宇宙世紀0083年10月31日
東南アジア方面の要衝、地球連邦軍ラサ基地の司令官執務室。
ソウヤ・タカバ大尉は下山後、コジマ大隊基地に戻ることなく、最寄りのラサ基地へと直接バイクを走らせた。
埃にまみれた姿のまま緊急の面会を申し出たソウヤは、東南アジア方面軍総司令にしてラサ基地司令であるブレックス・フォーラ准将の前に直立不動で立ち、昨日掴んだ驚異の真実を報告した。
「――北米の『ギニアスの遺産』、そのハードウェアの正体が判明しました。ジオン公国軍がジャブロー攻略用として極秘裏に開発していた、ミノフスキー・クラフト搭載型の戦略モビルアーマー……『ビグ・ザム』です。」
その言葉が室内を震わせた瞬間、重厚なデスクの後ろに座るブレックス准将の顔に、隠しきれない強い困惑が走った。
「……ビグ・ザムだと? 大尉、それは本当か。あのソロモンで我が主力艦隊を恐怖に陥れた、あの悪魔のようなモビルアーマーが、地上の、それも北米の地下に眠っているというのか。」
「はい。ですが、同時に安堵すべき情報もあります。北米の個体には『Iフィールド』が搭載されていません。大量のメガ粒子砲、Iフィールド、そしてミノフスキー・クラフト。この3つを同時に稼働させることはエネルギー消費と排熱の観点から不可能です。北米のビグ・ザムは、メガ粒子砲とミノフスキー・クラフトの運用を重視した、量産と実用化を前提にした機体なのです。ですが、あの巨躯が重力下で自在に飛行を始めれば、北米戦線……ひいてはジャブローにとって最悪の脅威になることに変わりはありません。」
ブレックスは眉間を深く揉みほぐし、あまりにも具体的、かつ深刻すぎる戦術データに完全に困惑した対応を見せた。
連邦軍の軍事アーカイブをどれだけひっくり返しても、ミノフスキー・クラフトを搭載したビグ・ザムに関する記述は存在しなかったからだ。
「……待て、ソウヤ大尉。軍の情報部(ジャブロー)すら掴んでいなかった北米のビグ・ザムの具体的な仕様、そしてIフィールドの非搭載という内部構造のデータ……。一体どこからそんな情報を仕入れてきた。4日前に入った華星警備の調査では、物的証拠など一切出なかったはずだが。」
総司令官の鋭い追及に対し、ソウヤはあの美しい蒼い瞳を真っ直ぐに向け、事前に決めていた通りのカモフラージュの報告を、凛とした声音で返した。
「情報提供者の名前を明かすことはできません。ラサ基地周辺の山岳偵察を行っている最中、極秘裏に私と接触してきた、とある『匿名の情報提供者』から託されたものです。ですが閣下、その人物はかつてジオンの最高機密に触れる立場にいた者でなければ、絶対に知り得ないビグ・ザム開発の裏事情を知っていました。この情報は本物です。」
ソウヤはサンダースとの約束、そして何よりもシローとアイナがようやく掴み取った平穏を守るため、その名を胸の奥へ伏せ通した。
「匿名の、情報提供者か……。」
ブレックス准将は深く椅子に身体を預け、ソウヤが持ち帰った最悪の怪物の正体を睨み据えた。
この情報を前に、東南アジアの最高司令官は、どのように動くべきか必死に模索し始めるのだった。
「……分かった。大尉、情報の出所についての追及はここまでにしよう。君のその瞳を見る限り、この情報が狂言の類でないことだけは確かだ。」
ブレックス准将は椅子から立ち上がり、窓の外のラサの街を見下ろす。
その鋭い眼光には、一軍の将としての冷徹な大局観が宿っている。
「ジャブローの凝り固まった保守派どもにこの『ビグ・ザム』の情報を渡してみろ。無能な官僚どもは己の失態を恐れて確実に情報を隠蔽するか、あるいはスペースノイドをさらに弾圧するための格好の口実として政治利用するに決まっている。それでは事態は泥沼化するだけだ。」
ブレックスは振り返り、ソウヤを見据えた。
「彼らに情報が渡らないように。現在、ガンダム試作2号機の奪還とデラーズ・フリートの追撃を実質的に主導している、あの男に直接繋ぐ。」
ブレックスはデスクのコンソールを叩き、軍の正規ルートを完全に排した、暗号化レベル最上級の独立極秘回線を起動させた。
数回の電子音の後、南米ジャブローの軍務局執務室とラサ基地が最速で結ばれ、大画面のモニターに険しい表情を浮かべた1人の将星の姿が映し出された。ガンダム開発計画の責任者であり、連邦軍内部の数少ない良識派でもある、ジョン・コーウェン中将だった。
「――東南アジアからの緊急ホットラインか。どうした、ブレックス准将。こちらのジャブローは宇宙へ逃げたガトーの追撃とデラーズの対応、そしてアルビオンの処遇を巡る政治工作で、猫の手も借りたいほどの修羅場なんだがね。」
画面の向こうのコーウェン中将は、生々しい疲労を滲ませながらも、ブレックスからの異例の直通通信に鋭い視線を投げかけてきた。
ブレックスは余計な前置きを一切省き、冷徹な事実だけを突きつけた。
「コーウェン中将、よく聴いてほしい。……北米に潜伏しているジオン残党が所持している決戦兵器の正体が判明した。――『ビグ・ザム』だ。」
「何だと……!?」
その悪魔の名が発せられた瞬間、コーウェン中将は息を呑んだ。
ソロモンで連邦軍の主力艦隊を蹂躙したあの怪物の存在は、北米軍のトップにとっても戦慄に値する。
「馬鹿な、あのビグ・ザムが地球に……!? 待て、ブレックス、奴らはあの巨躯を地表でどうやって動かすつもりだ。あれは宇宙用の機体のはずだぞ!?」
「奴らが所持しているビグ・ザムは、ミノフスキー・クラフトの搭載による、重力下での飛行が可能だ。……だが、絶望する必要はない。こちらが掴んだ内部構造のデータによれば、北米の個体には『Iフィールド』が搭載されていない。」
「……Iフィールドが、無いだと?」
「そうだ。高出力メガ粒子砲、ミノフスキー・クラフト、そしてIフィールド。その3つを同時に稼働させることは、ジェネレーターの出力と排熱の限界から物理的に不可能なのだ。北米の機体は、量産化と実用性を重視して防壁をオミットし、空中機動と大火力に特化した個体だ。……奴らがいつ稼働を始めるか、一刻の猶予もない。今すぐ動くべきだ。」
ブレックスの熱の篭った言葉の刃を、ジャブローのモニターの向こうで受け止めたコーウェン中将は、深く、重い溜め息と共に顔を上げた。
その眼光には、驚愕だけではない、さらなる不穏な影が宿っていた。
『――ブレックス准将。実は、我が方でも先ほど、キャリフォルニア・ベースから上がってきた“とある奇妙な情報”をキャッチしたばかりなのだ。』
「……北米でも、動きがあったというのか。」
「ああ。今しがた貴官が提供してくれたビグ・ザムを鑑みるに、北米で起きようとしている事態は、我々の想像を遥かに超えた規模に成りつつある。……申し訳ないがブレックス准将、この一件の関係者を至急集めて、協議を行いたい。一度回線を切るが、1時間だけ時間をくれまいか?」
「……フム。分かった、コーウェン中将。1時間後、同じ暗号ラインで待とう。良き回答を期待しているぞ。」
『感謝する。……通信を終了する。』
プツン、と電子音が鳴り、大画面のモニターが再びラサ基地の静寂へと戻った。
ブレックスはゆっくりと受話器を置くと、椅子の背もたれに深く身体を預け、デスクの後ろで直立不動のまま佇んでいたソウヤへと視線を戻した。
「――大尉。どうやら君の持ち帰った爆弾は、ジャブローを本気で激震させたようだな。」
「……閣下。コーウェン中将の仰っていた、北米でキャッチした情報とは、一体何なのでしょうか?」
「分からん。だが、あの男がこれほどまでに顔色を変えたのだ。星の屑作戦の裏で蠢く亡霊どもが、いよいよ我々のすぐ目の前まで迫っていることだけは確かだ。」
ブレックスはそう言うと、再び机の上のコンソールを睨み据えた。
「――閣下、もし次の協議までに1時間の猶予があるのなら、この基地に赴任されたサンダース曹長に、少し挨拶へ行ってきてもよろしいでしょうか?」
ソウヤは直立不動の姿勢を崩さぬまま、静かにブレックス准将へと願い出た。
「ふむ、サンダース曹長か。構わんよ、大尉。ただし、1時間後のジャブローとの協議までには、必ずこの部屋に戻ってくるように。」
「了解しました。失礼します。」
ブレックスの快い許可を得たソウヤは、短く一礼すると執務室を後にし、ラサ基地の広大な通路を迷いのない足取りで進んでいった。
向かう先は、サンダースが操縦指導官を務めている、第一MSシミュレータールームだ。
室内に辿り着いた時、ちょうど午前の過酷な訓練が終わり、昼休みのために候補生たちが一時解散するタイミングだった。
汗まみれのノーマルスーツを着た若い士官や下士官たちが、ヘトヘトになりながら次々と部屋から出てくる。
ソウヤはその若者たちと入れ替わる形で、気密扉を潜ってシミュレータールームの中へと足を踏み入れた。
機材の主電源を落とし、後片付けをしていた巨躯の男へ、ソウヤは澄んだ声を掛けた。
「――お疲れ様です、サンダース曹長。」
聞き馴染んだ若き隊長の声に、サンダースは岩のような身体を震わせて振り返った。
「タカバ大尉……!? 貴方がなぜ、ラサ基地に?」
「サンダース曹長、まずは……助けてくださって、本当にありがとうございました。」
ソウヤはサンダースの前に立つと、周囲に他の人間がいないことを確認し、深く頭を下げた。
もちろん、軍の監視の目を警戒し、シローやアイナという本名や、あの美しい湖畔で密会したという具体的な事実のすべてを慎重に伏せながらの、男同士の謝罪と感謝の言葉だった。
サンダースはそれだけで、ソウヤがあの『縦読みの暗号』を正確に読み解き、自分が命を懸けて繋いだバトンを受け取って戻ってきたのだと、瞬時にすべてを察した。
「……いえ。俺はただ、大尉に事前偵察を頼んだだけです。無事に戻られて、何よりです。」
サンダースは胸を張り、不器用そうに口元を緩めた。
ソウヤは丸太の机で対面した、第08MS小隊のシロー・アマダのことを思い出しながら、真っ直ぐな蒼い瞳をサンダースへ向けた。
「曹長。あなたの『前の隊長殿』も、本当に素晴らしく、気高くて、温かい人だったんですね。」
その一言を耳にした瞬間、サンダースの大きな身体が僅かに震えた。
かつて自分を死神のジンクスから救い出し、泥を啜ってでも生きろと教えてくれたシロー・アマダの笑顔がありありと蘇る。
サンダースは胸の奥から湧き上がる狂おしいほどの嬉しさを隠しきれず、はらはらと顔を綻ばせて笑った。
「……ええ。本当に、どうしようもないくらいに甘くて、誰よりも真っ直ぐな、最高の隊長でしたよ。」
「それに――」
ソウヤは優しい微笑みを浮かべ、サンダースの目を真っ直ぐに見据えた。
「お二人の子供……あの小さな女の子は、とても可愛らしかった。心から愛されているのが、一目で分かりましたよ。」
「……そう、ですか。」
サンダースの声音が、じわりと熱く、深く震えた。
シローとアイナが、この戦後の冷たい世界の片隅で、今度こそ本当の平穏と、新しい小さな命をその手で確かに育んでいる。
それを我がことのように愛おしく語ってくれるソウヤの優しさに、魂の底から救われるような、特大の歓喜と感謝を覚えるのだった。
約束の1時間後
ラサ基地の司令官執務室の広帯域暗号モニターに、再び信号が接続された。
だが、画面が切り替わった瞬間、ブレックス准将とソウヤ大尉の2人は同時に息を呑み、深い驚愕に目を見張った。
そこに映し出されていたのは、ジャブローのジョン・コーウェン中将1人ではなかったからだ。
分割されたウィンドウには、北米から通信を繋ぐウィッチハント隊のバリー・アボット大尉とリリス・エイデン中尉。
そして――かつて2年前の『水天の涙作戦』でジオン残党を追い詰めた、連邦軍ジオン残党掃討特務部隊の創設者にして最高司令官、ゴドウィン・ダレル准将。
さらにその直属の前線指揮官であるマオ・リャン少佐と、実戦部隊「ファントム・スイープ隊」の隊長、ユーグ・クーロ大尉の姿が並んでいたのだ。
(なぜ、ファントム・スイープ隊も参加していんだ!?)
ブレックスとソウヤはこのあまりにも規格外の面子を見て、北米で起きようとしている事態の深刻さが、すでに地球圏全体の軍事バランスを揺るがす領域に達しているのだと、肌が痛くなるほどの戦慄と共に察した。
重苦しい沈黙を破り、コーウェン中将がジャブローの執務机を叩いて会議の開始を告げた。
「諸官、時間がない。手短にいくぞ。……まず、東南アジアのブレックス准将のルートから、極めて深刻な敵に関する情報がもたらされた。――北米のジオン残党が所持している決戦兵器の正体は、戦略モビルアーマー、あのソロモンの悪魔『ビグ・ザム』のミノフスキー・クラフト搭載型だ。」
「――な、何ですって……っ!?」
「ビグ・ザムだと……!?」
その悪魔の名が落とされた瞬間、画面の向こうのウィッチハント隊、そしてファントム・スイープ隊のマオ少佐とユーグ大尉の顔が一驚に強張った。
しかし、残党掃討の最高権威であるダレル准将だけは、その厳格な眉が僅かにピクリと動いただけで、冷徹な仮面を崩さなかった。
「『ギニアスの遺産』……。アプサラスのミノフスキー・クラフトとは、そういうことだったのか……。』
バリー大尉が苦渋を滲ませ、額を押さえて納得の声を漏らす。
すかさず、戦術分析に長けたマオ・リャン少佐が、即座に驚異をシミュレーションして割り込んできた。
「Iフィールドが未搭載という個体であるのは不幸中の幸いですが……。もしもあのメガ粒子砲が、ミノフスキー・クラフトによってジャングルや山岳を自在に飛行し始めれば、対空防御の薄い北米の連邦基地は1機で壊滅します。」
その冷徹な分析を聴き、ブレックス准将はパイプを燻らせながら、画面のコーウェン中将へと鋭い視線を投げかけた。
「コーウェン中将。北米のウィッチハント隊が我が方のソウヤ大尉に捜査を依頼した経緯がある以上、彼らの参加は理解できる。だが、なぜここにダレル准将の『ファントム・スイープ隊』までが参加している。本件への彼らの介入の意図が分からんのだがね。」
ブレックスの当然の指摘に対し、コーウェン中将は重々しく頷き、デスクのコンソールを操作した。
「実はな、ブレックス。先ほど私が言った“北米でキャッチした奇妙な情報”が、そこに繋がっているのだ。……先日、キャリフォルニア・ベースに、不審なジオンの動きがあるという“匿名のタレコミ”があった。ウィッチハント隊がその指定座標へ急行したところ、信じがたいことに、このモビルスーツ4機と遭遇し、激しい戦闘に突入したのだよ。」
コーウェン中将が画面に、戦闘映像から抽出された3機のモビルスーツの機体データが表示される。
「――っ!? これは……っ!!」
その画像をひと目見た瞬間、ソウヤの美しい蒼い瞳が、激しい衝撃と戦慄に大きく見開かれた。
画面に映し出されていたのは、優美な妖精を思わせる『ティターニア』、漆黒の隠密装甲を纏った『イフリート・イェーガー』、かつては巨大な巨躯を誇った『ドム・ノーミーデス』。
見紛うはずがなかった。それは、ソウヤがかつて一年戦争の最中、オリオン小隊に所属して頃、北米のモハーヴェ砂漠で死に物狂いで交戦し、そしてその圧倒的な性能と技量の前に完膚なきまでに「敗北」を喫した、あの魔女の機体たちだったのだ。
(あの3機が、また俺の前に……。なんという、最悪の因縁だ……!)
コーウェン中将は淡々と説明を続けた。
「この3機は、かつて北米戦線で連邦軍から『北米の魔女』と恐れられた、ジオン公国軍の秘匿特殊部隊「ノイジー・フェアリー隊」の固有MSだ。終戦時、ケープカナベラル基地で部隊が降伏した際、我が地球連邦軍が接収したはずの機体だった。……だが、戦後、これらは行方不明になっており、どうやら過激派どもがどこからかこれらを持ち出し、自らの戦力として組み込んだようだ。」
ソウヤは喉の奥の乾きを堪えながら、必死に理性を絞り出して質問を投げかけた。
「……中将、質問を許可してください。連邦軍が公式に接収したはずの最重要機体が、なぜ、所在不明になるのですか? そして、2年前の『水天の涙作戦』の実行犯であるインビジブル・ナイツが、なぜ今になって関係しているのですか?」
「……恥ずべき不祥事だがね、タカバ大尉。所在不明になった原因は、当時の北米軍の後方兵站部隊による、極めて杜撰な書類手続きのせいだ。」
コーウェンは忌々しそうに吐き捨てた。
「接収したまでは良かったが、解体工廠や保管倉庫への移送記録のデータが書類ロンダリングの闇に消え、どこへ運び込まれたのかが物理的に分からなくなっていたのだよ。インビジブル・ナイツの生き残りどもは、軍内部のその“綻び”を突き、どこからかこの機体を入手したと思われる。」
続いて、画面の向こうのバリー・アボット大尉が、インビジブル・ナイツが本件の主犯であるという決定的な証拠を展開した。
「タカバ大尉、俺の方から奴らの関与の理由を話そう。……俺たちは指定の座標で、この3機、そしてもう1機の異常な“黒いザク”と激しいモビルスーツ戦を展開した。結果としては奴らを取り逃がしてしまった。……だが、不幸中の幸いだ。主戦場から数キロ離れた山道の道路に設置されていた、自動監視カメラのログを解析したところ、交戦の直前にそこを通過した不審なジープが1台記録されていた。……これを見てくれ。』
バリー大尉が、ノイズまみれの監視カメラの静止画を、超高解像度へと一気に画像補正した鮮明なデータを画面に表示した。
ジープの運転席でハンドルを握り、冷徹な、そして世界への憎悪を滾らせた特有の鋭い眼光で前方を睨み据えている一人の男の横顔――。
「この男の顔データは、ジャブローの指名手配残党リストと100%一致したわ、タカバ大尉。」
マオ・リャン少佐が説明を引き継いだ。
「男の名前はアイロス・バーデ。2年前のあのエリク・ブランケの右腕であり、インビジブル・ナイツの副官を務めていた最重要反乱分子よ。……奴らが関わっているという明確な証拠が出た以上、私たちのファントム・スイープ隊が本件に介入するのは、当然の義務なのよ。」
最後に、ゴドウィン・ダレル准将が冷徹な大局論を発言した。
「インビジブル・ナイツ……。2年前、月のマスドライバーを占拠し、この地球へ向けて質量弾を撃ち込もうとした。奴らの危険性は、宇宙のエギーユ・デラーズやガトーと同等、それ以上かもしれない。地球を内側から焼き尽くそうとする亡霊どもの存在を野放しにすることは断じて許されない。……コーウェン中将。本件の作戦指揮権は、我がファントム・スイープ隊が全面的に引き受ける。異論はないな?」
「――ああ、異論はない、ダレル准将。私の方は宇宙へ上がってしまったガンダム試作2号機の追撃、そしてデラーズ・フリートの対応に戦力を割かねばならん。北米のこの件は貴官にすべて一任する。」
「承知した。では、本件の作戦指揮はファントム・スイープ隊が引き継ぐ。」
ダレル准将はそう告げると、分割されたウィンドウに並ぶ前線の指揮官たちを鋭い眼光で見据えた。
「だが、敵の戦力は侮れん。かつて北米を恐怖に陥れた『北米の魔女』のモビルスーツ3機、リリス中尉らを翻弄したという黒いザク、そして飛行型のビグ・ザム。最悪の場合、これらを擁する北米ジオン残党全体を一度に相手にしなければならない可能性がある。……我がファントム・スイープ隊の戦力だけで対応するには、少々手数が足りん。そこでだ。」
ダレル准将は一度言葉を切り、冷徹な戦術家としての次なる一手を盤面に提示した。
「本作戦の遂行にあたり、私は北米のウィッチハント隊、そして東南アジア方面軍コジマ大隊所属の――第4小隊に臨時の戦力支援を求める。混成部隊を編成し、これに対処する。」
その想定外の要求が落とされた瞬間、ラサ基地の執務室でモニターを見上げていたブレックス准将が、険しく眉をひそめて即座に反応した。
「――待ってもらおうか、ダレル准将。北米のウィッチハント隊の参戦は、現地の実戦部隊として当然のロジックだ。だが、なぜ我が東南アジア方面軍の第4小隊までを、わざわざ地球の裏側の北米戦線へ引きずり出そうとする。一介の地方小隊をそこまで重用する意図が分からんのだがね。」
ブレックスは鋭い声音で釘を刺すように問い詰めた。
「確かに、コジマ大隊第4小隊は一介の地方小隊だ。軍の組織図の上ではな。」
ダレル准将は微動だにせず、画面越しにブレックスの鋭い視線を受け止めた。
「しかし彼らは、去年のトリントン戦技競技会で優勝を成し遂げた猛者だ。さらにそれだけではない。2年前のジオン残党補給基地制圧戦で見せた、あの臨機応変かつ見事な戦術対応。その後に私が直接依頼した、旧アプサラス開発基地の偵察任務も、彼らは完璧に遂行してくれた。……今回の北米の一件は、いつ何が起きるか分からない。臨機応変な判断力と、絶大な信頼に足る高い練度を持つ部隊が必要不可欠なのだ。」
ダレル准将はそこで一度言葉を切ると、あの厳格で妥協を許さないはずの巨躯を僅かに傾け、モニター越しにいるブレックス准将に向けて、真っ直ぐに頭を下げた。
「ブレックス准将。……私とて、自分の大切な部下たちを、生きて帰したいのだ。だからこそ、東南アジア最高峰の精鋭である君の第4小隊を、どうか私に貸してほしい。頼む。」
残党掃討の冷徹な鬼将と恐れられたゴドウィン・ダレルが、部下の命を守るために、一介の地方総司令へ向けて頭を下げてまで戦力を請う。
その誠実さと戦術的な正論に、ブレックス准将は深く椅子に身体を預けた。
「……ふむ。あのダレル准将にそこまで言われては、東南アジアの最高司令官としても、むげに断るわけにはいかんようだな。」
ブレックスは苦笑を浮かべながらも、その鋭い眼光をデスクの後ろに控えていたソウヤ大尉へと向けた。
「ソウヤ大尉。君たちの実力は、ジャブローの中枢にまで完全に響き渡っているようだ。……どうだ、大尉。地球の裏側で『北米の魔女』の幻影、そしてビグ・ザムという最悪の亡霊を叩き潰す任務だ。君の第4小隊に、この特命を預けてもよろしいかな?」
「――はっ!!」
ソウヤは拳をきつく握り締め、腹の底から力強い返声を響かせた。
アイナとシローから真実を託され、サンダースから理想のバトンを繋がれた今の自分に、退くという選択肢は存在しない。
――だが、その熱い決意の直後、ソウヤの脳裏にある第4小隊の現状がよぎった。
「……閣下。大変申し上げにくいのですが、一つ重大な問題があります。」
ソウヤは苦渋を滲ませ、姿勢を正したままブレックス准将へと視線を向けた。
「現在、我が第4小隊のモビルスーツは、先の戦闘による損傷と、これまでの過酷な戦闘のツケが重なり、全機がハンガーで大規模修理の最中です。現状、作戦に投入できる実戦稼働機が、我々の手元には1機もありません。」
せっかくの最高峰の精鋭でありながら、肝心の「牙」がない。
その手痛い現実に、司令室の空気が微かに揺れた。
するとその時、分割モニターの向こう側から、北米のバリー・アボット大尉が助け舟を出してくれた。
「なんだ、そんなことか、タカバ大尉。それなら心配はいらんよ。君たちが使うためのモビルスーツなら、こちらキャリフォルニア・ベースで調達しておいてやる。競技会の覇者に相応しい最高の奴をな。」
バリー大尉の頼もしい提案に、リリス中尉もフンと鼻を鳴らしつつ、モニター越しにソウヤを見据える。
「機体はこちらで完璧に仕上げて待っているわ。第4小隊はミデア輸送機で、キャリフォルニア・ベースに来てちょうだい。一刻を争う事態よ、遅れないでね。」
北米側からの迅速な提案を受け、ブレックス准将は最終確認の言葉を厳かに投げかけた。
「……よし、移動手段のミデアは私の一権限で最優先で手配しよう。ソウヤ・タカバ大尉、改めて問う。我が東南アジア方面軍の誇りを懸け、北米に向かう覚悟はできたかね?」
「――はい! コジマ大隊第4小隊、北米への電撃派遣の特命、しかと拝命いたします! 必ずや、全員で生きて帰ってみせます!」
すべての因縁のバトンを繋がれたソウヤは、偽物の妖精たちを打倒するため、そして自らの掲げる不殺の理想を完全なるものにするため、北米へと向かうのだった。
というわけで、ソウヤ達は北米へ行くことになりました。
第4小隊の北米電撃派遣。
一年戦争以来となる、ソウヤにとって2度目の北米戦線です。
しかも今回は、かつて自分を完膚なきまでに敗北させた「北米の魔女」たちの機体との再会。
さらにインビジブル・ナイツ、ビグ・ザムまで登場。
……どう考えても、平穏に終わるはずがありませんね(笑)
次回、第2次北米戦線開幕です。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】で登場した原作キャラクターで好きなキャラクターは?
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ヤザン・ゲーブル
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テリー・サンダースJr.
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カレン・ジョシュア
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フォルド・ロムフェロー
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ルース・カッセル
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ゴップ大将
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ボルク・クライ
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ユウ・カジマ
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エイガー
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フレッド・リーバー
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ライラ・ミラ・ライラ
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スガイ・シイコ
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アルマ・シュティルナー
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ミア・ブリンクマン
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ヘレナ・ヘーゲル
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キリー・ギャレット
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リリス・エイデン
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レナート・ジェルミ
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アナベル・ガトー
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ノリス・パッカード