機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第104話 猟犬の系譜を受け継ぐ者【5】

観客席の大型モニターに、戦闘終了を告げる「FIN」の文字が表示された。

張り詰めていた空気が一気に弛緩し、会場からは両部隊の凄絶な死闘を称える割れんばかりの大歓声が巻き起こる。

 

「……見事な戦いぶりだった。」

 

パイプ椅子の背もたれからゆっくりと体を起こし、サウス・バニング大尉が低く重厚な声で呟いた。その鋭い眉間の皺は、いつしか深い感嘆のそれへと変わっている。

 

「負けはしたが、新生ホワイト・ディンゴ……、オーストラリアの猟犬どもは健在だな。あの第4小隊をここまで追い詰めた部隊は、初めて見た。」

 

その言葉を聴き、隣に座るアニタ・ジュリアンは胸元に当てていた手をそっと下ろし、大きな緑の瞳を潤ませながらフッと安堵の笑みを漏らした。

画面の向こう、システムダウンして静止する白と青のジム・スナイパーⅡ。

その肩に刻まれたエンブレムが、赤土の砂塵の中で誇らしげに輝いている。

 

「ええ……。みんな、本当に強くなったわ。私たちの牙は、確かに……あの子たちの中に受け継がれたのね。」

 

「ああ、いい目をしていた。」

 

マスター・P・レイヤーは明るいブロンドの髪を軽く流し、細めの青い目を細めて満足そうに頷いた。

クールで知的な顔立ちに浮かんだ微かな微笑は、かつて数々の地獄を共に生き抜いた部下、レオンへの最大の賛辞だった。

 

「さて……バニング大尉。一人のパイロットとして、今回の彼らの立ち回りをどう評価する?」

 

レイヤーの問いかけに、バニングは顎を撫でながら、戦況分析のモニターへと視線を戻した。

 

「まずは、あのファング2の独断と見せかけた、命懸けの分断戦術だな。左腕を失っていたとはいえ、あのサンダースの陸戦型ガンダムを単機で道連れにしたのは大金星だ。あれで敵の最大の強みである『前衛の柔軟性』が完全に崩壊した。」

 

「同感です。」と、アレン中尉が横から真剣な面持ちで口を挟んだ。

 

「それに、ファング3が煙幕の中で弾幕を張り、時間を稼いだのもセオリーとしては完璧でした。自分の機動性の低さを理解し、あえて囮を買うことで、レオン中尉にジョシュアのジム・キャノンを仕留める絶対的な隙を作ってみせた。」

 

「何より驚いたのは、あの後方のコマンド車両の観測精度だ。」

 

カークス少尉が興奮を隠せない様子で身を乗り出す。

 

「濃密な煙幕を貫いて一撃でジョシュアのジム・キャノンを落としたあの狙撃……。ミノフスキー粒子散布下で、あの距離の風向と歪み補正データを秒単位でレオン中尉のFCSへ同期させていました。あのオペレーター、ただの新米じゃありませんよ。」

 

アニタはその言葉に「ふふ、私の可愛い後輩ですもの」と誇らしげに胸を張った。

 

「だが、最後のタカバ中尉の『奇策』が、すべての一枚上を行っていたな。」

 

バニングが重々しく締めくくる。

 

「片脚をロックされた絶望的な状況から、残った左脚を軸にして機体を独楽のように超高速で横回転させ、レオン中尉のサーベルを受け流しながら遠心力でジャベリンを叩き込む……。あれはマニュアルを超えた、戦場の修羅場だけで培われる野生の勘だ。レオン中尉の右側面を突く判断は完璧だったが、あのガンダムの現地改修されたスラスター配置と、ソウヤの執念が、ほんの僅かだけ上回った。」

 

レイヤーは静かに腕を組み、モニターに映る緑のスライフレイルを見据えた。

 

「機体スペックの差、そして実戦経験の絶対的な質量差。……数字の上での勝ち目は万に一つもなかった。しかし、レオンたちはホワイト・ディンゴの名前を背負い、個々の未熟さをプロフェッショナルな『連携』で完全に補い合って、あの化け物の喉元にまで牙を届かせた。――戦術としては、彼らの大勝利さ。」

 

レイヤーは立ち上がり、私服のジャケットを軽く調えた。

 

「バニング大尉、貴重な分析をありがとう。……さて、アニタ。負けてへこんでいる猟犬たちに、かつての先輩として、少しばかりのダメ出しをしに行こうじゃないか。」

 

「ええ、喜んで!」

 

アニタは弾んだ声で微笑み、レイヤーの後に続いた。

バニング大尉は彼らの背中に向け、今度は軍人としてではなく、同じオーストラリアの地を愛する1人の戦友として、静かに、しかし深い敬意を込めた敬礼を捧げて見送った。

 

 

 

 

第12格納庫へと帰還した新生ホワイト・ディンゴ隊を待っていたのは、重苦しい静寂だった。

 

「……くそっ、あと少しだったのに……!」

 

カイル・フォレスト少尉は、愛機のジムから降りるなり、悔しさに髪をくしゃくしゃにかきむしり、床の赤土を睨みつけてうつむいた。

その隣では、眼鏡のブリッジを押し上げるヴァイ・リー少尉もまた、唇を真っ白になるまで噛み締め、一言も発せずに俯いている。

そして、ホバートラックから降りてきたソフィア・ラング軍曹は、張り詰めていた糸が切れたように、その場でわっと激しく泣きじゃくっていた。

自分のせいで負けたのではないかという重圧と、敗北の悔しさが、彼女の小さな肩を激しく揺らしている。

そんな3人の若き猟犬たちの姿を見つめながら、レオン・リーフェイ中尉はゆっくりと歩み寄った。

その声音は、いつもの冷徹な教官のものではなく、驚くほど優しく、穏やかなものだった。

 

「泣くな、ソフィア。カイルも、ヴァイも、顔を上げろ。」

 

レオンは3人の前に立ち、包み込むような視線を向けた。

 

「お前たちが戦った相手は、あの東南アジアの激戦を2年間戦い抜き、シャンシー独立重機化小隊すらねじ伏せた『第4小隊』だぞ。まともにぶつかれば十回戦って十回負ける――そんな理不尽な精鋭部隊の喉元まで、お前たちはあと一歩のところまで肉薄してみせたんだ。……これは、胸を張るべき大健闘だ。」

 

「しかし……っ!」

 

カイルが、涙の滲む大きな瞳を跳ね上げてレオンを見た。

 

「俺たちは、オーストラリア大陸の地元代表として呼ばれたんです……。それなのに負けて、こんな無様な姿を晒して……これじゃあ、俺たちが憧れた、あの偉大な『ホワイト・ディンゴ』の名前に、泥を塗っちまったんじゃ……!」

 

「そうです……。名前負けの急造部隊だと、周囲に笑われるだけです。」

 

ヴァイもまた、絞り出すような声で悔しさを吐き捨てた。

自分たちの敗北が、かつての英雄たちの栄光を傷つけてしまったのではないか――新米たちが抱えるその一番深い恐怖を、力強い二つの声が真っ向から否定した。

 

「おいおい、勝手に俺たちの名前に泥を塗られたことにしないでくれよ。」

 

「そうだ。誰がそんな間抜けな評価を下した?」

 

通用口の影から歩み出てきたのは、きらびやかな正装を纏ったマイクと、シルバーグレーの白髪を震わせるボブ・ロック曹長だった。

 

「お前たちのあの戦いぶり、観客席からの声援を忘れるくらい、俺は釘付けになって見てたぜ。」

 

マイクはいつもの爽やかな笑みを浮かべ、にやりと口角を上げた。

 

「あそこまで完璧に連携を繋いで、あの緑のガンダムの片脚を奪い、あと数ミリでタカバ中尉を仕留めるところまで追い詰めたんだ。あれを無様なんて言う奴がいたら、俺が軍楽隊のトロンボーンで頭を引っ叩いてやる。……ホワイト・ディンゴだった俺たちが保証する。お前たちの戦いは、文句なしに『見事』だった。」

 

「……フン、マニュアル通りのセオリーを実戦まで昇華させたんだ。整備兵の目から見ても、これ以上の戦闘はねえよ。」

 

ボブは相変わらず真一文字に結んだ口元を崩さなかったが、その太い眉の奥にある青灰色の瞳には、確かな誇らしさが宿っていた。

マイクは泣きじゃくるソフィアの前で片膝を突き、ポケットから糊の効いた綺麗なハンカチを取り出すと、優しく手渡した。

 

「ほら、お嬢さん。ディンゴのオペレーターが、そんな綺麗な顔を涙でボロボロにしちゃいけない。アニタなら、今頃『私の代わりに観測手をやったんだから、胸を張りなさい』って怒るぜ?」

 

「あ……う、うぅ……ありがとうございます、バーガー少尉……っ」

 

ソフィアはマイクから受け取ったハンカチで何度も目元を拭い、小さく鼻をすすりながら、ようやく泣くのをやめて小さく微笑んだ。

レオンは3人の顔を改めてゆっくりと見回し、彼らの背中をさらに押すように言葉を続けた。

 

「カイル。お前のあの片腕のガンダムを道連れにした肉薄、そして『ホワイト・ディンゴらしく戦う』という執念。見事だったぞ。あの突撃が、すべての勝機を作った。」

 

「隊長……!」

 

カイルの瞳に、今度は悔しさではない、熱い光が灯る。自分が憧れたあのホワイト・ディンゴに、今、確かに手が届いたのだと、彼の胸が激しく震えていた。

 

「ヴァイ。お前が自分の機動性の低さを利用し、あえて煙幕の中で盾となって弾幕を張った判断。……あれは座学の規律を超えた、最高に泥臭い『戦術』だった。お前が時間を稼がなければ、俺はジム・キャノンを落とせなかった。」

 

「……は、はい! 自分のベストは……尽くせました!」

 

堅物だったヴァイの表情が初めて柔らかく崩れ、眼鏡の奥の目を嬉しそうに細めた。

 

「そしてソフィア。濃密な煙幕を貫いて一撃で敵の支援機を仕留められたのは、君の正確無比な風向・大気歪みの観測があったからだ。君の耳と目は、あの一瞬、確かにアニタを超えていた。」

 

「レオン隊長……! 私、これからも頑張ります! もっと、みんなの『耳』になります!」

 

ソフィアはハンカチをギュッと握りしめ、今度ははっきりとした、明るい声で大きく頷いた。

彼らの反応を見つめながら、レオンの心の中には、確かな勝利の確信が満ちていた。

模擬戦のスコアの上では敗北だ。

しかし、このトリントンの荒野で、新米3人の魂は完全に目覚め、新生ホワイト・ディンゴ隊の『本物の牙』へと進化を遂げた。

 

(……これでいい、隊長。俺たちのディンゴは、今ここから、また新しく走り始めます。)

 

レオンはヘルメットを小脇に抱え、3人の部下たちへ向けて、本日最高の、心からの頼もしい笑みを浮かべた。

 

「久しぶりだな、みんな。」

 

その低く落ち着いた声が格納庫の入り口から響いた瞬間、レオン、マイク、ボブの3人は同時に弾かれたように振り返り、驚愕に目を丸くした。

 

「隊長……っ」

 

レオンの喉から、掠れた声が漏れる。

そこに立っていたのは、私服姿のマスター・P・レイヤーと、アニタ・ジュリアンだった。

 

「隊長! アニタ! 本当に、本当に隊長なのか!?」

 

「レイヤー……! それにアニタ、お前までどうしてここに……!」

 

マイクとボブが叫び、レオンと共にレイヤーの元へと一斉に駆け寄る。

かつて一年戦争の地獄を共に駆け抜け、オーストラリア大陸の奇跡を起こした伝説の『ホワイト・ディンゴ隊』が、宇宙世紀0082年のトリントンの地で、ついに奇跡の全員集合を果たしたのだ。

 

「ああ、懐かしい顔が揃っているな。またこうしてみんなに会えて、本当に嬉しいよ。」

 

シャープなブロンドの髪を揺らし、端正な顔立ちに細めの青い目を和らげながら、レイヤーはかつての戦友たちとの再会を心から喜ぶように微笑んだ。

 

「それにしてもアニタ、お前ずいぶんと女性らしい、綺麗な格好をしてるじゃないか。戦場にいた頃の泥臭いツナギ姿が嘘みたいだぜ。」

 

マイクがにやりと口角を上げ、いつもの調子でからかいの視線を送る。

ダークブラウンのショートボブを揺らしたアニタは、大きな緑色の瞳をツンと細め、ふんと鼻を鳴らしてマイクを見返した。

 

「失礼ね、マイク。私だって軍を辞めれば普通の女の子よ。それよりあんたこそ、その金糸まみれの煌びやかな軍服、まさに『馬子にも衣装』ってやつね。中身がお調子者のままだから、服に着られてて全然似合ってないわ。」

 

「おいおい、相変わらず手厳しいな。」

 

ヘッドセットを外してもなお健在なアニタの切れ味鋭い突っ込みに、マイクは「お手上げだ」と言わんばかりに肩をすくめる。

 

「ふ、くく……ははは!」

 

二人の息の合った、一年戦争時と全く変わらない小気味よい口喧嘩を前にして、レイヤーはたまらず声を上げて笑った。

 

「本当に……お前たちは何年経っても変わらないな。」

 

レイヤーの温かい笑い声が、油臭い格納庫の空気を優しく包み込んでいく。

カイル、ヴァイ、ソフィアの3人は、目の前で繰り広げられる「伝説の英雄たちの、あまりにも人間味溢れる再会劇」に圧倒されながらも、ホワイト・ディンゴという絆の深さを肌で感じ、ただただ感動の面持ちで見つめていた。

 

レイヤーはマイクとアニタの掛け合いに目を細めて笑った後、ゆっくりと向き直った。

その鋭くも温かい青い双眸が、新生ホワイト・ディンゴ隊の隊長であるレオン・リーフェイ中尉の目を真っ直ぐに見据える。

 

「レオン、良い戦いだった。見させてもらったよ。」

 

レイヤーは一歩前に進み出ると、レオンの肩を力強く叩いた。

 

「ルーキーたちの個性を活かして敵の前衛を分断した。……あの劣勢から状況をイーブンまで引き戻したお前の戦術は、実に見事だった。隊長として、完璧に部隊をコントロールしていたよ。」

 

元隊長であり、自分がずっとその背中を追い続けてきた偉大なレオンの目標――マスター・P・レイヤーからの、これ以上ない最高の称賛だった。

 

「……ありがとうございます、隊長。」

 

レオンは胸の奥が熱くなるのを堪えながら、静かに、しかし誇らしげに深く頷いた。

 

「最後のタカバ中尉の奇策は、確かに機体スペックと経験の差が生んだものだ。だが、お前たちはホワイト・ディンゴの名前を気負うことなく、全員の知恵と絆で、喉元まで確実に牙を届かせてみせた。……敗北を恐れず、最後までベストを尽くす。レオン、お前が率いる新生ホワイト・ディンゴは、間違いなく俺たちの精神を完璧に受け継いでいる。」

 

レイヤーの確信に満ちた言葉が、格納庫の空気と同調するように、深く響き渡る。

その言葉は、レオンだけでなく、後ろで聞いていたカイル、ヴァイ、ソフィアの胸にも、一生消えない栄光の火を灯していた。

レイヤーはレオンの肩をもう一度小さく叩くと、ゆっくりとした足取りで、少し離れた場所に立ち尽くしていた新米士官たちの元へと歩み寄った。

 

「っ……!」

 

カイル、ヴァイ、ソフィアの3人は、まるで一本の糸で引っ張られたかのように、同時に背筋をピンと張り詰めさせた。

目の前に立つのは、伝説のホワイト・ディンゴ隊の『隊長』、その人なのだ。

私服を纏っているとはいえ、そのシャープで端正な顔立ちから漂う圧倒的な佇まいと、細めの青い双眸が放つ静かな威厳に、3人は息を吸うことすら忘れてガチガチに緊張していた。

レイヤーは、硬直する若き猟犬たちを安心させるように、フッと目元を和らげた。

 

「カイル、ヴァイ、ソフィア。……まずは、俺たちのホワイト・ディンゴの名前を受け継いでくれたこと、心から感謝する。本当にありがとう。」

 

「あ、あの……!」

 

まさか伝説の英雄から、真っ先に感謝の言葉を述べられるとは思っていなかった。

カイトが大きな瞳をさらに見開く中、レイヤーは言葉を続けた。

 

「君たちの今日の戦いは、一年戦争の時に俺たちが死に物狂いで生き残るためにやってきた戦いと、何一つ違わない。泥をすすり、限界を超えてベストを尽くした、文句なしに『見事な戦い』だった。君たちがこのエンブレムを肩に宿してくれたことを、俺は誇りに思うよ。」

 

「そ、そんなっ……滅相もないです、レイヤーさん!」

 

カイルは顔を真っ赤にしながら、慌てて両手を大きく振って謙遜した。

 

「俺たちは……俺は、最初の砲撃で足が竦んでしまって、隊長に助けを求めるような情けない醜態を晒しちまった新米です! 伝説のホワイト・ディンゴの戦いなんて、俺たちのレベルじゃ、まだまだ足元にも及びませんよ……!」

 

カイルのその必死な言葉に、レイヤーはかつてのマイクの初陣を思い出したのか、明るいブロンドの髪を揺らしてフッと不敵な笑みを浮かべた。

 

「俺たちだって、最初から英雄だったわけじゃないさ。」

 

レイヤーは細めの青い目をさらに和らげ、どこか懐かしむように語りかけた。

 

「最初のスタート地点は、君たちとあまり変わらない、ただの泥臭い前線部隊だったんだ。それが、目の前の過酷な任務を一つずつ生き抜いて、ベストを尽くしているうちに、気づけばオーストラリア大陸を解放した英雄なんて呼ばれるようになっていただけのことだよ。」

 

カイル、ヴァイ、ソフィアの3人は、直立不動のまま、伝説の隊長が紡ぐ言葉の一言一句に、深く聞き入っていた。

教科書や軍の広報には決して載っていない、血の通った本物の歴史が、彼らの胸に染み込んでいく。

レイヤーは一度言葉を区切り、格納庫のシャッターの向こうに広がる、赤茶けたオーストラリアの空へと視線を向けた。

 

「確かに、結果として俺たちは大陸を解放し、大きな勲章をもらった。だがな……俺たち自身にとっての『ホワイト・ディンゴ』とは、そんな大層なものじゃない。あの一年戦争という地獄の戦場を、傷つきながら、泥に塗れながら、必死に一緒に駆け抜けた仲間たちとの、何にも代えがたい大切な思い出の詰まった部隊名なんだ。」

 

レイヤーは再びカイルたちに向き直り、その胸に刻まれた白いディンゴのエンブレムをそっと指差した。

 

「その、俺たちの宝物のような名前を、君たちが憧れ、受け継ぎ、こうして次の世代へ残そうと命懸けで戦ってくれている。元隊長として、これほど嬉しいことはないんだよ。」

 

その言葉を背後で聞いていたレオン、マイク、ボブ、そしてアニタの4人は、互いに視線を交わし、心の底から深く、静かに頷いた。

レイヤーの言う通りだった。

彼らにとってホワイト・ディンゴとは、ただの軍の組織名ではない。青春を、命を、魂を分かち合った不滅の絆そのものなのだ。

それが今、目の前の若い3人の熱意によって、確かに戦後の世界へ繋がろうとしている。

レイヤーは最後に、3人の新米士官、レオンを包み込むように見回し、低く、しかしこれ以上ないほど力強い声で告げた。

 

「君たちがホワイト・ディンゴの名前を受け継ぎ、これからどう立ち回り、どんな戦いをしていくかは、すべて君たち次第だ。過去の俺たちのことを気にする必要はない。――これからの、新しい『ホワイト・ディンゴ』の歴史は、君たちとレオンの4人で、新しくトリントンの赤土に刻んでいくんだ。」

 

「「「はいっ!!」」」

 

カイル、ヴァイ、ソフィアの3人は、これまでにないほど元気よく、背筋を伸ばして一斉に返事をした。

その張り詰めた、しかし希望に満ちた声を聞いたレイヤーは、本当に満足そうな顔をして、彼らに向けて深く頷いてみせた。

 

「さあ、レオン中尉。猟犬の初陣は終わったが、お前たちの狩りはここからだろ?」

 

レイヤーは不敵に微笑み、かつてのように細めの目を細めて見せた。

 

「……ええ。その通りです、隊長。」

 

レオンはヘルメットを小脇に抱え直し、カイルたち3人の部下へと振り返った。

その顔には、もう迷いも重圧も一切ない。

あるのは、新しき群れを率いる『隊長』としての最高の覇気だった。

 

「格納庫の片付けを急げ。これより、元祖ホワイト・ディンゴの先輩方も交えて、盛大な反省会を始めるぞ。各自、データの準備にかかれ!」

 

「「「了解しました!!」」」

 

カイル、ヴァイ、ソフィアの3人の声が、今度は迷いなく、格納庫の天井へと響き渡った。

オーストラリアの熱い風を受けながら、新しき猟犬たちの物語の幕が、力強く上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

ホワイト・ディンゴ隊が格納庫で新たな決意をした頃、トリントン基地のメイン会場は、先ほどとは全く質の異なる異様な「騒然」とした空気に包まれていた。

特別観覧席に座るサウス・バニング大尉、アレン中尉、カークス少尉の3人は、大型モニターを見つめたまま、言葉を失って絶句していた。

スクリーンに映し出されていたのは、Bグループ第二試合。アフリカ大陸の泥沼で幾度となくジオン残党を狩り、砂漠戦の猛者として知られる『デザート・ドラゴン』と、ジャブローから送り込まれた地球連邦軍の最新鋭テスト部隊『チーム・シリウス』による一戦だった。

結果は、凄絶を極めたAグループの試合とは対照的な、文字通りの『蹂躙』だった。

砂漠戦仕様のデザート・ジム、前線で重宝される装甲強化型ジム、そして後方支援のジム・キャノン。

歴戦の機体で固められたデザート・ドラゴンが、何のアプローチもできぬまま、完膚なきまでに「瞬殺」されたのだ。

モニターの端には、それを成し遂げたチーム・シリウスの最新鋭の機体が並んでいた。

隊長、ヴァルター・フォン・アイゼンハルト大尉。

駆る機体は、次世代主力量産機たる『ジム・カスタム』。

そして、かつて北米戦線でガンダム6号機を操ったエイガー中尉が、重装甲の新型『ジム・キャノンⅡ』の砲身を冷徹に固定している。

さらにその脇を固めるのは、クリスチーナ・マッケンジー中尉のジム・カスタムだった。

 

「――馬鹿な。これが、量産機の性能なのか!?」

 

アレン中尉が、戦慄に声を震わせた。

 

画面の向こうで、アイゼンハルトとクリスチーナの駆るジム・カスタムは、砂漠の悪路を完全に無視するような圧倒的な推進力を見せ、デザート・ジムの火線を紙一重のステップですべて回避していた。

追随するエイガーのジム・キャノンⅡから放たれたビーム・キャノンの一撃が、装甲強化型ジムの胸部を寸分の狂いもなく撃ち抜く。

実戦経験に裏打ちされたパイロットたちの異常な技量。そして、それを100%機動へと変換する、ジャブローの最新鋭テクノロジー。

バニング大尉は、パイプ椅子の手すりを壊れるほどの力で握りしめ、冷たい汗を流しながらモニターを睨み据えていた。

彼らが乗る現在の主力機、ジム・カスタム。その『特権的な性能』は、一年戦争時のいかなる名機をも過去のものにするほどの、冷徹なまでの技術革新の暴力そのものだった。

 

「……第4小隊が戦場の叩き上げなら、あいつらはジャブローが練り上げた純粋な軍事の最高傑作だ。……この最新鋭の機体に、届くか?」

 

バニングの呟きは、重い予感と共に、騒然とする観客席の喧騒の中へと消えていった。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
レイヤー達のホワイト・ディンゴのバトンは、新生ホワイト・ディンゴのメンバーに確かに渡されました。
自分なりのホワイト・ディンゴのその後を描けて、楽しかったです。
そして、アフリカのデザート・ドラゴンを瞬殺した、チーム・シリウス畏るべしですね。
流石は一年戦争時にガンダムに乗ったパイロットが2人もいるので、強いです。
では、次の話も楽しみにしてくださいね。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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