分校入口で戦端が開かれた頃、地下の秘密基地は地上で発生した爆発により僅かに震えた。緊急事態を知らせる警報が鳴り響き、赤色灯が灯る廊下を兵士たちが走っている。その最奥、管制室に座するジェネラルは監視カメラの映像を見て驚愕のあまり立ち上がる。その勢いでシートが倒れ不快な音を発するが、そんなものに気を払う余裕は彼にはなかった。
「馬鹿な……あれはSRT、どういうことだ!?」
連邦生徒会の防衛室との癒着によってカヤを協力者と
「不知火カヤ……裏切ったか、それとも……」
カヤが裏切ったのか、SRTの独断専行か、現状ジェネラルにはそれを判断する材料はない。ならば直接問いただすべきかとホットラインに手を伸ばそうとするが、彼の第六感がそれをするべきではないと警鐘を鳴らす。
それに従うように電話に伸ばした手を止めるジェネラルだが、次の瞬間管制室のディスプレイを”S”を象ったシンボルが埋め尽くす。オペレーター達が騒然とする中、彼は即座に基地のシステムがハッキングを受けたことを察した。
「回線を切れ、物理的にだ!」
「は、はいっ!」
「それと、ブラック・ウィドウを緊急発進させろ! SRTを中に入れるな、証拠隠滅する時間を稼げ! こうなれば物理的に破壊して構わん、データだけは絶対に連中に渡すな!」
「了解、ブラック・ウィドウ緊急発進急げ!!」
「
「ハッ! 既に組み込んであります!」
「よろしい」
基地は元々放棄する予定であったが、SRTの攻撃でそのスケジュールを前倒ししなければいけないことにジェネラルは苛立ちを覚えながらも部下たちに指示を出す。証拠隠滅、脱出経路確保、時間稼ぎ等やるべきことは多い。
特に時間稼ぎは重要だ。先程のハッキングで基地の機能がどれだけ奪われたか分からない上に物理的に回線を切断した以上、証拠隠滅のためには多くのことをマニュアルでやらなければならない。そのためにも、シャドウ・カンパニー最大の兵力を出す必要があった。彼には秘蔵の特殊部隊SOFがあるのだが、それはあくまでカイザーPMCでの話。ここでは使うことが出来ない。
シャドウ・カンパニー最大の兵力、それは兵士ではなく兵器。人が居ないのならば、それを補うのがテクノロジーというもの。この地下基地にはそのための兵器が存在していた。その名はブラック・ウィドウ、クロゴケグモの名を冠するもの。そして、この機体に乗せるのは先のフェイクウルフに乗っていた兵士。
任務に失敗して正体を露呈した以上、シャドウ・カンパニーでの使い道など捨て駒にするぐらいしかない男だ。既に処置を施されマトモに社会生活も送れない状態になっているため、もし撃破されて捕虜になったとしても情報漏洩の心配はない。暴れるだけ暴れればそれで十分だ。
「SRTに不知火カヤ、絶対に許さんぞ……!」
指示を出し終えた後、怒りに拳を震わせながら彼は足早に管制室を後にする。そこに部下を気遣うというものはなく、管制室の中で彼が去ったことに気づいたものは誰も居なかった。
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「遅れないでください、RABBIT2!」
「そっちこそ!」
ミサイル攻撃で死屍累々といった様子のヴァルキューレ第三分校の正面玄関、倒れ伏すオートマタ兵や傭兵生徒を乗り越え一番乗りを果たすのはRABBIT小隊のミヤコとサキの2人。ミサイルの直撃で出来た大穴に取り付いた彼女達はすかさず手榴弾を取り出すと、安全ピンを引き抜き内部へと放り込む。
「手榴弾だ、伏せろ!」
「なっ……うわあっ!?」
シャドウ・カンパニーの兵士は予想よりも遥かに早く進む2人の電撃戦を前に出鼻をくじかれ、防衛線を敷くよりも前に出入り口を突破されてしまう。やや遅れて追従するHOUND及びFOXの前衛達はその背中を追いかけるが、2人の姿が建物の中へと消えた途端、激しい揺れに襲われ地面に這いつくばる羽目になった。
「これは……なんだ、何なんだ!?」
それはあまりにも予想外の事であり、ユキノですら困惑を隠せず揺れが収まるのを待つしか無い。さらに眼の前で出入り口であった開口部が崩落し、先に突入した2人と分断された事実に彼女は愕然とした。
「分断された!?」
「これは、まずい……!」
近場に居る他のメンバーも同様の反応であったが、700m遠方から眺めているミユとオトギは違った。彼女達の居る辺りまでは揺れは襲ってきておらず、スコープのレンズ越しに見えるのは這いつくばる仲間たちと、そして―――
『じ、地面が割れて……』
『何かが出てくる! 気をつけて!』
「FOX1、あれを!」
2人の通信、そしてニコの警告。それに合わせて顔を上げたユキノの眼前に現れるのは6本脚の蜘蛛を思わせる巨大な機械の怪物。機銃、ミサイル、擲弾発射機を多数搭載し、単体で都市の区画を破壊しつくしそうなほどの重武装。これがジェネラルの―――シャドウ・カンパニーの切り札、都市制圧兵器「ブラック・ウィドウ」。
『Grrrrr......!!』
その胴体上部にあるコックピット……というにはあまりにも貧相な操作系にフェイクウルフごと埋め込まれた兵士は操縦者であろうか、彼は虚ろな目で虚空を見ながら唸り声を上げる。そこに理性を感じることは出来ず、それ故か出現してすぐに7.62mm×51弾を周囲にバラ撒きながら暴れ散らかしている。
「うわっ、ちょ、ちょっとこれヤバいんだけど!」
「散開、散開しろ!」
『こちら狙撃班、パイロットらしき人影を確認、射撃する!』
ブラック・ウィドウに真っ先に目をつけられたクルミが盾で弾丸を防ぎながら喚くと時を同じくして、オトギとミユは徹甲弾を装填して胴体に埋め込まれて居る形のフェイクウルフの頭を狙う。彼女達から見れば、装甲に覆われずに露出しているそれは明確な弱点に見えた。すかさず銃声が2発分鳴り響き、銃弾が目標に違わず飛んでいくのだが―――
「嘘ッ、弾かれた!?」
「あ、青白い壁みたいなものが見えました……!」
弾丸がそこに届く直前、青白い壁が浮き上がると弾丸は阻まれて命中しない。700m離れて威力が下がっているとは言え、オトギの放った.50口径の徹甲弾は本来適当な防弾装備を貫通する威力があるはずなのだが、それを軽く防がれてしまった。さらに合わせて放たれたミユの銃撃も貫通することなく、逆にブラック・ウィドウの胴体から伸びるセンサーカメラと視線が合う。
「……やばっ、バレた!? RABBIT4、走って!」
「に、逃げなきゃ……!」
スナイパーの鉄則とは、射撃位置を特定されないこと。戦いの場では多少存在感があってもいいが、その居場所を特定された瞬間に狙撃手は価値を失う。何故なら、大火力の直接投射などの排除手段をとれるからだ。
彼女達の視線の先、ブラック・ウィドウは胴体下部に装備されている開放型のバレルをビルへと向ける。エネルギーチャージを行い、バチバチと音を立てながらスパークを発しているあれが通常の火器ではないことは明らかで、2人はスナイパーとしての生存本能に従い銃を手に狙撃ポイントから駆け出すが、それよりも早く閃光が走る。刹那、ビルの屋上は大爆発を起こした。
「ふ……FOX4!? 応答しろFOX4! オトギ、返事をしてくれ!」
「RABBIT4、どうした!? 返事をしろ、おねんねするのは早いぞ!」
高エネルギー砲の余波である熱風が吹付け、ユキノは思わず顔の前に手をかざして片目を瞑る。それから少し遅れて爆発音が聞こえ、ハッとしてその方向へと顔を向けると、狙撃ポイントであるビルの屋上がブラック・ウィドウの放った高エネルギー砲で吹き飛ばされるのが見えた。彼女はそこに居たはずの2名に向けてインカムに何度も呼びかけるが、それに対する返事はない。同じくトミもミユの安否を確認するべく叫んでいたが、こちらも返ってくるのはノイズのみ。最悪の場合を想像し、全員の顔が青ざめる。
「そんな……オトギちゃん、ミユちゃん……」
「くそっ、このままじゃまずい! チャイテ、奴の注意を逸らすんだ!」
『わかった』
一部の隊員はショック状態に陥り、ブラック・ウィドウ相手に無防備な状態を晒してしまう。このままでは部隊が壊滅してしまうと危機感を抱いたタエコはチャイテに指示を出し、茶柱号を爆走させる。
『鬼さんこちらだ』
『GAAAAAAA!!!』
チェイテに操作されている茶柱号は高速でドリフトしながらグレネードランチャーでブラック・ウィドウを狙うが、放たれた擲弾は青白い障壁に阻まれ空中で炸裂してブラック・ウィドウには届かなかった。しかし、それでも多数の命中弾を与えたことで兵士の注意を引くことには成功する。
見た目に似合わず軽快に走り去る茶柱号の後を追うべく、ブラック・ウィドウは6本の脚を動かしてSRT組の頭上を通過していく中、トミとタエコはユキノとニコに駆け寄った。
「FOX1、まだ2人が死んだと決まったわけじゃないだろう! 隊長として義務を果たせ!」
「……っ! す、すまないHOUND1、私としたことが……」
トミに肩を掴まれ揺さぶられたことで正気を取り戻したユキノは、茫然自失となっていた事を認識して詫びると同時に状況を把握する。巨大兵器は茶柱号を追いかけてこちらへの興味を失っており、先んじて校舎に突入したミヤコとサキは孤立状態。分断された今、彼女達はどうしているのだろうか―――
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「くそっ! 一体何だっていうんだ!」
「こういう時こそ落ち着くべきですRABBIT2、冷静さを失えば見えるものも見えなくなります」
「そうは言うが、この状況で落ち着けるか!?」
崩落した校舎の中、ミヤコとサキの2人は偶然にも床が抜けたことで瓦礫に潰される事なく地下の秘密基地エリアへの潜入を果たしていた。落下の衝撃で無線機が破損し、地上に居る仲間たちと連絡が取れなくなっている上に合流は当面不可能とみるやサキは苛立ち悪態をつくが、ミヤコは冷静に場面を見据える。
「先に行きましょう、黒崎コユキの保護が今出来るのは私達だけです」
「……わかった。それにしてもミヤコ、お前本当に、なんというか……吹っ切れたな」
「……やるべき事を思い出しただけですよ、サキ」
そして2人は武器を手に、天井が崩落して瓦礫が散乱している廊下を進む。別に迷路になっている訳ではないのだが、地図もなく突如として落とされた以上、現在位置も構造も不明のままではコユキの居る場所にたどり着くのは困難を極める。しかし、だからといって諦める理由にはならない。探索は続けられた。
この地下施設は多少入り組んではいるものの、迷宮としては作られてはいないらしい。壁には時折区画の番号が書かれており、今2人がいる場所はD-2という場所であるという。
「……なっ!?」
そのまま曲がり角に差し掛かった時、出会い頭という形で一人の兵士と遭遇する。彼は敵が内部に侵入しているとは思っていなかったのか、驚くばかりで隙だらけだ。それを見逃す事なくミヤコは動く。
「はあっ!」
「ぐあっ!?」
「それっ!」
「ごふっ!」
彼女は銃から手を離し、動揺している兵士に背負投げを一発。背中から床に叩きつけられたことで一瞬意識が飛んだ兵士に対して直後流れるようにサキが顔面にストックを叩きつける。ガキンと金属がぶつかる音が通路に響き、彼は意識を手放した。
兵士を無力化した事を確認した後、物陰へとその体を隠す。本格的に隠蔽する時間は無いが、それでも少しでも発見に至る時間を遅らせるのは意味のある行為だ。
そしてミヤコはスリングに繋がれ体の前で宙ぶらりんとなっている自身の銃を手に取り構える。サキも打撃武器として使った自身の銃が不具合を起こしてないか確認した後ミヤコの後を追う。進むこと数分、彼女たちは前方から足音が複数聞こえてくるのを耳にした。
「……こちらに隠れましょう」
「わかった」
流石に数が多いと判断したミヤコは観葉植物の影に隠れ、じっと動きを止める。サキもそれに習い、物陰に隠れて姿勢を低くした。人間の視界というのは曖昧で、意外と注視しなければその程度でも見つからないことは十分にあるのだ。そして息を潜め、待つこと十数秒、奥からやってきた一団が彼女達の眼の前を通っていく。
「基地の自爆装置が作動するから早く逃げないと!」
「白兎はどうするんだ? 此処に置いていくのか?」
やってきたのは兵士ではなく、非戦闘員らしき集団。まるで沈みゆく船から逃げ出すかのようなその様子に耳をすませば、聞こえてくるのは何やら不穏な内容。自爆装置とは何なのかと疑問に思った直後、職員の1人が白兎―――コユキの事を口にする。
「どうせ上は始末するつもりらしいから放っておこうぜ、反対の区画に行く時間的余裕もない」
「そうだな、急がないとこっちも巻き添えになる」
(………)
男たちはそのまま通路の奥へと消えていったが、先程の会話内容から事態は深刻な状況にあると判断してミヤコの表情が怒りに歪む。こうも容易く命を奪うという選択肢をする彼らへの怒りを感じるミヤコだが、それはサキとて同じ。だが、今此処でその怒りをぶつければコユキの捜索に支障をきたすだろう。
2人は男たちが来た方向へとさらに歩みを進めていく。彼らは反対の区画に行く余裕は無いと言ったのをミヤコは聞き逃さなかった。つまり、ここから真反対の方向へと向かえばコユキが幽閉されているであろう場所までたどり着けるということだ。幸いにも壁に案内表示はあるため、道に迷うことは無い。
「RABBIT2、急ぎましょう。自爆というのが気になります」
「ああ、脱出経路も見つけなければいけないしな」
時間が無いという焦りに背中を押されつつも、2人は冷静さを失うことなく歩みを止めない。敵は多いが、その全てを相手にする必要はないのだ。
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つい先程、ビルの屋上ごと高エネルギー砲で吹き飛ばされたはずの天神山オトギは謎の浮遊感に包まれていた。背中が焼けるように熱くなってきたのは憶えているのだが、それから自分はどうしたのだろうか。もしかして、自分は死んで今まさに昇天している最中なのではないかと一瞬思ったが、それにしては直ぐそこから聞こえるタービンの音が余りにもうるさい。
閉じていた目を恐る恐る開けた彼女はまさに自分が空中に居ることに驚き、銃を握っている右手を除き手足をジタバタとさせる。が、同時に自分が鋼鉄の腕に抱えられていることに気づいた。見上げてみれば、そこには赤い単眼の巨人の姿。
”やれやれ、なんとか間に合ったな……”
「せ、先生!?」
”戦術指揮とハッキングを同時に行うと機体制御に不備が出るとは予想外だ、危うく君たちを死なせるところだった”
『申し訳ありません先生、私の処理能力が足りず……』
反省の弁を述べつつ、彼はゆっくりと減速しながら別のビルの屋上へと降り立つ。本来先頭に立って突撃するべきはずの彼がこうして出遅れたのは理由があり、SRT3個小隊への指示を出しつつヴァルキューレ第三分校へのハッキングを行った結果、シッテムの箱を噛ましているメタルウルフの制御系に不具合が発生し、飛行が不可能になっていたのだ。
以前やむを得ない事情があったとはいえ、メインシステムをシッテムの箱で代替させた悪影響がこのような形ででてくるのは予想外だった。アロナも申し訳なさそうにしているあたり、彼女としてもここまで処理が重くなったのは予想外というべきだろうか。何にせよ、オーパーツと呼ばれるシッテムの箱も完璧なものではないということである。
”さっきのエネルギー砲の余波で周囲の磁気が狂ってるな、通信が繋がらない。オトギ、ミユ、どうする? 皆と合流するなら連れて行くが”
「あー、うん……」
「え、えぇっと……」
何時もは控えめで自己評価が低く、自身の存在感のなさを嘆いているミユであったが、彼女は決して狙撃しか能のない生徒ではない。狙撃手とは、周囲の状況を良く把握し次に自分がどう動くのかを組み立てる能力がなければ務まらない。
「あの兵器、バリアを作動させる時とビーム砲を撃つ時、どっちもアンテナみたいな突起が赤熱化してました……あの機体、動力が外から供給されているんじゃないでしょうか……?」
「そう言えば……確かにそうだった! 先生、私達を連れて行って! 皆に教えなきゃ!」
霞沢ミユは眼が良い。それこそ、昼間でありながら空に輝く星を見ることが出来るほどに。そんな彼女はブラック・ウィドウの戦闘中の変化を見逃すことなく記憶していた。微細な変化でも、情報が何もない中では十分に参考材料になるもの。この情報は直ちに仲間たちに伝える必要があるとオトギは判断し、
”わかった、舌を噛むなよ!”
生徒が願うのならば、可能な限りそれに応えるのが先生というもの。彼は再び2人を抱えると、ビルの床を蹴って重力に身を任せ―――るのではなく、ブースターで飛翔する。腕に抱えられているだけの2人に強力なGがかかるが、決して振り落とされることはなく700mという短距離の飛行を終え、集合しているSRTの集団の真ん中へと降り立った。
”遅くなってすまない!”
「先生、それに……オトギにミユ、生きていたのか!」
「先生に助けられたよ、危ないところだった」
突然現れたメタルウルフの姿に目を丸くしていたユキノであったが、その腕に抱えられていた2人の姿を見て彼女は安堵の表情を浮かべる。ニコも同じようにホッとしているようだ。
「みんな、あのクモ型メカだけど、RABBIT4がバリアを張ったりビームを撃った時にアンテナが熱くなってるのが見えたんだって!」
「それは本当か、RABBIT4?」
「は、はい……背中の突起に、バリアとビームを使う時に陽炎が立っていました……排熱口とは明らかに違う場所です。間違いありません」
オトギがまず、ミユの発見したブラック・ウィドウの変化について切り出すと、ユキノはミユへと顔を向けた。注目されるのに慣れてないため返答の最初は吃ったものの、任務に関わる報告故に何時ものようなおどおどとした感じは鳴りを潜め、彼女なりにハキハキすることを意識している口調で説明をする。
その説明を聞き、各隊員はそれそれ独自に考察を行う。SRTの隊員は兵器の構造についても造詣が深くあるもので、ミユの話から彼女達はブラック・ウィドウがメインの動力とは別に、外部からエネルギーの供給を得ているという結論に至るのは早かった。
「でも、何処から供給を受けてるんだろう? それっぽい送信アンテナなんて見えないし」
「探すにしても、地上からじゃ手間過ぎるな」
”それに関してはまあ、大丈夫だ”
外部からエネルギーの供給を得ていることは分かったが、次の疑問は”ではどこから送信しているのか”というものである。あれだけの出力を発揮する以上、送信系は相応の規模を持つはずだが、少なくとも地上からはそれらしいものを確認することが出来ない。
クルミが一角が崩落している分校の校舎をチラリと見ながら疑問を口にすると、それに同調するようにトミも言葉を発する。徒歩で調べるには敷地は広大で、さらには先程茶柱号を追いかけたブラック・ウィドウがいつ戻ってくるか分からない。
だが、
「あれは……!」
「RABBIT3にHOUND2!」
彼女達の視界の中に現れたのは、RABBIT及びHOUND小隊の保有する攻撃ヘリの編隊。当然そのパイロットはモエとカズミであり、現在この場にいる3個小隊の中ではトップクラスの分析力を持つオペレーターだ。
”こっちでも分析したいところだが、そっちに処理を回すと機体が動かなくなる。モエ、カズミ、敵のクモ型兵器は外部からエネルギーの供給を得ているらしい。そちらで観測して発信源を特定できないか?”
『任せてよ先生、そういう分析なら得意だからさぁ……あ、それと、あれにヘルファイアぶっ放していい?』
『やめておけRABBIT3、撃った所で効かないのが見えている』
『ボス、すまないがこちらはもう限界だ。そちらで改めて受け取ってくれないだろうか』
「わかった、ありがとうチャイテ、お陰でこっちは立て直せたよ」
武装を使い果たした茶柱号で囮はもう無理だとチャイテが言えば、制作者であるタエコはそれを受け入れた。可愛い我が子がそういうのならば仕方がない、彼は十二分に働いてくれたのだから、次は自分達の番だ。
「みんな、例のクモがこっちにくるよ!」
”今度は私が引きつけよう、ああいうのとは戦った経験がある”
「先生、無理をしないでくださいね!」
タエコが周囲にブラック・ウィドウの接近を大声で知らせると同時に、通りの角から機械の蜘蛛が姿を現す。追われる形の茶柱号は真っ直ぐにSRTの方へと向かっており、交戦は避けられないが、それは理解してのこと。
それに、あのクモ型メカ―――ブラック・ウィドウは明らかにクーデター軍が運用していた都市制圧兵器であるCASPARAITISと類似している。
いざ突撃しようとしたその時、彼の視界の先の空中にまた1機のヘリが姿を見せる。ニコのヘリかと思いきや、彼女は地上に居るため違うのは明らか。ズームで機体の所属を確認しようとした彼は、その結果に顔をしかめた。ヘリの胴体に描かれていたのはクロノスの校章、面倒なことにマスコミが嗅ぎつけてきたようだ。
『こちらは
『うるさい連中だ……先生、どうする? 追い払うべきか?』
”いや、丁度いい。彼女達には証人になってもらおう、マスコミとハサミは使いようってね”
何時もはうるさい賑やかし程度でしか無いマスコミではあるが、今回ばかりは勝手が違う。防衛室で逮捕状の取り下げ手続きが進む中、連邦捜査部シャーレ顧問たるマイケル・ウィルソンが以前と変わらず悪党を叩くその絵を電波に飛ばせば、シャーレと彼に対する評価は改まるだろう。大統領たるもの、メディア戦略というものは基本中の基本であった。
”さあ、来るぞ!”
『MEEEEETAL WOOOOOLF!!!』
野獣の如き咆哮と共に突撃してくるブラック・ウィドウ、それに対しメタルウルフは大きく跳躍すると、その頭上から無数の鉛玉のシャワーを叩きつける。無論、電磁バリアによって攻撃は防がれるが、敵の注意は背後に回ったメタルウルフへと向く。その隙を逃すことなく、SRTの部隊は動き出した。
クルミとアリアのポイントマン組は懐へと潜り込み、敵のバリアの処理能力を飽和させようと手当たり次第に引き金を引く。弾丸は空中で受け止められて届かないが、バリアを展開させ続ければ敵のエネルギーの送信元を見つける時間が短縮できるだろう。ニコやユキノ、そしてミユにオトギ、そしてトミにタエコが2人で即席のタッグを組み、包囲するように重火器を交えた攻撃を行う。
普通の戦車―――それこそ、キヴォトスで広く流通している第二次世界大戦期スタイルの戦車ではなく、複合装甲を身に纏う主力戦車、M1A2エイブラムスであったとしても―――ではあっという間にスクラップになるであろう火力を指向されても、ブラック・ウィドウはびくともしない。戦いはまだ、どのような結末に至るかは分からないままだ。
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地下施設を進むミヤコとサキの2人は、逃げ出す人員達を何度も見逃しながらも、救助目標であるコユキの幽閉されている場所へと近づいていた。拘束目標であるジェネラルを無視する形ではあるが、居場所が判然としない上に基地が自爆する可能性が高い以上は救助を優先とするしか無い。
もし先輩たちが一緒にいれば手分けできたであろうが、今は2人だけがこの地下施設にいる。そのプレッシャーに押しつぶされることなく、ミヤコはついに目標と思しき区画へと踏み込むことに成功した。
「この区画の何処かに黒崎コユキが居るはずです」
「とはいえ、探すにしては部屋が多すぎないか? 一つ一つ探していたら日が暮れてしまうぞ」
壁にある区画の地図を見てうんざりしたようにサキは言う。今はまだ日の出前だというのに、やる前から日が暮れるというのは中々に誇張された表現だが、冗談の一種であるのはわかる。
「ミレニアムで聞いた話から鑑みるに、コユキは黙っては居られないタイプの人間のようです。私達が足音を鳴らして近づいてみれば向こうから反応を示すのではないでしょうか?」
「確かに、そのほうが楽でいいか」
ミレニアムでコユキの人となりを聞いたミヤコは、その情報から行動パターンを分析していた。無論サキにもその情報は共有してあるため、彼女の捜索案は難なく受け入れられる。一々部屋を開けるよりもずっと手早く済みそうというのがその理由だ。
そのまま彼女達は区画を練り歩いていくが、この場所はよほど最奥に存在するのか最早職員の気配はなく、足音を多少立てた所で咎められることはない。そして少し経って区画の5番目のエリアに足を踏み入れた所、ドアを激しく叩く音が聞こえてきた。
「ちょっとちょっと、そこに誰か居るんですかー!?」
「今の声は……」
「多分、コユキだ!」
ドアの向こうからくぐもった感じの声が聞こえるが、話し方からして兵士らしくない。となれば間違いなくコユキだと当たりをつけ、2人はその前に立った。
「黒崎コユキさんですか?」
「は、はい! 私がコユキです!」
「当たりだな……よし、ドアを開けるから離れろ、爆破するぞ!」
声の主がコユキだと判明し、サキは注意を促しつつ扉に爆薬を取り付ける。教本などを良く読み、暗記している彼女にとってこの程度の扉は障壁にもならない。ロック機構のある位置に最低限の爆薬を取り付け、信管を起動。わずかに距離を置き、彼女は起爆装置を作動させた。
小さな爆発は狙い通りにロック機能を粉砕し、同時に大きな音を周囲に撒き散らす。どの程度まで響いたかは分からないが、これで潜入はおしまいだろう。
「あぁ~~……やっと出られました! にはは、これでようやく自由の身です!」
「手配書と人相は一致してますね……やはり黒崎コユキで間違いないかと」
「何というか、思ったとおりに能天気そうな奴だなぁ」
拘束から解き放たれ、目一杯の歓びを表現する床につきそうな程に長いピンク色のツインテールをした小柄な少女、その人相はユキノの持つミレニアムの手配書に記されたものと同じであるため、黒崎コユキ本人で間違いはない。
ただ、思ったより悲惨な感じはなく、久々の自由を感じているその様子にサキは呆れつつも、彼女が脱走の常習犯であるという情報は手に入れているため油断はしない。ただ、ここからどうすべきか、それを考えるとなかなか難しいものがあった。他のメンバーと連絡が取れないため、2人は外で激しい戦闘が起こっている事を知らないのだ。
「一先ずは―――」
「侵入者だ、絶対に捕まえろ!」
「ちっ、やっぱり見逃される分けないか。おい黒崎コユキ、走るぞ! ついてこい!」
「えっ、あっ……うわあぁーっ、なんでぇぇーっ!」
爆発音を聞きつけ駆けつけてくる兵士の声を耳にし、サキは咄嗟にコユキの腕を掴むと走り出す。ミヤコとの2人だけなら多少の敵は叩きのめせるのがSRTたる彼女達だが、今は虜囚の身であったコユキを連れているため無理はできない。大急ぎで声と足音のする方向からは真逆の方向へと駆け出し、3人は地下施設の奥へと向かった。
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ブラック・ウィドウはビルとビルの間を飛び回るメタルウルフに対し、搭載している小型ミサイルを盛大に解き放つ事で迎撃を試みていた。ヘリとは違い、重火器の攻撃にも耐えられる装甲を持ちながらもヘリ以上の機動性を誇るメタルウルフというのは敵対者にとっては悪夢のようなものと言えるだろう。
この小型ミサイルも、一般的な戦闘ヘリに直撃すれば一撃で撃墜できるだけの威力はある。であるにも関わらず、メタルウルフはその弾幕の中をすり抜け、あるいは手にした.50口径のライフルを使って迎撃し*1、それでも処理しきれないものは装甲で受け止め、それでいて損害は軽微。もしブラック・ウィドウの制御をしている兵士が正気であれば、その理不尽さに切れ散らかしていたのは間違いない。
だがその一方で、ブラック・ウィドウもメタルウルフやSRTからの攻撃を受け付けない。展開された電磁バリアは極めて強力で、恐らくは戦術核の直撃にも耐えられるのではないかという試算がアロナによって算出されていた。つまり、バリアを破れなければ勝機はないということ。
”どうだ、何か分かったか!?”
ミサイルを凌ぎきり、小さなビルの屋上に着地した
『分析完了、情報を先生に送るね』
『こちらでも分析が終わったが、分校の地下に高熱源反応を確認、これは……地下に動力炉が存在しているようだ』
”なるほどな!”
モエから送られてきた解析情報をチラリと見て、
そして次に、地下の動力炉からのエネルギーをブラック・ウィドウに何処から送信しているかだが、それに関しては簡単なものだ。分校のアンテナの一つがそれ用に改造されているようで、高い熱量を発しているものが一つ。それを破壊すればバリアと高エネルギー砲が使えなくなると見込めるのならば、躊躇う余地は無い。
”モエ、ヘルファイアでアンテナを爆破しろ!”
『了解了解、ヴァルキューレを大手を振って爆撃できるなんて滅多に無い機会だし、ここはいっそのことヘルファイアを全部使って……』
「そんな事をしたらお前の親御さんが見ても娘だと分からなくしてやるぞRABBIT3!」
『そ、それは困るかなぁ……』
気を取り直し、レーザー誘導で放たれた一発のヘルファイアはアンテナの基部へと命中し、爆煙の中ポールが倒壊していくのが見えた。
「今だ、火力を集中!」
ユキノの号令と同時に、SRTの隊員たちは手持ちの火器から最大の火力を用いてブラック・ウィドウへと攻撃を集中させる。対戦車ロケット、対戦車手榴弾が四方八方から放り込まれ、周囲は爆発の煙に包まれた。
しかし、それでもブラック・ウィドウの撃破には至らない。いくらかの損害を出したものの、電磁バリアは完全に無力化されているわけではないのだ。いまので撃破することが出来なかったという事実に隊員たちは驚きを隠せなかった。撃破を目論んで火力を発揮した以上、残る重火力は僅かでしかない。
「くそっ、どうすればいい!?」
『Grrraaaaaaaa!!!!』
「あんまり持ちこたえられないわよ、こっちは!」
「同じく、持ちこたえられそうにないです……!」
暴れるブラック・ウィドウの近接防御火器による攻撃を盾で防ぎつつ、クルミが叫ぶ。ここまで乱射されてはポイントマンとしての意味はあまりないのだが、それでも味方の盾になるべく彼女は前に出る。同じくポイントマンであるアリアも接近戦を仕掛けるが、バリアに弾かれて有効な攻撃を仕掛けることが出来ずに居た。
『解析できたが……これは、地下動力炉からのサブの回線が繋がっているのか? 地面からエネルギーが供給されているのが確認できた。ただ、出力は大きいものではない』
『それってつまり、地下動力炉を破壊しないと駄目ってことじゃん! バンカーバスターなんてSRTでも装備してない兵器だよ!』
”そういうことなら、地下にはミヤコとサキの2人が潜入している。彼女達がうまくやってくれるのを祈るしか無いか、なっ!”
カズミの解析により、ブラック・ウィドウはいまだに地下動力炉とのリンクが繋がっているという事が判明した。バリアがまだ展開できるのはそのためだが、幸いにも高エネルギー砲の使用が可能なほどの出力は無いらしく、それが唯一の救いであった。
しかし、今の彼女達に地下動力炉を破壊する手段はない。唯一の希望は地下に居る2人だが、通信が繋がらない以上、ミヤコとサキがその願い通りに動いてくれるのを期待するのは奇跡を願う事に等しいだろう。
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丁度時を同じくして、ミヤコとサキ、そしてコユキの3人は狭い通路の中、背後から放たれる銃弾の雨から逃げるように走っている。正しくはサキがコユキを米俵のように肩に担ぎ、ミヤコがその背後についてカバーしているというべきだろうか。
追いかけてくるシャドウ・カンパニーの兵士は10名程度、正直な所練度からすればSRTの敵ではない。やろうと思えばミヤコ1人で制圧は可能だが、そのための時間が勿体ないというのが正直な所。
「くそっ、こっちからも来ているぞ!」
「コユキさんを右の通路へ、かくなる上は迎え撃ちます!」
「あだっ!?」
進行方向から別の兵士の集団が近づいてくるのを見たサキは思わず悪態をつきつつ、ミヤコの指示に従う形でコユキを通路へと振り落とす。尻もちをついて痛みに声を上げる彼女であったが、兵士に追われている状況下で文句をつけるほど図々しい性格はしていない。
「そこの部屋に隠れていろ!」
銃を構え、迎撃を始めたサキの言葉に従うように飛び込んだ先、コユキの目に飛び込んできたのは制御盤らしきコンソールの列。彼女は見ていなかったのだが、部屋の入口には『動力炉制御室』という銘が刻まれたプレートがあった。
「これは……何だか面白そうなものがありますねぇ!」
外から多数の銃声が聞こえてくる中、逃げ場のない部屋へと押し込まれたコユキはヤケクソと言わんばかりにコンソールをいじり始める。表示されているものは良く分からなかったが、彼女は天賦の才である暗号解読の技能を使い、またたく間にシステムを掌握してしまう。
そのままパラメーターを適当に弄り倒し、ENTERキーを勢い良く叩く。部屋にその音が響き渡った直後、一瞬部屋の明かりが全て消え、非常灯の薄暗い赤い光が点灯した。そして同時に警報とともにアナウンスが流れ始める。
『リアクターの安全装置が解除されました、炉心融解まで残り時間5分です。全職員は直ちに脱出してください』
「には?」
コユキはその内容の深刻さを咄嗟に受け止める事ができず、小さく首を傾げた。が、だからといって現実がそれに従うわけではない。外の銃声がおさまり、直後血相を変えてサキとミヤコが部屋に飛び込んできた。
「お前ッ、一体何をやったんだ!?」
「え、えぇっと……ちょっとシステムを弄って……もしかして私、何かやっちゃいました?」
「黒崎コユキ、話は後です。敵は逃げ出しました……私達も脱出を急ぎましょう!」
自分が何をしでかしたのか理解していないコユキの態度に苛立ちを感じつつも、事態そのものを飲み込んだ2人はコユキの手を取ると即座に駆け出す。廊下には戦闘の痕跡があったが、倒れている兵士の姿はなかった。兵士たちは気絶した仲間を見捨てることなく連れ出すことにしたらしい。
だが、その痕跡はくっきりと廊下に残っている。これを追えば無事に脱出できるだろうか、確証は持てないながらもタイムリミットは刻一刻と迫ってくる以上、躊躇する理由は何もない。サキはコユキを再び担ぐと、ミヤコを先頭に通路を駆けていった。
「うわああーっ、なんでなんですかーっ!」
「耳元で騒ぐな、うるさい!」
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消耗したSRTの隊員たちは最早ブラック・ウィドウへの接近を行うことが叶わず、分校の影に身を潜める事しか出来ずに居た。クルミの持つフラッシュシールドは盾の形をしたスクラップへと成り果て、アリアの外骨格も動作が怪しい。それほどまでの被弾を受けて意識を保てるのは流石はSRTというべきか、もしこれが普通の治安部隊であれば死屍累々といった状況であっただろう。
唯一ブラック・ウィドウと渡り合えるのは、装甲に身を固めたメタルウルフのみ。ただそれでも長時間、多数の被弾を重ねて装甲のシールドエネルギーは底を付きかけていた。これ以上の被弾はまずいと焦りが滲んだその時、カズミからの通信が
『先生、地下で高熱源反応! これは……分校が爆発するぞ! 皆、衝撃に備えろ!』
彼女の警告に咄嗟に建物から離れたSRTの隊員たちは、直後地下から突き上げるような衝撃に跳ね飛ばされて大地に転がった。受け身はなんとか取れたおかげでダメージは殆ど無いが、校舎の方は基礎が崩壊したことで建造物そのものが崩れ、開いた隙間からは炎と煙が火山のように噴き出している。
「そんな……ミヤコ、サキ……」
地下に2人が取り残されていた筈であったが、これではとても助かるまい。先程のオトギとミユのように
しかし、ショックで固まっている時間はない。地下施設が壊滅したことでブラック・ウィドウのエネルギー供給は遮断され、バリアの展開は今度こそ不可能になったはずである。ようやく訪れたチャンスを逃すことなく、彼は空高く跳躍すると武器を投げ捨て、背面のコンテナから取り出したのは長大な砲身を持つ
”ようやくこいつの出番だな!”
『Ughhhhhhhh!!!』
自由落下をしながら彼が狙うのは、機体の動力炉と思しき高熱源反応。流れ弾を気にする必要もなく、FCSによる補正が無くとも、それこそ鼻っ面を殴ったら鼻血が出るほど確実に命中させられる距離まで近づいて彼は引き金を引いた。
刹那、砲口から放たれた徹甲弾は装弾筒を脱ぎ捨て、超音速をもってブラック・ウィドウの胴体を貫き、貫通してアスファルトの路面へと突き刺さる。少し遅れて貫通孔から炎を噴き出し、まるで痙攣するかのように震えた後、巨体は力なく大地に横たわり、二度と動く事はない。
”やれやれ、ようやく
武器を収納し、ブラック・ウィドウの胴体へと着地した
そして彼は兵士の首―――フェイクウルフの外装を装備したまま―――をクロノスのヘリからよく見えるように掲げる。偽物はここに討ち果たした、そう言わんばかりに。
『これは……皆さん、ご覧になりましたか!? 今メタルウルフが掲げているのは、まさにそっくりな生首です! これは一体どういうことでしょうか? もしや、
『なんか好き勝手言ってるよね、あの報道ヘリ』
『まったく……これだからクロノスは困る』
クロノスの放送を聞いていたヘリの2人はあまりにも身勝手な内容に呆れた様子で、これ以上相手にしてられないと言わんばかりに機体を崩壊した分校の片隅へと着陸させた。そして他の仲間達と同様に
「先生、その……月雪小隊長と空井隊員は……」
いち早く到着していたユキノが表情を曇らせながら顔を向けたのは、まるで火山が噴火したかのように崩壊した校舎。外で気絶していた傭兵生徒や兵士は幸いにも巻き込まれずに済んだようだが、中に居たものは果たしてどうなったのやら。そして何より、地下にいたであろう2人の安否は確認しようがない。
しかし、そんな彼女に対して
「せ、先生?」
”こっちだ、みんな”
理由がわからぬまま連れられ、向かった先はとあるマンホール。全員が首を傾げる中、彼は軽くその蓋を持ち上げ、中をライトで照らす。つられて覗き込んで見れば、その先に居たのは―――
「うぅっ、眩しいな……」
「月雪、空井! お前達、生きていたのか! それにそっちにいるのは……ミレニアムの白兎!」
地上からの光に目がくらみ、思わず手をかざすミヤコとサキ、そしてコユキ。3人共多少煤を被っているようだが、五体満足で居ることに地上の隊員全員が安堵の表情を浮かべる。良く無事でいてくれたと声をかけながら3人を地上に引き上げると、ミヤコは申し訳なさそうに
「申し訳ありません先生、首謀者の確保には失敗しました」
”いや、君たちが無事で居てくれる方が1000倍は重要だ、それに―――”
「それに?」
”逮捕はできずとも、痛い目には遭ってるんじゃないかな、
そう言い笑う彼の姿に、ミヤコは首を傾げる。その言葉の意味を彼女が知るのは、全てが終わってからだった。
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朝日に照らされ始めたD.U.の街並みの中を走る1台の高級車、その後部座席に座るジェネラルが苛立ちを隠せぬまま見ているのは、現在生配信されているクロノスのニュース。崩壊したヴァルキューレ第三分校の傍でインタビューを受けるSRTの3個小隊と、
「最初から勝てるとは思っていなかったが、せめて道連れにすればいいものを! この役立たず共がッ!」
怒りにカメラバイザーを紅潮させながら彼は叫ぶ。運転手はその矛先が自分に向かってこないように見を縮こませて目立たないようにするので精一杯だった。
「私の邪魔をするものは皆死ねばいい! クソッ!」
「ひぃっ」
座席に蹴りを入れながら癇癪を起こしたかのように怒りを顕にするジェネラルに対し、運転手は小さく悲鳴を上げる。カイザー本社への道は長く、ずっとこの調子ではとてもではないがストレスで体がおかしくなってしまいそうだと思いながらも、悲しいかな平社員でしかない彼には選択肢など無い。
そのまま橋を渡ろうとしたその時、運転手は前方の車道に人影が佇んでいるのを確認した。一体何者なのかと疑問に思いつつも、ここで止まればジェネラルに叱責されるという恐怖からアクセルを緩めること無く車は進む。そして人影がだんだん近づいていくにつれ、その人物のディテールがくっきりとし始め―――彼は青白い顔のままに叫んだ。
「こ、ここ、狐坂ワカモ!?」
「何っ!?」
どんどんと自分に向かってくる高級車を見つつ、狐坂ワカモは仮面の奥で獰猛な肉食獣の如き表情を浮かべていた。自分を陥れるだけならばともかく、
「ふふ……その罪の重さを身に刻んで差し上げますわ」
彼女が肩に担いだのは対戦車擲弾発射機、RPG-7。狙いをつければ運転手が必死にハンドルを切って回避しようと試みているが、それはあまりにも緩慢なものに過ぎない。引き金を引き、バックブラストによって反動を相殺しながら放たれた弾頭は、僅かに飛翔した後ロケットに点火し真っ直ぐに車へと向かい―――そのボンネットに触れた瞬間、起爆し車は炎に包まれた。
「うおおおおああああっ!?」
「ぎゃああっ!」
炎に包まれたままの車は直前のハンドル操作に従い、道を大きく外れるように進み橋の欄干を突き破って河へと落ちていく。直後、燃料に引火したのか、くぐもった爆発音とともに橋の高さを超えるほどの水柱が立ち上がり、ワカモは満足した様子でその場を去っていく。
この爆発はヴァルキューレ分校の戦闘のニュースの裏で誰にも気付かれることはなかったが、これが一連の事件の最後の一幕であった。
To be Continued in Epilogue ”
色々詰め込んだ感はありますが、これにて正義の証明編は残るはエピローグのみになります。連邦生徒会はどういう対応を取るのか、他の学園の反応は、そのあたりを書いた後、ついに最終編が始まります。お楽しみください。
用語解説
シャドウ・カンパニー
アビドス事件でカイザーグループが半壊した後、弱体化したPMCに代わり非合法活動に専従する傭兵集団。ジェネラルが統括しカイザーと敵対している企業や集団への襲撃などを繰り返していたが、
ブラック・ウィドウ
シャドウ・カンパニーが保有する市街地制圧用多脚歩行兵器。単体でも高い火力を誇るが、外部動力と接続することで無敵の電磁バリアと高威力の高エネルギー砲を使用可能。しかし、逆に言えば外部動力がなければその性能を発揮することは出来ないということである。
処置
ワタシハナニカサレタヨウダ