宇宙世紀0083年10月16日
重苦しい熱気を孕んだ風が吹き抜ける、マラッカ海峡――地球連邦軍チョンギ海軍基地。
この地は旧世紀のシンガポールに存在した『チャンギ海軍基地』の遺構をそのまま再利用した、連邦軍の東南アジア沿岸防衛の要衝である。
トリントン基地でガンダム試作2号機が強奪されたという最悪の凶報を受け、東南アジア方面軍司令官のブレックス・フォーラ准将は即座に動いた。
主要なすべての港湾や沿岸施設へと速やかに防衛部隊を緊急派遣。
さらに、奪われた2号機が潜水艦でアフリカ大陸へ向かう可能性が極めて高いと予見したブレックスは、インド洋の手前に位置するこのマラッカ海峡の防衛を最重要視した。
もしジオン残党の潜水艦がこの海峡を強行突破するならば、障害となる本基地の機能を停止させるため、必ず水陸両用モビルスーツ部隊による襲撃がある。
そう直感した准将は、基地の警備を極限まで厚くするため、方面軍最精鋭へと成長した『コジマ大隊第4小隊』をこのチョンギ海軍基地へと直ちに緊急配置したのだった。
夕闇が迫る潮の香りのなか、基地の波止場には、ソウヤ・タカバ大尉の駆る深い緑の『スライフレイル』の雄姿があった。
そしてその左右を固めるように、胸部と爪先の装甲が鮮やかなオリーブグリーンに塗装された、第4小隊仕様のジムタイプが2機、周囲を警戒している。
1機は、右肩にキャノン砲、左胸にスモークディスチャージャーを装着、両手に二挺のビーム・スプレーガンを構えたジョシュア曹長の『ジム・キャノン』だ。
トリントンでの激闘を経て、その立ち姿には歴戦の凄みが備わっている。
そして、もう1機のジムは、一見すれば通常のRGM-79ジムに酷似していたが、内実のスペックは完全に一線を画していた。
頭部の右側、後頭部から一本の細いアンテナが、まるで周囲の音へ耳を澄ませるように天へと伸びている。
左肩口には、ひっそりと最新のサブセンサーが埋め込まれ、肩アーマーの側面には、姿勢制御用のスラスターが左右に2基ずつ、控えめに口を開けている。
さらに脚部の脹脛には、追加固定された3基のスラスターが新設され、バックパックは高出力な4基のメインスラスターを持つ新型へと換装されていた。
これこそが、現行のジムを順次近代化改修する次世代軍備計画によって生まれた機体――『ジムⅡ』であった。
ノアの乗るこの機体は、一年戦争時の先行量産型ジムをベースに、ジャブローやグラナダの工廠で第一陣として近代化改修を施された、わずか58機の中の貴重な1機である。
後年、宇宙世紀0085年以降に量産・改修される機体に導入されることになる「全天周囲モニター」はまだ搭載されておらず、コックピット内部は従来型の通常モニター仕様のまま据え置かれた初期改修モデルであった。
だが、基本性能の大幅な底上げにより、その戦闘力は既存のジムを遥かに凌駕している。
昇進して軍曹となったノアの新たな愛機は、その両手に実体弾式のロケット・ランチャーを重々しく携えていた。
防潮堤の上にどっしりと佇む通常モニターに囲まれたコックピットの中で、ノア軍曹は周囲の張り詰めた緊張感などどこへやら、新型機をあてがわれた喜びから、上機嫌に鼻歌を鳴らしながらコンソールの各インジケーターの数値を眺めていた。
「――ノア、お前ずいぶん上機嫌だな。通信回線に鼻歌が丸聞こえだぞ。」
ジョシュア曹長が呆れたような声を無線に滑り込ませてきた。
すると、ジムⅡのシートに座るノア軍曹は、待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに声を弾ませた。
「当たり前だろ! やっと、ブレックス准将から支給された俺の愛機、この最新鋭のジムⅡで実戦に出られたんだ。喜ばない方がおかしいって!」
「はいはい、よかったな。新型機をあてがわれて、子供みたいだぞ。」
「ふん、なんとでも言え。こいつは従来のジムと違うんだからな。全体的なスペックの底上げはもちろん、なんとあのジム・カスタムと同じ、駆動系にマグネット・コーティングまで施されてるんだぞ。それでいて操縦システムは今までのジムとほとんど変わらない。つまり、扱いやすくて最高にキレがある! 完璧な名機だよ、こいつは!」
ノアが自分の愛機をこれでもかとベタ褒めすると、ジョシュアはフンと鼻を鳴らす。
「熱弁のところ悪いが、所詮は一年戦争の先行量産型をベースに近代化改修したジムだろ? いくらスペックが上がったところで、ジムはジムさ。」
「なっ……! 言うに事欠いてそれか! それでも、俺に初めて与えられた愛機なんだよ! 大体、お前の機体だって一年戦争時のジム・キャノンだろうが! 同じジムのくせに偉そうに言うな!」
「失礼な。こいつは3年間、一緒に戦い続けた大事な相棒だ。中距離支援の重みってやつを教えてやろうか?」
「上等だ、だったらジムⅡの推力で後ろに回り込んで――」
「――いい加減にしなさい、2人とも!!」
コックピット内のスピーカーが割れんばかりの、エミリア少尉の怒声が2人の口論を強引に叩き切った。
ホバートラックの電子席に座るエミリアは、コンソールのレーダーを見つめたまま、怒りを滲ませて通信を開く。
「今は潜水艦の強行突破と、水陸両用モビルスーツの襲撃を警戒する重要な任務中よ! 集中しなさい!」
「「いや、だって……!」」
2人が同時に不満げな反論を口にしようとすると、エミリアは盛大にため息をついて見せた。
「まったく……。サンダース曹長が部隊を離れた途端、すぐにこれなんだから。これなら、今からでも准将に頼んで、サンダース曹長にコジマ大隊へ帰ってきてもらうようにお願いしようかしら?」
「「それだけはご勘弁を!!!」」
歴戦の鬼軍曹によるあの数ヶ月間の地獄の居残り特訓が脳裏をよぎったのか、ジョシュアとノアは今度は完璧に息の合ったシンクロで、凄まじい勢いで手を振って遠慮した。
しかし、エミリアの小言はそれだけでは終わらなかった。
彼女はメインモニターに映る2機のジムタイプの映像を睨みつける。
「サンダース曹長がいなくなって、ジムⅡが納入されたと思ったら……あなたたち、すぐに何をした? ジム・キャノンとジムⅡの胴体と爪先の装甲を、勝手に塗装して!」
話を振られたノアは、モニターの向こうで悪びれることなく胸を張った。
「いいじゃないか、エミリア。これは隊長のスライフレイルの深い緑色にあやかって塗装したんだよ。俺たちは競技会で優勝した、名実ともに東南アジア方面軍の最精鋭部隊なんだろ? 他の一般部隊の連中に一目で俺たちの存在が分かるように、独自のパーソナルカラーを塗装したってバチは当たらないでしょう?」
「独自のカラーだなんて、完全に気が緩んでいる証拠よ!」
エミリアはぷんぷんと怒りながら、ついに防潮堤の中央でずっと沈黙を保っていた深い緑のガンダム――スライフレイルのコックピットへと回線を繋いだ。
「――隊長! 隊長からも、この締まりのない2人に何か言ってやってください!」
エミリアから完全に意見を求められ、急に矛先を向けられたソウヤ大尉は、操縦桿を握ったまま、困ったように苦笑を浮かべて頭を掻いた。
「……やれやれ。あの南米代表、赤い三巨星のマロビ曹長の悪い癖が、うちの2人に移ったかな?」
スライフレイルのコックピットで、ソウヤ大尉は通信機越しに聞こえるノアの主張に苦笑し、かつて競技会の観客席で独自の理論を展開していたマロビの顔を思い浮かべていた。
ソウヤは喉を小さく鳴らして表情を引き締めると、厳格な隊長としての声を回線に乗せた。
「ジョシュア曹長、ノア軍曹。エミリア少尉の言う通りだ。ここは最前線の海軍基地であり、俺たちは潜水艦の強行突破を阻止するための防波堤としてここにいる。お互いの機体自慢で気を緩めていい場所じゃないぞ。」
「「……はっ、了解しました、隊長!」」
大尉へ昇進したソウヤの、静かだが芯のある注意に、ジョシュアとノアは即座に居住まいを正して声を揃えた。
2人の返事を聞き届けたあと、ソウヤはフッと声音を和らげ、どこか照れくさそうに呟いた。
「……まあ、でも。スライフレイルの色にあやかってくれたっていうのは、その……1人のパイロットとしては、素直に嬉しいけどな。」
その予想外の言葉に、通常モニターの向こうでジョシュアとノアの顔が一気にパッと明るくなった。
「ほら見ろ! 隊長だって喜んでくれてるじゃないか!」
「さすがタカバ大尉、話が分かる! よーし、これで名実ともにコジマ大隊第4小隊の『緑の小隊』結成ですね!」
「ちょっと、ソウヤさん!」
画面の向こうで手放しに喜ぶ2人を見て、ホバートラックのエミリア少尉が、呆れたように、しかしどこか甘えるような非難を込めて声を尖らせた。
「そうやってすぐに2人を甘えさせないでください! サンダース曹長がいない今、隊長がもっと厳しく手綱を握ってくれないと、この調子じゃ本当に先が思いやられますよ?」
「すまない、エミリア少尉。以後気をつけよう。」
エミリアの小言にソウヤが苦笑いを返す。
すると、ノアがとある疑問を口にした。
「なあ、隊長。なんであのガンダム試作2号機には、最初から核なんてヤバいもんが積まれてたんですか?」
アクア・ジム隊の機影が海中に消えたあと、ノア軍曹がジムⅡのコックピットから不思議そうに疑問を口にした。
「大戦中の『南極条約』で、核兵器の使用は絶対に禁止されてたはずですよね。連邦の奴ら、自分で決めたルールを破ったってことですか?」
その無邪気な質問に、ホバートラックの電子席からエミリア少尉が静かに、しかし軍人として正確な歴史の事実を教えるように無線を開いた。
「それは違うわ、ノア。まず前提として、宇宙世紀0079年1月31日に地球連邦政府とジオン公国の間で締結された『南極条約』は、一年戦争終了と同時にすでに法的効力を失っているのよ。」
「え? 失効してるのか?」
驚くノアの通常モニターに向けて、今度はソウヤ大尉がスライフレイルの回線から補足を入れた。
「ああ。一年戦争の序盤、一週間戦争やルウム戦役で両軍が核兵器や生物化学兵器、そしてコロニー落としといった大量破壊兵器を乱用し、人類の半数が死に至るほどの惨状になった。だからこそ結ばれたのが、NBC兵器や大質量兵器の使用禁止、サイド6や月面都市といった中立地帯の承認、そして捕虜の扱いを定めた南極条約だ。だけど、あれはあくまで大戦中の『戦時条約』だったんだよ。だから0080年1月1日の終戦をもって、法的には失効している。」
「じゃあ、今は核を使ってもお咎めなしってことですか……?」
「そんなわけないでしょう。」
エミリアがノアの言葉を即座に遮る。
「条約自体は失効したけれど、核兵器や大量破壊兵器を使用しないというその精神は、終戦時に結ばれた『グラナダ条約』などへしっかりと引き継がれているわ。だからこそ、2年前の『水天の涙作戦』でジオン残党がマスドライバーによる質量弾を地球へ落とそうとした時も、グラナダ条約の精神を汚す暴挙として激しく非難されたでしょう。」
ソウヤは緑のガンダムのコンソールに視線を落とし、複雑な聲音で言葉を締めくくった。
「今回のガンダム試作2号機は、法的にはあくまで『戦術核の運用データの収集』を目的とした試験機、という名目で極秘裏に開発を進めていた機体だ。条約の失効した平時であり、かつ実験目的という大義名分を盾にして、連邦はグレーゾーンをギリギリですり抜けて作った。……法的には違反していなくとも、その精神を自ら踏みにじった結果が、今回の強奪劇という最悪のブーメランになって返ってきたってわけさ。」
「なるほどな……。上層部の汚い大人の言い訳ってわけか。胸糞悪い話だぜ。」
ノアがジムⅡのシートで深くため息をつき、ジョシュアも「まったくだ」と呆れたように同調した。
戦後の平穏の裏で、連邦が極秘裏に進めていた核の実験。その重々しい歴史の因縁を噛み締めていた、まさにその時だった。
ザバァァァァァンッ!!!
夕闇に染まる海水面が大きくうねり、水飛沫を上げて3機のモビルスーツが姿を現した。
水中用量産型モビルスーツ、RAG-79『アクア・ジム』。
背部に備えた大型の水流ジェット推進器を唸らせ、波止場に佇む第4小隊へ向けて、濡れた巨体を軋ませながらゆっくりと近づいてくる。
その先頭に立つ1機から、親しげな無線通信が滑り込んできた。
「―こちらチョンギ基地所属、アクア・ジム隊。あの戦技競技会で完全優勝を果たした、コジマ大隊第4小隊の皆さんとご一緒できるとは光栄です。」
アクア・ジムの隊長らしきパイロットの言葉に、ソウヤ大尉はスライフレイルのコンソールを操作し、丁重に応答した。
「こちら第4小隊隊長、タカバ大尉です。恐縮です。我々も急遽この基地の防衛に駆り出された身、足手まといにならぬよう尽力させていただきます。」
「はは、謙遜を。競技会の優勝部隊で、しかもガンダムタイプが守ってくれている。沿岸警備を任された我々にとって、これほど心強いことはありませんよ。」
水中のベテランからの素直なリスペクトに、ソウヤは小さく頷きつつ、ふと気になっていた戦術マップの空白に目を向けた。
「申し訳ない、一つ伺いたい事が。現在、このチョンギ基地の他の防衛部隊は、どのような配置に就いているのですか?」
「ああ、現在この基地のほとんどの哨戒船、潜水艦、そして動けるモビルスーツは、強奪されたガンダム試作2号機を乗せていると思しき潜水艦を捕捉するため、外海へ出払っているのですよ。我々のように居残っているのは、万が一の奇襲に備えて基地そのものを警備している極一部の部隊だけです。何せ、海は広大ですからね。包囲網を築くには、どうしても幅広く展開せざるを得ないのです。」
「なるほど……。広大な海峡を封鎖するための、止むに止まれぬ兵力分散というわけですか。納得しました。」
ソウヤは連邦軍の防衛網の現状を理解し、合点がいった表情を浮かべた。
ガンダム強奪という前代未聞の危機に対し、連邦軍が総力を挙げて大捜索網を敷いているのは事実だが、それゆえに港湾基地そのものの守備兵力は、見た目以上に手薄になっているのが現状だった。
「そう言うことです。何事も起きないのが一番の理想ですがね。」
アクア・ジムの隊長が言い終わった、まさにその時だった。
ウウゥゥゥゥゥゥン――ッ!!! ヴウゥゥゥゥゥゥン――ッ!!!
鼓膜を狂暴に引き裂く敵襲警報のサイレンが、チョンギ海軍基地の全域に凄絶な音量で鳴り響いた。
「敵襲か……!」
ソウヤは瞬時にスライフレイルの操縦桿を握り直し、メインモニターの周囲に走るアラートを睨みつけた。
左右のジョシュアとノアも即座に戦闘態勢へと移行する。
直後、ホバートラックの電子席に座るエミリア少尉から、基地司令部経由の緊急通信が飛び込んできた。
「――各機、敵襲です! 基地周辺海域に浮上した敵潜水艦より、複数の対地ミサイルが発射されました! 現在、こちらに向かって急速に飛来しています!」
「エミリア、飛来方向は!?」
「海の方向、方位120から140! 本基地へ真っ直ぐ向かってきます!」
「了解した! ――ジョシュ、右肩のキャノン砲を対空信管に切り替えろ。アンチ・エアを任せる!」
『合点承知! 弾幕の雨を張らせてもらいますよ!』
ジョシュアは右肩の削り出しキャノン砲の弾種を切り替え、両手の二挺のビーム・スプレーガン、そして頭部バルカン砲の火線リンクをすべてアクティブにロックした。
「た、隊長! 俺はどうすればいいですか!?」
スライフレイルのコックピットに、ノア軍曹の少し上気した声が響く。
ホバー・トラックの運転手で何度も実戦を経験したとはいえ、彼にとってこれが初めてのモビルスーツ戦だ。
コックピット内のインジケーターを見つめるその指先が、微かに緊張で震えている。
「ノア、落ち着け。頭部バルカンで俺と一緒に弾幕を張り、少しでもミサイルの数を減らすんだ。」
「了解……!」
「怯むなよ、ノア。お前の後ろには俺がいる。必ず守ってやるから、目の前の照準だけに集中しろ。」
ソウヤの力強く冷静な言葉に、ノアは深く息を吐き出し、ジムⅡの操縦桿をガッチリと握り締めた。
「……了解です。俺はサンダース曹長にあれだけ地獄の特訓でシバき倒されて、『自分が不在の間も隊長を守れ』って任されてるんだ。ここでビビって、隊長の足を引っ張るわけにはいかねえからな!」
「フッ、頼もしいな。くるぞ!」
薄暗い夕闇の水平線の向こうから、無数のロケット推進焔の尾を引いた対地ミサイルの群れが、牙を剥いてチョンギ基地へと肉薄してきた。
「撃てぇぇぇッ!!!」
ソウヤの号令と共に、防潮堤の上に陣取った第4小隊、そしてチョンギ基地の各所に設置された自動対空迎撃システムが一斉に火を噴いた。
ズガガガガガガガガガガガガッ!!!
ジム・キャノンは空中に向けて弾幕を形成し、スライフレイルとジムⅡが放つ頭部バルカンの熾烈な曳光弾の奔流が、迫り来るミサイルの雨へと容赦なく突っ込んでいく。
水中装備しか持たないアクア・ジム隊の3機は、この激しい対空戦の最中、基地の防壁の影に濡れた巨体を隠して身を守るしかなかった。
ドガァァァン! バキィィィン!
凄絶な爆発音が連続して中空で炸裂する。対空火線に捉えられたミサイルが次々とオレンジ色の爆炎を上げて爆発していくが、それでも迎撃網を強行突破した2、3発の弾頭が、防潮堤の後方にある基地の施設へと着弾した。
ズズウゥゥゥゥンッ!!!
凄まじい衝撃波がソウヤたちの足元を揺らし、後方の格納庫から巨大な火柱と黒煙が激しく立ち上る。
「エミリア、基地の被害状況は!?」
「――司令部より入電! 着弾は古い倉庫エリアです、重要施設への被害はなし、全体のダメージは軽微です!」
それを聴き、隠れていたアクア・ジムの隊長から安堵の声が漏れた。
「素晴らしい対空砲火だ、第4小隊! 弾幕を張ってくれなければ、今頃、俺達はスクラップになっていた! 感謝する!」
ノアがモニターの前でようやく胸を撫で下ろすが、ソウヤの視線は未だに、不気味に静まり返る海水面から離れていなかった。
「安心するのはまだ早いですよ。ミサイルでの先制飽和攻撃が来たということは……本命は次だ。防空システムと俺たちの目を後方に逸らした今、必ずモビルスーツが来る!」
「――隊長、基地の水中ソナーに感あり! 海中から急激に接近するモビルスーツの熱源反応、数は3です!」
エミリアの冷徹な警告が下った瞬間、防壁の下でアクア・ジムの隊長がハープーン・ガンをガチリと構え直した。
「――フッ、やはり来やがったか! 水中の戦いなら、今度こそ俺たちアクア・ジム隊の出番だ!」
3機のアクア・ジムが、巨大な水流ジェットを再び咆哮させ、水飛沫を上げて海中へと一気に入水しようとする。ソウヤはスライフレイルのメインカメラを海面へと向け、戦友たちの背中を見送った。
「水中戦は任せます! ご武運を!!」
「ああ! 地上の基地のことは頼んだぞ、第4小隊!――全機、エンゲージッ!!」
ザバァァァァァンッ!!
激しい波飛沫と共に、3機のアクア・ジム隊が夜の海の深奥へと消え去り、漆黒の底で激しい戦闘の火蓋が切って落とされた。
ミサイルの硝煙が漂う防潮堤の上で、ソウヤはスライフレイルのメインカメラを暗い海水面へと向け、戦友たちの背中を見守っていた。
しばらくすると、激しい水流のノイズに混じり、海中からアクア・ジムの隊長の通信が飛び込んできた。
「――こちらアクア・ジム隊! 敵は『ゴッグ』が3機だッ! 奴ら、さすがに装甲が固ぇ! こっちのハープーンがまともに通らねえんだ、撃破に追い込むには少々手間取りそうだ!」
「了解した、無理はするな!」
ソウヤが応答し、ふと海面を見下ろすと、荒れ狂う波の隙間から凄絶な気泡の塊が噴き出し、時折、魚雷が弾ける爆発の閃光が、海面を不気味に白く染め上げていた。
激しい戦闘の様子が陸上からでも容易に見て取れる。
だが――ソウヤの戦闘経験が、その光景に強烈な違和感を抱いていた。
(この基地を攻撃するのに、ゴッグ3機だと…?)
ソウヤはスライフレイルのコンソールに視線を落とし、周囲の戦術マップを睨みつける。
ミサイルであれだけの先制飽和攻撃を仕掛けておいて、海中から攻めてきたモビルスーツがたったの3機。いくら何でも少なすぎる。
「ジョシュ、ノア。周辺を警戒しろ。――何かがおかしい。」
「隊長、何がどうおかしいんですか?」
ジムⅡの通常モニターの前で、ノアが緊張を孕んだ声で尋ねてきた。
「ガンダム試作2号機を乗せた潜水艦を無事に通過させるための陽動だとしても、だ。本気でこの基地の防衛網を麻痺させるつもりなら、たった3機の水陸両用モビルスーツでは数が少なすぎる。……連中の本命は、別にある!」
ソウヤは確信に満ちた声を通信回線に叩きつけた。
「周辺を徹底的に警戒しろ! 奴らはもう近くにいるぞ!」
「「了解!」」
第4小隊の3機が武器を構え直し、全感覚を研ぎ澄まして暗い海原を警戒する。
その時だった。ソウヤの目が、夕闇に溶けかける海面に、不自然にこちらへと向かって直線的に迫ってくる『4つの歪んだ波紋』を捉えた。
「――そこだッ! 海から4つの機影が接近している!」
「えっ!? 隊長、こちら索敵システムには何の反応もありません!」
ホバートラックのエミリアの焦燥に満ちた声が響く。
「目視で波を確認した! 反応がなかろうが、間違いなくそこにモビルスーツが潜んでいる! ――ジョシュア、ノア、海面を撃ち抜いて接近を阻止しろ! 弾幕を張るんだ!」
だが、時既に遅かった。
防潮堤の目と鼻の先、激しい水飛沫を上げて、海中から不気味な茶色の巨体が4機、同時に這い上がってきた。
ザバァァァァァンッ!!!
「くっ、遅かったか……っ!」
独特な頭部、伸縮式の特徴的な剛腕。
現れたのは――4機の『アッガイ』だった。
(……なるほど、そういうことか……!)
敵の正体を目撃した瞬間、ソウヤは瞬時にその隠密性のカラクリを思い出した。
アッガイ。
一年戦争時にジオン軍が開発した水陸両用モビルスーツだ。
水冷式の排熱処理システムにより、機体表面からの排熱量が極限まで低く抑えられている。
そのため、熱源センサーに感知されにくく。
さらに、その特異な外装には電波や赤外線を吸収する特殊な塗料が贅沢に塗布されている。
これほどのステルス対策が施されている機体だ、エミリアを以てしても、探知できずに接近を許すわけだ。
夕闇のマラッカ海峡。
ジョシュアのジム・キャノン、ノアのジムⅡ、そしてソウヤのスライフレイルが、暗闇の中から鋭い爪を剥き出してきたアッガイの群れを前に、真っ向から対峙するのだった。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
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陸戦型ジム改
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バイアリーターク
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ペイルライダー・ヴァンガード
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ペイルライダー・マスケッティア
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ヴァルキリー
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グフ・ノクターン