ヴァルターのジム・カスタムが放つ、猛烈な90ミリペイント弾の連射がガルバルディαのシールドを幾度も激しく叩く。
金属の衝突音と鮮やかな染料の飛沫が視界を狂わせる中、ミコトは歯を食いしばり、ギャン譲りの卓越した流体パルス駆動を限界まで回して追従した。
その刹那、ジム・ライフルのスライドが虚しく後方でロックされ、金属質の乾いた音が響く。弾切れだ。
「チッ、弾切れか……! ならば、これで終わりにしてくれる!」
ヴァルターは空になったライフルを惜しげもなく赤い大地へと投げ捨て、バックパックからビーム・サーベルを滑らかに引き抜いた。
マグネット・コーティングによって摩擦を失ったマニピュレーターの挙動は、人間の手首と寸分違わぬ滑らかさで円弧を描く。
センサー感知モードに設定された低出力の光刃が、陽炎の立つオーストラリアの空を鋭く切り裂いた。
――ギギギィン!
激しい火花が2機の装甲の間で爆ぜる。ガルバルディαの突きを、ジム・カスタムのサーベルが真っ向から受け止め、そのまま強引に刃を押し返した。
接触回線からは、再びヴァルターの狂気じみた怒声がミコトの耳腔を貫く。
「ジオンの、負け犬どもの機体がァ! その歪んだ装甲を見るだけで反吐が出る! あいつのように名声欲しさの愚か者も、泥にまみれた貴様ら前線の荒くれどもも、どいつもこいつも技術の進歩の何たるかがまるで分かっていない!」
「くうっ……! 何を、勝手なことばかり……!」
ミコトは操縦席に押し付けられながら、懸命に操縦桿を押し返した。
刃を交えるたびに伝わってくる、ヴァルターの異常なまでの憎悪。
それは目の前のミコトだけでなく、かつて彼がジャブローの開発室で追い続けたという、乗り越えられぬ死者幽霊への呪詛そのものだった。
「見ていろイーサン! 前線の兵など、このジム・カスタムと私の操縦をもってすればいくらでも駆逐できる! 最新鋭の先駆者たる私が、貴様が惑わせた『精鋭部隊』という名の幻想を、ここで完膚なきまでに叩き潰して証明して見せるッ!」
「そんな、自分勝手な理由で……私たちのガルバルディを、教導隊を、侮辱しないでください!!」
激しく交錯する光刃の向こう、ミコトの脳裏に、この赤い大地に至るまでの足跡が鮮烈に蘇っていた。
ミコト・I・ケネディは、モビルスーツという兵器が、心から好きだった。
大きくて、力強くて、コックピットに座って操縦桿を握れば、ちっぽけな自分自身が何倍にも大きくなれたような万能感に包まれる。
その純粋な憧れのままに、未来の連邦軍パイロットたちの見本となる最高峰の組織――ルナツー教導隊への配属が決まった時は、文字通り天にも昇るほどの誇らしさを感じたものだ。
だが、そんな若きエリートである彼女に与えられた乗機は、このガルバルディαだった。
公国軍のペズン計画によって産み落とされた、ジオンの落とし子。
ミコト自身は機体の出自にそこまでの嫌悪感は抱いていなかった。
しかし、周囲の実働部隊のパイロットたちからは、「教導隊のくせにジオンの機体かよ」「ジオンの機体の乗り心地はどうだ」と、心ない言葉で馬鹿にされることが少なくなかった。
隊長のボカタや、先輩のヒタチがその都度「気に病むんじゃないよ」「あの機体のポテンシャルを分かっていない奴らの戯言だ」と温かくフォローしてくれたが、それでも若かった彼女の心には、小さく暗い棘として刺さり続けていたのだ。
そんな彼女の歪んだ視界を、一瞬で変えてみせた1冊の資料がある。
それは、一年戦争後に連邦軍がジオン公国軍から接収した、膨大な極秘技術試験報告書の束。
その中に紛れていた、あるジオン軍技術士官の技術試験報告書――第603技術試験隊、オリヴァー・マイ技術中尉が書き残した、『ヨルムンガンド』や『ヅダ』、『ゼーゴック』といった試作兵器たちの評価報告書だった。
そこに記されていた兵器のほとんどは、時代の荒波に置き去りにされた長射程プラズマビーム砲であったり、戦況のプロパガンダのために利用された欠陥機、あるいは水陸両用モビルスーツを流用した使い捨ての急造兵器ばかりだった。
だが――マイ技術中尉の筆致は、それらを決して「出来損ない」と切り捨ててはいなかった。
彼はそれら異形の兵器たちの欠点と、長所を誰よりも深く正確に把握した上で、過酷な戦況で少しでも生存率を上げるための運用方法や、緻密な改修案を幾つも、幾つも丁寧に書き残していたのだ。
報告書の末尾は、いつも戦局の悪化に伴う悲壮な言葉で締めくくられていた。
しかし、その泥臭い検証の仮定の端々には、理不尽な命令に振り回されながらも最後まで兵器に命を吹き込もうとした開発者、技術者、そして死んでいったテストパイロットたちの、血のにじむような情熱と努力の足跡が、これでもかとばかりに汲み取られていた。
(マイ中尉は、どんなに訳ありな機体でも、そこに懸けられた人間の想いを、ちゃんと見ていたんだ……!)
その報告書を読み終えた時、ミコトの胸から刺が消えていた。
ならば、今自分が駆っているこのガルバルディαはどうだ。
ジオンの技術者がゲルググとギャンの可能性を融合させ、終戦後は連邦の技術者たちが改修し、ナガト中尉の整備班が最高の状態に維持してくれた、たくさんの人間の『情熱の結晶』ではないか。
出自がどうあれ、今この機体と共に戦う誇りがある。
オリヴァー・マイ中尉が異形の兵器たちを正当に評価したように、自分もこのガルバルディを最高の相棒として、その真価を世界に証明してみせる――!
「イーサンとかいう人に固執して、目の前のモビルスーツをただのカタログスペックでしか見られないあなたに……私のガルバルディを、教導隊を、馬鹿にしないで!!」
ミコトの瞳に、激しい闘志の炎が宿る。
ガルバルディαは推力を一瞬だけ逆噴射させ、ヴァルターの刃を受け流すと同時に、ギャン直系の鋭いステップで右側頭部へと肉薄した。
その洗練された教導隊の剣戟が、最先端の檻に囚われた先駆者の執念へと牙を剥く。
「な、に……っ!?」
接触回線から叩きつけられたミコトの魂の叫びと、その直後に繰り出されたガルバルディαの変幻自在な機動に、ヴァルターは驚愕の声を漏らした。
ただの未熟者だと思い込んでいた若手パイロットが、これほどまでに洗練された、かつ執念の宿った剣戟を見せてくるとは完全に想定外だった。
ガルバルディが右側頭部へと肉薄する。
センサー感知モードの光刃が、ジム・カスタムの頭部を捉える――そのコンマ数秒の世界。
だが、「マグネット・コーティング」は、ヴァルターの脳裏をよぎった生存本能的な恐怖の入力を、一切の遅延なく駆動系へとダイレクトに伝達した。
キィィィィン!
摩擦抵抗を極限まで抹消された関節モーターが、物理限界を超える超高速の悲鳴を上げる。
ジム・カスタムの左腕が人間の反射神経を凌駕する速度で跳ね上がり、手にしたシールドを、ガルバルディαの刃の軌道上へ文字通り『滑り込ませた』のだ。
――ガギィィィン!!
低出力のビーム刃がシールドの判定センサーを激しく削り、強烈なフラッシュバーストが2機の視界を爆発的に染め上げる。
「くっ、そぉぉぉ!!」
ミコトは歯を食いしばり、そのまま力任せに押し切ろうとした。
しかし、マグネット・コーティングの真の恐ろしさは、防御からの「次の動作への遷移速度」にこそあった。
反動による機体のブレを関節駆動が一瞬で吸収し、ジム・カスタムはガルバルディαの懐で、独楽のように鋭く身を翻したのだ。
「――っ!? いない!?」
ミコトのメインモニターから、一瞬にしてジム・カスタムの姿が消え去る。
驚愕に目を見開いた彼女の背後――完全な死角へと、ヴァルターは驚異的なレスポンスで回り込んでいた。
「過去の幽霊に囚われているのは……イーサンを越えられぬ私だけではない! ジオンの機体に身を委ねている、貴様も同じだァ!!」
ヴァルターの咆哮とともに、反転したジム・カスタムのビーム・サーベルが、無防備なガルバルディαの背装甲へと一閃された。
――ピピピピピピィィィ!!!
コックピット内に、無慈悲なシステムアラートが鳴り響く。
『背部ジェネレーター直撃。機能停止(ロスト)。行動不能判定』の赤い大文字がメインモニターを埋め尽くし、ガルバルディαの四肢からぷつりと駆動系のアクチュエーター圧が抜けた。
物理的なロックがかかり、機体はそのまま赤い大地へと膝を突く。
「う、うそ……ここまで、届かなかった……。」
ミコトは悔しさに唇を噛み締め、機能停止した操縦桿を握り締めたまま俯いた。
マイ中尉の報告書に恥じぬ戦いをしたつもりだったが、最新鋭機の「反応速度の壁」は、あまりにも厚く、冷酷だった。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ。」
一方、撃破判定を奪ったヴァルターもまた、コックピットの中で激しく肩を上下させ、荒い息を吐き出していた。
操縦席のシートベルトが、彼の胸をきつく締め付けている。
(……認めざるを得んな、ルナツーのひよっこめ。こちらの想定を二段階は上回る機動を見せてきおった……!)
マグネット・コーティングの超反応がなければ、間違いなく今の一撃で自分が沈んでいた。
額から流れる冷や汗を拭いながら、ヴァルターは手元に残ったビーム・サーベルを強く握り直す。
手こずらされた事実への屈辱か、それとも最新鋭の技術でねじ伏せたという歪んだ高揚感が、彼の冷徹な目をさらにギラギラと輝かせた。
前線での激しい機動格闘戦から一歩引いた中距離の戦場――そこは、硝煙と閃光が支配する、もう一つの決闘の舞台だった。
「墜ちろ、ジム・キャノンⅡ!!」
コロニー残骸の損壊した隔壁の隙間から、ヒタチの量産型ガンキャノンⅡが吼えるようにビームを放つ。
右背面の大型レドームが超高速で演算データを弾き出し、火器管制システムへ敵の位置情報をダイレクトに叩き込んでいた。
左肩のビーム・キャノン、そして両腕のシールド一体型二連ビーム・キャノンから、計算され尽くした三条の減衰フラッシュビームが放たれ、砂塵の向こうの影へと襲いかかる。
――ズドォン! ズババァン!
対するエイガーのジム・キャノンⅡは、その重装甲をきしませながら機体を斜めに滑らせ、ヒタチの放ったビームの網を紙一重で回避していた。
「いい弾筋だ! センサーの予測変換に頼らない、実に生きたデータだな……だが!」
エイガーはコックピットの中で、あえて火器管制システムの自動ロックオン機能をカットした。
コンソールに「MANUAL MODE」の文字が点灯する。
一年戦争時、ジオンのモビルスーツを相手に、戦車で数々の戦果を挙げてきた元戦車乗り。
その研ぎ澄まされた「勘」と「技量」が、砂塵の向こう、コロニーの隙間からかすかに覗く量産型ガンキャノンⅡの駆動排熱と、射撃時のわずかなマズルフラッシュの残光を網膜に捉えていた。
「砲撃ってのはなぁ、機械じゃなく人間の『目』で据えるもんだッ!!」
エイガーが手動で照準を補正し、操縦桿のトリガーを引く。
ジム・キャノンⅡの背面に据えられた連装ビーム・キャノンが、一切の無駄なくヒタチの「次の一歩」の先へと銃口を向けた。
――ドゴォン!!!
放たれた二筋の光条は、ヒタチが身を隠していたコロニーの隔壁に「まさにその場所」を正確に撃ち抜いた。
「うわあぁっ!?」
直撃こそ免れたものの、至近で爆ぜたフラッシュビームの猛烈なエネルギーログが、ヒタチの量産型ガンキャノンⅡのセンサーを激しく狂わせる。
モニターがノイズで激しく歪み、ヒタチは咄嗟に機体を遮蔽物の奥へと引き込ませるしかなかった。
「ロックオン外からの手動偏差射撃……! これが、ガンダムのパイロットを任された男の、腕前か……っ!」
ヒタチは冷や汗を流しながらも、その卓越したプロの技量に、畏怖と、それを上回る猛烈な対抗心を燃え上がらせていた。
機械の頭脳であるレドームを限界まで回し、データと戦術で挑むヒタチの量産型ガンキャノンⅡ。
人間の限界を超えた戦車乗りの勘と経験、そして最新鋭の重火力を操るエイガーのジム・キャノンⅡ。
激しい砲撃の応酬が始まってから数分。
オーストラリアの赤い大地は、両機が放つフラッシュビームの熱量によって完全に焼き焦げていた。
遮蔽物であるコロニーの隔壁はボロボロに崩れ、すでにその用を成さなくなっている。
「……っ、ミコト少尉が落とされた!?」
戦術ネットワークに響いたミコト機のロストシグナル。
ヒタチのコックピットに衝撃が走る。
数的不利。
しかし、その焦りをねじ伏せるように、ヒタチは量産型ガンキャノンⅡの出力を最大まで跳ね上げた。
「まだだ……! ガルバルディが繋いでくれた時間を、無駄にしてたまるかッ!」
ヒタチは右背面の大型レドームを限界駆動させた。エイガーのジム・キャノンⅡが次の一歩を踏み出す瞬間の駆動ノイズ、地熱の上昇、スラスターの余熱――あらゆる電子データをレドームが一本の線へと収束させていく。
対するエイガーも、これまでにないヒタチの猛烈な気迫を察知していた。
「数的不利になっても弾道がブレない……! 面白い、コンペで消えたのが惜しいくらいの、良い『砲撃機体』じゃないか!」
エイガーのジム・キャノンⅡが、重装甲をきしませながらスラスターを吹かす。
ヒタチは己の火器管制システムを信じ、両腕のシールド一体型二連ビーム・キャノン、そして左肩のビーム・キャノンを同時に一斉射した。
データが導き出した、完璧な未来位置への偏差射撃。
――ズガァァァン!!!
三筋の光条が、エイガーの進路を完全に塞ぐように炸裂した。
勝った、とヒタチは直感した。
どれほど戦車乗りの勘が冴えていようと、退路をすべて潰したこの網からは逃れられないはずだ。だが――。
「甘いな。進路を予測されているなら、その予測ごと突っ切るまでさ!」
エイガーはジム・キャノンⅡの分厚いチョバム・アーマーの装甲を盾に、ビームの爆煙のただ中へと機体を強引に突っ込ませたのだ。
演習用の減衰ビームがジム・キャノンⅡの重装甲を激しく削り、ダメージログの警告灯がコックピットで明滅する。
しかし、最新鋭のチョバム・アーマーはその衝撃を物理的に受け止め、機体の『芯』を守り切った。
爆煙を突き破り、圧倒的な威容で姿を現すジム・キャノンⅡ。
その手動で据えられた連装ビーム・キャノンの銃口は、すでにヒタチの量産型ガンキャノンⅡの胸元を真っ直ぐに捉えていた。
「コンペの勝敗を分けたのはなぁ……この、タフさなんだよッ!!』
エイガーの吼え声とともに、フットペダルが踏み込まれる。
――ドゴォン!!!
至近距離から放たれた二筋の光条が、量産型ガンキャノンⅡの胸部装甲へ正確に吸い込まれた。
「ぐあああああっ!?」
激しい衝撃がヒタチの五体をリニアシートへと叩きつける。
システムが瞬時に物理ロックを起動し、メインモニターが暗転。
『胸部ジェネレーター直撃、機能停止判定(ロスト)』の文字が冷酷に浮かび上がった。
駆動圧の抜けた量産型ガンキャノンⅡが、赤い大地へとゆっくり傾ぎ、そのまま倒れ伏す。
「……ここまで、ですか。すいません、少佐……。」
ヒタチは悔しさに奥歯を噛み締めながら、機能停止した操縦桿からそっと手を離した。
性能でも、そしてパイロットの技量でも負けていなかった。
ただ、最新鋭機が持つ「理不尽なまでの頑強さ」という壁に、あと一歩が届かなかったのだ。
「はぁ、はぁ……やるじゃないか、ルナツーの教導隊。」
ジム・キャノンⅡのコックピットで、エイガーはダメージログに表示された自機の装甲損耗率を見つめながら、感嘆の息を漏らした。
あと一歩、チョバム・アーマーの恩恵がなければ、今頃沈んでいたのは自分の方だった。
エイガーは焦げ付いたジム・キャノンⅡの巨躯を翻し、最後の一機が待つ平原へと向けて、ゆっくりと前進を開始した。
ジム・スナイパーⅡのコックピットに響き渡る、無慈悲なロストシグナル。ミコトに続き、信頼する愛弟子までもが機能停止に追い込まれた戦術マップを見つめ、ボカタ・ポワチエ少佐の顔に張り詰めた焦燥が走る。
数的不利は1対3。
しかし、彼女の目の前に立ち塞がる影は、その絶望をさらに深いものへと変えていた。
「そこまでです、ポワチエ少佐! もう勝負は決しました!」
クリスチーナ・マッケンジーのジム・カスタムが、最新鋭のマグネット・コーティングを滑らかに機能させながら、ボカタの射線を完璧に潰しにきていた。
「悪いね、マッケンジー中尉。ウチらはルナツー教導隊の看板を背負ってるんだ。若手たちに無様な背中を見せて、はいそうですかと投降できるわけがないだろう!」
ボカタは叫び、専用ビーム・ライフルのトリガーを怒涛の勢いで引き絞った。
一年戦争の最終決戦ア・バオア・クーをも生き抜いた、熟練エースの苛烈な三連射。演習用の減衰フラッシュビームが、クリス機の四肢を狙って寸分の狂いなく襲いかかる。
――だが、クリスは驚くほど冷静だった。
(……良い弾筋。でも、アレックスのあの凶暴なレスポンスに比べれば、私の思い通りに機体を動かせる……!)
かつてニュータイプ専用試作機ガンダムNT-1のテストパイロットを務め、その過酷なGと機動を御してきたクリスにとって、マグネット・コーティングで完全に最適化されたジム・カスタムは、文字通り自分の肉体の延長だった。
クリスは一切の気負いなく、ボカタの射線を読み解く。
ジム・カスタムは最小限のステップでビームを紙一重で回避し、機体のブレを関節駆動で即座に相殺しながら、滑らかにジム・ライフルを構え直した。
――ガガァン!
的確な、寸分の無駄もないペイント弾の反撃。
「くっ……この娘、なんて落ち着きようだい……!」
ボカタは盾を滑らせて実弾を弾き返したが、衝撃でジム・スナイパーⅡの体勢がわずかに崩れる。
周囲を見渡せば、ミコトを仕留めたヴァルターのジム・カスタムが横から回り込み、遠方からはヒタチを破ったエイガーのジム・キャノンⅡがすでに砲撃態勢を整えつつある。完全に退路は断たれていた。
(ここまでだね……。でも、ただでは転ばない。教導隊の意地、せめてその胸元に一太刀刻んでやる!)
ボカタは覚悟を決めた。
コンソールのリミッターを強引に解除し、ガンダムの2倍以上の推力を誇るジム・スナイパーⅡのバックパックと脚部スラスターを限界まで爆発させる。
赤い大地を文字通り消し飛ばすような猛烈なダッシュで、クリス機の懐へと一気に肉薄した。狙うは一撃必殺。
ライフルの銃口をクリスのコックピットフレームへと真っ直ぐに突き付ける。
「これが私の、最後の勝負さぁっ!!」
ボカタの咆哮とともに、至近距離からフラッシュビームが放たれた。
誰もが直撃を確信した、渾身のタイミングだった。
しかし――クリスの冷静さは、その限界の領域すらも上回っていた。
「……見えています!」
クリスはレバーを鋭く引き絞る。マグネット・コーティングが施されたジム・カスタムの腕部が、人間の限界を超えた反射速度でシールドを跳ね上げ、ボカタのライフルの銃身を強引に『弾き滑らせた』のだ。
至近距離で放たれたビームは、ジム・カスタムの肩口の虚空を虚しく切り裂き、赤い大地を爆えさせるに留まった。
「――っ!? 弾かれた……!?」
ボカタが驚愕に目を見開いた刹那、クリスは体勢を崩したジム・スナイパーⅡの胸元へ、すでにジム・ライフルの銃口を完全に据えていた。
クリスの指がトリガーを冷徹に引き絞る。
――ガガガガァン!!!
至近距離から放たれた90mmペイント弾の猛烈な斉射が、ジム・スナイパーⅡのコックピットハッチを正確に打ち抜いた。
『――ピピピピピピィィィ!!!』
無慈悲な電子アラートがコックピットに鳴り響き、メインモニターが暗転する。
『胸部装甲大破、ジェネレーター沈黙。機能停止判定』の文字が、ボカタの顔を赤く染め上げた。
四肢の駆動圧が抜け、ジム・スナイパーⅡがゆっくりと膝を突く。
「はぁ……はぁ……。一歩、及ばなかったか……。」
ボカタは操縦桿から力を抜き、座席に深く身体を預けて苦笑いを浮かべた。
ジャブローのエリートたちの圧倒的な最新鋭の性能、そしてそれを完璧に使いこなす元ガンダムパイロット2人の技量。
完敗だった。
しかし、悔しさの裏には、持てる力をすべて出し切った戦友としての清々しさがあった。
「ポワチエ少佐、素晴らしいお相手でした。……ありがとうございます。」
通信回線から届く、クリスの丁寧な労いの声。
赤い砂塵が舞うトリントン基地の演習場に、予選3日目Bグループ第三試合の終了を告げる、長大なブザーが鳴り響いた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
白熱の教導隊VS最新鋭機チームの試合が終わりました。
まさかのオリヴァー・マイの登場です(笑)
「ヒルドルブ」の名前が無かったのは、一年戦争時のノイジー・フェアリー隊の戦闘の時に名前が出ていたので、今回は「ヨルムンガンド」「ヅダ」「ゼーゴック」の名前を登場させました。
オリヴァー・マイ中尉のモビルスーツを評価する姿勢が本当に大好きで、ガルマ三部作のオリヴァー・マイも格好いいですよね。
ではでは、次の話も楽しみにしてください。
いつも感想を書いてくださり、ありがとうございます。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
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