機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

112 / 114
第110話 教え導く者と過去に囚われる先駆者【2】

オーストラリアの乾いた烈風が、装甲板に刻まれた無数の傷をなでていく。

遮蔽物として点在するコロニーの残骸は、かつての大戦の傷跡そのものだった。

赤茶けた大地が視界の果てまで広がるトリントン基地演習場の一角で、三機のモビルスーツが静かにその時を待っていた。

 

「各機、コックピット内のシステムインジケーターを確認。初期化バグやセンサーの初期不良は? チーム・シリウスとの大一番だ、些細なノイズも見落とすんじゃないぞ。」

 

ペガサス級強襲揚陸艦「バイアリーターク」の戦歴を背負うボカタ・ポワチエ少佐の凛とした声が、暗号化通信の回線を走る。

彼女の操るジム・スナイパーⅡのメインカメラが、精密射撃用アクティブセンサーの起動に伴い、光が灯る。

 

「こちらカキゾノ中尉。量産型ガンキャノンⅡ、各部駆動系、ジェネレーター出力ともにオールグリーン。ナガト・ケンジ中尉率いる整備班が完璧に仕上げてくれました。これならジャブローの最新鋭機相手でも、一歩も引く必要はありません。」

 

モニター越しに映るヒタチ・カキゾノ中尉の表情は真面目そのものだ。

いつも通りピシッとした規律正しさが、その実直な声からも伝わってくる。

 

「私もバッチリです! ガルバルディα、四肢の追従性、戦闘シミュレーション上のレスポンス、すべて最高値を維持しています。ナガト班長には後で特大の差し入れをしなきゃですね!」

 

鮮やかな赤髪を揺らし、ミコト・I・ケネディ少尉が活気のある声で応じる。

若手パイロットらしい緊張と高揚の入り混じった笑顔だった。

 

「ナガト中尉の腕が良いのは確かだけど、2人とも、データ上の数字だけで勝負が決まると思ったら大間違いだよ。」

 

部下2人の確かな手応えに満足しつつも、ボカタは手元のスロットルレバーを握り直し、引き締まった声で釘を刺した。

 

「相手はジャブロー直属、最新鋭機のテストパイロットチーム。乗っているのはジム・カスタムにジム・キャノンⅡ……文字通りの最新鋭技術の結晶だ。おまけに後衛のエイガー中尉はガンダム6号機マドロックの、前衛を担うクリスチーナ中尉はガンダムNT-1アレックスの、それぞれ元テストパイロットであり、実戦を潜り抜けてきた本物のエースだ。一筋縄でいく相手じゃない。」

 

一拍置き、ボカタはコンソールに表示された敵データの機体スペックを指先で叩く。

 

 

「さらに、奴らの機体には――あの『マグネット・コーティング』が施されている。駆動系の摩擦抵抗を極限まで減らした最新仕様だ。反応速度の次元が違う。骨董品と見下してくるジャブローのエリートたちを黙らせるには、生半可な経験だけじゃ足りない。」

 

ボカタの言葉に、部下2人の空気が一瞬で張り詰めた。

 

「ガンダムの……テストパイロット。それにマグネット・コーティングですか……。」

 

ヒタチが息を呑み、そのがっしりとした顔を強張らせる。

一年戦争の「生の戦訓」の重みを知る彼だからこそ、かつて連邦の勝利を決定づけた伝説的な技術の名前、そして「ガンダムの乗り手」という肩書の持つ恐ろしさが、肌身に染みて理解できた。

だが、戦術データに表示された敵の編成――エイガー中尉の乗る「ジム・キャノンⅡ」の文字に視線を留めた瞬間、ヒタチの目つきが鋭く変わった。

 

 

「ジム・キャノンⅡ……。コンペでこいつを負かした、機体か。」

 

ヒタチが画面を見つめたまま、苦り切った声を漏らした。

彼が駆る量産型ガンキャノンⅡは、ジム・スナイパーⅡの傑出した基本性能と狙撃センサーを火力支援に転用した機体だ。

しかし、連邦軍再建計画のコンペティションにおいて、ジム・キャノンⅡとの採用争いに敗れ、量産検討止まりという辛い憂き目に遭っている。

 

「性能じゃ負けてないはずです。チョバム・アーマーの技術流用というお項目で、あっちに軍配が上がっただけだ。……テストパイロットがガンダムの乗り手なら、不足はありません。ここで勝って、量産型ガンキャノンⅡのスペックを証明してみせます!」

 

実直なヒタチの内に秘められた技術者とパイロットとしての強いプライドが、その言葉に熱を乗せていた。

 

「よく言った。コンペの雪辱、ここで果たしてきな。」

 

ボカタは力強く頷き、愛弟子の背中を押した。

 

「……でも、条件は同じ模擬戦のレギュレーションです。いくら機体の反応速度が速くても、教導隊で私たちが培ってきた連携と、少佐の戦術があれば、絶対に付け入る隙はあるはずです!」

 

ミコトは一瞬だけ表情を曇らせたものの、すぐに好奇心に満ちた強い視線を取り戻し、ガルバルディαのシールドを構え直した。

最新鋭への畏怖を抱きつつも、自分たちを育ててくれたボカタへの絶対的な信頼が、彼女の闘志を支えていた。

 

「いい気概だ。その意気でいくよ。――教導隊の意地、チーム・シリウスの連中に見せてやりな。」

 

ボカタは専用のビーム・ライフルを携え、オーストラリアの赤い大地の向こうを見据えた。

 

 

 

 

 

チーム・シリウスの隊長、ヴァルター・フォン・アイゼンハルト大尉の冷徹で高圧的な声が、部隊専用の通信回線に響く。

 

「各機、状況報告を。まさかジャブローの最先端技術を詰め込んだ機体が、オーストラリアの砂を吸っただけで悲鳴を上げるような無様は晒していまいな。」

 

彼はコックピットのモニターに映る赤い大地を不機嫌そうに見下ろしていた。

彼らにとって、このトリントンMS競技会は単なる地方部隊の腕試しではなく、ジャブロー本部の特権と、最新鋭モビルスーツの絶対的な優位性を誇示するための舞台に過ぎない。

 

「こちらオペレーターのノエル・アンダーソンです。ヴァルター大尉、チーム・シリウス全機のシステムチェック完了しました。ジム・カスタム、ジム・キャノンⅡともにマグネット・コーティングの駆動データは正常。エラーログはありません。いつでも出撃可能です。」

 

随伴するホバートラックの電子戦コンソールから、オペレーターを務めるノエル・アンダーソンが、的確かつ冷静な声でデータを転送する。

 

「……フン、当然だな。分かった。」

 

ヴァルターは無愛想に短く吐き捨てると、ノエルの報告を遮るように、一方的に通信を叩き切った。

 

「はぁ……。」

 

ホバートラックの薄暗い車内で、ノエルは思わず深い不満の混じったため息を漏らした。

画面に表示された「通信切断」の文字を見つめながら、彼女はかつての一年戦争時、自分が所属していた『MS特殊部隊第三小隊』のことを思い出さずにはいられなかった。

あの戦場はいつも過酷だったが、けっしてこんな息の詰まるような、高圧的なムードに支配されてはいなかった。

何より、かつての上官であり隊長だった「マット・ヒーリィ」の、部下を思いやる温かい笑顔と、理想を追い求める誠実な姿勢が、今でもノエルの胸に深く残っている。

それに比べて、今のジャブロー直属部隊の特権意識と冷酷さは、どうしても馴染めないものがあった。

その時、ノエルのコンソールに、ヴァルターの回線を通さないプライベートの秘匿通信コードが点滅した。

 

「やれやれ、相変わらずのエリートぶりだな。すまないな、ノエル。うちの隊長があんなに冷たい男で、君には苦労をかける。」

 

スピーカーから聞こえてきたのは、ジム・キャノンⅡのコックピットに座るエイガー中尉の、どこか苦笑いを交えた頼もしい声だった。

 

 

「本当に。ヴァルター大尉も、もう少し周りに優しくしてくださればいいのですけれど……。ノエルさん、いつも細かいサポートをありがとうございます。本当に助かっていますよ。」

 

 

続いて、ジム・カスタムのモニター越しに、クリスチーナ・マッケンジー中尉が上品でおっとりとした微笑みを浮かべながら、ノエルを労うように言葉を重ねる。

 

「エイガー中尉、クリス中尉……。」

 

2人の優しい言葉に、ノエルの表情が少しだけ和らいだ。ヴァルターのような特権意識の塊とは違い、実戦を潜り抜けてきた2人は、戦後の最新鋭テストパイロットチームの中でも、ノエルにとって唯一心が休まる「穏健派」の先輩たちだった。

 

「エイガー中尉。少しお聞きしてもよろしいですか?……大尉はなぜ、あそこまで頑なに実戦部隊の方々へ高圧的な態度を取るのでしょうか?」

 

ノエルは周囲を気にするように声を潜め、秘匿回線の向こうのエイガーへ素朴な疑問を投げかけた。データや肩書だけで前線の兵士を「泥臭い連中」と切り捨てるヴァルターの態度には、あまりにも不自然な刺があったからだ。

画面の向こうで、エイガーは少しの間沈黙した。コックピットの中でかつての戦友たちの顔でも思い浮かべているかのように、遠い目をしてから、静かに話を始めた。

 

「……大尉のプライドが歪んじまったのには、一年戦争時の因縁があるのさ。ヴァルター大尉はな、大戦中ずっとジャブローでモビルスーツのテストパイロットを任されていたんだ。エリート中のエリートさ。だが……そこにはどうしても、あいつが逆立ちしても越えられない天才的なライバルが一人いたらしい。」

 

「越えられない、ライバル……ですか?」

 

「ああ。技量も、シミュレーションのスコアも、常にその男がトップだった。ところが大戦の中期、そのライバルはあいつの制止も聞かず、自ら実戦部隊への配属を希望して最前線に飛び出していっちまったんだ。ヴァルターにしてみれば、目の前で一番勝ちたい相手に逃げられたようなもんだろうな。」

 

エイガーはそこで一度言葉を切り、小さくため息をついた。

 

「しかも最悪なことに、その男は一年戦争の激戦の中で戦死した。……つまりヴァルターは、背中を追い続けた相手を最後まで越えられないまま、終戦を迎えてしまったんだ。あいつの中の時計は、あの時から止まったままなんだよ。自分たちが命がけでテストした最新鋭機を、前線で消費していった実戦部隊への、逆恨みに近いコンプレックス。それが、今のあいつの歪んだエリート意識の正体さ。」

 

エイガーの語るヴァルターの過去に、ノエルは胸が締め付けられるような思いで静かに聞き入っていた。

 

「……それは、やっぱりおかしいですよ。」

 

エイガーの話を聞き終えたノエルは、毅然とした、しかしどこか悲しげな声でそう告げた。

 

「テストパイロットの仕事は、前線で命を懸けて戦うパイロットたちのために、少しでも機体の安全性を高めて、確実な機体へと開発するためのはずです。それなのに、前線の実戦部隊を憎むなんて……それでは本末転倒です。」

 

ノエル自身、かつて戦場で多くの兵士たちの生と死をオペレートしてきたからこそ、その言葉には強い実感がこもっていた。開発と前線は、本来互いを支え合う両輪であるべきなのだ。

 

「ええ、本当にノエルさんの言う通りね……。」

 

秘匿回線を通じて、ジム・カスタムのコックピットからクリスの寂しげな同意が届いた。

彼女自身、かつてサイド6でガンダムNT-1アレックスのテストパイロットを務め、その果てに過酷な実戦へと巻き込まれた経験を持つ。

 

「テストパイロットとしての誇りが、いつの間にか他者への憎しみにすり替わってしまうなんて、悲しいことだわ。……でも、それだけあの大戦が、彼を……いえ、私たちの心を狂わせてしまったのかもしれないわね。」

 

クリスの物憂げな声には、かつて死闘を繰り広げ、大破させたアレックスへの複雑なトラウマと、一年戦争という巨大な狂気の傷跡が滲んでいた。

重くなりかけた通信の空気を払拭するように、エイガーが少し明るいトーンで割って入った。

 

『まあ、大尉の性格を俺たちが今すぐ変えるのは無理話だ。それよりも2人とも、まずは目の前の仕事に集中しよう。俺たちはジャブローの上層部から、このジム・カスタムとジム・キャノンⅡの性能を世界に知らしめるっていう、特大のPR任務を背負わされてるんだからな。きっちり結果を出して、テストパイロットの意地を見せてやろうじゃないか。」

 

エイガーの頼もしい先輩肌な言葉に、重苦しかった回線の雰囲気がすっと軽くなる。

 

「そうですね! 支援車両からの索敵、完璧にこなしてみせます。エイガー中尉、クリス中尉、どうかご無事で!」

 

ノエルはコンソールのモニターに向き直り、力強く頷いた。

 

「ありがとう、エイガー中尉。私もジム・カスタムの性能、しっかり引き出してみせるわ。頑張りましょう。」

 

クリスも上品な微笑みを取り戻し、操縦桿を握る手に力を込めた。

ヴァルターの歪んだ執念とは違う、自分たちの信じるテストパイロットとしての誇りを胸に、2人は静かに闘志を燃え上がらせる。

 

その頃、隊長であるヴァルター・フォン・アイゼンハルト大尉は、コンソールに表示された敵の編成データを凝視しながら、激しい苛立ちを隠せずにいた。

 

「……ガルバルディαだと? 狂っているのか、ルナツー教導隊は?」

 

ヴァルターは吐き捨てるように呟き、操縦桿を握る手先を苛立たしげに震わせた。

彼がこれほどまでに不快感を露わにしている原因は、対戦相手であるルナツー教導隊が持ち込んできた、その「機体そのもの」にあった。地球連邦軍の威信を懸け、世界各地から精鋭が集うこの競技会。

連邦の最高技術と兵たちの練度を証明すべき神聖な舞台に、あろうことか、かつての大戦で連邦を脅かしたジオン公国軍の、それもペズン計画などという不気味な背景を持つ高性能モビルスーツを持ち込んできている。

たとえそれが戦後に連邦が接収し、規格を改修した鹵獲機であろうとも、ヴァルターの洗練されたエリート意識からすれば、それは到底容認できるものではなかった。

ジオンの残光が未だ各地で燻るこのご時世において、その配慮の無さは「無神経」という言葉すら生ぬるい。

 

「ジオンの骨董品を後生大事に乗り回し、あまつさえ教導隊の看板機として連邦の公式な舞台に引きずり出すとは……。これだから実戦上がりの野蛮な連中は反吐が出る。過去の戦争の泥にまみれ、技術の進歩というものがまるで理解できていない証拠だ。」

 

ヴァルターの細い目が、冷酷な蔑みを湛えてさらに細められる。彼にとって、ガルバルディαは、前線の兵士たちの「無神経さ」と「大戦の悪趣味な遺物」そのものに見えた。

最新鋭機であるジム・カスタムの手で、あのジオンの呪縛ごとき徹底的に叩き潰し、技術の世代交代という現実を骨の髄まで思い知らせてやる――。

歪んだエリートのプライドが、演習場の赤い大地を前に、黒くドロドロとした執念へと変わっていくのを、ヴァルター自身は気づく由もなかった。

 

 

「……なぜだ。なぜ、あんな奴らが英雄面をしていられる。」

 

ヴァルターはコンソールを凝視したまま、歯噛みした。

奥歯が軋むほどの怒りと、心の底に澱のように溜まった暗い情念が、言葉となってこぼれ落ちる。彼ら前線のパイロットどもは、自分たちが命懸けで調整した機体を、まるで使い捨ての消耗品のように消費していく。

新型機をまともな『兵器』として完成させるために、開発現場でどれほどの血とにじむような努力があるか、あの泥臭い連中は何も分かっていない。

コックピットの中で予期せぬ不具合や、命を奪いかねない設計の欠陥に直面し、それを一つずつ潰し、機体をアップデートしていく。

その過酷なデバッグと調整の日々を繰り返しているのは、自分たちテストパイロットなのだ。

それなのに、戦果を出せずに機体をあっさりと大破させ、無様に死んでいく前線の連中が、なぜか「戦わされた犠牲者」や「悲劇の兵士」として語られる。

そして、運良く生き残って派手な戦果を挙げた前線のパイロットたちだけが、きらびやかな名誉や名声、勲章を独占していく。

必死に機体を組み上げ、育て、戦場に送り出した自分たちテストパイロットは、歴史の表舞台に立つこともなく、常に日陰者として扱われる。

 

「我々は機体を完成させるために、誰よりも精密で、完璧な操縦を要求される。前線の荒くれどもなどより、よほど優れた技量を持っているというのに……!」

 

一年戦争時における、テストパイロットの扱いの悪さ。

軍上層部が開発の苦労を顧みず、ただ戦況の数字と前線のエースだけを祭り上げるあの体制を、ヴァルターは激しく憎悪していた。

彼にとっての傲慢さは、理不尽に虐げられてきた開発陣の誇りを守るための、歪んだ自衛の盾でもあったのだ。

そして、その憎悪の頂点に君臨する男の名前を、ヴァルターは生涯忘れることはない。

 

「イーサン・ミチェル・オルグレン……。名声に目が眩み、テストパイロットとしての誇りを捨てて前線へ逃げ出した、あの愚か者が。」

 

イーサン・ミチェル・オルグレン少佐。

一年戦争時、ジャブローの開発現場でヴァルターがどうしても越えられなかった、唯一無二のライバル。

あらゆるシミュレーションスコアで自分を上回り、背中を追い続けさせた男。

しかしその天才は大戦後期、ヴァルターの制止を振り切り、自ら実戦部隊への配属を希望して前線へと飛び出していった。

ヴァルターには、それが技術への冒涜であり、華やかな名声欲しさに魂を売った裏切りにしか見えなかった。

しかも、そのイーサンは激戦の果てに戦死した。最後まで勝利して越えるべき壁は、死者となって、永遠に乗り越えられない壁となり、幽霊のごとく、ヴァルターに立ち塞がり続けている。

 

「名声欲しさに前線に行って、無駄死にか。……見ていろ、イーサン。テストパイロットは前線のパイロットのような連中とは違う。最新鋭の技術と、テストパイロットの技量があれば、実戦上がりの連中などいくらでも叩き潰せるということを、私が証明してみせる……!」

 

歪んだエリート意識と、死者へのコンプレックス、そしてテストパイロットとしての底知れぬプライドが混ざり合い、ヴァルターの瞳に狂気じみた灯火を宿らせる。彼はジム・カスタムの操縦桿をきつく握り締め、ルナツー教導隊の待つ赤い大地を、射抜くような視線で見据えた。

 

 

 

 

 

ソウヤ・タカバは、腕を組んだまま、画面に表示されたルナツー教導隊の布陣を静かに見つめていた。

 

「いよいよ、試合開始か……。」

 

その隣では、オペレーターのエミリアが手元の情報端末と睨み合いながら、各陣営の登録データを素早く分析している。

 

「それにしても、ルナツー教導隊のモビルスーツ編成、すごく個性的ですね。ジム・スナイパーⅡに量産型ガンキャノンⅡ、それに……ジオン製のガルバルディα。今の連邦軍の主流からすると、かなり思い切ったチョイスに見えます。」

 

エミリアが不思議そうに首を傾げると、ソウヤはふっと口元を緩め、戦友たちの意図を読み解くように言葉を返した。

 

「一見バラバラに見えるが、あれが教導隊の、ひいてはボカタ少佐の戦術思想そのものさ。最新鋭機を並べるジャブローのやり方とは違う。特にガルバルディαを若手のミコト少尉に任せているあたり、実戦的な技術の継承を何より重んじる彼女らしいやり方だ。」

 

「なるほど……、そうなんですね。」

 

納得したように頷くエミリアの横から、同じく観戦に合流していたノアが、チーム・シリウス側のデータをモニターに割り込ませた。

 

「でも、相手のチーム・シリウスは完全にその真逆、ですね。ジャブロー直属のテストパイロットチーム。乗っているジム・カスタムとジム・キャノンⅡには、全て『マグネット・コーティング』が標準実装されています。カタログスペック上の反応速度だけで言えば、教導隊の機体を一世代は上回っているかと。」

 

「マグネット・コーティング、か……。」

 

ソウヤの目が、わずかに細められた。

かつてア・バオア・クーの死闘を共にしたボカタが、直前に部下たちへその技術の脅威を説いているであろうことは容易に想像がついた。

 

「あの技術は、パイロットの技量が高ければ高いほど、機体を化け物に変える。おまけにシリウスのエイガー中尉とクリスチーナ中尉は、一年戦争時にそれぞれガンダムタイプのテストを担当し、実戦まで経験している本物のエースだ。機体の性能を限界まで引き出してくるだろう。……だが、あのチームの最大の懸念は、そのスペックの高さじゃない。」

 

「え? 機体性能以外に、何か問題があるんですか?」

 

エミリアが問いかけると、ソウヤはチーム・シリウスの隊長、ヴァルター・フォン・アイゼンハルト大尉の顔写真が映るモニターを指差した。

 

「隊長のヴァルター大尉だ。後からエイガー中尉から聞いた話だけど、大尉は実戦部隊に対して異常なまでの強いコンプレックスを抱えているらしい。実戦部隊を見下し、最新技術の優位性だけで全てをねじ伏せようとする。……ボカタ少佐のガルバルディαのような『多種多様な戦術の選択』は、彼の潔癖なプライドからすれば、最も神経を逆撫でされる存在のはずだ。」

 

ソウヤの指摘通り、モニターに映し出されたジム・カスタムの機体挙動は、試合開始前だというのに、どこか微かな苛立ちを孕んで小刻みにメインスラスターを吹かしているように見えた。

 

「ジャブローの最新鋭技術とテストパイロットの誇りか、ルナツー教導隊の次世代に繋ぐ意志か。……これは思った以上に、激しい戦闘になりそうだ。」

 

ソウヤが呟いたその瞬間、スタジアム全体を震わせる重低音のブザーが鳴り響いた。予選3日目、最も注目される因縁の対決が、ついに幕を開ける。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
遂にルナツー教導隊とジャブローの最新鋭チームの「シリウス」との、戦闘が始まります!
どちらもかなりのハイスペック機体での戦闘ですので、激しい戦闘になりますので、楽しみにしてください!
そして、まさかのヴァルターの因縁の相手が今は亡き、イーサン・ミチェル・オルグレン少佐でした。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。