トリントン基地を包む空気は、これまでの予選や準決勝のそれとは完全に一線を画していた。
スタジアムを埋め尽くす観衆の熱気は、もはや単なるお祭り騒ぎの喧騒ではない。
ジャブロー直轄の最新鋭機チームをジャイアンキリングしてみせた「コジマ大隊第4小隊」と、ファントム・スイープ隊との極限の激闘を制した「ウィッチハント隊」――大戦を生き抜いた本物の精鋭同士が激突するその瞬間を、一瞬とも見逃すまいとする息詰まるような緊迫感が、基地全体を支配していた。
関係者専用の観客席には、トリントン基地のサウス・バニング大尉を筆頭に、昨日リリスたちと死闘を演じたユーグ・クーロ大尉、ハイメ、ロブらファントム・スイープ隊の面々がどっしりと腰を下ろしている。
バニング大尉は太い腕を組み、低い声で重々しく呟いた。
「この決勝戦で、この競技会の優勝者が決まる……。まさに精鋭部隊の頂点を決める戦いだな。」
その背後で、部下のアラン中尉が姿勢を正し、生真面目な顔で深く頷く。
「はい。第4小隊の相手の裏をかく多彩な戦術、そしてウィッチハント隊の苛烈な突破力。どちらが王座を掴むか、一瞬の油断も許されない実力者同士の激突になります。」
すると、その隣からカークス少尉が「いや〜、本当にそうですよね!」と、弾んだ声で快活に割って入った。
「下馬評じゃ最新鋭機を負かした第4小隊が優勢なんて声もありますけど、リリス中尉のウィッチハント隊も伊達にここまで上がってきてないですよ! いやあ、本物のエースパイロット同士、一体どんな凄い戦いを見せてくれるのか、ワクワクが止まらないです!」
アランが少し呆れたように、しかし口元を緩めてカークスを振り返る。
「カークス、興奮しすぎだ。少し落ち着け。」
「え〜? アラン中尉だって本当は楽しみにしてるくせに〜。――ですよね、隊長?」
カークスがニヤリと白い歯を見せて同意を求めると、バニングはただ「フン」と鼻を鳴らし、眼下のフィールドを見据えた。
彼らのすぐ近くには、SRT-ユニット1のアラン・アイルワード中尉が穏やかな笑みを浮かべながら、ホア軍曹やデニス曹長、リル少尉と共に陣取っている。
ファントム・スイープ隊に敗北を味わった彼らだが、今は純粋に第4小隊とウィッチハント隊の決戦を応援する立場に徹し、固唾を呑んで大型モニターを見つめていた。
ユーグは腕を組んだまま、静かに隣のアラン・アイルワード中尉へ声をかけた。
「……アラン中尉。君はどう見る? 第4小隊とウィッチハント隊、どちらが勝つと思う?」
アランは少し考え込むような素振りをした後、その童顔に似合わぬ落ち着いた声音で答えた。
「正直、非常に難しいですね……。第4小隊はソウヤ中尉の個人の技量と、エミリア准尉の索敵・統制能力が異常なまでに高い。スライフレイルの近接戦闘力はまさに化け物です。ですが、ウィッチハント隊は……。」
アランは言葉を区切り、眼下の地上へと視線を落とした。
「リリス中尉の『魔女狩り』としての戦闘センスが突出しています。特にピクシーのツイン・ビーム・スピアによる変幻自在な槍捌きは、昨日ユーグ大尉のジーラインを苦しめたように、間合いを詰められた瞬間に一気に形勢を逆転させる破壊力があります。」
ユーグは小さく頷き、わずかに口元を緩めた。
「俺も同意見だ。タカバ中尉は確かに強い。だがリリス・エイデン中尉は……昨日直接刃を交えて痛感したが、ただ強いだけじゃない。彼女は戦場で『死神』になる。間合いに入った瞬間に、相手の息の根を止める嗅覚と技術を持っている。」
隣で聞いていたロブ・ハートレイ中尉が、にやりと笑って口を挟んだ。
「隊長、随分とリリス中尉を褒めちぎりますね。昨日あれだけ苦戦させられたからですか?」
「馬鹿を言うな。事実を述べているだけだ。」
ユーグは軽く睨み返したが、すぐに真顔に戻る。
「……ただ、俺は第4小隊に僅かながら分があると思っている。ソウヤ中尉は戦いの中で『成長』するタイプだ。昨日までのデータだけで判断するのは危険だろうな。」
アランは微笑みながら頷いた。
「僕もそう思います。どちらが勝ってもおかしくない……まさに、今大会の最後を飾るに相応しいカードですね。」
後ろからホア軍曹が小さく手を挙げ、からかうような声音で付け加えた。
「でも、もしリリス中尉が勝ったら……タカバ中尉、あの真面目な顔のまま、相当悔しがりそうですよね。」
その言葉に、周囲の緊張が和らぎ、小さく笑い声が漏れた。
そんな彼らから少し離れた席では、南米代表『赤い三巨星』の面々が、早くも熱い身振り手振りで語り合っていた。
「きゃーっ! やっぱり来てるわね! ソウヤ・タカバとリリス・エイデン!!」
マロビ・ブレイドン曹長が立ち上がりそうになりながら、茶色い瞳をキラキラと輝かせて大声をあげる。
「『オデッサの新星』のソウヤと、『赤』いリリスが決勝で激突するなんて最高じゃない! ふふっ、自分が認めた相手同士が頂点でぶつかる……本当に最高の景色よ!」
隣でラルフ・ザブカ中尉が深いため息をついた。
「……お前、本当に楽しそうだな。リリス中尉に完敗して、あれほど悔しがってたくせに。」
ウィリアム・マッチオ軍曹も耳たぶを触りながら、呆れたように口を挟む。
「因縁だのパーソナルカラーだの、全部自分の都合で盛り上がってるだけだろ。マロビは本当に単純だな。」
マロビはぷんっと頬を膨らませ、2人を振り返った。
「えー!? あんたたち、自分たちと戦って勝ったリリスが決勝に出てるのが嬉しくないの!? あたしが認めた相手が、あの舞台に立ってるんだよ!? 誇らしいと思わないわけ!?」
ラルフとウィリーは顔を見合わせ、同時に肩をすくめた。
「嬉しいに決まってるだろ。」
「誇らしいさ。当然だよ。」
ラルフが苦笑しながら言葉を継ぐ。
「ただ、お前があんまりはしゃぎすぎるから、周りに変な目で見られてるって言いたいんだよ…。」
ウィリーも同意するように頷いた。
さらに、観客席の最前列寄りでは、新生『ホワイト・ディンゴ』隊の面々が、静かに試合開始の瞬間を待っていた。
レオン・リーフェイ中尉が腕を組み、低く落ち着いた声でカイルたちに告げる。
「この試合をしっかり見ておけ。勝敗だけでなく、両者の戦術、連携、判断のすべてを頭に叩き込め。今後の自分たちの糧にするためにな。」
カイル・フォレスト少尉、ヴァイ・リー少尉、ソフィア・ラング軍曹の3人は背筋を伸ばし、即座に反応した。
「了解です!」
「了解しました。」
「はい!」
カイルは興奮を抑えきれない様子で拳を軽く握り、笑みを浮かべた。
「それにしても……俺たちと直接戦った第4小隊が、ここまで勝ち上がって決勝に出てるってのが、なんかすごく誇らしいですよ。オーストラリア代表として、同じ大地で戦った相手が頂点に立とうとしてるんですから!」
ヴァイが眼鏡の位置を指先で直しながら静かに頷き、ソフィアも小さく微笑む。
「ええ……本当に、胸が熱くなりますね。」
レオンは僅かに口元を緩め、静かに、だが力強く言った。
「そうだな。誇りを持って見届けよう。彼らの戦いを…。」
そのすぐ隣の区画では、ルナツー教導隊とチーム・シリウスの面々が、固く肩を並べるように座っていた。ボカタ少佐が腕を組み、その緑の瞳を細めてモニターを見つめながら呟く。
「ソウヤとリリス……。まさかあの2人が決勝で当たることになるとはな。面白い巡り合わせだ。」
チーム・シリウスのヒタチ中尉が、真剣な面持ちで深く頷いた。
「第4小隊の作戦は本当に見事でした。特にエミリア准尉の戦況統制能力は脅威と言うほかありません。ですがウィッチハント隊の連携と突破力も……正直、自分たちが当たって勝てたかどうか。」
ミコト少尉は少し興奮気味に身を乗り出した。
「リリス中尉のピクシー、昨日も凄かったですけど、今日は絶対にそれ以上の本気を出してくると思います! タカバ中尉とエイデン中尉、あの2人の戦いを特等席で見られるだけで、この競技会に来た甲斐がありました!」
そんな若者たちの熱気に当てられたように、少し離れた席から、エイガー中尉が苦笑しながら声を投げかけた。
「俺も同じ気持ちだよ。クリスはもう軍を離れるが……最後にこんな最高の試合を見届けられるなんて、幸運だな。」
クリスチーナ・マッケンジー中尉はおっとりとした、しかしどこか名残惜しそうな笑みを浮かべて言葉を返す。
「ふふ、本当にね。タカバ中尉の目覚ましい成長も、リリス中尉とピクシーの圧倒的な強さも、どちらも本物だわ。……どちらが勝っても、きっと歴史に残る素晴らしい決勝になるわよ。」
ノエル少尉が小さく手を振り、弾んだ声で付け加えた。
「私も、タカバ中尉のスライフレイルがどのように戦うか、すごく楽しみです!」
ボカタ少佐は満足げに頷き、周囲の皆を見回した。
「まあ、私たちはもう敗者であり、戦う側じゃない。今日は純粋に、あの2人の戦いを楽しもうじゃないか。」
ボカタの言葉に全員が静かに頷き、昨日の喧騒を越えて自らの誇りを取り戻した者たちすべてが、固さに満ちた、だが心地よい静寂の中で地上のスタート位置をじっと見つめていた。
スタジアムを揺るがす歓声が、密閉されたコックピットのスピーカーから鳴り響いてくる。
スタート位置に並んだウィッチハント隊の機体群。
その一角で、ルイザがコンソールに手を置いたまま、通信回線を通じて信じられないといった風に小さく息を吐き出した。
「……なんだか、本当に私たちが決勝戦の舞台に立っているなんて、未だに少し夢でも見ているみたいです。」
その弱気とも取れる呟きに、隣に並ぶバリーが低い笑い声を返す。
「おいおい、弱気はそこまでにしておけよ、ルイザ。俺だってまだ現実感が薄いのは確かだがな。――だけど、これは奇跡でもなんでもない。俺たちが自分たちの力で掴み取った、紛れもない『結果』だ。」
「大尉の言う通りよ。」
2人の会話に、リリスの澄んだ、しかし芯のある声が重なった。
ピクシーのシートに深く腰掛けた彼女は、操縦桿を握る手にぐっと力を込める。
「これは私たちが、この手で起こした現実。なら、今更怯む必要なんてどこにもないわ。全力で戦い抜いてきた自分たちに胸を張って、最高の相手に挑みましょう。」
「……はい! そうですね、リリス先輩!」
ルイザの声から迷いが消え、快活な返事が返ってくる。
モニター越しにルイザの表情を確認したバリーは、ふと思いついたように、少しトーンを落としてリリスに問いかけた。
「ところで、リリス。……昨晩、ソウヤにはちゃんと気持ちを伝えてきたのか?」
突然の問いかけに、一瞬だけ通信回線が静まり返る。
しかし、リリスが迷うことはなかった。
コンソールのインジケーターが明滅する中、彼女は誇らしげに、そしてどこか晴れやかな笑みを浮かべて答えた。
「ええ、ちゃんと伝えてきたわ。だからこそ、この決勝戦には一辺の悔いも残したくない。私の持てるすべてを、この戦いに叩きつける。……全力を尽くして、ソウヤに勝つ。それが私の出した答えよ。」
メインモニターの向こう、立ち上る熱気の先にあるコジマ大隊第4小隊の影を見据えながら、リリスは言い切った。
その凛とした宣言を耳にしたバリーは、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。
「へっ、そこまで覚悟を決められちゃ、こっちも半端な戦いは見せられねえな。そこまでやる気なんだ、俺たちも絶対に負けられないな、ルイザ!」
「もちろんです! ウィッチハント隊の底力、あの人たちに見せてあげましょう!」
戦友たちの熱い言葉を受け、リリスは深く頷いた。
「ガンダム・ピクシー、システム・オールグリーン……! いくわよ!」
コックピット内のアラートが試合開始のカウントダウンを刻み始める。
同じくスタートラインに佇むスライフレイルのコックピットで、ソウヤはコックピットで考え込んでいた。
胸の奥を去来するのは、奇妙な巡り合わせに対する、言葉にできない感慨だった。
(まさか……本当に、リリスと決勝戦の舞台で刃を交えることになるなんてな。)
3年前の一年戦争末期、キャリフォルニア・ベースの戦場。
絶体絶命の窮地に陥った自分の命を救ってくれたのは、他ならぬリリス・エイデンだった。
命の恩人であり、自分が追い求めた答えを出すために戦い続けた者同士、今こうして地球連邦軍の頂点を決めるステージで競い合っている。
人生とは、戦場とは、なんと不思議な軌跡を描くものなのだろうか。
感慨に浸るソウヤの耳元に、不意にスピーカーから低く穏やかな声が飛び込んできた。
「――タカバ隊長、緊張していらっしゃいますか?」
「……あ、いや。」
我に返ったソウヤは、通信の主がサンダース軍曹であることに気づき、わずかに苦笑を漏らした。
「ああ、緊張しているよ。……色んな意味でね。」
「ふふ、タカバ隊長でもそんな顔をされるんですね。ですが、無理もありません。相手はあのウィッチハント隊ですから。」
サンダースの落ち着いた声音を聞きながら、ソウヤは密かに拳を握りしめた。
ソウヤが抱える「緊張」の理由は、リリスとの因縁だけではなかった。
この競技会が閉幕した後、サンダースはラサ基地司令であるブレックス・フォーラ准将に、ラサ基地への異動を正式に願い出るはずだ。
約3年もの間、過酷な東南アジアのジャングルでジオン公国軍の残党と戦い、苦楽を共にしてきたかけがえのない仲間。
その戦友が自分たちの元を去り、ラサ基地へと異動してしまう。
ソウヤの心の中に、寂しさや心残りが全くないと言えば、それは嘘になる。
だが、それ以上にソウヤの胸を満たしていたのは、強い願いだった。
(サンダース軍曹のこれまでの戦功が、正当に評価されてほしい。新たな天地へ栄転する彼を、なんの憂いもなく、心からの祝福と安心を込めて送り出してあげたい。)
一年戦争の時に彼に懸けられた「嫌疑」の呪縛を振り払い、自らの幸せを掴もうとしている戦友の門出。
ならば、隊長である自分が彼にしてあげられる最大の餞別は、一体何だ。
答えは一つしかなかった。
(この決勝戦に、絶対に勝つ。勝利の栄光をもって、サンダース軍曹の新たな一歩に、最高の花を添えてみせる!)
リリスへの想い、そしてサンダースへの誓い。
2つの強い感情がソウヤの胸の中で1つに溶け合い、静かで、しかし決して揺らぐことのない灼熱の闘志へと変わっていく。
ソウヤは操縦桿を深く握り直し、鋭い眼光で前方のピクシーを凝視した。
「……勝つぞ。この決勝戦、俺たちが掴み取るんだ。」
その呟きは、これから始まる激闘に向けた、ソウヤ自身の魂の宣言だった。
ソウヤはコンソールを叩き、全機の機体ステータスを素早く網羅していく。
インジケーターの光が彼の瞳を緑色に染めた。
「ハンター1! スライフレイル・オールグリーン! 各機、状況報告!」
ソウヤの駆るスライフレイルは、かつて一年戦争を戦い抜いた陸戦型ガンダムをベースに改修を施された機体だ。
その特徴的な深緑の装甲、右手に握られたビーム・ライフル、そして最大の特徴である左右の腰部に装着された三節棍仕様の特殊兵装――『ロング・ビーム・ジャベリン』が、出撃の瞬間を静かに待っていた。
即座に、歴戦の重みを湛えたサンダースの力強い声が応じる。
「ハンター2! 陸戦型ガンダム、異常なし! 180mmキャノン、および懸架した100mmマシンガン異常なし! いつでも行けます、タカバ隊長!」
サンダースの陸戦型ガンダムは、両手で巨大な180mmキャノンをガッチリと保持し、いつでも射撃可能な姿勢をとっている。
その右腰にマウントされているのは、通常の予備マガジンではない。
もう一挺の主兵装である100mmマシンガンそのものが鈍い鈍色を放って装着されており、重武装仕様となっていた。
続いて、無線に滑り込んできたのはジョシュアの若い声だ。
「こちらハンター3、ジョシュです! ジム・キャノン、各部異常なし! ここまで来たんです、勝って笑って帰りましょう!」
ジョシュアのジム・キャノンは、その両手にビーム・スプレーガンをそれぞれ1挺ずつ、計2挺を装備するという変則的な二丁拳銃のスタイル。
さらに左腕には連邦軍標準シールドを隙なく構え、中距離支援のみならず自衛能力をも高めた独特の風格を見せていた。
最後に、後方に控えるホバー・トラックから、ノアとエミリアの通信が飛び込んでくる。
まずは運転席のノアが、ハンドルを握りしめながら豪快に笑った。
「こちらホバー・トラック! 各機関異常なし、快調そのものだ! サンダース軍曹の花道だからな! 勝って、夜は盛大に送り出してやらないと男が廃るってもんだぜ!」
その言葉の直後、オペレーター席のエミリアの声が重なる。
しかし、彼女の声はわずかに震え、目元にはすでに涙が浮かんでいた。
「オ、オペレーターのエミリアです……! ソナーおよび各種センサー、感度良好、異常なし! ――ええ、そうですね。サンダース軍曹が安心してラサ基地に行けるように……絶対に、勝ちましょう!」
鼻をすするエミリアの涙声がスピーカーから漏れると、サンダースは困ったように眉を下げ、苦笑混じりの声を返した。
「おいおい、エミリア准尉にノア。別れの感傷に浸ったり、泣いたりするのはまだ早いぞ。今は目の前の戦いと、相手の動きに全神経を集中させるんだ。」
「あ、う、うう……っ、ご、ごめんなさい! 取り乱しました!」
エミリアが慌てて回線越しに頭を下げると、張り詰めていた空気がふっと和らぎ、サンダース、ジョシュア、ノアの3人が同時に声を上げて笑った。
(いいチームだな、本当に……。)
コックピットの中で、ソウヤは仲間たちのやり取りを微笑ましく思いながら、胸の奥が熱くなるのを感じていた。
この温かさこそが、第4小隊の強さの源なのだ。
だが、ソウヤの表情はすぐに隊長としての鋭いものへと引き締まる。
「全機! 勝ちに行くぞ! 作戦は予定通り、俺が囮になる。――相手がこちらの想定したアンブッシュポイントに到達したら、手筈通りに仕掛けるぞ!」
「「「「了解!!」」」」
4人の息の合った、咆哮が返ってきた。
その瞬間、スタジアムの大型モニターと両機のコックピットに、赤文字のデジタルカウントダウンが非情に浮かび上がる。
『10……9……8……』
デジタル音がコックピットの静寂に響く。
ソウヤは操縦桿を握る手に力を込め、フットペダルに足をかけた。熱核反応炉の出力が最高潮に達し、機体がかすかに駆動振動を始める。
『3……2……1……』
【――SIGNAL GREEN(戦闘開始)】
けたたましいサイレンの音がトリントン基地の空を切り裂いた。
「コジマ大隊第4小隊! 出るぞ!!」
ソウヤの叫びと共に、スライフレイルの足裏から凄まじい砂煙が吹き上がる。
緑のガンダムが、そして仲間たちが、栄光の頂点を目指して不毛の大地へと力強く蹴り出した。
巨大な墓標のように突き刺さっているコロニーの残骸だらけの不毛の荒野を、紅い機体を先頭にした3機のモビルスーツが進軍していた。
コロニーの隔壁を回り込むようにして進むのは、北米戦線を戦い抜いた精鋭『ウィッチハント隊』。
その陣形は、極めて洗練されたものだった。先頭を行くのはリリス・エイデン中尉のガンダム・ピクシー。左腕のシールドを揺らし、いつでも格闘戦に転じられる遊撃・主攻の構えだ。
その斜め後方では、隊長であるバリー・アボット大尉の装甲強化型ジムが、上半身のリアクティブ・アーマーを誇示するように前衛・護衛として随伴し、滑らかなホバー移動で周囲を警戒している。
そして最後方からは、ルイザ・ルイス少尉の陸戦型ジムが手にしたビーム・ライフルをいつでも撃てるよう中距離射撃支援の体制でピタリと追従していた。
ある程度の距離を前進したところで、バリーが大尉としての落ち着いた声音で無線を開いた。
「……リリス、ルイザ。ある程度まで索敵エリアを広げながら進んだが、コジマ大隊第4小隊の姿が未だに確認できん。熱源反応もノイズに埋もれている。――待ち伏せされているな、これは。」
バリーの言葉に、最後方のルイザが通信回線越しに不満げな声を漏らす。
「決勝戦なのに最初から隠れてるなんて、なんだか卑怯ですよ、第4小隊。正々堂々と出てきて戦えばいいのに!」
「ルイザ、それは違うわ。」
リリスは凛とした声音で嗜めた。
「彼らの行動は極めて合理的、かつ理に適っているのよ。コジマ大隊第4小隊は、元々は東南アジアの鬱蒼とした密林地帯を主戦場にしていた部隊。ソウヤの機体――スライフレイルのあの深い緑色の装甲は、ジャングルに溶け込むための迷彩色よ。隠れて獲物を仕留めるのが、彼らの本来のスタイルなの。」
リリスの言葉を引き継ぐように、隊長のバリーが深く頷く。
「リリスの言う通りだ。俺たちの主戦場は遮蔽物の少ない北米大陸だった。だからこそ、この視界の開けたトリントン演習場でも北米と同じ感覚で、機動力を活かして戦うことができる。だが、密林を生き抜いてきた第4小隊にとっては、この不毛の荒野は勝手が違うはずだ。」
「だからこそ、凄いと思うの。」
リリスはメインモニターに映る赤茶けた大地を見つめ、言葉を紡いだ。
「彼らは自分たちに不利なこの演習場で、これまでの予選リーグ戦、ユーラシア代表のシャンシー独立重機化小隊を破り、オーストラリア代表のホワイト・ディンゴをも退けた。さらに昨日の決勝トーナメント準決勝では、あのジャブロー直轄の最新鋭機チーム『シリウス』すらもジャイアンキリングしてみせたわ。それは並大抵のことじゃない。」
バリーがニヤリと不敵に笑い、重々しく言葉を添える。
「ああ。そんな彼らが、得意の待ち伏せからの強襲を選んだ。それは、この演習場における彼らの『戦い方の最適解』だ。ルイザ、隠れているのは卑怯だからじゃない。彼らがそれだけ、俺たちを倒すために本気だっていう証拠さ。」
「……あ。そ、そういうことなんですね……。流石はリリス先輩、それに隊長です。」
ルイザは納得したような、しかし決勝の緊張感からか、まだ完全には落ち着ききらない硬い調子で返応した。
その時だった。
ピクシーのコンソールに一瞬だけ、異常な熱源接近を知らせるアラートが奔った。
リリスの鋭い空間認識能力が、前方数百メートル先、突き刺さるコロニー残骸のわずかな隙間から、一瞬だけ瞬いた強烈な光を捉える。
「――ビームよ!! 各機、散開して回避!!」
リリスの鋭い怒声が回線を切り裂いた。
その警告とほぼ同時に、3機は爆発的な推力で散開。
バリーの装甲強化型ジムはホバーで横へ滑り、ルイザの陸戦型ジムも後方へ跳ぶ。
リリスは即座にピクシーの操縦桿を蹴るように引き、最も近くにあったコロニーの分厚い装甲隔壁の影へと滑り込ませた。
――シュウウウウウウゥゥンッ!!!
直後、大気を引き裂くエネルギーの奔流が、リリスのいた空間をなぞるように通過した。
リリスが隔壁の影に飛び込んだのは、まさに紙一重、コンマ数秒のタイミングだった。
(……なんて狙い、なんてタイミングなの……!)
リリスは息を呑みながら、ピクシーを遮蔽物に潜ませたまま、頭部のメインカメラだけをわずかに露出させて射線上の確認を行った。
熱気が立ち上る射線の先。巨木の如く斜めに突き刺さるコロニーの残骸の闇から、金属音を響かせてゆっくりと姿を現す機体があった。
深緑の増加装甲を上半身に纏い、右手に白熱するビーム・ライフルを携えたガンダム。
ソウヤ・タカバ中尉の駆る『スライフレイル』だった。
リリスは冷や汗を流しながらも、どこか嬉しそうな、狂おしいほどの闘志を瞳に宿して呟いた。
「やっぱり……あなたね、ソウヤ。相変わらず凄まじい射撃の腕。――本当に、ギリギリだったわ。」
深い緑の密林を生き抜いた「狩人」と、北米の戦場を紅く染め上げた「魔女狩り」。
互いの背負う想いと、大切な仲間の未来を賭けた、地球連邦軍頂上決戦の幕が遂に上がった。
遂に決勝戦開幕!
最初は各陣営の会話シーンを書いて、後半はリリスとソウヤが接敵したシーンを書きました!
もう、これでもかと言うくらいに熱いバトルにしたので、楽しんでくだされば、幸いです。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
-
陸戦型ジム改
-
バイアリーターク
-
ペイルライダー・ヴァンガード
-
ペイルライダー・マスケッティア
-
ヴァルキリー
-
グフ・ノクターン