機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第100話 猟犬の系譜を受け継ぐ者【上】

薄暗い会議室の大型モニターには、第4小隊の戦闘映像が繰り返し流れていた。

1人の男が腕を組んだまま、スクリーンに視線を固定していた。

短く整えられた黒髪に、鋭く意志の強そうな双眸。きりりと引き締まった唇と、彫りの深い顔立ちは、冷静さと苛烈さを同時に湛えている。

一年戦争を生き抜き、中尉に昇進した男の静かな威厳が、その佇まい全体から滲み出ていた。

レオン・リーフェイ中尉は腕を組んだまま、スクリーンに視線を固定していた。

その隣には3人の若い隊員たちが座り、緊張した面持ちでモニターの光を浴びている。

映像が暗転して終わると、レオンはゆっくりと席から立ち上がり、部屋の電気を点けた。

白日の下に晒された室内で、彼は硬直する3人の方へと向き直った。

 

「さて……率直な意見と感想を聞かせてくれ。明日の相手、第4小隊についてどう思った?」

 

明るい赤みがかった栗色の短髪を少し長めに流し、活発で健康的な日焼けした肌をした青年がすぐに手を上げた。

大きな瞳には熱意が溢れ、表情も豊かで感情がストレートに出やすい。

 

「カイル・フォレスト少尉。」

 

レオンが名前を呼び、視線を向ける。

カイルは勢いよく立ち上がり、声を弾ませた。

 

「スライフレイルの近接戦闘が圧倒的でした! あの高速接近と、2本のビーム・ジャベリンの扱い……一度間合いに入られたら、もう逃げられないんじゃないでしょうか。隠密性も異常です!」

 

レオンは小さく頷き、カイルの言葉を肯定した。

 

「その通りだ。あの機体の接近能力と近接戦闘力は、確かに最大の脅威だ。」

 

彼は少し声を低くして続けた。

 

「残念ながら、我々の部隊にはあの近接戦闘能力に正面から対抗できる機体はない。俺のジム・スナイパーⅡも、カイル、お前の陸戦型ジムも、ヴァイのジム・キャノンも、接近戦に持ち込まれたら厳しい。」

 

次に、カイルの隣の男性隊員が静かに手を上げた。

中国系オーストラリア人らしい黒く真っ直ぐな短髪をし、細身で知的な顔立ちに眼鏡をかけた青年だった。

表情はいつも固く、真面目さが滲み出ている。

 

「ヴァイ・リー少尉。」

 

レオンが名前を呼ぶと、ヴァイは落ち着いた声で答えた。

 

「陸戦型ガンダムの臨機応変な対応が印象的でした。特に煙幕下での連携と、状況に応じた的確な判断力……支援車両との連係も含めて、非常に完成度が高い小隊だと思います。」

 

レオンは腕を組んだまま、わずかに目を細めた。

 

「緑のガンダムの圧倒的な近接戦闘に目を奪われがちだが……陸戦型ガンダムも十分に脅威だな。むしろ、今日の試合では、あの陸戦型ガンダムがメインの前衛として機能していたな。」

 

今度は柔らかい金髪を肩まで伸ばした、穏やかで優しげな目元の女性が、おずおずと手を上げた。

 

「ソフィア・ラング軍曹。」

 

レオンが名前を呼ぶと、ソフィアは少し声を震わせながら言った。

 

「ホバートラックのオペレーターの練度が非常に高かったです……。それと、相手のジム・キャノンとの連携が素晴らしくて。先に位置を特定して、的確に射撃修正を入れていました。」

 

レオンは頷き、補足した。

 

「ああ。量産型ガンキャノンの索敵性能を上回る形で、先制射撃を成功させていた。アンダーグラウンド・ソナーの読みと、迅速な情報共有……支援車両の質が戦局を決めた典型的な事例だ。」

 

レオンはそこで一旦言葉を切り、3人の顔を順に見回した。そして、本格的な分析を始めた。

 

「まず注目すべきは、支援車両の役割だ。エミリア・ドットナー准尉のホバートラック、そして彼女が操るアンダーグラウンド・ソナーが、この戦局のすべてを決定づけていた。」

 

レオンは手元のリモコンを操作し、モニターの映像を一時停止させた。

画面には、陣地を転換するホバートラックの姿が静止している。

 

「あの正確な三次元位置特定と、それに基づく砲撃修正の精度は並大抵のものではない。観測から初弾発射、そして修正弾までのタイムラグがほぼ皆無だ。……ソフィア、君にあのレベルのシミュレートがすぐに再現できるか?」

 

鋭い双眸がソフィアを射抜く。

ソフィアは詰めていた息を吐き出すように、小さく肩をすくめた。

その指先が、膝の上でかすかに震えている。実力差を突きつけられた恐怖と、プレッシャー。

レオンはそれを責めることなく、静かに視線を画面へと戻した。

かつて、自分たちの背中を支えてくれたアニタ・ジュリアンの、あの神懸かり的な聴覚と状況判断力を、レオンは一瞬だけ思い出していた。

あれは一朝一夕で追いつける領域ではない。レオンは淡々と解説を続けた。

 

「データ上、シャンシー側は索敵で圧倒的な優位に立っているはずだった。彼らの量産型ガンキャノンが搭載しているアクティブ・レーダーのカタログスペックは、第4小隊のジム・キャノンを遥かに凌駕している。……だが、結果はどうだ? 先制の長距離砲撃を許し、煙幕を張られた途端に、シャンシー側は完全に機能不全に陥った。ミノフスキー粒子散布下において、技術的な優位だけで勝てるほど戦場は甘くないという典型だ。どれほど優れたセンサーを積んでいようが、それを活かす『状況判断力』と、前衛へ繋ぐ『通信の連携』が伴わなければ、ただの鉄屑と同じだ。」

 

レオンの言葉には、一年戦争の最前線で生き抜いてきた者だけが持つ、重い説得力があった。

彼はそこで言葉を区切り、今度はヴァイに向かって視線を移した。

 

「ヴァイ。前衛の崩壊について、お前はどう見た?」

 

ヴァイ・リーは真剣な面持ちで眼鏡のブリッジを押し上げ、淀みなく答えた。

 

「……シャンシー側のボリス中尉の動きは、あまりにも荒すぎました。前衛としてのMS操縦技術自体は悪くないはずですが、スライフレイルの変則的な軌道に翻弄され、完全に感情に流されていますね。その時点で、小隊としての連携は破綻しています。戦術の敗北というより、組織力の自滅です。」

 

「その通りだ。」

 

レオンは深く頷いた。

ヴァイの観察眼は的確だ。マニュアル通りの堅物ではあるが、セオリーを理解している分、状況はよく見えている。

その冷徹な戦況分析を聞いていたカイルは、むしろ逆境に血が騒いだのか、目を輝かせて拳を強く握りしめた。

自身の胸をドン、と叩きながら身を乗り出す。

 

「相手がそれほどの強敵なだけに、ここが新生ホワイト・ディンゴ隊の晴れ舞台じゃないですか! 周りのエリートどもに、オーストラリアの猟犬の実力を見せつけてやりましょう!」

 

部屋の空気を震わせるようなカイルの熱い言葉。チームのムードメーカーとしての資質は十分だった。

しかし、レオンは冷徹な現実を告げるように、静かに首を振った。

 

「熱意は認める。カイル。……だが、戦いは勢いだけでは決まらない。率直に言って、現時点での我々の勝率はかなり低い。」

 

「え……?」

 

カイルの表情が凍りつく。

隣に座るヴァイが、怪訝そうに細い眉を深く寄せた。

 

「理由を聞かせてください、中尉。」

 

ヴァイが眼鏡の奥の目を鋭く光らせ、声音を低くして問うた。

その口調には、単なる反発ではなく、戦術家としての純粋な疑問と、レオンの答えを渇望する響きがあった。

レオンは無言のままリモコンを操作し、モニターの画面を三分割した。

それぞれのウインドウに、第4小隊の異なる挙動が映し出される。

彼は画面を指さしながら、淡々と、しかしミリタリーの講義のように精密な分析を始めた。

 

「第4小隊の強みは、大きく分けて3つ。第一に、極めて洗練された連携力だ。エミリア准尉が操るホバートラックのアンダーグラウンド・ソナーが戦場の耳となり、前衛と後衛を寸分の狂いもなく繋いでいる。第二に、ソウヤ・タカバ中尉の突出した個人技。あの男の接近戦は異常だ。操縦技術もさることながら、機体そのものの基本スペックの高さにおいて、我々のジム系列ではパワー負けする可能性が極めて高い。あの緑のガンダムの駆動に、我々のオペレーションシステムが追いつけるかどうかすら怪しいレベルだ。

そして第三に、それらを支える戦術的な柔軟性。今日の試合が好例だ。彼らは煙幕による視界遮断をただの防御ではなく、奇襲の布石として使った。精密な長距離砲撃と、一瞬で肉薄する接近攻撃。この二つを完璧なタイトな連係で成立させている。」

 

レオンはそこで言葉を区切り、さらに声を低くした。

その声音の冷たさが、部屋の気温を一段下げたように錯覚させる。

 

「対する我々、新生ホワイト・ディンゴの戦力はどうだ? ……俺のジム・スナイパーⅡは、確かに一年戦争時における連邦の最高級機だ。だが、スライフレイルによる変則的な近接戦闘能力に対しては、一歩後手に回らざるを得ない。カイル、お前のジムは機動性に優れるが、タカバ中尉の驚異的な反応速度と機動性には遠く及ばない。ヴァイのジム・キャノンは貴重な打撃力だが、いかんせん足が遅すぎる。……正直に言おう。戦術の完成度でも、機体の純粋なスペックでも、我々は互角以下だ。」

 

冷徹な現実が、容赦なく突きつけられた。

薄暗い会議室に、鉛を流し込んだような重い沈黙が落ちる。

蛍光灯の微かなハミングだけが、新米たちの張り詰めた鼓膜を震わせていた。

カイルが悔しそうに奥歯を噛み締め、拳の骨が白くなるほど強く握りしめた。

その瞳には、敗北への恐怖ではなく、打開策が見えない自分たちへの怒りが燻っている。

 

「……じゃあ、どうすればいいんですか? 俺たちは、ただの引き立て役になるために、ここに集められたわけじゃないはずです!」

 

その言葉を、レオンは待っていた。感情に任せて突撃するカイルが、初めて「どう戦うか」という戦術の入り口に立った瞬間だった。

レオンはゆっくりと席から立ち上がった。

その背中は、かつて数々の不可能を可能にしてきた伝説の隊長、マスター・ピース・レイヤーの影をどこか彷彿とさせた。

レオンは部屋の隅にあるホワイトボードへと歩み寄り、黒のマーカーを手に取った。

カチリ、とキャップを外す乾いた音が、静まり返った室内に小気味よく響く。

 

「まともにぶつかれば、十回戦って十回負ける。……だからこそ、ディンゴの戦い方が必要になる。」

 

彼はホワイトボードに、手慣れた手つきで簡易的な戦術マップを描き始め、その鋭い双眸を再び3人の新米たちへと向けた。

 

「序盤はヴァイのジム・キャノンと俺のスナイパーⅡによる、徹底した中・遠距離からの面制圧および牽制だ。相手の強固な連携に、まずは楔を打ち込む。……カイル、お前は囮(ベイト)役として、あえて前線へ出て敵の注意を引き、あのスライフレイルの接近を誘う。――ただし、孤立は絶対に厳禁だ。」

 

レオンはホワイトボードのマーカーを置き、カイルの目を真っ直ぐに見つめた。冷徹なその眼光が、新米の熱を物理的に抑え込むかのように鋭い。

 

「お前は、隙を見せるとすぐに突撃しがちだ。さっき映像で見た、シャンシー側のボリス中尉に酷似している。……感情が先走れば、センサーの視界は狭まり、味方の射線を置き去りにして完全に孤立する。結果として、カバーに回らざるを得ないヴァイや俺に致命的な負担を強いることになる。……俺が言っている意味が、分かるな?」 

 

カイルは言葉を失い、悔しそうに唇を噛んだ。

しかし、レオンの指摘が百戦錬磨の経験に基づくものであることは痛いほど理解していた。

彼は一度深く息を吐き、姿勢を正して素直に頷いた。

 

「……はい。身に染みました。明日、あのスライフレイルを前にしても、絶対に独断専行はしません。肝に銘じます。」

 

レオンはカイルの返答を視線で受け止め、再び戦術図を指した。

 

「ソフィアは、ミノフスキー粒子散布下における索敵とデータ共有を徹底しろ。敵のホバートラックに位置を特定される前に、こちらのパッシブ・ソナーで敵の動線を割り出すんだ。最終的に、カイルが命懸けでスライフレイルを引きつけている『一瞬の隙』を突く。――一気に俺のジム・スナイパーⅡと、ヴァイのジム・キャノンによる精密な同時集中砲撃で、後衛の陸戦型ガンダムと支援のジム・キャノンを仕留める。そこから一気呵成に数的優位を作り出す。」

 

レオンは一度言葉を切り、3人の若き顔を、その瞳の奥にある揺らぎまで見透かすように一人ひとり見つめた。

そして、低く静かな声で告げた。

 

「……正直に言って、楽な戦いにはならない。血の滲むようなドッグファイトになるだろう。だが、かつてのホワイト・ディンゴは、いつも上層部から『不可能だ』と突きつけられるような泥沼の状況で、常に結果を出してきた。我々がその名を継ぐというなら、その精神だけは、何があっても死守しなければならない。」

 

冷たい蛍光灯の下、ブリーフィングルームに再び重い沈黙が落ちた。

だが、その沈黙は先ほどまでの絶望ではなく、静かな決意の熱を帯びていた。

カイル・フォレストが、その逞しい拳を壊れるほどに強く握りしめた。

彼の喉から、押し殺したような低い声が漏れる。

 

「隊長……正直、怖くないと言えば嘘になります。模擬戦とは言え、あの化け物ガンダムの前に立つんだ。でも……俺たちはあの『ホワイト・ディンゴ』の名前を背負ってる。そう思うと、ここで背中を向けて逃げ出すなんて、死んでも御免だっていう気持ちの方が強いです。」

 

ヴァイ・リーは眼鏡の奥の細い目をさらに細め、静かに、しかし断固としたトーンで同意した。

 

「俺も同じ意見です。あの一年戦争で、オーストラリアの荒野を生き抜いたディンゴの牙に憧れて軍に入りました。そのエンブレムが肩にある以上、ここで情けない戦いをして、英雄の皆さんの名前に泥を塗るわけにはいかない。」

 

ソフィア・ラング軍曹は、まだ緊張で青白い顔をしていた。

しかし、その目元には確かな芯が通っていた。

はっきりとした声でレオンを見つめ返す。

 

「索敵……絶対に途切れさせません。先輩のアニタさんのようにはいかなくても、皆さんの足を引っ張らないように、死ぬ気でホバートラックの耳になります。頑張ります!」

 

新米たちのその言葉を聞き、レオンは珍しく、本当に僅かだけ口元を緩めた。かつてレイヤー隊長が自分たちに見せてくれたような、絶対的な信頼を湛えた微かな笑み。

 

「それでいい。明日は取り繕うな、全力で戦おう。」

 

彼は三人の顔をもう一度ゆっくりと見回し、腹の底に響くような、低く力強い声でミーティングを締めくくった。

 

「新生ホワイト・ディンゴ……。――初陣だ。」

 

レオンの言葉が部屋の空気を叩いた瞬間、カイル、ヴァイ、ソフィアの3人はまるで一本の糸で繋がれたように背筋を伸ばした。

直後、レオンに対して整然とした、美しい連邦式の敬礼を捧げる。

 

「了解しました!」

 

「……了解です。」

 

「頑張ります!」

 

レオンは彼らの敬礼に対し、静かに、かつて自分が教え込まれた通りの真っ直ぐな敬礼を返し、腕を下ろした。

 

「今日はもう解散だ。十分に休んで、明日に備えろ。」

 

「失礼します!」というカイルの声と共に、3人はもう一度頭を下げると、張り詰めた緊張感を部屋に残したまま、順番に出て行った。

しかし、ソフィアだけが自動ドアの手前で少し足を止めた。

彼女はおずおずと振り返り、テーブルの上に乱雑に散らばった戦術マップのホログラフ資料や、印刷されたデータシートを見つめながら申し出た。

 

「あの、隊長……片付け、手伝いましょうか? まだ作戦のシミュレーションデータが残っていますし……。」

 

レオンは小さく首を振った。

 

「いや、いい。今日は1人で少し、この戦術マップを見ながら考え事をしたい。……ソフィア、君も早く休め。明日は君の耳が、俺たちの命綱だ。」

 

「……わかりました。お休みなさい、レオン隊長。」

 

ソフィアは今度こそ軽く頭を下げ、カイルたちの後を追うように暗い廊下へと出て行った。

パタン、と防音性の高いスライドドアが静かに閉まる。その駆動音が消え去り、完全な静寂がブリーフィングルームを支配した。

遮るもののなくなった空間で、レオン・リーフェイ中尉は、ようやく張り詰めていた肩の力を抜き、深く、気の遠くなるほど長い溜め息を吐き出した。

 

 

 

 

 

1人になった会議室で、レオンはホワイトボードに描かれた簡易戦術図をじっと見つめていた。

オーストラリア大陸は、一年戦争末期にジオン軍が展開した大撤退作戦「月の階段」によって、多くの敵兵力が海路からアフリカ方面などへと脱出してしまっていた。

結果として、終戦後にこの新生ホワイト・ディンゴ隊を結成したまでは良かったものの、他方面の軍のように激しいジオン残党との戦闘はほとんど発生しなかった。

この2年間、実際に交戦したジオン残党は片手で数えるほどしかおらず、そのどれもが「3機でザク1機を制圧する」という、比較的安全で経験を積むには物足りない掃討戦ばかりだった。 

 

(……これでは、所詮は“ぬるま湯”だ。)

 

レオンは内心で苦く思った。

隊長だったマスター・P・レイヤー中尉は、一年戦争で傷ついたオーストラリア大陸の復興支援をするために軍を辞めた。

マイクは繊細な自分に戦場はきついとして軍楽課に戻り、アニタは両親の墓前に終戦を報告した後、世界を見て回るためにバックパッカーとして旅に出た。

頼れる整備班長だったボブ・ロック曹長も、今は特別枠の「ファントム・スイープ隊」で整備班長をしている。

自分だけが、思い出のあるホワイト・ディンゴの名前を消したくなくて転属願いを出した。

ジャブロー直属の諜報部員という特権的な地位を捨て、あえて一人のモビルスーツパイロットに戻り、このオーストラリア大陸に舞い戻ってきたのだ。

地球連邦軍全体に軍縮の煽りが吹き荒れる逆風の中、一年戦争時のホワイト・ディンゴの勇名があったからこそ、なんとか部隊名だけは残すことができた。

その後、かつての自分たちの活躍を知っているカイル、ヴァイ、ソフィアが、その名前に憧れ、熱意を持って入隊してくれた。

しかし――。彼らはレイヤー隊長、マイク、アニタに比べると、どうしても技量も経験も劣っていた。

カイルたちの意気込みは尊いものだが、実戦経験が圧倒的に足りない。

2年間、ほとんど実戦らしい実戦を経験させられなかった平和の代償が、そのまま彼らの未熟さに直結していた。

 

(……こんな状況で、本当にあの第4小隊に通用するのか?)

 

レオンは静かに溜め息を吐いた。

今回の競技会に、この未熟な新生ホワイト・ディンゴ隊が出場することになった経緯を思い出す。

戦後再編を進める連邦軍上層部は、世界各地から名だたる精鋭部隊をこのトリントン基地へ集め、軍の威信をかけた大規模な模擬戦闘競技会を企画した。

当然、開催地であるオーストラリア方面軍司令部としても、他方面の精鋭に引けを取らない「地元代表の精鋭」を選出する必要に迫られた。

そこで白羽の矢が立ったのが、一年戦争時にオーストラリア大陸の奪還を成し遂げ、今や伝説として語り継がれるホワイト・ディンゴの名前を受け継いだ、レオンの小隊だった。

実際、地元のオーストラリア大陸において、ホワイト・ディンゴの知名度は絶大だった。

ジオンからオーストラリア大陸を救った英雄として、地元の連邦兵からは最大の敬意を払われ、復興へ歩む住民たちからも深く慕われている。

司令部としては、その象徴である「白いディンゴのエンブレム」を演習場に立たせるだけで、全軍の士気高揚と地元へのアピールになるという政治的な思惑もあったのだ。

住民や周囲の期待は最高潮。

しかし、部隊の内情は、実戦を知らない新米ばかりを抱えた急造の雛鳥。

周囲の華やかな熱気と、自分たちが抱える冷徹な現実とのギャップが、レオンの胸を深く締め付けた。

 

「……まだ、ほど遠いな。」

 

ぽつりと呟いた声は、無人の会議室に虚しく吸い込まれていった。

レオンは手元のリモコンを押し、モニターの電源を切った。

暗転した画面に、かつての仲間たちの幻影ではなく、今は隊長として孤独に懊悩する自分自身の冴えない顔が映り込んでいた。




最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます!
遂にオリオンの軌跡も、100話になりました!
そして、その記念すべき100話目がホワイトディンゴの話になるなんて、本当に嬉しいです。
でも、100話書いても全体の約2/5くらいなんで、先が長いな…。
ではでは、次の話も楽しみにしてください!
感想など、気軽にどうぞー!

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