風が金色の海を揺らしていた。
どこまでも、どこまでも平坦に続く雄大な穀倉地帯の麦畑。
豊穣の香りを孕んだ大気が、柳のようにしなやかな黒髪を優しく撫で通り抜けていく。
ソウヤはその世界の中心にただ1人佇み、どこまでも吸い込まれそうな青い空と、そこにぽつりと浮かぶ白い雲を見上げていた。
静寂だけが満ちた、あまりにも美しい、世界の調和の光景だった。
――だが、調和は唐突に、前触れもなく崩れ去る。
青かったはずの空が、じわりと斑点のように紅く染まり始めた。
それは、夜の訪れを告げる穏やかな夕暮れの紅ではなかった。
大気そのものが恐怖に身震いし、内側から血を流しているかのような、禍々しく狂おしい絶望の焦熱。
空を圧し潰すようにして現れたのは、円柱状の、あまりにも巨大な人工の質量。
大気圏の摩擦にその身を焼かれながら、星の重力に引かれるまま、自分が立っている地表へと真っ直ぐに落ちようとしている、あの剥き出しの絶望――宇宙に暮らす人々の揺り篭であるコロニーが落ちてくる。
(逃げなければ――)
ソウヤは本能的に身体を翻そうとした。
だが、足がまるで大地の奥深くに根を張ってしまったかのように、微塵も動かない。
一歩を踏み出すことすら許されない、絶対的な拘束。
焦燥が全身を駆け巡ったのも一瞬のことだった。
ソウヤは不思議と、自分がこの破滅のうねりから決して抗えないことを悟った。
逃げることを諦め、ただただ立ち尽くしたまま、天から降り注ぐ巨大な死のシリンダーを見上げ続けた。
やがて、赤く燃え盛るコロニーの破片が、大気を引き裂きながら近辺の地表へと次々に突き刺さり、大音響の轟音を世界に轟かせた。
衝撃で大地は無残に抉れ、飛び散った破片の劫火が、周囲の金色の穂へと無慈悲に燃え移っていく。
大地の恵みを象徴するはずの美しい麦畑が、爆音と共に燃え上がっていくその光景。
ソウヤは炎の照り返しを蒼い瞳に受けながら、言葉にできないほど感慨深く、そしてひどく痛切な想いでそれを見つめていた。
炎は飢えた獣のように瞬く間に燃え広がり、一帯の麦畑は、地獄の業火がのたうつ真っ赤な炎の海へと姿を変えた。
四方を凄まじい熱波と火柱に囲まれながらも、ソウヤはなおも立ち尽くし、眼前にまで迫り来るコロニーの巨大な先端を、ただじっと見据えていた。
そして――コロニーの先端が、ついに大地に触れる。
触れた拍子に世界が爆裂し、すべてを無に帰す凄まじい衝撃波と爆音が、ソウヤの身体を容赦なく吹き飛ばした。
肉体が引き裂かれるかのような、生々しい衝撃波の幻痛が彼の五感を強烈に貫く。
間髪入れず、すべてを白く染め上げる強力な閃光が炸裂し、その圧倒的な光の質量によって、ソウヤの眼は完全に潰され、視界は真っ白な虚無へと塗り潰された。
最後に襲ってきたのは、質量が激突したエネルギーから発生した、数万度の熱。
身体が、皮膚が、骨の髄までがその焦熱に焼かれて炭化していく、息もできないほどの恐るべき熱波の幻痛。
ソウヤはその世界の終わりを、その身に刻まれる破滅のすべてを味わい尽くした。
やがて限界を迎えた彼の意識は、真っ黒な闇の底へと急速に暗転し、あらゆる感覚から解き放たれるようにして、深い微睡みの海へと沈められていく。
それは、抗えない眠りに落ちていくような。
あるいは、底の無い水の中に、首筋を掴まれて引きずり込まれるようにして、意識の深淵へと落とされていく感覚だった。
ソウヤは次第に、自らの存在の輪郭が遠退いていくのを感じながら、どこまでも昏く、どこまでも深い闇の海の底へ、その意識のすべてを静かに手放していった――。
――――――――――――――――――――――――――
『行かないで』『行かないで』『行かないで』
『どうか』『どうか』『どうか』
『あそこに』『どうか』『行かないで』
――懐かしい声が聞こえる。
『宇宙から』『人の』『業が』
『『『降ってくる』』』
『だから』『どうか』『行かないで』
――それは自分の無知が犯した過ち。
『大義』『殉教』『煽動』
――虚ろな栄光を掲げ、信徒を死地へと躍らせる意志がある。
『抑止』『不信』『執念』
――疑心暗鬼の狭間で、巨大な力の抑止力に縋る意志がある。
『粛清』『謀略』『覇権』
――その狂気を養分に、さらなる支配を目論む意志がある。
『忠義』『雪辱』『狂信』
――大義の幻影を追い、過去の雪辱に身を焦がす意志がある。
『執着』『葛藤』『喪失』
――その戦火の渦中に放り込まれ、全てを失いながら足掻く意志がある。
『悲しみが』『憎しみが』『怒りが』
『行けば』『必ず』『落ちてくる』
『『『これは避けようのないターニングポイント』』』
――許してくれ許してくれ許しておくれ
『だから』『どうか』『せめて』
『『『行かないで』』』
『あなたが』『その業火に』『焼かれぬように』
――俺が犯した過ちを裁いてくれ
――その果てしない暗闇の最深部で、ソウヤの意識は最後の瞬間、完全な意識の暗転を迎えた。
だが、漆黒に五感が呑み込まれるその一刹那。
彼の閉ざされかけた視界の奥に、突如として星々の煌めきのような、目も眩むほどの光の粒子が渦巻く、神秘的な空間が広がった。
形も、大きさも、そして放つ色彩も多種多様な、無数の楕円状の物体と光の群れ。
赤、黄、青、緑――あらゆる命の灯火が、ある一つの無垢な光の輝きを中心として、まるで一つの巨大な意志を持った『渦』を形成するように、滑らかに、流動的に流れていく。
例えるならば、広大な海の中、外敵から互いの命を守るために何万もの小魚の群れが、一つの有機的な生命体であるかのように群れをなし、美しくひるがえる姿。
その極彩色の輝きが、鮮烈な『黄色』の光となって精神世界を満たしていく、圧倒的な感応の空間。
(――ああ、この光景を、見るのは久しぶりだな……)
濁った戦場の憎しみではなく、かつて魂の奥底に秘めていた、『全てに繋がる記憶』。
その極彩色の黄色の光の渦が、世界のすべての悲悲と業火を優しく包み込み、そして――今度こそ、ソウヤの意識を完璧な静寂の闇の底へと引きずり込み、完全なるブラックアウトの中に消し去っていった。
――――――――――――――――――――――――――
沈んでいた意識が強引に現実へと揺すり起こされる。
「隊長!隊長!ソウヤさん、起きてください!」
瞳を開けると、網膜に真っ先に飛び込んできたのは、乱れた長い金髪。
エメラルド色の瞳を不安げに揺らしたエミリア・ドットナー少尉が、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「エミリア、か……」
重い粘土の底から這い出るようにして、意識を強引に覚醒状態へと引き上げる。
額からは不自然なほどの冷や汗が流れ落ち、軍服の内側を不快に濡らしていた。
「タカバ隊長、到着しましたよ。」
エミリアのその言葉に、私は弾かれたように身体を起こした。
シートベルトを外し、バケットシートから立ち上がる。
「着いたのか。」
「はい、現時刻をもって滑走路への着陸を完了しました。……それにしても、すごい眠り方でしたね。うなされるように何度も呼吸を詰まらせて……。最近、ずっと資料室に籠りきりで忙しかったですから。」
エミリアの小柄な肩が、本気で案じるように微かにすくむ。
ソウヤは自らの蒼い瞳の奥に宿る熱を隠すように、あえて大きくあくびを噛み殺してみせた。
「ああ、そうだな。だが、おかげで移動中にたっぷりと眠れたようだ。」
気休めの言葉を返し、ミデア輸送機の薄暗い後部貨物コンテナ部分へと歩を進めた。
エンジンの残響が、機体の隔壁を重低音で震わせている。
ソウヤの後ろを歩きながら、エミリアは耐えかねたように、通路の脇で小さなため息を漏らした。
「……それにしても、本当に急な任務でしたね。事前連絡もなしにいきなり北米への戦略空輸だなんて。おまけに、あのダレル准将直属の『ファントム・スイープ隊』の指揮下に入る混成部隊だなんて……正直、まだ頭の整理が追いつかなくて、困惑しています。」
私は足を止め、エミリアに向き直ると、静かに頭を下げた。
「すまない、エミリア。君たちに何の説明もないまま、独断でラサのアーカイブを調べ回った挙げ句、こんな世界規模の騒動に巻き込むことになってしまった。申し訳ない。」
ソウヤの実直な謝罪に、エミリアは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐにそのエメラルド色の瞳を和らげ、いつものように悪戯っぽく微笑んでみせた。
「もう、何をいまさら言っているんですか。ソウヤさんの無茶と、私たちの第4小隊がいつも特大の厄介事に突っ込んでいくのなんて、とっくに慣れっこですよ。隊長が信じて動いた結果なら、私たちはどこへだって付いていきますから。」
迷いを捨て去ったその微笑みを見て、私の胸の奥の強張りが、わずかに安堵の波に溶けていくのを感じた。
コンテナの最奥へと移動すると、すでに完全開放された油圧式ハッチの向こう、眩い陽光が差し込む外の世界に、ジョシュアとノアが並んで立っていた。
2人は地上へ降り立つことも忘れ、キャリフォルニアの天を衝くようにそびえ立つ、巨大な鉄の建造物を見上げていた。
「すげぇー……。軍の教本や映像で見るのは初めてじゃねえけど、生で拝むとやっぱり桁違いにデカイな、おい。」
ノアがミリタリー仕様のバイザーを押し上げ、感嘆の声を漏らす。
その隣で、ジョシュアが畏怖を込めて応じた。
「まあ、あれが重力の底から宇宙へと兵力を撃ち上げるためのシステムだ。あの全長がなけりゃ、大気圏の壁を強引に突破して軌道上には届かねえからな。」
2人が見つめていたのは、天へと一直線に伸びる宇宙船射出用レール――『マスドライバー』だった。
ソウヤもハッチのステップを踏み、乾いた北米の風が吹く外へと足を踏み出す。
巨大な鉄骨の影を見上げながら、忌まわしい記憶を思い出すように呟きが零れ落ちた。
「また……ここに来たのか……」
「ソウヤさん?」
ソウヤの声音の異様な冷たさに気づき、後ろにいたエミリアが不思議そうに顔を覗き込んできた。
視界の先に広がるのは、地球連邦軍の北米最大の軍事巨大拠点――『キャリフォルニア・ベース』。
一年戦争時にジオン地上軍に占領され、大戦末期に連邦軍が奪還した軍事拠点だ。
軍港には、連邦海軍の誇る航空母艦や駆逐艦、潜水艦が係留され、広大な滑走路には、自分たちが乗ってきたミデア輸送機や、迎撃用のセイバーフィッシュ戦闘機が戦闘配置のまま整然と並んでいる。
見渡す限り立ち並ぶ頑強なモビルスーツハンガー。
目を閉じれば、あの地獄の奪還作戦の硝煙が、今でも鮮烈に蘇る。
連邦の皮を被った卑劣な犯罪者集団、レナート・ジェルミが率いていた『ブラックドッグ隊』による、非戦闘員である衛生兵たちの無慈悲な虐殺。
そして、圧倒的なプレッシャーを放って立ち塞がった『キラー・ハーピー』を、ヤザンの陸戦型ジム改が捨て身で足止めしてくれたこと。
エイガー少尉のガンダム6号機と共に、ジオンの防衛戦線を突破したこと。
そして何よりも――。
ソウヤの心に消えない傷を残した、あのエイルの妹、カーラの生命を『生体ユニット』として組み込まれていた、あのハイゴッグ。
姉を想うカーラの生命の灯火が潰えた、因縁の地に再び降り立ったことにソウヤは想い更けるのだった。
ノスタルジックな感傷を噛み締めていたソウヤの視界に、軍用の頑強な四輪駆動ジープ2台が向かって来るのが見えた 。
第4小隊の前に急停車した車体から、くたびれた制服の襟を正しながら、一人の大柄な男が降りてくる 。
「よお、久しぶりだな、ソウヤ。」
豪快な笑みを浮かべて片手を挙げたのは、『ウィッチハント隊』の隊長、バリー・アボット大尉だった 。
「バリー大尉、お久しぶりです。」
私はハッチのステップを降り、かつて一年戦争の過酷な北米戦線を生き抜いた先輩大尉へ一礼した 。
「お、よく見ればお前も大尉の階級か。キャリフォルニア・ベースで会った時は、いかにも線の細い新米の少尉だったってのによ。」
バリー大尉は私の肩を不器用そうに小突いた。その気さくな態度に、私は苦笑交じりに首を横に振った。
「いえいえ、まだまだ未熟ですよ。かつて私を導いてくれた、あのイーサン・ミチェル・オルグレン少佐の足元にすら及びません。」
「ハッ、その生真面目で謙遜した態度は相変わらずだな。」
バリー大尉がそう言って笑った直後、もう一台のジープの助手席のドアが乱暴に開いた。
ツカツカと、硬い足音を響かせて私に歩み寄ってきたのは、薄いラベンダー色の髪を小さく揺らした女性。
去年のトリントン戦技競技会の決勝戦で、文字通り命を削り合うほどの激戦を交わした、ソウヤの戦友――リリス・エイデン中尉だった。
リリスは私の目の前でピタリと足を止めると、鋭い眼光のまま、しかしどこか固い気恥ずかしさを湛えた声で切り出した。
「……ソウヤ。私が頼んだ『ギニアスの遺産』の調査依頼を、完璧にやり遂げてくれて感謝するわ。……まさか、その正体がビグ・ザムだなんて思いもしなかったけれど。私のせいで、あなたの第4小隊をこんな大騒動に巻き込んじゃって……、本当にごめんなさい。」
コーウェン中将を動かし、ファントム・スイープ隊をも巻き込む作戦の引き金を引いてしまったことへの、彼女なりの不器用な謝罪。
ソウヤは戦友の目を真っ直ぐに見据え、優しく微笑みながら首を横に振った。
「気にしないでくれ、リリス中尉。ジオン残党を鎮圧するのが、連邦の軍人として当然の任務だ。……それに、機体を用意して待っていてくれたバリー大尉たちに、俺の方こそ感謝しているんだ。」
私の言葉に、リリスは少しだけ救われたようにふっと視線を伏せた。
「そうだそうだ、機体だったな!」
2人の空気の変化を察したように、バリー大尉がポンと手を叩いて、慌ててジープの運転席へと戻っていく。
「第4小隊に用意した機体を紹介する。ジョシュア曹長とノア軍曹、それからエミリア少尉はこっちのジープに乗ってくれ。」
その指示に、エミリアが不思議そうに小首を傾げた。
「あの、バリー大尉。なぜ私とジョシュア、ノアが一緒に別の車に乗らなければいけないのですか? 隊長とは別行動ですか?」
「ああ」と、バリー大尉はハンドルを握りながら不敵に笑う。
「ジョシュアとノアの適性を見て、対ビグ・ザムの切り札になるモビルスーツを用意した。特殊な機体なのでね、第4小隊の補佐官であるエミリア少尉にも同席してもらい、今後の機体運用とセッティングの調整をお願いしたいんだよ。」
その言葉を耳にした瞬間、ノア軍曹の目が一気に輝きを放った。
「ビグ・ザムに対する、切り札になる機体!?」
ノアは期待で胸を膨らませ、興奮に身体を揺らす。
「俺たちの適性を見て、って……一体どんな機体なんだ!?」
「おいノア、あまりはしゃぐなよ。」
ジョシュアが呆れたように窘めるが、その瞳の奥にも確かな好奇心の光が宿っていた。
エミリアはソウヤに向き直り、「隊長、私は二人の機体のデータとセッティングを確認してきますので、バリー大尉に同行しますね」と断りを入れた。
「了解した。頼んだよ、エミリア。」
ソウヤが微笑んで頷くと、すかさず隣のリリスが自分のジープのドアを開けた。
「ソウヤの機体は、私が案内するわ。さあ、乗って。」
エミリアたちはバリー大尉のジープへ、ソウヤはリリスが運転するジープの助手席へとそれぞれ乗り込む。
2台の車両は、広大な滑走路を分かれるようにして別々の方向へと走り出した。
吹き付ける乾いた風を感じながら、ソウヤは横顔でハンドルを握るリリスに尋ねた。
「リリス中尉、俺にはどんな機体を用意してくれたんだ?」
すると、リリスは前方に視線を向けたまま、どこか意味ありげな笑みを唇に浮かべて答えた。
「あなたたちが、ここに置いていった機体よ。」
「……置いていった?」
ソウヤはその言葉の真意が掴めず、不思議そうに首を傾げた。
やがて、リリスがブレーキを踏み、ジープが一棟の巨大なモビルスーツハンガーの前に滑り込むようにして停車した。
格納庫の重厚な扉の向こうでは、数多くの整備員たちが、けたたましい金属音と火花の中で、ハンガーに固定された“ある機体”を急ピッチで整備されている最中だった。
ソウヤはジープから降りると、引き寄せられるように格納庫の中へと歩みを進めた。
そして、証明に照らされ、整備されているそのモビルスーツの姿を仰ぎ見た瞬間――。
「――っ!?」
ソウヤは衝撃のあまり言葉を失い、蒼い瞳を限界まで見開いた。
一見すれば、陸戦型ジムに見える。
しかし、その腕部と脚部の装甲パーツの形状は、通常の陸戦型ジムや陸戦型ガンダムのデザインとは僅かに異なり、より高機動的な改修が施されている。
そして何よりも、その装甲に施された、見覚えのある紺色の塗装。
脳裏に、かつて一年戦争の地上を共に死線を潜り抜けた、あの獰猛で頼もしい男の顔が鮮烈にフラッシュバックする。
「……陸戦型ジム改……!」
ソウヤの唇から、震えるような懐かしさを孕んだその名前が漏れ出た。
それは一年戦争時、オリオン小隊の最高の仲間であり、無二の相棒でもあった男――ヤザン・ゲーブルが駆り、戦場を支配していた、まさにあの愛機そのものだったのだ。
「リリス、どうしてこれがここにあるんだ……? それに、完璧に修理されているじゃないか…。」
ソウヤは信じられないといった面持ちで、紺色の装甲をまとう機体を見上げた。
「キャリフォルニア・ベース奪還作戦の最終局面、ヤザンの陸戦型ジム改は『キラー・ハーピー』との激戦で両腕を失ったはずだ。当時、俺達の部隊には予備パーツなんて残されていなくて修理不能だったから、この機体を置いていくしかなかったのに……!」
ソウヤの疑問に対し、リリスは格納庫に置かれた木箱に腰掛け、ハンガーの天井を見上げながら淡々と説明を始めた。
「あの奪還作戦が終わった後、ベースの責任者が置き去りにされた機体に着目したのよ。陸戦型ジム改の希少性と、何よりガンダムと同型の高出力ジェネレーターを積んでいるっていう点がデータ採集用として都合が良かったみたい。……でね、残すことが決定してしばらくした頃、とあるモビルスーツの解体処分命令が下りてきたらしいの。」
「とある1機?」
ソウヤが問い返す。
「ユウ・カジマ中尉が乗っていた、ブルーディスティニー1号機よ。」
「ユウ・カジマ中尉の、ブルーディスティニー……!」
その名を聞いた瞬間、ソウヤの脳裏にキャリフォルニア・ベースの談話した記憶が鮮やかに蘇った。
キャリフォルニア・ベース奪還作戦が終結した直後、あの過酷な戦場を生き抜いたソウヤ、リリス、エイガー、そしてユウ・カジマ中尉の4人で、自分達が追う者に対して、言葉を交わしたあの日。
寡黙でありながら、底知れない強さを秘めていたユウの佇まいを今でもはっきりと覚えている。
「指示通りにブルーディスティニー1号機をバラして処分を進めていたらね、整備班が気づいたのよ。手足の駆動規格が、この陸戦型ジム改とほぼ共通のパーツで造られているってことにね。」
リリスは肩をすくめて、固定ハンガーのクレーンを指差した。
「頭部と胴体は修復不可能なレベルの深刻なダメージがあったブルーディスティニー1号機だけど、腕と脚の駆動系は奇跡的に軽微な損傷だった。だから、その手足のパーツをそのまま陸戦型ジム改に移植して、ミキシングする形でこの機体を復活させたのよ。」
ソウヤは胸が熱くなるのを感じていた。
ユウ・カジマ中尉のブルーディスティニー1号機が、巡り巡って、ヤザンの陸戦型ジム改を蘇らせるための「四肢」となった。
その奇妙な縁に、ソウヤは深い感慨を抱かずにはいられなかった。
「ええ。ただね、復活させたのは良いんだけど、一つ大きな問題があるの。」
リリスは苦笑いを浮かべ、ハンガーのコンソールに目をやった。
「前の操縦者のせいなのか、駆動のレスポンスが過敏なんてレベルじゃないのよ。あまりにもピーキーな反応に、並のパイロットじゃまともに動かすことすら出来ない。……一度、私の後輩のルイザをテストで乗せてみたんだけど、レバーに触れた瞬間に機体が前進して、危うくハンガーの壁に激突して気絶しかけたんだから。」
リリスはため息をひとつつき、機体の脚部装甲をぽんと叩いた。
「だから、まともに実戦で動かせる人間がいなくてね。ここ数年は、開発局のデータ採集以外は、ずーっとこの格納庫の奥で大人しく倉庫番をさせられていたってわけ。」
リリスの言葉を聴きながら、ソウヤはゆっくりと陸戦型ジム改のコックピットハッチへと視線を上げた。
かつてオリオン小隊の最強の牙として戦場を蹂躙したヤザンの愛機。
その怪物の手綱を握れるのは、今や地球圏で自分を置いて他にはいないのだと、ソウヤは蒼い瞳の奥に宿る静かな闘志を、ゆっくりと燃え上がらせていくのだった。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
皆様、驚きましたか?
ソウヤが北米で使う機体が、ヤザンの愛機「陸戦型ジム改」だったことに。
この伏線はキャリフォルニア・ベース奪還作戦の時から、仕込んでました。
ようやく、披露することが出来たので嬉しいです。
キャリフォルニア・ベースでのブルーディスティニー1号機の描写もこのために用意しました。
ブルーディスティニー1号機の映像作品で分かる範囲だと、ドムやイフリート改に頭を破壊されるまで描かれてますが、その後の処分はあやふやなんですよね。
なので、オリオンの軌跡のブルーディスティニー1号機は解体処分されたにしました。
毎日、投降していたので少し疲れてしまったので、ほんの少しだけ休憩させていただきます。
4日間から7日間ほど、書きたいエネルギーをチャージしたいのと。
ビグ・ザムとの戦闘の構成やタイムスケジュールの再確認と再構築したいので、時間が欲しいです。
皆様に楽しんでもらえる作品を作りたいので、ご理解とご協力をよろしくお願いいたします。
でも、お気に入りが200突破して、毎週2000も読んでくれて、本当に嬉しかったです。
そんな風に応援と支持してくださる皆様を裏切るようなことはしませんので、よろしくお願いいたします。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】で登場した原作キャラクターで好きなキャラクターは?
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ヤザン・ゲーブル
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テリー・サンダースJr.
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カレン・ジョシュア
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フォルド・ロムフェロー
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ルース・カッセル
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ゴップ大将
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ボルク・クライ
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ユウ・カジマ
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エイガー
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フレッド・リーバー
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ライラ・ミラ・ライラ
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スガイ・シイコ
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アルマ・シュティルナー
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ミア・ブリンクマン
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ヘレナ・ヘーゲル
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キリー・ギャレット
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リリス・エイデン
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レナート・ジェルミ
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アナベル・ガトー
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ノリス・パッカード