マイケルが急いで会議室に向かうと、そこにはすでに多くの生徒達が到着しており、取り留めのない世間話をしているものや、情報の交換をしているもの、資料の整理を行っているものと多種多様な過ごし方をしている。
少々勢い良くドアを開けてしまい物音を立てると、部屋に居た全員の視線が彼へと向く。ようやく先生がやって来たことに安堵するもの、遅いと憤るもの、その反応は様々だ。
「やあ、呼びつけておいてすまんな。少々立て込んでいてね……それで―――」
謝罪を述べつつ、彼はまず部屋を見渡す。この部屋に集っているのはミレニアムからはリオの他2名。ゲヘナからはサツキとイブキで、トリニティからはセイアとイルミ、そしてお付のティーパーティー生徒が数名。イブキが浮いているが、まあそれは仕方がないだろう。彼女は見た目からして幼い。
「―――早速、本題から入ろうか。キヴォトスを襲う未曾有の事態、外からの侵略について、だ」
彼はスーツの上着脱ぎながら歩き、適当な所に引っ掛けて用意されていたホワイトボードの前に立つ。そしてキヴォトス全体の大まかな地図を手書きし、そこに赤いペンで6つの棒を描いた。ここに集っている生徒たちはそれが例の赤い塔のことだと理解する。
「まず、君たちには最初から全てを話そう。敵は別の世界のキヴォトスを滅ぼした存在であり、この世界のキヴォトスも同じようにするつもりらしい。これは、そのキヴォトスの生き残りが流れてきたことで判明した情報だ」
「別の世界!?」
「どういうことなの」
「全然わからない」
まず真っ先に彼が切り出すのは、キヴォトスを襲う敵の正体について。あちらのシロコの証言によって得られた情報はこの場において隠匿する必要などなく、寧ろ協力するのならば積極的に教えておく必要があるだろう。
マイケルとしては、こうすることであちらが情報を提供するハードルを下げる狙いがあったのだが、やはり最近の若い子はSFに疎いらしく平行世界というものにピンときていないらしい。とはいえ、詳しく説明するとなるとかなり複雑なのでどうしたものかと悩む。
「……なるほど、それが敵の正体だったと」
「平行世界……まさか本当にあるだなんて、思いもよらなかったわ」
そんな中、リオとサツキは納得した表情を見せて呟く。セイアも同様に理解をしているようだが、イルミはどうもピンときていないらしい。まあ彼女はお堅い性格をしているため、そういうものを読んだことがないのかもしれない。
「……ミレニアムからも報告すべき話があるわ。ただ、これは私が知ったものではなく――――」
ミレニアム代表としてリオが挙手して話を始めるが、すぐに下がって一人の生徒が前に出る。
床につくほど
「天童ケイです。これから話すことは全て私が観測し、知りうる情報から得られたものと思ってください」
「わあ、何か出てきた!?」
ケイはそう言い、手元のタブレットを操作して空中にホログラムを投影させる。流石はミレニアムの機材というべき光景に、イブキは思わず歓声を上げた。
「まず、各自地区に出現した塔……あれの正体はサンクトゥムタワーの一種です。それも、反転した形の」
「サンクトゥムタワーだって!?」
思わず驚愕の声を上げるセイアだが、話の途中であるとケイは無言で右手を伸ばして制止する。彼女はハッとすると気恥ずかしくなったのか、しおしおFOXとなって引っ込んだ。
「はるか昔……このキヴォトスで記録が残されるよりもずっと前の時代、この世界には今とは違う文明があり、とある神秘が存在していました。その名は「名もなき神」……私こと天童ケイは、かつてはその文明の技術により生み出された「鍵」としてこの世に誕生したのです」
「……?」
「…………」
一瞬、場が沈黙する。
「……ちょ、ちょっと待って、今さらりととんでもない事を貴女言わなかった!?」
「キヴォトスの前の歴史……それに「名もなき神」だって!?」
サツキやセイアだけでなく、その周囲の人々もざわつく。ケイの話したものは、この場で流すにはあまりにも情報量が多すぎたのだ。理解しようとするもの、そもそも飲み込めないもの、それぞれの反応が会議室を支配した。
「静粛に、静粛に! 質問は後、今は彼女の話を聞くんだ」
「先生、ありがとうございます」
すかさずマイケルが大声を上げ、ざわつく生徒たちを落ち着かせる。彼の進行によって話を進められるようになったことでケイは律儀に頭を下げたが、マイケルは気にするなと言わんばかりの態度を示す。
「あれの機能は……そう、「色彩」の光を世界中に伝播するものです。あの光は人々の心を狂わせる……もし放置していれば、取り返しのつかないことが起こるでしょう」
「ミレニアムでも彼女のデータはある程度解析、証明が出来ているわ。あの塔から放たれるエネルギーは私達の精神に致命的な結果をもたらす……それはデータ上からも明らかよ」
「こちらで計算した結果、おおよそ100時間後には塔から放たれているエネルギーが推定上危険な領域に達します。そうなると何が起きるのかまではわかりませんが、少なくともキヴォトス全体から見れば良くないことが起きるのではないかと推測されますね」
「100時間! たったの!?」
ケイの説明に続き、リオとノアがそれを補足すると部屋の誰かが声を上げた。100時間後にはキヴォトスが滅ぶだろうと説明されれば無理もない。
「また、塔には空の上からエネルギーが注ぎ込まれ続けています。つまりあれはスタンドアロンで動作しているのではなく、あくまで端末というものでしょう。エネルギーの発信源に関しては……すみません、現在ミレニアムの観測機器ではその詳細を確認できていません」
「……塔を破壊して解決、ということにはならないわけですか」
「しかも、各地の塔はアルファ・ワームの高レベル汚染地域にある。破壊するにしても細心の注意が必要になるわ」
あの塔が端末に過ぎないという事実。この事態を解決に導くためには地上の塔を破壊するだけでは終わらないという事に、一同は顔をしかめた。そもそも塔そのものを破壊するだけでも一苦労しそうなのに、遥か空の上にその本拠地がある可能性もあるのだ。
「……ミレニアムからは以上です。他、情報がある方はどうぞ」
報告するべき事を終え、一礼して下がるケイ。続けてセイアが前に出た。
「では、私から。私こと百合園セイアは以前よりこの事態を予測……いや、違うな。
彼女の発言、この事態が起きることを知っていたという事実に周囲がざわつき始めた。予知、それはまさに奇跡の領域の話だ。
「予知? 貴女、未来を知ることが出来たの?」
「そうだね、先月まではそうだった。でも今はもう、予言者は廃業さ」
セイアの語る予言という言葉に食いつくリオ。未来予測というものができれば危険を回避できるという合理的な理由からだが、もう予知は出来ないというと残念そうに肩を落とす。
「それで、「色彩」だが――――それに関して、トリニティの古い書物の中にも記録があった。人々を狂気に陥れる光……ミレニアム側の話と一致するとは思わないか? それに、私自身先んじて「色彩」に晒された経験がある以上、その内容に疑いの余地はない」
「……それで、百合園セイア。あなたはどうして無事で居られたの?」
「少々複雑な経緯になるのだが……助けがあったんだ。百鬼夜行連合学院の預言者、クズノハによって私は無事にこうして皆の前に出られる体となった。恐らく彼女には「色彩」に対処するための知識と能力がある」
「クズノハ?」
セイアから出た新たな情報、百鬼夜行の預言者クズノハ。全く聞き覚えのない名前にリオは首を傾げた。
「……それは後でニヤに聞こう。他に話すべきことはあるか? それと、アリウスはどうなっているんだ、あー……イルミ」
「!」
マイケルに突然話を振られ、イルミは肩をビクンと震わせる。困惑こそあったが、彼が聞きたいのが
「……いいえ、アリウスに関するものは現在トリニティでは話題に上がっていません。トリニティでは現在塔とその兵力に対応するためにリソースを集中しているため、アリウス自治区へ向かうことも出来ないのです」
「そうか、とすると学校訪問が必要になるかもしれんな。一応、確認を取りたかったんだが」
残念そうな表情を浮かべ、小さく肩を竦めるマイケル。アリウス自治区への支援を送るには情報収集から始めなければならない。その時間すらもったいない以上、かなりどんぶり勘定をする必要があるだろう。
そう考えていると、イルミの方からスマホの着信音が鳴る。彼女が慌ててバッグからスマホを取り出し画面を見ると、目を丸くして顔を上げた。
「リコからたった今報告がありました、アリウスの生徒たちがカタコンベに姿を見せたそうです。待ってください、接触して代表者と通話するように指示を今出します」
「わかった」
少し待つとイルミのスマホから着信音が鳴り始める。彼女は素早く通話に出ると、スマホをマイケルへと手渡す。どうやらビデオ通話だったようで、画面にはアツコと他数名、スクワッド改め生徒会のメンバーが映っていた。
『先生、アツコだよ。連絡が遅くなってごめんなさい、アリウスは山岳地帯に良くわからない塔が出現して敵が現れたから全生徒が自治区から脱出、今カタコンベの例の通路を通ってトリニティへ向かってる』
「全員なのか?」
『うん、全員。ちゃんと確認しているから大丈夫』
「……なんであれ、一先ず無事で良かったよ」
やはりアリウス自治区にも塔が現れていたということが判明し、これで6箇所すべての塔の位置が特定された。マイケルは安堵の声を漏らし、同時に彼女たちをどうするかについて考える。
アリウスを脱出したとは言え、逃げた先に
そこに多くの避難民がやってくるとなると、当然のことながら軋轢が生じる。この状況下で生徒同士の争いが起きるなど、悪夢以外の何物ではない。
「セイア、どう思う?」
「……少しナギサと相談する必要があるね。まさかアリウス自治区が陥落するなんて、これは流石に予想外だよ」
「わかった。アツコ、トリニティからはこちらで連絡をしておく。君たちはあまりその周囲から出ないように。それと、可能なら君かあるいは信頼できるメンバーをS.C.H.A.L.Eへ、緊密な連携のために連絡係が欲しい」
『それなら……そうだね、私が行きたいところだけどちょっと今は無理かな。ヒヨリあたりが丁度いいかも? あ、でも、そっちに行くには時間がかかると思うんだけど、迎えでも出してくれるの?』
「それなら、私がナギサやミカに掛け合ってもう一機ヘリを出してもらう事にしよう。アリウスを支援することに関しては、私達ティーパーティーでは一致した見解になる。問題は下の人間をどう説得するかだが、まあそれは―――ナギサに頑張ってもらうしかないかな」
ナギサに責任をぶん投げ、脱出したアリウス生徒たちの支援の口約束をするセイア。ヘリ一機ぐらいならばまあ、セイアレベルの権限があればなんとかなるが、問題は避難した生徒たちの住居と食料である。人間、自分の財布から金を出すことは嫌がるものだ。
とはいえ、そういった話をこの場で続けるのはあまり良いとは言えない。トリニティ自治区における問題はトリニティが解決するというのが自治というもの。アツコは了解したと通話を切り、マイケルはスマホをイルミへと返却した。
そして、次に口を開くのはサツキである。彼女としてはミレニアムやトリニティのように事態の真相に迫るような情報を持っていないため少し気後れしているのだが、出すべき情報が全く無いわけではなかった。
「これを見てちょうだい、私がゲヘナを出る前に撮影されたものよ」
そう言って彼女が見せるのは1枚の写真データ。噴煙を上げるヒノム火山とそびえ立つ反転したサンクトゥムタワー、そして迫る無名の守護者達。どうやら対応にあたっている風紀委員と
「これが今、イロハちゃんや風紀委員が対応している敵。見た所、ミレニアムや先生はこれの正体に覚えがあるようだけれども……もう一枚あるわ」
「!」
次に映し出される映像、それを見たマイケルの表情が凍りつく。
全高5m程度の人型、しかし膝が逆関節となっており、背中から伸びる多連装ミサイルコンテナを装備したその姿は一見カイザーPMCの保有するパワーローダーを想像させるが、マイケルには見覚えがあった。
それはかつてアリゾナ、フェニックスの戦いで元部下3人が乗り込み挑んできた特殊機動重装甲と同じなのだ、見た目は。
しかし、そのシルエットは全体的に青白く、これもミメシスの一種だろうか。しかし、エイブラムスもそうだがどうやってこれを複製したのかそれが彼には分からなかった。一応、ミメシスの専門家であるマエストロを呼べばある程度は判るかも知れないが、彼は今医務室のベッドに叩き込まれているため動かせない。
「……先生?」
「おっと、すまない。少し考え事をしていた……それで、これが出現してどうなったんだ?」
「風紀委員と
「そいつは一大事だな」
まさかヒナが率いる風紀委員が劣勢に陥っているとは、マイケルは眉をひそめる。そして、サツキは一呼吸置き、言葉を続けた。
「……これ以上現有戦力においての防衛線維持は不可能と判断し、ゲヘナ学園は正式に連邦捜査部シャーレに対して支援を要請するわ」
「ゲヘナが……!?」
「これは驚いたな……」
ゲヘナの使者として、正式に外部からの救援を求める。これはゲヘナ学園としては極めて異例で、リオやセイアも驚いた表情を見せていた。連邦生徒会の生徒も同様で、まさかゲヘナが頭を下げる日が来るとはという様子だ。
「……要請は了承した。ただ、他の自治区の状況も確認したい。ミレニアム、トリニティはどうだ?」
「ミレニアムは……現状、廃墟での封じ込めには成功しているわ。こんなこともあろうかと色々準備していたおかげで戦力的には問題はないわね」
「トリニティは……少々厳しいかも知れないね。私がここに来るまでは大丈夫だったが、ゲヘナのように新たな敵が現れていないとは限らない」
「D.U.は何とか膠着状態に持ち込んだが、アビドス、アリウスは陥落済みか……全く、困ったな」
ここでようやく塔の出現したエリアの情勢が判明したが、6箇所中2箇所がすでに敵の手に落ちている事実が判明し、マイケルは忌々しげに腕を組む。全体的に状況は劣勢、唯一ミレニアムが拮抗しているものの、このままでは押し切られかねない。
「……作戦会議をするならば、他にも呼ぶべき生徒がいる。少し待ってくれないか?」
「ええ、わかったわ。この状況を打破するには多くの学園の力が必要になる……そのくらいのことは、私にだって判るわ」
「少し休憩が欲しかったところだ、私は構わないよ」
セイアはそう言い、椅子に深く腰掛ける。同時に付き人がささっとカップを用意して紅茶を淹れると、彼女は上品な仕草で口にした。
かくして状況の報告分析の集まりはなし崩し的に休憩となり、マイケルは一旦部屋を出る。反攻作戦となればシャーレにはまだ呼ぶべき生徒が居るのだ。呼びに行かねばならない。
「……それで、あのケイという子が言った事は本当なのかい?」
「ええ、事実よ」
マイケルが去り、生徒ばかりとなった会議室。大人が居なくなったことで仲間、あるいは友人たちとだべり始める生徒が出る中、セイアは紅茶を手にしながらリオとケイを見る。先程の話でケイが古代文明の遺産であるということには大いに驚いたが、こうして見れば生徒と見分けがつかない。
「そうか……つまり、彼女はロボットのようなものだと?」
「それは違うわ。彼女は立派な人格を持つ一人の人間、ミレニアムの生徒よ」
「リオ……」
「おっと、それは失礼した」
ケイをロボット呼ばわりされたことに珍しく怒りを現すリオ。セイアも自分の発言がいささかデリカシーを欠いたものだということを自覚していたこともあり、素直にその場で謝罪した。
「それにしても古代の先史文明なんて本当に実在したのね、驚いたわ」
会話をしている3人の間に突然割り込むサツキ。
「ええ、まあ……でも、結局のところは淘汰されて過去に消えたものに過ぎません。その遺物が今の世界を破壊しようとするのは……やはり許せるものではありませんね」
「あら、あなたは創造主に対して随分辛辣なのね」
サツキはケイの辛辣な物言いに小さく笑う。すると、彼女は腕を組んで小さく鼻を鳴らした。
「当然です。たとえ作られたものだとしても、私には私の人格があります。そして、私には友人を選ぶ権利もあるのです。大切な友人を助けたい、そう思うのは当然だと思いませんか?」
「ケイ……ありがとう」
大切な友人だと言い切ったケイに、リオは感極まったという感じで礼を言う。それを見てセイアはリオは友人が非常に少ないのだと察した。実際、彼女にとっての
そこまで理解が及んだ時、セイアの脳裏に電流走る。
「ふむ……良い機会だ。せっかくこうして集ったんだ、世界が滅ぶ瀬戸際とはいえ、新たな交友関係を結ぶというのはどうだろう? ああ、学園とかそういうのは関係なく、個人的なものでも別に構わないのだが」
「……えっ?」
「へぇ……?」
突然のセイアの提案にリオは呆気にとられ、一方サツキは興味深そうに目を細める。だが、彼女の発言に一番食いついたのはこの2人ではなく―――
「トリニティの狐のお姉ちゃん、イブキとお友だちになりたいの? いいよ、お友だちになろう!」
「あら、イブキ……」
ぴょんぴょんと喜びを飛び跳ねる形で表現しながらイブキは無邪気に笑う。先程までの話し合いの内容は良くわかっていない彼女だったが、セイアの友達を増やしたいという発言は十分に理解できていた。
「君は……」
「はじめました! 丹花イブキです!」
元気良く挨拶するイブキ。セイアは彼女とは今回が初対面だが、何度かトリニティに親善大使として赴いていることもあり、部下から話は聞いたことがある。
「ああ、そうか……君のことは私の部下からも良く聞いているよ。私はセイア、百合園セイアだ」
「セイアお姉ちゃんだね! これでイブキとお友だちだよ!」
2人は握手を交わし、友だちになったとイブキは喜ぶ。一方リオはそんなイブキの姿を見て顔をしかめた。何故こんな小さな子がここに居るのか、サツキに説明を求めるような視線を向けた。
「……マコトちゃんの指示よ、イブキを安全な場所に避難させるように頼まれたの。今ゲヘナはさっきも言ったようにもはや安全じゃないわ……だったら、先生のお膝元のシャーレの方が安全だと考えたのよ」
「なるほど……」
ゲヘナの事情を語るサツキにリオは納得したのか、これ以上追求することを止めてセイアとイブキの方を見る。
衒学的な物言いをするセイアの話を目を輝かせながら聞く幼子、萌え袖同士波長が合うのかセイアはさらに得意げになって話を続け、まるで合いの手を入れるかのようにキャッキャとイブキがはしゃぐその様子は微笑ましいだろう。ついでにゲヘナとトリニティの友好を周囲に示す効果もあった。
そしてリオの視線に気づいたのか、セイアとイブキはリオへと顔を向ける。ぎょっとして後ずさるものの、すぐに2人に集られることとなった。
「ふふっ、君ともよくよく話しておきたいが、どうだい?」
「いっぱいお話しよー!」
調月リオは所謂コミュ障と呼ばれるタイプの人間である。他人の事を慮るのが苦手で、空気の読めない発言をして空気を冷やしたのは両の手の指よりも多い。しかし、他人の安寧を願う善性を持つ人間でもある。問題はその思いが一方通行ということなのだが。
「え、ええと……」
リオは戸惑いを隠せない。ここまでグイグイ迫られるのは正直なところ産まれて初めてで、どう対応して良いのかわからないのだ。だが、その背中を押すものが居た。
「ケ、ケイ……それにノア……!?」
「友達は多ければ多いほど良い……アリスはそう言っていましたよ」
「会長のお友達が増えれば、ユウカちゃんもきっと喜んでくれますね」
まるで母親のように背中を押すケイと、ニッコリと笑うノア。2人に促されたリオは意を決して言葉を発しようとするものの―――
「……百合園セイア、そんな遊んでいる暇がありますか? アリウスの案件で桐藤ナギサと協議する必要があると言ったのはあなた自身のはず」
「い、イルミ……」
「他校と交流を図ろうと言うのはまあ良いでしょう、これから協力しようと言う時にコミニュケーションが取れないのは問題ですから」
「うわぁっ!?」
青筋を浮かべたイルミがセイアの背後に立ち、明らかに怒り心頭に発するといった様子でセイアの首根っこを掴む。小柄なセイアの身体が浮き、抵抗するべくバタバタと脚を振り回すが空を切るばかりだ。
「イブキと遊んでいるのも……まあ良いでしょう、彼女もこんな事態で不安がっていますし、誰かがついていてあげないといけません。別に貴女である必要はありませんが」
手に込める力を強めつつ、彼女の視線はイブキに向く。エデン条約の事前協議に散々ゲヘナに出向いた事もあり、イルミとイブキはそこそこ話をしたこともある関係だった。
「い、イルミお姉ちゃん、セイアお姉ちゃんをどうするの?」
少々怯えた様子ながらもイブキは問う。
「イブキ、気にする必要はありません。百合園セイアは本来するべき仕事を放棄した悪い子なので、少々お仕置きをするだけです」
「た、助けてくれイブキ!」
首根っこを掴まれ、浮き上がった
「……だが、貴様は必要な仕事を全部私に押し付けようとした! この駄狐め、指導以外にない!」
「わ、私はサンクトゥスの首長だぞ!? フィリウスの君が手を出したら問題に……」
「I AM TEA PARTY!!!」
完全にキレたイルミは不満をぶち撒けながら連行しようとする。セイアは抵抗を続けるが、元々虚弱体質だった彼女にミカには当然劣るものの、フィリウス1の武闘派なイルミに勝てるわけが無かった。
セイアはそのまま部屋から退去させられそうになるも、何とか壁にしがみつき最後の抵抗を試みる。だが、それも悪あがきに過ぎなかった。
「指導!」
「うわああああっ!」
そのまま強引に引き剥がされて連れ出された後、少ししてから何かを叩く音が数度聞こえ、そのたびにセイアの悲鳴が響く。彼女にどのような災厄が降り掛かっているかは、その名誉を守るために伏せておこう。
「あっ……」
「はぁ……残念でしたね、リオ」
そして、話すべき相手を見失いどこか寂しげなリオの背中をケイはポンポンと叩いて慰める。しかし彼女は気落ちしたまま部屋の隅で体育座りをし、マイケルが帰ってくるまで動くことはなかった。