METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

76 / 80
Episode5 ”Another Shiroko(もう1人のシロコ)”

 自分達も連れて行ってほしいというアビドス高校一同の申し出を受け、先生(マイケル)はどうしたものかと悩ましげに頭を掻いた。元々メタルウルフの圧倒的な火力で制圧し*1、SRTがその隙間を埋めるように迅速に駐屯地を浄化するというプランで考えており、そこに他学園が参加するということは全く想定されていない。

 

 アビドス高校は確かに個々の実力は高く、1年生のセリカやアヤネでさえSRTの1年生に匹敵するだけの技量はあると彼は見ていた。しかし、個々の能力と部隊としての能力は別である。元陸軍少佐でもある先生(マイケル)からすれば命令を良く聞き、実行に移せるSRTというのは便利で頼りになるものであった。

 

 とはいえ、アビドスも僅か5名という規模からその連携はSRTに劣るものではない。家族のように気心がしれ、母校愛も強いからこその団結力、その強さは十分に理解しているのだが―――アビドス内での連携はともかく、他の集団との連携も必要になる。それができるかと言えば、そこは少々疑問符がつくところがあるというのが正直な所だ。

 

 それに、アビドスは雨雲号を砂漠で喪失している。移動手段がない以上、連れて行くわけにはと彼は思っていたが―――

 

 

「心配はいらないよー、実はこの間ヘリをもう一機手に入れる機会があってねー」

 

「はい、もしものための予備機として用意したのですが、こんなすぐに出番があるとは思いませんでした」

 

”………参ったな”

 

 

 足があるというのなら、ここで置いていったとしても勝手についてくる可能性がある。というか、彼女たちの気質なら間違いなく来る。であるならば、最初から制御できる状況に置くのは正しい。

 

 

「先生、こういう事態においてはマンパワーというのは重要だと思いますが」

 

”ユキノもそう言うか……”

 

 

 この場にいるSRTの最先任たるユキノがアビドスとの合同作戦を行うことに好意的であるということも彼の判断を難しいものにしていた。彼個人としては命令系統を単純化したいという思いがあったが、実働部隊であるSRTが猫の手も借りたいと思っている以上、それを無視することは出来ない。いくらメタルウルフが戦力として強かろうが、こと浄化作業に関して言えば単体でできることには限りがあるということを彼自身よく理解していたのだ。

 

 そうして悩んだ末、彼はアビドスの5人も駐屯地への突入メンバーに加えることを決断する。ヘリ4機、総勢17名の精鋭達による強襲作戦の準備は直ちに進められ、用意された対アルファ・ワーム用弾薬が配布されたのだが―――

 

 

「はぁ……なんで私達が銃を交換しなきゃいけないんだ」

 

「仕方ないですよサキ、弾の規格の問題がありますし」

 

「うぅ、せめてゼロインチェックはさせてください……」

 

 

 RABBIT小隊は使い慣れた銃を取り上げられ、サキとミヤコの2人は普及しているAR-15を装備していた。また、ミユもM700タイプのボルトアクションライフルに交換され、ヘリのパイロットとして銃を使う機会がないモエのみが愛用の銃を携行している。

 

 これは対アルファ・ワーム用弾薬を用意出来たのが5.56×45mm弾と、7.62×51mm弾、そして12ゲージスラッグ弾と12.7×99mm弾弾の4種類だけだったことによる。それに伴い、クルミも愛用の銃を手放し、泣く泣く使い慣れぬMCXラトラーを装備する羽目になった。HOUND小隊は基本装備がAR-15系列であるため装備に変更はない。変化があるとすれば、タエコの銃がMk43(LMG)からM110(マークスマン)に変わった位か。

 

 アビドス組もホシノ、シロコ、セリカの3名が適合している銃を使っているため、装備の交換は必要無かった。ノノミに関してはマシンガンでばらまけるほどの弾を用意できなかったことから通常弾を使用することとなるが、通常弾でも多少は足止め程度はできるので不都合はない。ノノミ自身、狙いを絞って撃つというのが苦手だという理由でそれに対して不満を述べることはなかった。

 

 

「準備が出来次第直ちに出撃する。現場での指示は先生の指示を最優先とし、次点で私だ。いいな?」

 

「りょーかい、えーっと……」

 

「……ユキノ、七度ユキノだ」

 

「おっけいユキノちゃん、おじさんたちに任せてよ」

 

 

 アビドスを指揮系統に組み込むにあたり、ユキノはホシノに強く指揮官と次席指揮官が誰かということを伝える。果たしてそれを理解しているのかどうか彼女には理解できなかったが、了承したという言質は取ったのでそれを前提として組むことになるだろう。

 

 少し離れた場所ではRABBIT小隊が支給された銃の感触を確かめるべく試射を行い、操作感などを体に馴染ませている。咄嗟の時に操作を誤るのは致命的な結果をもたらすため、時間ギリギリまで練習を繰り返した。

 

 そしていざ出動という時点になり、ここでようやくアルファ・ワーム用の弾薬が配布される。先端は青色に塗られ、装填されたマガジンには青いテープが巻かれている。通常の弾薬と間違えぬよう、そのあたりはきっちりと区別しなければならないのだ。

 

 

「へぇ、これが特殊弾かぁ……効果はあるの?」

 

「実証試験はする暇がなかったし、相手も居ない。だから今回が実証試験も兼ねる」

 

「うへぇ……それはちょっと嫌だなぁ」

 

「でも、ないよりはマシと思うしかないよホシノ先輩」

 

「ま、そういうことだシロコ。私等だってこれに命を賭けることになるんだからな」

 

 

 弾丸を受け取り、それを手にしてマジマジと見るホシノはユキノから試験もまだだと言われてげんなりとするが、突っ込む以上これに託すしかないというのは事実。その隣では突入すると決意を固めたシロコがポケットに入るだけ受け取り、戦闘準備を完了する。

 

 同じく受け取ったトミもポーチにマガジンを詰めると、互いにそれぞれのヘリへと向かっていく。アビドス組は校舎裏から2機目のヘリ、通称「夕立号」を移動させ、校庭に出るとエンジンを始動させて発進準備を整えた。

 

 

”本当は駅まで送っていきたいところだが、今は時間がないんでね。留守番を頼むよヒカリ、ノゾミ、それとアオバはゆっくり休んでくれ”

 

「迎えもしばらく来そうにないし、なーんにもしないでいるのもいいかもね。お菓子もあるし、パヒャヒャ!」

 

「ヒカリのぶんも! ヒカリのぶんも!」

 

「うぅ、気持ち悪いんですけど……」

 

 

 SRTとアビドスが出撃する一方、ハイランダーの3人はさしたる戦闘能力もない上にアオバが列車以外の乗り物では重度の乗り物酔いになるという体質上、ヘリに乗せるわけにもいかない。そういう訳で、彼女たちはアビドスの校舎でお留守番である。

 

 一応ハイランダーには救出した旨を連絡をしたものの、戒厳令が出されている関係上全路線が停止状態なため即時に列車を出せず、しばらく迎えは来ないらしい。そう考えると留守番というのは都合が良かった。

 

 

「先生、配置についてくれ。機体をマウントする」

 

”了解した、今行く”

 

 

 カズミに急かされるように先生(マイケル)は運動場の真ん中に立ち、HOUND小隊のヘリが真上に止まる。アームが伸び、メタルウルフの肩を掴むとそれで準備は完了。機体が浮き上がって空中で静止すると、それを中心として4機のヘリの編隊が組まれる。

 

 編隊はダイヤモンド・フォーメーションとなり、そのまま砂漠の方向へと真っ直ぐ向かう。目指すはカイザーPMCの駐屯地。カーネルが提供した地図座標を目指し、空の騎兵たちは砂の海を渡っていく。

 

 

 

******************************************************************

 

 

 

 40分程度の空の旅を続けた彼女たちの眼前には、黒煙がいくつも立ち上るカイザーPMCの駐屯地が広がっている。一体何が起きたのか、多くの建物は原型こそ留めてはいるもののどれもこれも大きなダメージを受け、本来それが建造された目的を果たせそうにない。

 

 また、大地には何体ものカイザーPMCの兵士が力なく横たわっており、激しい戦闘が起きたであろうことが見て取れる。だがよく見れば兵士たちは皆肉腫に侵されており、全員が感染変異体であった。

 

 その事実にHOUND小隊を除いたSRTの面々は驚愕する。対アルファ・ワーム用弾薬は今所持しているものが全てで、何処にも流通してるはずがないのにどのようにして感染変異体を倒したのか。しかし、アビドスの面々はこれが誰の手によるものなのかということを知っている。

 

 

「これはやはり……」

 

「うん、間違いなくお姉さんの仕業だね」

 

「倒した数は10体どころじゃないわね……」

 

「ん……見た感じ、近くには居ないかも」

 

 

 駐屯地の敷地内は倒れ伏す兵士たちばかりだが、何処かに隠れていたのかまだ動く感染変異体もいくらか見える。これらを無視するわけにも行かないため、SRTのチームは降下を行うべく高度を下げ始めるが、まずは着陸地点の確保が必要になる。

 

 

”OK...Let's partyyyyyyyy!!”

 

 

 故に、真っ先に突入するのは装甲兵器であるメタルウルフ。HOUND小隊のヘリから離れ、ブースターを全開にしてまるで流星のように大地に降り立つ。瞬間、爆発のような衝撃波と共に周囲に居たものが吹き飛ばされた。

 

 猛烈な砂煙が立ち上り、しかし4機のヘリのダウンウォッシュがそれを勢いよく散らしていく。現れたのはクレーターの中心に立つ濃紺色の装甲騎兵。すかさずジャンプして穴から出ると、彼は周囲を見渡すように首を動かす。

 

 

”やれやれ、歓迎ムードって感じじゃないな”

 

 

 そう言って先生(マイケル)が即座に取り出したのは、複数の回転式銃身を備えたMG200―――そのエネルギー兵器版であるMG200/EN。あまりの破壊力の高さに通常時の使用を自粛している、所謂レーザーガトリングと呼ばれる種類の武器だ。

 

 銃身―――ではなく鏡筒が回転し、断続的にレーザーを放つパルスレーザー。そのエネルギーは戦車を蜂の巣にするのに十分であり、特殊弾を用いずに感染変異体を倒すことができる数少ない武装の一つで、彼は狙いをつけると即座に引き金を引いて近づく感染変異体を薙ぎ払う。

 

 青白い光のシャワーが奔り、それに触れたものは即座に赤熱化して融解していく。それがMG200/ENの威力、伊達に最強マシンガンと呼ばれている訳では無い。感染体も被弾するなりその場所が消し飛び、機械の身体も肉腫も等しく蜂の巣となったが、神業的な狙いによって中枢チップは無傷であった。これならば後々回収も可能だろう。

 

 メタルウルフの攻撃は僅かな時間の射撃ながらも、その破壊力の高さからこれでヘリの着陸地点がクリアとなり、SRTのヘリが3機が地面スレスレまで高度を下げると、キャビンからそれぞれ3人の陸戦要員が飛び降りた。

 

 

「全員展開、弾種確認を忘れるな!」

 

「了解、HOUND小隊前進!」

 

「RABBIT小隊も出ます!」

 

 

 小隊ごとに展開するのを確認すると、ヘリもある程度の高度を取って支援の態勢に移る。物陰から、あるいは建物の中から、何体もの感染変異体が姿を見せて彼女たちを包囲しようとしているが、すかさず機関砲を叩き込むことで相手の出鼻をくじいた。

 

 さらに、怯んだ隙を狙ってポイントマン達が銃弾を叩き込む。ついに対アルファ・ワーム用特殊弾の出番というわけだが、元となった弾丸は低威力の玩具のようなもの。ロボット族であるカイザーPMCの兵士たちの身体に命中したとしても、ただくしゃりと潰れて意味をなさない。狙うべきはあの悍ましい肉腫だとここに来るまでの間に散々叩き込まれたが、いざ狙うとなるとこれがなかなか難しい。

 

 

「くそっ! すばしっこい!」

 

「サキ、一発で仕留めようとしないで!」

 

「私に任せて!」

 

 

 四つん這いになり、ステップを刻むように迫る感染体に狙いをつけるサキだが、教条主義的な性質を持つ彼女の脳裏に希少な弾薬という考えがこびり付いているために決定的な瞬間になるまで引き金を引けずにいた。しかし、それでは銃撃による圧をかけれずに相手にフリーハンドを与えるに等しい。

 

 アリアは引き金を適時引きつつサキに対し声を上げるが、弾丸は肉腫に当たらずに機械の体に弾かれるばかり。焦りから思わず舌打ちしてしまう彼女に感染体は飛びかかろうとする。だが、その間に割り込むのは盾を掲げたクルミ。盾に感染体がぶつかる刹那、右手に構えるMCXラトラーの銃口が肉腫にめり込み、クルミは引き金を引いた。

 

 放たれた銃弾は肉を裂き、しかし貫通すること無く内部で潰れ、内包された薬液が周囲に染み出す。生体である以上、肉腫にも血液に似た循環系の構造があり、染み出した薬液はすぐに全身を巡っていき―――アルファ・ワームの幼体を尽く、まるでイナゴが食い尽くすかのように滅ぼしていく。それはまさしくその名(Abaddon)の如き効果であった。

 

 

「ガアアアッ!?」

 

「効いてる! 効いてるぞ!」

 

 

 直撃を受けた感染体は悶え、のたうち回る。そして動かなくなるとまたたく間に肉腫が溶けて元の兵士の状態に戻った。これを見て、ついに感染体に対して有効な対抗手段が手に入ったことにサキが喜びの声を上げ、SRT全体の士気も上がる。

 

 

”流石のアルファ・ワームも注射は死(・)ぬ(・)ほ(・)ど(・)嫌いってわけか。よし、ここの掃討に移るぞ。各小隊ごとに展開、一匹も逃がすなよ”

 

『先生ー! 私達はどうするー?』

 

”ホシノ、そこから何が見えるか教えてくれ”

 

 

 先生(マイケル)はその結果を見てSRTの各小隊に遊撃を行わせるべく指示を出す。この駐屯地から一匹たりとも感染体を逃がすわけには行かない以上、一点突破ではなく広く散らばる必要があった。最悪どこかが苦戦していたとしても、メタルウルフならば即時に駆けつけることができるので問題ない。

 

 それとは別に、上空で待機しているアビドス組に対しても指示を出す。カーネルが提供した位置情報には駐屯地の近くに別の施設があることを示していたが、突入時にそれっぽい建造物は見えなかった。だから現在高度を保っている彼女たちに周囲を索敵してもらおうという考えに基づくものだ。

 

 

『えーっとね……少し離れたところに露天掘りって奴? ネットとかで偽装してるけど、穴が見えるよ。カイザーの連中はあそこで何かを掘り出していたのかなぁ?』

 

『あっちにも感染体が居るのが見えるわ。それに倒れているのもチラホラ……あっ、足跡を見つけたわ! ハイヒールの足跡、間違いないわ!』

 

 

 夕立号は高度を下げつつ、採掘場と思しき場所を探っていく。点々と倒れている感染体を追っていくと、それをなぞるように足跡が残っているのを確認することが出来た。PMC駐屯地でハイヒールを履いている人物など居るわけもなく、その足跡が誰のものなのかなど言うまでもない。

 

 アビドスの4人は互いに顔を見合わせ、示し合わせたかのように頷く。これからどう動くのかではなく、いつ動くか。先生(マイケル)が見ている状況で勝手に動くのは流石にまずいと彼女たちは思っているため、今は機会を伺うのみ。

 

 ―――だが、その機会は思ったよりも早く訪れることになる。

 

 

『こちらFOX1、巨大戦車出現! こいつも感染体なのか!?』

 

『RABBIT1、現在攻撃ヘリと交戦中! こんなのとどう戦えばいいんですか!?』

 

『HOUND1、敵集団と交戦! こいつら何処に隠れていた!? 各員自殺の予定がなければ先生の援護が来るまで突出するな!』

 

 

 無線を通じ、SRT各小隊が予想外の敵と遭遇して救援要請を発しているのを知ったホシノ達は、ついで先生(マイケル)がどう動くのかを予想する。一番の脅威は何か、それは恐らく巨大戦車であろう。

 

 かつて汚染される前の原型たるドロシータイプと交戦した記憶のある彼女たちは、巨大戦車が戦闘ヘリよりも厄介な存在であることを知っていた。重厚な装甲、全てを貫く高エネルギーの主砲、よほどの戦闘力を有する生徒でなければ正面から撃破するのは難しい。戦闘ヘリもそうではあるが、火力としては2段以上落ちるためその結論に変更はない。

 

 

『”ユキノ、今すぐそっちに行く。待ってろよ、グラマラス・グレニスみたいにかっ飛ばしていくぜ!”』

 

『誰ですかそれは!?』

 

 

 予想通り、先生(マイケル)はFOX小隊の方に向かうという。その言葉の後に基地の方角から猛烈なジェットの音が聞こえてきた。振り向けば、白煙を引きながらメタルウルフが上昇しているのが見える。

 

 

「……アヤネちゃん」

 

「はい、降下準備入ります」

 

「みんな、いくよ」

 

 

 先生(マイケル)の全体指揮は一時的に失われ、アビドス組は今浮いた状態にある。このチャンスを逃さず、彼女たちは採掘場へと突入するというプランを立てていた。シロコの姉(思い込み)は今1人で戦っているはずであり、その援護をするべきだというのが彼女たちの考えだ。

 

 無論、あの時戦った時に感じた強さからすれば不要かもしれないが、もしものこともある。それに、シロコと対面させてあげたいという思いがアビドスの4人にはある。そうと決まれば決断は早く、ホシノが指示を出すとアヤネは夕立号を地面の近くまで降下させた。

 

 

「感染体は少数、足跡は採掘場の奥へと続いている。アヤネちゃんは上空待機を継続して通信状態を維持してて」

 

「はい」

 

「それで、あとは採掘場への突入だね」

 

「ん……大丈夫、弾が通じるなら問題ない」

 

「おっけー、それじゃあ行こうか!」

 

 

 4人がヘリから飛び降り、即座に夕立号は高度を取る。地上に残された突入隊はホシノの声に応じて前へと進む。できる限り早く、全力で疾走するかのように彼女たちはまずは露天掘りの穴の外縁部へとたどり着いた。道中遭遇した少数の感染体はホシノ、シロコ、セリカの手によってまたたく間に屠られ、肉腫が溶けた身体を砂の上に残している。

 

 駐屯地では激しい戦闘が行われているようで、少し離れたこの採掘場でも銃声や爆発音が響いている。恐らく先生(マイケル)がホシノたちの行動に気づくのはもう少し後になるだろう。

 

 

「もうこの先には倒された感染体しかいないっぽいね」

 

「本当に強いですね、あの人。流石はシロコちゃんのお姉さんという感じです」

 

「でも、1人でこの基地に突っ込むだなんてまともな考えじゃないわ」

 

『ええっと、倒れている敵の数えてみたんですけど、少なくとも50体は倒してるみたいです』

 

「うへ……おじさんでもこの敵相手に50体はしんどいよぅ」

 

 

 穴の外縁部から斜面を一見呑気そうに喋りながら進む一同。しかしその顔つきは剣呑としており、警戒を怠ることはない。彼女たちの進む先には感染体が点々と倒れ、それが道標となって目的地へと導いていく。どうやら先行者がこの周囲の敵を全て撃ち倒しているらしく、彼女たちは目的とする場所まで一切感染体と遭遇すること無く穴の奥底にたどりついた。

 

 穴の底にはショベルカーやダンプカーなどの工事車両が放置されている他、崩落を防ぐためにガッチリと固められた横穴が開いている。ここで激しい戦いがあったのだろうか、辺りには10体以上の感染体が骸を晒していた。壁に弾痕が見えぬ辺り、ここで銃を使ったわけではなさそうだ。

 

 

「坑道……ですね」

 

「ほんとさ、カイザーはここで何を探してたんだろうね。砂漠に資源なんてないのは昔のアビドス生徒会が調査してわかってるのに、こんなに大規模な採掘なんて……」

 

 

 このような大規模な採掘をアビドスの砂漠で行う意味が理解できず、ホシノはカイザーの真意を測りかねていた。とてもではないが、利益の出る活動ではないのは明らかだ。そして隠されていた以上、カイザーの核心的利益が存在する可能性がある。

 

 

「奥から何か聞こえてくる……」

 

「……行くよ、ここからはみんな静かにしてね」

 

『皆さん、ここから先は通信が――――つけて――――』

 

 

 彼女たちは懐中電灯を手に静かに、しかし素早く奥へと進んでいく。外の明かりなど一切入らぬ暗闇の中、非常灯の明かりが道が続いていることを示している。道中、まだ見ぬ最奥から微かに振動と銃声のような音が伝わってきており、今まさにこの奥で戦闘が行われているということを予想させた。

 

 前へ進めば進むほどアヤネとの通信は困難になるが、それを気にする時間的余裕はない。この先に待つのが何であれ彼女たちの目的はシロコとあの黒衣の女性を引き合わせることであり、そのために先生(マイケル)の目を盗んで此処まで来たのだ。今更引き返せるわけもなかった。

 

 

「……」

 

「この先ね……」

 

 

 そしてついに彼女たちは通路の終点へとたどり着く。恐らくは空間が広がっているのだろうが、燦々と照明が輝いているために薄暗い通路から部屋の中の様子をうかがい知ることは出来ない。しかし、内部では激しい戦闘が行われているということだけは見ずとも感じられる。

 

 意を決し、勢いよく部屋へと飛び込む4人。明順応で一瞬目が眩むが、彼女たちはすぐに環境に対応していく。段々と明らかになる室内の様子、その光景に彼女たちは驚愕した。

 

 

「な、何なのこれは……」

 

「これは一体……!?」

 

 

 倒れ伏す多数の感染体。しかしその姿は外の肉腫にまみれた兵士のものではなく、より有機的に悍ましく変異したものだ。もしこれを先生(マイケル)が見ればレベル2の感染体と認定したであろう。こうなれば外にいる兵士―――こちらはレベル1感染体―――よりも動きは素早く、より厄介な存在になる。

 

 その群れを倒し、黒衣の女性が一人のロボット族に銃口を向けている。その姿を見紛うことはなかったが、彼女は突如乱入した4人に気を取られてつい顔を向けた。

 

 

「……どうして来たの?」

 

 

 4人が呆然と立ち尽くす中、黒衣の生徒(シロコ)は彼女たちが何故ここにやってきたのかその理由を測りかねていた。それに、どういうわけか今となっては感染が治っているらしい。理由がわからぬと軽く混乱していると対峙していたロボット族が動き出し、彼女に飛びかかる。

 

 

「危ないっ!」

 

「………」

 

 

 流石にそれを見てまで呆然としているわけにも行かず、セリカは思わず黒衣の生徒(シロコ)に対し叫んだ。だが、まるで最初から見ているかのように彼女は高く高く跳躍して回避すると、天井に張り付くように静止した。高さにして10m近くある上に掴まれる場所も、引っかかれる場所もないというのに彼女は両(・)足(・)で(・)天(・)井(・)に(・)立(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 あまりにも非常識な光景にホシノも、ノノミも、シロコも、セリカも、皆唖然とする他無かった。それこそ、まるでフィクションの忍者のような行いなんて理解が追いつくものではない。

 

 

「ククク……餌を探す手間が省けたな」

 

「え、餌っ!?」

 

「丁度いい、外に出る前に腹ごしらえだ!」

 

 

 その男に表情を表示する機能は無かったが、ニヤリと笑ったような気がすると同時に全身を肉腫が覆い、より巨大な姿へと変貌していく。その姿は巨大な芋虫のようであるが、その表面を覆う皮膚はなく剥き出しの肉塊で、傍から見れば吐き気を催すほどに悍ましい。

 

 最後に頭の中央部から先程の男の顔が浮き出る。どうやらこれがこの怪物にとっての会話用のインターフェースのようだが、ここに至ってノノミは男の正体に気がつく。

 

 

「あれは……!」

 

「ノノミちゃん、もしかして知り合いだったりする?」

 

「彼はプレジデント……カイザーコーポレーションのCEOです! まさかこんな事になっているなんて……」

 

「えっ、あれがカイザーの一番偉いやつなの!?」

 

 

 カイザーグループの最高経営責任者、プレジデント。アビドスにとって最大の敵といっても過言ではない存在が今や寄生虫に冒され、異形の怪物と成り果てているという事実。4人はアルファ・ワームの恐ろしさを改めて実感し、じわりと額に汗が滲む。

 

 一方、黒衣の生徒(シロコ)にとってはプレジデントとかカイザーとかそういうものは問題ではなく、天井から飛び降りて敵の懐に飛び込むと同時にニ丁のアサルトライフルの引き金を引く。片方が色が黒一色のWHITE FANG 465で、もう片方は使い込まれて所々パーツの欠けが見られるものの、外見はセリカのシンシアリティと同一モデルのように見えた。

 

 

「嘘っ……なんで私の銃が……!?」

 

「色以外私の銃と同じ……?」

 

「グアアアアッ!?」

 

 

 予想外の事に驚き、戸惑う2人。彼女たちの視線の先では30連マガジンが突き刺さっているアサルトライフル2丁、すなわち60発の弾丸が感染体プレジデントに突き刺さり、肉塊は痛みに悶えるようにのたうち回る。しかし致命傷には至ってないらしく、怪物は反撃のために身を捩る。

 

 

「ああもう! みんな、あいつを撃って!」

 

 

 ここに至り、ようやく気を取り直したホシノは銃口を感染体へと向け、後輩たちに促すように引き金を引く。放たれた弾丸はこちらも外すこと無く巨大な肉塊へと突き刺さり、内部に充填された薬液が染み出す。

 

 

「ガッ、グギッ!? こ、これは……貴様ら、これをどこで……!?」

 

 

 自らを構成しているアルファ・ワームが次々に死滅していき、プレジデントは苦しげに声を吐き出す。だが、これほどの巨体を構成するアルファ・ワームの量からすれば一発の銃弾に充填されたワクチンの量など雀の涙。致命打に至るには一体どれほどの弾薬を叩きつければいいのだろうか。

 

 ノノミのリトルマシンガンVの全弾がワクチン弾なら可能性はあっただろうが、それは無い物ねだりでしかない。装填された分を撃ち尽くしてリロードしようとする3人であったが、手にしたマガジンとショットシェルにワクチン弾のマークがないことに気づく。元より数が少ない上に、道中やプレジデント相手に使いすぎたのだ。

 

 

「まずい……!」

 

「減った分を補うために先に貴様たちから喰らってやろう!!」

 

 

 怒りに燃えるプレジデントは先程まで狙おうとしていた黒衣の生徒(シロコ)から視線を外し、アビドスの4人を先に仕留めるべく床をうねるように猛烈な勢いで突撃を仕掛ける。アビドス組の身体能力ならば避けることも不可能ではないが、一瞬判断に遅れたノノミが進路に取り残された。彼女は急いで退避を試みているが、明らかに衝突コース。

 

 

「ノノミちゃん!」

 

「――――!」

 

 

 引き返して盾になろうとするホシノのすぐ横を、黒い影が通り過ぎる。一瞬何が起きたか理解できぬ彼女であったが、自身を追い越して黒衣の生徒(シロコ)がプレジデントに向かっていったのだと知覚する。同時に、彼女が手にしているものを見て驚愕した。

 

 

「あれは……!?」

 

 

 見覚えのある折りたたみ式のバリスティックシールド。今己が手にしているものと全く同一寸法、デザイン。しかしそれは本来あり得ない筈のもの。IRON HORUSは今は亡き先輩(梔子ユメ)の遺した形見の品で、同一のモデルなど存在しないはずなのだ。

 

 ホシノが唖然としている中、黒衣の生徒(シロコ)は盾を構えたままプレジデントの横合いに突入する。その勢いはまるで砲弾のようで、芋虫のような醜悪な肉塊は肉片を撒き散らしながら軸がずれ、ノノミを轢くこと無く壁に突き刺さった。

 

 

「グアアアアッ……! おのれ、よくも邪魔を……!」

 

 

 めり込んだ壁から顔面を引き剥がしながらプレジデントは怒気を顕にする。黒衣の生徒(シロコ)の攻撃はどういうわけか感染体に対して有効のようだが、攻撃で受けた傷は時間が経つにつれて徐々に消えていくのが見て取れた。

 

 このままではジリ貧になるのではないかとセリカは内心不安に駆られ、先輩たちの顔を見る。だが、何時もは頼りになる彼女たちも何処か不安な様子で、果たしてここを切り抜けられるか確信が得られぬまま、いつ終わるとも知れぬ戦いを続けるのだった。

 

 

 

 

******************************************************************

 

 

 

 視界を黒煙が覆う中、周囲からは激しい銃声と爆発音、ヘリのローターの音にガスタービンエンジンの甲高い音が響く。ユキノ達FOX小隊は建物の残骸を遮蔽にして巨大戦車からの射線を切りながら移動しつつ、不意に接敵する感染体には的確に急所を狙って弾丸を叩き込んだ。

 

 

「目標無力化!」

 

「よし、ここなら十分狙えるね」

 

 

 感染体を倒して一時的に安全を確保した物陰。オトギは愛銃たるFOX-82式スナイパーライフルを依託し、感染体と化した巨大戦車ドロシータイプのキューポラからはみ出す肉塊を狙う。ぱっと見ただけでも気持ち悪いのに、スコープを介してズームで見ることになった彼女は心底嫌そうな表情を見せつつもプロらしく狙いをそらすこと無く引き金を引く。

 

 放たれた.50口径の弾丸は寸分の狂いもなく狙った場所へと命中し、肉塊の一部が融解して被弾部から噴出するものの、戦車を覆う肉腫の全てが消えたわけではない。やはりあれほどの量まで増殖したとなれば弾丸の一発やニ発のワクチンで撃破は不可能なのだろう。偶然とは言え、採掘場で戦うホシノ達と同じ結論に達したわけだ。

 

 

「やばっ! 敵主砲、来る!」

 

「全員避けろッ!」

 

 

 感染体ドロシーはお返しとばかりに主砲にエネルギーを集中させ、FOX小隊の隠れている瓦礫を目掛けて放とうとする。被弾すれば命に関わるであろう高エネルギー砲の射線から逃れようとユキノが声を上げるよりも早くクルミとオトギは走り出す。

 

 だが、その光芒が放たれるよりも早く青白い光のシャワーが感染体ドロシーに降りかかった。頭上に現れたメタルウルフが、右手に構えたMG200/ENの掃射を浴びせかけたのだ。たちまち装甲は融解し、肉腫は炭化して燃え上がり、スーパーキャパシタまでダメージが及ぶと内部に溜め込まれたエネルギーが解放され、感染体ドロシーは一瞬で炎に包まれる。

 

 搭載されていた銃弾やミサイルといった危険物の中でも可燃性のあるものが次々に誘爆し、最終的には燃料タンクにまで引火したことによって車体が爆発、砲塔は燃えながら天高く、それこそ上空を旋回しているSRTのヘリ達よりも高い位置まで飛んでいった。

 

 FOX小隊が戦っていた時と比べて決着がつくのはほんの数秒、メタルウルフの火力が高すぎるがゆえに延々と撃ち合うという事などほとんど起こり得ないがゆえの結果だ。

 

 

”皆、大丈夫か!?”

 

 

 感染体ドロシーを撃破し、瓦礫の近くに着地するメタルウルフ。先生(マイケル)はドロシーと交戦状態にあったFOX小隊の安否を気にするが、ユキノ達が無事な姿を見せたことで安堵したように息を吐く。

 

 

「私たちは無事です。先生、先程の一撃はお見事でした」

 

「武器の火力がダンチだよねぇ~、せめてジャガーノートくらいの装備がないとあれは対抗できそうになかったよ」

 

「こっちはとりあえず大丈夫だから、他の小隊の子たちの方も見てあげて先生!」

 

”ああ、直ぐに始末してくる”

 

 

 後輩たちを早く助けてあげてほしいというクルミの言葉に彼は頷き、直ぐにその場から飛び立って次のエリアへと向かう。残されたFOX小隊はまばらに現れる感染体の残党を掃討すべく、再装填を済ませた後に物陰から飛び出した。

 

 

 

******************************************************************

 

 

 

 RABBIT小隊が活動しているエリアに侵入した先生(マイケル)は、即座にメタルウルフのセンサーが捉えた敵攻撃ヘリコプターの姿を見るなり顔をしかめる。いくつものカタツムリに似た形状の肉塊が張り付き、特にコックピット回りには複数が密集してまるで脳髄を思わせるシルエットとなっていた。また、下部にはフジツボのような形状の肉腫が垂れ下がり、機体の各所からは複数の触手がうねうねと動いている。

 

 

”……スライム・チョッパーか。この短時間でレベル3の感染体が出現するなんて一体どうなっているんだ?”

 

 

 このタイプの敵は2015年の東京事件の際にも確認されていたものだ。今更ではあるが寄生虫であるアルファ・ワームは機械に対しても寄生し、その制御を奪うことが確認されている。スライム・チョッパーはその能力の結果誕生し、複数の自衛隊の戦闘ヘリが寄生されてGUIDEの鎮圧部隊に立ちはだかったことが記録されていた。この個体も同様にカイザーPMCのヘリが寄生されて生まれたのだろう。

 

 だが、アルファ・ワームの出現が確認されてから僅かに1日も経たぬうちにこのレベルの感染体が出現するというのは明らかにおかしい。出現時の現象といい、まるでそうなるように誰かに調整されているような―――そこまで考えが及んだ所で彼は頭を振って意識を切り替える。今はそれを考えるよりもRABBIT小隊の救援を優先しなければならない。

 

 

「こんな豆鉄砲(小銃)で戦闘ヘリを落とせるものか!」

 

「RABBIT2、自棄にならないでください! RABBIT4、敵の生体部位への射撃を継続!」

 

「り、了解」

 

 

 RABBIT小隊は機銃掃射を受けつつも全員健在で崩落した建物の中に潜んでいた。30mmチェーンガンから放たれる焼夷榴弾の攻撃で蜂の巣状態だが、まだまだ壁の構造は崩壊していない。しかしそれも時間の問題だ。

 

 彼女たちは身動きできずに辛うじて応射するが、ヘリと歩兵が撃ち合えばどちらが勝つかなど言うまでもなく、サキがキレている通りに対空ミサイルを持たぬ軽歩兵は普通は戦闘ヘリに勝つことなど不可能。ミユは正確な狙いで全弾命中させるが、こちらも図体が大きいことからワクチン弾の効果は決定的なものにはならなかった。

 

 

「先生は何処にいるんだ!?」

 

「こっちに向かっているはずです!」

 

 

 効果の薄い攻撃を続けて増援を待ち続けた彼女達は、とうとう限界が近づいている壁の様子を見てヒステリックに声を上げる。もはや風前の灯といった所でミユはスライム・チョッパーの後方から近づいていく機影を見た。

 

 

「あれは……せ、先生が来ました……!」

 

「何だって!?」

 

”Hoooooah!”

 

 

 高速で飛来するメタルウルフはスライム・チョッパーを挟んで正面にRABBIT小隊を見ているために手にした重火器を使わず、自らの速度と質量を武器に強烈なドロップキックを機体後部へと叩き込んだ。普通のヘリならこの一撃でテールブームが折れて墜落するのだが、スライム・チョッパーはそれに耐えつつもバランスを崩して地面に墜落する。

 

 コンクリートで舗装された大地を削り、しかしそれでも原型を止めているスライム・チョッパー。アルファ・ワームの寄生によって得られたその強度は凄まじく、ローターにすら欠損を見ることは出来ない。この程度で倒せてるとは思っていない先生(マイケル)はその横に立ち、MG200/ENの銃口を突きつけ引き金を引いた。

 

 RABBIT小隊の3人が固唾をのんで見守る中、パルスレーザーを全身に浴びたスライム・チョッパーは一瞬で蜂の巣となり、燃え上がるヘリの残骸とドロドロに溶け落ち、炭化した肉塊の痕跡だけが残される。やはり決着は一瞬で、スライム・チョッパーの撃破によって安全を確保されたと見るや彼女たちは建物から出てきてメタルウルフを囲む。

 

 

「……はぁ、本当に一瞬で片付けたのか。まるで1人軍隊(ワンマンアーミー)だ」

 

「ありがとうございます、先生。おかげで助かりました」

 

 

 サキはメタルウルフの戦闘力に感心した様子で燃え落ちた残骸とメタルウルフを交互に見る。これほどの戦闘力があれば戦闘教義のほとんどは無意味で、教条主義の気がある彼女としては現実と理想のすり合わせに苦労しているのだろう。一方のミヤコは先の事件で彼の人柄と能力を認めていたため特に驚く様子もなく頭を下げる。ミユは周囲を警戒しているのか、先程から落ち着きがない様子でキョロキョロと顔を動かしていた。

 

 

「こちらはもう大丈夫です。あとはHOUNDの先輩方ですが―――」

 

『クソッ、弾がもうないぞ! 誰だ貴重な弾丸を無駄遣いしたのは!?』

 

『一番ばらまいてたのはあんただよHOUND1! HOUND4、これ以上は戦線を保てないから後退するよ、支援は任せな!』

 

『了解!』

 

「―――あまり余裕はなさそうですね」

 

”やれやれ、行ってくる”

 

 

 兵器相手ではない故に最後に回されたHOUND小隊はとりあえず無事ではあるようだが、通信から伝わってくるのは中々に切羽詰まった様子。それでもどこかコミカルな雰囲気漂うやり取りに先生(マイケル)は肩を竦めつつ、全速力をもって彼女たちの元へと向かう。

 

 ―――その後、ただの感染体の大群に襲われていたHOUND小隊の救援に向かった先生(マイケル)はMG200/ENを連射してそれを一掃する事となる。「雑にこれを使えば勝てる」と称されるほどの性能のMG200/ENだが、流石にずっとこれ一本で戦っていればエネルギー切れを起こしてしまい、最後の一体を倒した所で再チャージが必要となりただのオブジェとなってしまった。

 

 まだ戦いは続くというのに主力武器を使い切ってしまったことは彼の想定からは少々ずれてしまったが、他の武器があるため継戦能力そのものは言うほど低下していない。そして駐屯地の敵をおおよそ撃滅した時点で彼はふと思い出す。

 

 

 ―――そういえば、アビドスの子たちは今何をしているのだろうか?

 

 

 

******************************************************************

 

 

 

 あれから戦いを続け、既に通常の弾薬すら乏しくなりつつあるホシノ達。通常弾ではプレジデントに打撃を与えることは出来ず、黒衣の生徒(シロコ)が散発的に撃ち込む銃弾だけがあの怪物に痛打を与えることが出来た。しかし彼女の射撃もまばらになりつつあり、手持ちの弾薬が付きかけているのだということが傍から見ても察せられる。

 

 ここで逃げ帰るという選択肢はあったが、それを選ぶわけには行かない。先生(マイケル)の目を盗む形でここまで来たのは黒衣の生徒(シロコ)とアビドスのシロコを引き合わせるためだった。その目的はいまだ完遂されていない以上、彼女たちはプレジデントを倒す以外の選択肢を選ぶことが出来なかったのだ。

 

 

「このままじゃ……」

 

「ホシノ先輩……!」

 

 

 ここは逃げるべきだというノノミの視線。無論分かってはいるのだが、しかし自分達が逃げればあの黒衣の生徒(シロコ)が1人で戦うこととなってしまう。その考えが彼女の決断を鈍らせた。

 

 

「ウオオオオッ!」

 

「あっ……」

 

「……ッ!」

 

 

 プレジデントが再び部屋を縦横無尽に駆け回り全てを轢き潰そうとし、シロコ達アビドス組や黒衣の生徒(シロコ)はその進路から逃れるべく駆け回る。だが、ホシノは先程までこの戦いを継続するべきかと考えていたために反応が遅れてしまう。逃げられないと見て咄嗟に盾を構えるが、相手との重量差は明らかであり、彼女はいとも容易く撥ね飛ばされてしまう。

 

 軸はずれていたのでそのまま進路上に吹き飛ばされるということはなかったが、10m以上離れていた壁に激突するほどの衝撃を受け、ホシノは一瞬呼吸ができなくなった。これほどのダメージを受けたのは正直初めてな気がするが、よりにもよってその相手がプレジデントとは。

 

 

「いっ……たいなぁ……!」

 

「逃げて、先輩!」

 

「えっ……!?」

 

 

 ふらふらと立ち上がろうとするホシノであったが、轢かれたダメージはあまりにも大きく、両足で立つことすら難しくなりふらつき膝をつく。そこを目掛けてプレジデントはとどめを刺すべく真っ直ぐに突っ込んできた。もはや回避もままならず、後ろは壁で逃げ場もない。このままでは壁に挟まれるか、それともプレジデントに食われるか、絶望的な二択を強制される。

 

 それでも足掻こうとするものの。もはや彼女に力はない。終わりが近づき、時間の流れがゆっくりに感じられる中、視界いっぱいに迫る悍ましい怪物。

 

 

(―――ごめんなさい、ユメ先輩。私はもうここまでみたいです)

 

 

 目を閉じて己の運命を受け入れるホシノだが、激突音がした所で致命的な衝撃は襲ってこない。痛みも、何も。

 

 

「…………」

 

 

 恐る恐る目を開けたホシノの眼前にあったのは、盾を構えてプレジデントを全力で受け止める黒衣の生徒(シロコ)の後ろ姿。自分が撥ね飛ばされた体当たりを大地を踏みしめ耐えるとは信じられぬ思いであったが、眼前の彼女はゆっくりと顔を向け、横目でホシノの無事を確認すると僅かに安堵の色が滲む。

 

 

「……間に合ってよかった、ホ(・)シ(・)ノ(・)先(・)輩(・)」

 

「君は……!?」

 

 

 自分を「ホシノ先輩」と呼ぶ黒衣の生徒(シロコ)。彼女からそう呼ばれるのは初めてのはずなのに、その言い方は後輩のシロコと全く同じで、ホシノは軽く混乱する。砂漠での遭遇が初対面で名前も伝えていないというのに何故、まるで旧友に対するような声のかけ方をするのか。

 

 思わず呼び止めようとするホシノだったが、それよりも早く黒衣の生徒(シロコ)は動き出す。盾に激突して尚押し込もうとするプレジデントを跳ね上げ、逸らした所で彼女は盾にマウントされていた短刀を引き抜き、肉塊を纏わりつくように駆け回りながら切り刻んでいく。

 

 

「はああっ!!」

 

「グオオオオオオッ!!」

 

 

 全身を切り刻まれ、プレジデントは血のような体液を周囲に撒き散らす。苦悶の声を上げ、しかしそれでも中々倒れる気配は見えない中、黒衣の生徒(シロコ)は天井へと飛び上がってそこを踏み切る形で肉塊の先端、プレジデントの本来の頭部目掛けてまっすぐ、自らを弾丸と見立てるように飛びかかった。

 

 無論、プレジデント側もただそれを受け入れるのではなく迎撃するべく身を捩るのだが―――

 

 

”Yeahhhh!!!!”

 

 

 突如時速100kmを遥かに越すブーストダッシュで部屋に飛び込む濃紺色の装甲騎兵、メタルウルフ。アメフトのタックルを思わせる姿勢でプレジデントの巨体に激突すると、さすがの巨体も衝撃で姿勢を崩してしまい黒衣の生徒(シロコ)相手に決定的な隙を晒すこととなる。

 

 

「これで、終わり……!」

 

 

 その隙を逃すことなく彼女は目を見開き、己の感覚を研ぎ澄ませて敵の弱点を見抜く。狙うはプレジデントの顔の直上、ここを潰せば巨体を維持することは不可能になるはずだ。彼女はそこを目掛け、ついに短刀を根本まで突き立てた。

 

 

「ギャアアアアアッ!!」

 

”おおっと! 暴れるな、こいつめっ!”

 

 

 断末魔の悲鳴を上げ、まるで痙攣するかのように暴れまわる肉塊。メタルウルフが下で押さえているために部屋全体への被害が免れているが、もし彼が居なければ全員轢き潰されることも十分にありえただろう。黒衣の生徒(シロコ)は頭部から飛び退くと壁に張り付くようにして止まり、その動きが止まるのを見届ける。

 

 1分近く暴れた末、怪物はついに糸が切れた操り人形のように力なくぐったりと横たわり、ドロドロと身体が融解を始める。悪臭が漂う中、最後にプレジデントの機械の身体だけが汚物の水溜りの中に残された。

 

 

「ん……すごい臭い」

 

「は、はやくここから退散しないと鼻が曲がっちゃうわ」

 

「その前に……ホシノ先輩を助けに行かないと」

 

 

 鼻を摘みながら顔をしかめるシロコとセリカ。これほど酷い悪臭など普通女子高生が経験するはずもなく、顔を青くしながら即時の離脱を提言する。直ぐにこの場を去りたいのはノノミとしても同じ気持ちだったが、先程から壁際に座り込んで動かないままのホシノが気がかりだった。

 

 急いでホシノの下へと駆け寄るノノミだったが、一方ホシノは呆然としたまま視線を黒衣の生徒(シロコ)から離せずにいる。床へと降り、先生(マイケル)のメタルウルフとはプレジデントを挟んで向き合うように対峙する彼女。

 

 

(もしかして、もしかしたら―――)

 

 

 ホシノはその正体に関する一つの可能性に至り、静かにそれを口にする。

 

 

「シロコちゃん……なの……?」

 

 

 

To be Continued in Episode6 ”The beginning of the end(終わりの始まり)”

*1:
メタルウルフの武装は全て対アルファ・ワームを考慮されている

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。