作戦会議が始まって既に30分は経過したが、たったそれだけの時間で敵を打ち倒すビッグなアイデアが浮かぶわけがない。生徒たちは皆近くの仲間と話し合い、知恵を出し合いながら少しずつ盤面を整理しようとしていた。
こういう場合、まず重要なのが攻撃に動員可能な兵力である。敵の数はかなり多く、
それは例えば、ゲヘナで言えば空崎ヒナのような一騎当千の兵をぶつけるということだが、一騎当千の戦力は劣勢側の防衛に使われるのが常である。そうすると攻撃には手が回らないわけで、塔を破壊するという目的を達する事ができなくなる。
では逆に一騎当千の兵を攻撃に使うとなると防衛側が戦力不足から押し切られてしまい、例え塔を破壊できたとしても残されるのは蹂躙され破壊された自治区というわけである。それでは到底勝利とは言えないだろう。
「正直に言うとゲヘナに攻勢に出る余裕は無いわ。風紀委員と
サツキの報告はゲヘナが非常に窮しているという事実を伝えるものだ。風紀委員からシャーレに派遣される人材がいないのは、それをする余裕がないということの表れである。
「トリニティはゲヘナほど窮しては居ないよ。ただ、組織が一元化されていないから少々効率的とは言い難いし、予備兵力についても言うほど余裕はないね」
「正義実現委員会、ティーパーティー、シスターフッド、自警団、救護騎士団の合同ですからね。聖園ミカや剣先ツルギのような特記戦力はそれぞれリーダー格ですから、投入も難しい」
トリニティは武力組織の多さが強みであったが、互いに牽制し合うという構造の都合合同作戦というものが難しい。エデン条約の時は何とかボロが出なかったが、総力戦となっている現状ではやはり無理が生じているようだ。
「ミレニアム……いえ、私はこのような事態が起きる事を想定して備えていたわ。戦闘用ドローンの開発や生産設備の整備、拠点の設営……」
「その甲斐あってか、ミレニアムは封じ込めに成功しています。また、生産ラインの稼働によって戦略物資の生産も順調、既に第一ロットが出荷可能状態にありますね」
「リオ会長の心配性も結果としては正しかった……というわけにはなりますが、お金の件は本当に反省してくださいね?」
「……ええ」
そしてミレニアムは2校と比べてリオが事態に備えていた事もあり、情勢としては一番安定していた。AMAS軍団や特殊装備を保有する保安部精鋭は敵の侵攻を完璧に封殺し、C&Cという最高戦力をフリーにする余裕だってある。
これも全部リオのおかげであるが、その成果の代償はセミナー予算の横領である。ノアは万が一にもリオが慢心せぬように、二度とそんな事はしないようにとしっかり釘を差す。リオは一瞬だけシュンとしたが、言われても仕方のないことだという自覚はあった。
「D.U.は安定しています。先程の戦闘で敵の大兵力を破壊したので、あちらから攻めてくる動きはほぼなくなりました。ただ、こちらから攻め込む戦力もありません」
「この間の事件の時に連邦生徒会長捜索を縮小していて正解でした。人員をあちらに取られたままでは大変なことになってたはずです」
続けてカンナがD.U.における戦況を報告する。避難民保護のために行った一連の作戦は展開している敵主力をほぼ壊滅させるという成果を出し、それによって敵が攻勢に出るという可能性を潰したため、戦域は安定状態にある。
この結果にカヤは安堵し、先の偽メタルウルフ事件の際にヴァルキューレの実働人員を増強したことが功を奏したのだと平たい胸をなでおろす。あの決定を下さなければ果たして今避難民達はどうなっていたか、考えるだけでゾッとするものだ。
「それで、アビドスとアリウスは自治区の戦力が完全に撤退……」
「いやぁ、あれはちょっとね……好きで撤退したわけじゃないんだよ。そもそも5人しか居ないんじゃ対抗できるわけ無いし」
「そう言えば、アリウスの生徒は……」
アビドスとアリウス、学園の戦力が完全に撤退した両自治区は現状どのような状態にあるのか不明であり、唯一情報をもたらした無人偵察機の映像も新鮮なものではない。撤退を咎められていると感じたホシノは少しムッとして言い返すが、もう1つの撤退校であるアリウスの生徒はこの場には居ない。
実のところまだトリニティから到着していないのだが、待つ時間も勿体ないという理由で作戦会議は行われていた。無論合流すればその話を聞き、どうするべきかを考えることになる。そして、次の話に行こうとした所、会議室の戸が開く。
「……申し訳ありません、少々検査を受けていました」
入ってきたのはアリウスの連絡係に任命されたヒヨリ―――ではなく、塔が人の精神を蝕むということが判明したため、急遽精密検査を受けることになったリン。一応仮眠は出来たため目の下の隈は小さくなってはいるが、疲れは抜けきっていないようだ。
「リンか、もう大丈夫なのか?」
「はい、問題はないとお墨付きをもらっているので業務に復帰します」
「無理はしないでくださいねリン、本格的に倒れられたら仕事量で私が死にます」
リンの復帰を歓迎するマイケルとカヤ。しかし一度不調を発した以上、2度目もあるかもしれないとその体調を心配することは忘れない。
「ええ、もちろん……それと、先程アリウスの生徒が1名到着されたようですが……」
「え、えへへ……その、もうお話終わっちゃいましたかね……?」
そしてリンに続き会議室に入ってくるのは、まだアリウス高校の制服が決まっていないためにスクワッド時代の服装のままのヒヨリ。相変わらずのネガティブな雰囲気を醸し出しつつ、いつものように薄ら笑いを浮かべていた。
「いや、今からアリウスについて話を聞きたいと思っていたところだ」
「あ、そうなんですね……えへへ、話が終わってたら本当にただの役立たずの無駄飯ぐらいになるところでした。あ、ところで何か食べるものはありませんか? アリウス自治区から脱出した時から何も食べていなくて……」
同時にヒヨリの腹の虫が鳴き、少し恥ずかしそうに彼女は頬を赤らめた。
「あー……頼めるか?」
「はい、承知しました」
連邦生徒会の役員の一人にマイケルが頼むと、彼女は給湯室へと向かう。少しして戻ってきたその手にはパンとペットボトルのお茶が握られており、ヒヨリは目を輝かせて受け取ると、あっという間に自分の口の中へと放り込んだ。
何度もかじり、咀嚼して飲み込む。詰まらないようにお茶を飲むということを繰り返すこと数度、パンを食べきった彼女は口元にパン屑を残しながらマイケルの横に立つ。
「それで、アリウス自治区の現状……でしたっけ?」
「アツコとの通話で私はある程度は把握しているが、多くのメンバーは聞いていないからな。きちんと説明を頼むぞ、スピーチの練習だ」
「は、はい」
その場にいる全員の視線が集中し、緊張した面持ちのヒヨリは、しかし生徒会書記としてハッキリとした口調で話を始めた。
「アリウス高校は自治区から撤退しました。ですが、一人も欠けることなく全員が無事に脱出していて……ええっと、トリニティのナギサさんとは連絡がついて、一先ずはあちらに保護されている形になります。一応自治区への道は塞いでいませんが、戻ることに関しては……サオリ姉さ……副会長もあまり気乗りはしない様子でした」
「敵がカタコンベを辿って攻めてくる気配は?」
「それは……無いです。自治区から逃げるときも敵が追いかけてくる気配は無かったので、一応は大丈夫かと……」
ヒヨリはそう言い、残ったお茶を口にする。アリウスの現状は悪いが想定されていた最悪よりかはずっとマシであり、そこに付け入る隙が見出せそうである。
「ふむ、ありがとう。以上、塔が出現した地域からの報告を元に安定化の優先順位をつけることにしよう。ただ勘違いして欲しくはないが、これは選り好みをしているわけではなく、不安定地域から先に片付けなければ被害が拡大するという都合、仕方がないものだ」
「ええ、それはもちろん理解しているわ」
「この事態だ、そういう事が生じても仕方がないだろうね。残り時間が100時間しか無いというのは歯がゆいものだよ」
リオとセイアは場合によっては対応を後回しにするというマイケルの言葉に反発するわけでもなく、仕方のないものだと受け入れていた。
ホシノとしてはアビドスを優先してほしいという気持ちはあったが、防衛室が行った航空偵察の結果市街地への侵攻が行われていないという事実が判明したこともあり、ほんの少しだけの心の余裕が生じていた。
ヒヨリは過酷な生活に慣れていることもあり、解放を後回しにされることには不満はないらしい。ただ、アリウスの皆が食うのに困ることがあっては困ると強くセイアに伝えており、その要求を受け入れるとしたことで納得したようだ。
「現在ゲヘナ自治区の防衛線は危機的状況にあり、早期の介入を必要としている。連邦捜査部S.C.H.A.L.Eとしては直ちに向かいたいところだが……」
腰に手を当て、堂々と仁王立ちしながらマイケルは言う。その背後のスクリーンにはヒノム火山の周辺地図が映し出されており、ゲヘナ側の戦力配置や塔の位置、敵の配置などが記されている。彼はサツキへと顔を向けると、渋い顔のままに聞いた。
「サツキ、現状ゲヘナはどれくらい持ちこたえられると思う? 今日一杯持つか?」
問われたサツキは考え込む。ゲヘナの戦力、敵の圧力、全ての要素をを計算した彼女は顔を上げて答える。
「……一応、そのくらいならば出来ると思うわ。でも、風紀委員長が息切れを起こしたらそれで総崩れを起こしかねない。そう考えるとあまり時間は長くは見積もれないわね」
「それは申し訳ない事をしたな。塔の破壊に関しては追々考えるか、現場判断でどうにかするしかなさそうか……私が行ければ話は早いんだが」
腕を組み、顔をしかめてマイケルは考え込む。正直な所自分が突っ込めば大体片がつくという自信はあったが、自治区を跨ぐ移動は長時間かかるため迂闊に動くことが出来ぬという問題がある。ヘリでの輸送も居住性や機動性の問題があるため、連続しての移動が想定される状況ではあまり使いたいものではない。
「一先ず、救援の優先順位はゲヘナ、トリニティ、アビドス、アリウス、D.U.そしてミレニアムといったところか。ここからゲヘナに行くのに準備も込みで2時間ほどかかるとなると、あまりこの会議に長居もできないな」
「先生がいないと会議がまとまりそうに無いんですが……作戦手順とかは決めてもらわないと困ります」
「むっ……」
マイケルの思考は既に出撃を前提としたものとなっている。ただ、彼が居ないと会議が進まなくなると危惧するカヤは最低限は決めてほしいと懇願した。彼としては今すぐにでも救援に飛び出たいところだったが、そうすると後々困ることになるということを理解するだけの冷静さは残っていたため、今すぐ会議室を飛び出す真似はしなかった。ただ、これが8年前なら飛び出していたかもしれない。
「……とりあえず、だ。できる限り兵力を前線に集中させて戦線を安定させたい。百鬼夜行、山海経、レッドウィンターは即時に行動を起こせるか?」
彼の質問にモニターの向こうにいる3校の生徒会長達は思案する。ニヤとチェリノの隣に控えている
『そうですね~百鬼夜行はもう少し……せめてあと半日位はかかるかと』
『レッドウィンターはいつでも出撃可能だぞカムラッド! どこへ向かわせれば良いんだ?』
連合学園である百鬼夜行と、事務局による一党支配であるレッドウィンター、生徒の動員の早さはやはりレッドウィンターの方が上だ。そして沈黙を守っていたキサキは、両校の報告から少し遅れて答える。補佐の生徒の助言を必要としないのは母校の内情をほぼ把握しているからだろうか。
『玄龍門の執行部隊はいつでも出すことができるぞ先生、望む場所に今すぐにでも』
「ほう……流石だな、ではゲヘナに―――」
2校の兵力をゲヘナに向かわせて安定化を図る―――そう言葉を続けようとした時、突然シッテムの箱から大音量で着信音が鳴り始める。画面に目を向けるとアロナが慌てた様子で受話器を手にしていた。これは各学園の生徒会長のみが使用できるホットライン通話が来たことを意味する。
『先生! ゲヘナのマコトさんから緊急の連絡です!』
「マコトから?」
マイケルが差し出された受話器をタッチすると、通話画面に切り替わる。ビデオ通話画面ではなく音声通話であり、マコトの顔は見ることは出来なかった。
『先生、私だ。羽沼マコト様だ』
マコトの声はひどく落ち着いているが、しかしそれ故に何かあるとマイケルは感づいていた。サツキの報告からしてゲヘナで何かまずいことが起きたのではないかと
「マコト、今何処にいる?
嫌な予感を覚え、せめて違ってくれと思いながらマイケルは問う。そして数秒の沈黙の後、マコトは観念したように答えた。
『キキッ……流石は先生だ。黙っておきたかったが、バレているようでは仕方がない』
「何があった」
『つい30分ほど前、ヒノム火山のイロハから連絡があった。敵が防衛線を突破し、そのまま市街地に向かっているそうだ』
「そんな、どうして……!?」
マコトからの通話と聞き、マイケルの後ろからシッテムの箱を覗き込んでいたサツキはゲヘナ防衛線の崩壊を知り驚愕する。まだ余裕があると見ていたはずなのに一体何が起きたのか、彼女の疑問に答えるものは居なかった。
『風紀委員も我が
「マコト……!」
マイケルは確信した、マコトは戦うつもりなのだ。それこそ最期の瞬間まで、ゲヘナを守るためにその生命を賭すのだと。
『……そこにイブキはいるか?』
「マコト先輩!」
イブキを呼び、その声を聞いたマコトは安心したのか通話に息を吐く音が交じる。それから数秒の間を置き、彼女は話を続けた。
『イブキ、これから暫く私は忙しくなる。シャーレではサツキや先生の言うことを良く聞き、いい子で居てくれ』
「うん、わかった! マコト先輩もお仕事頑張ってね!」
『ああ、それと……実をいうとイブキに謝らなくてはいけないことがあってだな』
「なーに?」
『先日、イロハのものと間違えてイブキのプリンを食べてしまった……すまないイブキ、私が悪かった!』
「イブキのプリン、楽しみにしていたのに~! マコト先輩なんて知らない!」
「あっ、ちょっと、走らないで!」
そのままイブキは会議室を飛び出す。連邦生徒会の生徒がその後を追いかけ、残された生徒たちは今のは一体なんだったんだと言った様子で視線をマイケルの方へと戻した。
「マコトちゃん……まさか、死ぬつもりなの?」
サツキは震える声でマコトに話す。
『キキッ……どの道、後方部隊では長持ちなどしないだろう。奴らはすぐそこまできているが、私はゲヘナを見捨てて逃げる真似はしない。それに、この程度で逃げ出すようではヒナに笑われてしまう』
マコトの覚悟を聞き、その場にいる全員が息を呑んだ。母校を守るために命を賭けるその姿勢は今までのマコトのイメージを上書きするのに十分だった。
「マコト、ヒナは……」
『ヒナなら最前線に居る。あいつのことだ、どうせ今も敵を薙ぎ払っていることだろう。あいつの実力は私が一番良く知っている。それでも抜かれたということは唯一の弱点を突かれたに違いないな、空崎ヒナは一人しかいないという弱点を』
「…………」
何時もであればヒナへの文句の1つも言う場面だろうが、それをしないあたり今のマコトはいつもとは違う。そして、彼女はこれが最後と前置きして話を続けた。
『援軍が間に合わなかったことで先生を責めるつもりはない。元よりキヴォトスの学園というものは自治が基本、己の力のみで事態に対応するのが長年のやり方だった。シャーレのような組織のほうがよっぽどイレギュラーなのだ。つまり、前線を抜かれたのは我々の力不足だったということだな』
学園の自治についてはマコトは一家言のある人間である。決して矯正局に生徒を送らないというゲヘナの方針はその現れだろう。
『それを踏まえて私は先生に頼みたい。ゲヘナの自由と混沌を尊ぶ校風は私が作り上げたものだ、ここで途絶えさせたくない……』
「マコト……!」
『だから、先生にはゲヘナの生徒を保護してもらいたい。たとえ一人でも生き残っていればこのマコト様のゲヘナは残り続けることになるからな』
「……わかった」
マイケルはマコトの願いを聞き入れ、胸に手を当てて答えた。するとあちらの方では戦闘が始まったのか、雷鳴の如き砲声が鳴り響き始める。続けて銃声、怒声。怒涛の如く押し寄せる敵はついに彼女の居る最終防衛線に到達したのだ。
『マコト議長、敵が来ました!』
『ようし、撃て! 撃ちまくれ! 羽沼死すともゲヘナは死せずだ!』
『ここを突破されたらあとがないぞ!』
『敵接近! 絶対に――――』
「……マコト、マコト! くそっ、通話が切れたか」
最後、敵の迫る音が聞こえ始めたところで通話が切れる。マイケルは忌々しげに顔を顰めながらシッテムの箱を机の上に置いて椅子の背もたれに深く寄りかかると、額に左手を当てながら天を仰いだ。
「……
「せ、先生……」
マイケルが荒れているのを生徒が見るのは初めてで、どう声をかけるべきかわからない。その場にいる皆が互いに顔を見合わせてどうしようと囁き合う。まるで腫れ物扱いされているような状態の中、彼はひたすらに考える。どうすればゲヘナをこの状態から助けることができるのか、ただそれだけを。
(考えろマイケル、どうすればゲヘナに間に合う? ヘリでは遅すぎる……それに、準備にも時間がかかる。ロケットは発射施設がD.U.には存在しない、陸路は論外だ)
エアフォース・ワンでもあれば違うかも知れないが、無いものをねだっても仕方がない。彼が戦略機動性について頭を悩ませていると、ふと顔を上げた時に黒衣のシロコと視線が交わる。その瞬間、彼は雷に打たれたような衝撃を受けて立ち上がった。
「シロコ!」
「えっ、私?」
突然名を呼ばれ、ぽかんとするのはアビドスのシロコ。そんな彼女の姿を見てマイケルは申し訳なさそうに頬をかいて訂正する。
「あー……すまん、大きな方だ」
「ん、私の方?」
「あの……先生? そちらの生徒はどなたでしょうか……」
皆の視線が黒衣のシロコに集中する中、ケイがおずおずといった様子で手を上げて質問をする。見た所アビドスの生徒のようだが、アビドスの全校生徒数は5人。先程ホシノがそう言ったばかりであり、制服を来ているのは5名。黒衣のシロコはそれには含まれない。
では彼女は何者なのか、その疑問を抱くのは当然だろう。他の皆もそう言われればという様子で黒衣のシロコを見る。どう答えるべきかと彼女が考える中、マイケルは誰よりも早く口を開いた。
「あぁ、彼女が先程話した滅ぼされたキヴォトスの生徒だ。砂狼シロコ、こちらのシロコとは一応同一人物になる」
「ん……」
「なるほど……」
説明を受け、一先ずは黒衣のシロコの存在を生徒達は正しく認識する。平行世界の存在が並んでいるという普通は見られぬ光景だが、空が赤く染まり世界の滅びが近づく現状においては「そういうこともあるよね」レベルの話でしかない。
「シロコ、君は空間に穴を開けて移動できたよな? それは他人も通せるのか?」
「うん、出来るよ」
マイケルの質問に黒衣のシロコは頷いて答える。先程タエコを救うためにゲートを使ったこともあり悩む必要ない。それを確認した彼はさらに質問を続けた。
「私のメタルウルフを通すことは出来るか?」
「うーん……」
黒衣のシロコは悩む。今まで自分が通れるレベルの大きさの穴を開けるだけで十分だったが、あのパワードスーツを通せるほどの大きさに広げられるのだろうか。意識したことがない故に彼女は断言することは出来ずにいた。
だが、彼が求めている事は明白だ。黒衣のシロコはそれ故に答える。
「多分、出来るんじゃないかな。確証は持てないけど」
「……そうか!」
その答えにマイケルの頬が思わず緩む。希望が見えてきた、そういう顔だった。
「空間に穴?」
「どういう事?」
一方、蚊帳の外に置かれていた生徒たちは二人の会話の中身を理解できずにいた。空間跳躍、所謂ワープについて話しているとは到底想像もできないだろう。ただ、ミレニアムの面々―――特にリオとケイは興味津々といった様子で食いつく。
「空間跳躍ができるというの? それ、是非とも私達に測定させてもらえないかしら」
「体系化できれば大きな進歩になりますね」
「ん……」
まるでインタビューをする勢いで迫る二人に黒衣のシロコは思わず後ずさる。だが、その間にマイケルが割り込んで二人を落ち着かせようとした。
「落ち着け、マジシャンの種明かしを求める気持ちは判るが、今はその時じゃない。ゲヘナを助けるためには1秒も惜しいんだ」
「……そうね、確かに先生の言うとおりだわ」
サツキはマイケルの言葉に納得した様子を見せた。ゲヘナの危機に1秒も惜しいというのは彼女も同じで、そのために彼が何をしようとしているのかを正しく理解していた。
「……私とシロコがゲヘナ自治区にワープで移動する。ゲヘナの生徒を一人たりとも死なせてなるものか、若者が死ぬのは二度と御免だ」
マイケルは既にたとえ1人であろうと戦う覚悟を決めていた。皆に無茶だと言われようとも、彼が返す言葉はただ1つである。そんな決意を固めているマイケルにサツキは一旦目を伏せ、直後その顔を見上げて口を開いた。
「本気なのね、先生」
「止めても無駄だぞ、こいつは私にしか出来ないことだ……ならば、私がやるしか無いだろう」
彼の言葉を聞き、サツキもまた決意を固める。マコトは自分にゲヘナのことを託したつもりだろうが、ゲヘナのトップはマコト以外あり得ないというのが彼女の考えだった。だから求めるのだ、彼に救いを。
「……お願い先生、マコトちゃんを、ゲヘナの皆を助けてあげて」
「
作戦会議はまだまだ途中ではあるが、ゲヘナが危機的状況にある中ではそうも言ってはいられない。マイケルは既に席を立ち、シッテムの箱を掴んで会議室を出ようとしている。だが、それを引き止めるようにリンが声かけた。
「先生……どうか、ご無事で」
その背中にかける言葉にマイケルは少しだけ驚きを感じていた。リンがそんな事を言うのは初めてであり、今までにはなかったことだ。
その理由を直接聞いたところで答えるはずもないが、彼女としてはここで呼び止めなければ彼が遠くへ行ってしまうような気がしていた。まるで連邦生徒会長みたいに消えてしまうのではと、そんな不安を彼は察したのかは分からないが、振り向いた彼の顔は穏やかなものだった。
「ああ、もちろんそのつもりさ」
マイケルはリンに向けてウインクし、急いで黒衣のシロコと共に会議室を後にする。そしてエレベーターを使い格納庫のある階層へと向かうと、整備員の生徒達がメタルウルフを綺麗に磨いているようだった。彼女たちも連邦生徒会の職員であり、マイケルの存在に気づくと振り向き敬礼する。
「お疲れ様です! 装甲の傷とかリペアしておきましたよ、これからワックスをかけようかと思いましたが、もしかして出撃されるのですか?」
「ああ、ちょっとゲヘナに行ってくる。武器を出してくれ、とっておきをな」
「あっ、はい!」
生徒たちはマイケルの指示に従い壁へと向かうと、そこにあるスイッチを押す。すると壁が開き中には大量の武器が並べられていたが、どれも特殊機動重装甲用のサイズである。それから彼はメタルウルフに袖を通すと、並べられた武器の中から6つをチョイスし、コンテナの中へと収納した。
「マシンガンにバズーカ、ミサイル、レールガン……どんな敵にも対応できるいい装備ですね!」
装備のチョイスを評価し、笑顔を浮かべる整備員の生徒にマイケルはサムズアップで答える。そしてエレベーターへ誘導するべく彼女は誘導灯を手にした。
「ゲヘナまで行くということはヘリを使うんですか? エレベーターまで誘導します!」
「いや、必要ない」
「えっ?」
そのまま外に出るエレベーターまで案内しようとした生徒だったが、まさか断られるとは思っておらず思わず間抜けな声を上げてしまう。そんな彼女の眼の前では黒衣のシロコがメタルウルフの前に立ち、すっと右手を上げて指を鳴らす。
空間に突如として開く大きな穴。メタルウルフも屈めば入れそうな程のサイズまで広がったその向こうには、今だ無事なゲヘナの街並みが見えていた。
「どうやらパーティーには間に合いそうだな。さあシロコ、パーティーに飛び入り参加するぞ!」
「うん」
気合を入れて二人は飛び込み、そして穴は忽然と消える。整備員の生徒は何が起きたのか理解できぬまま、呆然と二人が消えた地点をずっと見続けていた。
因みにえらいことになってるのはジャンルの崩壊とテクスチャが剥がれたこと、そしてクロスオーバーのせいですね。だが私は謝らない。
話は変わりますがゲヘナカップすごい良かったですね。ああいう青春ストーリー書けるようになりたいです。