機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第109話 教え導く者と過去に囚われる先駆者【1】

競技会予選3日目

 

演習場に突き刺さるコロニー残骸の合間を、新生ホワイト・ディンゴ隊の3機が滑らかに、かつ鋭い陣形で駆け抜けていた。

 

「――敵、エリア『ブラボー4』で完全に足が止まっています! 索敵データ、各機のFCSへ同期!」

 

後方から届くソフィアの通信は、ノイズを完全に排した極めてクリアなものだった。

あの初陣での失敗を糧にし、今や彼女の観測は迷いなく小隊の進路をナビゲートしている。

 

「ファング2、12時方向のコロニー残骸の亀裂を回れ。ファング3、カイルの右斜後方からキャノン砲の射線を固定。奴らの逃げ道を塞ぐぞ。」

 

白と青のジム・スナイパーⅡのコックピットで、レオンは操縦桿を握り、冷徹な指示を回線に叩き込んだ。

 

「ファング2、了解!……仕掛けます!」

 

「ファング3、了解。火線構成、秒読み開始。」

 

灰色と黒の2機が、吸い込まれるような見事な連携で遮蔽物から躍り出る。

彼らの視界の先には、ユーラシア方面軍の精鋭として恐れられるはずの『シャンシー独立重機化小隊』の無様な姿が晒されていた。

前回の第4小隊との戦闘で、彼らの連携は内側から完全に破綻していた。

 

「おい、ボリス中尉! 何をやっている、お前のガンダムが前に出て囮になれと指示したはずだ!」

 

広域有線通信から漏れ聞こえてくるのは、量産型ガンキャノンを操る隊長、チェン・ウェイ大尉の怒号だった。

彼は自分の身の安全と索敵優位を保つため、ボリスのガンダムを一方的に弾除けとして使おうと躍起になっている。

 

「ふざけるな大尉! 敵のジム・スナイパーⅡの射線がどこから通っているかも分からんのに、誰がそんな無防備な場所に出るか! 俺は俺の判断で動かせてもらう!」

 

ボリス中尉は恐怖と保身からチェンの命令を完全に無視。

ハリボテのガンダムをコロニーの巨大な残骸の影へと深く引っ込め、自分1人が生き残るための単独行動に走っていた。

そして、上官2人の泥沼の仲間割れの煽りを正面から受けていたのが、部下のジム改だった。

 

「チェン大尉! ボリス中尉! 敵のジムが、目の前まで接近して――うわああっ!?」

 

「遅いんだよッ!!」

 

カイルのジムが、ジム改の死角から電光石火の勢いで滑り込んだ。

的確な命令をもらえず、演習場の真ん中で右往左往していたジム改には、カイトの鋭い踏み込みを回避する術など残されていなかった。

カイルが放った100mmマシンガンの正確なバースト射撃が、ジム改の胸部を完璧に捉える。

 

ピィィィィィィ――ッ!

 

『――判定。ジム改、完全撃破(ドロップ)。システムダウン』

 

「1機、撃破! ヴァイ、次だ! ガンキャノンの動きを止めろ!」

 

「了解。キャノン砲、発射!」

 

ヴァイのジム・キャノンが、正確な照準で肩部240mmキャノン砲を放った。

放たれた模擬弾が、孤立したチェン大尉の量産型ガンキャノンの足元で次々と炸裂し、その鈍重な巨躯をコロニーの外壁へと強引に押し留める。

 

「お、おい! ボリス、何をしている! カバーに入れ! 命令だッ!」

 

チェンが悲鳴のような怒号を通信に響かせるが、ボリスのガンダムは岩陰から微動だにしない。

連携を失い、ただの固定砲台と化したガンキャノンなど、猟犬たちの絶好の標的でしかなかった。

 

「……技術や機体スペックがどれほど優れていようが、信頼のない部隊はただの案山子と同じだな。」

 

レオンはジム・スナイパーⅡのロングレンジ・ビーム・ライフルの電子照準レティクルを、怯えるガンキャノンのコックピットハッチへと冷徹に重ね合わせた。

前夜、ブリーフィングルームで新米たちに叩き込んだ言葉が、そのまま目の前の現実となって証明されている。

初陣で泥をすすり、互いの未熟さを「信頼」と「連携」で補い合うことを知った新生ホワイト・ディンゴ隊。

彼らが剥いた獰猛な牙の前に、内紛に揺れるユーラシアの精鋭は、なす術なくすり潰されようとしていた。

 

ズキュゥゥゥンッ!!

 

レオンが静かに引き金を引くと、ロングレンジ・ビーム・ライフルから放たれたまばゆい光軸が、一直線に荒野を切り裂いた。

その一撃は、ヴァイのキャノン砲によってコロニーの外壁に釘付けにされていたチェン大尉の量産型ガンキャノンの胴体中央へ、寸分の狂いもなく吸い込まれていく。

 

ピィィィィィィ――ッ!!!

 

コックピット内に響き渡る完全撃破の電子ブザー音。

 

『――判定。量産型ガンキャノン、完全撃破。システムダウン』

 

「くそっ、何がア・バオア・クー帰りだ! ボリス、貴様が命令に従って盾にならなかったせいだぞッ!」

 

チェン大尉はモニターが強制暗転していくコックピットの中で、歯を剥き出して怒鳴り散らした。通信回線には、彼の呪詛の言葉が響き渡る。

 

「競技会が終わってみろ、軍法会議にでも何にでもかけて、地球の裏側の僻地へ左遷してやるからな! 覚えていろッ!」

 

そんな隊長の最後の悪態をフッと鼻で笑い、回線を遮断した男がいた。

岩陰に隠れたまま、ついに最後の1機となったガンダムを操るボリス中尉である。

 

(フン、無能な上官め。先に落ちてくれてせいせいした。……さて、ここからが本番だ。)

 

ボリスは操縦桿を握り直し、不敵な笑みを浮かべた。

味方が全滅し、完全に1対3の包囲網を敷かれているという最悪の状況。

しかし、彼のプライドは微塵も揺らいでいなかった。

 

(俺をそこらのひよっこと一緒にされては困る。この俺は、あの一年戦争の最終決戦――ア・バオア・クーの地獄の防衛戦を生き抜いて帰ってきた、パイロットだぞ。)

 

ボリスの胸には、大戦を戦い抜いたという絶対的な自負があった。

他方面の戦闘経験すらほとんどない新米士官2人と、その2人を従える名ばかりの中尉。

そんな寄せ集めの『新生ホワイト・ディンゴ隊』など、ア・バオア・クーで見た地獄に比べれば、ただの雛鳥の集まりにしか見えなかった。

 

(ガンダムの性能と、俺の実戦経験があれば、これくらいの包囲網など一瞬で食い破って逆転してみせる!)

 

ボリスはガンダムのジェネレーター出力を最大まで跳ね上げた。

ア・バオア・クー帰りのエースとしてのプライドを懸けて、最後の1機となったガンダムが、牙を剥いてホワイト・ディンゴ隊の包囲網へと躍り出ようとしていた。

 

ズドォンッ!! ドンッ!!

 

次なる一歩を踏み出そうとしたその瞬間、ボリスのガンダムの周囲に凄絶な衝撃波が吹き荒れた。

ヴァイのジム・キャノンが放った240mmキャノン砲の連続砲撃が、正確にボリスを捉えたのだ。

 

(チッ……! 狙撃だけではなく、砲撃のラインまで通してきたか!)

 

ボリスは操縦桿を内側に引き絞り、機体をコロニー残骸の最深部へと滑り込ませた。

四方を肉厚なコロニーの甲板に囲まれた、完全な死角。

どれほど猛烈な砲撃を浴びようとも、ここに深く隠れていれば、直撃を喰らうリスクはゼロに等しい。

ア・バオア・クーの激戦を生き抜いたボリスにとって、この程度の遮蔽物の選定は呼吸をするよりも容易いことだった。

 

(よし、ここなら安心だ。砲撃の熱源と砂塵が収まった瞬間に、スナイパーの射線を避けて左翼から回り込む――)

 

脳内で完璧な逆転のプロットを組み立てた、まさにその瞬間だった。

 

ピー、ピー、ピー、ピー――!!!

 

「――なっっ!? 後方警戒アラート!?」

 

コックピット内に、鼓膜を劈くような凄絶な接近警報が鳴り響いた。

モニターの死角から、自機に向けて急速に肉薄してくる、真っ赤に染まった1機の熱源マーカー。ボリスは心臓が跳ね上がるような戦慄に襲われながら、咄嗟にフットペダルを力任せに踏み込み、陸戦型ガンダムを前方へと突き動かした。

 

ズバババババババババッ!!

 

「甘いんだよ!!」

 

直後、ガンダムが今しがたまで定位していた背後の装甲板に、猛烈な100mmマシンガンの弾幕が叩き込まれた。

ペイントと砂塵を激しく吹き散らしながら、コロニーの狭隘な亀裂から強引に躍り出てきたのは――カイトの駆る、灰色と黒のジムだった。

 

「くそっ、いつの間に背後へ……!?」

 

ボリスは操縦桿を握る手に冷たい汗をにじませながら、激しい動揺に襲われていた。

自分のレーダー網が、これほど至近距離に迫るまで新米の接近を許すはずがなかった。

しかし、ボリスはすぐにその恐るべきロジックに気付いた。

 

(……あのジム・キャノンの砲撃……! 俺の注意を前方へ逸らすと同時に、こいつが残骸を乗り越えて接近してくる『駆動音』を完全に消すための弾幕だったのかッ!)

 

ボリスは咄嗟に推力ペダルを踏み込み、機体を強引に180度旋回させてカイルのジムにビーム・ライフルを向けようとした。

しかし、その機動すらもカイルの予測の範疇だった。

 

「回らせねえよッ!!」

 

旋回が完了するよりも僅かに早く、カイトは操縦桿のトリガーを一気に引き絞った。陸戦型ジムの頭部バルカン砲と100mmマシンガンが、至近距離から一斉に火を噴く。

狭い残骸の隙間に、猛烈なペイント弾の嵐が吹き荒れた。

旋回の途中で完全に無防備に晒されていたガンダムの右半身へ、容赦のない弾幕が殺到する。

 

ピキピキピキィッ――!

 

電子警告音がボリスのコックピットにけたたましく鳴り響く。

直撃判定を受けたガンダムの右マニピュレーターからパッシブ・センサーが赤く染まり、火器管制システム(FCS)が冷徹なダメージアナウンスを告げる。

 

『――判定。主兵装ビーム・ライフル破壊、および右腕部大破。出力を50%にロック』

 

「おのれ、新米がァッ!」

 

ボリスは出力の落ちた右腕のレバーを強引に操作し、使い物にならなくなったビーム・ライフルを、まるで質量兵器のようにカイトのジムへ向けて投げつけた。

だが、カイルは冷静だった。

左マニピュレーターに構えたショートシールドを胸前に滑り込ませ、その一撃をガキィンと小気味よく弾き飛ばす。

 

(くそっ、この狭い残骸の中じゃあ、いい的だ……!)

 

ア・バオア・クー帰りのプライドを完全にへし折られたボリスは、視界の悪いコロニーの亀裂から脱出すべく、ガンダムのスラスターを後方へと猛烈に吹かした。

一気に遮蔽物の迷路を飛び出し、開けた演習場へと逃れようとしたのだ。

だが――遮蔽物の外は、ボリスにとっての安全地帯などではなかった。

そこは、猟犬たちが完璧に罠を張って待ち構える、本当の『狩場』だった。

コロニーの残骸からガンダムが飛び出した、まさにその瞬間。

 

ズキュゥゥゥンッ!! ズドォォォンッ!!

 

待機していたレオンのジム・スナイパーⅡから放たれたロングレンジ・ビーム・ライフルと、ヴァイのジム・キャノンの240mmキャノン砲による、寸分の狂いもない完璧なフォーカス・ファイアが、ガンダムへと直撃した。

 

ピーーーーーッ!!!

 

演習場全域に、シャンシー独立重機化小隊の全滅を告げる強烈な電子ブザー音が鳴り響く。

 

『――判定。ガンダム、完全撃破(ドロップ)。Aグループ第三試合、勝者、新生ホワイト・ディンゴ特務隊』

 

「……馬鹿な、この俺が、こんなひよっこどもに……。」

 

コックピットのモニターが次々と強制シャットダウンし、完全な闇へと沈んでいく中で、ボリス中尉はただ呆然と呟くことしかできなかった。 

 

 

 

 

演習場全域のデータリンクが遮断され、完全な静寂が荒野に戻る。コックピットの計器類がすべて模擬戦闘終了のグリーンに切り替わるのを確認し、レオン・リーフェイ中尉はゆっくりと、張り詰めていた肩の力を抜いた。

 

「カイト、ヴァイ。……見事な立ち回りだったぞ。」

 

回線を開き、レオンは普段の厳しい教官のトーンを崩さないまま、しかし確かな誇りを込めて2人の部下を称賛した。

 

「――へへ、ありがとうございます隊長! でも、俺の力じゃありませんよ。昨晩、レイヤー隊長やマイクさんたちを交えて遅くまでやった、あのミーティングのお陰です!」

 

カイトの声は、嬉しさと興奮で弾んでいた。

前夜、格納庫での再会の後、初代ホワイト・ディンゴの面々は新米たちのデータの隅々まで目を通し、実戦を生き抜くための泥臭いノウハウをすべて叩き込んでくれたのだ。

 

「同感です。実戦経験の少なさを補うための具体的かつ戦術的なアプローチ……実に有意義な時間でした。マニュアルの文字を追うだけでは、あのボリス中尉の背後は取れなかった。先輩方には頭が下がります。」

 

ヴァイもまた、眼鏡の奥の目を細めるようにして、生真面目な口調の中に確かな成長の充実感を滲ませていた。

 

「や、やりましたぁぁぁ! シャンシー小隊に完全勝利です、隊長! 私の索敵データリンクも、最後まで完璧に同期してましたよね!?」

 

後方のホバートラックから、ソフィアの弾けたような大喜びの声が響き渡る。

今回は一滴の涙もない、ホワイト・ディンゴのオペレーターとしての完璧な仕事の成果に、彼女は今にも車両の中で踊り出さんばかりの勢いだった。

 

「ああ、ソフィア。お前の耳がなければ、カイトの接近は成立しなかった。最高のバックアップだ。」

 

レオンが優しく応じると、通信の向こうでソフィアが「へへっ」とはにかむ気配が伝わってきた。

初戦でソウヤ・タカバ中尉の第4小隊に惜敗している以上、この競技会のルール上、自分たちが決勝リーグへ進む道はすでに絶たれている。

どれほどこの最終戦を華々しい圧勝で飾ろうとも、新生ホワイト・ディンゴ隊のトリントンでの挑戦は、ここで一足早く幕を閉じることになるのだ。

普通なら、悔しさに唇を噛む結果かもしれない。だが――レオンの胸の奥を占めていたのは、そんな記録上の勝敗を遥かに超越した、計り知れない充足感だった。

モニターの向こうで、それぞれ誇らしげに胸を張る3人の新米たち。

最初の試合で泥をすすり、伝説の名前に怯えていた雛鳥たちは、かつての戦友たちのバトンを受け継ぎ、本物の『猟犬(ディンゴ)』の群れへと進化を遂げていた。

ただの過去の遺物、名前だけの張り子の虎として軍縮の闇に消えるはずだったホワイト・ディンゴの牙が、今、この戦後のオーストラリアの荒野で、確かに『新しく動き出した』のだ。

そんな彼らの頼もしい後ろ姿を見つめながら、レオンの唇には、本日最高に微笑ましく、そして誇らしげな笑みが静かに浮かんでいた。

 

 

 

軍関係者専用の観客席

 

その一角は、独特の重苦しくも熱い空気に包まれていた。

大型モニターに映し出されていたホワイト・ディンゴ隊の完全勝利を見届け、集まっていた面々がそれぞれに口を開き始める。

 

「……勝負あり、だな。」

 

腕を組んだまま画面を凝視していたサウス・バニング大尉が、低く重みのある声で呟いた。

その鋭い眼光は、ユーラシア軍の崩壊ではなく、ホワイト・ディンゴ隊の洗練された機動を正確に捉えていた。

 

「実に見事な連携だ。初戦の泥をここまで綺麗にすすぎ落としてくるとはな。アレン、カークス、お前たちから見てどうだ?」

 

バニングに水を向けられ、隣に控えていたアレン中尉が端正な顔を引き締めて応じる。

 

「前回の第4小隊との戦闘で、経験を積んだからでしょう。メンバー同士の連携が良くなってましたね。我がテストパイロットチームとしても、あの連携は、組み込む価値があります。」

 

「そうですね。」

 

エミリアも深く頷き、手元の戦術端末を見つめながら言葉を重ねた。

 

「特にあのジム・キャノンによる弾幕と、それに同期した陸戦型ジムの死角からの接近。音が反響するコロニー残骸の特性を完璧に利用していました。シャンシー独立重機化小隊は、高性能な機体に胡坐をかいて、戦場の地形すら見えていませんでした。」

 

その冷静な分析を聞いていたソウヤが、静かに息を吐き出してバニングたちに視線を向けた。

 

「ええ、バニング大尉の仰る通りです。ホワイト・ディンゴ隊は、あのスナイパーⅡの隊長を中心に一分の無駄もありませんでした。経験の差を、信頼という最も強固な戦術でねじ伏せてみせた。」 

 

その言葉に、すぐ隣の席から「ええ! 本当にその通りねっ!」と小気味のいい声が割り込んできた。

ラルフ隊の紅一点、マロビ・ブレイドン曹長である。

赤髪のヘアピンを揺らし、上目遣いの可愛らしい容姿に似合わない不敵な笑みをソウヤへ向けた。

 

「結局は連携と信頼の強さなんだよね!」

 

マロビが元気よく胸を張ると、ラルフは深く、そしてどこか誇らしげに頷いた。

 

「ああ、その通りだ。どれほど機体性能が高くとも、それを扱うパイロットの心がバラバラでは戦場では生き残れない。ホワイト・ディンゴ隊の勝利が、何よりの証明だ。」

 

ラルフが真面目に肯定すると、すかさず隣からウィリーが褐色肌の首をすくめ、耳たぶに手をやりながら笑った。

 

「まーね。でも隊長、うちの小隊に関しては、その『信頼と連携』のほとんどがマロビの独断専行を全力でフォローするために使われてるんだけどさ。毎回心臓に悪いから、できればもうちょっと大人しくしてほしいもんだね。」

 

「なっ、何言ってるのよウィリー! あたしの電撃的な閃きがあるからこそ、今の『赤い三巨星』があるんじゃない! 独断専行じゃなくて、これがアタシたちの最高のチームワークでしょっ!」

 

マロビがぷくっと頬を膨らませて言い返すと、その賑やかで、しかし互いの実力を完全に信頼し合っている空気感を見て、ソウヤはふっと表情を和らげた。

 

「ふふ、本当に良いチームですね、ラルフ中尉。お互いの役割が明確で、何より気兼ねがない。見ていて羨ましくなるほどですよ。」

 

「そう言っていただけると助かります、タカバ中尉。お恥ずかしい限りですが、この凸凹な連携こそが我が隊の生命線ですからね。ただ……マロビの我が儘に付き合うのには、私も胃に穴が開きそうな毎日ですが。」

 

ラルフは苦笑しつつも、青い瞳に部下への温かい信頼を宿して一礼した。

すると、マロビが今度はソウヤの方へと身を乗り出し、茶化すような笑みを浮かべた。

 

「ちょっとちょっと中尉、羨ましがる必要なんてないじゃない! あんたの第4小隊だって、アタシたちに負けないくらいすっごく良いチームだよ。だってさ、ベテランのサンダース軍曹がガッチリと脇を固めて、ジョシュアがしっかりと砲撃で決めるんだもん。戦術のバランスで見たら、むしろアタシたちの天敵みたいな堅実さよ!」

 

「お褒めに預かり、恐縮です、マロビ曹長。」

 

自分の名前を出されたサンダースは、自身の無骨な胸元に手を当てながら、静かに、しかしどこか誇らしげに目を細めて一礼した。

だが、次の瞬間、マロビは「あーあ」と大袈裟にため息をつき、赤髪のヘアピンをいじりながら不満そうにモニターを睨みつけた。

 

「だけどさー、アタシたち、『ウィッチハント隊』に負けちゃったから、もう決勝リーグには出られないんだよね。だから中尉の部隊とも戦えないし……うう、一番やりたかった勝負ができないなんて、本当に悔しいなーっ!」

 

「おいおいマロビ、まだそこにこだわってたのか? 諦めが悪いなぁ。」

 

ウィリーがサングラスの奥の目を丸くし、呆れたように白い歯を見せる。

 

「だって当然でしょ! 一年戦争で『オデッサの新星』って謳われたタカバ中尉と、ジオンのエースパイロットにあやかって『赤い三巨星』を大々的に喧伝するアタシたちでしょ!? どっちのネーミングセンスと実力が本物か、この大舞台でガチンコで雌雄を決したかったに決まってるじゃないっ!」

 

マロビが悔しそうに拳を握りしめ、唇を尖らせる。

その微笑ましい我が儘に、観客席のソウヤたちの間には、ふっと温かい笑いが広がるのだった。

 

 

「ふふ、確かにそうですね。実は俺も、この競技会で『赤い三巨星』の皆さんと一度手合わせをして、戦ってみたかったんですよ。」

 

ソウヤがどこか楽しげに、しかし本気を含んだ声でそう告げると、ラルフは意外な反応に少し目を見開いて驚きの表情を浮かべた。

 

「タカバ中尉が、私たちと……ですか? それはまた、どうして……?」

 

「ラルフ中尉のガンダムRRと、俺の駆るスライフレイルは、どちらも同じ陸戦型ガンダムをベースにした現地改修機なので。同じ機体でありながら、互いに目指した改修の方向性が全然違うでしょ? だからこそ、刃を交えて確かめてみたかったんです。」

 

ソウヤのモビルスーツパイロットとしての純粋な興味を聞いたラルフは、頭を掻きながら困ったような苦笑いを浮かべた。

 

「はは……それは光栄ですが、遠慮しておきますよ。試合で見せてもらった、近接戦闘用にガチガチに尖らせたスライフレイルの性能を知っている身としては、正直まともに相手をしたくはありませんからね。うちのガンダムRRがバラバラにされそうだ。」

 

「もう、隊長ったら意気地無しなんだから!」

 

ラルフの弱気な態度にマロビがすかさずツッコミを入れ、それからソウヤの方をキラキラとした目で見つめた。

 

「それにしても中尉、あんた意外と浪漫ってものが分かってるじゃない! アタシちょっと見直しちゃった!」

 

マロビは満足そうに何度も頷いていたが、ふと何かを思いついたように顔を輝かせ、指をパチンと鳴らした。

 

「あっ! アタシ、すっごくいいこと思いついちゃった!!」

 

マロビが手をポンと叩いて無邪気に顔を輝かせた瞬間、ソウヤの背筋に嫌な予感が走った。

彼女の突飛な思い付きに巻き込まれる未来を本能的に察知し、ソウヤは無意識のうちに体を一歩後ろへと引いていた。

 

「……いいこと、とは?」

 

冷や汗をにじませながら尋ねるソウヤに、マロビは満面の笑みでとんでもない提案を突きつけた。

 

「あんたの機体、その地味な緑色をやめて、アタシとお揃いの『赤』に塗り替えなさい! 赤い機体に乗って戦場を暴れ回れば、あんたの小隊の士気だって爆上がり間違いなしよ!」

 

その言葉が鼓膜に届いた瞬間、ソウヤの思考は完全に拒絶のシグナルを発していた。

迷う余地など、1ミリたりとも存在しない。

ソウヤは即座に冷徹なまでのトーンで言い放った。

 

「お断りします。絶対にやめてください。」

 

「な、何よその冷たい目はーっ!? せっかくのアタシの親切心をそんな秒速で無下にするなんてさぁ!」

 

あまりの直球な拒絶にマロビが抗議の声を上げるが、ソウヤの瞳は完全に据わっていた。

 

「親切ではなく、ただの視覚的テロです。マロビ曹長、俺の機体がなぜあのように塗られているか分かります? 密林地帯に溶け込み、敵の目を欺瞞するためです。深い緑のジャングルの中で、真っ赤な機体で動いてみてください。周囲の敵に対して『ここに的がいます、どうぞ撃ってください』とご丁寧に手信号を送っているようなものですよ。」

 

「な、なんですってー!? 目立ってこそのエースでしょ!?」

 

「それはジオンのエースの話ですよ。俺はただの連邦の兵士です。生きて作戦を完遂し、仲間を無事に生還させるために、カモフラージュは必須です。もし、俺の機体を勝手に赤く塗るような真似をしたら……。いくらマロビ曹長といえど、ただじゃ、おかないですよ。」

 

ソウヤの蒼い瞳の奥に宿った、静かだがとてつもなく重い「脅し」の圧力に、マロビは一瞬背筋をゾクッと震わせた。

 

「くっ……! もう、正論すぎて言い返せないのがすっごくムカつく……! あんた、浪漫は分かるはずなのに、本ッ当に可愛げがないわね!!」

 

マロビが悔しそうに地団駄を踏み、ぷんぷんと怒っていると、背後からようやくラルフとウィリーの二人が彼女の肩を掴んで引き戻した。

 

「マロビ、いい加減にしなさい。中尉を困らせるんじゃない。迷彩は兵法の一番基礎だろう。」

 

「そうそうマロビ、今回はタカバ中尉の言う通りだよ? お前が中尉に怒られてる姿、サングラス越しでも笑っちまうから勘弁してくれよ。」

 

ラルフ隊長がため息混じりに嗜め、ウィリーもクスクスと白い歯を見せて笑う。マロビは「うう、二人とも中尉の味方をするなんてひどい!」と膨れっ面をしながら、ようやくおとなしく自分の席へと深く座り直した。

バニングは年長者らしく、そのやり取りを穏やかな笑みを浮かべて微笑ましく見守っていた。

所属の垣根を越えてこうして意見を交わし、笑い合える環境は、かつての一年戦争の地獄にはなかったものだ。

しかし、大型モニターの表示が切り替わり、警告の電子音が観客席に小さく響いたその瞬間、バニングの表情からスッと柔和な笑みが消え、歴戦のパイロットとしての鋭い顔つきに戻った。

 

「……よし、そこまでだ。そろそろBグループの第三試合が始まるぞ。」

 

バニングの低く通る声が、その場の空気を一瞬で引き締める。

 

「ルナツー教導隊と、ジャブローの最新鋭機体チーム。実力、機体スペック共に、間違いなく今日の最高峰のカードであり、今回の競技会の最大の目玉だ。決勝リーグへ進む上で、敵としての彼らの動きを戦術眼に焼き付けておけ。」

 

その言葉に促され、ソウヤ、エミリア、サンダースの第4小隊。

そしてラルフ、マロビ、ウィリーの赤い三巨星の面々も、楽しげだった空気を完全に排し、一斉に大型モニターへと鋭い視線を向け直した。

 

宇宙世紀の「練度」と「資本」が正面衝突する、決勝前最後の至高の戦い。

その幕が、今まさに静かに上がろうとしていた。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
遂に新生ホワイト・ディンゴの初勝利です!
後半は赤い三巨星とソウヤのコメディーチックな会話を書きました。
ではでは、次の話を楽しみにしてください。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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