マコトさん率いる部隊が足止めをしていますが、正直な所突破されるのは時間の問題でしょう。
また、ヒノム火山でも大規模な戦闘が確認されています。恐らく、ゲヘナ学園の主力がそこで足止めされているのだと思われます。
全ての敵を撃破し、ゲヘナの生徒さんを助けてあげましょう!
なお、今回の作戦名は――――
”ゲヘナの自由はここにあり作戦”
です! 先生、ご武運を!
ゲヘナ自治区市街地の郊外、もっともヒノム火山に近いこの場所はまるで火山が噴火したかのような爆発により多くのクレーターが生じ、立ち上る土煙によって視界は極めて悪い。だが、ここを抜かれてしまえば市街地を守るものは何もなく、生徒たちは自分たちの自治区を守るべく絶望的な戦い身を投じていた。
アハト・アハト、所謂88mm砲が迫る敵集団へ何度も何度も砲弾を叩き込み、その度にクレーターが増えるが敵は勢いが弱まる気配を見せない。装填手の腕がパンパンになるほどに連射し、尚途切れぬ敵の攻撃はまるで津波を思わせるものだ。
「うわっ!?」
「5番砲
連射のしすぎて砲身が過熱し、発射の瞬間に砲弾が爆発する砲も出始める中、ゲヘナの防衛線は少しずつ食い込まれていく。機関銃を持つ生徒は全員が前線に出向き、ここに居るのはライフルを持つ生徒ばかり。大量の敵を迎え撃つにはあまりにも火力が少ない。砲撃の支援がなければまたたく間に飲み込まれてしまうだろう。
「怯むな! ゲヘナの意地をキヴォトスに刻め!」
「おおっ!」
マコトが檄を飛ばし、それに応じるように
激しい砲火、銃弾が飛び交う中、敵の前線はじわりじわりと最終防衛線へと近づいていく。その距離はもはや僅かなものでしか無かった。
「総員着剣しろ! 来るぞ!」
ついに敵との白兵戦を行う距離となり、銃剣を付けた生徒たちは迫る無名の守護者達へとライフルを突き立てる。白刃は金属の装甲板を貫き、致命傷を与えて機能停止に追い込むことに成功するが、その動かなくなった骸を踏み越えてさらに別の敵が迫る。
またある生徒は銃床を振り回してクラゲ型の守護者を殴り倒す。キヴォトス人の膂力ともなれば普通の物理攻撃とて弾丸の如き一撃を叩き込む事ができるのだ。だが、個人の武勇など戦場においては点にすぎず、面で追い込めば崩れてしまうものでもあった。
「マコト議長! これ以上踏みとどまれば敵に飲み込まれます!」
「決して下がるな! 我々の背後にはゲヘナの街があるのだ、あのような連中に蹂躙させるな!」
そんな中、マコトは決して後退すること無く踏みとどまっている。後退を進言する部下を押しのけ、特注の銃を使うその姿は今までのマコトからは想像もできないだろう。だが、3年生の生徒たちは待ってましたと言わんばかりにマコトと肩を並べて戦う。
彼女の射撃はまるで針に意図を通すかのように緻密で、守護者のセンサーをたった一発で撃ち抜き擱座させていく。その集中力は途切れる様子を見せず、次から次へと迫る敵をことごとく撃破していくその様子は空崎ヒナに匹敵するだろうか。
2年生の生徒が呆然とその様子を見ていると、突然肩を叩かれハッとする。振り向くと3年生の先輩がニヤついた顔をしながら覗き込んでいた。
「今のマコト議長はかなり本気出してるよ。お前は見たことないだろうが、本気を出した議長は空崎ヒナにも劣らないレベルの強さを見せるんだ」
「えぇ……?」
「ま、滅多なことでは本気を出さないがね。そら、手を休ませるなよ!」
マコトの奮戦によって生徒たちは士気が高まり、本来あっという間に抜かれる程度の戦力しかない最終防衛線は維持されていた。まさに一人の英雄が周囲に好影響をもたらす典型例といえるだろうが、しかしそれでも限界というものは存在する。
「弾は、弾はないのか!?」
「これが最後だよ! あとは殴ってでも倒せ!」
「くそぉ!」
弾薬の欠乏、増え続ける敵、倒しても倒してもキリがない状況は長く続くはずがない。88mm砲の最後の一門が砲弾を使い果たして沈黙すると、先程まで撃ち減らされていた分の敵が一気に押し寄せてきた。
生徒たちは白兵戦で抵抗を続けている。マコトを筆頭に各々持てる限りの力を振り絞って戦うが、ついに周囲を敵に囲まれてしまう。それでも尚彼女たちは足掻き続ける。最期の瞬間まで決して諦めること無く。
「はぁ……はぁ……」
絢爛な
「まだだっ!」
近づく四足の守護者に対して長い脚を活かした蹴りを叩き込み、吹き飛んだ先のクラゲ型の守護者へとぶつける。まだ戦えるのだと、たとえ銃がなくとも人間は4本の手足があればやれるのだと周囲にアピールする。
だが、それは相手が近接戦に付き合わなければ無謀なものでしかない。さらに敵へと飛び込もうとしたマコトは守護者からの集中砲火を受け、被弾の衝撃で手足が踊る。手にしていた「唯我独尊」は音を立てて転がり、ついに彼女は膝をついた。
「がはっ……はっ……」
「ぎ、議長……」
他の
「!?」
「い、今のは……!?」
一体何が起きたのか。生徒たちは何とか音がした方へと顔を向けるが、周囲を囲まれていたため倒れている彼女たちからは何も見ることは出来ない。しかし、
「Woooohooooo!」
それは濃紺色の鋼の巨人。シャーレの先生、マイケル・ウィルソンが操る
時計の針はわずかに戻り、ゲヘナ自治区の一角。突然空間に黒い穴が空き、中から2つの人影が飛び出す。片方は普通の人の大きさであるが、もう片方は一回りも二回りも大きい。
「……アロナ、現在位置を確認してくれ」
『はい、ほんの少しだけ時間をください』
現れた人影―――メタルウルフと黒衣のシロコは、周囲を見て自分たちがゲヘナへの空間転移が成功したことを認識するが、どうやら狙っていた場所ではないようで、マイケルはアロナに現在位置を調べるように指示する。GPSで位置を確認したいところだが、この空の下ではどうやら働かないらしい。
「ん……ごめんなさい、正確な場所がわからないからちょっと場所が適当になっちゃった」
「いや、ゲヘナにきちんと行けただけで上出来だ。それに、言うほど的外れの場所ではない」
ゲヘナのイメージが曖昧なままワープしたせいで何もない所にでてしまった事をシロコは謝罪するも、聞こえる銃声や砲声から戦闘地域がそれほど遠くにはないということを確信したマイケルは器用にメタルウルフの手で彼女の頭を撫でる。
それから数秒の後、アロナはメタルウルフの現在位置をアップデートし戦術マップを更新した。戦闘地域は数キロ先、ヒノム火山にもっとも近い郊外の主要幹線であるらしいが、マップを見る限り防衛線は突破されて敵が市街地に入り込みつつあるのを彼は見逃さなかった。
「マコト達は無事か?」
『まだ反応はあります。ですが……』
「市街地にも敵が入り込みつつある、か。問題ない、ローラーコースターみたいにかっ飛ばして全部片付ければいい」
「ん、私も戦闘準備万端」
「よし、ではシロコは上に乗ってくれ。全速で突っ込むぞ!」
まずは市街地に侵入してきた敵を全て排除し、その上でマコト達も救出する。取るべき作戦は一点突破、シロコを肩の上に乗せた彼はブースターを噴射して路上をまるでローラースケートで滑るかのように進んでいく。
本来は多くの人々が行き交うゲヘナの道は今や人気はなく、周囲の店舗もシャッターがしまっており休業状態にある。住民の避難は進んでいるようで、メタルウルフのセンサーは周囲に人の反応を認めなかった。
「んんっ、覆面でもつけていれば良かった。風が強すぎる」
「快適装備は非対応でね、申し訳ない!」
街並みが高速で後ろに流れていく中、向かい風に目を細めるシロコはメタルウルフの頭にしがみついて振り落とされないようにしている。それから数分、目的地近辺まで近づいたところで戦術マップに反応が生じる。この状況では間違いなく敵だろう。
「……待って、銃声が近い」
「何だって!?」
シロコの耳が僅かに反応を示し、それを受けてマイケルは慌ててブレーキをかけた。その反動を使って飛び降りたシロコは耳をピコピコ動かすと、顔を路地の方向へと向ける。まだ少し離れている主戦場とは違う場所から、それほど多くはない銃声が確かに聞こえてきた。銃声の数からして4人ほどだろうか。
「あっちで戦いが起きてる。確認できる?」
「待て……ああ、敵の反応が多すぎたが生徒の反応が埋もれている。敵を倒すついでに救出に行くぞ!」
マイケルが戦術マップをズームすると敵の反応の中に小さく生徒を示す光点が見えた。彼は即座にブーストで跳躍し、建物を飛び越すように路地へと向かう。シロコもその後を追うように走ると、当然のことながらマイケルが既に路地に入り込んでいる敵集団へと攻撃を仕掛けていた。
「弾丸をたっぷり食らわせてやるぜ!」
M61A2バルカンを掃射し、20mmの暴雨がまたたく間に四つ足の守護者を打ち砕く。数十は居たであろうその集団は10秒も掛からずにスクラップへと変貌し、先程まで交戦していた生徒たちは唖然として上空から降りてくるメタルウルフを見上げる。
「……おやおや、ハルナ達か。一体どうしたんだ、飲食店は全店休業中だぞ」
空中でホバリングしていたマイケルはその集団が美食研究会であることに気づき、ゆっくり着陸すると少し呆れた様子で声をかけた。自治区では皆避難しているというのに何故外をほっつき歩いているのか、その理由はおおよそ予想できるが、確認を込めてのものだ。
「あら先生、お久しぶりですわね。ええ、何故私共がこのような場所にいるのかですが―――」
「ああ、詳しい説明は不要だ、今は時間がない」
説明をしようとするハルナであるが、美食研の活動の正当化の言い訳になるのではないかという懸念があったことと、そういう話を聞いている時間的余裕はないため釘を差す。すると彼女は少しばかり機嫌を損ねたようで、ふくれっ面を見せた。
「むぅ、釣れませんね……まあ、わかりやすく答えますと、こちらのお店は私共のお気に入りのお店でして、店主はこの事態に避難してしまいましたが、せめて私共の手でお店を守ろうと思いまして」
そう言い振り返る彼女の視線の先にはシャッターこそ閉まっているが、飲食店の看板が見えた。店の佇まいからかなりの年季が入っているようで、ゲヘナ自治区においてそれは美食研の洗礼をくぐり抜けたことを示すものである。
本当に語った通りの理由でここに居るのならば美談なのだが、相手は美食研だ。前科*1があるため言葉を額面通りに受け止めることなど彼には出来なかった。
「……それだけじゃないだろう」
「ええまあ、守りきれなかった場合は食材を無駄にしないためにも回収しようという算段もありました。このお店は高級食材をふんだんに使うものですから、勿体ないではありませんか?」
カマをかけてみると、ハルナはあっけらかんとして素直に裏の目的を語り始めた。こんなときでもブレぬ美食研究会の態度にマイケルはたまらず頭痛を感じる。
店を守るのはいいが、食材を持ち去るのはただの略奪だろうというツッコミが喉から出かけるが、彼女たちにかける時間は殆ど無い。シロコも呆れた様子でメタルウルフを見上げる。一体どうするのかと聞いているかのようなその視線に彼は肩を竦めてみせた。
「店を守るだけなら言う事はない。だが、今からここの敵は全て駆逐するから君たちも避難したまえ。それじゃ、私はもう行くぞ」
「先生、もう行っちゃうの?」
背を向けて郊外へと向かおうとするマイケルの背にイズミが声をかける。何時もであれば風紀委員と協力して止めに来る彼が今は何もするつもりが無いというのは様子がおかしい、それが彼女たちの認識だった。
「すぐそこで
「うん、急ごう」
彼は簡潔に答えると、シロコを再び肩に乗せてブーストジャンプで空へと消える。その姿が見えなくなった後、美食研の最年少であるジュンコはハルナへと顔を向ける。これからどうするつもりなのかと問うようなその表情に彼女は少しばかり考える仕草をしてみせた。
「
「そんなわけ無いじゃない、他の生徒連れてデートとかデリカシーなさすぎでしょ! どうせいつものように喩えとして出してるだけじゃないの?」
「そう言われればそうでしたね。つまり、先生は今は
「ちょっとちょっと、何意味深な事言ってるのよハルナ! まさか色ボケしたとかそういう!?」
ジュンコは妙な発言をするハルナの正気を疑うが、付き合いの長いアカリはその発言の真意を汲んだのかニコニコ顔のままに話に割り込む。
「ジュンコさん、ハルナに限ってそんなわけ無いじゃないですか。美食を追求するのに良い機会だと彼女は言いたいわけですよ」
「アカリさんの言うとおりですわ。先生がああして出張るということは、きっとトリニティの時のように激しい戦いになることでしょう。目一杯暴れてお腹をペコペコにすればどんなものでも美味しくなるか、試してみる価値はあるのではないでしょうか」
「なるほどー、一理あるね!」
ハルナの提案にイズミは深く考えずに同意する。アカリも異論は無いようだが、ジュンコは渋い顔をして乗り気ではない。トリニティの時、アカリがミカに
「美食とは常に安寧とともにあるものではありませんよジュンコさん。時として危険を冒さなければその境地に達することは出来ません」
「う、うーん……」
「それに、先生の放送ではあれは侵略者というではありませんか。キヴォトスの食文化を守るために戦うのも立派な美食の追求ですわ」
「そうかな、そうかも……」
「そうと決まれば、先生の後を追いましょう!」
「おーっ!」
ジュンコは結局ハルナに丸め込まれ、イズミは果たして何をしようとしているのか理解できているかは疑問符がつく。だが、ハルナとアカリの二人は明確に
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美食研と別れた後、二人は道すがらに現れた敵を次々に撃ち倒していく。バルカンの掃射をする音が流れる度に不揃いな
ヒノム火山はかなり荒涼とした山であり、植生は少なく火山灰が降り注ぐ土地である。そこに一番近いエリアは建築物も少なく、かなり開けた場所であった。確かにこのような地形ならば防衛線を敷くことも出来るだろう。しかし今、二人の放つ銃声以外の戦闘音は一切が消えていた。マイケルの表情が途端に険しくなり、彼はアロナに向けて指示を出す。
「アロナ、状況を知らせてくれ」
『これは……戦闘が終わっています。間に合わなかったのでしょうか……?』
「チッ……」
戦闘が終わっているということは決着がついたということである。そして先程までの状況からして、ゲヘナ側が勝利したということはほぼ100%あり得ないということはマイケルも良く理解していた。つまり、防衛側が壊滅したということだ。
脳裏にマコトの顔が浮かぶ。まだ生きていてくれと心のなかで精一杯祈りながら銃弾をバラ撒き続けていると、前方に敵の大群が何かを囲んでいるのが見えた。周囲には破壊された88mm砲の残骸が転がっており、此処が最終防衛線だった場所だということを知らしめている。
『先生、生徒さんの反応があります!』
「OK! シロコ、突っ込むから降りてくれ」
「わかった」
シロコが背中から飛び降りると同時に彼はメタルウルフのブースターを最大出力で噴射し、まるで自らを砲弾に見立てたかのような突撃を図った。しかもただ突っ込むのではなく、左手にもバルカンを保持し、20mmのシャワーを水平に叩き込む。
唸りを上げるモーター、赤い色の奔流が敵集団をまるで高圧洗浄機で汚れを落とすかのように消し飛ばしていき、それによって生じた隙間から彼は生徒たちの姿を肉眼で目視した。彼はブレーキを欠けること無くフルスロットルのままに跳躍し、空中で一回転する際に己を見上げる生徒たちと目線が交わる。
「わあ……っ!」
「せ、先生……!」
皆傷つき倒れてこそ居るが、ヘイローが消えている生徒は居ない。全員が無事であったことにマイケルは大いに叫びたい気分であったが、それよりもまずは敵の掃除が先決だ。ブーストジャンプの勢いのままに着地した彼はアスファルトを激しく削りながら減速し、両手のバルカンを振り回して20mmを手当たり次第にぶちまけた。
「
この全方位射撃によって敵集団は一気に吹き飛び、残るは僅かな数のみ。しかし同時にバルカンは弾切れに至ったのか銃身はカラカラと空転して沈黙する。これをチャンスと見たのか、あるいは命令通りに動いているのか、3体のサソリ型の守護者が突撃を仕掛けてくる。だが―――
「私を忘れてもらったら困る」
先程メタルウルフの背中から飛び降りたシロコが駆け足で到着し、自前の武装ドローンのミサイルを叩き込んで1体はこれで沈黙した。しかしまだ2体が目前まで迫っており、手にした武器は弾切れだ。
「舐めるなよ……!」
マイケルは何の躊躇もなく両手の武器をその場に落とし、ファイティングポーズを取る。パワードスーツであるメタルウルフは人と同じ可動域を有しており、それは即ち格闘術を決められるということだ。そして彼は父親譲りのジュージュツを使えるのである。
「おおっ!」
「ん……良い蹴り。今のは皆伝レベルのもの」
鋭い中段回し蹴りがサソリ型守護者の頭部をまるでボトルキャップチャレンジのように吹き飛ばす。そのキレは凄まじく、見ていたシロコは感心したように言葉を漏らした。だがもう一体、別のサソリ型は彼を狙うのではなく、倒れているゲヘナの生徒へと襲いかかろうとした。
傷つき倒れている彼女たちに回避の術など無い。あと数秒もすれば爪を突き立てられてしまうというところまで迫った守護者だが、次の瞬間その脚が止まる。振り向いた守護者のアイセンサーは大きな尻尾を掴んだメタルウルフの姿を認めた。
「させるかよ!」
「私に任せて!」
身を震わせて拘束を解こうとする守護者だが、そうはさせじとシロコが飛びかかる。ハイヒールでかかと落としなど正気とは思えないが、彼女の一撃は金属製の外板を大きくひしゃげさせ電子頭脳を粉砕したのだった。
がくりと力を失い守護者は横たわる。これで残存していた敵は全て粉砕されたのだとマイケルは安堵して周囲を見た。倒れていたゲヘナの生徒たちは皆身体を起こしてホッとしているようだが、唯一マコトはショックを受けた表情のまま固まっている。
「何故先生がここに居るんだ? 私はまさか夢でも見ているのだろうか……」
「だったらこうすればいいでしょ議長」
「いたたっ!? おい、いきなり頬をつねるな!」
マイケルが眼の前に居ることが信じられぬマコトは急に現実逃避を始めるが、すかさず近くに居た
「夢じゃないのか……」
「生憎夢出張サービスはやってないんでね、皆大丈夫か? 怪我はないか?」
「あちこち痛いけど……この程度キヴォトスでは日常茶飯時ですよ」
「でも今のは危なかったなぁ、ありがとう先生」
マコトが正気に戻ったことで一安心した彼はゲヘナ生徒たちの状況を確認したが、幸い重傷者は居ないようで軽い手当をすればあとは自分でどうにか出来るらしい。ヒノム火山の主戦場に一刻も早く向かいたい彼としてはありがたい話だ。
「先生、来てくれたのはありがたいのだが……一体どんな魔法を使ったんだ? ゲヘナからD.U.までの距離を知らないとは言わせないぞ」
「その説明は後ほどだな、一先ず最悪は回避できたが、それでも旗色は良くないだろう。一刻も早くあれをどうにかしないといけない」
彼が視線を向けたのはヒノム火山の中腹にそびえる赤黒い巨大な塔。発する波動は神経をざわつかせ、この世界を否定せんとする前史文明の遺物。その近くではまだ戦闘が行われている事を示すように山肌にオレンジ色の閃光が現れる。あそこで戦っている生徒たちが居るという事をまじまじと見せつけられ、彼の心に焦りが滲んだ。
「ヒナはあっちに居るで間違いないな?」
「ああ、風紀委員と我が
「……素直じゃないんだね、ゲヘナの議長は」
「……さっきから気になっていたが、こいつは誰なんだ? アビドスの奴に似ているが」
ヒナを心配するマイケルに対し、マコトは誤魔化してはいるもののイロハの事が気になっている様子。それに対してシロコがぼやくように呟くとマコトはそれを聞き逃さずに突っかかった。シロコの事を説明するのは骨が折れるのだが、話さなければ逃さんというマコトの視線に彼は困ったと言わんばかりに眉を下げる。
「私は砂狼シロコ、アビドスのシロコ」
「……嘘をつけ! 明らかに違うだろう背とか!」
「ん、私は嘘は言っていない」
そんな彼の心境など知らぬシロコは自己紹介をするが、マコトにとってアビドスのシロコは会議室で感染体に変貌した部下を撃った奴である。眼の前に居る自称シロコとは明らかに色々違うために納得ができずに大声を上げ、一方シロコは不満げに返した。そして二人同時にマイケルの顔を見る。
「……まあ、あれだ。別のキヴォトスのシロコなんだ、彼女は」
「????」
「あ、これ理解が追いついてないですね」
観念してシロコの正体を軽く教えるマイケルだったが、マコトはまるで宇宙を背にした猫のようにぽかんとしてしまう。その様子を見た先程頬を抓った生徒が解説すると、シロコとマイケルは互いに顔を見合わせて肩を竦めた。