機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第17話 激闘のキャリフォルニア・ベース【中】

太陽が白く焼きつけるアスファルトの上を、オリオン小隊のジム・ドミナンスと量産型ガンキャノンが疾走していた。

背後では、病院跡の方角から断続的に響く爆発音とビームの炸裂音が絶え間なく聞こえる。

ヤザン・ゲーブルがキリー・ギャレットと死闘を繰り広げている音だ。

イーサンは歯を食いしばり、操縦桿を握りしめたまま前だけを見据える。

 

「ヤザン……死ぬなよ。」

 

ソウヤも無言でロケット・ランチャーを構え直し、ペダルを全開で踏む。

 

HLV格納庫まであと数キロ。

残された時間の猶予はどれくらいだろうか。

 

そのときだった。

前方、補給路の交差点で轟音と共に火柱が上がった。100ミリを超えると思われる大口径の砲弾が、コンクリートを抉り、倉庫の壁にコンクリートの破片がめり込む。

イーサンは前方を確認すると、モニターに重厚なシルエットを保つガンダムタイプの姿が映し出される。

ガンダム6号機――マドロック。

ガンダム6号機が盾にしている建物の周囲を、3機のザク・キャノンが包囲していた。

中央に立つのは、頭部アンテナが二本に増設されたラビットタイプのザクキャノン。

機体はオリーブグリーンに塗られ、肩には青い蜘蛛のエンブレム。

イーサンの瞳が思わず見開かれる。

 

「キャリフォルニア・ベースのイアン・グレーデンか……!」

 

次の瞬間、オープンチャンネルから荒々しい叫び声が飛び込んできた。

 

「オリオン小隊か!? ジャブローで助けてくれた連中だな!頼む、このザクキャノンを蹴散らしてくれ!俺は……どうしても、この先に行きたいんだ!」

 

ガンダム6号機のパイロット――エイガー少尉の、怒りと焦燥に満ちた声だった。

 

 

イーサンは即座にオープンチャンネルで応答した。

 

「こちらオリオン小隊! エイガー少尉、状況を説明してくれ! この先に何があるんだ!?」

 

通信が一瞬、静寂に包まれる。

 

エイガーの脳裏に闇夜のフェンリル隊との因縁が思い返される。

61戦車乗り時代からの部下のサカキ軍曹が目の前で闇夜のフェンリル隊のグフに殺されたこと。

ジャブローでガンダム6号機に乗りながら、自分の母艦のブランリヴァルを守れなかったことを思い返す。

個人的な因縁を他人に頼るのは筋が違う。

自分のプライドも許さない。

しかし、自分一人ではこのザクキャノンの包囲網を突破できないと判断していた。

だが、なんとしても奴らと決着を着けたかった。

 

「……この先に、闇夜のフェンリル隊がいるらしい。」

 

掠れた声で、吐き出すように言った。

 

「ジャブローで俺を追い詰めた奴らだ。俺は……どうしても、あいつらと決着をつけなきゃならねぇ!だから……すまない!オリオン小隊、力を貸してくれ!!」

 

懇願だった。

ガンダム6号機のパイロットが、頭を下げるような声音で懇願された。

イーサンは一瞬だけ沈黙し、進路を再確認する。

 

この先の1キロ先で左に行けば、エイガー少尉の目的のフェンリル隊のいるエリア。

直進すればオリオン小隊の目的地のHLV発射台があるエリア。

どちらも、ほぼ同方向。

 

「……了解した、エイガー少尉。」

 

イーサンは静かに告げた。

 

「方向は同じだ。一緒に突破しよう。」

 

エイガーの声が、明らかに震えた。

 

「……すまねえ!本当にすまねえ!」

 

ソウヤの量産型ガンキャノンはガンダム6号機を見据える。

 

(あのガンダム6号機と一緒に戦えるのか……!)

 

コックピットの中で、ソウヤは小さく拳を握りしめた。

あのガンダムと一緒に戦えることに胸を熱くする。

 

イーサンのジム・ドミナンス、ソウヤ少尉の量産型ガンキャノン、

エイガーのガンダム6号機 。

三機による臨時編成が、その場で結成された。

前方のイアン・グレーデンが率いるザク・キャノン小隊が、静かに銃口を向けて待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

オリーブグリーンに塗装されたザクキャノンのパイロットのイアン・グレーデンは、額に浮かぶ汗を手の甲で拭った。

 

「……まずいな。」

 

メイン・モニターに映る三機の連邦モビルスーツ。

 

建物を裏で攻撃を凌ぐ、背中に2門のキャノン砲を装備した重厚なガンダムタイプ。

新たに現れた、紺色のジムの新型と量産タイプのガンキャノン。

もう既に、モビルスーツ2個小隊も失っている。

あのガンダムタイプだけでも、キャリフォルニア・ベースの防衛線を次々と蹴散らされた。

これ以上進めば、HLV護衛中のフェンリル隊やマルコシアス隊にまで被害が及ぶ。

 

「……あの紺色は、キラー・ハーピーの娘達がモハーヴェ砂漠で戦った連邦の特務部隊か…。」

 

キリー・ギャレットから聞いた話が脳裏をよぎる。

キラー・ハーピーの娘たちですら、完全には叩けずに撤退した相手だ。

イアンは舌打ちした。

 

「かなりの手練れか……。」

 

だが、ここで引き下がれば味方の背後が取られる。

キャノン砲を背負ったガンダムが突っ込んでくれば、味方に壊滅的な被害が及ぶかもしれない。

 

肩の青い蜘蛛のエンブレムが、陽光に鈍く光る。

 

「……仕方ない。」

 

イアン・グレーデンは静かに呟いた。

 

「あの3機をここで俺たちが食い止めるぞ。」

 

通信スイッチを入れ、小隊に告げる。

 

「全機、陣形を再構築。連邦の三機を、ここで足止めするぞ。」

 

声は冷静だった。

だが、コックピットの操縦桿を握る手は、わずかに震えていた。

味方を守るため、キャリフォルニア・ベースを守るため、イアン・グレーデンは覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソウヤ!エイガー少尉と合流する!あの包囲網を崩すぞ!左のザクキャノンに砲撃だ!」

 

イーサンはエイガーのガンダム6号機と合流するために、ザクキャノンの包囲網を崩すために左側のザクキャノンに攻撃をするようにソウヤに指示する。

 

 

「了解しました!」

 

ソウヤはイーサンの指示に了解すると、量産型ガンキャノンが

左のザクキャノンへ素早く照準。

 

「撃ちます!」

 

轟音とともに、二発の砲弾が一直線に飛ぶ。

 

狙われたザクキャノンは即座にスラスターを横に滑らせ、瓦礫の陰へと飛び込む。

 

ザクキャノンが居た場所はコンクリートを粉砕され、衝撃波が瓦礫に隠れたザクキャノンの装甲をわずかに削るだけだった。

だが、その一瞬の隙。

 

建物の影からガンダム6号機が一気に飛び出し、オリオン小隊の右側へ滑り込む。

 

 

「合流した!」

 

エイガーの声が響く。

イーサンのジム・ドミナンスが前に出る。

 

 

「アローフォーメーション! 俺が先頭、ソウヤは左、エイガーは右だ!」

 

 

 

三機は瞬時にジム・ドミナンスを先頭にしたアローフォーメーションを組む。

 

 

「エイガー!ソウヤ!撃てぇーー!」

 

号令と同時に、量産型ガンキャノンとガンダム6号機の合計4門のキャノン砲が火を噴いた。

 

 

轟音と共に四発の砲弾がイアンのザクキャノン小隊を襲う。

 

イアンは冷静に指示を叫ぶ。

 

「散開! 建物に張り付け!」

 

三機のザク・キャノンはイアンの指示に応えるように的確な動きでコンクリートの壁陰へと散る。

 

 

 

放たれた砲弾は空しくアスファルトを抉るだけだった。

イアン・グレーデンはモニター越しに舌打ちしながらも、内心で戦慄していた。

 

 

(ガンダムの火力に加えて、あの量産型の射手の射撃の速度と正確さ!ここまでとは……!)

 

 

 

一方、イーサンは相手の散開のタイミングに驚きを隠せなかった。

 

(敵の指揮官……完全に俺たちの射撃タイミングを読んでいる、なんて奴だ。)

 

 

イアンの小隊は基地の地形を熟知しており、建物の死角を縫うように移動しながら180mmとビッグガンを叩き込む。

 

オリオン小隊は高い機動性と火力を活かして強引に距離を詰めていく。

 

互いに一歩も譲らぬ、指揮官同士の読み合い。

 

ザクキャノンの180mmキャノンとガンダム6号機と量産型ガンキャノンのキャノン砲での砲撃戦。

 

両軍は一進一退の攻防だった。

 

イーサンが小さく呟く。

 

「イアン・グレーデン、噂に違わぬ……素晴らしい指揮官だ。」

 

イアンも、腰のビッグガンを構えながら応じるように呟いた。

 

「連邦にも、こんな奴がいたのか!」

 

 

両者は心の底から相手の高い指揮能力とタクティクスを

認めていた。

 

その瞬間だった。ソウヤのセンサーが背後から高速接近反応を捉える。

 

 

「隊長! エイガー少尉! 背後から高速反応三つ! ドムです!」

 

振り返ると、黒い三機のドムが熱核ホバーを唸らせ、猛スピードで迫っていた。

 

 

エイガーが即座に反応する。

 

「俺が受ける! ホバー走行ならドム相手でも引けはとらない!」

 

ガンダム6号機が脚部側面のホバーユニットを吹かし、単機でドム小隊の方に向かう。

 

三機のドムがジャイアント・バズを構え、ガンダム6号機が正面から迎え撃つ。

 

 

イアン・グレーデンはドム1個小隊が応援に駆けつけたことを知ると、僚機のザクキャノン2に通信で短く、しかし確実に告げた。

 

「ドム小隊が背後を押さえた。……勝負に出るぞ!」

 

次の瞬間、僚機のザク・キャノン2機が180mmキャノンとビッグガンを同時に斉射。

 

無数の砲弾がイーサンのジム・ドミナンスを中心に降り注ぎ、コンクリートが爆発的に舞い上がり、衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。

視界が完全に赤い火柱と黒い煙に塗り替えられた。

 

 

「くそ!視界を潰された!」

 

イーサンは咄嗟にシールドを構えながら、頭の中で状況を組み立てる。

 

(この弾幕は牽制じゃない……確実に何かを仕掛けている!)

 

 

イーサンは自分なら、どうやってザクキャノンで自分達を倒すかを瞬時に思考し、悟った。

 

「ソウヤ、気をつけろ!お前が狙いだ!」

 

ソウヤも煙と粉塵の中でセンサーが半ば盲目になっていた。

だが、量産型ガンキャノンのコックピットに響く重い足音とスラスター音が僅かに聞こえる。

その時、ソウヤの頭に稲妻が走った。

 

量産型ガンキャノンは僅かに音が聞こえる方向を急いで振り向く。

煙を切り裂き、オリーブグリーンの巨体が飛び込んできた。

イアン・グレーデンのザクキャノンが至近距離――わずか50メートルの位置で右肩の180mmキャノンをソウヤに突きつけていた。

 

「動きの遅い奴から確実に潰す。それが鉄則だ。」

 

イアンの声は静かだったが、ソウヤを確実に仕留める意思に満ちていた。

 

ソウヤは急いでスラスターを吹かすが、量産型ガンキャノンの推力では大きく回避距離とスピードを出せない。

イアン・グレーデンのザクキャノンの180mmキャノンから砲弾が放たれようとしている。

 

(スラスターじゃ逃げ切れない……! この距離で直撃されたら死ぬ……!)

 

 

ソウヤの思考が極限まで加速する。

 

(――こうするしかない!)

 

 

ソウヤは瞬時にシステム設定を変更した。

 

 

「ヘレナ曹長、すまないな。」

 

 

イアンはキリー・ギャレットの部下のヘレナが認めた相手を仕留めることを詫びながら、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドン!

 

 

 

 

 

 

イアンの目の前で信じられない光景が目に写っていた。

目の前の量産型ガンキャノンが右に回避行動をしながら、左側のキャノン砲だけを発砲したのだ。

 

強烈な反動が機体を右へ強引にねじり、回避距離とスピードを一気に稼ぐ。

180mm砲弾が、わずか数十センチ差でガンキャノンの左肩をかすめて爆発。

イアンの目が見開かれる。

 

「……っ!? キャノンの反動で回避だと!?」

 

驚愕と同時に、口元がわずかに緩む。

 

「型に捕らわれない……まったく面白い奴だ!」

 

だが、ソウヤは止まらない。

ソウヤは着地と同時に既に装填済みの右肩のキャノン砲をイアンに向ける。

 

「こっちはまだ終わっていない!」

 

ソウヤは操縦桿のトリガーを引き、右側のキャノン砲を放つ。

だが、既にイアンは右へ大きくスラスターを吹かし、回避していた。

 

「右側に残ってるのは読めていた!」

 

回避したイアンはザクキャノンの腰に装備されたビッグガンを構え、照準を合わせようとする。

 

「惜しかったな、ガンキャノン!」

 

しかし、次の瞬間。

量産型ガンキャノンが大地を蹴り、猛然と突進してきた。

 

 

ガァーン!!

 

 

辺りに巨大な鈍い金属音が響き渡る。

 

 

ソウヤのガンキャノンの全力の肩からの体当たりを受け、イアンのザク・キャノンが大きくよろめく。

 

「なに!?」

 

 

直後、ソウヤは左腕の小型シールドを振りかぶった。

量産型ガンキャノンが左腕に装備している小型シールドは陸戦型ガンダムや陸戦型ジムが装備している小型シールドだ。

シールドの先端は爪状になっており、打突武器としても使える。

振り上げられたシールド先端の爪状打突部が、鋭く閃く。

イアンは咄嗟に右腕でガード。

火花と共にザク・キャノンの右腕が粉砕される。

 

「くっ!ここまでか!撤退だ!」

 

イアンは即断した。

スモークディスチャージャーを起動。

白煙が爆発的に広がり、視界を完全に奪う。

僚機二機もスモークディスチャージャーで煙幕を張り、撤退を開始。

イアン・グレーデンと言う名の蜘蛛は、煙の中に消えていった。

 

煙がゆっくりと晴れる頃、交差点には無数のクレーターと、ザクキャノンの腕の残骸、そして焦げたコンクリートだけが残っていた。

ソウヤは肩で荒い息をつきながら、通信で呟いた。

 

「……化け物だ。あの指揮官……。」

 

イーサンのジム・ドミナンスが、量産型ガンキャノンの横に急停止し、通信を叩き込む。

 

「ソウヤ! 無事か!?」

 

ソウヤの声が、荒い息遣いと共に返ってきた。

 

「はい……なんとか!本当にギリギリでした。あの距離で180mm砲の直撃なら死んでましたね。」

 

イーサンの声に、安堵と賞賛が滲む。

 

「馬鹿野郎……だが、見事だったぞ。キャノンの反動で回避するなんて、俺でも思いつかなかった。」

 

「隊長が先に警告してくれなかったら、回避が間に合わなかったと思います。」

 

そのとき、ホバー音と共に重厚な巨体が姿を現す。

 

ガンダム6号機・マドロックだ。

 

エイガーの通信が、明るく割り込んだ。

 

「遅くなってすまん! ドム三機、全部片付けたぞ!」

 

イーサンが笑みを浮かべた。

 

「いや、ちょうど良かった。助かったよ、エイガー少尉。」

 

エイガーの声が、素直に感嘆を込めて続いた。

 

「いや……本当に凄いな、オリオン小隊の隊長さん。

あんな完璧なタイミングでのフォーメーション運用、俺には真似できねえ。

正直、モビルスーツ戦術じゃ完敗だな。」

 

イーサンが苦笑交じりに返す。

 

「そんなことはない。君のガンダムの火力と砲術がなければ、あのザクキャノン小隊を一瞬で崩す隙は作れなかったよ。」

 

エイガーは少し照れ臭そうに鼻を鳴らし、続けた。

 

「それにしても……ガンキャノンのパイロット、お前はすげえな。俺も昔ガンキャノンに乗ってた時期があるんだが。砲術じゃ負けない自信はある、だが、モビルスーツとしての操縦はそっちの方が上手のようだ。キャノン砲の反動回避に体当たり、シールドの爪まで使い切るなんて……参ったよ。」

 

ソウヤの声が、照れと誇りが混じって震えた。

 

「……ありがとうございます、エイガーさん!」

 

三人の通信チャンネルに小さな笑い声が重なった。

 

 

 

 

 

 

三機は再び走り出す。

 

ジム・ドミナンスを先頭に、量産型ガンキャノン、ガンダム6号機が続く。

通信チャンネルは、キャリフォルニア・ベース奪還作戦に参加した部隊の様々な通信が続々と入ってくる。

 

「くそ! 滑走路に魔女達が!至急応援を頼む!」

 

「なんで連邦のモビルスーツがHLVを守ってやがる!?」

 

「海中ルート突破失敗! アクア・ジム部隊は壊滅! 繰り返す、壊滅した!」

 

「何かを守りたいという願いが力だ!」

 

エイガーが低く呟く。

 

「……どこも激戦だな。」

 

イーサンが静かに応えた。

 

「ああ。でも俺たちは俺たちの戦場を、俺たちのやり方でやるだけだ。ベストを尽くす。それだけだ。」

 

エイガーが短く笑った。

 

「その通りだな。」

 

移動中、建物の陰から飛び出してきたグフ1機とザク2機が襲いかかる。

だが、三機の連携は完璧だった。

イーサンの二連ビームライフルが先頭のグフを貫き、ソウヤの肩部キャノンがザクⅡを吹き飛ばす。

エイガーのビームライフルが残りのザクIIの胴体を正確に撃ち抜く。

十数秒で決着。

三機は一歩も止まらずに進み続ける。

やがて、分岐点が見えてきた。

左へ行けば、闇夜のフェンリル隊が守っているHLVのエリアに。

直進すれば、オリオン小隊が目指しているHLV発射台の方に。

エイガーが通信で静かに告げた。

 

「ここまで来れたのは、オリオン小隊のおかげだ。ジャブローの借りは、まだ十分に返していないと思うが、ここでお別れだ。後は……自分自身の因縁と決着をつける!」

 

イーサンが穏やかに返す。

 

「健闘を祈る、エイガー少尉。そして、無事に帰ってこい。」

 

ソウヤも続けた。

 

「エイガーさん……どうかご無事で!」

 

エイガーの声に、わずかな笑みが混じる。

 

「ああ、約束する。あんた達もどうか、無事に。」

 

ガンダム6号機が左のエリアに向かい、力強く方向転換する。

ホバーユニットが轟音を立て、闇夜のフェンリル隊が待つ、エリアに向かった。

イーサンとソウヤは直進し、HLV発射台に向かう。

二人のモビルスーツは、並んで最後の直線を疾走する。

背後で、ガンダム6号機のホバー音が遠ざかっていく。

 

 

それぞれの戦場へ。

 

 

それぞれの決着へ。

 

 

 

 

 

 

二機のモビルスーツが、焼け焦げたアスファルトとコンテナの残骸を蹴立てながら、猛スピードで滑り込む。

先頭はジム・ドミナンス。

イーサンがスラスターを逆噴射させ、機体を滑らせながら急停止。

アスファルトにモビルスーツの足跡が黒く長く残る。

直後、量産型ガンキャノンが肩を揺らしながらその横に並ぶ。

ソウヤがブレーキペダルを踏み込み、両膝を折って膝立ちのように停止する。

潮風が吹き抜ける広大な港湾施設に設置された発射台の上に卵型に近い円錐形の巨体が鎮座していた。

垂直離着陸式の軍事用SSTO。

Heavy-lift Launch Vehicle。

通称「大気圏離脱艇」。

フラナガン機関を乗せたその宇宙に帰るための卵は、既に主エンジンの予熱を始めていた。

 

遠くで波の音が響き、海鳥が悲鳴を上げて飛び去っていく。

 

ソウヤが息を吐きながら言う。

 

「……間に合った……!」

 

イーサンが頷き、静かに応えた。

 

「ああ、これで俺達の任務が終わる。」

 

ジム・ドミナンスは二連ビームライフルをHLVに向かって照準を合わせようとした。

 

その瞬間。

 

 

 

 

 

 

ピーッ! ピーッ! ピーッ!

 

 

 

 

 

 

二人のコックピットに、甲高いロックオン警告警報が鳴り響いた。

背後の港湾クレーンとコンテナの影から、三機の黒いモビルスーツがゆっくりと姿を現した。

右に黒塗装のジム・コマンド。

左にもう一機、同じく黒のジム・コマンド。

そして、中央やや後方に、頭部だけがガンダムタイプの異形のジム。

ジム・スパルタンがヤザンの新型ビームライフルをこちらに向けていた。

 

レナートの声が、静かに、しかし確実に通信に流れた。

 

「……ありがとう、オリオン小隊。いや、正確には君たちと、あのガンダム6号機のおかげだな。」

 

低く、どこか楽しげな声。

 

「どういう意味だ?」

 

イーサンの眉が僅かに動く。

 

「君たちが道を切り開いてくれたから、ここまで楽に辿り着けた。イアン・グレーデンのザクキャノン小隊も、ドム小隊も全部君たちに釘付けだった。俺たちはただ、後ろから高見の見物をしていただけだ。」

 

ただの事実確認のような、乾いた笑い声が含まれた声が通信機から流れる。

 

ソウヤが歯軋りする音が通信に乗る。

 

「つまり……自分達を利用してたって言うのか!?」

 

「利用?」

 

レナートのジム・スパルタンは首を振る仕草をした。

 

「違う、観察していたんだ。ジャブロー直轄の遊撃部隊にしては、あまりにも動きが真っ直ぐすぎる。最初からこのHLV発射台を目標にしているのは明白だった。」

 

彼は右手に持つ新型ビームライフルを軽く掲げてみせた。

 

「そして、これを見てくれ。RX-81ジーライン用の試作ビームライフルだ。ガンダムの完全量産型を目指した機体の武装。開発はまだ途中、正式配備はされていない。なぜ、これを持っている?」

 

レナートの視線が、イーサンのジム・ドミナンスを舐めるように這う。

 

「ジム・ドミナンス、オーガスタが開発した最新鋭の機体。さらに、君たちの部隊にはもう一機、凍結したはずだった陸戦型ジムの強化改修プランの機体があったな?あの野獣みたいなパイロットが操る“陸戦型ジム改”。あれも通常の部隊では手に入らない機体だ。」

 

イーサンの指が操縦桿を強く握る。

 

「名目上はジャブロー直轄の遊撃部隊。でも、装備も動きも、明らかに違う。こんな武器を手に入れられる部隊が、ただの遊撃部隊であるはずがない…。」

 

レナートは静かに結論を下した。

 

「お前たちは“何か特別な任務”を帯びて、ここに送り込まれた。だから、目的はこのHLVの阻止、あるいはその中身の確保だ。どちらにせよ、ここに来ることを許された、選ばれた部隊なわけだ。」

 

レナートのジム・スパルタンが、新型ビームライフルをHLVに構える。

 

「さて、どうする?俺たちが代わりに上に報告してやろうか?君たちは無事に生還。俺たちは手柄を頂く。Win-Winだろう?」

 

イーサンの声が鋭く跳ねる。

 

「……つまり、俺たちを利用してターゲットを横取りする気か?」

 

黒いジム・スパルタンは肩をすくめるような仕草をした。

 

「横取り?言い方が悪いな。“効率的な手柄の再分配”だよ。」

 

イーサンが低く吐き捨てる。

 

「……ふざけるな!」

 

レナートは小さく笑う。

 

「残念だが、交渉の余地はない。この功績は、ブラックドッグ隊のものにさせてもらう。」

 

 

ソウヤの視線が、ブラックドッグ隊の背後に広がる海を一瞬だけ視線を移し、すぐに三機の肩に描かれた黒い犬のエンブレムに目を移した。

 

「黒い犬のエンブレム……。」

 

ソウヤの声を震わせる。

 

「あの補給基地の逃げ込んだジオン兵を追い込んだのは、お前たちの仕業か?」

 

「そうだが?」

 

レナートは楽しげに、まるで思い出話でもするように語り始める。

 

「あの逃げ惑うジオン兵達は実に面白かった。白旗を掲げて泣きながら命乞いする奴ら。赤十字の腕章を必死に振り回して『撃たないでくれ』って叫ぶ衛生兵たち。全部なぶり殺してやった。弱い奴を捻り潰すのは本当に快感だ。」

 

 

レナートの声はどこか愉悦を帯びた響きがあった。

 

 

「……お前ら……人間じゃない。」

 

 

ソウヤは目の前に1匹の怪物に吐き捨てるように言った。

 

レナートはくつくつと笑いながら言う。

 

「そんなもん、この戦争にはいらないだろ?」

 

その頃、HLV内部の乗員室では座席に座ったジル・ペロー少佐が顔面蒼白で叫んでいた。

 

「まだ来ないのか!? まだなのか!?」

 

汗が額から滴り落ち、制服がびしょ濡れだ。

 

部下が必死に宥める。

 

「もうすぐです! 戻ってくるよう指示は出しました! あと少しです!副所長!」

 

ジル・ペローは両手で頭を抱え、震えながら繰り返す。

 

「なんとしても宇宙に戻らなければ!なんとしても……! なんとしても!!」

 

その瞬間、恐怖と緊張の極限で、ズボンの股間がじわりと濡れていく。

温かい液体が座席に染み込み、床にぽたぽたと落ちるが、誰もそれに気づかない。

 

イーサンの声が、低く、氷のように冷たく響いた。

 

「……補給基地の制圧命令も、お前が仕組んだのか?」

 

レナートは一瞬だけ沈黙。

そして、まるで褒められた子供のように、嬉しそうに頷いた。

 

「ああ、もちろん。ジャブロー直轄の部隊が、北米大陸で好き勝手に動き回ってるのが気に食わなかったんでな。だから、司令部の連中にちょっとした“脅し”をかけてやったのさ。『オリオン小隊に補給基地を制圧させろ。さもなくば、お前たちの汚職を全部バラすぞ』ってね。」

 

 

レナートは楽しげに続ける。

 

「あの補給基地のジオン共は、俺たちが何度も襲撃してたから、もう完全にパニック状態だった。連邦の部隊が来たら、条件反射で戦闘になるはずだったんだ。」

 

彼は軽く首を振って、残念そうにため息をついた。

 

「念のために仕掛けを用意しておいて。全部、オリオン小隊の“虐殺”に見せかける手筈だったんだが、君たちがあまりにも綺麗に立ち回りすぎた。交渉で済ませて、戦闘を起きなかった。本当に残念だったよ。」

 

レナートの声は、まるで最高の悪戯が失敗した子供のように、どこか拗ねたような響きを帯びていた。

 

「もし、戦闘が起きていれば、俺たちの悪行の証拠も、証人も、全部消えて。代わりに“オリオン小隊がジオン負傷兵を虐殺した”って記録が残せたんだがな。」

 

 

イーサンの拳が操縦桿を軋ませる。

ソウヤの呼吸も完全に荒くなっていた。

レナードは満足そうに笑い、新型ビームライフルをゆっくりと構え直した。

 

「さあ、もうおしゃべりは終わりだ。このHLVは俺たちがもらう。そして手柄は、俺のものになる。お前たちはここで消えてくれ。」

 

ソウヤは静かに、しかしはっきりと告げた。

 

「レナート、それはさせない。このHLVを確保する。そしてあなた達がやったことを全部、ジャブローの司令部に報告する。」

 

同じ連邦軍の士官に対する敬称はなかった。

上官に対する礼も、連邦軍の仲間に対する配慮も、一切ない。

軽蔑と怒りに塗れた、「レナート」という名の腐った人間に対する呼びかけだった。

レナートのジム・スパルタンの肩が、ぴくりと動く。

 

「……昨日、乱闘で股間を踏みつけられた恨み、まだ忘れてないぜ。」

 

声が低く、粘ついた怒りに満ちていた。

ソウヤは冷たく笑った。

 

「怒りの沸点が低いんだな、レナート。自分の思い通りにならないと、すぐキレる。――まさに犬っころだ。」

 

 

レナートの新型ビームライフルが、がくりとソウヤに向けられる。

 

「てめえ……!」

 

銃口が火を噴こうとした、その瞬間。

ソウヤは、静かに告げた。

 

 

「なあ、レナート。お前は背中ががら空きなことに気づいてないのか?……まあ、お前みたいな駄犬には、死の匂いも嗅ぎ分けられないか。」

 

 

軽蔑と嘲笑と、深い怒りが全部混じった冷たく鋭い一言がレナートを否定する

 

「何を――」

 

次の瞬間。背後の海面が、轟音と共に水柱が天を突く。

巨大なシルエットが、海中から一直線に飛び上がる。

水滴を弾きながら現れたのは異形の水陸両用モビルスーツ――ハイゴッグ。

太く長い腕部は生き物の触手のように動く。

 

 

レナートは背後に現れたハイゴッグにビームライフルを向けようとした。

その瞬間だった。

ハイゴッグの右腕が、まるで巨大な鞭のように横薙ぎに振られた。

太く長い腕部が空気を裂き、レナードのジム・スパルタンの胴体に直撃。

鈍い金属音と共に、黒い機体が横薙ぎに吹き飛ばされる。

右手の新型ビームライフルが、衝撃でレナートの手から弾き飛ばされ、くるくると回転しながらアスファルトに叩きつけられた。

ジム・スパルタンは十数メートル吹き飛び、

積み上げられたコンテナの山に激突。

黒い機体は大きく仰向けに倒れ、コックピットハッチはひしゃげ、完全に動きを止めた。

ハイゴッグはゆっくりと腕を下ろし、

水滴を滴らせながら、静かに立ち尽くす。

残る二機のジム・コマンドが、呆然とハイゴッグを見据える。

ソウヤは静かに呟いた。

 

「……こいつか。」

 

ソウヤはレナートたちと対峙している間、ずっと感じていた。

海中から立ち昇る、この世の全てを憎悪、憤怒、嫉妬、絶望。

殺意そのもののような――底知れぬ殺気を。

 

 

 

 

 

 

海から這い上がったハイゴッグは、全身に戦いの痕を纏っていた。

肩の巨大なショルダーアーマーには無数の凹みと切り傷があり、腕や脚の青い装甲にも無数の傷が走っている。

だが、ソウヤの視線を最も強く釘付けにしたのは右肩の装甲に描かれたエンブレムだった。

 

 

 

翼を広げた戦乙女。

 

 

 

オデッサ作戦でソウヤたちを死の淵まで追い詰めた。

あの“死神”のグフの胸部に刻まれていた、まったく同じマーク。

 

 

「……やっぱり……。」

 

確信が、胸の奥で冷たく固まる。

このハイゴッグもフラナガン機関のモビルスーツだ。

ハイゴッグのモノアイが、ぎちり、と機械的に動きを始めた。

まず、コンテナに仰向けに沈んだジム・スパルタン。

次に、完全に硬直した二機の黒いジム・コマンド。

続いて、二連ビームライフルを構えようとするジム・ドミナンス。

そして、最後に――量産型ガンキャノン。

瞬間、ハイゴッグのモノアイが血の色のように赤く、強く、激しく光った。

ソウヤはモニター越しに、その赤く光る一つ目と目が合った。

次の瞬間、頭の奥で、耳ではなく脳そのものに直接、轟くような声が響いた。

 

「コロシテヤル!!」

 

幻聴ではない。

明確な、殺意の塊だった。

ソウヤの背筋を、氷のような戦慄が走る。

こいつは、俺を殺すためにここまで来た。

明確に、ただ一人、

自分だけを狙って。

ハイゴッグの両腕がゆっくりと上がり、

メガ粒子砲の砲口が開く。

殺意が、港湾全体を真紅に染め上げた。

ハイゴッグのモノアイが血の色に染まったように一点、

二機のジム・コマンドを完全に無視して、一番奥に立つ量産型ガンキャノンだけを死に物狂いに捉えた。

 

 

「――!」

 

ソウヤは背筋に電流が走るような予感だけでスラスター全開にし、横に跳ぶ。

次の瞬間、青白いメガ粒子がソウヤのいた場所を薙ぎ払った。

 

ズガアアアアアアッ!!

 

一瞬でも遅れていたら機体ごと蒸発していた。

アスファルトが溶け、港湾施設の地面が抉れる。ハイゴッグは止まらない。

左腕、右腕、交互にメガ粒子砲を連射。

毎発がソウヤのいた場所を正確に追い、

地面を溶かし、コンテナが一瞬で蒸発、

衝撃波が港全体を震わせる。

イーサンは咄嗟に二連ビームライフルを連射。

ビームが背後から突き刺さる寸前、

ハイゴッグはイーサンのジム・ドミナンスを視界に捉えてないのに

ショルダーアーマーを滑らせて回避する。

 

「……っ!?」

 

イーサンの声が裏返る。

 

「こいつもフラナガン機関の機体か!?あのオデッサの死神と同じ……!!」

 

ソウヤはハイゴッグが回避を行った一瞬の隙に近くの倉庫建物を盾にする。

直後、ハイゴッグの両腕のメガ粒子砲が倉庫に向かって集中砲火を浴びせる。

 

ズドン! ズドン! ズドン!

 

コンクリートが粉々に砕け、鉄骨が熔け、

建物がみるみる崩れ落ちていく。

異常な執着だった。

まるで、他の全てを捨ててでも、

量産型ガンキャノンだけを殺さなければ気が済まないかのように。

ソウヤは歯を食いしばる。

 

(なぜ……俺だけを……!?)

 

理由は分からない。

だが、殺意の強さだけは痛いほど伝わってきた。

ブラックドッグ隊のジム・コマンドがようやく銃を向ける。

90mmブルパップ・マシンガンを連射。

 

 

ダダダダダダダダダッ!!

 

 

だが、ハイゴッグはショルダーアーマーの厚い装甲で弾丸を弾きながら、まるで邪魔な虫でも払うように強引に接近。

左腕が閃く。

 

 

ズブリ。

 

 

左腕の抜き手が、片方のジム・コマンドの腹を貫通。

 

装甲を突き破り、そのまま引き抜く。

もう一機が慌ててビームサーベルを抜刀し、斬りかかる。

が、ハイゴッグは貫通したジム・コマンドの機体を盾のように投げつけた。

ビームサーベルが味方を両断。

火花と血のように熔けた鉄が飛び散る。

その隙に、ハイゴッグは両腕を大きく構え、メガ粒子砲を至近距離で発射。

残るジム・コマンドは正面から焼き尽くされ、黒煙と溶けた装甲を撒き散らしながら崩れ落ちる。

ハイゴッグはゆっくりと振り返り、

量産型ガンキャノンだけを赤いモノアイで睨みつける。

 

オデッサで見た死神が今、キャリフォルニア・ベースに蘇った。

 




登場人物紹介
イアン・グレーデン
原作 [モビルスーツバリエーション]

エイガー
原作 [ジオニックフロント]

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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