明することはできないだろう。そう考えると、ワカモが襲撃してきて良かったのかもしれない。

 

 

「……このワカモだけならいざ知らず、先生を嵌めようとするとは不届き千万。必ずやその報いを受けさせてあげましょう。ですが、そのためにもこの場を離れるべきかと」

 

”確かに、ここに居たら牢屋に逆戻りだ。だがその前に、シッテムの箱……私のタブレットを取り戻さないと。多分押収品として保管されているだろうが……”

 

「それでしたら、こちらでしょうか? ここに来るまでに押収品保管庫で見つけたのですが」

 

 

 そう言ってワカモが差し出してきたのは1枚のタブレット端末。見間違えるはずもなく、それは確かにシッテムの箱であった。

 

 

”おお、これは正しく。ありがとうワカモ、助かった”

 

「いえ……あなた様のお役に立てたのなら、それで十分です」

 

 

 礼を述べる先生(マイケル)の言葉に、顔を赤らめてもじもじしながら応じるワカモ。シッテムの箱の電源を入れ直すとアロナの顔がどアップで映り込み、思わず彼はぎょっとする。

 

 

『先生! 一体全体何が起きているんですか!?』

 

”それが分かれば株取引で大儲けだってできるだろうよ”

 

 

 彼女も事態はある程度理解できているのか、捲し立てるように先生(マイケル)を問い詰めるが、当然のことながら彼にだって答える事はできぬ話だ。

 

 

『クロノスは先生の逮捕を速報で流してますし、それを見た生徒さんが沢山メッセージを送ってきてモモトークの受信ボックスはもうパンク寸前です!』

 

”残念だが、今それを確認する暇は無いな。すまんアロナ、もう1日ぐらい保持しといてくれ”

 

『そ、そんなぁ!?』

 

 

 アロナの話で、逮捕されてからの今に至るまでの間に外で何が起きたのかというのがというのが薄っすらと理解できたが、クロノスが報道しているというのは頭が痛い話である。間違いなくあることないことを吹聴しているに違いない。それを聞いた生徒達がどうするのかなど此処であえて言及する必要もなく、画面の奥でパンパンに膨れ上がっているポストがその答えであった。

 

 

「ワカモはこっちにいるはずだ!」

 

「絶対に逃がすな!」

 

「ちっ……もう立て直してきましたか。先生、私の手を握ってくださいまし。安全かつ速やかにここから連れ出しますので」

 

”やれやれ、これで私も脱獄犯の仲間入りだ”

 

 

 警報が響く中、近づいてくるヴァルキューレ生の声。散々爆破してかき回したはずだが、予想よりも早く態勢を立て直したことにワカモは舌打ちしながらも、先生(マイケル)の手を取ると疾風のように駆け出し、ヴァルキューレの包囲網の隙間を縫うようにしてたどり着いたのはとある小部屋……というよりかは、更衣室だ。

 

 

「ほんの少しだけお待ちくださいませ、脱出のための策は考えていますので」

 

 

 そう言って部屋に入った彼女は、数秒後には何時もの和装からヴァルキューレの制服に着替えて出て来た。何処からどう見てもヴァルキューレの生徒にしか見えないその姿に、先生(マイケル)はいたく感心した様子を見せる。

 

 

”おぉ……これは完璧な変装だな”

 

「……身に余るお言葉ですわ」

 

 

 先生(マイケル)の賛辞の言葉に顔を赤らめ、もじもじするワカモ。しかしいつまでも浸っているわけにはいかないため、彼女は瞬時に気持ちを切り替えた。

 

 

「脱出するにあたりヴァルキューレの装甲車を使います。私が先生を移送するという名目で正々堂々と脱出すれば、追手が出てくるまでの時間をかなり稼ぐ事が出来るでしょう」

 

”君に任せるよ、私は今は無力だ”

 

「はい、必ずやあなた様を無事に連れ出してみせます。ですから今は……何も言わず、私の後に付いてきてくださいまし。手錠も後で外して差し上げますので」

 

”わかった、頼む”

 

 

 ワカモに言われるがままに先生(マイケル)は黙って彼女の後ろをついていく。逃げも隠れもせず、堂々とヴァルキューレ警察学校の校舎を練り歩くが―――襲撃によって混乱状態にあるということと、ワカモが完全に変装をしていることもあって全く露呈する気配はない。

 

 

「くそっ、ワカモは何処にいるんだ!?」

 

「急げ急げ! 不良共が押し寄せてきてるらしいぞ!」

 

「D.U.の不良なんて最近動き無かっただろ!? 何で急に!」

 

 

 銃を手に廊下を走るヴァルキューレ生達とすれ違う瞬間、彼女達が口走った話の内容に耳を傾ける。どうやらワカモはヴァルキューレを襲撃するにあたり、不良達を扇動して相当な数を動員していたようだ。確かに一人で襲撃するより賢明だが、何にせよ無茶苦茶だ。

 

 

「D.U.の不良は最近燻っていましたからね、少々煽れば簡単なものでした」

 

”……今のは聞かなかったことにしておく”

 

 

 振り返って自慢げに語るワカモであるが、果たして褒めるべきか叱るべきか……ほんの少し悩んだ先生(マイケル)であるが、とりあえず今は言及を避けることにした。それから少々歩いた後、ついに2人は地下駐車場へとたどり着く。

 

 

「おい、先生を連れて何処へ行くんだ?」

 

「局長の指示で先生を逃がせとのことです。ワカモの狙いは先生らしいですから」

 

「そうか、護送車の鍵はそこにあるぞ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 到着した直後、襲撃の対応にあたらず先生(マイケル)を連れているヴァルキューレ生(ワカモ)を不審に思った車両番らしき生徒から何をしているのかと問われた時はドキッとしたものだが、ワカモは口八丁で護送任務だと誤魔化し車の鍵を手に入れる。

 

 

「ささ、早く行きましょう」

 

”ああ、わかった”

 

 

 そして、ヴァルキューレの護送車を手に入れたワカモは堂々と先生(マイケル)を連れ、ヴァルキューレ警察学校の敷地を後にするのであった。

 

 

******************************************************************

 

 

「う、うぅ……けほっ、けほっ」

 

 

 拘置所へ続く通路の途中、ワカモとの戦いに敗れ意識を失っていたカンナは、うめき声を上げるとその頭上にヘイローが灯り、痛みと共に目を覚ました。咳き込みながら体を起こした彼女はゆっくりと立ち上がると、周囲を見渡しワカモと先生(マイケル)の姿が無いことを確認し、顔を歪める。

 

 

「逃げられたか……」

 

 

 まさか七囚人、狐坂ワカモがヴァルキューレの本校舎を襲い、勾留していた容疑者を奪われるとは。公安局長として責任を感じているカンナは肩を落とす。だが、視線を下げたその先に1枚の紙が落ちている事に気づいた彼女は、思いっきり蹴られた腹に痛みを感じながらも屈み、それを拾い上げた。

 

 

『”カンナへ、非常に申し訳ないが私はワカモと行動を共にすることにした。私の無実を証明できるのは私しか居ない以上、大人しく牢屋に繋がれているわけにはいかない。法に反するだろうが、私の姿を騙る真犯人を放置するわけにはいかないため苦渋の決断だと思ってくれ”』

 

「……ああ、もう!」

 

 

 書かれているのは謝罪と、ワカモ(七囚人)と行動を共にするという先生(マイケル)の言葉。よりにもよってその選択を取るのかと頭を抱えたくなるカンナであったが、しかし彼がその決断を選ばざるを得なかったということも同時に理解していた。

 

 そもそも、カンナ自身は彼と直接顔を合わせるのは今回が初めてであったが、彼の関与したことについての知識は持ち合わせていた。極めて高い性能のパワードスーツを使い、数々の荒事を解決していったという大人。カイザーグループのような大企業相手でさえ臆すること無く叩きのめし、半壊状態にまで持ち込んだその手腕は確かに素晴らしいものがあるが、同時にそれは多くの敵を作るということと同義である。彼が言うように、シャーレの先生(メタルウルフ)の姿を模して暴れることでその信用を傷つけるという手法は考えられなくもない話といえるだろう。

 

 それに、カンナ自身が逮捕、尋問した上でこの事件に関して先生(マイケル)が関与していたということに関して実は懐疑的な見方をしていた。何せ、鐘崎港ではカルパッチョ・ファミリーの構成員に対してパワードスーツは大口径の機関砲を()()()()していたという証言がなされていたのだが、彼女の記憶の限りではシャーレの先生は生徒に対しては何時もペイントガンによる射撃に留めているという記録がある。そんな彼が仮にも生徒であるカルパッチョ・ファミリーの構成員に対して危害射撃を加えるとは考えづらい。

 

 

(しかし、とすると一体誰が? それに、狐坂ワカモと共謀してとなると……)

 

 

 先生(マイケル)の関与はともかくとして、ワカモが関与しているということに関してはカンナはそれほど疑ってはいなかった。やはり前科持ちというのはそういう目で見られるということでもあるが―――それはともかく、ワカモはカンナとしては信用できぬ相手である。

 

 

(何としてでも先生は保護しないと……)

 

 

 パワードスーツのない先生(マイケル)というのは彼女の中では非常に打たれ弱い人間というものでしかない。それが狐坂ワカモ(七囚人)共にいるというのは不安材料でしか無い以上、どうにかして保護する必要があった。問題はどうやって保護するかであるのだが―――ワカモと正面から戦うには、ヴァルキューレはあまりにも非力。

 

 予算不足に喘ぎ、訓練も不足。それに伴い士気も低いという無い無い尽くしの内情を知る身としては何とも歯がゆいものがあるが、だからといって諦めるわけにもいかない。先生(マイケル)の書き置きをくしゃりと握りつぶし、倒れているもう一人のヴァルキューレ生のところへと向かおうとした所―――

 

 

「あっ、局長!? おーい、局長はこっちにいるよ! それともう一人倒れてる! 急いで手を貸して!」

 

「……?」

 

 

 地上への扉が開き、武装したヴァルキューレ生が顔を覗かせ、カンナの顔を見るやいなや後ろにいるであろう仲間へと声をかけた。その数秒後にはさらに3人のヴァルキューレ生が駆けつけ、気絶している生徒を担いで医務室へと搬送していった。

 

 

「局長、もしかしてワカモに?」

 

「……ああ、不意打ちされた。先生はワカモに連れ去られたようだが、見ていないか?」

 

 

 そして少し苦しげなカンナに駆け寄り、すかさず肩を貸すヴァルキューレ生は何が起きたのかを問う。不良軍団との抗争の隙を突いてヴァルキューレの校舎に突入し、公安局長であるカンナを倒す事ができるものは限られているので想像することは容易かったが、本人の口から確認が取れたとなれば話は早い。

 

 

「……それが、つい先程一人の生徒が先生を安全な所に逃がすと言って護送車を―――」

 

「っ! そいつがワカモだ、追え! うっ、けほっ、けほっ……」

 

「そうは言いますが局長、今は不良集団を鎮圧するのに精一杯でとても追手を出す余裕はありません。また交通室から監視カメラの映像を提供してもらいますか?」

 

「……いや、行き先は分かっている」

 

 

 ワカモ追跡を強く主張するカンナであるが、ヴァルキューレ生が言うように現在不良集団による攻撃を受けているヴァルキューレにはそちらに割くリソースは乏しい。何せ人員の3割を連邦生徒会長捜索に費やしているのだ。

 

 となれば、後手後手ではあるが監視カメラによる追跡をするか―――そう提案するヴァルキューレ生の言葉に、カンナは苦虫を噛み潰したような顔をしながら言葉を続けた。

 

 

「シャーレの本部ビル……通称ホワイトハウス、間違いなくそこに行くはずだ。防衛室に連絡を入れろ、SRTの出動を要請する……!」

 

 

 

******************************************************************

 

 

 D.U.外郭地区、サンクトゥムタワーより30kmほど離れたとある路地。不良による大規模襲撃が起きている中心部と比べればここは静かで、人々は何時もと変わらぬ日常を過ごしている。そんな中、ヴァルキューレの護送車が雑に停められているものの、それを気にする者は居ない。

 

 

「ここまでくればヴァルキューレも追跡することは不可能でしょう。それで、次はどうなさるおつもりですか?」

 

”メタルウルフを取り戻す。私の偽物と戦う以上、あれがないことには始まらない”

 

 

 護送車の陰でワカモに手錠を外してもらいながら、先生(マイケル)はビルの隙間からシャーレビルを見上げる。距離にして1km程度だが、これ以上の地上からの接近は監視カメラなどのリスクを考えると難しい。だが、彼の傍はシャーレビル周辺の構造を知り尽くしている存在がいた。

 

 

”アロナ、地下構造を表示してくれ”

 

『はい、ホワイトハウスに侵入できる地下通路のマップを表示しますね!』

 

 

 スーパーAIであるアロナは先生(マイケル)の言葉から彼が何を求めているかを察し、この区画でシャーレのビルに接続している地下通路を色付きの3Dマップで表示する。下水道、通風孔、様々なメンテナンス用の洞道など様々なものがあるが、人が通れるだけのサイズの通路だけをピックアップしているあたり彼女の配慮が見て取れた。

 

 

『お勧めはこの近くに入口のあるメンテナンス用の洞道です。地下格納庫の近くのサーバールームに出られる上に、先生が立って移動できるとなればほぼこれ一択みたいなものですね!』

 

”流石だアロナ、良いチョイスをしている。ワカモ、付いてきてくれ、地下からシャーレに()()するぞ”

 

「わかりました、あなた様の望むがままに」

 

 

 そして2人はアロナの誘導に従い路地の隅にあるマンホールにたどり着く。地球人感覚からすればマンホールの蓋を開けるのは専用の道具がなければ一苦労なのだが、ワカモからすればそうではないらしく、彼女はいとも容易くロックを外すと蓋をぐいっと持ち上げる。

 

 蓋が除けられ、真っ暗な穴が2人を迎え入れるべく口を開くが―――ワカモは懐中電灯を取り出し、その中を照らす。通信用、あるいは送電用のケーブルが犇めくトンネルの中央に金属製の足場がまっすぐ通っており、少々埃っぽそうだが問題は無いように見えるのだが、安全性を考慮するならば酸素濃度などを確認するべきである。しかし、そのような機材やチェックの時間は今は無いため、2人はそのリスクを承知の上で意を決して梯子を伝い洞道へと降り立った。

 

 

「待ち伏せも無し……明かりがないのは不便ですが、まあそれは仕方がありませんね」

 

”ああ、では先へと進もう”

 

『私がナビゲートしますので安心してくださいね!』

 

 

 まず第一関門をクリアしたということで、2人は安堵しながらアロナの案内のもとシャーレビルへと向けて歩き出す。自分たち以外が敵という状況の中、果たしてシャーレはどうなっているのか……それはたどり着いてみないことには分からない。

 

 

******************************************************************

 

 

 連邦生徒会本部、サンクトゥムタワー。行政委員会の1つである防衛室の長である不知火カヤは、己のオフィスで秘匿用の回線を用いてとある人物と極秘のオンライン会議を行っていた。

 

 グローバルではなく、ローカルかつ極めて強力な暗号化がなされている故に解読、傍受されることはほぼ無いであろうこの会議の相手は―――カイザーグループ、企業軍最高指揮官であるカイザージェネラル。

 

 

『それで、むざむざ逃げられたと言うのか? あの男を合法的に捕らえることが出来たにも関わらずに』

 

 

 画面の向こうで見るからに苛つき、デスクを指でトントンと叩くジェネラル。その姿を見てカヤはため息を付きたくなったが、堪えながら彼女は答える。

 

 

「七囚人、狐坂ワカモがD.U.の不良を纏め上げてヴァルキューレの本校舎を襲ってくるのは想定外でした。いくら烏合の衆とは言え、物量で畳み掛けてこられては現在人手不足のヴァルキューレでは対応が難しい所がありますので」

 

『そちらの都合など関係ない、大人の世界というのは結果が全てなのだよ防衛室長』

 

「……ッ」

 

 

 明らかに上から目線で物を言うジェネラルの言葉に、僅かに顔を引き攣らせるカヤ。落ち目の企業が何を偉そうにと内心腸が煮えくり返る思いであるが、防衛室とカイザーの長年の癒着関係から表立って牙を向くことは出来ない。

 

 ここまで癒着状態が長引いてしまえば正常化など出来るはずもなく、どちらかが裏切ればもう片方は道連れの為に各種機密を暴露するであろう。そういう相互確証破壊(Mutually Assured Destruction)が2つの組織を辛うじて結びつけていた。しかし防衛室長であるカヤとしては、落ち目のカイザーグループにいつまでも依存しているわけにはいかないという思いもあった。彼女の夢、あるいは野望のためには手助けとなるべき存在が必要であったが、カイザーはその候補から脱落していたのだ。

 

 事の始まりはシャーレの先生(マイケル・ウィルソン)がアビドスでの一連の事件を解決し、それに伴いカイザーグループが連邦生徒会から制裁を受けたことにある。これによりカイザーは連邦生徒会からの事業を受注できなくなり、またカイザーローンの大規模な不正融資の証拠がネットに出回りその信用を喪失、7割の資金を回収はできたもののカイザーローンそのものは倒産という事態に陥り、さらにはカイザーPMCという実働部隊の主力が壊滅したことでカイザーは急速に力を失っていった。

 

 辛うじてインダストリー(重工業)コンストラクション(建設業)という稼ぎ頭は持ちこたえたためグループ全体が倒産するという事は免れたものの、最盛期の65%程度まで影響力が落ち込み同業他社がその隙間を縫うように勢力を拡大しつつなるとなれば―――彼らに待つのは、坂道を転げ落ちるかのように没落していく未来だろう。信用では無く力によって傲慢に事業を進めてきたそのツケは、それを上回る力によって払わざるを得なくなったというわけである。

 

 無論、それでもカイザーはまだキヴォトスでもトップクラスのグループ企業。中小企業を買収することなど容易いし、PMCも再建が進み企業軍としては最大規模の勢力かつ最新鋭の兵器を保有するなど甘く見て良い存在ではない。対抗企業であるネスティフはアビドス砂漠での戦いを経てアビドス高校から購入したカイザー兵器の残骸からリバースエンジニアリングを進めているが、それでもカイザーの1強状況は暫くの間続くであろう。

 

 話は長くなったが、要約すればカヤは没落という未来しか見えないカイザーとは手を切りたい。一方カイザーは没落の原因となったシャーレの先生(マイケル・ウィルソン)を何としてでも排除したいというわけであるのだが―――

 

 

()()を我々が手中に収めている以上は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何としても奴の身柄を確保し、刑務所にぶち込むのだ。そうすれば我がカイザーグループはかつての栄光を取り戻すことが出来る』

 

(結局はそちらの都合でしか無いんですよねェ……)

 

 

 カイザーグループの再興のためにシャーレの先生(マイケル・ウィルソン)を捕らえる事を強く訴えるジェネラルだが、カヤが感じるようにそれは極めて利己的な要求である。今まで散々防衛室の持つ司法権を利用してきたからこそだが―――だからこそ、カヤはもうカイザーとの縁を切りたかった。

 

 カヤが僅かに険しい顔をすると同時に、彼女の持つスマホが鳴る。一体誰からのだろうかと手にしたところ、それはヴァルキューレ本校舎からのもの。予想もしない事態に彼女の目が見開かれ、思わず腰を浮かせる。

 

 

『……どうした、防衛室長?』

 

「失礼、ヴァルキューレからの緊急電です。もしもし、こちらは防衛室長……カンナでしたか、どうしましたか?」

 

 

 電話に出たカヤは通話相手であるカンナの話を相槌を打ちながら聞くが、その目は見開かれたままであった。通話を終え、スマホをデスクの上に置いた彼女は深呼吸をする。ジェネラルはそんなカヤの様子に首を傾げるが―――

 

 

「狐坂ワカモとシャーレの先生はシャーレ本部ビルへと向かったそうです。それに伴い、今しがた公安局長からSRTの出動要請が出されました。本来であればリンと協議する必要がありますが、それをする時間は惜しいですね……」

 

『ほほう、逃げられたと聞いた時は驚いたが、運は我々を見放していなかったようだな。それで、どうするつもりだ防衛室長?』

 

「当然SRTを急行させます。事後承認にはなりますが、ワカモを止めるにはSRTを出すほかありませんからね」

 

『ふむ、お手並み拝見といこうか。もしそちらが動かなければこちらがSOFを動かすところであったが、君の即断即決な部分は私としては好ましいよ』

 

 

 ヴァルキューレから出されたSRTの出動要請。本来防衛室長と生徒会長代行の2人の承認が必要であるが、カヤはあえて独断で動かすことに決めた。今のリンはショックを受けて協議に時間がかかる事は目に見えており、それでは到底ワカモの動きに間に合わないのは明らかであったからだ。

 

 それに、カヤとしては打算もあった。自身の判断でこの事態を解決することが出来たのならば、その時こそ自分こそがトップに相応しいのだと周囲にアピールできるのだ。たとえ皮算用と言われようとも、このチャンスを見逃すわけにはいかない。

 

 

「こちらは防衛室長不知火カヤ、SRT特殊学園に緊急出動を命じます。直ちにシャーレビルへと急行し、狐坂ワカモとシャーレの先生を捕縛しなさい」

 

 

 緊急用のホットラインを使い、カヤはSRTへと出動命令を下す。出動させるならばFOX小隊を指定したいところであったが、この状況下では選り好みは出来ないだろう。一刻も早くシャーレビルを押さえ、2人が何を企んでいようともその出鼻をくじく必要があった。

 

 

******************************************************************

 

 

『こちらSRT特殊学園、RABBIT小隊聞こえるか?』

 

「こちらRABBIT1感度良好、どうぞ」

 

 

 D.U.外郭部上空を飛行する1機のMH-60ヘリコプターのキャビンにて、エンジン音とローターの風切音が響く中、ヘッドセットを通じてRABBIT小隊の小隊長たる月雪ミヤコはSRTからの通信に応じる。その目つきは以前と比べてずっと鋭く、まるで研ぎ澄まされたナイフのようだ。

 

 

『防衛室から緊急出動命令が出された。”災厄の狐”狐坂ワカモがヴァルキューレを襲い、シャーレの先生を連れてシャーレビルに向かっているそうだ。貴官らは直ちにシャーレビルへと急行し、ワカモの制圧を行え。尚、他の小隊も向かわせているので無理はするなよ』

 

「了解、急行します。以上通信終わり……RABBIT3、聞いていましたね? 飛行進路変更、シャーレビルの屋上ヘリポートへ向かいます」

 

「りょーかい、進路変更。くひひ、それにしても災厄の狐が相手だって? FOX小隊の先輩方が何とか鎮圧した奴じゃない。中々派手なことになりそうだね~」

 

「RABBIT3、何を笑っている。ここで私達が実力を示し、先日の汚名をそそぐ絶好のチャンスだろう!」

 

 

 命令を受け、ヘリが急旋回してシャーレビルへと機首を向ける。機内でパイロットである風倉モエが笑えば、ポイントマンである空井サキは仏頂面を見せながらそれを窘める。エデン条約調印式の警備任務以降久しぶりの実戦ということもあり、直接敵と相対するサキとしては今度こそはという思いが強いのだ。

 

 

「…………」

 

 

 そしてミヤコ―――エデン条約調印式での失敗によりSRTの名誉を傷つけてしまったと強く自責した彼女は、その瞳に怒りの炎を灯しながらシャーレビル、ホワイトハウスを強く睨みつけるのであった。

 

 

To be Continued in Episode3 ”Escape from D.U.(脱出)

 




 ヴァルキューレ爆発RTAはっじまーるよー。
 完走した感想ですが、まあこの結果は見えていましたね。ワカモとカンナの戦い、そしてかつて任務に失敗した記憶が新しいRABBIT小隊のリベンジマッチ……陰謀渦巻くこのキヴォトスをマイケル・ウィルソンは救うことが出来るのでしょうか。

 そして、本日6月15日はMETAL WOLF Archive XDの第一話が投稿されてから丸1年となります。プロローグから始まり、ついにカルバノグ1章のタイムラインまで到達することができたのはひとえに読者の皆様の応援あってのものです。
 一応最終編まではプロットは考えていますのでそこまでは大丈夫ですが、問題はデカグラマトン編や百花繚乱、アビドス3章にカルバノグ2章……そして第2部。書ける限りは続けるつもりですのでこれからもMETAL WOLF Archive XDを読んで貰えると嬉しい限りです。

 最後に月並みですが、感想や評価をもらえると励みになりますのでよろしくお願いします。
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