METAL WOLF Archive XD   作:W.B.O

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Episode2-1 ”STAGE-1:District of Utnapishtim”

 緊急放送を終えて執務室へと戻ってきた3人であったが、応接用テーブルの上に積み上げられたマガジンの数に目を丸くしていた。まるで小高い山のように思える程に積み上げられたその量は恐らく3桁は行っているだろうか。カヤは呆れた様子で、リンは顔をひきつらせてその山を作り上げた張本人たちを見た。

 

 

「ん……先生、とりあえず予備マガジンを用意してたよ」

 

 

 その1人であるシロコはマイケルが戻ってきたことに気づくと、自慢げにそのマガジンの山を紹介するような仕草をした。どうやら褒めてほしいようで、目はキラキラと輝かせている。もし彼女にヒビキのように尻尾があれば激しく振り回していただろう、マイケルはそう感じた。

 

 

「フゥー……これだけあれば戦争ができるな、しかし、休める時に休むのも大事なことだぞ?」

 

「ん……」

 

「残念、今のはちょっと露骨すぎたね」

 

 

 しかし、マイケルとしては彼女たちには休息を取ってもらいたかったこともあり、その時間をすり減らして作業をしていた彼女たちに苦言を呈する。すると露骨にシロコは肩を落とし、拗ねたように口をとがらせた。

 

 その横では黒衣のシロコが肩を竦め、慰めというには少々冷やかしが入った言葉をかける。どうやら役に立つ事をやって褒められたかったのだろうか、すると少しばかり悪いことをしたなと彼は思い直し、シロコの頭に手を乗せるとわしゃわしゃと撫で回す。

 

 

「んんっ」

 

「そういう気持ちは素直に嬉しいよ」

 

「ふふっ、良かったねこっちのシロコ」

 

 

 撫でられ、嬉しそうにしているシロコを見てアビドス一同は頬を緩ませた。特に黒衣のシロコはどこか懐かしさを感じているような様子で微笑んでいる。

 

 席を外して1時間程度、どうやらその間に打ち解けることができたようだとマイケルはほっと胸をなでおろしながら腕を組む。そして視線をホシノに向けると、温かい目で後輩の事を見ていた彼女はその視線に気づいて顔を向けた。

 

 

「何かな、先生」

 

「ホシノ、あちらのシロコの事をよろしく頼む。あちらのシロコはたった独りだ、仲良くしてやってくれ」

 

「うん、最初からそのつもりだよ」

 

 

 軽く頭を下げるマイケルにホシノは微笑みながら言葉を返す。あちらのシロコの悲しみと孤独にある程度の理解がある彼女は元より仲良くして少しでも気持ちを楽にさせたいと思っており、言われずともそのつもりだった。

 

 

「そうか、助かる。私には年頃の女の子の気持ちには疎いものでね」

 

「先生はホンモノのおじさんだからねぇ……」

 

「歳の話はやめてくれ、数えるたびにカウントが進みそうだ」

 

「あはは、なにそれ!」

 

 

 年齢の話になるとうんざりとした様子のマイケルの言葉にセリカがケラケラと笑う。まだ彼女たちの年頃では誕生日を迎えることは喜ばしいことだが、彼ほどの年齢ともなればどんどん身体にガタがくるためかなり切実な話である。

 

 そうして穏やかな雰囲気になったところでマイケルは再びテーブルの上に積み上げられたマガジン類を見た。6人で使うにしてはあまりにも過剰な量だが、かといって二桁人数で使えばあっという間に使い切ってしまう量だ。

 

 

「……それで、この弾薬を使って今から何をするつもりだったんだ?」

 

「……」

 

 

 その疑問にアビドスの面々は言葉に詰まる。どうやらあまりそれは考えては居なかったらしい。

 

 

「ええっと……」

 

「流石に勝手に戦いに行くつもりはないよ先生、おじさんだってそういうところはきちんとわきまえているつもりだから」

 

「ん……昔の自分に刺さる……」

 

 

 言葉に窮するアヤネに代わり、勝手に戦いに行くつもりはないとホシノはハッキリとした言葉で返す。だがその内容にアビドス事件の時に独断専行を行い、大変迷惑をかけた事を思い出したシロコは顔を引き攣らせて顔を背けた。こんな可愛くない顔は先生に見せたくはない。

 

 

「ならいいが―――っと失礼、メッセージだ」

 

 

 マイケルが言葉を続けようとした瞬間、シッテムの箱から通知音が鳴る。さてどこからのメッセージかと話を中断して通知をタップすると、なんと偶然にもミレニアム、ゲヘナ、トリニティの3校から同時にメッセージが届いていた。

 

 じっくりとではないが、それでも中身の抜けがないように読んでいくと―――ミレニアムはこの件について報告することがあるらしく、輸送機を用意して会長たるリオ他数名が向かうというものであった。

 空から来るとなればそれほど時間は掛からないだろうが、しかし今はD.U.は戦場である。危険であるということは伝えるが、それでどうするかは向こう次第だろう。

 

 続いてゲヘナだが、こちらは協議のために人員を派遣するというものだった。どうやらヒノム火山で戦闘が激化しており、シャーレを通じて支援を受けたいということらしい。

 シャーレに所属しているイロハではなくサツキとイブキを派遣するあたり、あちらが厳しい状況にあるというのがわかる。

 

 最後にトリニティ。こちらはセイアが伝えたい事があるということで、彼女とその護衛としてイルミを派遣するということだが、あちらの戦況に関しては文章の中から知ることは出来なかった。

 表面上取り繕っているだけか、それとも本当に大丈夫なのか、それを判断するにはあまりにもこの文章は簡潔すぎる。

 

 

「お客さんがS.C.H.A.L.Eにやってくる予定になった。ミレニアム、ゲヘナ、トリニティの三大校(BIG3)……さて、忙しくなるな」

 

「あ~……もしかしてこれ、片付けないと邪魔になったりする?」

 

 

 三大校(BIG3)のおえらいさんがやってくるという話を聞き、セリカは気まずそうに応接用のテーブルに積み上がったマガジンの山へと目をやる。ここで会談をするとなれば、明らかにこれは邪魔でしかないのは誰から見ても明らかだ。

 

 

「まあ、協議するにしてもここでやるとは限らないから気にするな。ただ、これらはきちんとした場所に保管しないとな」

 

「……はーい」

 

「台車持ってきますね!」

 

「とりあえず箱に詰めておこう」

 

「それが良い」

 

 

 とりあえず慌ててどかす必要はないことにセリカは安堵するも、保管場所はきちんとしろよというマイケルの言葉にがっくり肩を落とす。この量を移動させる労力を考えれば無理もない。

 察したアヤネが台車を探すべく席を立ち、部屋を後にする。残された5人はゴソゴソとマガジンを抱えて弾薬箱の中に並べ、いつでも持ち出せるようにとその準備だけはしておいた。果たして何個のマガジンを用意したのかは数えてないが、多分3桁は普通にあるだろう。

 

 

「それにしても、本当に嫌な光景ですね……」

 

「まったくですね」

 

 

 アビドス組がマガジンの片付けに追われる中、リンとカヤの2人は窓際に立ちD.U.の街並みを見下ろしていた。ほんの数時間前までは青く透き通った空が広がる美しい都市だったものが、今や血のように染まった赤い空のせいで、気持ち色調が赤寄りになっている気がする。

 さらに、先程アビドスの生徒たちが見たようにD.U.は今や戦場だ。ヴァルキューレとSRTの生徒たちが防衛線を展開し、住人を誘導しつつサンクトゥムタワー跡から迫る敵集団を防いでいるものの、果たしてどれほど持つものか。

 

 

「あの塔の正体を知ることができれば―――うっ」

 

「リン!?」

 

 

 忌々しい赤黒い塔、サンクトゥムタワーのかつてあった位置にそびえ立つそれを睨みつけるリンだったが、じっと見つめているうちに急に目眩を覚えてうめき声を上げながらうずくまる。カヤが慌てて声をかけると、彼女は首を横に振りながら顔を上げた。

 

 

「すみません、急に目眩が……」

 

「はぁ……まったく、睡眠不足じゃないんですか? 先生に散々休めと言われていたのに全然休んでいないの、私知っているんですよ」

 

「………」

 

「リン、目をそらしても無駄です。ほら、仮眠室で横になりましょう、ついでに医官を呼んできますよ、今あなたに倒れられたらそれこそ連邦生徒会は機能不全に陥ります」

 

「あなたなら私の代わりに代行を務められると思いますが……」

 

「はぁ……あなたは自分の能力を過小評価しすぎています。アオイのようにあなたを慕っている役員が私の言うことを素直に聞くとは思いません。あなたが居るからまだ連邦生徒会が空中分解せずに済んでいる部分はありますよ」

 

「……」

 

 

 カヤはリンに肩を貸し、多少の説教をしながら仮眠室へと連れ込む。常に連邦生徒会長と比較してしまうが故に自分を卑下する面がリンにはあるが、そもそもあの超人(連邦生徒会長)と比較するのが間違いだ。

 

 それでもゴネるリンだが、自分が限界に近いということを理解するだけの正気は残っていた。カヤに促されるままにベッドに横になると、急に瞼が重くなる。彼女はツバキもびっくりするほどの早さで眠りに落ちた。

 

 

「……とりあえず先生、暫くリンは休ませます。いいですね?」

 

「ああ、わかった。しかし良い寝かしつけっぷりだな、それで一財産築けるんじゃないか?」

 

「それ、褒めてるつもりですか?」

 

 

 無理矢理ではあるがリンを横にさせることに成功したカヤは仮眠室を出ると一応マイケルに報告をした。一部始終を見ていたのでその必要はないかも知れないが、報連相は大事なので欠かさない。

 いつもは頑なに休む事をしないリンが、今回素直にカヤの言うことを聞いたのは素直に驚くべきことだ。マイケルは称賛するものの、言い回しが独特なので褒められた気があまりしないカヤはジト目で彼を見た。

 

 

「勿論だとも、私は褒めて伸ばすタイプの人間だぞ?」

 

「先生は叩いて伸ばすタイプじゃないですかね、物理(鍛造)的に」

 

「おお、私は悲しいよ。カヤが反抗期になってしまった」

 

「誰が反抗期ですか!」

 

 

 マイケルは言い返すが、そこからのカヤの返しは中々に辛辣。わざとらしいボディーランゲージで泣き真似をすると、ムキになったカヤは声を上げた。

 

 黒衣のシロコはマガジンを収納する手を止めてその様子を眺めている。表情は穏やかで、まるで懐かしい記憶を思い返しているかのようだ。そんな彼女の様子に気づいたこちらのシロコはもう一人の自分と先生の方を交互に見て首を傾げた。

 

 

「何かおかしいことでもあった?」

 

「ううん、ただ……やっぱりあの人は私の先生と似ているなって」

 

「……へぇ」

 

 

 向こうの世界、彼女の先生がどのような人物であったのか、こちらのシロコにはそれを知ることは出来ないだろう。

 詳細はもう1人の自分の言葉から想像する他なく、頭の中で想像力を働かせるが―――結局、シロコの頭の中にある先生のイメージは彼で固まっていたため、それはあまり意味のないことでしか無かった。

 

 

『……先生、緊急事態です!』

 

 

 ほんの僅かに穏やかな時間が流れる中、それを引き裂くようにシッテムの箱からアロナの声が響く。なんだと画面を覗き込むと、アロナが顔を真っ青にしながら訴えている。

 

 

『悪いニュースと、悪いニュースと、もっと悪いニュースがあります! どっちからが良いですか!?』

 

「そういうのは大抵全部碌でもないものだと相場が決まっているが……悪いニュースからお願いするか」

 

「……先生?」

 

 

 とにかく悪いことが起きていると主張するアロナ。果たして何が起きたのやら、その話を聞こうとすると隣でカヤが怪訝そうに顔を覗いてくる。

 シッテムの箱のOSであるアロナの事を知る生徒は少なく、また生徒はその存在を認識できないため、カヤには彼がタブレットに話しかける危ない大人にしか見えないのだろう。アロナについて軽く説明をすると聡い彼女はなんとなく理解したようで、シッテムの箱の画面をじっと見つめるが、アロナの姿はやはり見ることが出来ないらしく首を横に振った。

 

 

『ええっと……まず悪いニュースは、D.U.の市民の皆さんが沢山シャーレに押し寄せてきます。しかも、敵に追われながら』

 

「最初でそれか……次に悪いニュースは?」

 

『市民の皆さんを追っている敵に新しいタイプのものが確認できました。エデン条約事件の時に確認されたミメシスに類似した反応が見られます』

 

「ああ(Oh)、くそっ(Shit)、次から次に」

 

 

アロナが報告する内容は本当に悪いことばかりでマイケルは頭を抱えそうになったが、生徒の手前そのような情けない姿を晒すわけには行かぬと堪える。

 

 

『それと、最後に―――これが一番悪いニュースです。ヴァルキューレの本校舎が包囲されて居ます……中には避難してきた市民の方々も多く、小さな子ども達の姿も―――』

 

 

 そして最後、アロナはとびっきりの最悪を伝えてきた。マイケルの表情が固まり、纏う雰囲気が一変する。それを至近で浴びたカヤは心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に襲われた。

 

 

「……カヤ、ヴァルキューレ本校舎が包囲されているそうだ。確認できるか?」

 

「え、えぇと……少々お待ちを」

 

 

 鋭い目つきのマイケルから質問を受け、カヤは多少まごつきながらもスマホを取り出し誰に電話を掛けるべきか考える。ヴァルキューレの本校舎が包囲されているという話が本当ならば、そこにはカンナが詰めているはずだ。

 その思考に至ると同時に、彼女の手は無意識にカンナの電話番号をタッチして通話を発していた。コール音が続き、カヤの表情に焦りが滲む。

 

 

「…………カンナ、出てくださいよ」

 

 

 しかし、待てど暮らせどカンナが電話に出る様子がない。この状況下で通話がつながりにくいのはあるが、それにしたってあまりにも長時間コールが鳴っているのにでないというのはおかしい。

 

 可能性は2つある。1つはスマホを置いて席を外していることだが、カンナの性格からしてそれはないだろう、むしろ副局長のコノカのほうがそういう事をやるタイプだ。

 そしてもう1つは電話に出ることが不可能な状況にあるということ。それがどういうことなのか、先程の話から想像するに―――

 

 

「……どうやら、本当らしいな」

 

「はい……」

 

 

 カヤが誰に電話をかけ、繋がらないのか。マイケルはそれを正しく予想していた。そしてアロナの話が本当だという確信を得ると、次にやるべきことは決まっている。

 

 

「カヤ、それとシャーレに向けて市民が避難をしているそうだが、その集団を敵が追いかけているそうだ」

 

「それもシッテムの箱から得られた戦術情報ですか……しかし、援護を出そうにもヴァルキューレもSRTも全部出払っていて―――」

 

「ここに3小隊居るだろう? 市民を守るためなら使えるものは何でも使うのが防衛室じゃないのか?」

 

「それは……そうですが」

 

 

 シャーレ直属扱いのSRT3個小隊だが、責任者であるシャーレの先生がその運用を任せるというのであれば確かに防衛室でも運用できる戦力ではある。カヤは逡巡するが、市民の安全を守るためならば動かすべきだろう。

 

 僅かな逡巡の後、彼女は決断した。

 

 

「では、避難民の救出はこちらでやります。先生はどうなさるおつもりですか?」

 

「ヴァルキューレ本校舎の救出だ、今ならまだ誰一人死なずに助けられるはず」

 

「ここからヴァルキューレの校舎までどのくらいの距離あるのか、わかってるんですか!? しかも1人で行くなんて……いくら先生でも無茶が過ぎます!」

 

 

 一方、マイケルはマイケルで単身ヴァルキューレ本校舎の救出に向かおうと決意を固めていたのだが、それを知ったカヤは正気ではないと声を荒げた。しかし、彼はニッと歯を見せるように笑う。

 

 

「この程度の逆境なんて、まったく無茶ではない。私は―――そう、私とメタルウルフがあれば、150万の敵と戦うことができるのだからな」

 

「そ、それは……」

 

 

 本当かよと内心思いつつも、キヴォトスで彼が成し遂げた数々を思えば数字こそ盛っている可能性はあるものの、彼の自信はホンモノだろうとカヤは考える。それに、元より動かせる戦力は少ない以上、現実的に割り切る必要もあった。

 

 市民とヴァルキューレ、双方を救うには手段はそれしかないのだ。

 

 

「……わかりました、ヴァルキューレの方は先生におまかせします。それと、アビドス高校の方々はどうしましょうか? 防衛室に彼女たちの指揮権はありませんよ」

 

 

 カヤの視線がホシノたちへと向かう。防衛室に指揮権があるのはヴァルキューレとSRTのみで、学園自治の都合アビドスへの指揮権を連邦生徒会は持たない。

 一方、シャーレはアビドスのみならず全学園、それこそヴァルキューレやSRTだけでなく、連邦生徒会の執行部隊にすら指揮権が及ぶ。その権限を持つ眼の前の大人の意向を確認するのはこの場においては重要だった。

 

 

「ホシノ、頼む。市民を守ってやってくれ、連邦生徒会の面々と足並みを揃えてな」

 

「しょーがないな~、おじさんたちに任せてよ。ね、カヤちゃんだっけ? よろしく」

 

「は、はぁ……」

 

 

 マイケルの意向は明確で、市民の犠牲を防ぐことを最優先するもの。それについての文句はホシノにはなく、彼女はカヤにニッコリと笑顔を向ける。しかし、その笑顔の裏にゾッとするものを感じたカヤは顔を引き攣らせる他無かった。

 アビドスとカイザーを巡るあ(・)れ(・)こ(・)れ(・)は無論カヤも知っており、元々カイザーと懇ろであった彼女としてはそこを探られるのは痛い。とりあえず友好的な態度は崩さないように心に決める。

 

 

「では早速動くぞ、この作戦の名前は―――”市民を守れ(Defend the citizens)! S.C.H.A.L.E緊急出動(Emergency dispatch)”作戦だ!」

 

「はーい」

 

「ん、任せて」

 

「こっちは準備オッケーです☆」

 

「やってやるわよ!」

 

「私は夕立号の出撃準備を!」

 

 

 マイケルの行動開始の宣言とともにアビドスの面々は動き出す。ホシノ、シロコ、セリカ、ノノミは自分達が用意した弾薬に手を伸ばし、ポケットやポーチに突っ込む。アヤネは駐機している夕立号を動かすためにヘリポートへと向かった。

 

 それに合わせてマイケルも格納庫へと向かう。アビドスの戦闘のあとにメンテナンスはしていないが、メタルウルフはタフで連続出撃にも対応できる。ただ、武器の再装填だけは間に合わない。

 仕方がないので代用の武装を選択する。代用なので火力は多少下がるが、それでも対人対装甲、対アルファ・ワームに対する戦闘力は十分な物があり、問題はないはずだ。

 

 

「まったく、人気者は辛いな」

 

 

 メタルウルフに袖(・)を(・)通(・)し(・)ながら彼はぼやく。だが、その言葉とは裏腹に彼の口元には笑みが浮かび、まるで闘いに挑むことに高揚感を感じているようにも見えた。

 

 ―――唯一問題があるとすれば、それは”先生”という立場の人間がするべき顔ではなかったということだろうか。まるで血に飢えた狼のようなその表情は、決して子どもたちに見せて良いものではない。

 

 

 

******************************************************************

 

 

 

 そもそもD.U.という街は行政中心、経済中心として最適化されすぎており、防衛には全く不向きな都市構造をしている。しかも、今回は外からではなく中心部から敵がくるというのだから大混乱に陥るのは当然といえた。

 そんな中、唯一中心部に近い所に籠城に適した建物があれば周囲の住人は逃げ込む。人々というのは常に安心できる場所を求める以上、避難所としてヴァルキューレ本校舎が選ばれるのは自然なもので、少なくない市民が保護を求めて駆け込んだとなればヴァルキューレ警察学校として受け入れざるを得ない。

 

 結果として、市民対応のために生活安全局の生徒の多くが残り、また公安局の一部生徒が業務を継続するということになっていた。

 全員が出動して敵に対応している警備局や、避難誘導に当たっている交通局、シャーレに拠点を移動した情報通信局などヴァルキューレはそのリソース全てを現状の対応に費やしており、もはや他の事案に対応する余力などどこにもない。

 

 だからか、校舎の周囲に敵が押し寄せてきた時に彼女たちは成すすべなくその包囲を許すことになってしまった。

 

 

「カンナ局長、正面玄関方面破られました! 防衛線を後退させます!」

 

「これ以上下がる場所などあるものか! この部屋を死守しろ!」

 

 

 銃声鳴り響くヴァルキューレのオフィス。机は即席のバリケードと化し、本来処理されるはずの書類は無惨にも床に散乱、出入り口には多数の弾痕が刻まれ、激しい戦闘が行われているのが素人目にもわかるほど。

 出入り口を塞ぐほどに積み上がっているのは突入してきた敵、彼女たちからすれば正体不明の機械だが、その正体は無名の守護者の一部である。

 

 

「フブキ! 射撃を止めないでください!」

 

「そんなこと言っても、装填不良が……ああもう、こんなことならきちんと整備しておけばよかった!」

 

 

 この部屋の後ろには市民たちが隠れている留置所へ通じる道がある以上、彼女たちは一歩も下がることなく防戦を続けていた。だが、この場にいるのは戦闘行為にあまり縁のない生活安全局の生徒と、一部の公安局の生徒のみ。

 生活安全局の中務キリノが当たらぬ拳銃を撃ちながら後ろに控えている同期に対し射撃を続けろと声を上げるものの、言われた側である合歓垣フブキは装填不良を起こした自身の銃のボルトを何度も操作するが、一向に回復する様子はない。

 

 元々ものぐさな性格をしていたフブキは銃の整備もサボりがちだったのだが、まさかこんな時に故障するとはと彼女は後悔を口にするが全ては後の祭り。カンナ達公安局の生徒が辛うじて射線を維持するが、明らかに足りぬ火力のために次から次に押し寄せる守護者達の前にもはや限界が近づいていた。

 

 

「ええい、こうなったら!」

 

「局長!?」

 

「我々は市民を守る盾だ! 身一つになっても入学の時の誓いを守れ!」

 

 

 リロードが間に合わずについに入口を突破される中、カンナは銃を投げ捨て素手で守護者に挑む。全力で振り抜かれた拳はクラゲ型の守護者の装甲を強烈に凹ませ、後続の守護者達へと向けて吹き飛ばす事となった。

 そして玉突き事故めいて部屋に押し寄せる守護者達が怯んだその時、ようやくフブキは銃の不調を回復させて構え、叫ぶ。

 

 

「公安局長、避けて!」

 

「!」

 

 

 声に応えるようにすっと右に飛び退いた直後、銃声が鳴り響き守護者達は機能を停止する。一旦はウェーブを阻止できたようだと安堵するカンナだが、このままでは埒が明かぬことはわかっていた。

 しかし、だからといって打って出たところで市民の脱出などできるはずもない。そう考える彼女の横にオフィス配置の生徒たちが駆け寄る。明らかに次の指示を待っている彼女たちにカンナはどう答えるか悩んだ。

 

 

「……こうなったら―――」

 

 

 一か八か突破を図るべきか、そう口にしようとした瞬間、ヴァルキューレの本校舎が轟音とともに大きく揺れる。衝撃で一瞬明かりが点滅し、天井からは埃がパラパラと落ちてくる中、彼女たちは咄嗟に床に這いつくばるなどして転倒することだけは避けた。

 一体何が起きたのか、確認しようにもこのオフィスには窓はなく、外の様子を見るには正面ホールへと向かわねばならない。先程まで敵が居た場所に突っ込む勇気を生徒たちが持てぬ中、カンナは一人ある可能性について考えが及んでいた。

 

 

(今の衝撃の伝わり方は爆発。これほどの火力を有するものはキヴォトスでは多くはない……とすると、まさか―――!?)

 

 

 カンナが何とか立ち上がると、開け放たれた扉から大声が聞こえてくる。多少距離があり、構造的に外からの声は聞こえづらいが、敵の攻撃で音が通るルートが拓かれているが故に彼女たちにも声を聞くことが出来た。

 

 

『Let's partyyyyyyyyy!!!』

 

 

 その声の主は、カンナの予想通りのもの。そう、あ(・)の(・)シャーレの先生、マイケル・ウィルソンがヴァルキューレの救援に駆けつけてきたのだ。




 色々資料を探しながら書いてましたが、メタルウルフカオスのデザイン画で中にどんな感じに人が入っているラフ画があったんですよね。脚の中に脚が入っているのはゲーム中のムービーでわかっていましたが、肩の回転軸の位置から腕の中に腕を通してないと思った所、実際には腕が通っているらしいんです。宇宙の戦士のパワードスーツと同じですね。
 「まじかー」と正直思いました。最初から確認しとけよって話なんですが、まあ見つからなかったものが後で見つかるというのは良くあることなので……大変申し訳ありませんでした。

 本作では後年の改装によって居住性の改善が図られたとか、損傷時の搭乗者保護のためとか、そういう理由で腕に腕を通さない方式に変えたという事にしておきましょう。そうでないとメタルウルフに乗ったままシッテムの箱をいじれないので……
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