METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

8 / 58
水着キキョウは天井交換でした。許さんぞアロナ。
タイトルは某映画のパロディになります。


Chapter Ⅰ-Ⅲ ”Saving Student Serika”(スチューデント・セリカ)

『セリカちゃんとの連絡がつきません』

 

 

 アヤネからのメッセージを受け取ったのは日付が変わろうという頃、随分と夜ふかしだなという感想が先にでてきたものの、かなり深刻そうな気配を感じ、マイケルは即座に宿泊拠点としていたビジネスホテルを飛び出した。

 市街地にあるホテルから高校まで最短距離で急いで10分、駆けつければグラウンドでアヤネとノノミが出迎えてくれた。

 

 

「先生、セリカちゃんがこの時間になっても家に戻っていないんです」

 

「ホシノ先輩とシロコちゃんが周囲を捜索してますけど、こんなことは今までありませんでした」

 

 

 二人が深刻な表情を浮かべたままスマホを眺めている。画面を見る限り、捜索に参加しているホシノとシロコからの連絡を待っているようだった。

 

 

”セリカが行方不明だといつぐらいに気付いた?”

 

「えっと……22時あたりです。いつもなら家にいるはずで、寝る前に明日の予定を相談しようとしたんですが反応がなく……家に向かってみたら帰ってきた痕跡がなくて」

 

 

 アヤネの説明でセリカが行方不明になった時間帯をおおよそ把握したマイケルは、その時間帯の少し前にモモトークに送られてきた一件のメッセージを思い出す。

 たった一つの、それも写真だけのメッセージで返信してもそれ以降の反応がなかったのだが、関連性があるかもしれない。彼は二人のモモトークにその写真を転送した。

 

 

「先生、これは……」

 

”その時間帯の少し前に私のモモトークに送られてきた写真だ。メッセージの送り主は……多分カタカタヘルメット団の一人だろう、拠点を攻撃したときに名刺を置いてきたんだ”

 

「……これは新市街地の郊外にある寂れた住宅地、その外れです。写真を見る限りでは、旧市街地郊外の砂漠地帯へ向かっているようですが」

 

 

 写真を見ながらアヤネは記憶の中のアビドスの地形とすり合わせ、得られた情報と共有すればマイケルの頭の中に新しい選択肢が現れる。

 

 

”なるほど、なら……セリカのスマホの位置を検索してみよう。アロナ、セントラルネットワークにアクセスを頼む”

 

『お任せください!』

 

 

 数日前のミレニアム廃墟のときと同じように、マイケルはシッテムの箱を通じてセリカのスマホの位置を探る。僅かな待ち時間の後に戦術マップに動く光点が現れた。

 その位置は確かにアヤネが言うようにアビドス旧市街地方面、その郊外の砂漠へ向かっているようであり、そのデータを見せるとアヤネは目を丸くしていた。

 インフラの根幹であるセントラルネットワークに遠隔でアクセスするなど、彼女からすれば常識外れも良いところだったのだ。

 

 

「先生はそこまでの権限をお持ちなんですか!? と、とにかくこれでセリカちゃんとこの写真の送り主、推定ヘルメット団との関連性がはっきりしました。あとは……」

 

「あっ、ホシノ先輩からメッセージがきました!」

 

 

 アヤネが情報を整理しようとした時、ノノミのスマホが鳴り彼女は声を上げた。

 それに釣られて二人してノノミのスマホを覗き込んでみると、寂れた住宅地で戦闘の痕跡を発見したというホシノからのメッセージ。情報の確度が上がったと三人で顔を見合わせ、頷く。

 

 

「合流しましょう、シロコちゃんとホシノ先輩は現場に居ます」

 

”乗り物はあるか? 恐らく、追撃戦になる。砂漠を駆け抜けられる足が必要になるはずだ”

 

「それならあります。急いで用意するので、少し待っててください」

 

 

 アヤネがアビドス高校の裏へと駆け出し、その数分後には立派な高機動多用途装輪車両(HMMWV)を運転しながら戻ってきた。

 彼女が言うにアビドスの全盛期の遺産の一つらしい。ノノミが助手席に乗り込み、その後を追うようにマイケルも『メタルウルフ』を走らせる。

 アビドス高校周辺の無人地帯を抜け出し、寂れた住宅地に差し掛かると程なくしてホシノ達がエンジン音を聞きつけたのか駆け寄ってくる。

 やはりセリカの姿はなく、ホシノも気持ち焦った様子を見せていた。

 

 

「ハンヴィーなんか持ち出しちゃって、なにか分かったの?」

 

”これを見てくれ。セリカが行方不明になったと思しき時間帯に私のモモトークにきた写真だ”

 

 

 ホシノとシロコにも同様にモモトークを通じて写真を転送する。

 その写真を見た瞬間、ホシノとシロコは目を見開き、同時にマイケルの、『メタルウルフ』の顔を見上げた。

 

 

「この写真……この近くで撮られたものだね」

 

”そうだ。ヘルメット団の一人が送ってきたと思うが、それともう一つ。セリカのスマホの位置も分かった”

 

「すごいね、それも大人の力ってやつなんだ。それで先生、今から追うの?」

 

 

 問うシロコの目は据わっており、今すぐにでも飛び出していきそうなのを彼は静かに制止する。

 セリカのスマホの移動速度はかなり遅く、多少の猶予はあったからこそ、彼の頭の中の冷静さは情報の収集を優先した。

 

 

”ああ、だがその前にそちらが発見したものも見せて欲しい”

 

「うん、こっちにあるよ」

 

 

 シロコは求められるままに全員を彼女たちが見つけた戦闘の痕跡へと案内していく。

 たどり着いた場所は寂れた住宅地の中でも一段と無人化の進んだ区画。空き家や廃屋が立ち並ぶ場所で、人気どころか野良犬の気配すらない場所であった。

 塀は崩れ、路面は砂にまみれ、砂に沈みゆく街を体感できる場所。そこにそれは確かにあった。

 

 

”ガラス化している……放射線反応はなし、エネルギー兵器を使った痕跡だ”

 

 

 アスファルトをめくり上がらせ、大地を穿ったクレーターの中心。マイケルはその大地を『メタルウルフ』の拳で小突き、その結果ひび割れた地面を見て呟いた。

 それはこの場所が超高熱に晒された証拠であり、普通の兵器ではこのようなことは不可能である。

 それこそ、熱核反応兵器を用いるか、高エネルギー兵器の照射でなければこのような痕跡は残らない。

 

 

「エネルギー兵器って、レーザーみたいな?」

 

”そうだ、あっちには巨大なものが履帯で動いた跡がある。エネルギー砲を搭載した巨大戦車でも持ち込んだのだろう”

 

 

 クレーターから少し離れた場所にあるアスファルト路面にくっきりと残る2条並んだ直線状の傷跡は、明らかにキヴォトスで広く出回っている装軌式戦闘車両よりも巨大なものが走り去ったものであった。

 その行先は郊外の砂漠地帯、あらゆる状況証拠がヘルメット団が巨大戦車を運用し、セリカを誘拐したという事実を示していた。

 対策委員会の4人は互いに顔を見合わせて頷くと、マイケルの周りに集まりその顔を見上げる。

 

 

「先生、すぐに追いましょう。予想通りの追撃戦です」

 

「可愛い後輩をいたぶってくれた礼はしないとね」

 

「うん、二度とこんなことを起こせないようにする」

 

「その、先輩方……セリカちゃんの救出が最優先ですので……」

 

 

 ノノミ、ホシノ、シロコ、アヤネ、全員の戦意の高まりを感じながら彼は背部コンテナを開放し、縦二連装の大口径ロケットランチャーTWBZ(Twin Bazooka)を左手に、多機能アサルトライフルM18E8(SCHOLES)を右手に構え、宣言する。

 

 

”さあ、セリカを助けるぞ”

 

 

******************************************************************

 

 

 あと1時間ほどで日が昇ろうという時間帯、アビドス郊外の砂漠をヘルメット団の車列は悠々と砂煙を上げながら進んでいた。

 輸送トラックや護衛の装甲車、そして秘密兵器の超大型戦車の乗員たちは作戦の成功にすっかり気を緩めており、ドライバーは鼻歌交じりで運転し、他の団員は仮眠を取るなりスマホをいじるなりしていて、外を見ている人間がほとんど居なかったのが彼女たちの運命を決めることとなった。

 車列が旧アビドス市街地の痕跡である砂漠に突き出た廃ビルの一群の中に入り込む。

 すると突然、先頭を走るトラックの眼の前が爆発し、進路上の砂が抉れたことで大地に鼻先を突っ込んだトラックが勢いのままジャックナイフを決め、キャビンから乗員を吐き出しながら更にそびえ立つ荷台を進行方向へと倒していった。

 完全にひっくり返ったトラックの荷台の中では待機していたヘルメット団が理由もわからずシェイクされ、全員がその意識を失った。

 

 

「なんだ!?」

 

「敵襲だと!?」

 

 

 急ブレーキをかけるトラックやジープであるが、それを見越したようにその車体の下に次々と榴弾が叩き込まれて大爆発を起こし、下からの爆風をモロにうけた車体は回転しながら吹き飛ばされ、中のヘルメット団を周囲に撒き散らしながら残骸をさらしていき、無事な車両から慌ててヘルメット団が飛び降りて銃を構えた。

 燃え盛る焔の音、二次爆発によって生じる轟音、それに混ざって甲高いタービンの音が聞こえることに一部の団員が気づき、注意を促すために大声で叫ぶ。

 しかし彼女たちは気づいていない。日が出る前、地平線に僅かに明るさが指していくこの時間帯に自身の周囲に燃え盛る残骸がトーチとなり、己の姿を浮かび上がらせていることを。

 そして丁度ビルの影になる位置から丘陵を猛スピードで駆け下りてくるハンヴィーの姿を。

 

 

「ん、うまくいった。ノノミ、掃射お願い」

 

「はーいシロコちゃん、この距離なら逃げられませんよ~」

 

 

 アビドスのハンヴィーの上部ハッチから身を乗り出したノノミが手にした『リトルマシンガンV』を構え、引き金を引く。

 銃座に据えることなく手持ちでの射撃であったが、むしろ車体に固定されていない分オフロードを走るハンヴィーの揺れをうまく吸収し、炎によって浮かび上がったヘルメット団への正確な掃射を浴びせかけていった。

 完全に意識外からの攻撃を受けたヘルメット団は即座に昏倒し、近辺の全員が倒されたのを確認したアヤネはハンヴィーを車列の真ん中で停止しているトラックに寄せる。

 同時に飛び降りたホシノが盾を構え、それに援護されるようにシロコがトラックの貨物スペースの戸を開け、中を覗き込んだ。

 中は真っ暗で何も見えなかったが、ライトで照らすと後ろ手に縛られ、負傷したセリカの姿が浮かび上がる。

 

 

「居た! セリカ、大丈夫?」

 

「う、うぅ……」

 

 

 問いかけにうめき声しか返せぬセリカの様子は少なくとも軽傷ではないと判断し、即座に抱きかかえてトラックの荷台から出ると目の前に『メタルウルフ』が降りてきた。

 右手にはM18E8ライフルのかわりに回転弾倉式のグレネードランチャーGL-95が握られており、左手のTWBZも用いて空中からヘルメット団の車列を散々爆撃したのは彼であることは明白だ。

 本来はこの手の大火力火器を生徒に向けることに躊躇いがあるのがマイケルであったが、今回はセリカの危機ということもありその配慮は一切ない。

 巻き上がる砂に思わず腕で顔を隠し、落ち着いたところでシロコは周囲を見渡す。

 目に見える範囲で無事なヘルメット団はおらず、燃え盛る車列とそれに照らされた廃ビル、そして武器を構えながら増援を警戒している『メタルウルフ』とホシノの姿。

 安全と判断し、彼女はハンヴィーの後部座席にセリカを横たえさせ、運転席のアヤネに声をかけた。

 

 

「アヤネ、応急処置お願い」

 

「は、はい。セリカちゃん、もう大丈夫だから……」

 

 

 アヤネが応急処置を始めたのを見届けたシロコはマイケルとホシノの後ろに立ち、ドローンを上空に飛ばして周囲を見渡し始めた。

 最近サーマルカメラを取り付けたことがここで役に立つとはと考えながら、ドローンのコントローラーを操作し、近場を探る。

 モニターに映されているのは白々と燃え盛る車両群、それに倒れて動かぬヘルメット団。カメラを少し遠くに向けた時、シロコはその顔を歪めて声を上げた。

 二両の軽戦車と謎の超大型戦車が丁度丘陵を登り終えようとしていたのだ。

 

 

「先生、例の奴がくる」

 

”ああ、アヤネは下がらせよう、セリカのこともあるからな。ホシノ、シロコ、ノノミ、対戦車戦闘はできるか? 私は……残弾が2発しかない、残念ながらな”

 

「M993徹甲弾を用意してきました。軽戦車なら多分側面が抜けます」

 

「おじさんは肉弾戦かな。大丈夫、実績ならあるから心配しないでよ先生」

 

「私のドローンには小型ミサイルがある。軽戦車ぐらいならやれるけど、あのでかいのは……よっぽどわかりやすい弱点がないと厳しいかも」

 

 

 3人の戦力を計算し、どう動かすか。マイケルは非常に短い時間で頭の中にそれを組み立てていく。

 いくらキヴォトス人であっても対戦車火器がなければ有効な対戦車戦闘はできない。*1なら、できないなりにやれることを積み上げていくしかないのだ。

 もちろん、『メタルウルフ』は単体で戦車3両程度撃滅するのは本来は容易いのだが、今回のアビドス出張では保有弾薬数を絞っていたためにTWBZはあと1回射撃すると残弾がなくなってしまうので決定力に欠けていた。

 今更後悔しても遅いのだが、次からはフルで弾薬を持っていこうと心に決めながら、一旦TWBZをコンテナに収納してかわりに拳銃を持つ。

 装填されているのはペイント弾であり貫通力は一切ないが、照準器などを妨害するのには有効かもしれない。

 

 

”よし、私が基本的に囮になる。皆はこのビル群を隠れ蓑に引き込んだ敵を撃ってくれればいい。おっと心配は無用、こいつは戦車砲の直撃を受けても大丈夫なようにできているからな”

 

「分かった。先生も無茶はしないで」

 

”……来るぞ!”

 

 

 直後、丘陵の頂点に3つの影。軽戦車と巨大戦車の姿が闇に浮かび上がる。

 非常に巨大な砲塔、その上に中心線から僅かに外れた位置にマウントされている主砲、補助武装として砲塔両脇に据え付けられたミサイルランチャー、ディティールや細かい形状は違えど、その構成要素はマイケルにとって懐かしいものがあった。

 M4S7『DORSEY(ドーシー)』、彼が過去に戦ったクーデター軍の巨大戦車。すべてをスクラップにしたはずのそれが今目の前に出現したことに彼は疑問を抱くが、それを追求するのは今ではない。

 『DORSEY(ドーシー)』モドキの巨大戦車は砲塔に据え付けられた車長用サイトで対策委員会と『メタルウルフ』を見つけるや否や、スピーカーを起動して大声でがなり立てた。

 中でよほどの大声を出しているのか、ハウリングを起こしてシロコが不愉快そうに顔を歪めて耳をふさぎ、ホシノとノノミも耳をふさぎこそしなかったが、明らかに不機嫌な表情を浮かべていた。

 

 

『アビドス! 良くも私らのビジネスを邪魔してくれたな! だがクライアントから提供された『ドロシー』の威力を見るがいい! かかれ!』

 

「あいつら、自分でクライアントがいるってバラしてるね」

 

「まったくも~、玩具を手に入れてはしゃぎ過ぎだよねぇ、痛い目に遭わせて二度とアビドスを襲えないようにしなきゃ」

 

 

 動き出す軽戦車二両。シロコとホシノが軽口を叩きながら砂を蹴って動き出すと、マイケルも呼応して派手に青白い噴射炎を引きながらGL-95をコンテナに収納し、M18E8を引き出して軽戦車に向けて引き金を引いた。

 XM29 OICWを原型とし、多機能故に歩兵が持つには重量過大であった問題は特殊機動重装甲の装備とすることで解決され、対人から対軽装甲車両まで幅広くこなせる万能武器となったそれは12.7mm(50口径)弾を発射するライフルと40mmのセミオートマチックのグレネードランチャーが一体となっており、12.7mm(50口径)と40mmの擲弾の両方が放たれてヘルメット団の軽戦車に吸い込まれていく。

 しかし軽戦車も正面装甲を強化しているタイプであったために本来は50mmの貫通力を誇る多目的榴弾(HEDP)をもってしても貫通できず、12.7mm(50口径)の弾丸は単純に装甲に阻まれて周囲に飛び散り、弾痕はあれど戦闘能力は一切失われていないこともあり敵車両は突撃を続行した。

 まるで詐欺みたいな重装甲であり、解析したアロナは驚きの声を上げる。

 

 

『先生、あの戦車は正面装甲が重戦車並に分厚いです!』

 

”あのサイズでなんと面の皮の(正面装甲)厚いことだ!”

 

『撃て撃てェ!』

 

 

 思わず悪態をつくマイケルに向けて走行間射撃を連続する軽戦車二両はスタビライザーを装備しているのか、極めて優秀な精度での射撃を続けながら距離を詰めてくる。

 注意が逸れたらまずいなと彼は内心焦りを見せた。『メタルウルフ』単体であれば全く問題はなかったのだが、対策委員会の面子は生身であり、戦車砲の直撃を受けたときの被害が予想できないのだ。*2

 だからこそ、彼は自分にヘイトが向かうように派手にブーストダッシュで砂煙を上げながら、M18E8に装填された曳光弾での射撃を続けつつも多目的榴弾(HEDP)で装甲貫通を狙っていた。

 何であれ、己に向けて射撃を繰り返す敵は決して無視する事ができぬものだ。

 特に、気を抜けば撃破されてしまいそうな威力の武器を持つものは。

 ヘルメット団はその挑発に見事に乗って攻撃を集中してくる。それはまさに彼の狙い通りの反応であった。

 そして、陸戦の主役を戦車や戦闘ヘリという兵器から人間一人の手に取り戻した特殊機動重装甲というジャンルの兵器はキヴォトスに存在しなかったため、彼女たちはその対応方法を知らなかったという点が致命的になる。

 大地を滑り、跳ね回り、飛翔する『メタルウルフ』の姿を彼女たちはしっかり捕捉できず、距離を詰めるという判断が間違いであったことに気づくことなく、目標である『メタルウルフ』はビル群の中へと引いた。

 

 

『あのロボット一体に何を手こずってるんだ! ミサイル撃て! 主砲、発射用意!』

 

『先生、あのデカブツから高エネルギー反応です!』

 

 

 業を煮やした『ドロシー』は丘陵の上に居座りながらも補助武装であるミサイルを放ち、主砲のエネルギーチャージを始め、アロナが警告を発した。

 蓄えられた電力はシステムを通じて強力な破壊のエネルギーへと変換され、その証である禍々しいオレンジ色の光が主砲口から漏れ出すと、照準をビル群へと完全にロックする。

 先に放たれたミサイルがビルや砂漠へと次々に突き刺さり、次々に爆発を起こすがそのどれもが外れ弾であり有効打にはなっていない。

 

 

『ビルごと輪切りにしろ! 主砲発射!』

 

 

 頭に血が上った車長の指示通り、『ドロシー』の主砲に蓄えられた破壊の力は正しく解き放たれ、その直線状にあるものすべてを焼き切った。

 その状態で砲塔を回し、照射点をずらすことでビルの一棟を切断した結果、支えを失った上部はずるりとずれ動くと重力に従い様々な破片を撒き散らしながら砂漠へと落ちていった。

 巻き上がる砂塵粉塵、瓦礫がビル群の間を通る回廊を塞ぐ。

 

 

”おおっ!?”

 

 

 抜けようとした道を瓦礫に塞がれ、思わず声を上げるマイケル。

 ブーストジャンプで切り抜けようとしたもののビルの質量を受け止められるだけのパワーは流石の『メタルウルフ』にもなく、回避のために後退した結果追いついた軽戦車2両によって塞がれた道に追い詰められる形となった。

 瓦礫を避ける時に咄嗟にM18E8ライフルを放り投げていたため、今の彼の持つ武器は左手の拳銃一丁のみ。

 もちろん、背中のコンテナにはGL-95とTWBZが格納されているが、このような場面では即応性に欠けている。

 

 

『ハッハッハ、とうとう追い詰めたぞ』

 

『泣いて土下座するなら許してやらなくもないぞ、オーケー?』

 

 

 地の利を得たぞと言わんばかりに軽戦車の乗員は高圧的に振る舞うが、その内心は腸が煮えくり返っていた。

 仲間は自分たち以外全滅、輸送中のアビドス生徒を取り返されて依頼の続行は不可能であり、このままでは基地に帰ることもできない。

 こうなってしまっては溜飲を下げるために眼の前の敵をいたぶるという選択肢しか彼女たちにはなく、その眼の前の敵とは”シャーレの先生”であったのだが、そんな事はどうでも良かったのだ。

 ゆっくり、見せつけるように照準を合わせる。恐怖を与え、屈辱に塗れた敗北を与えるために彼女たちは振る舞うが、それはあまりにも大きな隙でもあった。

 

 

オーケー(断る)!”

 

 

 拳銃を二発、放たれたペイント弾は針に糸を通すような正確さで軽戦車の照準器を青い染料で塗りつぶした。

 続けてさらに二発、今度は操縦者用の覗き窓を塗りつぶし、外を観測する手段をすべて奪っていく。

 

 

『あっ!? く、くそ、ぶちのめす!』

 

『慌てるな! 奴の武器はペイント銃だけで―――』

 

 

 装甲を抜く火力はない、そう言葉を続けようとしたヘルメット団であったが、それは叶わなかった。

 最後の連射、これでマガジンからチャンバーに至るまで弾を撃ち尽くした結果、『メタルウルフ』が持つ拳銃はスライドが後退状態で停止(ホールドオープン)した。

 

 

「先生はやらせない」

 

 

 それと同時に軽戦車の後ろを追跡していたドローン、そのカメラが映し出す画面を確認しながらシロコはコントローラーのトリガーを引く。

 8発搭載されているミサイルの内2発が白煙を引きながらそれぞれの軽戦車の車体後部を目掛けて飛翔し、片方はそのまま後部に突き刺さり、もう片方は僅かに進路がずれて履帯に引っかかるが信管は正しく動作し、弾頭が炸裂。

 直撃を受けた軽戦車は突き刺さったミサイルが発生させたメタルジェットが車体を貫通し、搭載弾薬を直撃した結果、そこを起点として狭い車内の全てを炎が覆い尽くした。

 吹き荒れる爆炎は予備弾薬を次々に誘爆させ、増幅された破壊のエネルギーは暴れたりないと言わんばかりに構造の弱い部分を押し上げ、次の瞬間にはその部分、すなわち車体に載っているだけの砲塔を天高く、乗員のヘルメット団ごと打ち上げた。

 見事なまでに真上に吹き飛んだそれらは、数秒の飛行の後に勢いを失い、重力に引かれてアビドスの砂漠へと突き刺さる。

 上半身が丸ごと砂漠に突き刺さったヘルメット団の姿は滑稽ではあったが、これほどの威力に晒されて原型をとどめ、なおかつまだ生きているということはキヴォトス人が如何に死なないかということをマイケルに知らしめるものであった。

 

 

『くそ! 履帯がやられたのか!?』

 

 

 一方で履帯に命中した軽戦車はまだ幸運であった。元々小型であり破壊力自体は高くないシロコのミサイルは履帯を破断させるにとどまり、相方の軽戦車のようにびっくり箱にならずに済んだからだ。

 だが彼女らは知らない。その目と鼻の先に死神が待ち構えていることを。

 

 

「ん、ヘルメット団危機一髪シリーズ」

 

「シロコちゃん、ナイスです~」

 

 

 軽戦車が停止したすぐ近くの廃ビル、そのフロア内にノノミが潜んでいたのだ。

 これも全てはマイケルの作戦である。遮蔽の多い場所に敵を引き込み、敵の意識外から弱点をつくというのはゲリラ戦術の常套手段であった。

 ビルの倒壊というハプニングはあったものの、彼女は粉塵も砂塵も吸い込むことなく、眼の前に敵戦車が横腹を見せているという状況はお膳立てがあったにしろ完璧すぎた。

 

 

「セリカちゃんを痛めつけた悪い子は、お仕置きが必要ですよね~~」

 

 

 ノノミが『リトルマシンガンV』を構え、高貫通弾であるM993を動かぬ軽戦車の側面装甲に暴風雨の如く叩きこまんとトリガーを引き、猛烈な射撃音と共に弾丸が吐き出された。

 ヘルメット団の軽戦車は正面装甲こそ重戦車レベルの装甲が施してあったものの、側面は重量バランスのために装輪装甲車レベルの装甲しかなく、僅かに弾いた物もあったものの100mで18mmの均質圧延鋼装甲を貫くM993は止められるものではない。

 破られ、引き裂かれた装甲の破片と銃弾をモロに浴びることとなった乗員は一瞬で悲鳴を上げる隙もなく昏倒し、スクラップとなった戦車を枕に夢の世界へ一直線だ。

 

 

「見事な穴開きチーズになっちゃいました~♣」

 

「ノノミちゃんもやるねぇ~」

 

『な、なんだとぉ!?』

 

 

 僚車が瞬く間に撃破されたことで『ドロシー』の車長が驚愕の声を上げた。

 まさか勝利を確信した瞬間に盤面をひっくり返されるとは思っておらず、動揺を隠せないまま単独での対処を余儀なくされる。

 何とか再び主砲で薙ぎ払おうとした時、倒壊したビルの後ろから濃紺色の影が青白い炎を引きながら飛び出してきたのを車長は見逃さなかった。

 直ちに補助武装のミサイルポッドを起動させるが、それよりも『メタルウルフ』が長大な対戦車火器であるTWBZを構えるほうが早い。

 

 

”こいつはプレゼントだ!”

 

『クソ! 回避しろ!』

 

 

 縦二連装という設計者の頭がおかしいロケットランチャーから立て続けに放たれる大型の対戦車榴弾はまず一発が『ドロシー』の右履帯を誘導輪ごと吹き飛ばし、続けてその足元の大地にめり込んだ榴弾が『ドロシー』が踏みしめている砂地を爆発で大きくえぐり取った。

 丘陵の上という有利な状況が物理的に失われ、バランスを失った『ドロシー』は自重で崩れ落ちる砂とともに丘陵を滑り落ちていく。

 流石に転覆するということはなかったが、大きく傾いた車内では乗員が転倒すまいと必死に椅子や内装にしがみついていたため、盾を構えながら走って接近してくるホシノの姿に誰一人として気が付かなかった。

 

 

「ありがと~先生。それじゃ、決めちゃいますか」

 

 

 大型のバリスティックシールドを構えたままだというにも関わらず、風のような速度でホシノは砂に半ば埋もれた形となった『ドロシー』の手前まで駆け寄り、砂を蹴ってその車体へと飛び乗った。

 そのまま邪魔もなく車体から砲塔の上へと飛び乗ると、『Eye of Horus』をまずはミサイルポッドとの接合部へと向け、引き金を引く。

 装填されていたのは対人用のバックショットではなく対装甲用の徹甲スラグ弾、放たれた弾丸は接合部の弱いポイントを的確に撃ち抜き、機械的な接続を永遠に失わせた。

 

 

「さてと、ハッチはこれだよね……っと」

 

 

 さらに搭乗ハッチの接合部へと残る全弾を叩き込み、足りないと見るやその場で素早く再装填を行い、何度も何度も銃弾を叩き込む。

 壊れるまで叩き込めば壊せるという脳筋とも言える行動は、彼女の怒りの大きさを物語っていた。

 そして実際にハッチの接合部が破壊され、ただの蓋でしかなくなったハッチを砂漠へと蹴飛ばしたホシノはその頭を車内に突っ込み、感情の無い瞳で車内のヘルメット団を一瞥する。

 その視線にヘルメット団は恐怖に震えたが、ホシノはそのまま表情を変えずに右手の武器をシールド裏にマウントしていた拳銃*3に持ち替え、目標の顔面にそれぞれ二発叩き込み、その意識を刈り取った。

 

 

「これでよし。セリカちゃんの仇は無事に取ったよ~」

 

「先輩、セリカは死んでないから……」

 

 

 車内から顔を出したホシノはいつものようにとぼけた表情を浮かべると、いつの間にか近くに居たシロコが呆れた様子でツッコミを入れ、ドローンを手の上に降ろして鞄にしまい込む。

 廃ビルから出てきたノノミ、そして退避していたアヤネのハンヴィーも『ドロシー』の近くへと自然と集まっていき、揃った対策委員会の全員がセリカの容態が気になった様子でハンヴィーの後部座席を覗き込んでいた。

 窓越しに見る寝かされているセリカは火傷などしているものの、致命的な負傷はしておらず顔色も悪くはなかったことに彼女たちは安堵した。

 

 

「とりあえず、セリカちゃんの応急処置は完了しました。見たところ大きな怪我はなく、休ませれば目を覚ますとは思いますが……」

 

「医者に見てもらったほうがいい。この時間だと、アビドス市民病院の夜間救急ぐらいしか受け入れてくれないけど」

 

「シロコちゃんの意見に賛成です。急いで病院に向かいましょう」

 

 

 シロコとノノミの提案にアヤネも頷き、ではこのヘルメット団の車列の残骸と気絶したヘルメット団*4を置いて場を去ろうとした時、ホシノが何かに気づいた様子で残骸がいまだ燻るビル群から少し離れたところにある廃ビルへと走っていった。

 慌てて他のメンバーがそれを追って廃ビルの陰にたどり着いた時、そこで彼女たちが見たのはボロいジープの横で互いにしがみつき震える丸腰のヘルメット団5人に銃口を向けるホシノの姿だった。

 

 

「やっぱり隠れてたね。油断も隙もないんだから」

 

「ち、違……わ、私達は……」

 

「大丈夫だよぉ~、命を取るまではしないから。痛い目にあって二度とアビドスに手を出す気が起きないようにするだけで」

 

「や、やだ……助けて……!」

 

 

 感情が消えた瞳でヘルメット団を見下ろすホシノの姿にシロコは戦慄した。明らかにホシノはキレているといっていい。

 隣のノノミにどうしようとアイコンタクトをとったが、ノノミもここまでキレたホシノは見たこと無いようで戸惑っているようだ。

 ホシノのトリガーにかかった指に力が籠もる。

 だが、発砲の瞬間赤い手が『Eye of Horus』の銃身を掴み上げ、銃口を逸らすことで明後日の方向に弾が飛び、撃った側も狙われた側も唖然としながらその手の主、『メタルウルフ』を見上げた。

 

 

”やめろホシノ。彼女たちは情報提供者だ”

 

「しゃ、シャーレの先生……」

 

”君たちが最初に知らせてくれたおかげで対応を早くすることができた。感謝するよ”

 

 

 膝を折り、目線をできる限り近づけてからのマイケルの礼の言葉に、ヘルメット団たちはひどく感銘を受けた。

 礼を言われるなんてルピナス学院在籍時以来だったのだ。

 ヘルメット団での生活で擦れた心にマイケルの言葉がすぅっと染み渡っていくのを感じ、彼女たちは一斉にヘルメットを脱ぐとそれを砂漠へと投げ捨てた。

 目尻に溜まった涙を拭い、緩んだ口元を引き締めて彼女たちはマイケルを見る。

 

 

「先生、私達はもうヘルメット団を抜ける。アビドスも、今までごめん。言い訳になるけど、私達も生きるために必死だったんだ」

 

「そうだ、元々アタシらはルピナス学院ってところにいたんだ。それが去年廃校になって、アタシらは他の学校に転入できなくて……拾ってくれたのがカタカタヘルメット団だった」

 

「そりゃあ、新入りはいびられてこき使われるけども、それでもその日の食事と寝床にだけはありつける」

 

「だから必死に頑張ってきたけど、学校を潰すために働くのがもう嫌になった。まあ、きっかけはあんたらと先生にぎったぎたに叩きのめされたからなんだけどね」

 

「それで、先生は名刺にメッセージを残してくれてたからさ、藁にも縋る思いでモモトークを送ってみたんだ。結果的に手遅れにならないで良かったよ」

 

 

 素顔を晒し、様々な思いを吐き出した彼女たちは皆スッキリとした様子であった。

 その一方で身の上話を聞いた対策委員会のメンバーは浮かない様子で、やはり母校を失ったという話はアビドスの生徒達には重いのだろう。

 ホシノでさえ母校が廃校になったという話を聞いた途端にカミソリのような目つきが萎れたのだから、相当なものだ。

 

 

「うへぇ、なんというか……大変だったんだねぇ」

 

「あまり人ごとに思えない。私も何かが違ってたらああなってたかもしれないし」

 

「でも、ヘルメット団を抜けて大丈夫なんですか? ああいう組織って脱走者には厳しいイメージがありますが」

 

”そこは私に任せて欲しい!”

 

 

 アヤネの疑問に、マイケルが己の胸を叩きながら高らかに宣言する。

 元ヘルメット団の5人がそれを聞いて期待に胸を膨らませながら目を輝かせた。

 

 

”彼女たちをS.C.H.A.L.E預かりにして面倒を見よう。連邦生徒会の外郭団体であるS.C.H.A.L.Eが身分を保証すれば、真っ当な仕事につけるようになる。

 各校の教育用のノートやBDもあるから学習の機会も与えることができる。なんだったら奨学金だって用意してあげよう”

 

 

 彼の言葉に、その場に居た全員が度肝を抜かれた。

 あまりにも手厚い援助内容は、キヴォトスでは無いわけではないが、割と珍しいものだ。

 そしてその運用資金に必要なお金を考えると結構な額が必要になるというのは子供でも分かる話ではあるが、それを連邦生徒会が出しているとは思えない。

 

 

「あ、あの先生、それって誰がお金を出してるんですか?」

 

”うん? ああ、ユウカに運用を手伝ってもらっているが……いまは私費だ。運用に柔軟性を持たせたいからね、将来的にはもっと社会的なものにしていきたいと思っているが”

 

「うへぁ!?」

 

 

 アヤネの疑問、その答えを聞いたホシノが思わず素っ頓狂な声を上げた。

 確かに柴関でマイケルのことをお金持ちだと揶揄った彼女であったが、ここまで金持ちとは思っていなかったのだ。

 

 

”S.C.H.A.L.Eのビルを使うから言うほど金は掛かってないが……その話は後でもいいだろう、セリカを病院に早く病院に連れて行こう。それと……”

 

「黄花、黄花(きばな)トウカだよ。このメンバーの中ではリーダー的なことをさせてもらってる」

 

”うん、トウカ達も一緒に来てくれ。手続きは向こうでもやれるから”

 

 

 話を切り上げ、対策委員会の全員とトウカ、その仲間たちは各々の車に乗り込むとアビドスの新市街への方へと走り去っていった。

 

 

******************************************************************

 

 

 アビドス市民病院の救急センターにセリカを預けて精密検査を行っている最中、病院の待合室の一角でマイケルたちは車座になってこれからのことを話し合っていた。

 主な内容としてはトウカ達元ルピナス学院の生徒の去就と、カタカタヘルメット団残党グループへの対処といったところだ。

 ルピナス組の去就に関して言えばマイケルが用意した書類を読み聞かせ、サインすればひとまずは完了と言えたが、ヘルメット団への対応については難儀していた。

 トウカの証言でカタカタヘルメット団の本部はアビドスに無いということが判明したのだ。それでは根絶は不可能である。

 ついでに言えば、カタカタヘルメット団の本部もどうやらクライアントの正体を知らないらしい。

 

 

「まあ、あれだけの援助があって大敗したんだから、クライアントも見切りをつけるかもしれないけどね」

 

「う~ん、でもトウカちゃんがいうクライアントがいる限りはヘルメット団は切り捨てても別の手段に出るでしょ。クライアントの正体を暴かないことには……ねぇ?」

 

「ヘルメット団の上の方もわからないなら手のうちようがない。手がかりは、あの巨大戦車ぐらい」

 

「大きすぎて回収はできませんよね。それに、あんな最新兵器っぽいのを解析するのは私達には……」

 

「軽戦車も調べてみる価値はあると思うよ。多分あれ一般の市場に出てない品だろうから」

 

 

 対策委員会と元ルピナス組、双方が持てる限りの情報を出し合ったがそのいずれもが真相に至るものではない。

 ひとまずは唯一の手がかりであるヘルメット団の戦車を調査するということで決着したが、回収から分解、調査の全てをやろうとすると、とてもではないがアビドス高校の能力では対応しきれそうには無かった。

 特にエネルギー砲という先進技術をふんだんに用いた『ドロシー』を解析するのは、同じく先進科学に秀でた集団でなければ不可能だろう。

 彼女たちにそういう集団に対する伝手はなかった。が、マイケルは違う。

 連邦捜査部シャーレの顧問である彼は、まだ全てではないがいくらかの学園との伝手が既にあるのだ。

 

 

”それならミレニアムサイエンススクールに依頼を出してみればいい。私の名前で出せば通るはずだ”

 

「それしかないなら、仕方ないかなぁ」

 

「流石にこれは私達には無理」

 

「先生は顔が広いですね~」

 

「ふ、普通三大校の一つに依頼を出すなんて、そんな軽い調子ではできないんですが……先生にお願いするしかありませんね」

 

 

 ミレニアムを噛ませるという選択。自分たち自治区での案件でそれを選ぶというのは対策委員会としてはかなり苦渋の決断ではあるが、黒幕を知るためには仕方のないことだ。

 ホシノやシロコ、ノノミ、アヤネは顔を見合わせ、互いに頷くと揃ってマイケルに頭を下げた。

 

 

”よし、連絡はしておく。あとは―――”

 

「アビドス高校の皆さん、お友達が目を覚ましましたよ!」

 

 

 どたどたと足音を立てながら雀獣人の看護師がやってきて声を上げると、対策委員会メンバーの表情がぱっと明るくなり、4人同時に立ち上がった。

 そのまま看護師の案内でセリカのいる病室へ向かうメンバーを追おうとマイケルも立ち上がるが、それを見上げるトウカたちの視線に気づき中腰状態で動きが止まる。

 僅かに思案し、完全に立ち上がった彼は彼女たちに手を差し伸べた。

 

 

”セリカにも、謝っておこうか。私がついてるからさ”

 

「は、はい……先生」

 

 

 トウカが彼の手を取り立ち上がる。それにつられて残りの4人も立ち上がり、揃ってセリカの病室へと向かっていった。

 

 

******************************************************************

 

 

 目覚めたセリカは困惑していた。

 ヘルメット団に襲われたと思ったら市民病院のベッドで目覚め、対策委員会の仲間たちが抱きついてきたのだから当然ではあった。

 そして視線を部屋の入口のあたりに移せば、そちらにはマイケルと5人の見慣れぬ生徒の姿。しかしその服装はヘルメット団のものであることに気づき、思わず目が釣り上がる。

 

 

「あんた達……!「ご、ごめんなさい」……へぁ!?」

 

 

 しかし怒鳴り散らそうとした矢先に一斉に頭を下げられ、思わず素っ頓狂な声が飛び出してしまった。

 気恥ずかしさに顔を真っ赤にするが、ヘルメットをしてないヘルメット団もといトウカたち元ルピナス組の事がとても気になるため、喚き散らしたい気持ちを抑えてセリカは呼吸を整える。

 落ち着きを取り戻した彼女は額に包帯、頬に絆創膏をつけたままホシノたちの顔を見た。

 変わらずニコニコしている対策委員会の皆は、多少の誇張や脚色を交えながらセリカに追跡からの砂漠での激闘を語り始める。

 

 

「先生がセリカちゃんの居場所を特定したおかげで早期発見に至りました~」

 

「えぇっ!? どうやったらあの状態で見つけられるの? もしかしてストーカーしてた……?」

 

「先生は色々権限を持ってる。セリカの携帯の位置情報を検索した……んだけど、実は一番最初に先生に通報したのがそこの元ヘルメット団の彼女たち」

 

「ど、どういうことよ」

 

「アビドス高校を廃校にするって命令に嫌気が差したらしいです。お陰で先生が誘拐の可能性に思い至って……」

 

「急いで追いかけたらヘルメット団の車列がいてね、ぜーんぶ叩きのめしたんだよ。馬鹿みたいに大きな戦車も居たけど、おじさんがスクラップにしてやったよ~」

 

「私とノノミも頑張った。カタカタヘルメット団の実働部隊はこれで全滅したらしいから、安心していいよ」

 

 

 自分が倒れている間に一体何が起きたのか、あまりの情報量に頭がパンクしそうになったが、一先ず整理すると元ヘルメット団が誘拐をマイケルに知らせ、それをもとに彼はセリカの携帯位置情報を把握、直ちに追撃して撃破し救出したということらしい。

 それでも十分情報量が多い……のだが、その情報から元ヘルメット団の5人が動いたからアビドスの皆が助けが来たのだ、とセリカは解釈する。

 さらに先生もまた権限をフルに使って自分を助けに奔走した、と知れば認めざるを得なかった。

 チラリ、とオドオドした様子のトウカ達に視線を移す。彼女たちはセリカに罵られることをある程度は覚悟しているようであったが、それでも怯えが抜けきれていないようであった。

 

 

「はぁ……なによ、ここで私が喚き散らしたらただの恩知らずじゃない」

 

「え、えっと、その……」

 

「他の皆も許してるみたいだし、私も許してあげる。でも! 二度と悪さをしないこと、それだけが条件よ」

 

「そ、それだけでいいのか……?」

 

 

 あまりにもあっさりと許されたことが信じられないのか、目をパチクリさせたままのトウカ達にセリカはぎこちないながらも笑みを向けた。

 

 

「あんまりムキになるのは良くないって今回の件でよく分かったから」

 

”偉いなセリカ、許せる人間はとても偉大だ”

 

 

 何かとムカつく大人の声にセリカは思わず顔をしかめたが、数秒前の自分の発言の手前ここで喚き散らすわけにはいかない。

 それに、彼もまた自分の救出のために尽力してくれたというのだから、ただの反発心やプライドで拒絶していいものではないということを彼女はよく理解していた。

 

 

「……先生も、色々手を尽くしてくれてありがとう。でも、あの程度でアビドスのために何かできたとか思わないでよね! この借りは、絶対―――」

 

”無償援助だ。返すことを考えなくていい”

 

「それじゃ私の気がすまないの! とにかく、借りは絶対に返すんだから忘れないでよね」

 

”……楽しみにしておこう”

 

 

 部屋にいる全員が笑う。そこには立場の違いや隔たりは一切なく、全員がセリカの無事を祝う空気だけが存在していた。

 

 

Next Chapter Ⅰ-Ⅳ ”Problem Solver 68”

 

 

 

 

*1
ホシノのような例外はある

*2
当然死亡するわけはないのだが

*3
臨戦で使っているものではない

*4
数にして数十人、日が昇る頃には全員這々の体で車両を置いてで逃げ出した




キャラクター名鑑
名前:黄花トウカ(きばな とうか)
所属:公立ルピナス学院→カタカタヘルメット団→連邦捜査部S.C.H.A.L.E
学年:なし(退学)
年齢:16
部活:なし
趣味:読書
連邦捜査部S.C.H.A.L.Eに新たに所属することになった元ヘルメット団員。
元は公立ルピナス学院に通っていたが、前年度に廃校となり他の学校に転入できなかった友人たちに付き合うように自分も転入せずに学籍を失った。
その後カタカタヘルメット団に拾われたが、アビドス高等学校を廃校にするという方針に納得できず、ホシノ達に叩きのめされたこともありヘルメット団を脱退した。
仲間たちと一緒にシャーレビルに住みながらバイトし、勉強し、全員で一緒に新しい学校への転入をするという新たな目標を得た彼女たちはドロップアウト組の中でも幸運だろう。
元ネタは無しの純粋なオリキャラ、名無しのままだと進めにくかったために名前がついた。


メカニック名鑑
名前:ドロシー
分類:光学兵器搭載型試作重戦車
製造:カイザーインダストリー先進技術研究部
カタカタヘルメット団が運用していたカイザーインダストリー開発の新型重戦車の試作2号車。
光学兵器の主砲と補助武装としてのミサイルを装備する新機軸の兵器だが、その構成はアメリカ合衆国クーデター軍が運用したM4S7『DORSEY(ドーシー)』と酷似している。
本車はヘルメット団のクライアントから提供されて対策委員会との戦いに投入されたものの、運用方法と相手が悪かったことがあり撃破され、砂漠の砂に車体の半分が埋もれる形で放棄された。
車体の損害そのものは小さく、掘り返して修理すれば使い物になりそうだが……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。