機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第121話 嵐の中で輝き続ける者たち【2】

背部に背負った大推力バックパックのバーニアが爆発的な輝きを放ち、紅い機体が赤土を蹴る。

 

「待ち伏せされているなら、陣形が整う前に叩く!」

 

リリスはコロニーの残骸や突き刺さる隔壁の死角を縫うように、ジグザグの高速立体機動でスライフレイルとの距離を詰めにかかった。

だが、密林の狩人はその突撃を冷徹に見据えていた。

ソウヤのスライフレイルが携えたビーム・ライフルから、流れるような動作で減衰フラッシュビームが連射される。

一発一発がピクシーの進行予測進路を正確に捉えており、リリスは防戦を余儀なくされた。

 

「くっ……相変わらず、なんて射撃精度なの!」

 

リリスは走りながら、バルザック式380mmロケット・バズーカをスライフレイルに向けた。

センサーが補正したソウヤの機体へ向け、牽制のペイント弾を撃ち返して応戦する。

しかし、射撃においては、ソウヤの技術がわずかにリリスを上回っていた。

スライフレイルの放った一筋の閃光が、リリスの射撃の瞬間を完璧に捉える。

 

――ピピピッ!

 

【ALERT:WEAPON DESTROYED】

 

「しまっ……!?」

 

コックピットに甲高いアラートが響く。

ソウヤの放ったフラッシュビームが、リリスの持つロケット・バズーカのマガジンを掠めていたのだ。

装甲裏のセンサーが直撃を判定し、バズーカの全機能が物理的にロックされる。

リリスは使い物にならなくなったバズーカを即座に投げ捨て、バックパック右側面からボトル状のE-CAPが特徴的なビーム・ガンを引き抜いた。

 

(一対一の射撃戦で、このままソウヤの間合いに飛び込むのは無理がある……!)

 

リリスは単独での突入を「危険」と一年戦争の時に培った経験から弾き出す。

だが、彼女には信頼できる仲間がいた。

 

「隊長、ホバーで左翼から回り込んでください! ルイザは射撃でソウヤの目を釘付けにして!」

 

「応よ! 任せな!!」

 

「了解です、リリス先輩!」

 

リリスの鋭い指示に、北米で培われた三位一体の連携が瞬時に動き出す。

バリーの装甲強化型ジムが、脚部の推進システムを唸らせた。

赤土の地面を滑るように滑らかなホバー移動で左翼側へと高速展開し、ソウヤの側面に回り込む。ソウヤがそれを迎撃しようとライフルの銃口を向けようとした。

そこへ、ルイザの陸戦型ジムが中距離から割って入った。

ルイザはルナ・チタニウム合金製の頑強な装甲を誇示するように一歩も引かず、スライフレイルと同型のビーム・ライフルをソウヤへ向けて連射する。

正確にスライフレイルのコックピット周辺を狙った鋭い牽制。

被弾すれば一発で機体機能がロックされる減衰ビームの弾幕が、ソウヤの目を完全に釘付けにした。

 

「今よ……!」

 

2人が作り出した絶対的な死角。

リリスのピクシーが、遮蔽物の影から爆発的な加速で飛び出した。

ビーム・ガンを構え、ソウヤの背後を急襲するアンブッシュの体勢。

だが――ソウヤ・タカバは、その程度の連携で捕らえられる男ではなかった。

 

「――チッ、流石にウィッチハント隊だ。連携の質が違いすぎる……!」

 

ソウヤは驚異的な反応速度でペダルを踏み込んだ。

スライフレイルは無理に3機の射撃に応戦しようとはせず、背後のコロニー残骸の複雑な構造をあらかじめ頭に叩き込んでいたかのように、滑らかなステップで後退を開始する。

崩れ落ちた隔壁の隙間、折れ曲がった鉄骨の影――演習場の地形を巧みに盾として利用し、リリスのビーム・ガンの射線を遮りながら、ソウヤは吸い込まれるように後方の暗がりへと下がっていく。

それは、見事なまでの「誘い」の機動だった。リリスの視界の先で、緑のガンダムが再び残骸の闇へと消えていく。深追いすれば、第4小隊が仕掛けたアンブッシュポイントに引きずり込まれるのは確実だった。

 

(この瞬間を、絶対に逃したくない……!)

 

後退する緑の機体を視界の端に捉えながら、リリスの胸中で焦燥と闘志が爆発した。

スライフレイルを仕留めるべく、ピクシーの操縦桿を限界まで押し込む。

その後方を、バリーの装甲強化型ジムとルイザの陸戦型ジムが必死に追随する。

 

ガンダム・ピクシー。

 

コア・ブロック・システムや宇宙用スラスターといった重力下で不要な機構をすべて削ぎ落とすことで、徹底的な軽量化を達成した機体。

さらに全身に増設されたアポジモーターが、爆発的な機動力を可能にしている。

その地上における瞬発力は、あの白き伝説『RX-78-2 ガンダム』すらも凌駕する。

一年戦争当時、地球圏において「連邦軍地上最速のモビルスーツ」とまで謳われたその驚異的な加速性能が、いま遺憾なく発揮されていた。

紅い死神が、陽炎を置き去りにしてスライフレイルとの距離を猛烈に縮めていく。

 

(――速い……! なんてスピードだ!)

 

迫り来る紅い影に、ソウヤはコックピットの中で戦慄を覚えていた。

バックモニター越しでも分かるその機動は、人間の反射速度の限界に挑むかのようだ。

ソウヤはすぐさま頭部バルカンを掃射し、右手のビーム・ライフルで弾幕を張って接近を阻もうとする。

しかし、リリスの駆るピクシーは、直撃しても致命傷にならないバルカン弾を左腕の簡易小型シールドで強引に防ぎ、機体機能を停止させられるビームの光条だけを紙一重で回避しながら、最短距離を突っ込んでくる。

 

距離、残りわずか。

 

リリスはツイン・ビーム・スピアの間合いにソウヤを捉えたと確信し、バックパックから槍を引き抜こうとした。

だが、その瞬間。スライフレイルがピタリとステップを止め、ソウヤの鋭い声が通信回線に響いた。

 

「――ポイント到達! 各機、撃てっ!!」

 

(……っ!? 殺気!?)

 

野生的な直感がリリスの背筋を駆け抜けた。

リリスは咄嗟に操縦桿を操作し、ピクシーの全アポジモーターを強制噴射させて横跳びの回避行動をとる。

 

ドガァァァァァンッ!!!

 

凄まじい大気震動と共に、ピクシーが直前までいた赤土の大地に演習用の着色染料が激しく飛び散った。コロニー残骸の激しいエコーを伴ったその重低音に、リリスは息を呑む。

 

(この重い砲撃音……ジョシュア軍曹のジム・キャノン!?)

 

リリスは弾道から一瞬で敵の射線を割り出し、そちらへメインカメラを向けた。

しかし、硝煙の向こうに佇んでいたのは、大型の180mmキャノンを両手でどっしりと構えた、サンダースの陸戦型ガンダムだった。

 

(しまっ……! ジム・キャノンじゃない、陸戦型ガンダムのキャノン砲……!!)

 

リリスは戦慄と共に、自身の致命的な状況を悟った。

今の一撃を回避するため、ピクシーは瞬間的に大量の推進剤を消費させられていた。

1回分の緊急回避にすべての推進力を吐き出され、スラスターの再充填が完了するまでの僅かな数秒間、ピクシーは完全に足を止める事態に陥ってしまったのだ。

そこへ、サンダースが潜んでいたコロニー残骸のまさに反対側の影から、もう一機の影が滑り出てくる。

ハンター3――ジョシュアのジム・キャノンだった。

ジム・キャノンは完全に硬直したピクシーへ向け、肩の削り出しキャノン砲と、両手に構えた二挺のビーム・スプレーガンの銃口を完全にロックオンしていた。

 

(――撃破される……っ!?)

 

リリスが撃破判定を覚悟したその瞬間、視界の前に、巨大な質量が猛スピードで滑り込んできた。

 

「リリス!!」

 

バリーの叫び声と共に、脚部の推進システムを限界まで吹かした装甲強化型ジムが、ジム・キャノンとピクシーの射線を完全に遮るように割って入った。

バリーはコマンドシールドを前に掲げ、上半身の追加装甲を突き出す。

 

ズババババババババババッ!!!

 

ジム・キャノンが放ったキャノン砲のペイント弾と、二挺のビーム・スプレーガンから放たれた減衰フラッシュビームの一斉射撃が、バリーの機体に容赦なく叩きつけられた。

直撃の凄まじい衝撃に、装甲強化型ジムの巨体が激しく揺れる。

 

「バリー隊長ーーっ!?」

 

リリスの悲鳴のような叫びが響く中、バリーのジムはなんとかその場に踏みとどまっていた。

実体弾の衝撃を相殺するため、上半身に配置されたリアクティブ・アーマーのほとんどが爆発を伴って引き剥がされ、シールドにも無数のログが走っている。

だが、致命的な直撃を許しておらず、機体機能の物理ロックは何とか免れていた。

 

「はっ……危ねえところだったな、リリス。……だが、間に合って良かった!」

 

バリーは荒い息を吐きながらも、隊長としての安堵の声を回線に繋ぐ。

その直後、後方からルイザの陸戦型ジムがカバーに入った。

機体を躍動させ、手にしたビーム・ライフルをジョシュアのジム・キャノンへ向けて激しく連射する。

この一撃により、第4小隊は深追いを断念。

サンダースの陸戦型ガンダムとジョシュアのジム・キャノンは、巧みなステップで後退しながら、中央のソウヤのスライフレイルの元へと合流した。

巻き上がる赤土の砂煙が、ゆっくりと風に流されていく。

遮蔽物の点在する荒野の中央。深い緑の装甲を纏い、完璧な連携で罠を張っていたコジマ大隊第4小隊の3機。そして、剥がれ落ちたリアクティブ・アーマーから硝煙を上げながらも、不屈の闘志で身構えるウィッチハント隊の3機。

互いの手の内を出し尽くした第1ラウンドを終え、精鋭6機のモビルスーツが、遂に正面から対峙した。

スライフレイルのコックピットで、ソウヤは小さく舌を巻いた。

完璧なタイミング。

完璧な時間差でのハサミ撃ちだった。

エミリアのナビゲートで、演習場の地形をこれ以上ないほどに活かした「必殺」の待ち伏せ。

リリスのピクシーを確実に機能停止に追い込めたはずの罠だった。

それを土壇場で引っ繰り返された悔しさが、ソウヤの操縦桿を握る手に滲む。

 

ソウヤは唇を噛み締め、苦々しい通信を回線に開いた。

 

「……チッ、流石に甘くはないか。……やっぱり、あの人が一番厄介だな。」

 

その呟きを拾ったサンダースが、陸戦型ガンダムの180mmキャノンを構え直しながら問いかける。

 

「誰のことです? タカバ隊長。リリス中尉のことですか?」

 

「いや、違う。――バリー大尉のことだ。」

 

ソウヤはメインモニターの中央、盾を構えてリリスを背中に庇う装甲強化型ジムを鋭く見据えた。

 

「あの人は一年戦争の北米大陸で、それこそ『北米の魔女』達の化け物じみたモビルスーツ2機を、あのジム1機だけで足止めし続けたっていう本物の傑物だ。あの判断力……伊達に北米の魔女達と渡り合っていないな。」

 

「……なるほど。あのリリス中尉の手綱を握り、盾となる男ですか。確かに、恐ろしい壁ですね。」

 

サンダースもその言葉に重い実感を込め、ジョシュアもまた、ジム・キャノンの二挺のビーム・スプレーガンを構え直して緊張に息を呑んだ。

最強の矛であるリリスを討つためには、まずあの強固な「鉄壁の盾」を破らねばならないのだ。

 

「見事な待ち伏せだ。流石は数多の死線を越えてきたコジマ大隊だな。」

 

回線越しに荒い息を吐きながら、バリー大尉は敵の完璧な連携に偽りのない称賛を贈った。

すかさず、後方からカバーに入っていたルイザが心配そうな声を上げる。

 

「バリー隊長、大丈夫ですか!? 追加装甲が……!」

 

「心配ない。リアクティブ・アーマーのほとんどは剥がされちまったがね。だが、一斉射を相殺してみせた。機体本体は無事だ、まだ戦える。」

 

「……ごめんなさい、バリー隊長。私が先走ってしまったせいで……。」

 

通信回線に、リリスの沈んだ声が響く。

ソウヤを前にして、己の昂る感情を制御しきれなかった。エースとしての責任感が、彼女の胸を締め付ける。

しかし、バリーは優しく、だが同時に指揮官としての厳しさを持ってそれを遮った。

 

「謝るな、リリス。相手があのタカバ中尉だ、雌雄を決したいというお前の気持ちは尊重する。――だがな、戦場で冷静さを失った奴から負けるぞ。頭を冷やせ。お前はウィッチハントの主役だ。」

 

「……っ。――はい。ありがとうございます、隊長!」

 

リリスの瞳から焦りが消え、北米を恐怖させた冷徹な「魔女狩り」の輝きが戻る。

バリーはメインモニターに映る緑のガンダムを見据え、力強く告げた。

 

「相手の完璧な待ち伏せは失敗し、こうして互いに姿を晒した。つまり、ここからは小細工なしの純粋なパイロット技術と、機体スペックによる力比べってわけだ。いくぞ!」

 

「「了解!!」」

 

「リリスはエースのタカバ中尉を。ルイザは陸戦型ジムより機動性が低い、あのジム・キャノンをマーク。俺はまだ残っている上半身のリアクティブ・アーマーを盾にして、肉薄すれば有利が取れる陸戦型ガンダムを抑える!」

 

「わかりました! ウィッチハント隊、これより強襲に移行します!」

 

リリスは即座に応じると、手元で弾切れ間近だったビーム・ガンを躊躇なくデッドウェイトとしてパージ。

代わりに、バックパック左側面にマウントされていた近接兵装――『ツイン・ビーム・スピア』へと右手を伸ばし、ガッチリと掴み取った。

 

「いくわよ……!」

 

ウィッチハント隊の3機が、赤土の大地を爆発的な推力で同時に蹴り出した。

一方、スライフレイルのコックピットでその動きを察知したソウヤもまた、冷徹に敵の意図を見抜いていた。

 

「仕掛けてきたか……! サンダース軍曹、ジョシュア、来るぞ!」

 

即座に戦術データを共有しながら、ソウヤは的確な指示を飛ばす。

 

「サンダース軍曹は、あのバリー大尉の装甲強化型ジムを抑えてくれ。ジョシュア、相手の陸戦型ジムは手強いが、なんとか対応を頼む。――そして、リリス中尉のピクシーは、俺が対処する!」

 

 

「了解です! ――チッ、接近戦であのホバー相手にこいつは取り回しが悪いな!」

 

サンダースは即座に状況を判断すると、両手で保持していた長大な180mmキャノンをガシャリと地面に手放す。

不毛の赤土にキャノンが横たわるのと同時に、その右手は右腰のマウントラックへと迷いなく伸びる。

ガチリ、と鈍い金属音を響かせ、鈍色に鈍く光る100mmマシンガンを引き抜いて構えた。

 

「あの鉄壁の盾、俺がなんとかしてみせますよ、 隊長!」

 

「こちらハンター3! 苦戦は承知の上です、絶対に引かせません!」

 

仲間たちの頼もしい声を背に受けながら、ソウヤは右手に持っていた、残弾の少ないビーム・ライフルを潔く手放した。

そして、視線を左右の腰部ラックへと落とす。

 

「……ここからは、一歩も引けないインファイトだ。」

 

スライフレイルの左右の腰から、三節棍を模した2本の特殊なビーム・ジャベリンが同時に引き抜かれた。

駆動音と共に、その2本のグリップエンドが中央でガチリと強固に連結される。

 

――『ロング・ビーム・ジャベリンモード』。

 

連結された柄の両端から、低出力ながらも鋭いプラズマの光刃がブワッと立ち上り、緑のガンダムの周囲に圧倒的な威圧感を放った。

 

「全機――勝ちに行くぞ!!」

 

ソウヤの激しい号令が、トリントンの荒野に響き渡る。

 

「「「「おおおおおおおッ!!!」」」」

 

シグナルが激しく明滅する中、コジマ大隊第4小隊の3機もまた、地鳴りを上げて前方へと突撃を開始した。

遮蔽物の点在する赤茶けた荒野のド真ん中、緑と紅、そして砂煙を巻き上げる精鋭たちの質量が、互いのプライドと未来を懸けて、遂に正面から激しく激突した。




互いのもっとも得意な戦術が不発に終わり、あとは互いの操縦技術と機体スペックのガチンコ勝負!
ソウヤのロング・ビーム・ジャベリンとリリスのツイン・ビーム・スピアの穂先が交わります!
そして、まさかのあれが登場!
明日の話を期待していてください。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】で登場した原作キャラクターで好きなキャラクターは?

  • ヤザン・ゲーブル
  • テリー・サンダースJr.   
  • カレン・ジョシュア
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