機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第20話 追う者たち

キャリフォルニア・ベース奪還作戦は、連邦軍の勝利で終わった。

公式発表は華々しく、地球全土に「北米奪還成功」の号外が流れた。

ジオン軍の残党は陸路・海路・空路に散り散りとなって撤退し、マスドライバーは完全に連邦の手に戻ったのだ。

北米のパワーバランスは決定的にこちらへ傾いた。それから丸2日。

基地は戦闘の余波に包まれている。

負傷者の咳、捕虜収容所のざわめき、整備兵たちの怒号、溶接の火花、消毒薬とオイルが混じった匂い。

戦いが終わってからの、静かすぎない喧騒だった。

オリオン小隊のミデア輸送機は、北西のオープンスペースに降ろされていた。

そこに残るのは、ただの一機だけ。

イーサン・ミチェル・オルグレン少佐のジム・ドミナンス。

右腕は肩口から失われ、装甲は無数の弾痕で刻まれ、フレームは僅かに歪み、冷却ダクトは焼き切れていた。

それでもこの機体だけは、整備班三個班が総出で群がっている。

 

「ナガト中尉! フレーム計測終わりました!」

 

「よし、次は関節ブロック全交換だ! 予備パーツ全部持ってこい!」

 

整備班長のケンジ・ナガト中尉は、額に汗を浮かべながら叫び続ける。

イーサンの機体を担当して、もう1ヶ月。

この機体を、誰より知っている男だった。その少し離れた場所。

格納庫の片隅に、シートをかぶせられた陸戦型ジム改が寂しく佇んでいる。

陸戦型ジム改の足元に立つのは、ミサキ上等兵とヤザン・ゲーブル曹長。

彼女自身が製作に関わった機体だ。

中破したまま放置され、予備パーツが無いため修理の見込みも立たない。

 

「……ヤザンのジム、こんなところで終わりか。」

 

ミサキは唇を噛み、俯いた。

 

隣に立つヤザン・ゲーブルは、腕を組んだまま、静かに呟いた。

 

「中破したからって、捨てられるわけじゃねえだろ?」

 

「でも……予備パーツが、もう……」

 

ヤザンは、ミサキの肩を軽く叩いた。

「俺の相棒は、お前が作った機体だ。お陰で俺はキラー・ハーピーに勝てた。ありがとうよ。」

 

ミサキは顔を上げ、目を潤ませながら小さく頷いた。

そして、さらに奥。

本来なら量産型ガンキャノンを整備するはずのスペースは、空っぽだった。

ソウヤが赤いガンダムと共に戦場を離脱した後、レナートは八つ当たりでガンキャノンを徹底的に破壊。

原型を留めないほどに叩き潰され、残骸は回収すらされなかった。

 

「……あいつの機体、もうねえんだ」

 

ナガト中尉の手伝いをするイヤン軍曹を眺めながら、ヤザンはぼそりと呟いた。

ヤザンは遠くを見つながら、静かに言った。

 

「……あいつが、まだ生きてる。それで十分だ。」

 

その声には、確かな響きがあった。

ソウヤ・タカバを、もう「オデッサの新星」などと呼ぶ気はなかった。

自分のかけがえのない「仲間」として、完全に認めていた。

ミサキは少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべて、ヤザンの横顔を見上げた。

 

「ねえ、ヤザン。タカバ少尉にはちゃんと謝ったの?」

 

突然の質問に、ヤザンの顔が一瞬で真っ赤になった。

 

「あ、謝ったさ! あいつが生還した直後にすぐにな!」

 

声が裏返りそうになりながら、慌てて言い返す。

 

──2日前のことだった。

 

ソウヤが赤いガンダムに救われ、ミデアに戻ってきた直後。

ヤザンは人目を憚るようにソウヤの前に立ち、ぎこちなく頭を下げた。

 

「……悪かった。お前がマスコミに取材された時、俺は嫉妬した。お前に八つ当たりまでして、……本当に、すまなかった!」

 

そして、すぐに顔を上げて、ぶっきらぼうに続けた。

 

「それと……補給基地の件、お前が俺の攻撃を止めてくれなかったら。あれがなかったら、俺はレナートみたいなクズになっていた。本当に……ありがとうな。」

 

ソウヤは驚いた顔をしたが、すぐに苦笑いで「いいよ、仲間だろ」とだけ返した。

その時のことを思い出して、今、ヤザンの耳まで赤い。

ミサキはそれをじーっと見て、ニヤニヤが止まらない。

 

「へぇ~、ヤザンって照れるんだ~。」

 

「う、うるせえ! 見世物じゃねえんだよ!」

 

ヤザンが怒鳴ると、ミサキは「はいはい」と笑いながら手を振った。

 

「……しかし、ブラックドッグ隊の連中が襲ってこなかったのが意外だったね」

 

ミサキの一言に、ヤザンも眉を寄せた。

 

「確かにな。レナートのことだから、俺たちに報復しに来ると思ってたんだが……してこなかったな。」

 

オリオン小隊は全員がそう思っていた。

レナートの性格からして、腹いせに夜襲でも仕掛けてくるに決まってる、と。

だから昨日は、整備兵達が整備工具を武器代わりに握りしめて、交代でミデアの周囲を警戒していた。

ミデアの乗組員まで「何かあったら呼べよ」とライフル銃を持ってきてくれたほどだ。

 

「絶対に報復すると思ったから、身構えていたんだけどな。」

 

ヤザンが肩をすくめる。

 

「その後に整備班の何人かが、ブラックドッグ隊を探しに行ったんだろ?」

 

「ああ、そうそう。ジープで基地中走り回ってたけど……」

 

ミサキは小さく首を振った。

 

「どこにも居なかったんだよ。機体も、兵舎も、空っぽだったって。」

 

ヤザンは一瞬だけ目を細めた。

 

「……まあ、あんな連中とは二度と関わりたくはないな」

 

「うん、本当にね。」

 

ミサキが小さく笑った直後、ヤザンがふと周囲を見回した。

 

「……そういえば、あいつどこに行ったんだ?」

 

「え? タカバ少尉?」

 

「ああ。さっきから全然姿が見えねえんだが?」

 

整備兵たちの怒号と溶接の火花が響く中、確かにソウヤの姿はどこにもなかった。

ヤザンは腕を組んだまま、ミデアの荷台や格納庫の入り口、さらにはジム・ドミナンスの足元まで視線を走らせる。

 

ミサキは少し困ったような、それでいて優しい笑みを浮かべた。

 

「ブラックドッグ隊が基地にいないって確定したから、お礼を言いに行ったよ。」

 

「お礼?」

 

「うん……赤いガンダムのところに。」

 

ヤザンの眉が跳ねた。

 

「まさか、あの北米の魔女狩り部隊か……?」

 

ミサキは小さく頷き、遠く北東の方角を指差した。

 

「格納庫の方に、ジープで一人で行ったみたい。さっき、『ちょっと行ってくる』って言ってたよ。」

 

ヤザンは一瞬、呆れたような顔をしたが、すぐに口元を緩めた。

 

「……あいつらしいな。」

 

 

 

 

 

ソウヤはジープを走らせ、キャリフォルニア・ベースの敷地を移動していた。

苛烈な戦闘が終わってから、まだ48時間も経っていない。

壁には無数の弾痕が走り、ところどころに大きな穴が開いている。

誰が放った弾か、もはや分からない。

地面には薬莢と焼け焦げた装甲片が散らばり、2日前の戦闘の苛烈さの痕が残っていた。

ソウヤは目的の格納庫に辿り着き、ジープを格納庫の側に停車させ、格納庫の中に入った。

その格納庫の中心に、鮮烈な赤い機体が静かに佇んでいた。

右肩に小さな焦げ跡が一つ。

それ以外は、苛烈な戦闘を潜り抜けたとは思えないほど美しく、非常灯の光を浴びて、深い紅に妖しく輝いている。

ソウヤは、ただ静かにその機体を見上げていた。

 

(……細いな)

 

ガンダム4号機、6号機を見たことがある。

あれらに比べると、明らかに細身で、洗練されている。

まるで、戦うために生まれた彫刻のようだった。

どれだけ見つめていても、飽きなかった。

 

「……おい、君?」

 

突然、背後から声が掛かった。振り返ると、体格の良い男性が立っていた。

首襟に大尉の階級章。

ソウヤは慌てて敬礼する。

 

「失礼しました!」

 

男は軽く手を振って、穏やかに言った。

 

「いや、気にするな。俺はウィッチハント隊の隊長、バリー・アボットだ。君はどこの部隊で、ここに何の用だ?」

 

丁寧な口調に、ソウヤは少し緊張しながら答えた。

 

「ジャブロー直轄、オリオン小隊のタカバ少尉です。あの……ブラックドッグ隊との戦闘で、この赤いガンダムに助けていただいたので、お礼を言いに来ました。」

 

バリーは「ああ」と納得したように頷いた。

 

「あの時のパイロットか。ヘルメットをしてたから顔が分からなかったが、なるほどな~。」

 

そして、少し離れた場所に向かって声を上げた。

 

「エイデン少尉! 来てくれ! お客さんだ!」

 

数秒後、格納庫の奥から一人の女性が現れた。

額に大きな傷跡。

延びた薄紫色の髪を後ろでざっと一つにまとめられている。

軍服の上に作業ジャケットを羽織っただけの、簡素な格好。

リリス・エイデン少尉。

ソウヤの命を救った、赤いガンダムのパイロットだった。

彼女はソウヤを見た瞬間、わずかに目を丸くした。

まるで、誰かが自分のために頭を下げに来るなんて、もうありえないと思っていたような顔だった。

ソウヤは深く、深く頭を下げた。

 

「……あの時は、本当にありがとうございました。あなたのおかげで、今ここにいられます。」

 

 

リリスは一瞬、言葉を失ったように沈黙した。やがて、小さな声で呟いた。

 

「……本当に、よかった」

 

その瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。

感謝されることなんて、もうずっとなかった。

味方からは『魔女狩り』と恐れられて、距離を取られていた。

最近は、自分の戦い方に自信が持てなくなっていた。

でも今、目の前の自分が助けた人物が、真っ直ぐに頭を下げて、「ありがとう」と言ってくれたのだ。

リリスは小さく息を吐き、初めて、ほんの少しだけ口元を緩めた。

 

「……あなたを助けたのは、ブラックドッグ隊の悪行が許せなかったから。」

 

静かな、でも確かに届く声。

 

「私は……あいつらとは違うって、証明したかっただけよ。」

 

ソウヤは顔を上げた。

リリスの瞳に、ほんの一瞬、温かい光が戻った。

 

「……でも、ありがとうって言われるのは、久しぶりで……ちょっと……嬉しいわ。」

 

 

その時だった。

 

「ほらほら、エイデン少尉もタカバ少尉も。」

 

背後から、バリー大尉がミネラルウォーターのペットボトルを二本抱えて近づいてきた。

 

「エイデン少尉、疲れてるだろ? 休憩がてら、二人で話してみたらどうだ?」

 

リリスは明らかに困惑した顔で首を振る。

 

「いえ、私はまだ疲れてません。大丈夫ですよ……」

 

「いいからいいから。」

 

バリーは笑顔で強引に押し通した。

最近、リリスが自信を失って塞ぎがちになっているのを、誰よりも近くで見てきた。

だからこそ、今日この瞬間を逃したくなかった。

 

 

誰かを救ったことで、誰かに感謝されたことで、彼女自身が救われるこの瞬間を。

 

 

リリスは小さくため息をつき、渋々といった様子でペットボトルを受け取った。

 

「……わかりました。」

 

バリーは満足げに頷くと、格納庫の外の整備用資材置き場を指差した。

 

「ほら、あそこに座ってゆっくり話せ。」

 

ソウヤとリリスはバリーに促され、格納庫の外に出ると整備用資材置き場の木箱に腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

少しの沈黙が流れる。

ペットボトルを握ったまま、二人とも何を話せばいいか分からなくて、視線を彷徨わせ。

先に口を開いたのはソウヤだった。

 

「あの……赤いガンダム、すごく綺麗ですね。徹底的に重量を絞った細身のボディー、アポジモーターも通常より多い配置で……瞬発力が凄そうで。やっぱり、すごいパイロットが乗ってる機体なんだなって、思いました。」

 

純粋な、素直な賞賛だった。

 

リリスは一瞬目を丸くして、すぐに顔を少し赤くしながらペットボトルに口をつけた。

 

「……急に何よ。」

 

照れ隠しの一口。

そして、ふっと息を吐いて、小さく、でも確かに笑った。

 

「ピクシーって言うの、あの子は。確かに、一瞬で相手の懐に入れる、いい機体だわ。」

 

ソウヤは目を輝かせて身を乗り出す。

 

「ピクシー! そう呼ばれるんですね!」

 

リリスは少し驚きながらも照れ臭そうに、でもどこか嬉しそうに語り始めた。

 

「陸軍が作った試作型の陸戦用モビルスーツ。重力下での白兵戦を徹底的に重視した機体よ。重量を極限まで削って、アポジモーターも増設してある。一度距離を詰めたら、もう逃がさない……そういう機体。」

 

ソウヤは素直に感嘆の息を漏らした。

 

「白兵戦特化のガンダムまであるなんて……本当に、すごいです。」

 

リリスは「……ありがとう」と小さく呟いて、初めて、柔らかい笑顔を見せた。

 

その時だった。

 

「おいおい、その声はオリオン小隊のガンキャノンのパイロットじゃねえか!」

 

背後から、明るい声が響いた。

振り向くと、頭に包帯を巻いた男が片手に栄養ドリンクのペットボトルを持って立っていた。

エイガー少尉。

2日前のキャリフォルニア・ベース奪還作戦で、イアン・グレーデン相手に肩を並べて戦い、死線をくぐり抜けた男だった。

ソウヤの顔がぱっと明るくなる。

 

「エイガー少尉!」

 

エイガー少尉は、ソウヤの隣の木箱にどっかりと腰を下ろした。

 

「聞き覚えのある声だと思ったが、まさかここで会えるなんてな。」

 

「ええ、私もエイガー少尉に実際にお会いできるとは思ってませんでした。」

 

コックピットのモニター越しでは顔を合わせていたが、こうして直接会うのは初めてだった。

リリスは急に人が増えて、明らかに動揺していた。

ソウヤはそれに気づき、慌てて紹介する。

 

「エイデン少尉、こちらはエイガー少尉で、ガンダム6号機のパイロットです。先日のキャリフォルニア・ベース奪還作戦で一緒に戦いました。」

 

リリスはエイガーの顔を見て、目を丸くした。

 

「あのガンダム6号機のパイロット……!?単騎でジオン防衛線を三つも突破したって本当ですか!?」

 

その一言に、今度はソウヤが驚いた。

 

「え……単騎で!?」

 

てっきり、他部隊と連携して突破したと思っていた。

まさか本当に一人で……エイガーは頭を、がしがし掻いて、気まずそうに笑った。

 

「いや、まあ……勢いだったんだよ勢い。味方の進軍が遅れてて、待ってたらチャンス逃すし……つい、突っ込んじまってな。」

 

ソウヤとリリスは同時に「……は?」という顔になった。

 

「勢いって……」

 

「それで三つも突破しちゃうんですか……?」

 

エイガーは栄養ドリンクを一口飲んで、照れ隠しに肩をすくめた。

 

「まあ、結果オーライってことで!」

 

すると、ソウヤが少し真剣な顔で尋ねた。

 

「あの後……闇夜のフェンリル隊との決着は、どうなったんですか?」

 

その一言で、エイガーの表情が一瞬で曇った。

 

「……あれか」

 

気まずそうに視線を逸らし、やがて深々と頭を下げた。

 

「すまない、少尉!オリオン小隊に助けられて、無事にフェンリル隊のいる地点まで行けた!でも……俺は負けた。」

 

声が震えていた。

 

「本当にすまない!あんだけ命がけで助けてくれたのに勝てなかった!」

 

悔しさが滲み出ている。ソウヤは一瞬、言葉を失った。

ガンダム6号機が……負けた?

あの強さを目の当たりにした自分が、一番驚いていた。

でも、エイガーが深く頭を下げている姿を見て、すぐに首を振った。

 

「そんな! 気にしないでください!エイガー少尉が無事でいてくれただけで、私は……本当に嬉しいんです!」

 

必死に、でも心からエイガー少尉が無事で良かったと思った。

エイガーはゆっくりと顔を上げ、

ソウヤの真っ直ぐな瞳を見て、

ふっと苦笑いを浮かべた。

 

「……お前、本当にいい奴だな。」

 

そして、頭を下げるのをやめ、隣の木箱にどっか、と座り直した。

リリスは二人のやり取りを、静かに見つめていた。

少しの沈黙。

ソウヤは、意を決したように口を開いた。

 

「エイガー少尉は……どうして、そこまで闇夜のフェンリル隊との決着を望んでるんですか?」

 

その問いに、エイガーは目を閉じた。

一瞬、怒りと憎しみが顔を覗かせる。

でも、すぐに深呼吸して、静かに抑え込んだ。

以前なら、感情に飲み込まれていた。

でも今は違う。

先日の敗北が、どこかで区切りをつけてくれた。

エイガーは静かに語り始めた。

 

「ジオンのキャリフォルニア・ベース制圧戦、ゴビ砂漠の補給基地戦……アイツらに二度も負けた。オデッサじゃ、大事な部下を目の前で殺された。ジャブローでは未完成の6号機で無理に出撃して、配備されるはずだった船の目の前で戦闘不能にされた。」

 

声は低く、でも確かだった。

 

「だから、リベンジと仇を……ずっと取ろうとしてた。今回の奪還作戦でも、オリオン小隊に助けられたのに……、また負けちまった。」

 

ソウヤは言葉を失い、リリスは無言で真剣に聞いていた。

そして、少し離れた場所──たまたま通りかかったある人物も積まれた木箱の陰で足を止め、静かに聞き耳を立てていた。

 

「だから……ずっと、アイツらを憎んでた。殺してやりたいって思ってた。」

 

でも、エイガーは首を振った。

 

「でもな、先日の戦いで……最後にアイツ等と銃を交えた時、何か、違ったんだ。」

 

一度だけ、遠くを見るような目になった。

 

「殺意じゃなくて……理解したくなった。」

 

エイガーは空を見上げて、静かに言った。

 

「ガンダムがなくたって、俺はもう一度アイツらと向き合う。今度は、憎しみじゃなくて……アイツらが何を背負って戦ってるのか、ちゃんと見て、理解して、それから──」

 

言葉を切り、小さく、でも確かに笑った。

 

「決着はつける。でも、殺すためじゃなくて……終わらせるためにな。」

 

静寂が落ちた。

すると、リリスが掠れた声で口を開いた。

 

「……どうして」

 

エイガーとソウヤが振り返る。

リリスは初めて、誰かに問いかけるように瞳を揺らしていた。

 

「どうして……因縁のある相手を、殺すんじゃなくて、理解するために追いかけるんですか?」

 

その声は自分でも驚くほど震えていた。

 

リリスは、震える声で続けた。

 

「……私も、ずっと憎んでた。家族を奪ったジオンを、北米の魔女も……でも、あなたは言った。理解するために追いかけるって。」

 

初めて、誰かに弱音を吐く。

 

「私にも……できるんでしょうか?相手を、殺すんじゃなくて、理解するために戦うことが?」

 

エイガーは静かに微笑み、真っ直ぐにリリスを見つめて答えた。

 

「できるさ。」

 

そして、遠くを見るような目で語り始めた。

 

「俺は……先日の戦いで、止めを刺されなかったんだ。」

 

ソウヤとリリスが息を呑む。

 

「6号機は完全に動けなくなってた。もう一撃でコックピットも吹っ飛ばせる状況だった。でも、アイツらは……戦闘不能になったのを確認しただけで、すぐに戦場を離脱した。」

 

エイガーは苦い笑みを浮かべた。

 

「部下を殺した奴は、あの中にいた。でも、他の隊員は……あんな残忍な人間じゃなかった。」

 

静かに、でも確かに続けた。

 

「だから、俺は思ったんだ。アイツらは、俺が思ってたような“ただの怪物”じゃないって。ちゃんと知りたい。何を背負って戦ってるのか。憎しみだけで終わらせたくない。」

 

リリスは目を丸くした。

 

「……私も」

 

掠れた声。

 

「魔女と戦って……最後は、止めを刺されませんでした。」

 

エイガーは頷いた。

 

「だったら、同じだろ?お前も相手のことを知ろうとしている。」

 

ソウヤは二人の話を聞きながら、自分の胸の奥にずっと残っていた声を静かに思い返していた。

 

『姉さん……生きて……』

 

あのハイゴッグが最後に発した、まだ幼さが残る少女の声。

オデッサのグフ。

キャリフォルニア・ベースのハイゴッグ。

どちらも、羽を広げた戦乙女のエンブレムが描かれていた。

フラナガン機関。

オリオン小隊がジャブローから極秘裏に追う対象。

ソウヤは、自分でも気づかないうちに因縁を背負っていた。

グフに殺されかけた。

ハイゴッグに執拗に攻撃された。

でも、最後に聞いたのは、

憎しみの言葉じゃなかった。

ただ、誰かを想う、切ない声だった。

エイガーの言葉が、リリスの微笑みが、ソウヤの胸に深く突き刺さる。

──俺もいつか、憎しみじゃなくて、理解するために追いかけることができるのか?

ソウヤは、まだ答えを出せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

すると、積まれた木箱の影から、ゆっくりと人影が現れた。

 

「実に興味深い話だった。ありがとう。」

 

三人が同時に振り返る。

そこに立っていたのは、きちんと整えられた連邦軍制服を着た男性。

首襟に中尉の階級章。

ソウヤ、リリス、エイガーは慌てて立ち上がり、敬礼した。

男は苦笑しながら手を振った。

 

「いや、気にしないでくれ。俺も、この間まで少尉だったんだ。」

 

そして、空いていた木箱に腰を下ろした。

 

「第11独立機械化混成部隊のユウ・カジマだ。」

 

瞬間、エイガーが目を丸くした。

 

「まさか……モビルスーツ単機でミサイル基地を数分で壊滅させた!?」

 

「ああ、そうだ。」

 

ユウは穏やかな表情で答えた。

 

エイガー、ソウヤ、リリスは全員、口をぽかーんと開けてユウを見た。

単機で基地を数分で壊滅。

エイガーの防衛線三つ突破よりも、はるかに異常な戦果だった。

奪還作戦は他部隊も動いているから戦力が分散する。

単機は全ての敵が集中する。

それで基地を数分で潰すなんて、常識外れすぎる。

だが、エイガーはさらに一つだけ、誰にも言っていない情報を持っていた。

──以前、アフリカでシステム暴走した青いジム。

後に第11独立機械化混成部隊に配備されたという噂。

まさか、そのパイロットが目の前にいるとは。

 

(……でも、今は黙っとこう。)

 

変な混乱を招くだけだ。

エイガーは口を閉ざした。

ユウは三人の顔を順に見て、静かに微笑んだ。

 

「しかし、珍しい組み合わせで、興味深い話をしていたから聞き耳を立てていた。すまなかった。」

 

そして、さらりと爆弾を落とした。

 

「まさか、ガンダム6号機のパイロットに、ウィッチハント隊のエースパイロット、そして『オデッサの新星』に会えるとは思わなかった。」

 

瞬間、エイガーがリリスを見て、リリスがソウヤを見て、ソウヤがユウを睨んだ。

 

「魔女狩り部隊のエースパイロット!?」

 

「え!? ソウヤ・タカバ少尉!? 『オデッサの新星』の!?」

 

ソウヤは顔をしかめて、ぼそりと呟いた。

 

「……あまり、その二つ名は好きじゃないんですよ。」

 

その二つ名のせいで、マスコミに追い回され、

ヤザンと大喧嘩し、ブラックドッグ隊に命を狙われる羽目になった。

いい思い出が、ほとんどない。

ユウは一瞬、目を丸くした。

 

「……うん? お互い面識があると思ってたんだが?」

 

エイガーが苦笑いで手を振る。

 

「いや、俺はタカバ少尉がオリオン小隊でガンキャノンに乗ってたいたから、なんとなく察していたが……エイデン少尉とはさっき会ったばかりだから知らなかった。」

 

リリスは小さく頷いた。

 

「私は……エイガー少尉が単騎で防衛線を三つ突破したって話は聞いてたから驚きませんでしたが。」

 

そして、ソウヤをまじまじと見て、ぽつりと呟いた。

 

「まさか、私が助けて、お礼を言いに来たパイロットが『オデッサの新星』だったなんて……思ってもみなかったです。」

 

ソウヤはますます顔をしかめる。

ユウは慌てて頭を下げた。

 

「あ、すまない!俺は名前だけは知ってたから、勝手にみんな知ってると思ってたんだ。」

 

穏やかな笑顔で、ソウヤに謝罪した。

 

「タカバ少尉、嫌な思いさせてたら本当にすまない。」

 

ソウヤは少しだけ照れながら、小さく首を振った。

 

「……いえ、もう慣れました」

 

ユウはソウヤの「慣れました」を聞いて、ほっとしたように微笑んだ。

そして、三人の顔をゆっくり見回し、静かに口を開いた。

 

「エイガー少尉は闇夜のフェンリル隊、エイデン少尉は北米の魔女……タカバ少尉は?」

 

ソウヤは一瞬、言葉に詰まった。

確かに、オリオン小隊はフラナガン機関を追っている。

オデッサのグフ、キャリフォルニア・ベースのハイゴッグ、機体に描かれた戦乙女のエンブレム。

そして、あの最期の声。

 

『姉さん……生きて……』

 

まだ幼さの残る少女の声が、今でも耳の奥で響いている。

でも、自分にはまだ、エイガーやリリスのような明確な“意志”はなかった。

ただ、ぼんやりとした影だけ。

けれど、二人の話を聞いて、何か、胸の奥で灯った。

ソウヤは深呼吸して、ユウを真っ直ぐ見つめた。

 

「……私にも、追っているものがあります。」

 

声は少し震えていた。

 

「まだ、エイガー少尉やエイデン少尉のようにはっきりしてない。理解するために追いかける……なんて、自分にはまだ無理かもしれないです。」

 

でも、ソウヤは確かに続けた。

 

「でも、俺は『責任』を持って、最後まで追いかけます。」

 

それは、誰かの命を奪ったことへの、誰かの最期の声を聞いたことへの、自分なりの答えだった。

エイガーが小さく頷いた。

リリスは静かに微笑んだ。

ユウは満足げに、でも優しく、ソウヤの肩に手を置いた。

 

「……立派だ。」

 

ソウヤの「責任」という言葉が落ちた直後。

エイガーが、静かにユウを見上げた。

 

「……じゃあ、中尉はどうなんです?俺たちに“追ってるもの”を聞くってことは、中尉にもあるんですよね?」

 

ユウは空を見上げた。

青い空を一本の飛行機雲が横切る。

ユウは一瞬、左手を軽く握りしめた。

指先に、まだ残る熱。

ブルーディスティニー1号機に乗っている時に、頭の中で聞こえた少女の声。

青い死神、EXAMに関わってしまった運命。

ユウは静かに空を見上げ、小さく息を吐いた。

 

「……俺にも、ある。」

 

苦い、でもどこか優しい笑み。

 

「タカバ少尉と同じで、まだはっきりした形はない。憎しみでも、理解でもない……ただ、逃げられない“何か”だ。」

 

そして、ソウヤをちらりと見て、同じ言葉を返した。

 

「だから、俺も“責任”を持って、最後まで追いかける。」

 

この瞬間、魔女と狼を追う者は相手を『理解』するために追い駆けることを決意し。

運命と戦乙女を追う者は関わった『責任』を果たすために追うことを覚悟した。

 

 

 

 

すると、遠くから、明るい声が響いた。

 

「おーい! ユウ!」

 

四人が振り返ると、

滑走路の方から三人の兵士が手を振っていた。

男性二人、女性一人。

第11独立機械化混成部隊の面々だ。

ユウは小さく苦笑して立ち上がった。

 

「すまない、時間のようだ。俺たちの部隊は今からニューバーン基地へ移動する。新しい機体を受領するためにな。」

 

エイガーは立ち上がり、右拳を胸の前で軽く握りしめて、少し照れ臭そうに、でも真っ直ぐに言った。

 

「中尉なら……絶対に辿り着ける。俺は信じてます。だから、どうか……無事に、必ず」

 

声が少し掠れた。

それでも、最後まで言い切った。

 

「頑張ってください!」

 

リリスは薄紫の髪を風になびかせながら、静かに、でも確かに深く一礼した。

 

「ご武運を……どうか、ご無事で。」

 

その声は小さかったが格納庫の壁に静かに響いた。

ソウヤは少し俯き加減で、それでも顔を上げて、ユウの瞳をまっすぐに見つめた。

 

「お互いに……頑張りましょう」

 

言葉は短かった。

でも、その一言に、これまで背負った全ての重さと、これから背負う覚悟が詰まっていた。

 

ユウはゆっくりと三人の顔を見渡した。

 

エイガーの熱い拳。

リリスの静かな祈り。

ソウヤの震える、でも揺るがぬ瞳。

 

そして、自分が歩んできた道のりをほんの一瞬だけ重ねた。

穏やかに、でも確かに、微笑んだ。

 

「君たちも、それぞれの“追うもの”に……必ず辿り着けるはずだ。」

 

一呼吸置いて、優しく、でも力強く。

 

「俺は、それを祈ってる」

 

それだけ言って、ユウは背を向けた。

風が、制服の裾を揺らす。

三人はただ、黙ってその背中を見送った。

そして、ユウはミデア輸送機が待つ滑走路へと消えていった。

ユウを見送った後、エイガーは持っていた栄養ドリンクを一気に飲み干し、空のペットボトルを握り潰す。

プラスチックが、ぎゅっ、と音を立てて握り潰される。

 

「……俺も、行かなきゃな」

 

小さな呟きだった。

でも、その声には、これまで背負ってきた悔しさと、これから背負う決意が確かに重なっていた。

エイガーはゆっくりと振り返り、残されたソウヤ、リリスの二人の顔を見た。

照れ臭そうに、でも決して目を逸らさずに、にやりと笑う。

 

「お前達に……今日、ここで会えて」

 

言葉を一瞬だけ止めて、胸の奥から絞り出すように、「本当に、良かった」その笑顔は、包帯の頭と、疲れきった顔に似合わないほど、どこまでも明るかった。

最後に右手を軽く高く上げて、まるで「またな」と言わんばかりに、ぱっと振った。

そして、背を向けて、力強く歩き出す。

足取りは重かった。

でも、迷いはなかった。

陽光の中、エイガー少尉の背中が少しずつ遠ざかっていった。

残されたのは、リリスとソウヤ、二人だけだった。

ソウヤも、ゆっくりと立ち上がった。

これ以上ここにいても別れは変わらない。

足を踏み出そうとした、その瞬間。

 

「……タカバ少尉!」

 

背後から静かで、でも確かに届く声。

振り返るとリリスが立ち上がり、真っ直ぐにソウヤを見つめていた。

 

そして、頭を下げた。

 

「ありがとうございます!」

 

突然の言葉にソウヤは目を丸くした。

 

「え……?」

 

リリスは顔を上げ、額の古傷が陽光に浮かぶ。

 

「オデッサ作戦での活躍……話には聞いていました。」

 

少し照れ臭そうに、でも確かに続けた。

 

「私と同じ、任官したばかりなのに、あんな戦場で結果を出して……『オデッサの新星』って呼ばれて」

 

声が少し震えた。

 

「どれだけ励みになったか、どれだけ、心の拠り所になったか…。」

 

そして、もう一度、今度は微笑みながら、頭を下げた。

 

「だから……本当に、ありがとうございます。」

 

ソウヤは、一瞬、言葉を失った。

 

『オデッサの新星』、これまで、マスコミに追い回され、

ヤザンと喧嘩になり、ただただ重荷だった二つ名。

 

でも今、この瞬間、リリス・エイデン少尉という、自分を救ってくれた人が真っ直ぐに感謝をくれた。

胸の奥でずっと冷たかった何かが、ほんの少し温かくなった。

ソウヤは照れ臭そうに頬を掻き、でも確かに笑った。

 

「……俺も、エイデン少尉に助けられて、生きてるんで。お互い様ですよ……。」

 

二人はほんの一瞬だけ、静かに笑い合った。

 

 

ソウヤは停めてあったジープに乗り込んだ。

キーを回し、エンジンを目覚めさせる。

リリスは格納庫の入り口に立ったまま、静かに敬礼した。

 

「タカバ少尉……どうか、ご武運を。」

 

ソウヤは運転席から身を乗り出し、

照れ臭そうに笑顔で答えた。

 

「エイデン少尉も……どうか、無事で。」

 

アクセルを軽く踏む。

ジープがゆっくりと動き出し、キャリフォルニア・ベースの滑走路沿いを走り去っていく。

リリスはその背中が完全に視界から消えるまで、ずっと見送っていた。

やがて、格納庫の奥からバリー大尉が歩み出てきた。

 

「どうだった、エイデン少尉?」

 

リリスはまだ遠くを見たまま、ぽつりと呟いた。

 

「……とても、良かったです。」

 

少しだけ、頬が緩む。

 

「憎しみだけで戦っていたら、いつか自分を見失うって……でも、理解するために戦うことも、責任を持って戦うこともできるって、初めて、ちゃんと教えてもらった気がします。」

 

バリーは満足げに頷いた。

 

「ああ、本当に良かったな。」

 

そして、優しく肩を叩く。

 

「たまには、こうやって誰かと話すのも悪くないだろ?」

 

リリスは、「……はい」と小さく答えて、穏やかな笑みを浮かべた。

 

 

ソウヤはジープを北西のオープンスペースに滑り込ませ、エンジンを切った。

降りた瞬間、目に飛び込んできた光景に思わず足を止めた。

ナガト中尉を筆頭に整備班全員が血相を変えて走り回っている。

コンテナが吊り上げられ、弾薬が運ばれ、武装チェックの怒号が飛び交う。

 

「……何だ?」

 

困惑するソウヤの肩を次の瞬間、猛烈な勢いで掴んだのはヤザンだった。

 

「お、お前! どこまで行ってたんだよ!?」

 

血相を変え、息も絶え絶えに叫ぶ。

 

「落ち着けって! 何があったんだ!?」

 

ヤザンは一度大きく息を吸い、目をぎらつかせながら告げた。

 

「フラナガン機関を……取り逃がしたアイツらを、宇宙まで捕まえる!だから俺たち、上がるんだ!」

 

「上がる……?」

 

「ペガサス級だ!バイアリータークに乗るって、今、指令が下った!」

 

一瞬、ソウヤの頭が真っ白になった。

宇宙に上がる?

ペガサス級で?

次の瞬間、轟音と共に陽光が突然遮られた。

ソウヤとヤザンが反射的に上を見上げる。

整備班全員が手を止め、キャリフォルニア・ベースの兵士たちが一斉に空を見上げた。

漆黒の船体がゆっくりと、しかし圧倒的な存在感を持って、上空を横切っていく。

翼を広げた黒い天馬。

ペガサス級強襲揚陸艦

バイアリータークその姿に誰もが息を呑んだ。

漆黒の馬体が低空を通過し、巨大な影が基地を覆った直後。

 

「よし、モビルスーツの搬入と資材の搬入準備を急がせろ!準備出来次第、滑走路に移動!バイアリーターク左舷格納デッキへだ!明朝には出航する!」

 

イーサン大尉のいつもより一段高い声が響き渡った。

整備班が「了解!」と叫び、動きに一段と拍車がかかる。

イーサンは、ぽかんと立ち尽くすソウヤとヤザンに気づき、大股で近づいてきた。

 

「遅いぞ、ソウヤ!ヤザン!さっさと荷物をまとめろ!今夜中に艦へ移動だ!」

 

ヤザンが慌てて聞き返す。

 

「隊長、モビルスーツはどうなるんです!?」

 

「お前たちの新しい機体は、もうバイアリータークに搭載済みだ。心配するな。」

 

イーサンは淡々と告げた。

 

「ただし、今まで乗ってた陸戦型ジム改は置いていく。あれは地上専用だからな…。」

 

ヤザンは一瞬、愛機に目をやって、唇を噛んだ。

 

「……ちっ、仕方ねえ。」

 

だが、すぐに肩をすくめて、にやりと笑った。

 

「新しい機体も楽しみだぜ。」

 

ソウヤも小さく頷く。

二人は踵を返し、待機しているミデア輸送機へと駆け出した。

コンテナの陰で、ナガト中尉が大声で叫ぶ。

 

「弾薬は最後まで確認しろ!宇宙じゃ、簡単に補充できねえぞ!」

 

整備兵たちの怒号と、金属がぶつかる音が響き続ける。

 

滑走路に降り立った漆黒のバイアリーターク。

左舷格納デッキのハッチが開き、照明が夜空を白く切り裂く。

搬入作業は深夜まで続いた。

ジム・ドミナンスがクレーンで吊り上げられ、コンテナが次々と艦内に運ばれ、キャリフォルニア・ベースの夜を震わせた。

 

ソウヤとヤザンも自分の荷物を移し終えた後、黙々と作業を手伝った。

汗と油にまみれながら、誰も文句を言わなかった。

そして──明朝。

12月の冷たい朝焼けの中、バイアリータークの全システムがグリーンを点灯。

艦橋から、バイアリータークの艦長の声が響く。

 

「全艦員、配置につけ!出航準備完了!」

 

漆黒の馬体が朝焼けに縁取られながら、ゆっくりと浮上を始める。

ミノフスキークラフトが唸り、バイアリータークは静かに、しかし確実に地上を離れていく。

キャリフォルニア・ベースの滑走路では残された兵士たちが空を見上げていた。

ある者は大きく手を振って、ある者は無言で敬礼し。

ある者はただ、静かに見送った。

艦内の窓辺に立ち、ソウヤは外を見下ろしていた。

ソウヤは小さくなっていく基地を見ながら、地上の出来事を思い返した。

死神のグフと初めて刃を交えたオデッサ。

二つの閃光に出会い、

イーサン大尉に鍛えられたジャブロー。

北米の魔女たちと死闘を繰り広げたモハーヴェ砂漠。

そして、様々な因縁と別れと出会いがあった、キャリフォルニア・ベース。

全てが遠ざかっていく。

胸の奥に熱いものが込み上げてきた。

ここで得たもの、失ったもの、背負ったもの。

全部、これから先も自分の中に在り続ける。

ソウヤは静かに拳を握り、自分自身に言い聞かせた。

 

 

 

──この因縁に俺は責任を持って、最後まで向き合う。そして、覚悟を持って、引き金を引くと──

 

 

 

バイアリータークは高度を上げた。

雲を突き抜け、大気圏の境界を越え、やがて、北米大陸とユーラシア大陸が青い地球の曲線と共にはっきりと見え始めた。

漆黒の天馬は無限の星海へと舵を向ける。

 




無事に一年戦争地上篇が終わりました!
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
今までは小説を作ることに専念していたので、後書きをあまり書かなかったですが、これからは書いていこうと思います。
今回の話の「追う者たち」は4人の追跡者の談話を描いてみました。

青い運命を追う者 ユウ・カジマ
狼を追う者 エイガー
魔女を追う者 リリス・エイデン
戦乙女を追う者 ソウヤ・タカバ

この4人の会話を書いていて、本当に楽しかったです。

ユウ、エイガー、リリスはキャリフォルニア・ベース奪還作戦に参加していたので、今回の話が作れました。
コード・フェアリーのキャラクターのリリスはソウヤ達がモハーヴェ砂漠で戦った、ノイジー・フェアリー隊と因縁がある人物なんですよね。
それで、原作で色々とあって、思い悩んでいたので。
同じ境遇のエイガーと会わせて、悩みを聞いてもらった方が彼女の成長の説得力が増すと思ったから、あの会話になりました。
ただ、本当にユウのスケジュールが本当にしんどかったです(笑)
色々と資料を漁って、18日には別の場所に移動することになっているので、17日じゃないとユウが参加出来ないことに気づいた時はかなり頑張って、スケジュール調整をしました。
では、今回は原作キャラクター紹介だけします。

ユウ・カジマ
原作『機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY』
説明不要の青い死神。
外伝キャラクターでも頭一つ飛び抜けた知名度を持っていると思ってます!
ユウを登場させられて、本当に嬉しいです。


リリス・エイデン
原作 『機動戦士ガンダム・バトルオペレーション・コードフェアリー』
ヤザン達がモハーヴェ砂漠で戦った、ノイジー・フェアリー隊と因縁がある女性パイロット。
ゲームの前半では、本当にジオンぶっ倒すバーサーカーです。


バリー・アボット
原作 『機動戦士ガンダム・バトルオペレーション・コードフェアリー』
ウィッチハント隊の隊長。
装甲強化型ジムに乗っていたのは、この人。
コードフェアリーに出てくる連邦軍の登場人物で一番まともな人です!

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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